【完結】FFX もう1人の物語&Re:FFIX 帰る場所を求めて 作:ウルハーツ
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「いっ! もう少し優しく出来ないのかよお前は」
「貴女が悪いんですよ。まったく……やっと戻ってきたと思ったら骨折何て笑えません。驚きましたよ本当に」
「誰も笑ってくれなんて言ってない、っていっ! だから痛いって!」
南シパーフ乗り場にて。椅子や机のある場所に座り、レイナは長いピンク色の髪をしたとある女性に包帯を巻いてもらっていた。そんなレイナの隣には必死に走り続けたせいでかなり疲れてしまっているであろうチョコボが首を少し下げて休憩していた。
レイナは女性に包帯を巻いてもらっているが、どうやら女性はご立腹の様である。そのせいで包帯を巻いている途中で巻いてもらっている足を弱めではあるが叩いたり、包帯をきつめに巻いたりとレイナは小さなお仕置の様なことをされていた。
「こっちだって色々あったんだ。ミヘン街道辺りから厄介事に巻き込まれまくって、結果この様だ。でも収穫だってあったぜ? こいつもそうだし、これだって手に入れて来た」
包帯を巻いてもらったレイナは足を机に投げ出した状態で喋り、一度親指でチョコボを指した後、今度は着ていたフードのポケットに手を突っ込んで何かを取り出すとそれを女性に投げる。それは小さな鉄の様な物だ。女性は受け取ったそれを見て「これが例の?」と聞く事と【収穫】と言う辺りから、レイナが旅に出ていた理由の一つはそれであったことが分かる。
「これで本当に【浮く】のでしょうか……とにかくココアに渡して置きます。後その態勢は見逃せません。もう少し慎みを持ってください。スカートの中が丸見えです」
「あぁ? 別に見る奴なんて居ないし見られた所で気になんてしねぇよ。この態勢が一番楽なんだし、別に良いじゃねぇか」
「駄目です。……とりあえずそのチョコボにでも乗っててください。そうすれば自ずとちゃんとした態勢になりますし、第一に今から移動するんですから」
「……俺も行くのかよ?」
女性の言葉にレイナは少し驚いた後質問するが、女性は「当然ですよ」と言って立ち上がる。が、どうやらレイナはその場から動く気は無いらしく、「行くならお前だけで行ってくれ」と右手を上げてフラフラと揺らしながら言う。だがそれで諦める女性ではなかった。
女性はレイナの後ろに立つとレイナを抱え上げる。お姫様抱っこと言う奴だ。小柄なレイナを持ち上げるのは女性には簡単な事であった。
当然レイナは「おい!」と言って抵抗するも、今現在足は骨折しているため振り回すことも出来なかった。そして強制的にチョコボに乗せられてしまう。が、今度はチョコボが急に乗ったレイナを見た後に首を傾げるだけで動こうとしない。主であるレイナが余り良い顔をしていないため、出発して良いのか迷っている様だ。
「ついて来て下さい……ね?」
『! ク、クェ!』
しかしそれは一瞬であった。レイナを乗せた女性はチョコボの前に立つと笑顔でチョコボに言う。しかしその笑顔は綺麗な物の、目が笑って居なかった。訓練をまだ殆ど受けていない野性に近かったチョコボはその目を見て一瞬固まり、まるで兵隊が整列して並ぶ時の様に顔を上げてピンと身体を伸ばして鳴く。それを見てレイナはもう逃げられないと諦めた。そしてチョコボは女性の歩く後ろをキリキリと歩くのだった。
幻光河はシパーフと言う大きな生き物に乗って河を渡る。が、レイナ達は現在森の中を進んでいた。
道にすらなっていない場所を通るため、足元を良く見て慎重に歩く必要がある。が、しばらく進んでいると円状に木が何も無い広い場所出る。そしてその中心に何やら訳の分からない機械と女性と同じ長い紫髪をした1人の女性が立っていた。
「ココア。レイナが帰って来ま「がはぁ!」……速いですね」
レイナと共に来た女性が立っていた女性の名を呼び、次にレイナの名前を出した瞬間、女性……ココアは一瞬でチョコボの上に乗っているレイナに飛びつき始めた。その速さは目では一切追えない程のスピードだ。当然今現在怪我をしているレイナがそれを避けられる訳も無く、飛びついて来たココアを受け止めるも背後には何も無いため落下。ココアの体重も加わり、レイナは背中に大きなダメージを受けた。
「……お帰り」
「いてて……あぁ、ただいま。とりあえず降りてくれ」
ココアはレイナの身体を抱きしめたまま顔を上げて言う。ココアの表情は若干笑って居るも、良く見なければ分からない程微笑であった。そして静かな声でレイナにココアは言い放つ。
喋り掛けられたレイナは打った背中を右手で摩りながら答えるとココアに退いて貰う様に言う。が、ココアは抱きしめたその腕に再び力を込め始めた。
レイナの身体は何度も言う様に小柄だ。そして現在抱きしめているココアは当然レイナより背も大きく、何よりも胸が大きかった。この場に居る3人の中で断トツに大きかった。結果、レイナの顔は抱きしめられた事でココアの胸に埋まってしまい、息が出来なくなってしまう。
徐々に青くなっていくレイナの顔。そんなレイナに気づいた女性はすぐにココアをレイナから離そうとし、数秒で何とか離すことには成功する。が、色々な疲れもあったのだろう。レイナはそのまま気絶してしまうのだった。
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レイナは夜になって目を覚ます。場所は気絶してしまった森の中。横から何か音が響き続け、レイナはそれを確認する。そこには自分を気絶させた張本人。ココアが機械の中に頭を突っ込んで何かをしていた。そしてその横には女性が椅子を用意して座っており、何かを飲んでいる。
レイナが目覚めたのに気づいた女性は立ち上がると「大丈夫ですね」と聞くのでは無く最初から決定している言葉を言う。それを聞いてレイナは「何だよそれ」と苦笑いしながら立ち上が……れなかった。足を折っているのだ。それを忘れていたレイナは痛みに顔を歪める。
「どれくらいでここを発てるんだ?」
「……明日の朝」
少し考えた後、レイナはココアに質問をする。機械の中に顔を突っ込んだままココアはその問いに答えるだけで一切手を休める事は無い。恐らく彼女は明日の朝まで続ける気なのだろう。レイナは「程々にな?」と言うと近くで座り込んでいたチョコボの近くに移動し、そのふわふわの羽に寄りかかった。チョコボは突然のことに顔を上げて一度レイナを見るとすぐに眠り始める。
「どうするんですかそのチョコボ。流石に乗せられませんよ?」
「考えて無かったんだよな……ココア、どうにか「無理」……せめて言わせろよ」
レイナは頬を掻きながらココアに言うも遮るように答えが返ってきたことに苦虫を噛み潰した様な表情をする。そしてチョコボを撫でながら「マジでお前、どうするかな」と呟く。そしてしばらく黙った後、レイナの顔が何かを思いついた様な表情に変わった。
「俺、【陸路】で行くわ」
「何言ってるんですか! 駄目です。絶対駄目です」
「……反対」
「でもよ、こいつ置いて行くなんて俺は反対だぜ。こいつは俺の命の恩人だからな」
レイナの出した答えに女性は表情を変えて猛反対し、ココアも機械から顔を出してレイナに反対する。だがレイナに一切引く気はない。レイナの言う通りチョコボは命の恩人なのだ。恐らくチョコボが居なければキノコ岩街道で彼女は命を落としていたのだから。
