【完結】FFX もう1人の物語&Re:FFIX 帰る場所を求めて   作:ウルハーツ

11 / 15
Chapter7 召喚されしもの

17

 

 グルグ火山。

 

 エスト・ガザと呼ばれる街の奥にあるその火山の最奥には、エーコが寝かされていた。そして彼女の周りで不思議な踊りをして見せるのは、嘗てアレクサンドリアでブラネ女王に仕えていた双子の道化師。彼らが行っているその行為は彼女の中に宿る召喚獣を取り出そうとするものであり、ガーネットがされた事でもあった。

 

 全てはクジャの隠れ家へ突入した事が切っ掛けだった。黒魔導士の村で彼の隠れ家を聞いたジタン達だったが、砂漠の流砂の中に潜むそこへ飛び込む様に入った時。彼らは囚われの身となってしまう。そしてクジャから仲間を助ける為の条件を持ち掛けられたジタンは、彼の言いなりとなってある場所から不思議な石板を取って来る事になった。しかし、クジャは端から約束を守る気など無かった。囚われた仲間達は殺されかけるも、トットの協力を得て人へ戻ろうとした結果ブリ虫から蛙へと変わったシド大公によって救われる。

 

 ジタンは騙されている。その事に気付いた仲間達がクジャと対面する彼の元へ急ぐ中、1人エーコは孤立させられてしまう。そして彼女の元へ現れた道化師達が、彼女を連れ去ってしまったのだ。……全てはクジャの手の平の上。バハムートの様にアレクサンダーを自身の思うがままにしようとした彼は、それが自害する様に消えた事で失敗に終わった。だからこそ、その代わりとなる召喚獣を欲してエーコの身体に宿る力を奪おうとしていた。例えそれが幼い子供の身体に耐え切れぬ行為だとしても、気になどしない。

 

「クポ!」

 

「モ、グ……」

 

「なんでおじゃるか?」

 

「邪魔するでごじゃるか?」

 

 エーコの危険に飛び出したモグが彼らの邪魔をする。そしてクジャがそのモーグリを殺す様に指示した時、モグの身体は光輝き始めた。そしてそれと共にエーコにだけ聞こえ始めた声は、とても暖かく優しいものだった。

 

『エーコ、大丈夫クポ』

 

「ぇ……」

 

『モグ達がエーコを守るクポ。これからもずっと、エーコと一緒クポ。だから今まで……ありがとう(・・・・・)

 

 道化師の双子が襲い掛かる中、モグの放った光はエーコを包み込んだ。……そして最後に聞こえた言葉が、彼女に何をすれば良いのかを告げる。

 

『モグを、そして……彼女を呼ぶクポ!』

 

「おいで、マディーン。レイナ!」

 

 

 

 

 

 

 

 エーコを助ける為に、グルグ火山へやって来たジタン達は彼女の居る場所へ入ろうとして途轍もない光に晒される。双子の道化師が眩しさに騒ぎながらモグの居た場所から距離を取る中、その光の中から現れたのは2つの影。1つは翼を生やした人ならざる存在、召喚獣マディーン。1つは行方知れずとなり、死んだと思われていたレイナだった。

 

「レイ、ナ……?」

 

「悪いな、待たせた」

 

 目の前に立つその後ろ姿を信じられない様子でエーコが見つめる中、レイナは黒鬼徹を構える。そしてマディーンも手に光を宿らせ……指先からその本数だけ光を双子へ向けて放った。その間にゆっくりとレイナが黒鬼徹を振り上げる。

 

「ま、不味いでごじゃる!」

 

「逃げられないでおじゃる!」

 

「逃がさねぇよ……さよならだ」

 

 焦る双子へただ静かに、だが容赦無く告げたレイナがそれを振り下ろした時。彼女の放った斬撃とマディーンの光が交差する様に双子へぶつかる。その攻撃は彼らの存在を一瞬にして消し去る事になった。死体も残らない程に呆気なく、彼らは世界から退場したのだ。

 

 マディーンが大きな咆哮を上げて光の中へと消えて行く。だが同じ様に現れたレイナは消えず、エーコへ振り返った。と同時に彼女は自身を襲う衝撃に驚きながらも、身体へ飛び込んで来たエーコを受け止めた。

 

「バカ! バカバカ! 今までどこで何してたのよ! エーコ、てっきりレイナはもう……」

 

「悪かったって。痛っ、叩くなおい! 俺、一応怪我人」

 

「知らないわよ! そんな事!」

 

