機動戦士ガンダムSEED REVERSE 作:meitoken
全部やる能力も容量もないので、こういうのになってます
フレイとミリアリアが捕虜を殺そうとした騒動はすぐにマリューとナタルの耳に入った。いつものように事務的に淡々と告げるナタルにマリューはもう内心でうんざりしていた。それが不真面目に映ったか、ナタルに呼び止められる。
「軍には厳しく統制され、上官の命令を速やかに実行できる兵と……それに広い視野で情勢を見据え、的確な判断を下すことの出来る指揮官が必要です。でなければ、隊や艦は勝つことも生き残ることも出来ません。」
全くもって、その通り。士官学校のお手本のような、優等生の模範解答だ。
「分かってはいても、出来なきゃ一緒よね…自分が器じゃない事はよく分かっているつもりよ。」
「艦長、私は…!」
どうやら、ナタルはマリューを艦長失格だと非難していると感じて訂正しようとするが、マリューは無言で制した。
「大丈夫よ、分かってるわ…ナタル。」
実のところ、彼女がいなければここまで行けなかった。それはマリュー自身も感じていた。情に流されやすいマリューと軍紀やクルー全員への責任感を持つナタルだからこそ、互いの不足を補えたのだろう。
「色々あったけど、貴方には本当…感謝してる。貴女なら、きっと良い艦長になるわね。」
ディアッカは営倉に入れられた。今更だが、それが普通だ。アラスカに着いたというのに、本部に連行されることさえしないのはディアッカから見てもおかしい。だが、今はそれ以上に先ほどの少女の叫びが脳裏に蘇った。
『馬鹿で役立たずなナチュラルの彼氏』……ストライクでもフレイムでもウインドでもない………武器だけがストライクの戦闘機に負けて、ナチュラルの捕虜になった腹いせのつもりだった。
だが、それがあの少女には図星だった。
『トールが!トールがいないのに!!なんで、こんな奴!こんな奴がここにいるのよ!?』
殺される恐怖もあったが、それ以上に涙と殺意が入り交じったあの恐ろしい形相が浮かんだ。ディアッカが馬鹿で役立たずと罵った彼氏が、あの少女にとっては感情任せに自分を殺しに来るほど大事な人だったのだ。
「ちっ…ビンゴだったとはな。」
相手がナチュラルであるというのに、ディアッカは自分の発言の軽率さを反省したのだった。
レナはキラよりは比較的軽傷で、歩けるようになっていた。そんな中、ラクスに呼ばれてテラスで紅茶をごちそうになっていた。
「レナさん…少しよろしいですか?」
「何?」
「以前、キラが私を帰した後……送られたザフト艦で貴女と髪の色が同じで雰囲気のよく似た方と出会いましたわ。」
シオンだ…あの先遣隊との戦闘でシューターがいたし、会話もした。そして、その母艦に送られたなら会う機会があるだろう。考えてみれば、キラはあの時イージスのパイロットを迎えに指名した。それも彼女と関係が?
「……貴女を迎えにきたパイロットの仲間?」
「はい、アスラン・ザラ……私の婚約者です。」
ザラ……新聞が読みたいと言って、いくつかの記事が出ていた、彼女の父の後任で最高評議会議長になった国防委員長。つまり、イージスのパイロットの父親。妻をユニウスセブンで亡くしたという。
「その時に、彼のお名前をお伺いしました。シオン・クールズさん……貴方のお兄様ではなくて?」
気づかれた…いや、アークエンジェルで一応自己紹介をしていた。キラとユリ以外でコーディネイターだから、どこか打ち解けやすかったのだろうか?