猛反対する2人。そんな2人を見てレイナは考え事をしながらチョコボの体を撫で続ける。と、突然着ていた青いフード付きのコートの中に手を入れる。実は来ているそのコートには内ポケットが付いており、レイナはそこから小さな瓶の様な物を取り出す。女性は森の中を見たりとレイナから視線を外しており、ココアは再び機械の中に顔を突っ込んでいる。それを確認し、レイナはチョコボを見ながらニヤリと笑うのだった。
女性とココアは【目を覚ます】。女性もココアも眠った記憶など一切無く、冷静になった女性は周りを見渡す。ココアも同じ様に周りを見渡し2人はある一箇所。レイナとチョコボの居た場所に視線が止まった。そこは蛻の殻。誰も居ない。
「あの子、まさか勝手に1人で……探しましょう! まだそこまで時間は経っていない筈です!」
女性の言葉にココアは頷くと立ち上がる。そして2人は周辺を探し続けるが特にレイナらしき姿は無い。普通であればチョコボの足跡などが付きそうな地面まるで痕跡を消す様にぐちゃぐちゃにされている。恐らくレイナがやったのだろう。
探しても見つからない。その事実に女性は頭を抱えた。レイナは怪我人なのだ。今の状態では危険だ。と、女性は手持ちの持ち物でなくなっている物に気づいた。それに気づき、女性は「そんな!」と声を上げる。
「……何か……無い?」
「試作品の薬です! エリクサーを改良した物で、人体構造も直せる様に色々と調合を……まさかあの子、飲んだのでは!?」
「……危険?」
「分かりません。ですがまだ飲んで大丈夫かどうかも分からない代物です。ココア、私はレイナを探します。ココアは出来る限り早く【飛行船】を完成させてください」
女性の言葉にココアは頷くとレイナが居た時よりも早い手捌きで機械を再び弄り始めた。そして女性は森の中に入ってレイナを探す。ぐちゃぐちゃになっている地面も一様は続いているのだ。それを辿って歩き続ける。と、しばらくして河が広がっている場所に出た。そして端に人影と大きな何かが居るのに気づいた。と同時に駆け出す。
「さて、どうすっかな。お前、シパーフ乗れないもんな」
『クェ?』
人影、レイナはチョコボの横に【立ったまま】目の前に広がる河を見る。レイナの言うとおりチョコボはシパーフに乗る事が出来ないため、河を渡るにはどうにかして遠回りをするしかないのだ。
しばらく目の前を見続けた後、レイナは一度ため息を付く。遠回りで行けるルートをレイナは知らないのだ。これから探すとすればそれは非常に大変なことであろう。レイナはどうしようかと周りを見渡し、女性が猛スピードで近づいてきているのに気づく。と同時にチョコボに飛び乗った。
「待ちなさい!」
「悪いな【リアラ】! 飛行艇が出来たら追っかけるなり何なりしてくれ! あ、それとココアに【黒鬼徹(こくきてつ)】は返して貰ったって伝えといてくれ! じゃあな!」
女性……リアラから逃げる様にしてレイナはその場を去る。人間がチョコボの足に追いつくことなど不可能であり、リアラの視界からレイナはすぐに消えてしまった。そしてレイナが去っていってしまった方角をリアラは見続ける。小さく「馬鹿」と呟いて。
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「ふぁ~……ねみぃ」
レイナはチョコボの背に乗り、揺られながら大きな欠伸をする。横には幻光河の大きな河。そして右と前後には道とは言えない森。今現在レイナは川の向こうに行く為に長い道のりを唯々走り続けていた。時間は夜のため、何時もなら寝ているレイナ。その為彼女は眠くてしょうがなかったのだ。
走り続けること数時間。レイナの目の前に木のない道が見えた。それは人が歩く道だ。そしてそれに気づいたレイナは嬉しさの余りかチョコボに「全速力だ!」と言って走らせる。チョコボもレイナと同じ感情なのか大きく鳴いてスピードを上げた。
「よっしゃ、やっと普通の道に出たな! ……あれは」
レイナは出たのを確認するとチョコボから降りて周りを見渡す。と、少し進んだあたりに洞窟の様な場所があるのに気づいた。そしてその洞窟を見る位置から右側を見ると幻光河の北側シパーフ乗り場が見えた。つまり何とか河を渡ることが出来たという事だ。
少し考えた後、レイナは洞窟の様な場所に向かって進むことにする。チョコボも疲れている様なので、今度は乗るといったことはせずに歩いて向かう。そこまで距離も無いため障害などは一切無かった。
中に入ればそこには下に続く道。その先にあるのは【グアドサラム】。キノコ岩街道で出会ったエボンの老子……シーモアの家がある場所であった。しかしレイナには特に関係なく、中に入ると同時にまず宿屋に向かうのだった。
翌日。グアドサラムの宿屋でレイナは目を覚ました。今の時間が何時か等は洞窟の中のため分からないが、レイナは起き上がると服装などを整える。別に着替えたりしている訳ではない為、皺を伸ばしたりする程度だ。
宿屋の店主に軽く挨拶するとレイナは宿を出る。宿の目の前にはチョコボが座っており、何人かのグアド族や一般人が気になっていたようで見ていた。が、レイナが飼い主なのだと気づくと興味も失せたのか視線が外れた。
「そう言えばここ、異界とか言う場所があるってリアラが言ってたな。……死人に会える場所……か」
レイナはふと思い出したように言う。異界。死んだ人間に会える場所である。実際には幻光虫がその場に居る人が思った人物の形を作るだけで本人と言う訳ではないが、それでも死んだ人物が目の前に居ると言う状況になるため再開と思えなくも無い。
全てリアラから聞いたことであり、レイナとしては本当にそんな場所があるのか疑問に思ったりもするが、リアラが嘘を付く人物でないことはよく知っているため何処かにあるのだろうと考える。そしてもしあるのであれば、会いたい人が居るのだ。
少し考えた後、レイナは回りに居る人やグアド族から異界が何処にあるのかを聞く。その結果簡単に場所は分かり、レイナは教えられた場所に近づいた。と、奥に繋がる道があるのに気づく。レイナはそれを見た後にその入り口がチョコボの体よりも小さかったため、その場にチョコボを待機させて中に入る。その時にシーモアの家の扉からキノコ岩街道でも会った旅人の集団が出てくるのには気づかなかった。
「何か……別世界みたいだな」
レイナは異界までの道を歩きながら言う。最初は洞窟の様な場所が続き、そこから出た時。今度は目の前に大きな階段が見える。そしてその階段の左右は……空中だ。先程まで洞窟を歩いていたことも、グアドサラムに入った時に洞窟の下に向かって入った事も全てが嘘の様な光景だ。
階段を上ると途中で階段の向こう側が見えない場所があり、レイナは立ち止まる。それ以降道は無いために一瞬戸惑うも、何故か目の前の道無き道が【歪んでいる】のに気づいた。と同時に一度指で目の前を突いてみる。
「! ……なるほどな」
レイナの目の前。突いた場所は大きな波紋を引き起こして目の前は揺れる。それを見てレイナは少し笑った後、階段が無いにも関わらずその先に足を踏み入れた。そしてレイナはその場からまるで消える様に移動する。
中に入れば再び別世界。まるで丸い岩が刳り貫かれて空中で浮いているかの様な場所だ。滝がはるか遠くに見え、真下には花畑が広がっている。そしてその周辺を幻光虫が飛び回っていた。
「すげぇなこれは……!」
レイナは周りの光景に驚きながらも進む。そして岩の端に辿りついた時、目の前に青くて長い髪をした男性と金髪の女性が現れる。そしてそれを見てレイナは絶句する。そして唾の飲み込み、目の前に居るその2人に手を伸ばす。しかしその手は2人の体をすり抜けて何も触ることは無かった。
「はは、マジかよ……マジで出てきやがった……」
レイナは乾いた笑みを浮かべながら目の前に居る存在を見る。それは紛れも無くレイナの父と母であり、父は有名人である大召還士ブラスカだ。母は……アルベド族である。