 泣きながらレイナを叩き続けるエーコの姿を前に、レイナは困った様子ながらもそれを受け入れ続けた。助けにやって来たジタン達もその場へ駆けつけて、レイナの姿を見た事で驚きの表情を見せる。だが、最後には生きていた事に。泣きながらも、笑顔を見せるエーコの姿に優しい表情を浮かべた。

 

「今のは……」

 

「……」

 

 だが、優しい空気も束の間。全ての元凶である男、クジャが今まで見て来た光景を前に驚きの表情を浮かべながら口を開いた。……彼は語る。エーコの傍に居たモーグリは召喚獣であり、その心が昂った事でトランスと呼ばれる現象を引き起こした。その結果、恐ろしい程に強力な力を見せたのだと。エーコを庇う様に立ちながら話を聞いていたレイナは全く意味を分かっていなかったが、他の者達は違う。彼らは皆、何かしらの経緯を経て力が溢れる不思議な光に包まれたトランスを経験していた。

 

 やがて、クジャは何かに気付いた様子で高笑いを浮かべながらその場を後にする。黒魔導士兵を操っている彼を追ってビビが駆け出し、スタイナーやフライヤが彼と共に向かう中。ジタン達はレイナとエーコへ視線を向けた。

 

「モグが、召喚獣だったの」

 

「あぁ……あいつはお前を守ったんだ」

 

「モグ……ぁ」

 

 何時も傍にいたモグが何処にもいない事実にエーコが悲しむ中、彼女の手元にゆっくりとそれは落ちて来る。エーコと御揃いで付けていたリボン。彼女はそこにモグの力を感じて、強くそれを抱きしめた。

 

「レイナ。どうやってここに?」

 

「……俺も、同じだったんだ」

 

「同じ?」

 

 ジタンの問いにそう答えたレイナは少し歩いて彼らから距離を取ると、振り返りながら告げる。この世界へやって来た真実を……自分の使命を。

 

「俺の使命はエーコを守る。俺はその為に呼ばれた、召喚された存在だった」

 

 

 

 

 

 

 

 

 リンドブルム城

 

 黒魔導士達は作られた身体であり、そんな彼らには稼働できる時間が決まっていた。つまり死ぬ時が決まっていたのだ。そしてクジャにそれを知らされた彼らは、自分達の時間を伸ばせるという彼の甘い言葉に唆されて彼へ協力していた。……その結果、『限られた時間を変えられる訳が無い』というクジャの言葉を受けた彼らは自分達の過ちに絶望する事となった。

 

 そんな中、グルグ火山には1人の女性が居た。その名をヒルダガルデ・ファブール。シド・ファブールの妻である。彼女は自身の名を持つ飛空艇、ヒルダガルデ1号に乗ってリンドブルムから家出をしていた。そしてその理由は、シドが別の女性へちょっかいを出した事に腹を立てて。彼がブリ虫の姿になったのも、彼女の魔法が原因だった。

 

 ヒルダガルデと共にリンドブルムへ戻って来たジタン達は、改めて人に戻ったシドと対面する。そして複数人、人が足りない中でヒルダガルデがクジャから聞いた彼の秘密を聞かされる事になった。彼女曰くクジャは自分に酔った様子で話をする事で、一切聞かなくてもベラベラと話をしてくれたと言う。

 

「こことは別の世界の人間……か。確か、レイナもその様な話をしていたようじゃが」

 

「スピラ。シンと言っておったが、その様な言葉は学者たちも知らない言葉だったケロ……だったのだ」

 

「……」

 

 まだ蛙だった頃の言葉遣いが抜けないまま、シドは狩猟祭が終わった際に彼女からされた質問を思い出して告げる。そこで話を聞いていたビビはジタンへ声を掛けた。

 

「ねぇ、ジタン。レイナお姉ちゃんは召喚されたって話だったよね?」

 

「あぁ、らしいな」

 

「それじゃあ、お姉ちゃんは召喚獣の世界から来たのかな?」

 

「召喚獣の世界、か。でもアイツ、召喚獣を嫌ってたって話だぜ?」

 

「そもそも、その様な世界があるのでしょうか? 別の世界がある、というだけでも信じられません」

 

「ふん、そんなに知りたけりゃ本人に聞けばいい話じゃないのか?」

 

「何だよサラマンダー、藪から棒に。……でも、確かにそうかもな」

 

