【完結】FFX もう1人の物語&Re:FFIX 帰る場所を求めて 作:ウルハーツ
7
リンドブルム
隣国ブルメシアは謎のとんがり帽子を被った軍団によって攻められ、殆ど壊滅状態にある。若い兵士はそれを言い残して息絶えてしまった。彼の言葉を受けたシド大公はブルメシアを助ける為の準備に取り掛かり始める。そんな中、赤い服を着たネズミの女性はそれを待っては居られないと自ら出向く事を決めた。ブルメシアが彼女にとって、故郷であったが故に。そして彼女と知らない中では無いジタンを始めとした面々も協力すると言い始める中、レイナはエーコの傍に立っていた。
「大丈夫か?」
「……うん」
初めて人が死ぬ姿を目の当たりにしたエーコは普段の元気な様子を見せず、少しだけ怯えていた。彼らが話を続ける中、レイナはここから離れる事を決意する。元々この場において自分達は部外者なのだ。聞きたい事が聞けた以上、長居する理由は何処にも無かった。
文臣を通して退出の許可を貰った2人は真っ直ぐに宿へ向かった。未だに何時もの元気を出せないエーコから離れず、レイナは彼女の様子を伺いながらも今後について考え始める。
もうこの世界がスピラで無いとレイナは確信した。自分の居た世界とは全く違う歴史を歩んで来た世界。シンが最初からいなかった世界。普通ならばありえない話だが、今までの出来事が全てそれを証明していた。……となれば、彼女がするべき事は1つ。『元の世界へ帰る為の方法を探す』、だった。
「ねぇ、レイナ。あの人は、死んじゃったのね」
「あぁ。……エーコ。旅を続けるなら、これからもあんな光景を目にする事はきっとある。そして、自分や傍にいる奴が同じ事になるかも知れない」
「!」
「今からならまだ帰れる。それでも、着いて来るか?」
『急いで考える必要は無い。今日はもう休もう』。そう続けたレイナはベッドへ横になった。エーコは彼女の問いに一緒に居たモグを外へ出して、同じ様にベッドで横になりながら考え始める。
突然部屋へノックの音が響いた。エーコは眠っており、音で目を覚ましたレイナは扉を開ける。……向こう側に立っていたのは玉座の間で見た美しい女性と、以前道案内をした騎士の男性であった。
「突然の来訪、申し訳無いのである!」
「もう少し声の大きさを下げてくれ。連れが寝てるからな」
「むっ。それは失礼した」
「……何の用か知らないが、取り敢えず外で話すぞ」
レイナはそう言って部屋へエーコを残して宿の外へ。まだ夕方に差し掛かった頃のリンドブルムは狩猟祭の後という事もあり、賑やかだった。
「で、何の用だ?」
「実はある御方をアレクサンドリアへお連れしたいのである!」
「アレク……? 悪い、俺はあんまり地理に詳しく無くてな。何処だ、そこ」
「ここ、リンドブルムとは違う国なの。国境を超えた先にあって……」
「理由は言えない。しかし大事な御方なのだ」
「……それを俺に言う理由は? 肝心な意味が分かんないんだが」
「其方には護衛を頼みたいのである! 最初は子供だと思っていたが、狩猟祭での戦い。実に見事であった!」
「スタイナー! 余計な事言わないで」
「? はっ! 姫さ……ダガ―殿、申し訳ありません」
「……」
必死に隠しているつもりなのだろう。しかし最後の会話を聞いて女性が何処かのお姫様である事はレイナにもすぐに察しがついた。そしてそんな大事な人物を何故自分達の様な素性も分からない者と共に守ろうと思ったのかも。
「(要は子供に見られてるって訳か)」
エーコは正真正銘の子供だが、レイナは幼少期に真面な食事を取らなかったが故に成長しなかっただけで既に青年と言える年だ。しかし見た目の印象はどう足掻いたところで強気な子供でしかない。そして狩猟祭での戦いを見た事で実力があると知り、使えると思ったのだと。
「ともかく、協力をお願いしたいのである!」
「……」
勝手な予想をしたものの、外れているとは思えなかったレイナは受け入れるべきか悩む様に腕を組んだ。すると、女性が一歩前へ出て口を開く。
「アレクサンドリアには様々な歴史や地理について記された本が城に数多くあるの。学者も沢山居るから、そこでなら貴女の知りたがっていた『スピラ』。『シン』について知れるかもしれない」
「!」
