私がダフネから距離を置き始めてから数日。その間にあった出来事を簡単に思い出すと、私が思いつく程度の嫌がらせが日に一回。具体的には、通り過ぎる際に陰口を言ってくるのがほとんど。それも『穢れた血』が絶対に入ってくる。
最初はちょっと反応してたけど流石に慣れる。私の寮はどうやら『穢れた血』という単語が大好きの様だ。それ以外は授業中に誰かと組んで作業する時に困ったぐらい。そういう時こそ、他の寮に知り合いがいて助かった。ハーマイオニーには感謝。レイブンクローとハッフルパフにも友達がほしいなぁ。
同じ部屋だからダフネとも時々話す。最低限のことだけだけど。ダフネは私に何か話したいのだろうけど、その勇気がないのか喋らない。それでいいと思う。スリザリンの輪の中にいたいならその方がいいよ、ダフネ。
寮にいるとダフネと気まずい雰囲気になるので、いつも図書館に行ったり、校内を歩き回ったりしている。
図書館にはスリザリン生は何故か少ないのでくつろげる。でも、よくハーマイオニーが本を読んでいるのを見る。本人は知りたいことがあるから、と言っているが、私にはマシンガントークに使う弾丸を充填している様にしか見えない。
最近は校内を探検していることが多い。この学校は広く、さらに謎だらけなので数週間探検しただけではあきない。
今日は土曜日なので授業はない。それに今日はいい天気なので外に行くことにする。
宿題はあった。だけど、昨日の内に終わらせた。人間することが無いと、嫌なことにも手をつけるみたいだ。それにしても、マクゴナガル先生の宿題は大変だった。先生は私達を最終的にアニメーガスにすることが目的なのでは、と思うぐらいに。次に大変なのはスネイプ先生の宿題だ。あれを一人でするのはちょっと大変だ。三人ぐらいで悩みながらやりたい。
外に行くと、マルフォイ達がいた。あれからマルフォイ達はできる限り避けていた。それでも、数回嫌みは言われたが。マルフォイの近くには腰巾着のゴイルとクラッブ、それにパーキンソンもいる。パーキンソンは私と同じスリザリンの一年生の女の子。いつもマルフォイの近くにいる。何と言うか気が強そうな子だ。どうも座って会話をしているみたいだ。近づきたくないので私は彼らから離れた。
歩くと言っても、目的は無いので、何も考えずに周りの景色を見ながら小道を歩いていく。誰かが通っているのか、草が生えず、茶色い地面が見えている。この道がどこに繋がっているのか、気になったのでふと先を見ると、森が見えた。禁じられた森。校長先生の話では危ないから近づいてはいけない場所。どう危ないのかハーマイオニーに聞くと、危険な生物がたくさんいるから、と教えてもらった。確か……ユニコーンとケンタウロスは覚えてるけど、後は忘れた。ごめん、ハーマイオニー。
そんなことを思い出している内に森の近くまで来ていた。小道はもう終わりらしい。小道の終点には小屋があった。誰かが住んでいるのか小屋の煙突からは煙が上がっている。小屋の周りは畑で、よく見ると、大きなカボチャがある。こんな大きなカボチャをここの住民は食べるのだろうか。
「お前さん、こんなとこで何をしちょるんだ?」
「ひゃあ」
いきなり後ろから声を掛けられてつい大声を出してしまう。後ろを振り向くと、大男が立っていた。
「そんな驚くは思わんかった、すまん」
「え〜と、ハグリットさんで良かったですか」
大男は入学式の日に私達を学校まで連れて行ってくれた人だった。名前はハグリットさんで良かったはず。
「さん、なんかつけんでええ、ところでお前さん、なんでこんな所に来たんだ?」
「え、散歩してたらここに」
急に風が吹く。十月とは言え、時期に対し、少しばかり薄着の私にとっては寒かった。くしゅん、とくしゃみが出る。
「ここは寒いから中に入れ、茶でも出すわい」
ハグリットは私を小屋に招き入れた。小屋の中は暖炉の火の頑張りもあってなかなかに暖かかった。椅子に座ってお茶ができるのを待っている待ち時間の間、小屋の中を見ると、色々な物が置いてあった。何かの毛皮や暖炉用の薪、骨まである。私は猟師の小屋の印象を持った。ハグリットの飼い犬のファングは私にその印象をさらに強く植え付ける。
