機動戦士ガンダムSEED REVERSE 作:meitoken
尚、カガリとフブキは兄妹ですがあの料理への好みは読んでいただければ分かります。
今日は一気に砂漠編を勧めて、間髪入れずに後編も入れます。
タッシルの住民達のために物資を消耗したアークエンジェルと『明けの砂漠』はバルトフェルドの本拠地バナディーヤを訪れていた。
アークエンジェルからはナタルとトノムラが武器商人アル・ジャイリーと交渉するサイーブとキサカに同行し、キラ、ユリ、レナの三人は日用品の買い出しを行うカガリとフブキに同行している。
「ねえ、本当にここが虎の本拠地なの?」
レナは呆然とつぶやいた。とにかく暑い砂漠の町という点さえ除けば平和な町並みだ。人々が行き交い、まるで戦争をしているのが嘘のような光景だ。
「なんか、ヘリオポリスを思い出すんだけど。」
ユリも同じ感想だ。そう、あの頃のヘリオポリスと重なる光景だ。
「付いてこい。」
カガリが不快に思ったか、路地裏に連れてくるとそこには攻撃されて焼け落ちた建物の跡があった。
「平和に見えても、見せかけだけだ。逆らえば容赦なく殺される。」
建物の上には全長200mを超えるであろう巨大戦艦が見える。アレが母艦のレセップスか?
「まあ、それ以外での弾圧は聞かない……逆らわず、大人しくしてくれればそれでいいというのが、少なくとも虎のやり方なんだろう。」
逆らえば殺される…だが、フブキのいうとおりなら
「ねえ、私達が言うのもおかしいんだけど…タッシルの人達のことを考えるなら虎に従った方が良いんじゃないの?」
「お前はこの土地がザフトに奪われたままで良いのか!?」
カガリがレナに食いつくが、フブキがカガリを窘める。
「よせ、カガリ。実際、この間死んだ連中の家族の間でも意見が割れているんだ。」
「兄様…!」
「サイーブだって、そうした言い分には理解を示している。分かるだろう?」
カガリがうつむき、レナも複雑な心境だった。
そんな彼らを睨んでいる男がいることに、彼らは気づかなかった。
一方、キラ達がいないアークエンジェルではマードックがぼやいて、フレイと一緒にストライクのコクピットから飲み物や食料品のパック、袋を取り出していた。
「でも、いつからそんな?」
「さあ……でも、地球に降りてからじゃないの?今まで、そんな暇なかったでしょ?」
マリューの問いにムウはいつものお気楽そうな口調ながらも、流石に内容が内容だけに暗い。
「あの子、サイの彼女…なんでしょ?どうして、キラと。」
レイラも加わった内容というのは、フレイを巡るキラとサイの諍いだ。あのタッシルの後、クルー達の間で「キラがサイの恋人と寝た」という噂が飛び交った。しかも、尾鰭が付くかのように「ユリがシュウと寝ている」、レナに至っては「レイラとそうした仲」に発展したなどという噂まで飛び交う始末だ。
「貴女とレナさん、そういうわけじゃないんでしょう?」
「違うわよ……まあ、地球に降りてから休む前に色々話し相手になってるけど…」
シュウにもそれとなく聞いてみると、あれ以来眠れないユリの手を握ってあげているなどそういうレベルだ。しかし、実情として二人はまだ良い。キラの方が特に深刻だ。ユリとレナは自室かパイロットアラートで休んでいるが、キラに至っては片時もコクピットから離れようとせず、食事から睡眠までストライクのコクピットで済ませている。離れるとしたら、シャワーかトイレの時だけだ。
おまけにサイともめて以来、姉のユリと距離感が狂っているようだ。加えて、他の仲間とも距離が開き始めている。
「おかしくなってそうなったのか、そうなったからおかしくなったのか……とにかく三人ともよくないな、特に坊主は。」
「私も迂闊だったわ…パイロットとして余りに優秀だから正規の訓練を受けていない民間人だという事を忘れて……」
「それを言えば私達も同罪よ。…特にキラは自分が艦を守らなきゃって、そんな風に追い込んでいったのかもしれないわね。」
「レナさんも…ユニウスセブンで親戚のご遺体を見てしまったものね。完全に忘れていたわ。」
「ええ、それに年齢を考えれば…私に母親なり姉を求めてきたのも無理ないもの。」
「確かに……ちょっと前まで普通の学生だったからな。コーディネイターだって、それは同じだろう。」
ついこの間まで三人とも学生だった。それがコーディネイターという理由でMSに乗せ、過酷な戦闘で神経をすり減らしていったのだ。あの中で最年少のレナが、無意識のうちに母親の代わりなり姉の代わりを求めてしまったのも無理はない。ユリもかなり無理をしており、時折シュウが眠る際に手を握ってあげるなど、付き添っているが二人もかなり状態が悪い。
