機動戦士ガンダムSEED REVERSE 作:meitoken
ドミニオンを退けたアークエンジェルは急ピッチで損傷した箇所の修理を行っていた。同時にムウとレイラの言っていたザフトがいるという情報を確認する為に現在フブキとリュウが偵察に向かっていた。
「イージス、デュエルペイル戻ります!」
パネルを凝視していたサイが偵察に向かった二人の帰還を伝えた。
〈彼らの言ったとおりだ!〉
〈ザフト艦の……えぇと、高速艦のナスカ級が三隻!反対の港側、デブリの陰に隠れています!〉
リュウの声が上ずり、バルトフェルドが毒づく。
〈ナスカ級三隻とはまた豪勢な!〉
〈ドミニオンは?〉
〈以前動きありません!〉
キサカの問いにクサナギのオペレーターが答える。
ドミニオンは引き返した様子もない。こちらの様子をうかがっているか、それとも増援を待っているか。反対側にはナスカ級が三隻……まずい状況だ。挟まれれば勝ち目はない。しかし、マリューはある確信を持っていた。
〈フラガ達が何か情報を持ち帰れるか…くそっ、誰の隊だ?〉
「…クルーゼ隊です。」
そう、彼女の確信は敵の指揮官だ。ザフトがいるとムウとレイラは断じた。それが根拠だ。
「だから……ムウとレイラには判ったんだわ。彼らには判るのよ。なぜだかは自分でも判らないという事だけど…ラウ・ル・クルーゼと…レイス・シェイドの存在が。」
そう、少なくともその二人がいるのは間違いない。元々ザフトで抜きん出た実力を持つ二人が同じ隊にいるのは地球軍の情報にもあったし、ヘリオポリスで二人も指揮官として参加していた。アスラン達にも確認を取ったところ、オーブ沖では二人はアークエンジェルの追撃をアスラン達に任せていたという。だから、ムウとレイラはクルーゼ隊ではないと断言したのだ。
ユリはレイラと共にレイス・シェイドを追い、会議室と思しき場所に入り込んだ。照明がつき、奥の椅子にバイザーを着けた黒髪の女がいた。この女が…アスラン達の上官でヘリオポリスを攻撃したクルーゼ隊の副官?
「ようこそ、禁断の聖域へ。」
「…何の真似?大体、禁断の聖域って何?」
レイラが銃を向けるが、レイスは動じない。それどころか、まるで世間話でもするかのように余裕な態度を見せて立ち上がる。
「言葉通りの意味よ……腐りに腐った人が最低の行いに溺れた欲望の聖地。」
「ここは禁断の聖域…神を気取った愚か者達が夢の跡。」
ラウはキラとムウに銃を向けながら、歌い上げる。そして…
「君は知っているのかな?今のご両親が君の本当の親ではないということを。」
キラは息をのんだ。自分の両親が本当の親ではない。それは、カガリからあの写真を見せられたときから考えていた可能性だ。どちらか、或いは両方とも本当の親ではないということに。
「貴様、何を!」
ムウの反論をラウは銃で封じる。
「だろうな…知っていればそんな風に育つはずもない。何の影も持たぬ、そんな普通の子供に。」
レイスは会議室から出て、銃を向けながら後ずさる。だが、追い込まれているのはまるでユリとレイラのようだった。
「アスランからキラ・ヤマトの名前を聞くまでは夢にも思わなかったわ。キラが、あの子だとは。死んだと思っていたもの…あの双子、特にキラの方は。」
「双子…じゃあ、カガリはやっぱり私達の!?」
「カガリ…カガリ・ユラ・アスハね。そうよ、貴女達三人は実のきょうだい。その生みの親であるヒビキ博士と共に当時のブルーコスモスの最大の標的。その姉である貴女も含まれていたのよ。」
ブルーコスモスの、最大の標的?私達が?
「なのに、貴女達は生きて成長して…戦火の中でも生きている。」
「……私が、キラがなんだって言うの?」
ユリも銃を向けるが、まるで相手は動じない。二対一なのに……
「何故かな?それでは私とレイスのような者でもつい信じたくなってしまうじゃないか!彼らの見た狂気の夢をね!」
「僕が…僕と姉さんがなんだって言うんですか!貴方は何を言ってるんだ!?」
「君は人類の夢、最高のコーディネイター。」
最高のコーディネイター?人類の夢?僕が?
キラは銃を向けながらも引き金を引けずにいた。生身で人を撃つ躊躇ではない。この距離ならキラのでも当てられる。だが、この男の話に恐怖と同時に何か引き寄せられるものを感じた。
「そんな願いの元に開発されたヒビキ博士の人工子宮。それによって生み出された唯一の成功体。彼の息子…あまたの兄妹の犠牲の果てにね。」
人工子宮?この部屋に来るまえに見かけた、あの装置が?あの機械で、自分が生み出された?ホルマリン漬けにされた奇形児もあった。あれが、あの機械で生み出されようとして失敗した子供?
