私の過ごした7年間   作:潜水ラクダ

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箒に乗った時の話

 箒に乗って空を飛ぶ。

 

 どんな子でも一度は憧れる光景だ。それは魔法界でも大体同じで、明日、箒の飛行訓練があると聞いた生徒達はみんなわくわくしていた。もちろん、私もその一人だ。

 

 その日は浮かれていて、多くの生徒が授業にも集中していない。こういう時は先生もあまり厳しくせず、簡単な課題を出してくれるのが普通だと思う。けれど、そう上手くはいかない。今日の授業は魔法史と変身学だ。

 

 案の定、ピンズ先生はいつも通りほとんどの生徒に安眠を提供してくれる。私は下がってくる瞼を気合いで持ち上げ、羊皮紙に書き込む。隣に座ったダフネはさっき先生の言霊を受け沈没した。享年四十七分。ちなみに新記録だ。長い方で。

 

 次の変身学のマクゴナガル先生もそれほど優しくなかった。分かっていますとも、先生。私にとって変身学は決して得意科目ではない。それでも、マクゴナガル先生の担当の授業だから他の授業より意欲はある。でも、毎回、みんなと同じ様に課題を完璧にこなせず、練習してくる様に言われているけど。

 

 授業も終わって、夕食も食べて、談話室に戻る。談話室ではマルフォイが自分は箒に乗るのが上手だ、と自慢していた。私が部屋に戻る際にあいつと目が合った時なんてすごく嫌な感じの笑みを浮かべていた。むかついた。

 

「ダフネ、ダフネ。ダフネは箒乗ったことあるの?」

 

 部屋に戻り、ダフネに聞いてみる。ダフネは少し言いづらそうに、

 

「ごめん。私は乗ったことないの」

 

 ダフネは家で乗せてもらえなかったらしい。危ないから。

 

 そうだよね。普通に考えれば、箒から落ちるって危ないことだし。下手したら大けがだ。

 

「怪我したくないし、今日はさっさと寝ようか」

「あれ、魔法史の復習はしないの?」

「ダフネは私のこと、勉強にしか興味がない子、みたいに思ってる?」

 

 ダフネが微妙に目を逸らす。口では、思ってないよ、と言っているけど、これはまちがいなく思っている。

 

「いいよ、いいよ。どうせ私は勉強しかしないかわいい女の子、だもんね」

「……アリア、自分でかわいい、はちょっと……」

 

 その日は寝る準備をしてすぐに寝た。

 

 翌日、起きて大広間に行くと、スリザリン生はみんな飛行訓練の話ばかりだ。朝食を食べていると、フクロウが手紙を持ってくる。朝の配達だ。残念なことに私の元にフクロウが来てくれたことはない。ネビルのところにフクロウが何か荷物を持ってきている。何だろう。小さな玉だ。

 

「思い出し玉だよ」

 

 ダフネが教えてくれた。

 

「あれを手に持った時に玉が赤く染まると自分が何かを忘れているんだって。でも、何を忘れているか、は教えてくれないらしいけど」

 

 つまりは残念な玉だ。ネビルには悪いけど、ネビルの場合、ずっと赤く染まり続けていることだろう。あ。マルフォイがネビルから玉を奪い取った。ハーマイオニーが抗議している。それに男子生徒が二人加わった。

 

「ダフネ、あれ誰?」

「アリア、ハリー・ポッターだよ、彼が。もう一人は……ごめん、知らない」

 

 もう一人については誰かに聞けば、分かるだろう。

 

「言われてみれば、ハリー・ポッターって有名人がいるとか、え〜と、確かあの子が『レイノ・アノヒト』を倒したんだよね」

「ええ、そうね」

「前から思っていたんだけど、アノヒトって名前、珍しいよね。レイノはともかく」

「……?」

「だって、ファミリーネームでアノヒトって名前聞いたこと無かったから」

 

 まさか魔法界ではアノヒトという名前は多いのか。

 

「アリア、まさか」

 

 目の前にいるダフネの顔が驚きに染まっていく。

 

「アリア、その情報は誰から?」

「汽車の中でハーマイオニーから教えてもらったけど」

「口頭だから勘違いしたのか」

 

 なんだか不穏な空気。逃げ道を探すために近くを見ると、ラベンダーがいる。私達の話を偶然聞いていた様だ。そう言えば、まだダフネに紹介してなかった。

 

「ラベンダー、いいところに。紹介するね。私の友達のダフネ」

「え、ええ。私はラベンダー、ラベンダー・ブラウン」

 

 ラベンダーは驚いたが、ちゃんとダフネに自己紹介していた。ダフネも名前と寮を告げている。二人は私をそっと見て肩を寄せ合って話し始める。

 

「……今の会話、聞いてて……」

「私も……していて……」

「どうする……」

「私が今……教えよう……思って……」

 

 何故、自己紹介だけで密談するまで仲良くなっているのだろう? 私も仲間に入れてほしい。

 

 話が終わると、ラベンダーはこちらを見てまた、と言って去っていった。

 

「あの子とはいい友達になれるかも」

「良かった〜。もし、あの子嫌い、とか言われたらどうしようか、と思ってたから」

 

 ダフネが彼女と仲良くなれそうで良かった。

 

「ところで、アリア。さっきの話の中で勘違いしている部分があったからちょっといいかな」

 

