機動戦士ガンダムSEED REVERSE 作:meitoken
タッシルはバクゥに襲われていた。住民達は逃げ惑い、僅かに残っていた男達が銃で応戦するがMSの前には豆鉄砲にもならない。
町の郊外にある洞窟に集まっていた住民達に向かい、バクゥ隊が近づいてくる。
〈今から洞窟内を焼く。死にたくないものは早くそこから離れろ。〉
バクゥが近づいてきて、住民達が離れるのを確認したところでミサイルとレールガンが洞窟にあるレジスタンスの武器や燃料、食料を焼き尽くしていく。
数時間もしないうちに町は火の海になり、先んじて町への警告に出ていたダコスタが戻ってきた。
「双方の人的被害は?」
「は?あるわけないじゃないですか。」
「双方の、だぞ?」
双方…つまり、タッシルの住民達も含めていると言うことだ。
「そりゃ、町の連中の中には転んだり火傷したりした連中はいると思いますけど。」
「よし、撤収するぞ。」
「は?」
ダコスタはてっきり、町への攻撃を餌にレジスタンスをいぶり出すのかと思っていた。違うのか?クラウドはまだバクゥの修理が終わっていないから、今回は留守番を任せているが……それでもアークエンジェルはともかく、レジスタンスは潰せるのに。それをしない?
『明けの砂漠』はすぐにバギーで急行し、アークエンジェルも別働隊の可能性を留意しつつムウとレイラがスカイグラスパーで先行、ナタル達がバギーで続いてキラ、ユリ、レナはMSで待機していた。
スカイグラスパーがあっという間にレジスタンスのバギーを追い越し、上空を旋回して様子を見る。
「ひでえ、全滅かなこりゃ?」
〈そうでもないみたいです。〉
レイラが機体を向かわせた方向を見ると、確かにそこには町を焼かれて悲嘆する人々の姿……それも相当な人数がいた。
スカイグラスパーを着陸させるのと前後し、レジスタンスも到着した。その中にはカガリとフブキもいた。メンバーは家族との再会を喜び、サイーブも来ていた。
「ヤル-、長老!」
「父ちゃん!カガリ、フブキ…!」
フブキが淡泊に問いかける。
「……お母さんとネネは?」
「シャムセディンのじいさまが怪我をしたんだ。その手当てに行ってる。」
「そうか。」
それだけ行って、フブキは怪我人の搬送に回った。淡泊、冷淡と言えばそうだが全く血の通っていない人間ではない。カガリやサイーブへの義理立て、か?そう推察する間にも長老から前もって警告があったために犠牲は出なかったという話が出た。そう、犠牲は出なかったが町は完全に焼け落ちてしまい、隠していた武器も食料も燃料もやられた。生きていく術を彼らは失ったのだ。
「ふざけた真似を…!どういうつもりだ、『虎』め!」
「先日の報復か?」
けが人を手当てしていたフブキの声にムウも同意するように口を開いた。
「かもな。この程度の報復…ってか、お仕置きで済ませてくれるなんて…随分優しいじゃないの、彼?」
「なんだとぉ!」
ムウの言葉にカガリが食いかかり、殴ってきそうな勢いだ。
「街を焼くのが『こんな事』!?これのどこが優しい!?」
「失礼。気に障ったなら謝るけどね。あっちは正規軍だぜ?本気だったらこんなもんじゃすまないってことくらい、わかるだろ?」
彼の言うとおりだとレイラは思った。ザフトが本気になればこの規模ならばバクゥ一機もあれば住民もろとも簡単に焼かれている。そうなればここにいる人間の大半は今頃、黒焦げだ。
しかし、カガリは聞こうとしない。
「アイツは卑怯な臆病者だ!我々が留守の間に街を焼いて、それで勝ったつもりか!?我々はいつだって勇敢に戦ってきた!この間もバクゥを倒したんだ!!」
彼女の言葉に賛同するかのように他のレジスタンスだけでなく、街の住民もムウを軽蔑するような目で見ている。
「だから臆病で卑怯なアイツはこんなやり方で仕返しするしかないんだ!何が『砂漠の虎』だ!」
気持ち、ナタルも手厳しい目を向けている。
「はあ……全くどっちの味方すれば良いのよ私は。」
それにしても、危ういのではないか?バクゥを倒した……確かにそうだ。しかしそれはストライクという餌にあのトラップがあったからこそ。小規模なレジスタンスがあれだけの戦果を挙げるのは確かに並大抵ではない。
「調子に乗って…まずいことにならなきゃ良いんだけど。」
が、数秒後にレイラの懸念は現実になった。サイーブが仲間に呼ばれると、レイラも様子を見に行く。なんと、彼らは追うというのだ。こればかりは流石にレイラも止めに入る。
「ちょっと、待って!バクゥが何機いるか分からないけど無茶よ!あの規模の町を焼くのに、弾薬を全部使い切るわけないわ!そもそも武器に差がありすぎる!相手はユーラシアの戦車隊を壊滅させたMSなのよ!?」
「うるせえ!よそ者が口を挟むな!」
「よそ者は関係ないわ!貴方達の命を心配して、言っているの!」
「け!何が『新星の隼』だ!地球じゃ、まともに飛べねえのか!?」
「バクゥの一機や二機また蹴散らしてやるぜ!!」
そういう問題ではない!だが、駄目だった。サイーブの制止も聞かずに彼らは飛び出して、更にカガリも追っていった。
「カガリ、戻れ!」
フブキが駆け寄るが、カガリは聞く耳を持たない。
「やる気がないなら、兄様は来ないでください!!」
そのまま行こうとしたところで、キサカが乗り込んでフブキが首を横に振る。
「馬鹿が…!」
確かに馬鹿だ。とにかく、アークエンジェルに報告するしかない。
「なんですって!追っていった!?」
無茶な!バクゥ相手にバギーで本気で勝てると思っているのか!?