レイスはキラ達がいる場所とは違う研究室にやってきた。ユリはレイラと共に追うが、二人共撃てずにいる。
「キラが…キラが唯一の成功体だって言うのなら、私は何なの!?」
「もう言わなくても分かるでしょう?貴方はヒビキ博士の娘、キラの実の姉でありそのコーディネイターの失敗作。廃棄処分される予定だったのを、貴女のお母様が守ったの。」
廃棄、処分?生まれてすぐ、殺されるはずだった?
「うるさい!」
レイラが銃を撃つが、レイスはそれに反応して奥へと逃げ込む。
「あ…ぁあ……」
「ユリ、しっかり!レイスの言うことなんか嘘に決まってるわ!!」
「ラクス・クラインにバルトフェルド隊長、それにアスランとシオンまでもか?」
「ああ、イリアとミサキも一緒だ。シューターにミサキが、イリアもウインドに乗ってる。」
「何故だ、ディアッカ!何故!?」
何故、軍を裏切るような真似をしてまで!戦争を止めたいなら、軍や政府に訴えれば良いのに!
イザークはディアッカが騙されていると思いながらも、彼の言葉に信じたい何かを感じていた。
「命令に従って戦うしかない。ずっとそう思っていたの。でも……そうやって、諾々とやってきたら、今どうなってる?貴方なら分かるでしょう?」
ニコルは銃を向けながらも、引き金を未だに引けない。
「ぼ、僕は…」
「ニコル、あのヘリオポリスのメイ・ハーベスト……命令されたらあの子を殺せる?」
ニコルは息をのんだ。彼女を殺せという命令?軍人なら、従うべきだ。だが…
「み、民間人じゃないですか。スパイだっていう確たる証拠もないのに!」
「今のザフトなら、彼女のお父さんが地球軍の高官だからスパイだって言うわよ。」
それはつい先日、父からも言われたことだ。既に評議会も軍も真偽より戦意高揚の方便だけほしがっている。
「僕は、僕の秘密を今明かそう。僕は人の自然そのままに、ナチュラルに生まれたものではない。受精卵の段階で人為的な遺伝子操作を受けて生まれたもの…」
ラウが口にしたのは、誰もが一度は聞いたであろうジョージ・グレンの告白だ。
「人類最初のコーディネイター、ジョージ・グレン……くくくく、奴の齎した混乱はその後どこまでその闇を広げたと思う?あれから人は、一体何を始めてしまったのか知っているのかね?」
ラウは研究室の照明をつけて近づいてくる。
「ブルーの眼とブロンドの髪……才能を受け継がせたい。」
別の研究室でレイスはジョージ・グレンの齎した技術で、人が何を始めてしまったのかを語る。
「あんな眼の色が良い、こんな髪が良い。こんな顔が良い。優れた学者にしたい、スポーツ選手にしたい。そんな願いで自分の子供を作ろうとしたのよ?多分、こう思ったのでしょうね…自分の子供を『第二のジョージ・グレン』にしたい。でも、これじゃあまるで買い物よね?」
だが、何事でもエラーは起きる。早産、死産、流産……だが、親達はそれによる子供の死を悼むことはなかった。大金をかけて、遺伝子操作したのに失敗したことそれ自体をなじった。
研究者達はそれに対して、生身の母胎で完全な保障など出来ないと子供を死なせてしまった事への罪悪感さえなかった。
仮に無事に生まれたとしても、髪や眼の色が違う…望み通りの容姿に生まれなかったというだけで捨てるか殺す親までいた。或いは、先天的な疾患を抱えることとなった。
「おかしいわよね?笑っちゃうわよね?可愛いはずの子供を、そんなくだらない理由で捨てて、挙げ句に殺すんだもの。何でだと思う?」
「高い金を出して買った夢だ…誰だって叶えたい。誰だって壊したくはなかろう?」
そんな状況で、メンデルの遺伝子研究所に勤めていたユーレン・ヒビキ博士はその最大の不確定要素が妊娠中の母胎であるという結論に行き着いた。安定した状態で胎児を育むべく、人工子宮を作り出した。
「だから挑むのか?それが夢と望まれて叶えるために!」
しかし、その人工子宮でも何千、何万もの子供が犠牲になった。しかし、それでもヒビキ博士は研究をやめなかった。
「人は何を手に入れたのだ!その手に!その夢の果てに!」
「速く走れる子?より賢くなれる子?それは誰のため?子供のため?いいえ、自分のためよ!生まれてくる子供の未来のためだといいながら、なんで注文通りにならなかったら捨てたり殺すの?ねえ、答えられる?」
ユリもレイラもこの研究所で行われた人間達の悍ましい夢、その所業に何も言い返すことが出来なかった。そして、その果てに起きたのは今の時代まで続く優れた能力を持つコーディネイターへの恐怖と迫害、そしてそれに対するコーディネイター達の反発………
「知りたがり、欲しがり…やがてそれが何のためだったかも忘れ、命を大事と言いながらもて遊び殺し合う!?」
キラはその言葉に自分の存在それ自体を疑った。ヒビキ博士…父は何のために自分を作った?最高のコーディネイターだから幸せ?失敗作だからユリは不幸?只のナチュラルのカガリは存在する価値がない?
