機動戦士ガンダムSEED REVERSE 作:meitoken
地球軍が求めるマスドライバー施設があるカグヤに終結したオーブ軍……アークエンジェルのクルー達は背水の陣による最後の交戦を試みる、そう考えていた。
「オーブを離脱!?我々に脱出せよと、そうおっしゃるのですかウズミ様!」
「あなた方にももうおわかりであろう。オーブが失われるのも、もはや時間の問題だ。」
ウズミは余りにもあっさりとそれを言い切った。地球軍が攻めてくると聞いた時点で分かりきっていたことだ。
「オーブが…失われる?」
昨日、軍が保護した民間人リュウ・アスカが信じられないような表情になる。無理もないだろう。つい三日前までは戦争とは無縁の暮らし…ヘリオポリスのキラ達と同じだったのだから。
「お父様、何を!」
同じ意見のカガリが異を唱えるが、ウズミが制する。
「人々は避難した。支援の手もある。後の責めは、我らが負う。」
「後の…責め?」
フブキが復唱した。それに前後して、パイロット達も管制室へ入ってきた。
「が、例えオーブを失っても失ってはならぬものがあろう。」
「失っては…いけないもの?」
リュウが復唱し、ウズミは彼女を一瞬申し訳なさそうな表情で見つめて頷く。
「地球軍の背後には、ブルーコスモスの盟主ムルタ・アズラエルの姿がある。」
「やはり…!」
フブキが拳を握りしめ、マリューも同じ想いだ。元々パイプを持っていたハーベストだけでない、あの査問でキラどころかサイ達までもスパイ呼ばわりしたあの腐敗ぶりから、既に連合はブルーコスモスそのものと化していたのだ。ブルーコスモスの盟主が裏で糸を引いているならば、今回のオーブ侵攻も奴の仕業だろう。
「そして、プラントも今やコーディネイターこそが新たな種とするパトリック・ザラの手の内だ。」
アスラン・ザラが顔を伏せ、パイロット達がそれに気づく。どうやら、彼は父の件で何か思い当たることがあるようだ。
「このまま進めば、世界はやがて認めぬ者同士が際限なく争うばかりのものとなろう。そんなものでよいか、君達の未来は?」
際限なく争うばかりの者…ナチュラルとコーディネイターだけでなく、共存や理解を示す同胞をも殺す世界………少なくともマリューやここにいる者達はそれを望んでいない。だからこそ、オーブを守る選択をしたのだ。
「別の未来を知る者ならば、今ここにある小さな灯を抱いてそこへ迎え。……またも過酷な道だが、分かってもらえような、マリュー・ラミアス?」
マリューは先日、心を通わせたムウの顔を見た。ムウは微笑んでそれに答え、後ろのレイラも頷いた。
「小さくとも強い灯は消えぬと、私達も信じております。」
オーブは失われる。だが、それでもその中で燃えていた灯を消すわけにはいかない。その灯を持つ者がいなくなれば、その灯は消えてしまうのだ。彼らは託されたのだ。ナチュラル、コーディネイターが際限なく争いどちらかが滅びるまで戦う物ではない、未来を。
マリュー達がアークエンジェルへ戻った後、ウズミはカガリの頭をなでた。そして、キラとユリをじっと見つめていた。
「すまない、宇宙へ連れて行くようなことになってしまって。」
「気にしないで……ブルーコスモスがいるなら地上に残っても同じでしょうから。」
リュウ・アスカは彼らについていくことにした。ブルーコスモスが地球軍を牛耳っているのなら、コーディネイターの彼女は危険にさらされる。かといって、アークエンジェルは更に危険な場所へ行くことになる。どちらも同じなら、信頼できそうな人の傍が良いと言い出したのだ。
「……ねえ、あの白い艦……アークエンジェルって、前にニュースで領海でザフトと戦闘をしていた?」
「…ああ、アラスカで上に裏切られてな。」
上層部に裏切られた?そんなことがあったなんて。
「ついでにいうと、さっき入ってきた地球軍のパイロット……俺やお前と同じくらいの歳だっただろう?」
「…ええ。」
「………ヘリオポリスの学生なんだよ、元々。」
え?今、なんて。ヘリオポリスの?
