機動戦士ガンダムSEED REVERSE 作:meitoken
「最後通告だと!」
ウズミが声を荒げ、代表を辞任したウズミに代わり、代表についたウズミの弟ホムラが大西洋連邦からの通告を読み上げる。
『現在の世界情勢を鑑みず、地球の一国家としての責務を放棄し、頑なに時刻の安寧のみを追求し、あまつさえ再三の協力要請にも拒否の姿勢を崩さぬオーブ連合首長国に対し地球連合軍はその構成国を代表して以下の要求を通告する。』
一…オーブ連合首長国の現政権即時退陣。
二…オーブ全軍の武装解除並びに解体。
三…オーブ国内に在住するコーディネイターの公開処刑。
『48時間以内に以上の要求が実行されない場合、地球連合はオーブ連合首長国をザフト支援国家と見なし武力を持ってこれを対立する物である。』
条文を読み上げた皆が愕然とする。
「どういう茶番だ、それは!」
ウズミが皆の心情を代弁するように憤慨する。
「パナマを落とされ、もはや体裁を取り繕う余裕すらなくしたか!大西洋連邦め!!」
そして、カガリが国防本部に行っているように行政府に来ていたフブキが机を叩いて怒鳴る。
「国民を公開処刑しろだと!?ふざけるな!ブルーコスモス……どこまで人をコケにするつもりだ!!」
この条文……特に最後のは明らかにブルーコスモスが手を加えたものだ。軍人や政治家でなくても一目瞭然だ。自分達に賛同しないナチュラルを殺す方便が欲しいだけの詭弁なのが見え透いている。
「既に太平洋を連合軍艦隊が南下中です。」
誰もがこの通告がパナマに変わるマスドライバーとしてオーブのカグヤを必要とし、同時にモルゲンレーテを手に入れる魂胆であることを見抜いている。
これが筋の通らない事でも、既にユーラシア連邦はアラスカで殆どの戦力を奪われ、赤道連合やスカンジナビア王国といった中立国も既に連合の圧力に屈している。そして、ザフトもカーペンタリアから会談を申し入れていた。ここでオーブが連合に着けば、せっかく苦労してパナマを陥落させた苦労が水の泡になってしまうからだ。
「どうあっても世界を二分したいか!大西洋連邦は!敵か味方かと、そしてオーブはその理念と法を捨て命じられるままに与えられた敵と戦う国となるのか!?連合と組めばプラントは敵。プラントと組めば連合は敵。例え連合に下り、今日の争いを避けられたとしても明日はパナマの二の舞ぞ!」
ウズミに言われるまでもなく、それも誰もが理解していた。大西洋連邦の条件を呑んだとしても、ザフトは間違いなくマスドライバーを潰しに攻めてくるし、コーディネイターの公開処刑をさせられる。しかも、パナマでは投降を無視したザフト軍が地球軍の将兵を虐殺したという情報もある、殺される国民がナチュラルに変わるだけだ。
「父上、叔父上…いずれにしても、避難命令を出さなければ。」
フブキが進言するまでもなく、全ての国民を守るためにはもはや他に選択肢はなかった。どのみち、オーブの平和は今日この日をもって失われる。
格納庫に集められたアークエンジェルのクルーにマリューはオーブに地球連合軍艦隊が進攻している事を伝えた。地球軍に付かなければザフト支援国と見なすという筋の通らない理由だが、それがマスドライバーとモルゲンレーテを手に入れるための口実に過ぎないのは誰もが察した。
マリューは自分達も道を選ばなければならないと宣言した。彼女の言うとおり、アークエンジェルは脱走艦であり、命ずる者もなく、彼女にもその権限はない。オーブのこの事態にどうするのかを彼らは自身で選ばなければならない。
「よってこれを機に、艦を離れようという者は、今より速やかに退艦し、オーブ政府の指示に従って避難してください。」
最後にマリューはクルーを見回し、頭を下げた。
「私のような頼りない艦長に、ここまでついてきてくれて、ありがとう。」
解散となり、クルーは相談、或いは一人で考え始めた。
食堂に向かっていたレナに、フブキが後を追ってきた。
「レナ……お前は、どうするんだ?」
「私は戦うわ。」
フブキは普段どおりの態度ではあるが、かなり取り乱して見えた。無理もない。自分の国が戦場になるのだ。いつものように冷静でいられる方が凄い。
「オーブの選択…正しいと思う。自分の育った国だからってのもあるけど……それだけじゃない。」
レナは穏やかな口調に毅然とした態度を含めて答えた。
「楽な道を選んだら、気付く物にも気付かないと……そう思うから…」
フブキは魅入るように見つめていた。数秒の間があき、フブキが顔を緩めた。