「なんて、馬鹿なことを!何故止めなかったのですか!?」
〈止めたけど、駄目だったのよ!リーダーの言葉でも聞かなかったし、それよりもどうするの?どう考えても、医薬品も水も食料もバギーにある分じゃ足りないわ。〉
レイラの報告にマリューは頭を抱える。無謀な行動に出たレジスタンスもだが、町の住民達の方は深刻だ。共闘関係にある以上は放ってはおけない。
「ストライクをレジスタンスの救援に向かわせます。フレイムとウインドは物資の運搬をコンテナで。」
こういう時、MSは便利だとも思いながらマリューは三人に指示を出す。
先にストライクがエールで出撃し、フレイムとウインドは中央からコンテナを持って歩いて行く。歩幅はともかく、大型のコンテナにあるだけ物資の量はバギーより多い。バギーで少量を往復し、MSで多量の物資を運べばそれなりになる。もっとも、せっかく第八艦隊から受け取った水や食料を思わぬ形で消費してしまうことになったが……
フブキは住民達の手当てを手伝いながら、アークエンジェルの士官の女性ナタルが子供達に持っていたスナックを手渡したところで、他の子供達も興味を持ったところで慌てていた。
地球軍……ブルーコスモスの飼い犬共などと馴れ合いたくはないがやむを得ない。
「こら、お姉さんを困らせるな。それに、あっちから面白いのが来るぞ?」
子供達を何人か離し、アークエンジェルの方を持っていた双眼鏡で覗かせる。
「アレ何?」
「あれがMSだ……地球軍のだが、ザフトのバクゥより強そうだろう?」
「うん!」
「ねえ、見たい!」
子供達がフレイムとウインドを興味津々に見ており、他の何人かはスカイグラスパーに興味を持っている。こんなところでは飛行機だって珍しいだろう。
「はいはい、見るなら良いけど…乗ったら駄目よ。」
「ま、俺達みたいに頑張って練習したら、飛ばせるようになるからな。」
そうしている間にフレイムとウインドはコンテナを降ろし、そこから運ばれてきた医薬品や水、食料をクルーやレジスタンスが協力して荷下ろしする。
ユリとレナも降りて、それを手伝っている。フブキもレナが運ぼうとした荷物を持ち上げる。
「手をかけさせた。」
「あ…うぅん、大丈夫。それよりウォン大尉は?」
「子供の相手だ……そっちこそストライクは?」
ユリがばつが悪そうに答える。
「レジスタンスを助けに行ったわ。」
「そうか……後で少しばかりMSを見物させてやってくれ。」
「え…でも………」
ユリは困惑するが、フブキは余り意に介さない。
「今更機密もクソもないさ。ここの連中を敵にしたら、せっかくの情報ももらえないんだ。」
実際、『明けの砂漠』まで敵にしたらザフトとの両方を相手にする羽目になる。レジスタンスはともかく、ザフトは危ない。敵を増やさない方がこの場合は利口だ。
「でも、なんで町をまるごと焼かなかったの?」
ユリも運びながら、疑念を口にする。
「さあな……俺は、町の人間に心理的にダメージを与えるのが目的だと思うぞ。」
実際、町にいる非参加者は心をおられる。更に住民達も抱え込めばレジスタンスの足枷になる。まさか、彼らを巡ったレジスタンス同士の内輪揉めも狙った?