この艦では替えの効かないたった三人の貴重なMSパイロット。だから、自分がやらないといけない。ある種の強迫観念に駆られてしまったのだ。最悪な場合、レナどころか姉のユリまでがキラとそういう関係になって殻に閉じこもる……等と閉鎖的なコミュニティが構築されかねない程だ。
ようやくそれに気づいたマリューは少しでも気分転換が出来るかと思い、今回の買い出しに三人を出した。
「二人共、こういう解消に心当たり無い?先輩でしょ?」
そう言われ、ムウが考えるように見えた。しかし、何故か彼の視線はマリューとレイラを行ったり来たりしていた。その意味をいち早く察したレイラが機嫌を損ねたようにムウを睨む。
「殴られたい?」
「あはは…失礼。」
「はぁー……」
キラはカフェの椅子にへたり込んだ。とにかく品物の量が多い。ユリとレナも持たされているが、自分に比べれば遥かに少ない。同じ男なのにフブキの持っている量も少なく、キラは妙な不公平感を覚えた。疲れ果てているキラを余所にフブキは買い物リストを確認していた。
「あらかた揃ったな。この余計な物を除いて……」
「フレイね…全く、あの子何考えてるのよ。こんな砂漠の町にお嬢様が使いそうな化粧品なんてあるわけないでしょ。」
ユリがなにやら愚痴をこぼしているが、もうキラにとってはどうでもよかった。とにかく早く済ませてアークエンジェルに戻りたい。
そんな彼らの前に給仕がお茶と料理を並べた。さっきカガリが五人分注文した物だろう。
「なに、これ?」
レナが珍しそうにたずねる。
「ドネル・ケバブさ!」
「中東地域の肉メインのサンドイッチみたいなものだ。」
カガリが名前を、フブキが大まかな概要を説明する。確かに、この地域独自のパンに肉がのっている。
「あーっ、腹減った。お前らも食えよ!このチリソースをかけて……」
カガリが手に取ったソースをかけようとしたが…
「あいや待った!ちょっと待った!」
突然脇から男が割り込み、もう一本のソースの容器を手に取った。
「ケバブにチリソースなんて何を言ってるんだ!このヨーグルトソースをかけるのが常識だろうが!」
何やら妙に力説するその男はアロハシャツとカンカン帽に加えサングラスと、見た目だけで充分に胡散臭いと言い切れる。
「はぁ?」
カガリが聞き返すと、男はかまわずに続けた。
「いや、常識と言うよりも、もっとこう……そう!ヨーグルトソースをかけないなんて、この料理に対する冒涜だよ!」
「…何なんだ、お前は。見ず知らずの他人に私の食べ方をどうこう言われる筋合いはない!」
カガリでなくともそう言うだろう。カガリは男の言うことを無視してこれ見よがしにチリソースをかけて、頬張った。
「うっまーい!」
「ああ……何という…」
二人ともかなり大人げない。そこへフブキが口を挟んだ。
「俺はヨーグルトソースで行きたいんだが?」
「おお!君はよく分かっているじゃないか!」
「何言ってるんだ!ケバブにはチリソースが当たり前だ!兄様の味覚はおかしい!」
フブキのリクエストを聞いた男は喜び、カガリは文句を言い出した。そしてカガリの文句をよそにフブキがかけ終えた直後、カガリは自分達の方へソースの容器をつきだした。
「ほら、お前達も!ケバブにはチリソースが当たり前なんだ!」
「ああ、待ちたまえ!彼らまで邪道に落とす気か!そうはさせん!!」
そう言うと男はレナの方にヨーグルトを、カガリは対抗してユリの方にチリソースをかけた。二人は最後にキラの方へ詰め寄り、キラの皿の上で争っていたが、ケバブに両方のソースをぶちまけてしまった。
「ああっ……」
ナタル達は武器商人アル・ジャイリーに出会っていた。サイーブとは険悪なようだが、ビジネスの相手としてはお互いに割り切っているようだ。案内された倉庫に行くと、そこで注文の品が出てきた。
75ミリAP弾、モルゲンレーテの磁場遮断ユニット。どれも純正品ばかり…どこから横流ししているのか。そして、ジャイリーの部下がサイーブに伝票を渡すと、覗き込んだトノムラがぎょっとする。
「なんだ、この額!?嘘だろう!」
ナタルは見ていないが、軍が公に買い取る額より遙かに高い値段のようだ。
「貴重な水は高うございます……」
その水脈は一体どこから……しかも海の反対側のオーブの国営企業のモルデンレーテは勿論、連合の主力武器メーカーのアクタイオンやアドゥカーフ、フジヤマ社まで水脈を伸ばしているのだろうか?