スピラとシンについて知る必要は無かった。何故ならそれはレイナに取って知っている事が当たり前だから。しかしこの国に学者や知識が集まった場所は余り見受けられない。もしかすれば、何か帰る方法の手掛かりが見つかる可能性はある。女性の言葉を受けて、レイナは組んでいた腕を解放した。
「分かった。あんたのガードになれば良いんだな?」
「ガード?」
「あぁーっと、俺の居た場所では誰かを守る者の事をそう呼んでたんだ。で、今回はお姫様であるあんたを守るからあんたのガードって事」
「なっ! 何故ダガ―殿が姫だと分かったのだ!?」
「あんたら、分かり易いんだよ」
「ありがとう。もうばれてしまっているのなら、隠す必要も無いのね。……
「アレクサンドリア、プルート隊隊長。アデルバート・スタイナーである!」
「レイナだ。……すぐに出るのか?」
「出来れば、早い内に。ですがお連れの子が……」
「心配しなくても平気よ!」
自己紹介をする中、ダガ―の言葉に返事をしたのは宿から飛び出て来たエーコであった。何時もの天真爛漫な様子を見せながらレイナの元へ駆け寄るエーコを前に、驚きながらもレイナは振り返る。
「大丈夫なのか?」
「えぇ! ちょっと休んだから問題無いわ!」
「そうか。それで、どうする?」
「ついて行くに決まってるでしょ! 元々私は、レイナと一緒に居たくて家を飛び出したんだから! それにもし何かあっても、エーコがレイナを守ってあげる!」
「はは、そりゃ頼もしいな」
もう吹っ切れた様子のエーコを前に、レイナはそれ以上の心配は無意味だと理解する。そして改めてエーコを交え、自己紹介をした4人はその日の内にリンドブルムを発つ事になるのだった。
国境の南ゲート。
そこは国境を超える為に通らなければいけない場所であり、そこへやって来たスタイナーは巨大な袋をぶら下げていた。そしてそんな彼の傍でエーコと共に歩いていたレイナは心底嫌そうな表情を浮かべ続ける。
「ちょっと待った。何だお前らは」
「先日破損した南ゲートの修復作業員募集に応じてやってきた」
「そいつは助かるが……後ろのは?」
「くっ…………ねぇパパ! お腹空いた!」
「私もお腹が空いたわ!」
「済まぬ、もう少し待ってくれ」
「子連れなのか?」
「妻に先立たれ、頼れる者も居なかったのだ。迷惑は掛けないと約束しよう」
ダガ―達がリンドブルムへやって来るまでには色々な出来事があった様で、現在彼らはアレクサンドリアにおいて手配中の身であった。特に『王女誘拐』となっているため、ダガ―は顔を晒す訳にはいかない。しかしゲートを超えなければ、目的の場所へ辿りつけない。……そこで通り抜ける方法としてする事になったのが、この手段であった。
同情されながらも警備兵に促されて荷物の確認をする事になったスタイナーは、2人と共に袋を置いて数歩下がる。すると袋を確認していた兵が悲鳴をあげた。……その袋の中に入っていたのは大量のギサールの野菜をピクルスにしたもの。その臭いは鼻が曲がる程であり、それをスタイナーは大好物であると説明する。レイナとエーコは一度それを食べて咽ているため、その強烈さを知っている。故に兵はそれ以上調べようともしなかった。
「何とか無事に通れた様であるな」
「…………」
「レイナ、大丈夫?」
無事に中へ入る事が出来たスタイナーは人気のない場所を探し始める。そんな中、大切な物を失った気がしたレイナは無言で虚空を見つめていた。そしてその間に人気のない場所を探し、人払いもしたスタイナーがレイナ達を呼ぶ。すると入り口に居た警備兵がスタイナーに声を掛けた事で空気が一瞬凍った。しかし兵の目的は国境越えに必要なゲートパスを渡す事であり、臭いから逃げる為に距離を取って床へ置いてから去って行く。
何だかんだで改めて無事に警備兵を乗り越えた3人は、人気のない場所で周囲に人が来ないか見張りながらギサールの野菜のピクルスが大量に入った袋を物陰へ隠す。するとその袋が動き始め、遂には結び目からダガ―が顔を出した。
「ふぅ……この臭い、鼻が可笑しくなってしまいそう」
無事に着替えも終えた事で歩ける様になったダガ―へスタイナーが「姫様」と呼びながら敬礼をする。しかしそんな事を人前でされてしまえば目立ってしまう。故にダガ―が注意する中、未だにレイナは無言だった。大分傷は深いらしい。
「これが『れっしゃ』なのね!」
