【完結】FFX もう1人の物語&Re:FFIX 帰る場所を求めて 作:ウルハーツ
1~9話
1
「妹? ユウナに妹が居るのか?」
「と言っても双子なんだけど。私が先に生まれたから……一応私がお姉さん」
ビサイドから出た連絡線リキ号の上で袴に振袖と言った和風の服を着た少女……ユウナととても動き易そうな服装をした青年……ティーダが会話をしていた。
ティーダの父親の話。ユウナの父親の話。ユウナの父親のガードの話。様々な内容を2人は話し合っていた。他人から見ればとっても仲が良い2人。しかしこの2人、実は出会ってまだ2日目である。
しばらく話していた2人の次なる話題はユウナに妹が居ると言う話だった。ティーダは予想外だったのかユウナに聞くとユウナは思い出すように空を見ながら言う。
「もしかして……シン?」
「え? あ、ううん。違うの。10年前に父さんがシンを倒した時にね、出て行っちゃったの」
「? どうして?」
「それは……」
ティーダの言葉をすぐに否定し、説明するも次のティーダの質問にユウナは黙ってしまう。そして何かを言う前に船が大きく揺れ、会話を続けることは不可能となってしまうのだった。
「ふぁ~。よく寝た」
ルカと呼ばれるスピラの大都市に向かう船、連絡線ウイノ号の船内で1人の少女が目を瞑りながら大きく伸びをして起き上がる。その行動によって長い茶髪の髪がゆっくりと重力に従って下に落ちる。
伸びを止めてゆっくりと目を開けば左は青。右は緑と言ったオッドアイ呼ばれる瞳が現れる。服装は彼女には似合わないぶかぶかで大き目の青いフード付きの服を着ており、その下に黒を基調とした半袖とスカートを履いていた。実はさっきまで彼女は横になっていた為、スカートの中が普通に見えていたのだが一切気にしていない模様。
「まだ着かないのか……流石にもう寝れないよな。さて」
少女は立ち上がると船内を出て外に出る。そして1番最初に見えた光景は……建物などが沢山広がる大きな街……ルカであった。まだ距離はある物の、それでも大きく見えるのだから街の中から見たらそれはそれは大きいだろう。
少女はしばらくルカを見ていたが、そこから目線を逸らすと壁に寄りかかって到着するのを待つ。
そして数分後、連絡線ウイノ号は無事にルカに到着し、乗っていた乗客はドンドン降りていく。勿論その中に彼女の姿もあった。
「何時見てもでかいな……」
少女はそこを見上げた後、街の中に入っていく。船が止まったのはブリッツボールと呼ばれるスポーツの試合会場や選手の控え室などが近い場所であり、街の中心等ではない。
少女は真っ直ぐに街の中心に向かって歩き始める。そして近づけば近づく程街の建物などは豪華になって行き、やがて人通りが物凄い激しい場所に出る。
バーの様なお店や風船を売っている屋台。中央には大きな装飾の様なものまであり、正しく【大都市】と言える光景である。
「……行くか」
少女は沢山ある建物などを見回した後、お店等があるにも関わらず一切寄ったりする事無く真っ直ぐに階段を上り、そのまま街の外に出る。外に出ればそこからはまた別世界。先程まで建物ばかりだったルカとは間逆に草や古びてボロボロになった何かが沢山ある場所……ミヘン街道となった。
少女は周りの風景が変わったのを見て1度後ろを振り返る。そこに見えるのは沢山の建物。前を見れば建物など全然見えない自然が広がる光景。この2箇所が繋がって居るのはどうも信じられなかった。
「早速来るのかよ。ったく」
しばらく歩いていた少女。そんな少女の前に1匹の生き物が現れる。大き目の身体に怖い顔。ディアルホーンと呼ばれる【魔物】であった。攻撃力が高いせいで、避けることが出来なければ即死すらありえる危険な魔物だ。
少女はため息をつくと何処からとも無く大きな大剣を取り出す。少女はかなりの小柄でありそんな物をしまうのは普通無理だろう。しかしその大剣は少女の身の丈ほどあり。少女はその大剣を軽々と持ち上げた。
「そら、来いよ」
少女の言葉にディアルホーンはまるで怒ったかの様に突撃を仕掛ける。が、少女は大きな大剣を持ったまま大きくその場で跳躍し、ディアルホーンの突進を簡単に避けると後ろに振り向いて着地と同時に大剣を振り下ろす。
たった1撃。それだけでディアルホーンは倒れ伏し、そのまま幻光虫(げんこうちゅう)となって消えてしまう。少女はそれを確認すると大剣を背中に回し、そのまま何処かにしまう。そして再びミヘン街道を歩き始めるのだった。
2
少女はミヘン街道の長い道のりを歩き続け、やがてお店を見つける。それはアルベド族と言う者達が経営する店であり、休憩をするのにはちょうど良い場所であった。
お店の中に入ればそこまで広くない内装が少女の視界に入る。少女は真っ先に受付に行き、休ませて貰う事にしようとする。が、そこで少女の耳にとある会話が飛び込んできた。
「昨日も2羽被害にあったみたいよ」
女の人の会話に聞こえたその言葉。少女はその言葉の意味をすぐに理解すると、受付から離れて1度店の外に出る。そして見えるのは……黄色い大きな鳥、チョコボだ。
少女はこの店に入る前からチョコボの存在に気づいていた。そして今の会話が2羽の【チョコボ】が被害にあったのだとすぐに理解することが出来た。そしてそれを理解した彼女は小さめにため息をつく。
「被害者はチョコボ……となりゃ放っては置けないよな」
少女は元気良く走り回っているチョコボを見ながら言うと何かを決めた表情をし、そのまままたお店の中へと入って行く。そしてそのお店で1夜過ごすこととなった。
翌日。少女はミヘン街道を進むのでは無く、お店の中で話を聞く事にした。が、すぐに大きな障害が発生してしまった。それは……
「カウミダカアナハミハ」
「……言葉が分かんねぇ」