 焔色の髪をした男……サラマンダーの言葉にジタンは頷きながら考える様な仕草をする。そして何時の間にか話が変わっていた事で、改めてヒルダガルデがクジャから聞いた話の内容を聞く事にした面々。やがてその話が終わった時、その場に居なかったスタイナーが焦った様子で姿を見せる。彼はガーネット(ダガ―)がこの場に居なかった事で、リンドブルムを探し回っていた。だが、見つけられなかったのだ。リンドブルムにアジトを持つ盗賊団、タンタラスにも協力してもらった上で見つからない。となれば、彼女はリンドブルムに居ない可能性も出て来る。

 

「となりゃ、あそこしか無いな。ちょっくら探しに行ってくるよ」

 

「むっ、自分も行くのである!」

 

 ジタンは目星が付いている様で、話をしていた者達に一言告げて部屋を出て行く。そんな彼にスタイナーも着いて行く中、シドは光の差し込む窓へ視線を向けた。

 

「姫の事は2人に任せても良いだろう。今、飛空艇ヒルダガルデ3号の製造を大急ぎで進めておる。完成するまで、各々身体を休めるが良かろう」

 

「うん。僕、疲れちゃった……」

 

「仕方無いのじゃ。……ところで、先程まで話に上がったレイナとエーコは何処に居るのじゃ?」

 

 フライヤの問いに答えられる者はこの場に誰もいなかった。全員が首を横に振る姿を見て、フライヤは多少心配になりながらも部屋を後にする。

 

 

 

 

18

 

 ピナックルロックス

 

 そこはリンドブルムから少し離れた岩場であり、嘗てジタン達がアレクサンドリアから逃げる際に暴走したガルガントが辿り着いた先でもあった。以前はラムウと呼ばれる召喚獣がここに住み着いていたが、ダガ―が彼の与えた試練を乗り越えた事で契約を交わした場所でもある。

 

 そんな人気の無い場所で、レイナは流れる川を見下ろしながら植物の根が作り上げる道に座り込んでいた。彼女の隣にはエーコも座っており、足を揺らしながら彼女は空を見上げる。そして何度か不安そうにレイナへ視線を向けた後、彼女は意を決して話し掛けた。

 

「レイナ、その……大丈夫?」

 

「……皮肉なもんだよな」

 

「え?」

 

「召喚獣を嫌ってた俺が、似た様な存在になってたんだ」

 

「……どうしてレイナは、召喚獣が嫌いなの?」

 

 レイナが召喚獣を嫌っていた事は前々から知っていたエーコだが、その詳しい理由までを聞いた事は無かった。彼女が知るレイナの過去は、スピラと呼ばれる世界でシンと呼ばれる巨大な敵と戦った事があるというだけ。エーコの問いにレイナは少し黙った後、思い出す様に空を見上げた。

 

「俺の世界にシンって奴が居たって話はしたよな?」

 

「うん。確か、災害みたいに現れるんでしょ?」

 

「あぁ。……シンは、俺達がやった方法以外でも倒す方法があったんだ。寧ろそれが世界にとって当たり前で、俺達のやった事は言っちまえば邪道だった」

 

「それじゃあ、シンは何度も倒してるって事?」

 

 エーコの言葉に頷き、レイナはシンと召喚獣の関係を話し始める。スピラでは召喚士が世界各地を回り、祈り子と呼ばれるものへ祈りを捧げる。祈り子は召喚士の祈りに答え、召喚獣となって召喚士へ力を貸す。そうして沢山の召喚獣達から力を借りる事が出来た召喚士だけが、シンを倒す唯一無二の手段……究極召喚を使い熟せる。

 

「きゅうきょくしょうかん? エーコ、そんなの聞いた事無いわ」

 

「この世界には多分、無いんだろうな。……そもそも究極召喚ってのが生まれた事自体がきっと、全部の元凶だったんだ」

 

 究極召喚を使う事で、シンを倒す事が出来る。故に召喚士はガードと呼ばれる者達に守って貰いながら祈り子の眠る世界各地の寺院を巡り、やがてその力を手にする。しかし、その究極召喚とは誰かの犠牲失くしては使えない『まやかしの希望』だった。

 

「どういう事?」

 

「……究極召喚は、仲間との絆を力に変えて召喚士が命懸けでやる召喚。力となった仲間も、召喚した召喚士も使ったら最後、死ぬんだ」

 

「ぇ……」

 

「そして究極召喚でシンを倒した時、確かに世界からシンは消える。けどな、究極召喚で生まれた召喚獣がまた新たなシンとなって何時か目覚める」

 

「そんな! それじゃあずっと、終わらないじゃない!」

 

 エーコは思わず立ち上がって告げる中、レイナは頷いた。永遠な堂々巡り。召喚士とその仲間が死んでシンを倒し、そしてその力が新たなシンとなって世界を襲う。また新たな召喚士が仲間を犠牲にシンを倒し、それがまたシンとなる。何時までも、悪夢は終わらない。