ゲートを進んだ先で見えた大きな乗り物、ベルクメアを前にエーコが嬉しそうに飛び上がる。そして特に問題も無いままに乗り込む事が出来た4人は動き始めた列車から外を眺めた。
「レイナとエーコは2人で旅をしているのね」
「あぁ。つってもそんなにまだ長くないけどな」
「ご両親はどうしているのだ?」
「お爺さんが居たけど、今はもう居ないの」
「親父もお袋も死んでる。一応姉さんが居るにはいるんだが……何処で何してるのかは知らねぇ」
「それは……申し訳無い」
「2人は姉妹、じゃないのね」
「あぁ」
「それじゃあ、どんな関係なの?」
「エーコとレイナは仲間よ!」
ダガ―は殆ど城の外へ出た事が無かった。それはお姫様故に仕方の無い事。しかし紆余曲折を経て城を飛び出した彼女は、同性の知り合いと呼べる者がこれまで殆ど居なかった。レイナとエーコが年下という事もあったのだろう、話がしたくて仕方が無い様子である。
それから列車を降りるまで、ダガ―の質問攻めは続く。
8
国境の南ゲート
列車に乗って辿り着いたのは山頂の駅だった。そこは丁度国との境目であり、列車に乗り換える事でアレクサンドリア領へと入る事が出来る。城から出た事の無いダガ―や、そもそも知らないレイナとエーコは余り分からないが、スタイナーだけはアレクサンドリア領を見ただけで分かる事が出来た。故に彼の言葉でそれを眺めながら、乗り換えるべき次のベルクメアを待つ事となる。
「一応、待合室があるみたいだな」
「うむ。ここまで大変だった。少しダガ―殿も休憩した方が良いかと」
「そうね。そうしましょう」
時間が来るまで待機する事になり、待合室へ入った4人。そこで南ゲートの名物である『まんまるカステラ』の存在を知ったレイナはエーコの分も合わせて購入する。
「あんたらはどうする?」
「むっ。市民に支払わせる訳にはいかん。ダガ―殿の分は自分が購入するのである!」
「……めんどくさい奴だな」
美味しそうにモグと分けながらエーコがカステラを食べる横で、レイナがした質問に前へ出たスタイナーが言いながら購入する。そんな彼の姿に思わず思った事を口に出しながらも、レイナはエーコと同じ様にカステラを堪能する。そんな中、聞こえて来たベルクメアの機械音と騒がしい人の声。ダガ―はその声が気になった様で待合室から出て行き、それと入れ替わる様に入って来た男2人の姿を見てスタイナーが騒ぎ始めた。
「何故お前達がここに居るのだ!」
「……何ずらか、このブリキのおもちゃみたいなのは」
「ほら、お姫様と一緒に居たプルート隊の」
髭ずらの男と魔物の様な顔をした男を前にスタイナーが構える中、戻って来たダガ―が彼らと会話を始める。その様子を見れば誰でも4人が知り合いなのだと分かるため、レイナは黙って様子を伺い続ける事にした。少し聞いた覚えのある語尾と共に、時折聞こえて来る『盗賊』『ジタン』という言葉。察するに彼らは盗賊で、ジタンと関わりがあるのだろう。
「ふぅ。美味しかった!」
「クポ~!」
カステラを食べ切ったエーコとモグが満足そうに告げる中、レイナも最後の一口を放り込む様に口の中へ。すると、待っていたベルクメアが来たというアナウンスが響き始める。……どうやら髭ずらの男と魔物の様な顔をした男はこの場で別れる様であり、後者の向かう先は途中までダガ―達と同じ様であった。
知り合いとの再会に水を差す様な真似はせず、エーコと適当に話をしながらアレクサンドリア領行きのベルクメアへ乗り込んだレイナ。変わらずにダガ―が一緒になった男……マーカスと話をする中、それを面白く無さそうにスタイナーが警戒しながら眺めていた。
「っと。なんだ?」
「急に止まっちゃったわ!」
突然、ベルクメアが急停止してしまう。乗っていた者達が一様に困惑する中、車掌が様子を見に外へ出て……血相を変えながら中へ戻って来る。
「と、とんがり帽子を被った化物が前に!」
「!」
「あ、おい!」
「姫様!」
「何が起きたッスか!?」
車掌の言葉を聞いてダガ―が飛び出し、それを追ってレイナ、エーコ、スタイナー、マーカスの順で追い掛けてベルクメアの外へ。
『ニンム、だっかン。ガーネット、ヒメ』
「こいつは……」
そこに居たのはボロボロのとんがり帽子を被った黒魔導士の様な存在だった。しかしコンデヤ・パタで出会った黒魔導士とも、リンドブルムで出会った黒魔導士とも明らかに違う。壊れた機械の様に言葉を発しながら、それでも近づいて来るその様は狂気すら感じられた。