言語の違いだ。実はアルベド族と言うのは普通の者とは異なる言語で話をしており、アルベド族の事を良く知らない彼女はアルベド族の言葉……アルベド語を一切理解出来なかった。因みに先程の言葉の意味は『わるいがわからないな』と言う意味である。どうやら向こうも少女の言葉を理解していなかった様だ。
こうなってしまうともう少女にはどうしようも無くなってしまう。情報を集めようと思っていても話せる相手が居なければ情報も何も無いのだから。と、悩んで居ると突然少女は声を掛けられた。男性の声だ。
「キョフキョフモノキミベヌア?」
「あぁ~。俺、アルベド語分かんねぇんだけど……って言葉も分かんねぇよな」
「いえ、分かりますよ」
「……本気でイラっと来た俺は悪く無いよな?」
少女は男性の言葉に困惑し、自分の使える言葉で話そうとするも途中で諦めてしまう。が、男性がその後に普通に喋ったのを見て驚き、握りこぶしを作りながら『今怒ってます』とアピールをする。それを見て男性は余裕の笑みを浮かべながら「まぁまぁ」と少女の怒りを受け流すと喋り始めた。
「どうやら何か話を聞きたいようですね。私はこの店のオーナーのリンと申します」
「そりゃご丁寧にどうも。俺はレイナだ」
少女……レイナは男性……リンと自己紹介をする。そして聞きたかった情報、チョコボが被害にあっている理由や内容について聞き始めた。
レイナの質問にリンが答えると言う極単純なやり取りであったが、会話が出来ると言う事にレイナは心底安心していた。そして聞けた情報。それは、
「チョコボイーターか。そりゃ迷惑な奴が現れたな」
「ええ。お蔭でかなりの被害を受けています。……まさかと思いますが倒そうと思っていますか? お1人で」
「まぁ、正直勝てなくは無いだろうが……そんな頻繁に出てくるって訳でも「きゃぁー! チョコボが!」……出てきたな。はぁ~」
レイナの言葉の途中で突然女性の悲鳴が聞こえ、店の中は沈黙に包まれてしまう。
レイナは丁度出てきたであろうチョコボイーターに苦笑すると、店を出ようとする。が、それはすぐにリンに止められてしまう。それもそうだろう。たった1人で。しかも何処からどう見てもまだ小さい少女が今現在被害にあっており、何人も大人が居るにも関わらず放っておくしかないと言う魔物を相手に出来るとは誰も思えない。が、少女は「まぁ、見てろ」と言うとリンの言葉を無視して店を出て行った。
店を出れば何時も通りの広い光景。何時もならそこにチョコボが沢山居るのだが、残念な事に今現在そこに居るのは大きな大型の魔物、チョコボイーターであった。
両側に大きな手が伸びており、片腕にはチョコボが捕まっている。そして大きく開けた口には舌ベロの様な物が2本あり、交互にウネウネと動いていた。見ていて気持ちの良いものでは絶対無い。
「さて、やりますか」
その言葉と同時にレイナは前回と同じ様に何処からともなく大剣を取り出すと地面に突き刺してチョコボイーターの前に立つ。チョコボイーターはレイナを敵と見なしたのか、チョコボを手から離して排除しようとする。離されたチョコボは一目散に逃げていった。
レイナは「行くぜ?」と言うと同時に大剣を地面に突き刺したまま一気にチョコボイーターの前に立つと、地面ごと大きく切り上げた。その威力は小柄な少女が出せる威力とは思えない程強く、その一撃でチョコボイーターは背中を地面につけ、大きく足を上空に向ける様な体勢となった。
「何だ? 歯ごたえねぇな。んじゃこれでお終い、?」
レイナは大剣を振り上げて決めようとするも、突然チョコボイーターは起き上がると何処かへと逃げていってしまう。その速さは体からは想像できないほどすばしっこく、レイナは追うのを諦めた。
「何だよ」とレイナは悪態をつきながら大剣をしまう。と同時に拍手の様な物が聞こえてレイナは振り返った。そこに立っていたのは先程の男性、リンとチョコボの飼育係であろう女性であった。
「いやいや。【意外】に強いんですね。驚きましたよ」
リンは意外と言う言葉を強調しながらレイナに言う。何となく馬鹿にされた気がしたレイナだが、それで怒るなんてことはしない。そしてリンを無視して飼育係の女性に話を聞く事にした。どうやらこの女性はアルベド族では無い様だ。
女性の話によれば今回の件でのチョコボの被害は0。しかしあの魔物が居る限り何時また現れるかも分からない不安な状況だそうだ。そしてそれを聞いたリンはとある取引をレイナに持ち掛けるのだった。
3
翌日。レイナはアルベド族の店の奥から大きく欠伸をしながら出てくる。そしてそんなレイナに気付いたリンが前に立つと、「寝心地はいかがだったでしょうか?」と話し掛ける。
レイナは目の前に立ったリンに気付くと少し嫌そうな顔をして「俺ここに泊まったの2回目だからな?」と言って脇にあった椅子に座る。どうやら彼女、リンのことが少し苦手な様だ。
どうしてレイナがここに居るのか? その理由は昨日レイナがチョコボイーターを追い払った時に行ったリンの取引が原因であった。レイナはその取引を呑むことにし、足をこの場に止めて居るのだ。
リンの取引。それはチョコボイーターの【討伐】であった。チョコボイーターの存在はリンのお店に取っても困る事であった。大型の危険な魔物が現れる店に泊まっていられる者等普通居ないだろう。どうやら昨日の戦闘を最初から最後まで見ていたリン。どうやらレイナの強さは認めているらしく、彼女にチョコボイーターを倒してくれる様に要求したのだ。
だが先程から行っている【取引】である。ギブ&テイク。リンはチョコボイーターを倒してもらう代わりにレイナに相応の見返りを渡す。つまり報酬だ。そしてその見返りとは、チョコボイーターを倒すまで数日間。レイナは店に泊まり続け、その間の朝・昼・晩のご飯は無料で提供する。それが【最初の】内容であった。