 

「俺の親父は、シンを倒したんだ。でも結局、シンは蘇った」

 

「……」

 

「そして姉さんが今度はシンを倒す為に究極召喚を求めた。旅をして召喚獣を仲間にした。全部、究極召喚を使う為にだ。だから俺には、召喚獣ってのが召喚士を『生贄』にする存在にしか見えなくなった。あれが無かったら、召喚獣さえいなかったら……親父も死なないで済んだかも知れないんだ。姉さんが死ぬ覚悟をする事も、無かった」

 

 マダイン・サリでレイナからシンとの戦いについてお伽噺の様に聞いていたエーコは、最終的にシンを倒すところまで聞いている。究極召喚という話を今初めて聞いたという事は、その戦いで使う事は無かったのだろう。彼女の姉も、そのガード達もスピラで生きている。だが彼女の召喚獣に抱く嫌悪がそれで消える訳では無かった。

 

「だから俺は、召喚獣が嫌いだ。召喚獣を操る召喚士も……嫌いだ」

 

「! レイナは……エーコの事も、嫌い?」

 

 胸に手を当てながら告げたレイナの言葉に、エーコは不安げに後ろへ手を回しながら質問する。以前にも似た様な質問をした事があった彼女だが、あの時とは状況が違う。空を見上げていたレイナの視線がエーコへ向けられ、彼女は不安そうにしながらも言葉を続けた。

 

「だって、エーコのせいでレイナは召喚獣と同じ様な存在になっちゃってるんでしょ?」

 

「お前のせいじゃねぇよ。そもそも、お前が俺を召喚した訳じゃないんだ。まぁ、さっきの火山では召喚されたんだけどな」

 

「え? じゃあ、誰がレイナを召喚したの?」

 

「お前が1人で寂しそうなのを、見てられなかった奴らさ」

 

 レイナが落ちて来る前も、彼女が現れたその後も、エーコはお爺さんを亡くしてからモーグリ達とだけ生活していた。大事な仲間達である彼らだが、どうしても種族の差というものは無意識に感じるもの。エーコは心の中で思っていた、『1人は寂しい』と。そして毎日の様に朝を迎えれば、召喚壁の中で祈りを捧げる。……そんな彼女の思いは、彼女を見守る召喚獣だったモグに。そして亡くなった目には見えない召喚士一族達の意識に届いていた。

 

 召喚士一族、つまりエーコのご先祖様達は毎日懸命に祈りを捧げるエーコに何かをしてあげたいと何時の日か抱く様になっていた。そして出した答えは……同じ人間を自分達の世界へ、エーコの元へ召喚する事。だが、唯の人間を召喚する事は出来ない。だから召喚士一族は人間に力を与える事で、人間とは異なる存在に変えた。それがルシの刻印である。

 

「例え死人になっても、お前を愛してたって事さ」

 

「?」

 

 レイナの言葉にエーコが首を傾げる中、彼女は流れる川を眺める。自分が他の世界へ来た理由も、何をしなければいけないのかも分かった。しかし一方でエーコを守る事が使命であるのなら、果たして何をすればその使命は果たされるのか。それがレイナには分からなかった。もしかすると、このままずっと……そんな不安が募る度に、レイナは胸が苦しくなる。

 

「(嫌いだった召喚獣と似た様な存在になって、このままここに居続ける? 別に宛の無い旅だったけど、だからってスピラに帰りたくない訳じゃない)」

 

「レイナ?」

 

「(帰る方法なんて、本当にあるのか? もし使命を果たせなかったら、どうなる? 使命を果たせるのは、何時だ?)」

 

「ちょっとレイナ! 大丈夫!?」

 

「もし、帰れなかったと、したら……今まで、全部……無駄、だったのか……ぐっ!」

 

 一度募った不安は徐々に彼女の心を支配し始めた。何時の間にか押さえていた胸に感じる苦しさは我慢出来ない程となり、彼女は蹲ってしまう。エーコが流石に可笑しいと焦った様子でレイナの身体に手を添えた時、蹲っていたレイナはまるで弾かれる様に胸を突き出す様な体勢になった。そして、彼女の座る場所を中心に光が生まれ始め……4つの魔法陣が周りで輝き始める。やがてその魔法陣から空へ向けて光が放たれた時、雲が割れ、それは姿を現した。

 

「しょ、召喚獣!?」

 

「なんで……なんでここにお前が居るんだよ、ヴァルファーレ(・・・・・・・)!」

 