「元気……なのか? はは、来たってのに何すりゃいいか全然思いつかねぇ……何て言うか、俺は元気だよ。昔と違って口調とか変わっちまったけどよ……姉さんは分かんねぇ。俺、死んだって聞いて飛び出しちまったからな。シンが倒されたことに喜ぶ奴らを見て、ちょっとな……」
レイナは話すが目の前で浮いている2人は何も返さない。レイナはそんな状況に少し寂しそうな顔をした後、「話すのは無理なんだな」と呟くと少し頭を掻く。そして少し考えた後、レイナは気づいた。
「そっか、そうだよな。映ってるだけで、ここには居ないんだよな……馬鹿だな俺」
自分自身に教える様に言うと後ろから誰かが入ってくるのに気づく。そしてここを去ろうと思い至り、その場から移動しようとする。だが、途中で足を止めて振り返った。
「居ないのは分かってる。けど会えてよかったわ。…………またね。パパ、ママ」
レイナは最後に昔を思い出しながら言う。その時、後ろで小さく誰かが驚く声が響くがレイナには聞き取れなかった。今度こそ2人から目を離して出ようとするレイナ。その出入り口には例の旅人の集団が居た。レイナが近づくと何人かが驚く。が、レイナは特に気にせずにその場を
「待って!」
去れなかった。出ようとした瞬間。少女の大き目の声がレイナを止めたのだ。突然止められたことにレイナは驚きながら少女に振り返る。その少女は見た目からして召還士だろう。そしてレイナはその少女を見て一瞬驚いた。レイナの記憶の中に居る【姉】の姿と目の前の少女の姿が一瞬とは言え重なったからだ。しかしすぐに勘違いだと思うとレイナは「何だ?」と少女に聞き返す。
呼び止めた召還士の少女……ユウナは困惑していた。周りに居たガードである男性と女性と青年がレイナを見た後にユウナを見る。何故ユウナが呼び止めたのか分からないからだ。と言うのもユウナはレイナが先程喋っているのを見ていた。それだけなら何も無いのだが問題はその話し掛けていた相手だ。その相手に気づいてユウナは驚いてしまった。先程の小さな驚く声は彼女だ。
ユウナとレイナの間に沈黙が続く。ユウナとしてはもし見間違いだったらと言う思いもあり、控えめな性格も重なって話を切り出すことが出来なかった。周りのガード達は黙って今の光景を見守っている。
「……用が無いなら良いか?」
「あ、えっと……すいません、突然呼び止めて」
レイナが痺れを切らしたのかユウナに声を掛ける。ユウナは突然の事に戸惑ってしまい、結局は謝ってしまった。そしてそれを最後にレイナは異界を出て行く。そんなレイナの後姿をユウナは唯見る事しか出来なかったのだった。
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レイナは考えていた。どうして自分を呼んだ召還士の少女が自分の知っている幼き姉の顔と重なったのかを。顎に手を当て、異界から出るために階段を降り始める。と、横に金髪の少女とキノコ岩街道で唯一会話をしていた男性……アーロンが居るのに気づいた。金髪の少女はキノコ岩街道の時には居なかったので、途中で参加したのだろう。
「どうやら俺達はお前と縁があるらしい」
「らしいな。……1つ聞きたい。あんたは世間では有名な伝説のガードなのか?」
レイナの存在に気づいたらしいアーロンが話しかけ、レイナはそれに答えると出会った当初から気になっていた質問をする。人によっては失礼と思われる質問だが、レイナはそれが分かっていても知りたかったのだ。もしも目の前に居るアーロンが【伝説のガードであるアーロン】ならば、自分の父親のガードと言うことになるからだ。
横に居た金髪の少女は黙って2人の会話を聞いている。雰囲気からして口出しすることも出来ず、レイナがアーロンに質問したことにも気になっていたからだ。
「……そうだ。俺はブラスカのガードだった」
「! そう……か。ってことは」
レイナはアーロンの言葉に頭を鈍器で打たれたかのような錯覚を覚える。しかし何とか冷静になると後ろを振り向いた。そこには見た目何も無いが、その奥には違う世界がある。そしてそこには召還士の少女と何人かのガードの人々が居る。アーロンはレイナが見ているのを見て考えていることが分かった様で静かに頷いた。
「ブラスカとの約束だ。共に来い」
≪!≫
アーロンの言葉にレイナは勿論、横に居た金髪の少女も驚く。口をあけてアーロンがどうしてレイナを誘って居るのか考えようとするが、アーロンは余り表情を変えないためにその真意を知ることが出来ない。なので自然に少女はレイナに視線を移した。
言われた本人のレイナはアーロンの言葉に驚いた後、すぐに考える。だがレイナの中で既に答えは決まっているも同じことだったため、レイナは答える。レイナの答えは……共に【行かない】事であった。
「一緒には行かない。例えそれが頼まれたことだとしてもだ。それに俺は姿を勝手に消したんだ。今更ノコノコ現れる何てかっこ悪いしな」
「……だが「俺の物語」!」
「あんた良く言ってたじゃねぇか。姉ねぇ……いや、あいつの物語がある様に俺には俺の物語がある。そしてその物語は絶対同じ様には重ならない。俺は……【敵】だからな」
「……そうか」
レイナはアーロンに自分が行かないことを伝えると右手を上に上げて軽く振りながら「また会うだろうよ」と言って歩き出す。アーロンはそのままレイナを止める事無く見続けるのだった。
異界から出たレイナは待機させていたチョコボを撫でて「そろそろ出るぞ」と言う。その言葉にチョコボは鳴くと背中に乗れとでも言う様に首を曲げた。だが次の場所に行くのは狭い洞窟を少しだが通らなければいけない為、「少し後でな」とレイナは言うと歩き始める。
入って来た幻光河方面への出入り口とは別に先に進むためにもう1つの道がある。召還士が通る道であり、今からレイナはその道を通る。そこは少し狭い洞窟で、チョコボもギリギリ通れるか通れないかの大きさだ。常に首を曲げたままチョコボは歩き続ける。そのまましばらく歩くとレイナは風を感じた。そして
「いっ! 煩いな」
『クェ!?』
外に出たと同時にレイナとチョコボは耳を劈く様な高い音に驚く。空を見上げればずっと雨雲が空を覆い続け、雷が避雷塔にしょっちゅう落ち続けている。それを見てレイナはめんどくさそうな顔をし、チョコボは……震えていた。どうやら怖いようだ。
この場所の名前は雷平原。雷が常に落ち続ける雷が嫌いな人に取っては地獄の様な場所である。避雷塔が出来てからは少し改善された物の、未だに雷が人に落ちることはしょっちゅうある。
「お前、無理すんな。ここは歩きで行くからよ」
『クェ……クェ!?』
チョコボは申し訳なさそうな声でレイナに顔を近づけるも、再び雷が避雷塔に落ちて飛び上がる。そしてレイナの体に大きく顔を埋めようとする。残念ながらレイナは体自体大きくないために一切隠れないのだが、何もしないよりは安心出来るのだろう。レイナは出来る限り早めにここを抜けようと決意する。そして歩き始める。
避雷塔の近くに居ないと自分に向かって雷が落ちて来るため出来る限り避雷塔の近くに寄るレイナ。しかし避雷塔に寄れば今度はそこに落ちる雷にチョコボは怯える声で鳴く。かなりここを通るのは大変になりそうだとレイナは感じながら歩き出し……止めた。突然止まったレイナにチョコボは驚くも、すぐに何故止まったのかが分かる。
レイナとチョコボの目の前に大きな竜が居たのだ。口元に炎らしきものをため、その大きな巨体が雷平原を通過しようとしていた。その後ろには一回り小さな竜も居り、恐らく親子と言った関係であることが伺える。レイナは嫌な予感を感じ、それは現実となってしまう。