しかしレイナは別にここに留まって何かを得る訳でも無いし行ってしまえばチョコボイーターを放っておいても彼女には何の関係も無いのだ。なので最初、レイナはこの取引を断ろうとした。が、そんなレイナにもその後に付け加えられた報酬は非常に魅力的な物であり、受けることにしたのだ。
「さて、まだ出てないみたいだな?」
今日はまだ始まったばかりである。1日目となり、レイナは店の外に出ると綺麗な海を1度見る。既に太陽はかなり高くまで上っており、海はキラキラと光り輝いている。レイナは太陽の位置を見て思う。恐らく沈む時が1番綺麗な光景となるであろうと。
レイナは店の裏に回るとその場で大きく跳躍し、屋根の上に上る。そして中央のとがった部分に背中を寄りかからせ、その上で静かに寛ぎ始めた。
レイナに取って今回の取引は全く持って予想外の出来事であった。それ故にチョコボイーターが出てこない限り彼女は何もやることが無いのだ。そして彼女が思いついたことは……警戒しながら寝ることであった。
『俺は大丈夫だ!』
『俺が疲れたんだ』
「んぁ?」
突然聞こえた2人の男性の声にレイナは目を覚ます。どうやらあれから数時間経っていた様で、太陽の位置は先程の場所から大きく移動していた。
恐らく旅人でも来たのであろう。そう思ったレイナは特に視線を声のした方に向けることも無く、再び寝る体制に入ろうとする。が、先程まで眠っていたのだ。そう簡単に寝れる訳が無かった。
レイナはしばらく空を見続け、何か考え事を始める。そして突然その場を立ち上がると店の屋根から大きく跳躍して地面に着地をする。既に先程の旅人達の姿は見えない事から店に入ったのだろうと考えたレイナは店に入るのでは無く、今まで通ってきたミヘン街道の残りの部分を歩く為に移動し始めた。
「ここから落ちたら……死にはしないか。でも戻ってくるのは面倒だな」
レイナがしようとしている事。それはチョコボイーターと戦うであろう場所の下見である。戦う場所。つまり戦場を知っておけば何も知らない場所よりも有利に行動が出来ると考えたのだ。
途中にあった橋を渡り、しばらく歩き続けると人の沢山居る場所にたどり着く。どうやらその場所では何かを行おうとしている様で、【討伐隊】と呼ばれる者達が必死に動いていた。が、今現在レイナには関係の無いことである。
その後、旧道があるのに気付いたレイナはそこも含めて下見をし始める。そして戻ってきた頃には既に太陽が海に沈む一歩手前の状態となっていた。歩きで旧道までおり、また戻ってきたのだ。かなりの時間が経っていても可笑しくは無い。
店に向かおうとした時、ふと店の周りに人が立っているのに気付いた。レイナに分かるのは渋そうな男と青いバンダナをした男性が店の前に立っており、店から真っ直ぐ歩いた先に青年と少女が座っており、夕日に照らされていると言う事だけだ。太陽の光が強いため、レイナには青年と少女の後姿しか見えなかった。
「おい。そこのお前」
「んあぁ? 俺か?」
突然渋そうな男に声を掛けられ、レイナは顔を横に向ける。現在レイナが立っている位置は店の目の前であり、店の中に入ろうとした時に声を掛けられたためである。
観察する様に周りを見ていたのが悪かったのだろうかと一瞬レイナは思うも、別に知らない奴が居たらいてしまうのは可笑しなことでは無い。と自分の中で結論を出すと、頭を掻きながら「何?」と目の前の渋そうな男に言う。が、何故か彼はレイナを見続け黙っていた。
「用事が無いなら良い? 俺、一寸疲れてんだ」
何も言わない男に少し苛々したレイナは何も無いのだと思うと男にそう言って店の中に入る。レイナはその時一切気付かなかった。今の男がかつて自分の父親のガードであり、今や【伝説のガード】と呼ばれている人物である事に。
4
レイナは前日と同じ様に大きく欠伸をしながら店の奥から現れる。そしてふと横を見れば自分と同じ様に大きく欠伸をしながら背伸びをしている青年の姿があった。が、レイナに取っては『知らない青年が居る』と言う認識で終わってしまい、これまた前日同様脇にあった椅子に座る。
「ふぁ~。……ねみぃ」
何度も出る欠伸をしながらレイナは視線を彼方此方に動かす。何時も通りに受付をしているアルベド族。旅人か何かであろう人々、そして先程の青年がリンとぶつかっており、アルベド語についてなにやら教わって居る光景。どれもレイナには興味が湧かなかった。
しばらくその場に座っていると突然一昨日と同じ女性の同じ声が聞こえる。それはつまりチョコボイーターが現れた事を意味していた。
「おい! 出番だ。倒すんだろ?」
「へ?」
突然入り口から前日、レイナに話しかけ来た男が現れて青年に言うとすぐに出て行った。青年はどうやら突然の出来事の連続で思考が追いついていない様だった。
レイナは青年の前に立っていたリンを見る。リンもレイナを見ると「お願いします」と言って店の奥に入って行ってしまった。自分の店に関わる内容だと言うのに余裕で店に入っていくリンに呆れながらも、急いで獲物を取られてしまわない様にレイナは店を出るのだった。
レイナが店から出ると店の周りに数人の人影が会った。今の状況で店から出てきたレイナに一斉に視線が集まるも、レイナはその視線を特に気にもせずにチョコボイーターが居るであろうチョコボ乗り場に向かって歩き出す。が、歩いている途中でレイナは右腕を掴まれて止められてしまう。
「待ちなさい。今この先は「危ない。だろ?」……分かってるなら戻りなさい」
「悪いがこっちは仕事みたいな物なんでな。戻れと言われて戻る訳には行かないんだわ」