「……兄さんは、死んだのかしら?」
「…お兄様と戦われたのですか?」
いきなり踏み込んで聞いてきた。それを聞かれると、話すのを躊躇うが……
「私は軍人ではありません。貴女の事情を口外したところで、信じる者などいないでしょう。」
レナはラクスの優しいまなざしを見て、吐き出してしまった。兄と、シオンとヘリオポリスで再会したこと……地球で、ヘリオポリスでキラと一緒に兄の仲間を殺したこと。あの戦闘でトールが死んで、シオンを憎んで殺そうとした。
「でも、それが戦争なのでしょう?お友達であろうと、御兄妹であろうと……敵ならば。」
敵…兄さんが…私の、敵?私が…兄さんの、敵?
「貴女はどうされるのですか?このままプラントにいれば、お兄様と会う機会もありますわ。」
兄さんと……会う?兄さんと、暮らせる?父さんと母さんも、プラントに呼べる?
ユリはキラの様子を見ていた。キラが一番重症で、まだ起き上がれずにいる。
「キラ……トールは?」
トールの名前を聞くと、キラが震えた。だが、どうしても確かめたかった。あの時…脱出できたのか。どうしても、見間違いであって欲しいという願望がユリの中にあった。
「トール…は…!僕を、助けようとして……アスランに、ころ……され、た…!」
ユリは足の力が抜けそうになるが、なんとか踏ん張る。
「僕は、アスランの仲間を…殺して……アスランが、トールを…」
「私も……アスランを、殺してやろうと思った。貴方が殺されると、思って。」
戦場を離れ、ユリは自分のしようとしたことが怖くなった。あの時、仮にキラが助かっても、果たしてヘリオポリスまでと同じ関係で居続ける事が出来たのだろうか?
フレイとミリアリアの騒動の後、ようやくアークエンジェルのこれまでの行いに対する査問会が開かれた。しかし、それは彼らの想像を超えるような物であった。査問の責任者である軍令部のウィリアム・サザーランド大佐はマリューとシュウがキラ達をGに乗せた事を判断ミスとなじり、コーディネイターの子供が居合わせた事そのものが不運とまで口にした。
レイラはサザーランドの言葉に敵意すら湧いた。つまり彼はヘリオポリスでマリューらが苦労の末に造り上げたMSを奪われ、アークエンジェルも奪われるかあの時沈められろと言っている。そして、自分達もあそこで死ぬべきだったと。そう言っているのだ。
「奴らがいるから、世界は混乱するのだよ!」
何なの、これは?筋が通ってるようだけど何かがおかしいわ…
サザーランドの言葉は明らかに彼の偏見にこじつけられている。
「アークエンジェルはその後もユーラシアの軍事拠点アルテミスを壊滅させ、先遣隊を全滅させ、果ては…第八艦隊をも失わせている。」
「曲解です!我々は…!」
ムウの反論をサザーランドは笑う。
「我々は…なんだね?」
「我々は、ただハルバートン提督の!!」
しかし、マリューの上官の意志を尊重する言葉さえも彼らはないがしろにする。
「彼の意志が地球軍の総意なのかね?一体何時そんな事になったのだね?」
この男達はヘリオポリスから第八艦隊といった犠牲を惜しむような事を言っているが、それならば何故増援どころか補給さえも寄こさなかった?詰め寄りたい衝動がレイラの中で燻っていた。だが、言ったところで相手にされないだろう。
「それと、グラン・ハーベスト少将よりヘリオポリス襲撃について問いたいことがあるそうだ。」
サザーランドの脇に座る大柄な男が立ち上がる。
「貴官らが襲撃を受けたヘリオポリス……その情報はどこから漏れたと思う?」
情報が漏れた。確かに、それは普通ならば内通者かオーブにザフトのスパイがいたと考えるのが妥当だ。