 巨大な翼をはためかせ、女性の様な身体に鳥の様な嘴を持つ召喚獣……ヴァルファーレが2人を見下ろしていた。

 

 

 

 

19

 

 ピナックルロックス

 

 召喚獣、ヴァルファーレ。それはレイナの姉が初めて召喚出来る様になった召喚獣であり、レイナ自身も何度が相対した事のある存在だった。時にはナギ平原で姉と対立した時に。時には重傷を負ってシンの身体から落下した時に。だからこそ、レイナからすればその存在自体が姉を召喚士であると証明している様にも見える。……因縁を感じずにはいられない存在だった。

 

「何か言ってるわ!」

 

「は? 分かるのか!?」

 

 目の前で羽をはためかせながら居続けるヴァルファーレを前に、エーコが頭を出して目を閉じる。召喚士一族は代々、頭に生えた角を使って召喚獣と対話する事が出来るのだ。エーコもそれに漏れず、彼女はヴァルファーレの言葉を聞いた。

 

「えっと……『私の試練を乗り越えてみせよ』、そう言ってる」

 

「試練? 随分と偉そうに言いやがる……ナギ平原での戦い、忘れた訳じゃねぇだろうが」

 

「『召喚士の居ない今、私は私の戦いをする。あの時と同じだとは思わない事だ』」

 

「まるで召喚士が枷だったみたいな言い草じゃねぇか……」

 

 エーコの通訳を間に挟んで、会話をするレイナとヴァルファーレ。スピラの召喚獣は一部の例外を除き、その殆どが召喚主の思いや指示を受けて戦う。しかし今、ヴァルファーレに指示を出す者は何処にも居ない。故にヴァルファーレは自身の感じたままに動き、戦う。それは確かに以前の戦い方とは大きく変わるものであり、レイナは黒鬼徹を手にその刃をヴァルファーレへ向けた。

 

「いきなり出て来て好き勝手言いやがって……お前らはやっぱ、嫌いだ」

 

「お、『お前も似た様な存在だ』……だって」

 

「っ! うるさいんだよ!」

 

 それを聞いたレイナが怒る事は、彼女を知る者なら誰でも分かる事だった。エーコが言い難そうに、だがヴァルファーレの意思を正確に伝えた時。レイナは怒りから柄を握る手に更なる力を込めて、ヴァルファーレへと立ち向かった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 蔦から降りた事で、流れる川の浅瀬へ足を付けたレイナは空を飛ぶヴァルファーレを見上げる。

 

「見下ろされるのは好きじゃねぇんだ。すぐに叩き落としてやる!」

 

 そう言って黒鬼徹を向けた時、ヴァルファーレは口に光を溜めてビームの様なものをレイナの周囲へ放った。シューティング・レイと呼ばれるその技で綺麗に縁取られた大地は、間を置いて爆発を引き起こす。放ったものはレイナに向けられず、彼女の周囲をまるで孤立させる様に大地が破壊された。結果、エーコとは分断されてしまう。それが狙いだったのだろう。

 

「レイナ!」

 

「エーコ、これは俺の戦いだ。だから……待ってろ」

 

「っ! うん!」

 

 レイナの言葉にエーコが大声で答えて頷いた時、ヴァルファーレは羽を大きく広げてレイナへ向けながら羽ばたき始める。それに伴って生まれた強風が忽ちレイナへ襲い掛かり、それを彼女は地面に黒鬼徹を刺す事で壁を作って耐える。そして風が無くなったと同時に引き抜き、駆け出した。

 

「らぁ!」

 

 空に飛び続けるヴァルファーレへ攻撃するには、跳ぶしか無い。レイナはそれが分かっていた事で、一気に跳躍して大剣を振り下ろそうとした。だが羽で護る様にヴァルファーレが自身を包んだ時、その身体は固くなる。結果、僅かな傷を作る事は出来るものの、大したダメージにはならなかった。

 

「っ!」

 

 人は何時までも跳んで居られない。故に彼女が着地した時、羽を広げたヴァルファーレの口元には淡い紫色の光を放つ魔法陣が生まれていた。嫌な予感を感じてその場を急いで飛び退いた時、幾つもの光がヴァルファーレの口から放たれる。まるで爆発する弾丸の様に、水飛沫が上がった。

 

 間は一瞬だった。水飛沫の向こうから飛んできた破壊の光がヴァルファーレへ襲い掛かる。それを羽を広げてその場で身体ごと一回転させる事で、ヴァルファーレは全て弾き飛ばしてしまう。だが、前を向いたヴァルファーレの視界にはレイナの姿が映らない。そして、気付けば真下に。レイナは銃を構えて立っていた。