レイナは女性に掴まれていた腕を無理矢理振り解くと再びチョコボ乗り場に向かって歩き出す。後ろから女性の声が聞こえているが、レイナはそれを全て無視して歩き続ける。と、目の前に大きな影が現れる。
前回現れた時と同じ様に片手にチョコボを掴んでおり、レイナはふとそのチョコボがあの時と同じチョコボである事に気付いた。そしてそのチョコボを哀れに思いながらもチョコボイーターの前に立つ。
「よう」
『!』
レイナの声を聞いた瞬間にチョコボイーターはチョコボを離して片腕をレイナに伸ばし、指を指す。どうやらレイナのことは覚えているらしく、何となく『まずはお前だ』と言われた気がレイナにはした。と同時にレイナは小さく笑い、背中から大剣を取り出すと前と同じ様に地面に突きつける。
「今度は逃がさないぜ? ……来いよ!」
レイナの言葉と同時にチョコボイーターはその長い手を活かして殴る攻撃を仕掛けて来る。が、レイナは大剣を地面に突き刺したままレバーの様に前に倒し、自分も地面にしゃがむ事で地面と拳との隙間に入り、攻撃を避ける。そして前屈みの体勢となったレイナは足に力を込め、一気に駆け出してチョコボイーターとの距離を詰めるとその威力も含めて大剣を一気に振り下ろす。
チョコボイーターは身体を切られ、その激痛に1度少女との距離を開ける。が、レイナは振り下ろした大剣の重さを利用して身体を回転させるとそのまま大剣をチョコボイーターに向けて真っ直ぐに投げ飛ばす。大剣は真っ直ぐにチョコボイーターに向かって飛んで行き、そのままその巨体を【貫いた】。
レイナの立っていた所に小さな砂埃が舞い、既にその姿は何処にも無い。
「どうした? その速さでチョコボに着いて行ってる訳無いよな?」
突然レイナの声がチョコボイーターの背後から発生した。何とその場には先程までチョコボイーターの前に居たレイナが背後に立っていたのだ。片手には大剣を持って。
身体を切られ、大剣を貫かれたチョコボイーターは大きく身体を倒す。が、身体を強引に動かして立ち上がると再びレイナを指差した。どうやらかなり怒っている様だ。
「さてと。とっととここも去りたいし、決めますか」
が、チョコボイーターが怒っていようがレイナには一切関係なかった。
レイナは突然大剣を目の前で構え、真っ直ぐとチョコボイーターに向ける。そして最初と同じ様に一気に距離を詰めると少し飛んで大剣を振り下ろす。しかし今回はそれで終わりでは無かった。
レイナが空中に居た事で振り下ろした大剣の重さと勢いが一気に地面に向き、レイナは自分の小柄な体とその力を利用して縦に回転し、何度もチョコボイーターを切りつける。そして着地をするとそのまま流れる様に切りつけ、最後には地面を抉る様にして切り上げをチョコボイーターに浴びせた。最後の一撃はかなり威力が高かった様で、チョコボイーターは大きく飛ばされてしまう。そして地面に身体を打ち付けるとそのまま動かなくなり、幻光虫となって消えて行った。
「何だ。以外に弱かったな」
レイナは消えていくチョコボイーターを見ながら大剣をしまうと店に戻る為に歩き出す。その途中、先程止めた女性や店で会った青年と男。他にも数人の男女とすれ違う。レイナは店で聞いた話の内容からチョコボイーターを倒すために出てきたのだと予想するが、心の中で「遅かったな」と考えてその場を後にするのだった。
5
レイナは店の中に入ると真っ先に受付に行き、店主であるリンを呼び出してもらう。少し待つ様に言われ、レイナはその場で待って居ると、リンが店の奥から姿を現す。そしてレイナの前に立つと軽くお辞儀をして「お疲れ様でした」と言う。
「チョコボイーターは約束通り倒したぞ。分かってるよな?」
「ええ。用意させますので店を出る時は声をかけてください」
「なら【今すぐ】だ。準備が出来次第ここを出るからな」
リンの言葉にレイナはすぐに答える。リンは少し固まった後、「かしこまりました」と言って店の外に出て行く。それを見送ったレイナは店の脇にあるもはやレイナの席と貸した椅子に座り込んだ。
店の中はレイナの姿を見てざわついて居た。それもそうだろう。先程の会話を聞いていた客や店員は店の外に居た脅威が去ったことが嬉しいと共に椅子に座る小さな少女が大きな魔物を倒したと言う事に驚いているのだ。どうやらチョコボイーターの存在のせいでこの場所に足止めを喰らった者も居る様で、店を出て行く人々の姿がレイナの目に映る。
しばらくその人々を眺めながら休憩をしていると、出て行く人物達にまぎれてリンが入ってくる。そしてレイナを見つけると、
「レイナさん。此方を来ていただけますか?」
そう言って再び外に出て行った。レイナは小さくため息をつくとその椅子から立ち上がり、店を出るのだった。
レイナが店を出ると先程戦ったチョコボ乗り場にリンと飼育員係の女性が立っていた。既にレイナとすれ違った旅人達の姿は無く、チョコボ乗り場に居るのはその2人とチョコボだけだ。
2人を視界に捉えるとレイナは真っ直ぐにそこに向かって歩き出す。チョコボ乗り場に入った瞬間、突然何匹ものチョコボがレイナを囲み始める。そしてグルグルとレイナの周りを走りながら『クエェ~!』と鳴き始める。どうやらチョコボなりの【お礼】を言っているのだろう。
「約束通り【チョコボを1羽】、差し上げましょう」
レイナが2人の前に立つと、リンがそう言って飼育員係の女性に目を向ける。そして女性はその目線に気付くと走り回っているチョコボを大人しくさせ、並ばせた。かなり訓練されている様だ。
飼育員係の女性は「どうぞ1羽お選びください」と言ってレイナに目を向ける。が、レイナの視線の先にあるのは並んでいるチョコボとは別の元気良く走り回っているチョコボだった。
レイナは何も言わずにその場から離れると並んでいるチョコボでは無く、元気良く走り回っているチョコボ達の場所に向かう。と同時に先程と同じ様にレイナをチョコボ達が囲むが、大きな違いがあった。