「どうして、どうして貴女達はそこまでして私を!」
『だっかン。ジャマモノ、は……ハイ、ジョ』
「話が通じる相手じゃ無いッス!」
「来るぞ!」
「姫様をお守りするのだ!」
襲い掛かって来るそれを前に、全員が武器を構えた。
何度も鈍い音が鳴り響き、それは地面へ倒れ伏す。エーコがそれに近づいて「もう動かないみたい!」と告げる中、ダガ―は浮かない様子で俯いていた。
「あれ、あんたらの知り合いか?」
「我らへ襲い掛かって来たのだ。何とか退けはしたが、その際に南ゲートを破損させてしまった」
「故障の原因ってお姫様達だったんスね」
レイナの質問へスタイナーが答えると、マーカスが続ける。その時、エーコがレイナ達を見ていた背後で微かにそれは再び動いた。
「っ! エーコ!」
「? きゃ!」
『ジャマモノハ、ハイジョ!』
「いかん、間に合わん!」
最後の力を振り絞る様に立ち上がったそれは、目の前で驚き尻餅をついてしまったエーコへ持っていた杖を振り下ろそうとする。誰もが動こうとするも、間に合わない。そんな状況にエーコは何も出来ず、咄嗟に目を閉じた。
『自分や傍にいる奴が同じ事になるかも知れない』
リンドブルムでレイナに言われた言葉が頭の中に蘇ったエーコ。そして無情にも振り下ろされた杖は……エーコへ当たる寸前、謎の光によって阻まれる。
「なんだ、今の……」
「お主、今何を」
「話は良いから助けるっスよ!」
レイナは自身を手を見て困惑し、スタイナーが驚いた様子で見続ける中。マーカスの言葉で我に返った2人が同時に駆け出した。そしてマーカスと共に、3人で振り下ろした剣の一撃は今度こそ相手を仕留める。完全に沈黙したのを見て、急いでエーコの元へ駆け出したレイナは彼女の前へしゃがみ込んだ。
「怪我は無いか?」
「う、うん。ごめんね、エーコがもう動かないって思っちゃったから」
「確認をしなかった俺も悪い。怖い思いをさせて、済まなかったな」
レイナは帽子越しにエーコの頭を撫でながら謝る。他の面々もエーコの無事を確認出来て安心した後に、障害も無くなった事で再びベルクメアへ乗り込む事にした。そしてダガ―とマーカスが話をする横で、レイナは自身の手を眺めていた。
「先程お主が出したのは、自分には魔法の様に見えたのである」
「俺もそんな風に見えた。けどよ……俺は魔法があんなしっかり使えた事なんて一度も無いんだ。それに、見た事も無い魔法だった」
「ふむ、そう言われるとそうであるな」
スタイナーが上を向いて思い出しながら答える中、レイナはふと胸に違和感を感じて手を当てる。……そこにあるのは、この世界へ来た時から存在する、謎の痣。
「何か、関係があるのか……?」
彼女の疑問に答えられる者は誰もいなかった。
眠らない街、トレノ。
貴族を始めとして色々な者達が住むそこは常に建物などの明かりに照らされて明るい場所であった。オークション会場やカードゲーム大会が開かれる場所、その他にも様々な催しが活気出すその街へやって来た理由。それはダガ―がマーカスの目的に関する手伝いをしたい、という物だった。
「随分楽しそうな街ね!」
「だな。取り敢えずは……別行動らしいな」
何時の間にかダガ―が居なくなり、マーカスが居なくなり、そしてスタイナーが居なくなった事で各々の自由行動であると感じたレイナはエーコと共に街の中を歩いてみる事にする。……街の中には酒を飲んで床に眠る者も居れば、明らかに貴族と分かる格好をした趣味の悪そうな人達が話をする光景も。お世辞にも居心地の良い場所とは言えなかった。
「離れない様にしろよ」
「分かったわ!」
レイナは念の為にエーコへ告げてから、街の中を歩き回る。
一方。スタイナーと合流したダガ―はマーカスの手伝いをする為に彼を探していた。嘗てジタン達と共に魔の森と呼ばれる場所を抜けた彼女だが、その際に1人の盗賊が自分達を守って犠牲になってしまった。その人物は今も魔の森の中で『石になっており』、それを救う為の道具がこの街にあるというのだ。
自分を助けてくれた人を助けたい。それがダガ―の思いであり、その為なら盗賊である彼らに手を貸す事に迷いは無かった。スタイナーが必死に止める中、トレノの宿屋でマーカスと合流する事が出来たダガ―。その際、彼に「一緒に居た2人は良いんスか?」と質問される。
