【完結】FFX もう1人の物語&Re:FFIX 帰る場所を求めて 作:ウルハーツ
15
アレクサンドリア城
適当な休息をとってから再び城へ戻って来たレイナは、明るい内と変わらずに元の世界へ帰る為の手掛かりを求めて本を漁っていた。だが目に見えた成果は上げられず、遂には頭を抱えた時。途轍もない轟音が城の外から地響きと共に響き渡った事で、レイナを含めた学者たちが顔を上げる。
「なんだ、今の」
開いていた本を閉じて城から外へと出たレイナの視界に映ったのは……この世界における竜王バハムートの姿だった。エーコの話ではブラネが死ぬ直前に召喚した召喚獣であり、クジャの手によって彼の言いなりとなってしまったバハムート。何故それが今、アレクサンドリアの上空に居るのかは分からない。だが確かなのは、この状況が途轍もなく不味いという事だった。
「っ!」
口に炎を溜めて吐き出したバハムート。放たれた火球は容赦無くアレクサンドリアの街を燃やし始める。遠くからでも感じる熱気を前に、レイナは思わず駆け出していた。最後に誰かがここへ渡って来たのだろう。兵の居ない小舟を使って城下町へと向かった時、中心地では逃げ惑う市民を襲う様に街の中には奇妙な魔物が徘徊する光景がそこにはあった。
「何だよ、これ……!」
あちこちから聞こえる悲鳴。目の前の光景に戦慄しながらも、迫り始めた魔物……霧の魔獣を前にレイナは黒鬼徹を取り出す。そして魔獣を倒しながら出来る限りの人を守ろうとするが、彼女1人で出来る事には限度があった。時には目の前でその命を奪われる市民達を見る事となり、黒鬼徹を握るレイナの手に力が籠る。
「マジで何なんだよ! っ! エーコは、他の奴らは無事なんだろうな!?」
迫り来る魔獣を斬り伏せてレイナは路地裏の方へと駆け出した。……そしてそんな彼女と入れ替わる様に、中心地へスタイナーとべアトリクスが現れる。2人は市民達を避難させつつ、魔獣を撃退する為にガーネットの命を受けてやって来たのだ。
「誰かが戦った跡がありますね」
「この大きな切り傷、恐らくレイナ殿であるな」
「彼女が居るのなら、心強い限りです。とにかく一刻も早く、市民達を救わなければ」
魔獣の死骸を確認して、レイナが戦っていると知った2人は彼女が向かった道とは違う大通りへと続く道に向かって走り出す。
城下町は一瞬にして戦場と化した。空からはバハムートが変わらずに街を攻撃し続けており、街を徘徊する霧の魔獣は人々を襲う。民家が並ぶ場所へ入ったレイナの目の前には、怯えて泣き叫ぶ子供へ迫る魔獣の姿があり、彼女は急いで駆け付けると同時に魔獣を両断する。
「隠れてろ!」
「ぅ、うん!」
助けられた事に対するお礼を言える程、子供に心の余裕は無かった。叫ぶ様に告げたレイナの言葉に何とか頷いて、家の中へ飛び込んだ子供を見送ってからレイナは改めて前を見る。……虫の様に沢山の足を動かしながら、数匹の魔獣が徐々に迫っていた。そして背後にも迫る魔獣がおり、レイナは黒鬼徹を構えながら覚悟を決める。
「平和な時間は終わりってか? 随分急な話だな!」
魔獣が咆哮を上げた時、レイナは飛び出す。その後、民家には大量の魔獣の死骸が転がる事となる。
アレクサンドリアを守る為に行動したガーネット。そして彼女の持つ宝石とエーコの持つ宝石が共鳴し合い、トレノからシドの作った飛空艇で帰って来ようとしていたエーコは高い所であろうとも気にせず飛び降りて、彼女の元へ降り立つ。……エーコは言う。召喚士としての力が試される『聖なる審判』が行われると。そして彼女達は共に召喚獣を呼んだ。アレクサンドリア全てを守る巨大な羽を持つ召喚獣、アレクサンダーを。
魔獣の死骸が転がる中央で、剣を杖代わりにしながらレイナは街全てが羽に包まれる光景を見上げる。バハムートの攻撃は羽によって防がれ、今度は羽から放たれた無数の光がバハムートを意図も容易く貫き消し去る。街を徘徊する霧の魔獣も瞬く間に消されて行き、アレクサンドリアは救われた……そう、誰もが思った。
「空に……赤い目玉……あれが、エーコの言ってた……」
バハムートを可笑しくした赤い目が、アレクサンドリアの上空に出現する。そしてそれに見つめられたアレクサンダーの様子は可笑しくなり始めた。そして遂には自らを攻撃する様になり、守っていた筈の召喚獣が自らと共に街を破壊する行為に出た。たった一撃。しかしその一撃でアレクサンドリアは崩壊する事になり、建物も人も、何もかもが吹き飛ばされる。それは、城下町でそれを見ていたレイナも例外では無かった。
「や、べぇ……っ!」
何とか耐えようとしたものの、勢いに負けて浮き始めた身体はそのまま大きく吹き飛ばされてしまう。空へ舞い上がったレイナが最後に見たのは、半壊したアレクサンドリアの姿だった。
リンドブルム城