先程のチョコボ達はレイナを囲み、綺麗に輪になる様に走り回っていた。しかもレイナが歩けば位置がずれ、何時でもレイナが中心に居る様な形で走り回っていたのだ。が、此方のチョコボは違う。
輪になって走る訳でも無い、唯何匹ものチョコボがレイナの周りに立つと思い思いに鳴き、レイナに擦り寄るのだ。どうして違うのかレイナは一瞬考えるもすぐに理解が出来た。
「こっちのチョコボからは選べないのか?」
「え!? でも其方は【訓練が済んで居ない】のでまだ危険ですよ?」
「別に構わない。いや、どちらかと言えばこっちの方が俺としては良いな」
レイナの言葉に飼育員係の女性は驚く。そしてすぐにリンを見るが、リンは「構いませんよ」と言うだけだった。
しばらくレイナは目の前に居る訓練されていないチョコボ達を見続ける。そしてふと1羽のチョコボに目が止まった。
そのチョコボは目の前に居るチョコボ達とは違い、遠くからレイナを静かに見続けて居るのだ。なのでレイナが目を止めた瞬間、お互いに目線が合う形となった。
現実ではチョコボの鳴き声が煩い程聞こえるも、レイナには何故かそのチョコボと真っ暗な静寂で2人で見合っている感覚に捕らわれる。そしてふとチョコボの羽が泥に塗れているのにも気付いた。
普通、チョコボの羽が汚れる事は無い。転んだりすることは生き物なのであるかも知れないが、早々転ぶ事は無いだろう。ならどうして汚れているのか? レイナはすぐに今日のチョコボイーターとの戦闘が始まる時の事を思い出した。2度も捕まっていたチョコボの事を。
レイナは自分を囲むチョコボの群れを掻き分けてそのチョコボの前に立つ。そしてゆっくりと手を伸ばせばふわふわの羽毛の感触がレイナの手を包んだ。
「どうやらそのチョコボがお気に召したようですね?」
「え、でもそのチョコボ。人間の言う事を一切聞かないチョコボ何ですよ? 私も困ってて……連れて行くなんて無理ですよ。途中で逃げ出してしまいます」
リンはレイナの心を読んだ様に言うも、女性は驚いた後にチョコボの説明をする。どうやら飼育員に取っても問題のチョコボな様で、レイナは会話が出来ない筈のチョコボを見続ける。
「お前、俺と来るか?」
『……』
普通のチョコボなら鳴く等して答えるだろう。だが何とこのチョコボ、レイナの言葉に静かに【頷いて】問いに答えた。その行動にレイナは何となく他とは違うチョコボであるのを実感した。誇り高く、気の強い、そんなまるで何かに仕える従者の様な。そんな感覚である。
チョコボの行動にリンは一切表情を示さないも「ほう」と言い、飼育員係の女性は何度目かも分からない驚いた顔をしながら「あの子が従った!?」と吃驚していた。
「そんじゃ俺は行く。世話になったな」
「此方こそ倒して頂き、ありがとうございます。また会える日を楽しみにしています」
「その子、大変だと思いますけど大事にしてあげてくださいね!」
レイナはリンにお礼を言うと、2人の言葉を聞いて「じゃあな」とチョコボに乗らず。横に従えてその場を後にするのだった。
6
レイナはとある場所で立ち往生させられていた。キノコ岩街道と呼ばれる場所を通過しない事には先に進めない。が、現在そこでは【討伐隊】と呼ばれる者達が何かをしており、部外者は立ち入り禁止だそうだ。
レイナ自身、場所や地形の確認の時に何かをやっているのには気付いていた。が、それにこの様な形で巻き込まれるとは欠片も思って居なかった様で「マジかよ」と言いながら引き返させられる。
「終わるまで待つか?」
『クェ?』
レイナは自分のチョコボに呟いて見る。チョコボは突然話掛けられた事に訳も分からなかったのか、鳴いて首を傾げるだけだった。
ふと、壁の上を見てみる。今現在道となっている場所は封鎖されている場所のみ。なら壁を登って岩を渡れないかと一瞬考えるも、すぐに駄目だろうと結論が出る。例えチョコボの力があったとしても危険過ぎるからだ。
かと言ってこの場に留まっている訳にも行かなかった。レイナ自身、旅をするにはちゃんとした目的がある。その目的を果たす為にもどうにかしてこの場所を通過する必要があるのだ。
突然討伐隊の人々がざわつき始める。彼らの視線は一箇所を見ており、レイナも自然と其方に目をやった。その場に立っていたのは【グアド族】と呼ばれる種族の男性。と、付き人2人であった。
「……誰だ?」
どうやらその男性。かなり偉い人の様で、討伐隊の1人が目の前で敬礼しながら何かを伝える。そしてレイナは気付いた。今日店ですれ違ったあの旅人の集団が居ることに。
随分良く会うなと心の中で思ったレイナは再び考え始める。そして思いついたのは目の前のお偉いさんに頼んで見る。と言う事だった。
「一寸良いか?」
旅人達と男性の会話の間に入り込んだため、自然と全員の視線を浴びる形となるレイナ。だが、彼女は特に気にせずに男性に「ここを通りたいんだが……駄目か?」と質問をした。
レイナは心の中で『駄目だろうな』と思っていた。が、男性の答えはレイナの想像を良い意味で裏切った。何とその男性、「この者達だけを特別視も流石に不味いかも知れませんね……良いでしょう。特別に貴女もどうぞ」とレイナの入る事を許可したのだ。
ただし条件があるらしく、すぐにここを通過出来る訳では無いとの事だった。今から始まる作戦【ミヘン・セッション】が終わるまでの間、ここは誰も通過出来ないらしい。なので終わるまで共に見学する。との事だった。
「まぁ、良いか」
「それでは参りましょう」
レイナの了承を聞いた男性はそのまま歩き始める。ふとチョコボの事について言い忘れた事をレイナは思い出すも、「まぁ、良いか」と呟くと着いて行く様に歩き始める。しかしその途中で1人の男が立ち止まっていた。店の前で話した男だ。