「…ありがとう……」
笑った?それは今まで見た、皮肉った笑みや苦笑ではなく、本物の笑顔だった。一瞬レナはフブキの笑顔に唖然とした。
自室に戻ろうとしていたユリは、通路に寄りかかって考え込んでいるシュウを見つけた。
「シュウ……あなたは、どうするの?」
ユリに気付いたシュウは顔を向けてきた。
「俺は…残るよ。JOSH-Aの事もあるし……ユリは残るんだろ?」
「ええ…」
シュウは軽くため息をついた。
「それか、なら俺も…もう一つ残る理由ができたな。」
「もう一つ?」
他に彼が残る理由がユリは思い当たらなかった。
「ああ。」
シュウはいきなりユリを壁に押しつけ、唇を重ねた。ユリは突然のキスに頭が真っ白になったが、彼の背中に腕を回した。
顔が離れたとき、シュウは頬を赤くしていたが、それは自分も同じだろう。頬がかなり熱い。
「…判ったか?」
「う、うん…」
まるで子供みたいな反応だが、自分にも戦う理由がもう一つできた。彼を…シュウを守るために戦う。
「それじゃあ、もう一度…ダメか?」
「ううん……良いわ。」
そして二人はどちらともなく唇を重ねた。が……
「しかし、驚いたな。まさか艦長と少佐が…!?」
声がしたので慌てて離れた時には既に遅かった。ノイマン、トノムラ、チャンドラが顔を赤くして唖然としている。そして……
「シュウ!お前俺達を差し置いて!!」
トノムラがつかみかかってきた。心なしか怒っているように見える。先を越されたと思っているにしても、こればかりは理不尽だ。
〈他国を侵略せず、他国の侵略を許さず、他国の争いに介入しない。我らオーブがこれを理念とし、様々に移り変わっていく長い時の中でもそれを頑なに守り抜いてきたのは、それこそ我々が国という集団を形成して暮らしていくに当たり、最も基本的で大切なことと考えるからです。〉
大西洋連邦の圧力と味方せぬという理由で地球軍が攻めてくる事態を公表したウズミは全国民に演説を行っていた。
〈今この状況下にあっても私はそれを正しいと考えます。地球軍の軍門に降れば、確かに今武力による侵攻は避けられるかもしれません。しかし、それは何より大切なオーブの精神への…いや、人としての精神への侵略を許すことになるでしょう。〉
人としての精神への侵略……それはつまり、味方しない者を敵と見なして力で全てを屈服させるということだ。
〈今陣営を定めねば撃つという地球軍。しかし、やはり我々はそれに従うことは出来ません。今従ってしまえば、やがて来るいつの日か。我々はただ彼らが示すものを敵として、命じられるままにそれと戦う国となるでしょう。〉
ここで従えば、例えプラントを滅ぼすことが出来たとしても地球軍はオーブの脱退を認めない。むしろ、コーディネイター居住を許していたという理由で攻めてくるのが目に見えている。
〈侵略を許さず。これはオーブの理念です。我々はこれを守るべく、最後まで努力を続けます。しかし、残念ながら危機はすぐそこに迫っています、みなさん。〉
国民は誰もが理解した。もう、オーブは平和の国ではなくなるのだということを。
「『要求は不当な物であるため、従う事はできない。オーブ連合首長国は今後も中立の立場を貫く意志に変わりはない。』いやぁ、流石はアスハ前代表。期待を裏切らない人ですねぇ。」
軍艦の中で唯一、上品なスーツに身を包んだ男。ムルタ・アズラエルは期待が実ったように喜んでいた。この男こそ地球連合軍を陰で操るブルーコスモスの盟主であり、今回の要求を突きつけた張本人だ。
「ホントのところ、要求呑まれちゃったらどうしようかと思ってたんですよね。あれのテスト。是非とも最後まで頑張り通して頂きませんと…」
「アズラエル理事、それは人間によっては我が軍の将兵に犠牲が出るのを喜んでいるようにも見られますよ?」
「そう言いつつ貴方も随分と嬉しそうじゃないですか、ハーベスト少将?」
アズラエルが呼んだのは大柄の白人将校…アークエンジェルがコーディネイターの子供らを殺さなかったことを非難し、プラントに保護されたという娘とその母を絶縁したグラン・ハーベストだ。サザーランド大佐を右腕とするならば彼はその左腕と一部の者に称されている。
「いえ…コーディネイターに肩入れするゴミ共を掃除できると思っているだけですよ。」
「ほう?…………しかし、貴方も人が悪いですねえ……コーディネイターの国民を殺せという要求を付け足せと言った時は正直驚きましたよ。追放でも良かったんじゃないんですか?」