「ザフトと地球軍の戦闘に巻き込まれ、アークエンジェルに乗ったんだ。生き残るために…」
「そんな…!」
リュウが家族と平和に暮らしていた頃、彼らは突然戦争に巻き込まれて地球軍の兵士になった?そして、その結果裏切られた?
「そんな目に遭ったのに、まだ戦うのね。あの人達。」
「ああ……何と戦うべきか、それを探している。」
「何と、戦うのか……」
私にも、出来るのかしら?それが…
先ほどの戦闘で見た、破壊されたオノゴロの有様………本島も同じようなものだ。見慣れたものが見るも無惨な姿になっていた。
ニュースでしか見なかった……外で行われていた戦争。あの時、理解した。遠巻きでも見えた……子供達がはしゃいでいたM1アストレイが地球軍のMSと戦っていた。そして、避難するときに家族と一緒にMSの戦闘による爆発で響いた妹の悲鳴。
アレが、当たり前のように外では行われていた。ヘリオポリスや先日の領海近くでの戦いさえ、リュウはどこか余所事だった。もう、見て見ぬふりは許されない。
オーブ軍は宇宙軍のイズモ級二番艦クサナギに残りのM1を収容、ヘリオポリスの段階から密かに持ち出して新型バッテリーのテスト用に組み立て途中だったデュエル、可変機のデータ収集で組み立て途中のイージスもその中に収容される。
アークエンジェルは単独で大気圏離脱能力を持たないため、クサナギのプラズマブースターとローエングリンを用いたポジトロニック・インターファライアンスで大気圏外への離脱を行う。首長家の一人から説明を受け、クルー達がそれに合わせた調整を総出で行っている。
「お父様、脱出は皆で!残して等行けません!」
カガリはウズミ達を見捨てて脱出できないと、クサナギへの搭乗を拒み続けていた。フブキもカガリが行こうとしないので動けず、リュウも同じだった。
アークエンジェルの脇でアークエンジェルとザフトのパイロット達は機体を背に自身の歩む道について話していた。
「そりゃあ、このままカーペンタリアに戻っても良いんだろうけどさ。どうせ敵対してんのは地球軍なんだし。」
ディアッカはザフトに戻るようなことを言ってはいるが、意志はアークエンジェルを選んでいるようだ。
「ま、ザラ隊としちゃ隊長に従うけど……もう、解散しちまったからな。」
イリアがレナをチラリと見て、レナはきょとんとした。それを見たシオンも軽いため息をついた。
「俺も………このままザフトに戻って良いとは思えない。また、レナと戦うのもごめんだ。」
「兄さん…」
レナが安堵の表情を浮かべ、ミサキが側に歩み寄った。
「じゃあ私はシオンと一緒に行くわ。」
ミサキがそっとシオンの手に触れ、シオンはそれを優しく握り返した。
俺はレナと…ミサキと共に違う未来を目指す。オーブのようにナチュラルとコーディネイターが共に生きる未来を。
「『ザフトのアスラン・ザラ』か…」
プラントでラクスにかけられた言葉を思い出し、アスランは自嘲するように笑う。
「彼女には判ってたんだな。」
「アスラン?」
ユリが心配するように問うと、アスランはこれまで抱えてきた物を打ち明けた。
「国…軍の命令に従って敵を討つ。それで良いんだと思っていた…仕方ないと、それでこんな戦争が一日でも早く終わるならと……」
だが、そうして考えるのをやめて銃を撃ってきた結果はどうだ?延々と撃ち合い続けて、遂には味方しないという理由で中立国まで同じ地球の国に攻撃されるようなことになってしまった。