「キサカ。」
サイーブはキサカに手渡し、それを見たキサカも問う。
「支払いはアースダラーでか?」
「はい、それで結構でございます。」
「ど、どうなってるんですかね?ついて行けないですよ、俺!」
そう言われたナタルもついて行けそうにない。司令部から何を言われるかは分からないが、地球軍に請求するなら分かる。なのに、何故かあの外国人の二人の付添いであるこの男に?しかも、それを相場より遙かに高い額で裏取引されるような純正品をあっさりと支払えるなど。
本当に、この男は只のレジスタンスなのか?冗談か本気か、ナタルはキサカが地球軍の工作員ではと疑ってしまう。
結局、三人はかけられたソースで食べることになった。レナとユリはまだいいが、キラは最悪だろう。キラが口直しに水を飲もうとグラスに手を伸ばすが、気付けば男はすっかり席に落ち着いていた。
「しかし、凄い買い物だね。パーティでもやるの?」
男が買い物袋を覗くが、カガリがまた食いかかった。
「余計なお世話だ!大体私はお前なんか招待していないぞ!」
「落ち着け…」
フブキはカガリを宥めようとしたが、周囲の気配に気付き、身を構えた。レナとユリも同様だ。キラも構え、文句を言い続けるカガリの腕を掴んだ。それとほぼ同時に男が叫ぶ。
「伏せろ!」
次の瞬間…店に何かが飛び込んできた。
すかさず男がテーブルを蹴り上げ、それに呼応し、キラがカガリを、フブキがユリとレナをその陰に引っ張り込んだ。その際にケバブのソースとお茶が少女達に降りかかったが、かまわずキラとフブキは三人の頭を押さえ込んだ。
店内に撃ち込まれたロケット弾が爆発し、悲鳴が上がりる中をキラ達はテーブルの陰でやり過ごした。
「死ね、コーディネイター!宇宙の化け物め!」
「青き清浄なる世界のために!」
襲撃者達はコーディネイター排斥を唱えるブルーコスモスのようだ。こんな街でテロを起こすということは、標的は……
「かまわん、全て排除しろ!」
銃を取り出し、撃ち返していた同席者は周囲で応戦していた客、いや、客になりすましていた者達に命じた。そんな中、フブキは男よりも襲撃者の言葉に震えていた。
『死ね…青き清浄なる世界のために。』
笑いながら両親を殺す者達。クローゼットの中から何が起こったのか分からず、様子を見ていた幼い自分。そして、両親の遺体を踏みつけて笑うあの男がいた。
『死んだ身のお前を生かしてやっているんだ。ありがたく思うんだな。』
薬臭がする場所で自分をモルモットのように見下す研究者。逃げだし、盗み、暗い路地で追っ手の恐怖と寒さに震えていた自分。全てが鮮明に思い出される。
こいつらは、その一味だ。
フブキは持っていた銃を取り出し、襲撃者を撃つ。
「地球を荒らすゴミ共が!」
フブキも応戦する中、あの男に銃を向ける者がいた。カガリをかばっていたキラが銃を投げつけ、そのまま襲撃者を蹴り飛ばす。気がつけば、ユリは建物の瓦礫を手に持って襲撃者の顔面に投げつけ、そのまま殴り飛ばして撃退し、レナもテーブルの脚で襲撃者を横から殴り倒した。三人とも、たいした身のこなしだ。とはいえ、銃を投げるなどは素人丸出しだ。
「キラ、お前銃を投げるなよ。」
襲撃者達は全滅し、三人が撃退した襲撃者も撃ち殺される。とどめを刺される場面からユリとレナが顔を背けるのと前後してザフトの軍服を着た赤髪の若い男が同席者に駆け寄っていた。
「隊長!ご無事で!?」
隊長、ということはこの男は…
「アンドリュー・バルトフェルド?」
「おお、ばれてしまったか。」
同席者は先程の軽薄そうな口調でサングラスを外した。
やはりそうだ。この街でブルーコスモスが狙う人物といったら『砂漠の虎』以外にいない。
「いや、しかしそちらの少年もだが……お嬢さん方もやるね。」
アークエンジェルのブリッジに、キサカから悪い連絡が入る。
「なんですって!キラ君達が戻らない!?」
〈ああ、待ち合わせの時間になっても連絡一つない。市街でブルーコスモスのテロもあったらしい。〉
ザフトの占領地となれば、確かに反コーディネイター主義を掲げるブルーコスモスのテロも起こりうる……となると、巻き込まれた可能性がある。もし、万が一にも三人がコーディネイターであることなど知られたら。すぐにマリューはパルに命じて、ナタルへの連絡を取る。
フブキはケバブはヨーグルトソース、そしてユリとレナはカガリとバルトフェルドのしょうもない攻防戦でソースを押しつけられる羽目になりました。
が、本題はフブキの過去。後発の種シリーズの要素を混ぜたキャラです。