「良いの。彼女達を巻き込む訳にはいかないもの」
「姫様! どうかお考え直しください!」
「行きましょう」
「姫様!?」
明らかにスタイナーの言葉を無視しながら、ダガ―はマーカスと共に目的の物を手に入れる為。とある屋敷へ忍び込む事にするのだった。
9
眠らない街、トレノ
「まぁ、ざっとこんなもんだ」
レイナはとある建物で愛用の黒鬼徹をしまいながら告げる。そんな彼女の頭上には金網越しにエーコと店を営む者が見下ろす姿があり、後者は驚きの余り口が開いたままであった。しかしそんな事はお構いなしと金網を開ける様にレイナが言えば、店を営む者が我に返ってレイナを外へ出す為に金網を開いた。
「信じられん。本当にあの魔物を倒してしまうとはね」
「グリフォン、つったか? そんなに危ない相手でも無かったぜ?」
「強がり……じゃ無さそうだね。ほれ、これが報酬だよ」
この建物はナイト家と呼ばれる貴族が所有する場所であり、その地下には貴族が捕まえた魔物が放し飼いにされていた。そして挑む者を募り、倒した者へは報酬を支払う。そんな娯楽を楽しむ貴族が居た。……貴族の目的は魔物にやられる者を眺めるという悪趣味なものであり、レイナはそれを聞いて挑戦。無事に勝利を収めたのだ。
「なんだ、これ?」
「カードだよ」
「いや、だから何のカードなんだよ?」
渡されたのはトンベリと呼ばれる魔物の絵が描かれた一枚のカードだった。何の用途で使うのか分からずにレイナが質問すれば、不思議そうな顔をしながらも相手は説明をしてくれる。どうやらカードを使った遊びはこの世界において常識の1つだった様子。内容は至極単純。5枚のカードを使い、上下左右に斜めを含めた8方向の矢印を確認しながら相手のカードを取り合うというもの。最後の勝者はカードの持ち数が多かった者だ。
「ふーん、よく分かんねぇけど分かった」
「偶にここで大会も開かれるから、興味があったら挑んでみな。商品も出るみたいだしね」
「エーコも出来るかしら?」
「カードに年齢は関係ないよ」
「……だってよ」
やる事も無くなり、ナイト家を後にしたレイナとエーコは家の前で大きく伸びをしながら周囲を見回す。気付けばダガ―達と別行動になってからそこそこの時間が経っていた。余り長くここに居る必要も無いため、目的を果たすためにも合流した方が良いだろう。
「探すか。エーコ」
「離れるな、でしょ? 分かってるわ!」
トレノを彷徨う中で、無事にダガ―と合流する事が出来たレイナ達。彼女はこの街で嘗ての恩師と再会を果たし、今からその人物が住む家へ行くという。他に行く場所も無かったレイナは彼女と共に行動する事になり、一同は街の端へ移動を開始した。
「……高いな」
「おっきな塔ね!」
「ここでトット先生が待っていらっしゃる筈よ」
忍び込んだ先で再会した恩師。話をしてマーカスが欲しがっている物を譲ってくれると言われ、ここへ来る様に言われたダガ―は高くそびえ立つ巨大な塔を見上げてから中へ入り始める。中は螺旋階段になっており、適当な高さまで上がればトレノの街が一望出来る。眠らない街と言われる所以でもある、建物の明かりが美しい光景だった。
「トット先生!」
「ガーネット姫。それにスタイナー殿も。ようこそいらっしゃいましたな。御付きの方々も、狭苦しい所ではありますがどうぞお寛ぎください」
ダガ―が家の主、トットを見つけたと同時に階段を走り始める。スタイナーも慌てて追い掛ける中、レイナが見たのは人とはまた種族の違う人物だった。一体どれ程の種族がこの世界には居るのか……レイナは思わず途方に暮れた。
「随分偉そうな人ね!」
「エーコ殿。この方は嘗ての姫様の家庭教師であり、それは高名な」
「ほっほ。良いのですよ。お嬢さん、私は偉そうに見えますかな?」
「えぇ!」
歯に衣着せぬエーコの率直な言葉にスタイナーが注意しようとする中、笑って許した上に話を始めるトット。どうやら子供の失礼も笑って許せるお爺さんの様であり、2人が話をする間に何時の間にかマーカスが目的の物を部屋にあった宝箱から回収していた。
「そんじゃ、これは貰って行くッスよ」
「ええい! お礼も言わずに図々しい!」
「お礼ならブランクの兄貴を助けた後に、いくらでも言うッスよ」