「でも、俺達は本当は…何とどう戦わなくちゃいけなかったんだ?」
その問いにキラが昔のような笑顔を見せる。
「一緒に行こう、アスラン。」
全員がキラに注目する。
「みんなで探せばいいよ。それもさ…」
皆が希望を得たかのように頷いた。
地球軍のMSがカグヤへ侵攻してきた。レーダーが捉えたのは例の新型部隊。本隊はオノゴロと本島の制圧を優先したようだ。
「発進を援護します!アークエンジェルは行ってください!クサナギは!?」
〈すぐに出す、すまん!〉
〈おい、俺達も行くぞ!〉
〈駄目よ、イリア!〉
イリアが参戦を望むが、レナが却下した。バスター、シューター、ウインドの三機はグゥルやオワゾがないと空中戦は出来ない。あったところで、あの六機が相手では無理だろう。
〈空中戦になる!お前達の機体では無理だ!〉
〈貴方達はアークエンジェルに着艦して!〉
〈クソ!〉
〈肝心なときにお荷物だなんて!〉
ディアッカとミサキが歯ぎしりしながらも指示に従い、イリアのウインドと共に飛べない三機はアークエンジェルに着艦した。キラ達の五機だけはクサナギに取り付く形で宇宙へ出ることとなった。
管制室ではいつまでも行こうとしないカガリをウズミが引っ張り、強引に連れ出した。
「我らには我らの役目、お前にはお前の役目があるのだ!」
「でも!」
「想いを継ぐ者なくば、全て終わりぞ!何故それが分からぬ!」
違う、分かっている。そんなことは!だが、それでも父と別れるなど出来ない。16年間、愛して育ててくれた人を!フブキだって、辛い。血のつながりがなくとも、この数年間ウズミとは実の親子の絆を育んだのだ。フブキにとっては命の恩人であり、父親なのだ。
六機の新型が近づいて来たことをアスランが知らせる。
「来るぞ、キラ!ユリ!」
〈発進急いでください!〉
キラがクサナギを急かす。
〈アークエンジェル、まだか?〉
〈早くローエングリンを撃って!〉
シオンとレナがアークエンジェルに繋ぐ。
〈分かっている!〉
〈ユリ、先に行っているぞ!〉
サイが二人に答え、シュウがユリに繋ぐ。
〈ええ、後から行くわ!〉
前後して、アークエンジェルがローエングリンを上空へ向けて撃った。陽電子砲のエネルギーとブースターのエネルギーが作用して、アークエンジェルは一気に加速する。
今回はレイダーの背中にカラミティが、プランダーの背中にグリードが乗ってビーム砲でアークエンジェルを狙うが、フリーダムとトゥルースの砲撃がそれを阻止した。
クサナギまで引っ張られたカガリをウズミが待っていたキサカに投げつける。
「急げ、キサカ!この馬鹿娘と不良息子を頼むぞ!!」
「は!」
キサカが答えるが、カガリはまだ父に対して未練を抱いている。
「お父様!」
ウズミは少し歩み寄り、昔のように優しく手を添える。
「そんな顔をするな。オーブの獅子の娘が。」
「でもっ…」
ウズミの言いたい事はわかる。しかし、ここで別れたらもう父と会う事ができない。そんな気がしていた。
「父とは別れるが、お前は一人ではない。」
ウズミは懐から一枚の写真を取りだし、カガリに手渡した。
「きょうだいも、おる…」
写真には若い女性が産まれたばかりの二人の赤ん坊を抱いている姿が写っていた。何気なく裏返すと、そこに書かれていた文字にカガリは息を飲んだ。
『キラとカガリ』……
きょうだい?自分とキラが?ならばユリは?