「その場に居合わせた三人のコーディネイターと友人達……これが意味する者は何だと思う?」
その言葉の意味をアークエンジェルの誰もが理解した。
「閣下は、彼らがザフトのスパイだったと仰るのですか!?」
いち早くナタルが立ち上がり抗議した。
「ではそうでないという根拠がどこにある?いたから、情報が漏れたのではないかね?」
そう言われれば、返す言葉もないだろう。実際、地球軍にだってザフトの諜報員の十や二十は紛れ込んでいるはず。だが…
「コーディネイターと戦っている以上、民間人のコーディネイターと言えど例外ではあるまい。無論その友人であるならば疑うべき要素がある。そして…それならばどうすべきか判るであろう?」
レイラは戦慄した。つまり、この男はキラ達をコーディネイターという理由だけでザフトのスパイだと決めつけ、殺すべきだったと言っている。その中にはナチュラルであるサイ達までも、含まれていた。そして、それをしなかったことを責めているのだ。流石にこれにはレイラも怒りが抑えきれなくなった。
「閣下は抵抗する力のない民間人を不当な理由で手にかけるべきだと!!そのようなことができるのですか!?」
「民間人?コーディネイターに民間人も軍人もあるまい。そして、それと繋がりがある者も同様だ。」
愉悦のこもった笑みにレイラは背筋が凍った。そして、彼が満足したかのように糾弾が終わった後もそれから同じ様な質疑応答が続いた。レイラにはもはや、査問とは名ばかりのリンチや魔女裁判にしか思えないものだった。
ようやく査問会が終了した。そして、サザーランドは思いも寄らない事項を伝えた。
「アークエンジェルの次の任務については追って通達する。ムウ・ラ・フラガ少佐、レイラ・ウォン大尉、ナタル・バジルール中尉、フレイ・アルスター二等兵以外の乗員は、これまで通り艦にて待機を命ずる。」
「では…我々は?」
ムウも当てられたように問う。
「この四名には、転属命令が出ている。明朝08:00、人事局へ出頭するように。以上だ。」
部屋から出て行くサザーランドをナタルが呼び止めた。
「あの…アルスター二等兵も転属というのは?」
そうだ。レイラもそれは知りたかった。ナタルは指揮官として非常に優秀だし、ムウとレイラは周囲から『エンデュミオンの鷹』、『新星の隼』と呼ばれているパイロットだから納得も行くが、何故フレイまで?
「彼女の志願の時の言葉、聞いたのは君だろう?」
「あ…はい…」
『本当の平和が、本当の安心が、戦う事によってしか得られないのなら、自分も父の遺志を継いで戦いたい。』
そう言ったらしい。それを聞いて、サイ達も正式に軍に志願したという。だが、実際のところフレイは何ら軍務の能力を持っていない。そんな彼女を、ということは。
つまり、外務次官の娘である彼女の志願動機やその時の言葉を軍のプロパガンダとして利用しようと言うのだ。
「彼女の活躍の場は、前線でなくてもよいのだよ。」
サザーランドは陰気な笑みを浮かべ、退室した。何故こんな今までに死んだ兵士達を数字としか認識できない連中が軍のトップなのだ?レイラは今の地球軍のあり方に疑念を抱かずにはいられなかった。
こんな連中をトップに据えたままで、本当に良いの?
ディアッカはあの少女がやってきた。何かいうでもなく、こちらの様子をうかがっていた。
「その…お前の彼氏、どこで?」
せめて、それだけでも聞きたかった。
「スカイグラスパーに乗ってたの……島で、あんた達が攻撃してきた時。」
「スカイグラスパー?」
「戦闘機…青と、白の…」
あの、ストライクとフレイムの武器をつけられるやつ。アレに乗っていたのか?