「トット先生。私、アレキサンドリアへ行きたいの」
「ふむ、事情がおありの様子。良ければ話を聞かせて頂けますかな?」
マーカスとスタイナーが争う中、ダガ―の言葉を聞いてトットは彼女からこれまでどの様な事があったのかを聞き始める。そこでレイナもまた、ダガ―がこれまで歩んだ道のりを意図せずして聞く事となった。
母親の様子が可笑しいと思い、リンドブルムに居るシド大公へ相談する為に自身を誘拐しに来た盗賊団タンタラスの盗賊、ジタンへ自分を誘拐する様にお願い。直行でリンドブルムへ向かう筈の船はしかし、ガーネットが誘拐されそうになったと知ったアレクサンドリアの女王、ブラネによって撃墜される。そして落ちた先は人に有害な霧に包まれた入ったら出る事が出来ないと言われる場所、魔の森。そこでジタン達の協力を得て何とか脱出したダガ―だが、その際に1人の盗賊が犠牲になってしまった。
「それがブランクの兄貴っス」
「なるほど、魔の森は侵入者を逃がすまいと森ごと石化したのですな」
「そうッス。でもこれがあれば、魔の森をそのままに兄貴の石化だけを解く事が出来るッス」
「そういう事なら、どうぞ持ってお行きなさい」
その後、魔の森を抜けたダガ―達は氷の洞窟と呼ばれる場所を抜けて霧の無い地上へ。そして最寄りの村、ダリへ入った彼女が見たのは……村の人間が黒魔導士兵を作っている光景だった。
「黒魔導士兵……」
「あの人の言ってた事、本当だったんだ」
自分達は人間に作られた。コンデヤ・パタで出会った黒魔導士はそう語っていた事を思い出して、レイナとエーコは思わず呟いた。
ダガ―の見立てでは、黒魔導士兵を作っているのはアレクサンドリア。そして先日、黒魔導士兵に他国ブルメシアが襲撃を受けた。つまり自分の国が、自分の母が他国へ攻め入った可能性があるのだ。リンドブルムへ行ったのは、様子の可笑しくなった母親をシド大公と共に元に戻す為。しかしそこでの待遇は守られてばかりであり、極めつけは行きたいと願ってもブルメシアへ行く事を許されない。……だから彼女は食事に眠り薬となるスリプル草を混入させて、城を飛び出したのだ。自身の手で解決する為に、アレクサンドリアへ戻り、母親と話をする為に。
「だから他の奴らが居なかったのか」
「うむ。そして姫様を守る為、狩猟祭で実力を見せたレイナ殿に護衛を依頼したのである」
「それはそれは、大変な道のりでしたな」
「でも、まだ終わらせる訳にはいかないの。何としても、お母様と話をしないと」
トットはダガ―の強い意志が籠った言葉を聞いて、「分かりました」と頷いた。そしてここから直行でアレクサンドリアへ行く方法があるとも告げる。それを聞いたマーカスも魔の森がトレノよりもアレクサンドリア方が近いからと同行する事になり、準備が出来次第出発する事となった。
スタイナーとマーカスが準備をする為に建物を出て行った時、残っていたダガ―がレイナへ思い出した様に振り返る。
「そうだ。トット先生なら、レイナの知りたい事を知っているかも知れないわ」
「どうだかな」
「ふむ。お嬢さんの知りたい事、とは?」
「そうだな……」
レイナが主に聞きたい事はまず、自分の居た世界では常識だった言葉を知っているかどうか。次に世界を渡る、もしくは転移する方法が存在するか。そして最後に身に覚えのない魔法を使える事と謎の痣について何か分かるか。以上の3つであった。
最初に確認の為と、『スピラ』・『シン』を言葉に出してトットへ知っているか質問。しかし彼は首を横に振って知らないと答える。既にそれは慣れてしまっていたため、レイナはショックを受ける事も無く次の質問をした。
「転移……ふむ。魔法陣の様なものですかな?」
「あー、多分ちょっと違うな。こう、気付いたら知らない場所に居る感じだ。場所だけじゃなくて世界そのものも違う」
「……残念ながら、その様な話は今のところ聞いた事がございませんな」
「そうか……んじゃ、後はこれだな」
そう言ってレイナが右手を上げると、彼女の手に白い光が生まれ始める。そしてそれを窓の外へ振れば、白く丸い球体が放たれて……爆発する。
「それ、あの時の……」
「あぁ。思った以上に思い通り使えるらしい」
「レイナも魔法が使えたのよ! 飛んでたグリフォンをあれで落としたんだから!」
「ふむ?」