「ほれ、茶だ」
「ありがとうございます」
出されたお茶は普通においしかった。お茶を飲みながらハグリットの話に耳を傾けていた。ハグリットが話す森の動物達の話はとても面白かった。時々、明らかに危険そうな動物も話題に出てきていたが……。いい雰囲気で談笑していると、ハグリットが私に尋ねてきた。
「お前さん、どこの寮だ」
「スリザリンの一年生です」
私が答えると、ハグリットは少し渋い顔をしたが、すぐに元の顔に戻る。
「すまん、スリザリンの奴と昔ちょっとな」
「いいんです、私もスリザリンの人が嫌われていることは知ってますから」
それに今はスリザリンの人からも、と言いかけたが、それは口に出さずに押さえ込んだ。場の空気がさっきとは変わる。無言でお茶を口に含む。お茶の味が最初とは違う様に感じる。
「お前さん、苦労しとるんだな」
「……ええ」
ハグリットは私の事情は聞こうとはせず、また、森の生物の話をしてくれた。少し強引だったけど、嬉しかった。夕暮れになって帰る時には、寒くない様に、とマフラーを貸してくれた。最後に、また来いや、とハグリットは笑顔で言ってくれた。また来よう、そう思った。
翌日の朝食の後、寮の私の部屋に帰ってきた時に改めて私の状況について考えてみる。最近、私に対する嫌がらせは全くと言っていい程ない、訳ではないけど、ある一定の頻度でしか仕掛けてこない。元々、嫌がらせと言っても酷いものではなく、軽いものだった。
そう、積極的じゃないのだ。う〜ん、考えても分からないから、止めよう。私のたった一分の思考はおしまいにしてせっかくの日曜日なので何をしようか、と考える。昨日の今日でハグリットに会いにいくのはちょっとあれなので学校の探検でもしよう。
私が部屋から出ようとすると、ちょうどダフネが帰ってきた。
「あっ」
ダフネは部屋の前で私を見て固まる。私は一歩引いて彼女が部屋に入れる様にする。ダフネは少し戸惑ったが、すぐに入ってきた。私は部屋からすぐに出て行こうとしたが、ダフネに呼び止められた。
「アリア。ちょっと待って」
「何?」
「どこに行くの?」
「ちょっと散歩でも行こうかなぁ、と思って」
「……ねぇ、私も一緒に行っていい?」
ダフネがこうやって私にお願いをしてきたのは初めてだと思う。だけど、私と一緒にいたら駄目だ。きっとダフネも私と同じくスリザリンでの居場所が無くなる。
「ごめんね」
その言葉でダフネはシュンとなる。
「ダフネ、あなたも分かってるでしょ。私がスリザリンの中でどういう存在か」
ダフネは無言のまま、こちらを見る。私はそれを肯定と見なして続ける。
「だったら、私と一緒にいたらどうなるか分かるよね」
「……」
「いくらあなたが純血でも私に関わったらマルフォイ達はどう思うかしら。少なくともあなたに好印象は抱かないでしょうね」
「……」
彼らなら純血が穢れた血と仲良くするなんて言語道断だ、と言って、ダフネにも嫌がらせをするだろう。もしかしたら、私より酷くなるかもしれない。
「だから、これまでみたいに時々会話する程度がダフネにとって一番いいんだよ」
途中、刺のある言い方になってしまった部分はあるけど、言わないといけないことは言い切ったので、私はダフネを置いて部屋を出た。
学校探検をするために寮を出た私だったけど、先ほどのダフネとのこともあってそんな気分じゃなくなってしまった。
はぁ。ため息が漏れる。
本当は嬉しかった。ダフネが私に付き合ってくれようとしたことが。でも、首を縦に振る、そんな簡単な動作ができなかった。でも、仕方が無い。これもダフネのためだ。
はぁ。また、ため息が出る。
こんな日は図書館にでも行こう。
図書館に近くまで来た時だった。普段の私なら気づいて隠れるなり道を変えるなりすぐに行動したのだろうが、その時はそんな対応はできなかった。私が歩いていると、誰かにぶつかった。すぐに謝ろうとして当たった人を見ると、マルフォイだった。