「ナチュラルの使命はコーディネイターをこの宇宙から一匹残らず排除することですよ。それを奴らが理解しているかを確かめたかったのです。」
なるほど、とアズラエルは思った。彼自身も幼い頃の経験からコーディネイターに強い敵意を抱いている。しかし、この男のコーディネイターへの敵意は時折アズラエルすら舌を巻くほどの苛烈さを見せる。そんな男をアズラエルは非常に頼れる者と見なしていた。
しかし、司令官のダーレスはこの二人に強い敵意さえ抱いた。この二人は新型機のテスト…或いは味方しないナチュラルを殺したいだけなのだ。その過程で味方がどれだけ死んでも構わないのだ。
イリア・カシムはディアッカ・エルスマン、ミサキ・グールドと共にアークエンジェルから降ろされ、適当なところに座り込んでいた。
「ディアッカ、どうするよ?」
「どうするって言われてもなあ……」
ミサキがぼそりと呟く。
「私達…これで良いのかな?プラントを守るためにナチュラルをみんな殺して…あの人達も。」
大まかな事情は互いに確認した。アラスカがサイクロプスで自爆し、アークエンジェルは上層部に裏切られ、そのアラスカでアークエンジェルを救ったMSがザフトの物で、禁じられた核で動いている事。アラスカが落とされた後、今度はパナマが落とされてしかもパナマでは投降しようとした地球軍兵士が皆殺しにされた。そして、マスドライバー欲しさに地球軍が中立を理由にオーブに攻めてくるので、連合を脱走したアークエンジェルは迎え撃つ選択をした。
それに合わせ、彼らも解放された。だが、どうすれば?どうしたい?
軍なり政府に頼んでカーペンタリアから迎えを寄越してもらう事は出来るし、近くまで送ってもらう手もある。だが、そんな気になれなかった。
どうして、地球軍とプラントの戦争だったはずなのにナチュラル同士…地球の国同士で戦うのだ?ナチュラルが大半と言っても、オーブはコーディネイターの居住を許す国だ。だとしても、中立をザフト支援国などと筋が通らないにも程がある。馬鹿なナチュラルの中でも最低の馬鹿だ。匿ってくれたオーブを守るために戦うアークエンジェルのクルー達の方がずっと理性的だ。
そして、ディアッカとミサキにはまだレナのことを話していなかった。確証がまだない。生きていたのは嬉しかったが、それでも信じたくなかった。本当にシオンの妹だと知るのが怖かった。
だが、このまま戻れば自分達はまた戦う。ナチュラルを皆殺しにするために。確かにプラントを守りたいとは思うが、ナチュラルを全て殺す事など自分にはできない。
レナとあの艦のクルー達に出会わなければ気付かなかっただろう。復讐に燃えたまま何も判らず、ただ命令に従ってディアッカが傷つけた少女の様な人を自分達が作っている事に。ヘリオポリスの人達から平和を奪ったことも。
俺は、どうしたい?
アスランはアラスカに行った後、キラと戦った島に行った。そこでアスランはマルキオ導師に出会った。ちょうど近くの島に彼の伝令所があるのは聞いており、その日はマルキオ導師の元へ泊まった。そこで報道されるニュースからパナマの陥落とそれに合わせてオーブが地球軍に攻撃されるのも聞いた。
「どうやら避けられぬようですね、オーブと地球軍の争いも………人はたやすく敵となる。」
「何故、オーブと地球軍が…」
おかしいではないか。地球連合を構成する理事国とプラントの戦争だったはずなのに、中立を表明したオーブを『地球の国だから連合に与するべき、味方せぬならば敵』などと政治としても戦争としても理屈が通らない。オーブだけではない。同じく中立の赤道連合とスカンジナビア王国までもが既に連合に吸収されている。
何故、こんなことに?と思い悩むアスランの傍に男の子が一人歩み寄ってきた。
「ザフトなんか俺がおっきくなったら、全部やっつけてやる!!」
そう言って、足を蹴ってまた部屋の隅に逃げてしまった。
「…すみません。彼はカーペンタリア占領戦の折に親を亡くしておりまして。」
アスランは息をのんだ。そして、理解してしまった。子供達が昨日からアスランを避けているようなそぶり。当たり前だったのだ。
あの子達にとって、ザフト兵のアスランは親の仇だ。あの頃、アスランはまだ入隊していない。そんな理屈、通じるはずがないのだ。そこにナチュラル、コーディネイターは関係ない……
「広げるは容易く、消すは難しいものです。戦火は…」
宗教家のマルキオらしい言い方だが、それさえアスランには突き刺さった。一体、この戦争はどこからこんなに広がった?