 

「こいつを、喰らえ!」

 

 放たれた赤黒い弾丸に急いで羽で身体を守ろうとしたヴァルファーレだが、間に合わずそれは身体へ命中する。と同時に弾ける様な爆発が生まれた。『フレア弾』と名付けられたそれは、元の世界で弾丸を作る事の出来る仲間の力作の一つ。大事な時の為に取ってあったとっておきの弾丸の一種でもあった。

 

「……まだ、倒れないってか?」

 

 弾丸の威力は大きく、間違い無くヴァルファーレに大きなダメージを与えた筈だった。しかし身体に煤を残しながらも再び羽ばたくその姿を前に、レイナは黒鬼徹を地面に差して杖代わりにしながら見上げる。……先程の光を放つ技、シューティング・パワーが巻き起こした余波をレイナは受けていた。それを無視して捨て身で挑んだが故に、彼女もまた疲労と痛みを我慢していた。

 

 ヴァルファーレが大きく空へ後転しながら舞い上がる。そして頭部から繋がる長い髪の様な部分を回して前方へ円を描いた時、先程とは比べ物にならない程の巨大な魔法陣が浮かび始める。ヴァルファーレの口から放たれた光が魔法陣へ入り、回りながら……光の雨がレイナに襲い掛かった。

 

「っ!」

 

「レイナ!」

 

 光の雨に飲み込まれたレイナの姿にエーコが叫ぶ様に声を上げる。大地が崩れて行く中、水飛沫よりも砂煙に包まれてしまった彼女の周囲はもう何も見えない。最悪の場合、身体を残す事無く消滅した可能性すらあった。そんな光景にエーコが膝から崩れ落ちる中、僅かに砂煙が不自然ながら動き始める。そして、微かな光がその中で生まれた。

 

「破衝撃!」

 

「!?」

 

 聞こえて来た声と共にエーコが顔を上げた時、その砂煙を吹き飛ばしながら2つの斬撃が空に居たヴァルファーレに向かって放たれる。それは左右の羽へと当たり、ヴァルファーレは体勢を崩して真面に飛んで居られなくなる。

 

「これで……決める!」

 

 額や腕から血を流し、服をボロボロにしながらも確かに立っていたレイナは目を閉じて黒鬼徹を横にし、その刀身の平面部分へ左手を添える様に構える。彼女の柄を握る右手に更なる力が入り、やがてその周囲に風が生まれ始めた。最初は優しいそよ風の様なものが、徐々に激しくなり始めれば、遠くにいたエーコは吹き飛ばされそうになる。だが最後まで見届ける為に、彼女は必死でその場に留まり続けた。

 

 風に吹かれて長い髪が空へ逆立つ様に舞い上がる中、レイナはその時が来ると同時に目を開けて黒鬼徹の柄を両手で握り、斜め後ろへ。そして斬撃に風を纏わせる様にそれをヴァルファーレへ向けて振り抜いた時、ヴァルファーレが起こした風とは比べ物にならない威力の風が。その風に交じる無数の刃が襲い掛かる。

 

「桜華……狂咲っ!!!」

 

 レイナが振るったのは二度。最初は振り抜く様に。そして続け様に空を一刀両断する様に振り下ろす。分けられたその風と斬撃にヴァルファーレは一度は体勢を崩しながらも羽を纏って耐えるが、二度目を受け切る事は出来なかった。守っていた羽をも貫く様にヴァルファーレの身体を風が貫き、大きな咆哮を上げてその身体は地へ落ちる。……だが、完全に落ち切る寸前。ヴァルファーレの身体に変化が起こった。

 

「……は?」

 

 頭から繋がる髪の様な部分が羽と背中の間へ入り、羽が隙間を埋める様にくっ付きはじめる。尻尾が身体へ向かって曲がり、顔が身体の中へ入り込んで嘴だけが上を向く。そうしてヴァルファーレは鳥では無い、別の何かへと姿を変えた。困惑するレイナを前に、彼女の前へゆっくりと近づいて来るその姿はまるで乗り物。レイナは何となく、その乗り方が分かった事で羽が作り上げた足場へ乗って立ち上がる。

 

「っとと……はは! なんだよこれ!」

 

 乗った事でゆっくり浮かび上がったそれを見て、レイナは思わず無邪気な子供の様に笑みを浮かべた。まるで形が歪ながらも飛ぶ事の出来るホバーボード(平たい板)へ乗っている様で、レイナはその操縦に苦戦しながらもエーコの元へと降り立った。そしてその上から降りた時、ヴァルファーレは再び元の姿へ戻る。