 うっ、話を逸らせませんでしたか。

 

 『レイノ・アノヒト』は名前ではなく、『例のあの人』という呼び名なのだそうです。本当の名前を聞くと、ダフネは周りに人がいないことを確認してすごく言いにくそうにしながら小さな声で『ヴォルデモート卿』と呟いた。その名前を言っただけでダフネは少し震えていた。私もその名前を聞いて恐かった。今や、例のあの人の名前を呼ぶのはダンブルドア校長だけで他の人は皆『例のあの人』、『あの人』、『名前を呼んではいけない人』と呼んでいるそうだ。

 

 そんなことを聞いた後で飛行訓練のために中庭に向かう。飛行訓練はグリフィンドールとの合同授業だ。一年生は箒の所持が認められてないので学校の箒を使う。私が今、手にしている箒も学校の中古の箒である。マルフォイが自宅にはこんなゴミではなく、いい箒がある、と言っている。私には箒の善し悪しは分からないので聞き流しておこう。

 

 授業な最初は先生から簡単な説明があった後に、実際に箒には乗れなかった。まずは、箒を地面に置き、その隣に立って、手を箒にかざして、上がれ、と言って箒を手に持ち上げさせる練習をする。

 

「上がれ」

 

 私が言っても箒を転がるだけで手まで持ち上がってくれない。周りではマルフォイが一発で持ち上げている。おぉ〜、自慢するだけのことはあるらしい。私のマルフォイの好感度が一上昇。これで、好感度はマイナス百七だ。評価は『絶対に関わらない』だ。

 

 しかし、グリフィンドールのハリー・ポッターも一発で成功し、賞賛は彼に取られてしまった。怒りが顔に出てる。今、絶対に目を合わせてはいけない。その後、私も成功、ダフネも成功。グリフィンドールの方でも知り合いはネビルを除き、皆成功。ハーマイオニーよりも先に成功したのは嬉しかった。彼女はかなり手こずっていたみたいだ。

 

 さて、次は箒にまたがって低い位置を飛んでみよう、ということになり、緊張していると、いきなりネビルが飛んでいった。そして、制御できず、転落し、骨折した。

 

 ネビルが先生に連れていかれる際に落とした思い出し玉をマルフォイが拾い、飛び方を忘れるとは、と笑っている。そこにポッターが返せと言ってくる。マルフォイは箒に乗ると、すぐに思い出し玉を持って飛んでいってしまう。ポッターもハーマイオニーが止めるのもおかまいなしに箒に乗って飛んでいってしまう。

 

「最初からあんなに飛べるものなの?」

「わからないけど。ポッターみたいに上手く飛べないと思うよ」

「なるほどねぇ」

 

 私とダフネは空中での鬼ごっこを見学していたが、途中でマルフォイが思い出し玉を城壁に向かって投げた。ポッターはそれを窓際ギリギリのところでキャッチした。その瞬間、下ではグリフィンドール生が拍手喝采だ。逆に、スリザリン生は悔しそうな声を出す。私達は拍手する訳にもいかず、ポッターが降りてくるのを眺めていた。

 

 ポッターが地上まで降りてきたところで学校からマクゴナガル先生が小走りでやってきたか、と思うと、すぐにハリーを連れ去ってしまった。

 

 マルフォイはきっとポッターは退学になるに違いない、と大喜びしている。その後でネビルを保健室に届けてきた先生も帰ってきたが、あまり練習はできなかった。

 

 飛行訓練が終わり、寮に帰ってきたが、ポッターがあれからどうなったのか、気になって仕方が無かった。

 

「ポッターが気になるの?」

「……まぁね、ネビルのためにした行動で罰則をもらうのは流石にないかな〜、と思うけど」

「そうだね。それでアリアはどうするつもり?」

「どうするって」

「アリアのことだから、何か考えている、と思ったのだけど」

「それは、マクゴナガル先生のところに行って詳細を尋ねることは考えたけど、先生がポッターの言い分を聞かずに処罰はないでしょ」

「それじゃぁ、何もしないの?」

「うん、今はそれより」

「ハーマイオニーのこと?」

「それも大丈夫でしょ。ラベンダーに頼んであることだし、今は少しでも呪文を覚えておく必要があるかなぁ、と」

「どうして?」

「今日の訓練の時、パーキンソンが私達のこと、にらんでたから、今は何もなくても準備はしておくべきかな、と思いましてダフネさん」

 

 本当に次から次へと問題ばかりがたまってくる。

 

「はぁ、私とダフネだけどこか別の寮だったら良かったのに」

「グリフィンドールとか?」

「あそこはいいや。私、騎士道精神はないから。ハップルパフかレイブンクローがいい」

 

 ため息が出る。でも、やらないといけないことだけはやっておかないと。机に置いてあったメモ用紙を取る。用紙には今の段階で使えて、さらに活用できそうな呪文を書き込んである。

 

「私にも見せて」

 

 ダフネが興味を持ったのか、メモを覗き込んでくる。

 

「いいよ。ほら」

「うわぁ、いっぱいあるけど、全部覚えるの?」

「う〜ん、いずれは。今はこの中からできそうな呪文を探して練習かな」

「それじゃあ、まず、この呪文はどう?」

「いいね、これにしよっか」

 

 苦労は絶えなくても今日も平和です。

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