近くに居たレイナに気づいた親竜が大きく吼えると威嚇しながらレイナを睨み付ける。子供を守ると言う思いもあるのだろう。こうなった場合、逃げるにしても危険が無くなるまで追いかけられる事は確実だ。レイナは目の前の光景を見て非常にめんどくさそうにため息を付く。そのため息を合図に竜……ザラマンデルが襲い掛かるのだった。
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レイナはその場から大きく後ろに飛び退く。と同時にレイナの立っていた場所に大きな腕が通過した。その腕の持ち主はザラマンデルと言う大型の竜系統モンスターだ。その巨体と見ただけで怯えてしまいそうな顔は飾りではなく、レイナの立っていた場所は腕が通過しただけで大きく抉れる。当たれば一瞬で異界行き確実だろう。
後ろに回転しながら着地するレイナ。そしてその横にかなりのスピードでチョコボも近づく。レイナはチョコボに「隠れてろ」と言うとチョコボは首を横に振った。そして体を揺りかごを揺らす様に大きく動かし始める。するとチョコボの体から小さな光がザラマンデルに飛んで行き、接触。と同時に大きく【炎上】した。
『クェ?』
チョコボは驚くレイナを見ながら『どうだ?』とでも言うように鳴く。一方レイナは自分の相棒であるチョコボの異常さに驚きと共に呆れすら感じていた。薄々は感じて居たのだ。何となくだがこのチョコボが普通とは違うことに。キノコ岩街道の時以降常々思っていたことである。そして今目の前で明らかにチョコボは【魔法】を使った。その事実にレイナは驚きを通り越して呆れてしまったのだ。
「……頼りにさせてもらうぜ?」
『クェ!』
レイナの言葉にチョコボは大きく首を上げて答える。『任せろ』と言っているのだろう。それを見たレイナは少し笑い、目の前に居るザラマンデルを見る。どうやら先程のチョコボに寄る炎の魔法が直撃したことで怒っている様である。そしてレイナは「やるか」と言って大剣を取り出した。がそれは今まで使っていた大剣とは違った。
「黒鬼徹、久々の出番だぜ」
そう言うレイナの手に握られているのは【黒い大剣】。刀身も柄も全てが黒で統一されている。そして特徴的な部分があった。それは柄の部分に黒い【包帯】の様な物が巻かれていることである。その包帯の様な物は少し長いのか地面に向かって垂れていた。そしてレイナは柄の部分を左手で逆手に持ち、右手の親指と人差し指の間。そして腕の部分にその包帯を巻き始めた。
ザラマンデルは待ってくれる訳ではない。レイナに向かって襲い掛かるも、レイナは再び跳躍。今度は前方であり、ザラマンデルの背中辺りに落ちるとその背中を踏み台にもう一度跳躍をする。そしてその跳躍の時、レイナの右手には完全に包帯が巻かれていた。
「らっ!」
そして空中で逆さになったレイナは上に投げる様に持っていた大剣を一気に【投げた】。それは真っ直ぐにザラマンデルの背中に突き刺さり、レイナは投げた反動で少し上に上がる。そしてその右手にはザラマンデルの背中に刺さっている大剣と繋がっている包帯。
レイナは一気に右手を自分に向かって引っ張る。と、ザラマンデルの背中に刺さっていた大剣は勢い良く抜かれ、レイナに向かってくる。そしてレイナはそれを回転しながらキャッチすると地面に着地すると同時にザラマンデルに兜割りをする様に振り下ろした。
雷平原にザラマンデルの悲鳴がこだまする。だがそれで力尽きる訳ではなく、一気にその場で回転して尻尾をレイナにぶつけようとした。が、レイナはそれに気づくと尻尾の来る方向に大剣を盾にする様に突き刺した。そして右手で柄を持ったまま座り込む様に刀身の背後に入る。レイナの小柄な体が活かされ、刀身の後ろに完全に隠れたレイナ。と同時にそんなレイナの大剣に勢い良くザラマンデルの尻尾が当たる。が、刀身はビクともせず。レイナに被害は一切無かった。
レイナは大剣を抜く。と同時に大剣を投げ、尻尾の向こう側に刺さる様にする。と同時に自分も走り、ザラマンデルの尻尾の下を潜る。そして同じ要領で今度は首の部分、体の部分と大剣と自分を使って繰り返していく。結果出来たのは包帯によって身動きの取れなくなったザラマンデルである。ザラマンデルは何とか包帯を千切ろうともがいたり噛んだりする。その力は非常に強いが、包帯はビクともしなかった。そもそも包帯では無いのかもしれない。
「準備完了。っと」
レイナは大剣を上に一気に放り投げ、右手を勢い良く引っ張る。と、ザラマンデルに絡んでいた包帯はありえない位にするするとレイナの手に戻っていく。そしてそれと同時に空中に飛んでいた大剣が包帯に引っ張られてザラマンデルの体周辺を通過していく。それは稀にザラマンデルの体を切りつけ、レイナの手に戻る頃にはザラマンデルの体の殆どが斬られていた。
最後の抵抗とばかりにザラマンデルは火の息をレイナに向かって吐く。がレイナは迷わず大剣が手に戻ったと同時にザラマンデルに向かって駆け出していた。当然避けないレイナには火の息が命中する。そして火の息に飲まれる様にレイナは消え、
「終いだ」
ザラマンデルの視界に再び移る。と同時にその持たれた大剣が顔向かって勢い良く振るわれた。斬られたザラマンデルは天に顔を上げて大きく吼える。そしてその体がゆっくりと右に倒れ始め、最後には地響きを立てて地に伏した。
「ふぅ。……お疲れさん。助かったぜ」
『クェ!』
レイナの言葉にチョコボが元気良く返す。炎にレイナが包まれた時、無傷だったのはチョコボが炎属性の攻撃が一切聞かないように【バファイ】と言う魔法を掛けたからである。1度だけ炎属性の攻撃を無効化するその魔法が合ったからこそ、レイナは迷わず炎の中に突っ込めたのだ。常人なら魔法が掛かっていたとしても恐怖するが、レイナはその辺についてはどうやら慣れている様である。
チョコボが首をゆっくりとレイナに向かって下げる。レイナは何となく意味が分かり、チョコボの毛を優しく撫でた。と同時に大きな雷の音。チョコボは飛び上がってレイナの周りを走り回り始める。それを見てレイナは若干頭を押さえながら笑うのだった。
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「ここがマカラーニャの森か……目がチカチカすんな」
レイナは青く、それで居て綺麗な森の中へと足を踏み入れる。所々光っており、綺麗と思う反面。目が痛くなるという印象も与える場所。幻想的、神秘的と言った言葉が似合うだろう。
チョコボと共に並んで歩くレイナ。背後からは少し雷の音が聞こえるも、殆ど気にしない程度である。チョコボも一切恐怖を感じておらず、それどころか雷の鳴る場所から出れたことが嬉しい様で、レイナの目の前を喜びながら走り回っていた。
レイナの目の前に2つの分かれ道が出てくる。片方はマカラーニャの寺院に続き、片方は先代の召喚士がシンと戦った場所。ナギ平原へと続いている。召喚士ならば寺院へ言った後にナギ平原へと向かうのだが、レイナは召喚士では無い為寺院に向かう必要は無い。
「ほら、行くぞ」
喜ぶチョコボの横を通過するレイナ。チョコボも置いていかれると思ったのか、急いでレイナの後を追いかける。寺院へ向かう場合はマカラーニャの森を奥へと進まなければ行けない。しかしレイナの場合、ナギ平原。その方向はマカラーニャの森の横を通って行く形となり、言ってしまえば地形の淵を歩くのと一緒である。なのですぐにマカラーニャの森を抜けることが出来るのだ。
途中、十字路の道がレイナの目の前に現れる。しかし左側には人が立っており、その先がべベルであることをレイナは知っていた。何故なら昔、家族で住んでいた場所だからである。が、レイナはその方向には目もくれずに真っ直ぐ進んでいく。徐々に木が無くなっていき、最後には洞窟の様な場所を通る事になる。そして