 

「レイナ!」

 

「何だったんだ、今の?」

 

「えっと……『見事だ。私の力が欲しければ、何時でも呼ぶが良い』。そう言ってるわ」

 

「呼ぶって……」

 

 エーコの通訳を受けたレイナが何となく察する中、ヴァルファーレは空へ舞い上がってそのまま雲の向こう側へと消えてしまう。だがそれと同時にゆっくりと落ちて来た赤い光がレイナの元にやって来ると、その胸へ。刻印の中へと入り込む。

 

「マジかよ……俺も、召喚士の仲間入りってか?」

 

「凄いわ!」

 

 ヴァルファーレの言葉通り、レイナは彼の者を好きな時に呼ぶ事が出来る様になっていた。それは正しく召喚であり、レイナは召喚獣ヴァルファーレを呼び出せる召喚士となったのだ。これが最初で最後かもしれないが、始まりが同じなのは『血は争えない』という事なのだろう。色々と複雑な感情を抱いたレイナは、ふと視界が歪んだ気がした。

 

「ぁ、れ……?」

 

「ちょっと! レイナ!?」

 

 身体に力が入らなくなり、そのまま後ろへ倒れてしまったレイナ。元々彼女は怪我人であり、まだ完治していた訳では無い。それなのに今の様な激しい戦いをしてしまえば、身体が限界を迎えるのは当然の話だった。

 

「(マジでここに来てから……散々ばっかだ……)」

 

 薄れ行く意識の中、エーコの声を聞きながらそう思ったレイナ。その後、2人を探してやって来たフライヤが現れるまで。エーコは泣きそうになりながらレイナへ白魔法を掛け続けていた。

 

 

 

 

20

 

 行方不明になっていたダガ―をアレクサンドリアで見つけ出したジタンは、迎えに来たシド大公の乗るヒルダガルデ3号に乗り込んだ。アレクサンドリアの崩壊から既に数日。様々な経験を経て無事に声を取り戻す事が出来たダガ―は、長かった髪をバッサリと切って心機一転して見せる。彼女の姿を見た者は一様に驚き、そして彼女の覚悟を感じ取る事が出来ただろう。

 

「エーコとレイナは?」

 

「お主達がアレクサンドリアに居る間、此方も色々あったのじゃ」

 

 フライヤからレイナがピナックルロックスで倒れていた事を聞いた彼は、一度リンドブルムへ戻る事を提案する。彼女の様子を確認すると共に、別世界について聞きたいと思ったのだ。

 

 

 リンドブルム城

 

 何時かの様に客室で眠っていたレイナの隣には、エーコが座っていた。彼女の他にもビビやク族と呼ばれる種族の仲間が同じ部屋で待機しているところへ、ジタンが他の仲間達と共に現れる。一同はダガ―が見つかった事に安心して、髪が短くなった事に驚愕。誰もが予想した反応だった。

 

「レイナの様子は?」

 

「まだ眠ったままアル。美味しい物を近づけても、全然反応しないアルよ」

 

「僕達に合流する前、レイナお姉ちゃんは魔の森まで飛ばされてたんだって。歩くのもやっとなくらい、ボロボロだったって……」

 

「その身体でエーコを助けて、また何かと戦ったんだろ? ちょっと無茶し過ぎじゃ無いか?」

 

「好きで無茶した訳じゃねぇ。そうするしか無かっただけだ」

 

≪!≫

 

 ジタンが会話をしていた時、彼の言葉に返したのは他ならないレイナだった。急いで全員が彼女の元へ駆け寄れば、上半身を起こした状態で既に目を覚ましていたレイナ。その様子は何時もと変わらないが、改めて巻かれた包帯が少々痛々しかった。

 

「大丈夫なのか?」

 

「あぁ。でも数日は安静だとよ」

 

「そうか。正直、一緒に来てくれれば大きな戦力だったんだけどな」

 

「この身体になってから普通と違って傷の治りが速い。明日明後日にはもっとマシになってるさ」

 

「おぉ! それは安心であるな!」

 

「レイナ……」

 

「! ダガ―、声が出る様になったのね!」

 

 2人の会話を聞いていたダガ―が声を掛けた事で、エーコは嬉しそうに飛び上がる。ダガ―は彼女の言葉に頷き、一歩前へ出てレイナへ話を続けた。

 

「私のせいで、辛い思いをさせてしまった。ごめんなさい」

 

「? 何の話だよ?」

 