アレクサンドリアは崩壊した。数々の犠牲者を出して。アレクサンダーは自身の攻撃で消滅する事となり、彼の者を召喚したガーネット達は奇跡的に一命を取り留める。そして意識の無いまま、助けにやって来たシド大公達によってリンドブルムへ運ばれる事となった。
「何で、どうして何処にも居ないのよ!」
「エーコ……」
トレノへ行っていたエーコを始めとした面々も、アレクサンダーが召喚されたあの時。アレクサンドリアが魔物に襲われているという情報を聞きつけてやって来ていた。そしてガーネットを助けにやって来たジタンもアレクサンダーの攻撃の余波に巻き込まれ、今尚眠り続けている。……そんな中、逸早く目を覚ましたエーコはリンドブルムの人々に只管聞いていた。『髪の長い、左右の瞳が違う自分よりも少し大きな女の子を見なかったか?』 と。しかしその答えは尽く否であった。
「あの時、エーコがレイナもトレノに連れて行ってたら……」
「お主のせいでは無いのじゃ! それに彼奴なら……」
『きっと生きておる』。落ち込みながら自らを責めようとするエーコを慰めようとしたフライヤだが、その言葉を彼女は言い切る事が出来なかった。アレクサンダーの最後の破壊は凄まじく、街の半分以上は半壊している。犠牲者が多すぎて人数も数え切れず、例え実力がある者と言えど巻き込まれて生きて居られるとは到底思えなかったのだ。この場に居る誰もが思っていた。彼女はもう、死んでしまったと。
魔の森
嘗てジタン達が迷い込み、そしてブランクの犠牲がありながらも脱出する事が出来たアレクサンドリアから近いその森に。仰向けで倒れるレイナの姿があった。死んだ様に目を閉じて動かない彼女の傍には愛用の大剣、黒鬼徹が地面に刺さっている。服も身体も見るからにボロボロだったその姿は本当に死んでいる様にも見えるが……彼女の指先が本の僅かに動き始める。
「……っ……ここ、は……?」
ゆっくりと目を開いた彼女の視界に映ったのは、光の差さない暗い木々。トレノでダガ―が語っていた話を聞いていたレイナは所々石化しているその光景と、マーカスがアレクサンドリアの方が近いと言っていた事から魔の森であると察する事が出来た。
「はは。生き、てんのか……俺。いっ!……チク、ショウ……やべぇ……動けねぇ」
起き上がろうとしたレイナだが、身体に走る激痛を感じてその体勢から動く事が出来なかった。微かな風が起こす木々の擦れた音のみが響き渡る静かで暗い場所に、まるで1人だけ取り残された様な気がしたレイナはゆっくりと目を閉じる。
「ったく……ここに、来てから……散々、ばっかだ……」
その文句にも似た彼女の弱々しい声は、静かなこの場所に嫌な程に響き渡った。
16
リンドブルム城
アレクサンドリアの崩壊はガーネットにとって悪夢の様な出来事であった。母親を失い、治めるべき街を失い、数えきれない程の民達が犠牲となった。スタイナーと共に街で魔獣を倒していたべアトリクスも安否が分からず、更には僅かでも共に旅をして自分を逃がす為に戦ったレイナまでも行方知れず。……その事実はまだ若い彼女に抱え切れる苦しみでは無かった。その結果、彼女は言葉を発する事が出来なくなってしまう。
飛空艇で助けにやって来ていたシド大公は語った。アレクサンドリアでクジャらしき人物を目撃し、彼が『黒魔導士兵』の操るリンドブルムの船……ヒルダガルデ1号に乗って去って行った事を。それは半年以上前、奪われたとされる船であり、彼の話を聞いたビビの動揺は大きかった。既に霧が世界から消えた事で、黒魔導士兵を造る事は出来ない筈。その上で黒魔導士兵がいたとするなら、それは『既に作られていた』者達しかありえない。
目を覚ましたジタンと共に話をした結果、彼らはクロマ族とドワーフに呼ばれていた者達の住む村……黒魔導士の村へ向かう事になる。外側の大陸へはリンドブルムが作り上げた船、ブルーナルシスに乗って簡単に向かう事が出来た。
「……」
「エーコの様子は?」
「あの様に海を眺めたままじゃ。……よっぽど、慕って居ったのじゃろうな」
「無理もないさ。お爺さんって人以外では最初に出会った人間らしいからな」
船に揺られる中、黙って海を眺めるエーコの様子を気にしていたフライヤはジタンの言葉に弱々しく首を横に振る。今、エーコに出来る事はそっとしておく事だけだろう。今の心境では恐らく召喚獣を呼ぶ事も出来ない。故にジタンは魔物と戦う上で、彼女には下がっていて貰う事に決める。
「……」
「クポ……」
「うん。大丈夫。大丈夫よ」
「クポポ……」
胸元から飛び出たモグが心配した様子で声を掛ければ、エーコはその自分よりも小さな身体を抱きながらまるで自分へ言い聞かせる様に呟いた。
魔の森
「……んっ……あぁ、ここか……」