「お姉ちゃん達、アレに乗ってるの?」
地元の子供達がMSから降りてきたユリとレナに駆け寄ってきた。近くでMSを見たいとでも言ってきそうだ。
乾燥しきった砂漠の夜は寒い。そして、まもなく夜が明けて暑くなり始める。そんな中、ダコスタが運転するジープでバルトフェルドが考え込む。
「隊長、もう少し急ぎませんか?」
「早く帰りたいのかね?」
「そうではなく、追撃されますよ。」
「運命の分かれ道、だね。自走砲とバクゥじゃ喧嘩にもならん。」
バルトフェルドの分析は分かる。地球軍で正規運用されている戦車十台ならまだしもレジスタンスのバギーじゃ象と蟻に等しい。まして、その戦車だってバクゥのスピードには付いていけないのだから。だが、それがどういうことだ?
〈隊長、後方より接近する熱源。レジスタンスの戦闘車両のようです。〉
「…やはり、死んだ方がマシなのかね?」
バギーの兵隊達がバズーカでジープを狙い、ダコスタがハンドルを切る。
「やむを得ん、応戦する!」
そこから先はバルトフェルドが、地球軍側が言ったとおりの展開だった。集中砲火で一機のバクゥを動けなくしたが、それだけだ。以後はバクゥの圧倒的な力に何台ものバギーが踏み潰されていく。
そこへ……ビームが飛んできた。ストライクだ。
ビームライフルを何発か撃つが、バクゥに当たらない。それはそうだ。砂漠の熱対流でビームがそれる上に減衰率も宇宙の比ではない。しかし、瞬く間にストライクは慣れたのかバクゥのミサイルポッドを撃ち抜いた。
「救援に来たのか?地球軍が…」
「先日とは装備が違うな。それに、砂漠の熱対流を即座にパラメータに組み込んだか。」
先日も思ったことだが、ナチュラル離れしている。いや、おそらくパイロットは……そうだとすれば、その能力は並みのレベルではない。
「カークウッド、バクゥを私と代われ!」
バルトフェルドはレジスタンスの攻撃で動けなくなったバクゥが回復したのを確認すると、パイロットに繋いだ。
「はぁ?」
ダコスタとパイロットが同時にあっけにとられた。
「撃ち合ってみないと分からないこともあるんでね。」
バルトフェルドがバクゥを代わってもらう数分前……カガリはアフメド・エル・ホズンと共にバルトフェルドを追っていたが、バクゥによって襲われた。カガリはキサカが抱えてバギーから脱出したが、アフメドはバギーごと蹴り飛ばされた。
「アフメド!しっかりしろ!」
「カ、カガリ…おれ、お前が…」
何かを言おうとした。しかし、それを言う前に……アフメドは事切れた。
「アフメド?アフメド!アフメド---!!」
キラはカガリを見つけた。仲間の少年が倒れていた、もう助からないだろう。
苛立ちを隠せないながらも戦いに意識を戻したところで三機目のバクゥが加わった。まだ動けたようだ。三機目が加わったところで突然バクゥの連携が増した。バクゥはスピードを活かしてストライクに突進をする。今度は足を使った打撃と、ミサイルで砲撃。そして、ストライクのエネルギーが急速に減る。エネルギー切れを狙っているのか!?
その時、またあの感覚がきた。キラはバクゥの一機をシールドを投げて体勢を崩し、その間に三機目はミサイルで反撃をする。が、キラはバルカンもライフルも使わない。エールストライカーのスラスターで砂を巻き上げてそれ自体を盾にした。大量の砂に阻まれてミサイルが爆発し、その爆煙を回避しようとバクゥが飛んだ。狙い通り、バクゥは真下から無防備になってライフルで撃ち抜かれた。
三機目がまた突っ込んできたが、今度はビームサーベルを抜いた。しかし、三機目の足を切り落としただけで逃げられてしまった。
バルトフェルドはバクゥのコクピットで興奮した。あのフレイムとウインドのパイロットも相当だが、ストライクのパイロットは別格だ。
「とんでもない奴だ。久々に面白い…」
これでほぼ確信した。あのストライクのパイロット、おそらくフレイムとウインドのパイロットも。
レジスタンスの状況は凄惨なものだった。追撃に出たメンバーは殆どがバクゥに踏み潰されて遺体さえ残っていない。
「死にたいんですか?」
馬鹿にも程がある。こんな装備でバクゥに勝てる気でいただなんて……只の死にたがりだ。
「こんなところで何の意味もないじゃないですか?」
「なんだと、貴様!見ろ!」
カガリが掴みかかり、アフメドの遺体を見せつけた。
だからなんだ?頭の悪い選択をした報いだ。
「みんな必死で戦っている!戦ってるんだ!大切な人や、大切なものを守るために!」
が、キラの耳には何の実体も伴わない夢想にしか聞こえず、平手打ちを食らわせた。
「気持ちだけで一体何が守れるって言うんだ!!」
気持ちがあったって、守れなければ何も意味がない。名前すらろくに聞けなかった、あの子を僕は守れなかったんだから……
どうも偏りがある本編…キラの「気持ちだけで」はスペシャルエディションでは省かれてたんですよね。
次回は宿敵と対面します。