「アレクサンダーを召喚したのは、私だから」

 

「そんなの、エーコだって一緒に召喚したのよ!」

 

「待て待て、何で『召喚した事が悪い』みたいになってんだよ? あれは街を守ろうとしたんだろ? なら、間違って無いじゃねぇか」

 

「そうだぜ、ダガ―。確かに色々あったけど、皆を守りたいって気持ちは本物だったんだろ?」

 

「……えぇ」

 

 この場に居る誰も、彼女を責める者は居ない。それはきっと、アレクサンドリアの市民達もそうだろう。数々の犠牲者は出たが、ガーネット姫が国を守ろうとした事は誰もが知る周知の事実。『気にすんな』とレイナが告げた時、ダガ―は周りを見て『ありがとう』とお礼を言った。

 

「ねぇ、レイナお姉ちゃん。レイナお姉ちゃんはこことは違う別の世界を知ってるの?」

 

「……」

 

「エーコは何も話してないわよ!?」

 

「クジャが言ってたらしいんだ。こことは違う別世界があって、あいつはそこで生まれたらしい」

 

「以前、お主は言っておったのじゃ。『もしこの世界とは別の世界があるって言ったらフライヤは信じられるか?』と」

 

「……あの時か」

 

 レイナが思い出したのは、アレクサンドリアで本を漁っていた時。上手くいかずに気晴らしをする為、城下町へ向かった際に会ったフライヤの質問へ答えた時である。

 

「俺達はその別世界へ行って見ようと思ってる。で、その鍵があるって場所にこれから行くんだけど……情報は大事だろ?」

 

「そもそも、クジャと俺は同じ世界の奴なのか分からないけどな」

 

「むっ、言われてみれば……別世界が1つとは限らないのである」

 

「世界が一杯あるなら、美味しい物も一杯あるかもしれないアルな!」

 

「クジャの話だと、この世界はガイア。で、別の世界はテラって場所らしいんだけど」

 

「ガイアにテラ、ね。悪いが両方とも俺の知ってる世界の名前じゃ無い。俺の居た世界の名前は、スピラだった」

 

「っ! それって、シド叔父様に聞いていた?」

 

 嘗て彼らの目の前でシドへ聞いた質問の内容と同じ言葉が出て来た事で、ダガ―は反応を示す。初めて彼女の言葉の意味を知る事になった面々は、続いてシンという言葉についても質問する。それに彼女は『スピラにあった災害の様なもの』と説明。余りにもざっくりとした内容にジタンは何とも言えない表情を浮かべるが、少なくとも今から向かう場所には関係が無さそうに思えた事でそれ以上追及する事はしなかった。

 

「別世界へ行くんだよな?」

 

「あぁ」

 

「なら、その時は連れてってくれよ。この世界で調べても、俺の世界に関する事は殆ど無かった。そこでなら、何か分かるかもしれないからな」

 

「分かった」

 

 ジタンと約束を取り付けたレイナは再びベッドへ横になる。安静と言われたからには、気は進まなくとも安静にするつもりなのだろう。その方が痛みも無くなり、早く動ける様になるため、大人しく彼女は眠りについた。

 

「エーコは……残るよな?」

 

「勿論!」

 

「レイナの事、お願いね?」

 

 彼女の面倒を見るのか見られるのかは分からないが、少なくとも今までは彼女の居るところにエーコが居た。実際は逆だった様だが、それでも再会出来た今、それは変わらない。故にジタン達はリンドブルムへ2人を置いて、クジャが別世界へ渡る為の鍵があると話していた場所……イプセンの古城へ向かうのだった。

 

 

 

「あぁー!」

 

「……っ」

 

「結局、レイナがエーコの事を好きか嫌いかはっきり聞いて無いわ!」

 

「…………」

 

「レイナ、まだ起きてるわよね? というか、今起きたわ!」

 

「……ぐぅぐぅ」

 

「嘘ね! レイナはもっと静かな寝息を立てるわ。こう、『スャスャ』って感じの!」

 

「マジかよ……あ」

 

「やっぱり起きてるじゃない!」

 

「ったく。寝かせてくれよ。今からでも、連れてってくんないかな」

 

「どういう意味よ!」

 

「いっ! 馬鹿、乗るな! 痛っ、悪かった! 悪かったっての!」

 

 ジタン達の大所帯が部屋を出て2人きりになったとしても、客室はとても騒がしかった。




常時掲載

【Fantia】にも過去作を含めた作品を公開中。
没や話数のある新作等は、全話一括で読む事が出来ます。
https://fantia.jp/594910de58
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。