「でもな、俺は殆ど魔法なんて使った事無いんだよ。そもそも苦手だったからな。その証拠に、他の魔法は一切使えない」
「白い光。ホーリーとも違う様ですね。聖なる力を感じない……もしやお嬢さん、身体の何処かに不思議な刻印はありませんかな?」
「何時の間にか痣みたいなのはあったんだけど……やっぱりこれが関係してるのか?」
トットの質問にレイナは胸元を開けて刻印を見せながら告げる。彼女の行動と見える様になったその模様にダガ―が驚いて口を両手で塞ぐ中、トットは少々眺めてから視線を外した。
「やはり。……いや、結構。それにしてもお嬢さん、余り男性の前で無暗に肌を晒してはいけませんよ」
「別に何かしようってんなら、返り討ちにするだけだからな」
「ふむ、もう少し恥じらいを持つべきですな。っとと、その刻印についてですが……何時か見た文献に似た様な絵がありました」
話をしながら部屋を歩き、本棚を探した末に一冊の本を手に戻って来たトットはページを捲る。そして出て来た絵を見て、今度はそれをレイナ達へ見せた。……その本に描かれた絵とレイナの胸にあった模様は非常に酷似していた。
「この本にはこうあります」
『使命を与えられた者の刻印。刻印あるものは、人成らざる力を手にする』
「人成らざる力……この魔法の事か?」
「恐らく。力の名を『
「ルインにルシ、ね……」
「他には何か分からないの? それに、使命って何かしら?」
「使命は恐らく人それぞれなのでしょう。しかしそれを確認する手立ては残念ながらありませんな。今分かっている事もこれだけで、残りは各地の学者達がまだ解読をしているところなのです」
トットはその言葉を最後に本を閉じる。すると聞こえて来る鎧の音にスタイナーが戻って来たと気付いたレイナ達。それ以上分からない事を考えても仕方ないと、そこで刻印に関する話は終える事となった。その場から離れ、スタイナーと合流して話をするダガ―やレイナの姿を見ながら天井を向いたトットは静かに呟く。
「『使命果たせぬ者には破滅を』。それが最近の研究で分かった新たな文面ですが、言わない方がよろしいでしょうな」
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古根の道、ガルガン・ルー
トットに連れられてやって来たのは、彼の家から地下へと続いた先にあった洞窟の様な場所であった。嘗て飛空艇が生まれるより以前、使われていたそこに徘徊する巨大な生き物……ガルガントを見てレイナとエーコは同時に声を上げる。
「何かこいつ、見た事あるわ!」
「リンドブルムへ来る前に通った鉱山に居たのがこんな奴だったな。色は違うけど」
「ふむ、野生のガルガントに乗った事が既におありでしたか。……ここは彼らにぶら下げた乗り場を使い、アレキサンドリアとトレノを行き来出来る場所なのです」
逆さになりながら猛スピードで走り抜けるガルガントの背中には確かに小さな船の様なものがぶら下げられており、トットの説明を受けてダガ―はアレクサンドリアへ行く為に必要な工程を熟す。といってもレバーを下げる等の単純な工程であり、容易くガルガントを呼ぶ事が出来た。
「天井からぶら下がる餌を食べている間、ガルガントは停止します。ささ、今の内に。食べ終わった途端、また走り出してしまいますぞ」
「トット先生、色々ありがとう」
促されるままに乗り込んだレイナ達。そしてダガ―が乗り込む寸前でトットへお礼を言えば、彼は頷いて答えた。そしてスタイナーとも僅かに言葉を交わし、彼が乗り込むと同時に餌を食べ終えたガルガントが再び走り出した事で、彼と瞬く間に距離が出来てしまう。
「もうすぐ、アレクサンドリアなのね」
「着いたら俺達の役目も終いだな。その時はちゃんと約束を守ってくれよ?」
「うむ。騒ぎを起こさない限りは、自由に城を歩ける様に自分からも進言すると約束しよう」
走るガルガントに揺られながら目的地が近づく事に各々が色々な感情を抱く中、突如としてガルガントが止まってしまう。突然の事に一同が戸惑う中、何かを見つけた様に声を上げたエーコが乗り場から躊躇なく飛び出してしまった。
「……ぇ……」
「おい、馬鹿!」
その時、飛び上がった瞬間にエーコの首にぶら下がった物を見たダガ―は声にならない声を上げて驚き戸惑う。そしてレイナとエーコを追う様にスタイナーとマーカスも降りれば、彼らは道を塞ぐ様に存在した巨大な魔物の存在に気が付いた。