「お前、名前は」
「おっさん。普通こう言う時は自分から名乗るもんだと思うが?」
「ふん。……アーロンだ」
「! ……いや、別人か。こんな所に居る筈が無い……俺はレイナだ」
レイナは男……アーロンの名前を聞いて一瞬固まり、何か小さな声でブツブツと言った後に同じ様に名前を言う。そしてレイナの名前を聞いたアーロンも同じ様に固まると「やはりな」と何かに納得した様に言った。
「アーロン! 早く行こうぜ!」
「……話は後だ」
何かを喋ろうとしていたアーロン。しかしその言葉が発される前にアーロンの仲間であろう青年が大きな声で呼んだため、遮られてしまった。そしてアーロンは彼らを追う様に歩き出す。
レイナはその場でジッと立ち止まっていた。そしてチョコボに1度触れ、「話掛けてきたのはそっちだろ」と一寸した愚痴の様な物を言うと再び歩き始めるのだった。
「これは……」
キノコ岩街道に入るとそこはミヘン街道とは全く違う景色であった。
先程の男性はシーモアと言うらしく、今現在は旅人達と会話をしていた。当然旅人達とほぼ面識の無いレイナはその会話に参加する事など出来なかったが、レイナは今そんな事を考えては居なかった。
何故なら現在、レイナは目の前にある光景に絶句してしまっていたからだ。それは使用が禁止されている物……【機械】であったからだ。
【機械】。それはそれは便利な物だが、エボンの教えと言う人々に伝わってきた物に機械を使うことを禁止する内容が存在していた。その理由はこの世界をも揺るがす存在を生み出したとされる原因であるからだ。
そして今、目の前にはその禁止された機械が沢山見えていた。普通協力するどころか敵対するであろうアルベド族の姿もあり、その光景は異様に見えた。
どうやら話を聞く限り自分を通したシーモアはエボンの老師。つまりかなりのお偉いさんに相当する人物だったらしい。そしてそんな人物が機械の使用を許可している事にレイナは驚きを隠せなかった。
シーモアは話をした後に先に言ってしまい、レイナと旅人達は見学席なる場所に移動する様にお願いされる。レイナからすれば真っ直ぐ行きたいのだが、どうやら今回は横の脇道に入って見学するしか無い様である。
何となく嫌な予感を感じながらもレイナは歩き始めるのだった。
7
脇道を進むにはどうやら障害があるらしく、レイナはため息をついた。
今現在、旅の一行+レイナは囲まれていた。前に居るのはガルダと呼ばれる空を飛んでいる大きな魔物。後ろに居るのはラマシュトゥと呼ばれる竜の様な魔物とラプトゥルと呼ばれるトカゲの様な魔物が2体ずつ。左右にはガンダルヴァと呼ばれる宙に浮いた鬼の様な魔物が3体ずつ居る。
どうやら既に獲物として見られて居るらしく、通る為には少なくとも目の前に居るガルダを倒すしか無い様だ。
見学席までの道中ぐらい魔物は全部排除して置けよ。レイナはそう思いながら目の前を飛んでいるガルダを見る。そして次に旅の一行を見る。もう既に各々が自分の得物を構えており、全員で背中を預けながら周りを警戒していた。
「行くっすよ!」
突然旅の一行の1人である青年が剣を片手に持って魔物に向かって走っていく。狙いは後ろに居るトカゲの様な魔物、ラプトゥルだ。
青年はトカゲのあの速さよりも早く近づくと剣を振り下ろし、そのままもう1体目掛けて走りだした。
レイナは青年の速さに少し驚きながらも何処を倒すか考える。既に青年の行動を合図に全員が戦いを始めており、何処もレイナが居なくても事足りる様な状況であった。旅の一行は相当強い様だ。
レイナはため息をつくと武器を出さずに彼らの戦いを見ている事にした。そして約数秒で全ての魔物が倒される。
「お前……見ていたな」
「今の戦いに俺は必要だったか?」
戦いも終わり、旅の一行が歩き出す中。アーロンはその場で立ち止まっており、レイナに向かって言う。無表情なアーロンから言われた低い声での言葉。常人なら怯えてしまうだろうが、レイナは両手を頭の後ろに回して平気な顔で言い返す。返されたアーロンは何も言わずに歩き出す。
レイナは旅の一行とは距離を取って進んでいるため、余り彼らと会話をすることは無い。当然だろう。元々彼らはレイナに取って他人。馴れ馴れしく行動する気などレイナには毛頭無かった。
しかし何故か1人、レイナに話しかけてくる者が居る。それがアーロンであった。何故自分に話かけて来るのかレイナは気になるも、『警戒をしている』と考えればすぐに納得が出来る。突然現れた者を警戒するのは当然の行為だ。
「俺はここを通りたいだけなんだけどな……あいつ、無事だろうな?」
レイナは脇道に入る直前に置いてきたチョコボを思い出す。見学席に向かう時に討伐隊に止められてしまい、仕方なくチョコボをその場に預ける形でここまで来たのだ。何となくレイナはそれが心配であった。
ここで考えて居ても仕方が無い。そう考えたレイナは旅の一行と距離を取りながら着いて行く様に歩き始める。道中に何度も魔物が現れるも、やはりレイナが戦いに参加する事は無かった。
「機械だらけだな」
脇道を通り、やがてこの作戦の本部なる場所に辿りつく。そこには先程の男、シーモアを始め色々な者達が居た。そしてその誰もが偉い人達だ。
レイナは本部の中には入らずに外で遠くを見ていた。しかし会話は聞こえるため、今から行われる事をレイナは知ることが出来た。
今から行われること。それは【シン】を倒すための作戦を決行すると言う事であった。シンに置いて行かれたシンのこけら達を集め、鳴かせることでシンを呼ぶ。そして現れたシンを一斉に攻撃するとの事だ。
「そんなの……無理に決まってる」