動けない身体ではどうしようも無いと、目を閉じた事で眠りについていたレイナは自然と目を覚ました。森の中は変わらず暗い為、今が朝なのか夜なのかも分からない。そんな中、多少真面に動ける様になった事でレイナは起き上がる。……そして自身の身体を怪訝そうに眺めた。
「エーコと会った時もそうだったな。傷の治りが速いのは……こいつのせいか?」
動けなかった身体が一眠りしただけで動かせる様になった事実は、彼女にとって謎でしか無かった。そしてその理由について思い当たる節として、彼女は胸に。刻印に手を当てる。心臓の動く鼓動を感じながら、彼女は刺さっていた黒鬼徹に手を置いて立ち上がった。
「何だか知らねぇけど、使命を果たすまでは死なせないって事か……」
誰かも分からない相手へ悪態をついて、レイナは黒鬼徹を抜いて足を引きずりながらも魔の森を歩き始める。既に石化した後の森の中には魔物が殆ど居らず、例え居たとしてもそれ程危険な魔物で無かった。しかし武器を振り回せる程の力は残っていなかったため、彼女に出来るのは
魔の森の光景は進んでも進んでも変わり映えの無いものだった。果たして奥へ入ってしまっているのか、出口へ向かっているのか。当てもないままに歩き続けていた時、レイナは微かに聞こえた物音に。そして人の声に気付く。それは男性の声であり、レイナがそれを頼りに進んだ先には……複数人の男達が森の中で飛ばされて来た瓦礫などを撤去する光景だった。
「ん? おめぇは……」
「レイナさんじゃないっスか!?」
そしてその男達の中には盗賊団、タンタラスのメンバーであるマーカスやブランクの姿もあった。彼らはリンドブルムが襲撃されて以降、普段は街の修復作業を行っていた。しかし今回はアレクサンドリアが崩壊した為、生存者が居ないか確認する為に今はここまでやって来ていた。魔の森には嘗てジタン達と共に彼らも迷い込んでいたため、出口も知っている事から探すには丁度良い人材だったのである。
「随分ボロボロだなぁ。ここまでふっ飛ばされたか?」
「あんたは……あぁ、盗賊団の
「バクーってんだ。おめぇさんはレイナであってるな?」
「あぁ。……なぁ、知ってたら教えてくれ。街は、どうなった? エーコ達は無事、なのか?」
「街は半壊したッス。多くの人達が死んだッス」
「けどあの子供なら無事だぜ。他の奴らもな」
「そう、か……それは……良か……った」
「お、おい!」
「大分やられてるな、こりゃ。がはははは!」
「笑ってる場合じゃないッス! 急いで手当てするッス!」
レイナがブランクの答えを聞いて心から安心した時、無理に動かしていた身体が限界を迎えた様にそのまま倒れてしまう。急いで駆け寄ったマーカスが彼女の傷を見ながら手当てをした後、生存者の1人として運び出す事となるのだった。
『この、離しなさいよ!』
……エーコ?
『大人しくついて来るでおじゃる!』
『抵抗しても無駄なのでごじゃる!』
『この! この! ぁ……』
……これは……夢……?
『命令通り、召喚獣を取り出すでおじゃる!』
『急いで向かうでごじゃる!』
リンドブルム城
客室で寝かされていたレイナは、身体の至る所に包帯を巻かれた状態で目を覚ました。しかし自分が今何処に居るのか、彼女にはどうでも良かった。ただ気になるのは、目を覚ます前。眠っていた際に見た謎の夢。不思議と鮮明に記憶に残っており、その内容は何時か戦った道化師達がエーコを強引に眠らせて何処かへ連れ去る。というものだった。
「なんだ、この感じ……」
「お目覚めですかな?」
「っ!」
突然掛けられた声に驚いたレイナへ近づいて来たのは、嘗て狩猟祭で優勝した際に話をした事があるシド大公の文臣であった。彼からタンタラス盗賊団によってリンドブルムへ運ばれた事を知らされたレイナは、現在ジタン達がクジャを追って外側の大陸へ出ている事も聞かされる。……彼女の中にはその話を聞く間も、嫌な予感の様なものがあった。思わずベッドから立ち上がり、自分も向かおうとするレイナ。しかし文臣はそれを止める。
「その怪我では無理です! どうか、今は傷を治す事に専念してください」
前に立って行く手を塞ぐ文臣の姿にレイナが思わず声を荒げようとした時、それを遮る様に彼女の頭の中で『声が』響いた。
『レイナ……』
「っ! エーコ、か……?」
『モグ、レイナ……エーコに力を貸して!』
「これは!? 一体、何が起こって……!」
その声は文臣には聞こえていなかった。しかし代わりに彼が見たのは、身体から光を発し始めるレイナの姿。レイナ自身もそれに気付いて驚きながら自分の手や足を眺める中、彼女は何かに気付いた様子で上を見上げる。
「そういう事かよ……俺の、俺の使命ってのは……!」
文臣は目の前で光輝くレイナの姿を眩しさの余り見ていられなかった。そして客室が途轍もない光で満たされた時、彼女の姿はもう何処にも無かった。