アスランは分からなかった。
シオンはパナマの戦いの跡を見つけ、降り立った。まだザフト軍のMS隊も少しいるが、基地の敷地内の腐臭に思わず鼻を覆った。
そこかしこに、撃ち殺された地球軍兵士の死体が転がっていた。南米の高い気候によって腐敗が早い上に、周辺の野生動物か鳥に喰われた跡さえある。確認したところ、投降した者はいない。皆殺しにされた。誰も彼もがそれを面白がっていた。
いくら地球軍の基地で、アラスカで大勢の仲間を殺されたといってもこれでは…只の虐殺じゃないか。
流石に南アメリカ合衆国の政府や都市まで被害は及ばなかった。しかし、もし南米全土を攻撃しろなんて命令が下ったら、どうなるのだろう?
「おかしいだろう。南米はプラントのエネルギー輸出を受けている国だぞ?」
連合に編入されたとはいえ、南米は汎ムスリム会議や大洋州連合と同じプラントのエネルギー輸出を受けている国。南米のプラント感情を悪化させるような行為ではないか。ここにだって、南米出身の連合兵士はいたはずなのに。
ナチュラルだから、良いと?ならば、何故中立のオーブに地球軍が攻めてきて味方に引き入れようとする?
これでもし、オーブが地球軍の軍門に降ったらどうする気だ?マスドライバーを潰すどころか、市街地への無差別攻撃でもやるのではないか?
そう考え、トゥルースの元へ戻ると整備していた兵士達が声をかけてきた。
「凄い機体ですね、これ!」
「あ、ああ…ヘリオポリスの機体のデータも使ったからな。」
「これだけ凄いのがありゃ、地球をぶっ潰してナチュラル共を皆殺しに出来ますね!」
ナチュラルを皆殺し?
「守るための戦争じゃなかったのか?」
「…何言ってるんですか?だから、皆殺しにすりゃ良いんじゃないですか。」
「……オーブはどうなる?」
「は?どうせ、ナチュラル共の国なんだ。全部滅ぼせば良いでしょう?」
シオンは今度こそ殺意さえ覚えた。だが、それを必死にこらえる。
「言っておくが、俺はオーブの出身だ。家族もオーブにいるし、ナチュラルの友人もいる。」
だが、彼らはシオンの言っていることの意味が分からない様子だった。
どこが進化した人類だ…只の愚か者じゃないか。自分達の親か祖父母だってナチュラルなのを忘れている。
プラントに来たときから抱いていた不満は高まりつつあった。ナチュラルもコーディネイターも互いを人間と思っていない。だから、あんな発想が出来る。昔はイザークとディアッカ、イリアともそこだけは合わなかった。
宗教や肌の色で…言葉で相手を人間だと見なさない。それが今度は遺伝子操作……何も変わってない、人間は。
野蛮なナチュラル同士の争いだとか言いそうだが、その争いを招いたのはザフトのパナマ攻略だ。だが、奴らはそれを言っても理解できないだろう。その内、親プラントの大洋州連合の完全な乗っ取りなんて言い出すのではないか?
シオンはそんな可能性すら疑い始めていた。
DESTINYで挟まれたウズミの演説をここで入れました。
未だにファンの間でウズミの決断は賛否がありますが、私は賛成派です。書いたように仮にプラントを滅ぼせても、今度は地球にいるコーディネイターを皆殺しにするのが目に見えています。そうなれば、オーブは勿論親プラントのアフリカ共同体や汎ムスリム会議、大洋州連合、エネルギー輸出を受けている南米だって撃たれるでしょうから。下手をすればスカンジナビア王国や赤道連合も。
アスランは行った様子がなかったパナマをシオンで入れました。南米の気候なら、数日で死体は腐るでしょう。