「…………」
レイナは目の前の光景に絶句した。広がる平原。歩いて端から端まで歩くには何時間も掛かりそうなくらい広く、空から見ればレイナ等見えなくなってしまうだろう。
しばらくナギ平原の壮大さに驚くレイナ。しかし我に帰ると歩き始める。目的地は遥か遠くに豆の様に小さく見える旅行公司。そしてそこに向かい始めるが……いくら歩こうとも進んでいる気分には慣れなかった。
幻光河から雷平原とマカラーニャの森を一気に越えてきたレイナに取って、既に身体には限界が着ていた。小さいことも理由の1つに入るだろう。まだ身体が完全には出来ていないのかも知れない。歩いても近づかず、何時まで歩けば良いのかと少し絶望するレイナ。と、そんなレイナの頬に何かが触れる。
『クェ!』
「……あ、お前チョコボじゃん」
そこでやっとレイナは気づいた。ずっと乗って居なかったせいで忘れていたが、一緒にここまで来た生き物はチョコボ。人が乗ることも出来、人より何倍もスピードが出る。それで居てスタミナも人間の何倍もある。それに気づくとレイナはチョコボに「頼む」と言う。と同時にチョコボは鳴き、レイナを背中に乗せた。乗る時にしゃがむのは仕方の無い事である。そしてレイナは旅行公司にたどり着くことが出来た。
「ありがとよ。取り合えずここでしばらく過ごすことになる。暇なら休むなり散歩なりして来い」
『クェ!』
レイナはチョコボにお礼を言うと降りてその背中を叩く。チョコボはその言葉に鳴くと広い平原を走り始めた。どうやらミヘン街道の様な場所より何倍も広いこの平原を走り回りたかった様だ。
旅行公司のアルベド族に泊まりたいと伝えるレイナ。最初伝わらないと思っていたが、どうやらここのアルベド族は普通に話せる様で何事も無く泊まる予約を取ることが出来る。そしてレイナはその日、早めに休息を取るのだった。
「さて、今日明日には来ると思うんだよな~」
レイナは伸びをしながら広い平原を見る。チョコボはどうやら違うチョコボと仲良くなったのか、一緒に走り回っている。レイナはそれを見ながら旅行公司から出ると周りを見る。言ってしまえば何も無い広大な平原。何をしようも自由と言った環境でレイナがやることは……大剣を振るうことであった。
旅行公司から大きく離れ、周りには誰も何も無い場所に着いたレイナ。黒鬼徹を取り出し、包帯を手に巻くと前方に大きく投げる。当然投げられた刀身は大きく遠くに跳んで地面に落ちる……寸前でレイナは包帯を一気に引っ張って自分の場所に戻すと、そのまま握る事無く自分の周りを一瞬させる。もしも魔物や敵が居たのなら、今ので全方向を攻撃出来たことだろう。つまり今やっているのは包帯と刀身、2つで1つの黒鬼徹を使うための練習である。
レイナの練習で魔物が数匹集まるも、練習で振るわれた刀身が魔物を切り裂いて行く。因みに振るっているレイナは気づいて居ない様だが、魔物は現れては倒されて行くため、知らず知らずに平原を少しだけ綺麗にしていた。
「ふぅ……ん?」
黒鬼徹を握るレイナ。と、突然そんなレイナの周りが暗くなる。それは頭上に何かがある証拠であり、レイナが空を見上げるとそこにはそこまで大きくは無いが、旅行公司が使っている乗り物の2倍ぐらいの大きさはある乗り物が空中に浮いていた。それはレイナの頭上で止まると乗り物の一部が突然蓋が開くように開く。そしてそこから
「やっと見つけましたよ」
「……馬鹿」
リアラとココアが姿を見せる。が、その表情は険しい。どうやら非常に怒っている様だ。そんな2人が確実に怒っている光景にレイナは額に汗を掻きながらも無理矢理笑顔を作って「よう」と返すのだった。
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ナギ平原の旅行公司にはレイナ・リアラ・ココアの3人とチョコボの1匹が集まっており、置いてあったテーブルを借りて話をしていた。と言っても最初はレイナへの説教が中心であり、途中でレイナが寝てしまうという失態をしたが為にかなり長い間話が続いていた。
「そう言えば、貴女のお姉さん。結婚するそうですね?」
「……はぁ?」
そして長い話を終えて一時休憩を入れていた時、リアラが思い出した様に言った言葉にレイナは飲んでいた飲み物を手に持ったまま固まってしまう。それもその筈。突然姉が結婚すると言われれば驚くのも当然。レイナはゆっくりと飲み物をテーブルに置き、
「相手は誰だ?」
「……シーモア・グアド」
質問をすればココアが答える。そしてその答えにレイナは自分の記憶を遡り、キノコ岩街道であった【シーモア老子】と呼ばれていた男を思い出す。レイナ自身、シーモアについては殆ど知っていることは無い。だが、キノコ岩街道での出来事から余り言い感情を持っている訳ではない。
「ココア、場所。分かるか?」
「……行くの?」
「お姉さんの結婚式ですからね。気になるのも仕方ありません。参加は無理でしょうけど見るくらいなら出来るかも知れませんね。大召喚士ブラスカ様の娘の結婚式ですから。場所は……ベベル辺りでしょうか?」
立ち上がったレイナにココアが聞く。しかし既にレイナは2人が乗ってきた飛行船の近くに移動しており、それを見ながらリアラがココアに言う。例え離れていたとしてもレイナは姉……ユウナが気になるのだろう。結婚ともなれば尚更だ。ココアはリアラの言葉に「……探してみる」と言って飛行船に向かい、レイナと共に中に入る。それを見ながらリアラはチョコボに近づき、「貴方の場所もしっかり用意しましたよ」と言って飛行船に向かう。チョコボもその言葉に喜びの一鳴きをした後、飛行船の中に入るのだった。
ベベル上空周辺。そこでは聖ベベル宮を守護する竜……エフレイエと1艘の飛行船が隣り合い、激しい戦闘を行っていた。そしてその聖竜と戦っているのは……ユウナと共に居た旅の一行達だ。そしてそんな戦闘をしている場所から少し離れた場所にもう1艘の飛行船が飛んでおり、その戦闘をしている場所から距離を取りながら様子を伺っていた。
「あいつら……」
「知り合いですか?」
「いや、知り合いって訳じゃねぇ。唯、姉さんのガードだったのは確かだ」
「……ガード……何で戦ってるの?」
飛行船の中では戦っている旅の一行を見てレイナが驚いた様な表情になっていた。そしてリアラの質問にレイナは少し考えながら答え、ココアが尤もな疑問を聞いた2人は顔を見合わせて一気に真剣な表情になる。
今居る位置は聖ベベル宮の上空。そして恐らくこの下ではユウナとシーモアの結婚式が行われている。しかしユウナのガードはその結婚式の上空で聖ベベル宮を守る聖竜と戦っている。それはつまり聖ベベル宮に大きな危険があってでも行かなければ行けない理由があるという事。レイナとリアラはすぐに状況を予想し、理解した。
「どうやら向こうの戦闘は終わったようですね」
「……凄い」
リアラの言葉にレイナが旅の一行の飛行船を見れば、そこには先ほどまで居た筈の聖竜の姿は無かった。しかし探せばすぐに見つかる。旅の一行達によって倒された聖竜は空を飛ぶ力を無くし、下へと落ちていって居たのだ。聖ベベル宮を守る聖竜。それを倒す事は許されない事なのは当然だが、元々誰も倒されるとは思って居ないのだろう。それを倒した旅の一行にココアは思わず呟いてしまう。と、そうしている間に彼らは動いていた。
「どうやら結婚式に突撃するみたいですね」
「……無茶」
「ま、そうでもしないと止められないさ。ココア、出れる様にしてくれ」
「っ! まさか行く気ですか!?」