レイナは誰も居ないその場で呟く。と同時に作戦が開始された。シンのこけらが入った籠に電流を流し、シンのこけらを鳴かせる。が、そこで予想外であろう自体が起きた。何と籠からシンのこけらが出て来たのだ。
シンのこけらは旅の一行の前に大きく立ちはだかり、襲い掛かり始める。旅の一行は戦いを始め、青年や女性が体を攻撃するが余り攻撃は効いていなかった。
「おい! 手を貸せ!」
「ったく!」
アーロンが振り返らずに叫ぶ。それが自分に言われた言葉だとレイナはすぐに認識すると、大剣を構えて走り始めた。そして旅の一行の間を一気に駆け抜ける。途中で「おい!」とバンダナをした男性に止められそうになるも、止まらずにシンのこけらに接近するとその右腕に向かって大きく大剣を振り下ろした。
先程まで旅の一行が全員で攻撃していたにも関わらず余りダメージを与えられなかったシンのこけら。しかしレイナのたった一撃でシンのこけらの右腕は大きく切り離されて地面に落ちた。
「すっげぇ~!」
「アーロンさん。あの子は一体?」
青年はレイナの強さに驚き、店に居た時にレイナを止めた女性は唯一レイナと会話をしていたアーロンに質問をする。そんな声を背後に受けながらレイナは大きくその場を飛ぶ。すると先程までレイナの居た場所にシンのこけらの足が勢い良く通過した。
「今ので分かっただろ? あいつを倒すんだったら体じゃねぇ。まずは腕だ」
レイナは旅の一行に言うと再び駆け出す。そして同じ様に攻撃をしようとするも突然頭上から気色の悪い液が降り注ぎ、横に飛ぶ。何とその液が触れた地面は音を立てて溶け始めた。
旅の一行も再び戦闘を開始し、本部は一瞬にして戦場となったのだった。
8
「っら!」
レイナは切り落とした手とは逆の手に大剣を振り下ろす。その一撃は再びシンのこけらから片腕を切り離し、レイナは流れる様にその場からシンのこけらの前に立つとその身体に大剣を振り下ろした。しかしその巨体故か、腕の様に簡単に終わらなかった。
急いでその場から飛び退くと、レイナの居た場所にはシンのこけらの足が通る。当たれば吹っ飛ばされる程の威力と速さだ。
旅の一行もレイナと同様に攻撃を続けるが、顔から出てくる地面をも溶かす液と強力なその足のせいで迂闊には近づけなかった。そして更に最悪な事態が訪れる。
突然シンのこけらの両手のあった部分が光りだす。と同時にレイナが切り落とした腕が幻光虫となって消え、光って居る部分に集まりだす。そしてくっついてしまった。つまり元に戻ってしまったのだ。
「……面倒な。おい、おっさん!」
「あなた、失礼よ!」
レイナはその戻った腕を見て呟くとアーロンに向かって叫ぶ。それを聞いた女性は驚いた後、レイナに注意するも、特にレイナは気にせずに言葉を続けた。
「その剣は飾りじゃ無いよな?」
「ふん……右だな」
「んじゃ俺は左だ! そこのあんた。フォローは任せたからな!」
軽い挑発にも近い言葉。しかしアーロンはレイナの言いたい事が分かった様で、肩に乗せる様にして持っていた大剣を両手で体の脇辺りに移動させると一気に走り出す。そしてそれと同時にレイナは途中でレイナに注意した女性に向かって叫ぶとアーロンが向かった方とは違う方に走りだした。
レイナとアーロンはほぼ同時にそれぞれ左と右の腕に大剣を振り下ろす。そしてそのまま初対面とは思えないほどの息の合った動きで身体を切りつけると2人は交差する様に大剣を振るった。が、そんな2人の頭上には液を落すシンのこけらの顔の部分。避けなければ2人の命は無いだろう。しかしレイナもアーロンもその場からは移動しなかった。そしてシンのこけらの準備が終わり、液は……出せなかった。
突然シンのこけらの口元に炎・氷・雷・水の4属性の魔法による攻撃が連続で発生し、液を出そうとしていた口元は徐々に青紫に変色してしまう。どうやら機能を失った様だ。
「これで……終いだ!」
レイナは大剣を横に持つと一気に自分を中心に円を描く様に回り始める。勿論その円の中にはシンのこけらの身体も入っており、回転する毎に切りつける。
そして回転を続けることでレイナの身体が徐々に宙に浮いていき、シンのこけらの巨体すら一緒に空中へと上がっていく。そしてその勢いのままレイナは大剣を大きく振り払った。空中に居たシンのこけらは大きく吹き飛ばされ、そのまま倒れ込んで動かなくなる。
「画竜点睛(がりょうてんせい)。ってな」
レイナは大剣を背中にしまう。一緒に攻撃をしたアーロンも同じ様に既にしまって居たが、その視線はとある方向を向いていた。が、レイナはそれに気付かなかった。
レイナとアーロンの危機を救った魔法。その発動者である女性にレイナは目を向け、軽くお礼を言おうとしたその時。レイナの視線には映ってしまった。【シン】が。そして
「……っ!」
レイナは身体中が痛むのを堪えて起き上がる。何時自分は横になったのか? どうしてこんなにも身体中が痛いのか? そしてどうして周りがこんなにも【崩壊している】のか? レイナは今の状況に困惑していた。
レイナは少し歩き、崖の下を見てみる。レイナ達が立っていた見学席の位置はかなり高い所であり、下には沢山の兵やアルベド族が居た……【筈だった】。
「何だよ……これ」
レイナに見えるのは抉れた地面。兵士やアルベド族の無残な姿であった。先程までは全員シンを倒すと士気に溢れていた。しかし今では誰一人立たず、喋らず、動かない。見える限りの倒れたその身体は既に全員息絶えていた。
もう既にシンは居ない。レイナの記憶では確かにシンが居たのだ。つまり自分が眠っていた。いや、気絶していた間にシンはこの惨状を作り出し、去っていった事になる。