「これに怯えてるのよ!」
「ここで立ち往生してる時間は無いのである!」
「なら、とっとと退かすしかねぇな!」
ダガ―を乗り場に残して、4人は魔物へ挑む。剣を手に戦う3人を援護する様に、傷を癒す事の出来る白魔法をエーコは扱う事が出来た。彼女の扱う笛の音と共に生まれる暖かな光は、魔物の固い皮膚に何度も剣をぶつけて疲労した3人の疲れを瞬く間に解消する。……そんな4人だったからこそ、魔物はそれ程苦戦する事も無く退ける事に成功した。
「やったわね!」
「あぁ、お疲れさん」
「見事な戦いであった!」
「でも逃げちゃったッスね」
「深追いする理由も無いからな。戻ろうぜ」
魔物は息の根を止められる前に逃げ出したため、不安は残る。しかしアレクサンドリアへ着けばもう通る事も無い為、無理に追う必要は無かった。止まっていたガルガントからぶら下がる乗り場へ戻り、再び走り出したのを確認したレイナは到着するまで座る事にする。
「ね、ねぇ。エーコ。……貴女の首にあるそれは……?」
「これ? これは召喚士一族に伝わるお宝なの」
「召喚士、一族……?」
「そうよ! お爺さんが絶対に失くさず、守りなさいって言ってた物なの。だからこうして家を出ても無くさない様に、首に付けたのよ!」
「そう……エーコ、アレクサンドリアについたら絶対にそれを出しちゃ駄目よ」
「どうして?」
「その、もしかしたら悪い人が狙うかも知れないでしょ? レイナが守ってくれるかもしれないけれど、原因を作らないに越した事は無いと思うの」
「そうね。分かったわ!」
ダガ―の言葉を聞いて首にぶら下げていた宝石をそのまま服の中へしまい込んだエーコ。そんな彼女を見て安心した様に息を吐いたダガ―は、代わり映えのしない僅かな霧に包まれた壁を眺める。
「(エーコも私と同じ様に、召喚獣を呼べるの……?)」
彼女の抱いた疑問へ答える者は居らず、やがてガルガントは目的地。アレクサンドリアの地下へと到着するのだった。
アレクサンドリア地下。
ガルガントから降りて入ったそこはダガ―とスタイナーにも見覚えの無い場所であった。しかしダガ―はそこについて僅かながらの知識があった。……敵国から攻められた時にそれを妨害する為に作られた場所。残念ながら詳しい事までは分からないものの、少なくともアレクサンドリアである事は間違い無い様である。
「とにかく進んでみるのである!」
「早く外へ出て、兄貴を助けるッス!」
先行して進むスタイナーとマーカスの後を追って、ダガ―とレイナ達も進む。すると突然、先行していた2人の目の前にあった足場が飛び出て壁となってしまった。
「お主、何をしたー!」
「何もして無いっスよ」
「本当だろうな!」
「おい、話してる場合じゃ……!」
「きゃ!」
「なに!?」
道を塞がれた事でスタイナーがマーカスと揉め始める中、レイナは自分達へ向けて放たれた魔法に気付いてダガ―とエーコを強引に後ろへ下げる。それは自分達が入って来た方角から迫った魔法であり、必然的にスタイナーとマーカスに近づいた3人。すると今度は入ったと同時に反対側の床が上がり、壁となって5人は囚われてしまう。
「袋のネズミでおじゃる」
「袋のネズミでごじゃる」
「なんだ、あいつら」
「なんか、ムカつくわ!」
「ソーン! ゾーン! これは何の真似ですか!」
「プルート隊隊長、アデルバート・スタイナーが姫様と共に帰ったのだ! 悪戯は止めて道を開けるのである!」
突然現れた青い道化師と赤い道化師を前に、ダガ―とスタイナーは相手を知っている様で声を上げる。しかし2人の道化師は互いを見合って鏡の様に首を傾げ、飛び上がった。
「それは出来ないでおじゃる」
「諦めるでごじゃる」
「私はただ、お母様と話がしたいだけなの!」
「嫌でもブラネ王女と話はしてもらうでおじゃる」
「『ガーネット姫を捕らえよ』と命令したのはブラネ様でごじゃる」
「ど、どう言う事っスか!?」
「ブラネ王女が、何故……ええい! 出鱈目を言うでない!」
囚われた状態でスタイナーが言い返すも、道化師たちは変わらぬ様子で何処かへ行ってしまう。既にどれだけ騒いだところで、逃げる方法は存在しない。レイナはまだまだ面倒事に巻き込まれる予感を感じて、事の成り行きを見守る事にした。