鎖を滑り、結婚式場に突撃していくのを見ながらリアラとココアは驚きと呆れを混ぜた様な顔をする。シーモア老子の結婚式だ。守備は万全だろう。突撃すればすぐに包囲されるのは少し考えただけでも当然分かる。しかし1人だけそれに気づいているのか居ないのか分からないものの、その結婚式場に飛び込もうとしている者が居た。リアラはレイナの行動に振り返る。そこには黒鬼徹を背中に背負い、右手に包帯を巻きながら開く場所の前で立っているレイナの姿。
「いけません! 止めなさい!」
「ココア、開けろ」
「……でも「開けろ」……了解」
リアラが止めようとする間にレイナはココアに開けるように言い、ココアは当然戸惑う。しかし少し強い口調でもう一度言われ、ココアはレイナの目の前を開いた。リアラは当然ココアに抗議するが、レイナは静かに振り返り。「ありがとよ」と言葉を残すと両手を開いて大きく飛び降りる。
旅の一行と違い、鎖も何も無いため唯落下し続ける。飛行船では映像を拡大して見ていたため、肉眼では雲に覆われて結婚式場は一切見えない。しかしレイナの耳に銃声が聞こえ、それは徐々に大きくなる。雲が晴れ、少しずつ近づく地面。囲まれている旅の一行と何かを言っているユウナの姿。すると突然シーモアがユウナに口付けをしようとする。そして鐘の音が響き……
「え……」
【2人の間に大きな剣が突き刺さっていた】。大きな剣……黒鬼徹が間に刺さったということはつまりユウナとシーモアが離れたと言うことであり、シーモアは邪魔をした者を探すために上を見る。と、既に見える位置にレイナが存在していた。
レイナは包帯を引き、黒鬼徹を引き抜く。そして黒鬼徹を掴まずに勢いのまま上へと放り投げた。それによってレイナの落下速度は急激に減少し、結果レイナは2人の間に着地する。そしてその時にシーモアに蹴りを仕掛け、シーモアはそれを下がって回避する。
鐘の音の余韻が響き、静まりかえっている式場。顔を下げたままレイナは空から降ってくる黒鬼徹を上を見ずに右手を上げるだけで掴み、少し回した後、顔を上げると同時に黒鬼徹をシーモア目掛けて突き出す。そしてニヤリと笑い、
「この結婚。親族として認めるわけには行かねぇからよ、邪魔させて貰うぜ?」
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「この結婚。親族として認めるわけには行かねぇからよ、邪魔させて貰うぜ?」
その言葉を最後に場は静寂に包まれる。背後に居る新婦の服装をしたユウナは目の前に立つレイナに驚き戸惑っており、ユウナのガード達は突然現れてシーモアに大剣を向けるレイナを見て驚き半分と共にユウナがキスをされそうになっている光景を目の当たりにしていたため、安心も感じていた。が、今の状況でそんな事を感じている余裕など当然無い。周りに居るのは全員敵。そしてそんな敵は全員銃などを持っているのだ。
「ほう、やはり貴女はユウナ殿の妹君。キノコ岩街道で見かけた時にもしやとは思いましたが、どうやら祝いに来ていただけた訳では無いようですね」
「祝う? こんな無理矢理な結婚式、テメェの仲間以外認めちゃ居ねぇよ。現にここに居るこいつらも、俺も、この馬鹿げた結婚式を止めに来たんだからな」
「無理矢理だなんてとんでもない。これはお互い合意の上での結婚であり、シンを「ごちゃごちゃうるせぇ」……」
「結婚しようとしてる。新婦の表情は悔しそうでその新婦の仲間は命を掛けて止めに来る。テメェがどう考えようが正当な結婚式じゃ無いのはゴブリンでも分かる話だ。だからよ」
レイナは上着の服の中に手を入れる。そしてそこから取り出したのは灰色のスフィア。
「打ち壊させてもらうぜ!」
その言葉と同時にレイナはスフィアを地面に叩きつける。すると衝撃を受けたスフィアから突然煙が吹き上がり、シーモアは自らが着ている服で口の周りを隠す。周りに居た兵士達も新婦が居る煙の中をむやみやたらに発砲するわけにも行かず、混乱し始める。
「アーロン! こっちは任せてあんたらはあんたらでどうにかしてくれ!」
「ふん。行くぞ」
「は? お、おい! 訳わかんないっての!」
「とにかくこの場を離れましょう。ユウナは……さっきの子が何とかしてくれるんですよね?」
煙の中からレイナの声が聞こえ、名指しで言われたアーロンは大剣で目の前に居た兵士達を一振りで一掃すると走り始める。その背中はまるで『付いて来い』とでも言っているかの様で、青年が混乱するも女性の指示で全員がアーロンの背中を追って走り始める。女性は確認のためアーロンに聞けば、「さぁな」と答えるだけでしっかりとした答えは返ってこなかった。が、何となくアーロンの余り変わらぬその表情は少し笑っている様に見えるのだった。
煙の中、レイナは背後に居たユウナの手を掴むと兵士達の居る階段とは真逆の方向に走り始める。その先は行き止まりであり、塀が無いその向こうは遥か下にベベルの街が広がる光景。逃げ場所など無いに等しい。
「あ、あの「しっかり捕まってろよ」え?」
混乱しながらも話かけるユウナ。しかしその言葉を遮るようにレイナは言うと何と塀のないその向こうへと片腕にユウナを抱えながら大きく飛び降りる。そして直ぐに持っていた黒鬼徹を力強く壁に突き刺す。少し落下のスピードは落ちる物の、擦れ続ければ黒鬼徹は抜けてしまう。しかし直ぐに包帯で引っ張り、また再び突き刺す。そんな行動を繰り返して居る内に途中で落下は止まり、レイナはユウナを掴んだまま片手で黒鬼徹を持ってぶら下がる状態となる。
「ふぅ~」
「……え、えっと。助かりましたけど……どうやってここから降りるんですか?」
「あ」
レイナはユウナの言葉で思い出した様に言う。今現在レイナとユウナは壁に黒鬼徹を突き刺してぶら下がっている。しかし今居る位置はまだかなり地面から離れており、このままではぶら下がったままであった。そしてレイナは……逃げ出した後のことは一切考えていなかった。
と、突然2人を突風が襲い始める。ユウナはレイナに抱えられた状態のため、落とされないかが非常に心配であった。だがレイナは何故か怯えるどころか少し笑っており、ユウナは風の発生源を見る。そこにはレイナが乗っていた飛空挺が飛んでおり、その小さな甲板部分が開くと中からリアラが「大丈夫ですか!」と大声を出していた。
「まったく、無茶をし過ぎです」
「悪かったっての。……まぁ、結果何とかなったから良いじゃねぇか」
飛空挺内でリアラに叱られながらもレイナは混乱しているユウナを見る。そしてしばらく考えた後、ユウナに話しかけずにココアに近づいた。
「リアラ、ベベルにもあるのか?」
「……ええ」
「だそうだ。どうせあそこで俺達は止めるんだ。今回ばかりは下ろしてやってくれ」
「……良いの?」
ユウナを他所にリアラに何かを聞き、今度はココアに頼むレイナ。ココアに確認されるが、レイナは「あぁ」と答えるとココアの座っている操縦席から離れる。そして……違う部屋に入ろうとした。しかしその行動を取ろうとした時、リアラがレイナを呼び止める。唯名前を読んだだけ。しかしそれだけでレイナは何が言いたいのか分かり、振り返るとユウナに視線を向ける。
「……祈り子の間には送ってやる。そっからは自力で逃げろ」
それだけ言うとレイナは今度こそ違う部屋に入ってしまう。そしてそれを見たリアラはため息を付くと、ユウナに視線を向けて「直ぐに到着しますよ」とだけ残してレイナと同じ部屋の中に入ってしまう。ユウナは一方的に言われただけでほぼ会話が出来なかった事や行き成り『送り、後は自力で逃げろ』と言われた事に呆然としてしまう。