「ほざくな!」
遂にムウが反撃し、ラウも撃ち返す。
「何を知ったとて!何を手にしたとて、変わらない!!」
瓶に入った薬品が飛び散り、煙が上がり、手術用のメスや機器がはじける。
「最高だな、人は。」
「ユリ、貴女は可愛そうよね……ほんのちょっと理想に届かなかったりしただけで殺されるはずだったんだもの。殺されるために生まれた心境はどう?ねえ、教えてくれない?」
「黙れ!」
レイラがユリを庇い、銃を撃つ。
「は!同類を庇う!人の狂った夢が作った化け物同士、滑稽ね!」
「私が?どういうことよ!?」
まるでレイラのことまでキラとユリの同類だと言わんばかりだ。だが、レイラはナチュラルのはずだ。
「ラウはそんなあんた達を滅ぼすのよ!この宇宙にはびこる、人という悍ましい化け物を!理由も、権利もある!私にもそれを助け、手を下す権利も理由もある!ラウに比べれば、取るに足らないものだけどね!」
「ならば存分に殺し合うがいい!それが望みなら!」
「何を!貴様ごときが偉そうに!!」
ムウの銃弾がかすったところで、ラウは頭上の照明のワイヤーを撃ち抜き、照明が落下した。
「私にはあるのだよ!この宇宙で只一人!全ての人類を裁く権利がな!」
「ふざけるな!この野郎!」
だが、ラウは聞き流す。
「覚えてないかな、ムウ?私と君は遠い過去…まだ戦場で出会う前、一度だけ会ったことがある。」
「……何だと?」
ムウはその言葉に耳を疑った。一度だけ、会ったことがあるだと?確かに、この男の声はどこか、記憶の彼方にある。
「あんたに何故、そんな権利があるっていうのよ!?」
レイラの反撃を躱し、機材の陰に隠れたレイスは一息つくと…
「……昔あるところに、一人の少女がいました。その子はとても裕福な家庭に生まれ、お母さんは娘が生まれてすぐに死んでしまったが、優しいお父さんと一緒に暮らしていたから寂しくありませんでした。そんなある日、お父さんは一人の少女を屋敷へと連れてきたのです。」
突然始めた童話に出てくる様な台詞にユリは茫然とした。だが、レイスの続けた言葉にユリは一つの仮説に辿り着く。
「家族が増えて楽しくなるはずだった生活。しかし、少女の思惑とは違い、お父さんは娘などお構いなしに連れてきた少女に過剰なまでの愛情を注ぎました。娘はお父さんに不満を言っても最初からいなかった様に無視された。そうして孤独に過ごしている中……娘はある事実に気付いてしまいました。お父さんが連れてきた少女はお母さんのクローンだと。」
「…ま……まさか、その母親のクローンって…」
レイラの声が震えていた。ユリも自分で行き着いたその可能性を疑った。
「…そうよ。貴女は、愚かな私の父フー・ウォンが妻愛しさに別人であることも判らず、多額の寄付と引き替えにヒビキ博士に造らせた狂気の愛の形。私の母リーラ・ウォンのクローンなのよ……同じクローンでも…ラウとは違い完全な、ね。」
レイラは幼い日のことを思い出した。どこかの施設で暮らしていた自分を父が引き取り、大きな屋敷に連れてきた。そこに自分より少し年上の少女がいた。暫くは仲良くしていたが、何時からかその子はまるで自分を親の敵の様な目で見る様になった。そして、父と二人で行った旅行から帰った時には既にその子は屋敷からいなくなっていたが、父は関心を示さなかった。あれが今目の前にいる女だというのか?
「そ、そんな…馬鹿なことが!?」
思い起こせば、どこかの病院のような施設だった。まさか、それがここだとでもいうのか!?
一度だけ会ったことがある…どこか、聞き覚えのある声。その答えがラウの口から語られた。
「私は己の死すら金で買えると思い上がった愚か者…貴様の父、アル・ダ・フラガの出来損ないのクローンなのだからな!」
遂に明かされた人の業……尚、掲示板時代にレイラの義理の両親に名前はなかったけど、つけました。
ラウと同じでレイスがクローンじゃ逆につまらないので、レイラがクローンになりました。
尚、完全なというのはクローンでテロメアが関係ないという説もあるとどこかで見たのでそれにつきました。
そして……レイスがラウと共に世界を滅ぼすのは正にこれが理由。ある意味、ラウとは違う理由で人類を滅ぼす正当な理由と言えると私は思います。でも、レイスは自分の権利などラウに比べれば小さいと考え、正に人類を裁くに相応しい断罪者を助ける者を自負しています。