訳を聞こうとしたが、ウズミは一歩下がり、微笑んだ。
「そなた達の父で幸せであったよ…そして。」
次にリュウを見る。
「君には……申し訳ないことをしてしまったな。すまぬ…」
「い、いえ…」
リュウが惜しむような素振りを見せるが、その続きを言う前にドアが閉まった。
「父上っ!」
フブキが背後で叫んだ。
ウズミは最後まで子供達を見届けながら叫ぶ。
「行け、キサカ!頼んだぞ!」
完全に娘と息子の姿が見えなくなり、クサナギの最後の発進シークエンスが開始された。
〈ディビジョンC以外の全要員、退去を確認。オールシステムズ・ゴー。クサナギ…ファイナル・ローンチ・シークエンス、スタート。ハウメアの護りがあらんことを。〉
「兄さん、来たわ!」
〈ああ!〉
〈姉さんはレナ達と先に行って!〉
〈置いてけぼりにならないでよ!!〉
ブレイブ、トゥルース、アフェクションがクサナギの左舷を目指し、グリードとプランダー、ディザスターが三機を追う。ビーム砲で三機を狙うが、マスドライバーを傷つけてしまうために思うように狙えない。三機は相手の照準など構わずにクサナギに取り付き、アフェクションが真っ先に取り付いた。一泊遅れて、ブレイブも取り付く。
〈シオン!〉
ユリの声に気付いて振り向くと、トゥルースが遅れていた。このままでは地上に取り残されてしまう!
「兄さぁん!!」
〈レナァ!!〉
ブレイブが左手を伸ばし、本体のスラスターを全開にしてトゥルースも手を伸ばす。後一歩、というところで…ブレイブが咄嗟に機体を前に出すことで正に首の皮一枚という差で掴むことができ、トゥルースを引き寄せた。
ユリ達が向かった直後、キラとアスランもカラミティ、フォビドゥン、レイダーの攻撃を受け続けながらクサナギの右舷に取り付こうとする。フリーダムが船体を掴んで背後のジャスティスに手を伸ばす。
「くあぁぁぁあ!」
〈ぬぉぉぉ!〉
この一瞬しかない!キラとアスランは互いに全ての神経を機体の手に集中させ、掴むことができた。フリーダムがジャスティスを引き寄せ、未だに攻撃を続ける新型を睨む。
ここまで来たら五人に言葉はいらなかった。フリーダムが背中のバラエーナと腰のクスィフィアスを、ジャスティスがファトゥム-00のフォルティスを、アフェクションが腰のクスィフィアスを、ブレイブが右腕のビームライフルを、トゥルースが背中のバラエーナを構えた。
五機が一斉に海面を砲撃し、水しぶきを上げて六機の視界を遮り怯ませる。その数秒の間にクサナギは五機と共にマスドライバーから完全に飛び立った。もはやクサナギを狙うことは敵わない。
子供達を乗せたアークエンジェルとクサナギが飛び立ったのを管制室で見届けたウズミは安堵の笑みを浮かべ、コトー・サハクら最後まで残った首長達の顔を見つめる。
「種は飛んだ……これでよい。」
ウズミはパネルのキーを回し、スイッチを押す。
「オーブも、世界も…奴らの良いようにはさせん!」
一瞬の閃光の後、マスドライバーが先端へ向けて順々に爆発していき、最後に天へ向かうその先端が崩れ落ちる。それとほぼ同時に全てのデータをコピーし、残ったデータやMSのパーツを抱えたままモルゲンレーテの本社も工場も吹き飛んだ。オーブの獅子は最後まで力に屈せず、自国の理念を守り抜いた。己の命と引き替えに……
その光景に地球軍艦隊の将兵達は愕然とし、アズラエルは歯ぎしりした。モルゲンレーテも、マスドライバーも全て手に入らなかった。もはや、オーブを攻撃する意味など失われてしまった。
クサナギからもモルゲンレーテとマスドライバーの崩壊は見えた。
「ち、父上…!」
フブキが背後でガクリと膝をつき、リュウは口元を両手で覆った。
「そんな、ウズミ様……」
崩壊するモルゲンレーテとマスドライバーへ向けて共に果てた父をカガリは呼んだ。
「お父様ーーー!!」
そしてこの日、平和の国は地上から失われた。
そして、この一報は国民達を乗せた避難艦隊にも告げられた。その中には、あの戦闘のさなかで家族を失った少年がいた。
イメージ的にあの『暁の車』が頭の中で流れます、やはり。