レイナが入った部屋は仮眠室。ベッドの様な物が3つ程用意されており、端には藁が沢山置かれていた。そしてその中心にはチョコボが静かに座っている。レイナが入ってきた瞬間立ち上がったチョコボだが、レイナが「そのままで良い」と言えばチョコボは再び座り込む。そしてそんなチョコボに近づき、レイナはその毛を撫で始める。と、入ってきた扉からリアラが入ってくる。
「レイナ。せっかく助けたというのに何故冷たくするんですか?」
「別に助けた訳じゃねぇ。ああ言う無理矢理何かを強制する事が嫌いってだけだ。だから……ぶっ潰しただけで別に助けるためじゃねぇ」
「祈り子の間まではいけませんが、近くになら直ぐにいけます。それはつまり直ぐに彼女はこの船を下りると言うことです。……話さなくて良いのですか?」
「……今更何の話をするんだよ? それにどうせ俺達は止める為にぶつかる。嫌でも話すことになるさ」
レイナはそれだけ言うとチョコボを背に寄りかかり、「少し休ませてくれ」と言うと瞳を静かに閉じる。リアラはそれを見た後、ため息を付くとベッドの1つに座り込んだ。疲れていたのだろう。レイナは目を閉じて直ぐに眠りについてしまう。そしてそれを見ながらリアラは再びため息を付き、呟く。
「止めるならば送らなければ良い。それでも送るのは彼女の仲間が捕まる可能性があるから。貴女は彼女が大切にしていることを理解し、優先しながらも関わろうとしない……何時まで続けるつもり何ですか? レイナ」
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「いっ!」
突然レイナの身体に衝撃が走り、その衝撃でレイナは目が覚める。チョコボに寄りかかっていたとは言え、それは背中のみで足などは硬いため痛みでレイナは直ぐに目が覚める。
「どうやら付いたようですね」
「……もう少し静かに出来ねぇのかよ、全然眠ってねぇ」
レイナは文句を言いながらもリアラの目の前を通過して部屋を出て行く。例え何かを言っていたとしても気になるのだろう。リアラは少し微笑むとレイナの後を追う様に部屋を出る。既に出入り口の場所は開いており、その先には穴。少し進めば恐らく祈り子の間へと通じているのだろう。ユウナは開いた出入り口で立っており、部屋から出てきたレイナを見て驚く。が、レイナは少し見るとココアの方。つまり出入り口とは逆の操縦席へと向かった。
「素直になれないだけですよ。……お気をつけて」
「あ、はい。その……ありがとうございます」
去っていくレイナに少し寂しそうな視線を送るユウナ。そんな姿を見て同じ部屋から出てきたリアラが首をやれやれと言った風に横に振るとユウナを見て言う。突然の事に驚いた後、ユウナはお礼を言って外へと出て行った。そして穴の中に入っていくユウナ。レイナ達はそれを確認すると浮上しようとする。だがユウナが去って行った穴はどうやら2つの道があって様で、違う道から来た兵士達が同じ穴から姿を現す。
「! 乗り込まれます!」
「させるか!」
穴から出てくる寸前でその存在を確認したリアラ。兵士達が穴から出たと同時に既にレイナは動いており、操縦席から出入り口に一気に走ると黒鬼徹を横に振るって兵士達を吹き飛ばす。そして後ろを振り返り、ココアに向けて「動かせ!」と大声で喋る。ココアは驚くも、直ぐに飛空挺を動かし始める。しかしその間にも兵士達は穴から続々と姿を現し、銃で飛空挺を撃とうとする。レイナはそれに気づけば真っ先にその行動を取る兵士を攻撃し、黒鬼徹の大きさや重さを生かして吹き飛ばす。
「そろそろ飛びます! 早く!」
「あぁ! !?」
後ろに振り返ろうとした時、兵士達の背後からロボットが現れる。片足を上げているロボットと両手が大砲の様になっているロボット。レイナは後者のロボットを見て固まる。もし飛び立てたとしても砲撃されてしまえばそこまで頑丈な飛空挺では無いため、落ちる可能性がある。そしてそう考えた時、レイナの行動は早かった。
「リアラ! ココア! 合流場所は分かるよな?」
「! 何をする気ですか!?」
「……それも、分かるよな? ココア、行け!」
レイナの言葉にリアラは真っ青になった後、聞くがそれを振り返らずに答えるとココアに言う。戸惑うココアだが、彼女も現状については理解していた。そのため、レイナの言葉に苦痛な表情をしながらも飛空挺を飛び立たせる。ロボットが砲撃をしようとするが、レイナは兵士を一気に吹き飛ばすと一瞬で距離を詰めてロボットを切る。爆発しながら倒れ付すロボットだが、1体では無い。
その後、ココアとリアラの乗った飛空挺が完全に離れるまでレイナの【飛空挺死守戦】は続くのだった。
結果として飛空挺を守る事に成功したレイナ。しかしその代償に彼女はベベルの兵士に捕まってしまった。心の中で『格好悪ぃ』と思いつつも兵士に連行されるレイナ。武器などは一切没収されず、レイナはしばらく歩いた末に鳥篭の様な物が沢山ある場所に連れてこられる。そしてその1つの中に入れられてしまった。
「結局お前も捕まったか」
「何だよ、文句あるか?」
「行き成り喧嘩かよ!」
しかも何とその中にはアーロンと1人の青年が入っており、レイナが入ってくるや否やアーロンが少し笑いながら言う。そしてそんなアーロンを見てレイナはイラついた様に返し、青年がそんな2人を見ながら言う。どうやらユウナのガードである旅の一行は既に捕まって居る様で、雰囲気からしてユウナも捕まっているとレイナは直ぐに感じる。
「ふぁ~。ねみぃ」
「緊張感無いっすね。……お前、ユウナの妹……なんだよな?」
「あぁ? まぁな」
座り込むと欠伸をするレイナ。それを見て青年は少し悩みながら質問する。レイナは唯肯定するだけで特に何かを答えることは無かった。が、どうやらそれで終わらせることは出来ないようで
「何か、性格間逆っすね……聞いてた感じとは全然違うんだよな」
「ユウナの覚えているこいつと今のこいつはまったくの別人だろうな」
「色々あったんだよ。昔みたいじゃ生きて行けなかったってだけだ」
「……若いのに苦労してんだな」
「余計なお世話だ」
3人で会話をする。途中でレイナは再び欠伸をし、「少し寝る」と言って眠ろうとし始めた。余りにもマイペースなレイナに青年は呆け、アーロンは再び一瞬だが笑う。そしてレイナはゆっくりと目を瞑ろうとし
「そう言やお前、名前は?」
「ティーダっすよ」
「ティーダね……ま、覚えとくよ」
そう言うと今度こそ目を瞑ってしまう。ティーダはアーロンを見ながら「良いのか?」と聞くが、アーロンは「放っておけ」と答えるだけ。レイナはそのまま少しの間、今度こそ眠るのだった。
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どれくらい経ったのか眠っていたレイナには分からない。しかし彼女は突然起こされ、今現在何処かへ連れて行かれようとしていた。ティーダとアーロンは近くには居らず、居るのはベベルの兵士ばかり。と、レイナはしばらく歩いた末に小さな部屋の様な場所に入れられる。そこには……水溜りがあるだけであった。
レイナは水溜りの目の前に移動させられる。そして背中に銃を突きつけられながら、その銃で背中を1度押された。つまり、『入れ』と言う意味なのだろう。レイナはため息を付くと息を吸い、水の中に飛び込む。
水の中は上からでは分からなかった物の、かなり広い様で潜れば奥に進めるのにレイナは気づく。上に上がる訳にも行かないため、レイナは奥へと泳いで見ることにした。1本道をしばらく泳ぎ、やがて分かれ道に出る。が、その道の片方は大きな檻の様な物で封鎖されていた。と、突然レイナを大きな水の流れが襲う。レイナは流されながらもその方向を見る。
(おいおい、マジかよ!)