「……俺じゃ、ない。」
何を言っているのだ。こんなこと言ったって、彼女の彼氏が、トールという人が戻ってくるわけでもないのに。
だが、せめてそれだけは伝えたかった。軽い気持ちで恋人の死を嗤ったせめてもの詫び…のつもりだろうか?自分でもよく分からなかった。
だが、一つだけディアッカは実感した。トールという人のような誰かの彼氏を…これまで、ゲームの的か何かのような感覚で何千人も殺していたことを。
アスランとシオンはネビュラ勲章を授与し、皆が二人を賞賛した。地球軍のMSを討った英雄だと。だが、それが何になる?ミゲルもキールも生き返らない…そして、二人が知りながら殺した大切な人も。アスランとシオンにとって、勲章ももはや只の呪いでしかなかった。
本国へ戻るための身支度を済ませて、通路を歩いていると、イザークとニコル、イリアが立っていた。自分達を待っていたのだろう。
随分と人数が減った。ラスティとミゲル、オロール、マシューに続いてキールが死に、ディアッカもMIA。そして、アスランとシオンも今彼らと別れる。壁により掛かっていたイザークがぶっきらぼうに口を開いた。
「俺達もすぐそっちへ行ってやる。」
「向こうで可愛い子見つけたら、教えてくれよ。」
「無理をしないでくださいね。」
三者三様のらしい言葉に、アスランは微笑んだ。するとイザークはバカにされたと思ったのか、目をそらし、イリアはいつもと同じように目にかかった髪を払った。
「貴様らが特務隊とはな……」
アスランは鞄をおろし、手を差し出した。
「…色々と済まなかった。今まで、ありがとう…」
若干の間があき、イザークはアスランの手を握り替えした。無愛想な顔を保っているが、その手には痛いほど力がこもっていた。イリアとニコルとも握手をし、鞄を手に歩き出したが、イザークが後ろから声を掛けてくる。
「今度は俺が部下にしてやる!それまで死ぬんじゃないぞ!」
随分と、素直じゃない言い草だ。だが、それが二人を案じている言葉なのは見て取れた。
「ああ…ジュール隊、楽しみにしている。」
シオンが少しストレートに返し、アスランも「分かった」と答える。
「さて、早く行けよ。」
「あ、シオンはもうちょっと待って。アスラン、先に行ってください。」
イリアと握手をしたシオンも行こうとしたところで、突然ニコルに呼び止められた。アスランは当惑して「ああ。」と答え、宇宙港へ向かった。
シオンは訳がわからなかった。アスランはもう行くのに何故自分だけ?そして何故ミサキがいない…?
「後ろ見てみろよ。」
イリアに促されて振り向くと、ミサキが立っていた。何故こんなところに?理由を聞こうとすると、ニコルが軽く肩を叩いた。
「それじゃあ、僕達は準備がありますから。」
ニコルがそれだけ言って、イザークとイリアも着いていった。
二人きりになり、ミサキが歩み寄ってきた。両者はしばし沈黙するが、ミサキから口を開いた。
「暫く…会えないね。」
「ああ……」
シオンは言葉が浮かばなかった。まるで離れ離れになってしまう恋人の気分だ。こういうシチュエーションでは抱擁のひとつもするのだろうが、自分にそんな度胸はなかった。どうすればいいか迷っていると、ミサキが背中に腕を回し、涙声で訴える。
「もう……私に心配させるような事…しないでよ…」
「ミサキ…っ!」
混乱するシオンにミサキが唇を重ねてきた。余りに突然な事にシオンは彼女を突き飛ばしそうになったが踏みとどまり、そのまま抱き寄せた。少しして顔を離し、混乱を抑えながらシオンは言葉を探し出した。
「あ、それじゃあ……死なないでくれ。」
「…うん、貴方も。」
言い終えて、今キスしたとは思えない台詞しか言えない自分を少し呪った。ニコルやイリアなら少しは気の利いた台詞が言えるのかも知れない。今度会ったら、二人にこういうシチュエーションでどうすればいいのか聞こうと冗談交じりに考え、シオンはミサキに背中を向けた。
少しまたいで、クルーゼ隊の別れまで入れました。
個人的な名場面である「今度は俺が部下にしてやる」は是が非でも入れたかったので。
それと、キールが死ぬ直前や地球に降りる前であったシオンとミサキの伏線回収です。
二人の遺伝子の相性につきましては……ノーコメント。後発のアレで別れさせられる可能性もあるかもしれませんね