現在レイナが立っている場所は見学席の端であった。そしてその見学席の中心となる場所で何か大きな物音がする。振り向けばシーモアが先程まで自分達が戦っていた相手、シンのこけらを1人で相手にしていた。そして、先程の物音はシーモアがシンのこけらを突き飛ばして衝突させた音であった。が、この衝撃がレイナに取って最悪な現象を招く。
「お、おいおい……嘘だよな?」
レイナの立っていた端の岩場。この崩壊によって地盤も脆くなって居たのかも知れない。突然レイナの立っていた足場に嫌な音を立てて皹が入る。レイナはそれに気付き、その場からすぐに飛ぶがその飛んだ時に掛かった足への力が地面に止めを刺し、地面は大きく崩れる。
ギリギリでレイナは足場に片腕を伸ばしてぶら下がるも、非常に不味い状況であった。身体中が先程まで痛かったのだ、今現在掴んでいる腕には途轍もない痛みが走る。下を見てみれば地獄絵図。かなりの高さがあるため、落ちれば怪我では済まないだろう。最悪死に至る。
「ここで死ぬってか? ふざけんな!」
レイナは今の状況に悪態をつくも、それが助けになる訳が無かった。徐々に掴んでいる手から力が抜けていく。そしてとうとう限界に達し、レイナはかなりの高さから地獄絵図となってしまっている場所へと落下するのだった。
9
「……ここは……っ!」
レイナは目を覚ます。と同時に身体に途轍もない痛みが走り、声にもならない悲鳴を上げる。
自分に最後に何があったのか。レイナは思い出してみる。そしてかなりの高所から落ちた筈なのに生きていると言う事に驚いた。が、思考が冷静になると自分の下が【フワフワ】である事に気づく。
そのフワフワは何かの毛で、黄色かった。そしてレイナは視線を上に向けてみる。底には可愛らしいチョコボの顔……それを見てレイナは全てを悟った。
「お前が……助けてくれたんだな」
『クェ』
レイナの言葉を肯定する様にチョコボは鳴く。それを聞いてレイナは立ち上がろうとするが……立てなかった。そして気づく。右足が一切動かなかった。それどころか感覚すら無い。それに気づいたレイナは自分の足が【折れている】のに気づき、顔を歪めた。
「マジかよ……ここで立ち往生ってのは『クェ!』……良いのか?」
まだ出会って1日すら経っていないチョコボ。しかしレイナはそのチョコボが言っている事が何となく理解出来た。
『任せろ』。まるでそう言うかの様にチョコボは鳴くとレイナを見続ける。レイナはそんなチョコボに確認すると、チョコボはもう一度鳴いて歩き始めた。レイナを背中に乗せて。
今現在居るジョゼ街道と呼ばれるこの場所はレイナが通りたいと思っていた場所であり、どうやら気絶している間に通ることには成功していた様だ。
レイナは今現在の位置を左側にある海と道の先を見て確認する。今居る場所はちょうど中間辺り。どうやらチョコボはレイナを背に乗せたまま歩いて居た様である。間違っていたらどうすんだよとレイナは心の中で思いながらもこのチョコボの知能の高さに驚いていた。そして少し考えた後、
「この道を真っ直ぐに進んでくれ。途中で別れ道があるからそこは左に曲がって道なりに進めば俺の目的地に着く。そこなら足も直せるだろうからそれまで頼む」
チョコボに進む道順を教える。普通のチョコボなら無理かも知れないが、このチョコボなら今の言葉を理解して移動してくれるとレイナは信じたのだ。チョコボも『クェ!』と鳴くと走り始めた。そう、走り始めたのだ。
「いっ! 頼むから歩いてくれ! おい、痛いって!」
レイナはやっぱりこのチョコボも普通のチョコボと同じ知能なのではないかと先程思った考えを取り消すのだった。
ジョゼ街道は安全な場所ではない。普通の場所と同じく魔物が出てくるし、身体を石にしてしまう魔物すら居る。なのでジョゼ街道は決して安全な場所とは言えない。寧ろ危険な場所である。
どうしてそんな事を今話すのか。それは現在。駆け抜けるレイナの背に乗せたチョコボを追う様に魔物の大群がジョゼ街道を走っていた。原因は駆け抜けた事で眠っていた魔物や気づいていない魔物を刺激してしまい、追いかけられる羽目になっていたのだ。
どうやらレイナを乗せているチョコボも無傷では無かったらしく、それで居てレイナを乗せたまま走っているために何時もの様なスピードが出せなかった。結果、必死に走っても魔物との差は開かず、かと言って縮まる訳でもない。
「! そこを左に曲がれば恐らくここを抜けられる!」
レイナは今の状況を如何にかすべく周りを見ていると先程自分で言った別れ道が見える。魔物と言うのはその地域に生息する物であり、違う地域に移動すればジョゼ街道の魔物は追って来なくなるのだ。
レイナは痛む身体を特に気にせずにチョコボに言うと無理やりチョコボの上で態勢を変える。先程までは進む方向を向いて跨る様にチョコボに座っていたが、今現在は進むのを全てチョコボに任せて逆に身体を向けて跨り、懐から何かを取り出す。それは小さな緑色のスフィアの様な丸い玉であった。が、その偶には突起がついており、ボタンの様になっている事からスフィアでは無い事が見て分かる。
「ココア。お前を信じるぞ! らっ!」
レイナは手に持ったスフィアの突起を押して魔物の群れに向かって投げつける。と、同時に地面に落ちたその弾は大きく光り輝き、そこに突然一斉に風が集まりだす。それは一瞬で大きな竜巻の様になり、魔物を足止めするどころか殆どを魔物が巻き上げられ、そのまま遠くに飛ばされては着地出来ずに倒れていく。
投げた本人であるレイナは口をポカンと開けてその光景に驚いていたが、チョコボが曲がった事によりその光景は壁に隠れて見えなくなってしまう。
「……あの馬鹿……やり過ぎだ」
レイナは態勢を戻すと前を見ながら悪態をつく。チョコボは新しく入った場所、幻光河の南側にある南岸の道を駆け抜ける。そこまで長い道でも無いため、すぐに幻光河の安全な場所である南シパーフ乗り場に辿りつくのだった。