レイナが見たその方向には……ゾンビ化したベベルの聖竜、エフレイエが存在していた。レイナは心で悪態を付きつつもそれに気づくとすぐに黒鬼徹を取り出す。そしてエフレイエが襲ってくるのをギリギリで避け、その身体に一撃を叩き込む。しかしゾンビ化しているせいか、痛みの類を感じている様ではなかった。
エフレイエが大きくその場で回転する。地上等では何も無いその行動も水の中では水が大きく動き、レイナを大きく吹き飛ばしてしまう。だがレイナはそれを流されると同時に回転し、壁に近づくと水の来る力を利用して壁に立つ。そしてエフレイエの回転が止まり、水の力が弱まると同時に足に力を入れて壁を蹴る。水の中とは言えかなりの速さでレイナはエフレイエに近づく。持っている黒鬼徹を頭上で回しながらエフレイエに近づき、すれ違い様に一撃。前に回転して反対の壁に立てば同じ様に一気に距離をつめて一撃を加える。
(……まだ終わりそうに無いか?)
レイナが思うと同時にエフレイエがレイナを探し始める。モンスターには見られるだけで危険な存在も居る。レイナは自分を見ようとしている事に気づくと攻撃を止めてエフレイエの視線から逃れるために泳ぎ回る。と、周りの壁の所々が鉄ではなく【石】になっているのにレイナ気づいた。どうやら睨まれてしまえば石になってしまう様だ。もしも水の中で石になってしまえば命は無いだろう。
(やっかいだな……!)
泳ぎ回りながら相手の行動を伺うレイナ。と、開いていたもう片方の道からティーダとユウナのガードをしていた2人が泳いでくるのが目に映る。ティーダが前に出て泳いでおり、エフレイエは現在獲物を睨むために活動中。レイナはすぐにその場から移動すると近づいてくるティーダに接近する。エフレイエがティーダの存在に気づくのはほぼ同時であった。
エフレイエがティーダを睨む。が、その前にギリギリでレイナはティーダに接近すると蹴り飛ばしていた。そしてその蹴りを利用して自分もその位置から離れている。突然蹴られたティーダはレイナに気づいて怒ろうとするも、そのレイナの背後には自分達が倒したはずのエフレイエの存在。再びレイナを見ればエフレイエを指差し、今度は自分の目を指差し、最後に石になっている壁を指差す。水の中のため、ジェスチャーで『あいつに・見られれば・石になる』と伝えているのだ。ティーダは頷き、レイナが残りの2人を見れば2人も頷いた。そしてエフレイエに大きく泳いでしっかりと見られない様にしながら近づく4人。レイナは大剣。ティーダは剣。ユウナのガードである2人の内、バンダナの男はボールを持ち、金髪の少女はグラブを構える。
レイナは全員に見えるように自分を指差した後、エフレイエを指差し、両手を広げてエフレイエを指差す。全員が頷けばレイナは泳ぎながらエフレイエに近づき、その身体に一撃を加える。エフレイエは痛みは感じて居ない様だがその攻撃でレイナの存在を認識する。が、認識したと同時にその身体に今度は一斉に攻撃が加えられた。流石に混乱したエフレイエ。しかしその間にレイナはエフレイエの尻尾近くに移動しており、間髪居れずに黒鬼徹をその尻尾に刺すと泳ぎながら身体を切りつつ一気に頭の天辺まで泳ぐ。そして黒鬼徹を大きく上に上げると、そのまま今度は振り下ろす。
大きく苦しみ始めるエフレイエ。その身体が徐々に薄くなり、幻光虫が身体から出始めるとしばらくした後にその姿を水の中から消滅させる。レイナは黒鬼徹を大きく頭の上で回した後、しまうと3人に近づく。金髪の少女がティーダとバンダナの男にハイタッチをしており、レイナの存在に気づくと同じ様に手を差し出す。レイナは迷った後、そのハイタッチに応じるのだった。
「ふぅ~。やっと出れたぜ」
泳ぎ続け、やっとの事で外に出ることが出来るレイナ。ティーダ達3人も外に出ており、すぐ傍にはユウナ達の姿があった。そしてそれに気づくとレイナは嫌そうな顔をした後、ため息を付く。と、そんな全員の目の前に誰かの遺体を持ったシーモアとベベルの兵士の姿があった。
「……キノック」
放り投げられる遺体。その姿にレイナは見覚えがあった。キノコ岩街道での作戦の際にアーロンと親しそうに話をしていた人物だ。アーロンはその姿を見て無表情にシーモアを見る。いや、睨みつけていた。そして全員がシーモアと戦うために構えるが、ここはベベル。シーモアに加勢する存在ばかりいるこの場所で戦うのは危険だろう。そして何よりもシーモアはかなりの魔法の使い手だ。
シーモアはキノックの死を【永遠の安息】と言い、その後にこの世界の全てに安息を与えると言い出し始める。そしてその為にはユウナが必要であり、最後に言い放った。【ユウナの力で自分がシンになり、スピラの全てを壊して救う】と。
それを聞いていたティーダは怒りを現わにしながら向かっていこうとする。が、それと同時にユウナのガードであるロンゾ族の青年が前に出るとシーモアの身体に槍を突き刺す。確実に刺さった槍。しかしシーモアは痛がるそぶりも見せずに「目障りな」と言う。そして
「ならばお前にも永遠に安息をくれてやろう」
その言葉と同時にシーモアは槍を身体に刺したまま持っていた杖を掲げ始める。と、背後に居た兵士。そしてキノックの死体が幻光虫となってシーモアの身体を取り巻く。と同時にシーモアの姿が変わり始め、人の姿では無い【異形】に姿を変えた。全員がその姿に戸惑っている中、
「行け!」
「でも!」
ロンゾ族の青年が吼えるように言う。その言葉にユウナは戸惑いながらもここに残ろうとする。だが今度はアーロンが同じ様に「走れ!」と言い、ティーダが抗議をするもアーロンは大剣を前に向けながら再度言う。選択している余地など無いのだ。
ロンゾ族の青年はユウナのガード。この場に居る誰よりもユウナを守る存在であり、狙われているのはそのユウナ自身。ガードとして当然の行動をしているのだろう。だが仲間を置いて逃げると言う行動をユウナは中々起こせない。と、そこでずっと黙っていた存在……レイナが我慢の限界に達した。
「あぁ、もう! 迷ってる暇があるとでも思ってんのか! とっとと逃げろっての! それともここで全員で死にたいのか!」
「そ、そんな訳「だったら!」!」
「だったら仲間を信じて逃げろ。それが今、あんたが一番出来る行動なんだよ!」
ユウナはその言葉を聞いてロンゾ族の青年を見る。彼は頷き、ユウナは「キマリ、お願い!」と言うと仲間達と共に走り出す。が、その中にレイナの姿は無かった。
「お、おい! 逃げるんだろ!」
「あぁ、あんたらはな」
レイナはバンダナをした男の言葉にそう返すと黒鬼徹を取り出し、右肩に乗せながらロンゾ族の青年……キマリの横に立つ。キマリは「お前も逃げろ」と言うが、レイナは「断る」と言うと黒鬼徹をシーモアに向ける。
「ストーカー野郎はこの手でぶっ潰したいからな」
「ほう、たった2人で私を倒せるとでも?」
「……逆に聞いてやるよ」
レイナは黒鬼徹を頭の上で回し、再び肩に乗せる。そしてその瞬間、シーモアとの間を一瞬で詰めて黒鬼徹を振りかぶるレイナの姿。シーモアはすぐに後ろに回避することでその攻撃を避ける。が、異形となった姿の下部分にあった袖は少し切れていた。何時もの余裕そうな表情から少し驚いているシーモア。槍を構えていたキマリもその速さに驚いている。そして目の前の少し驚いているシーモアを見ながらレイナは黒鬼徹をまた肩に乗せ、ニヤリと笑う。
「お前が俺に勝てるとでも思ってんのか?」