機動戦士ガンダムSEED REVERSE 作:meitoken
ドミニオンはアークエンジェルと激しく撃ち合っていた。互いにミサイルとビーム砲を撃ち合いながらも、決め手を欠いていた。
ジャスティスがファトゥムのビーム砲でフォビドゥンを攻撃し、シールドでそれをはじかれる。が、それを囮にフリーダムがレールガンでフォビドゥンを吹き飛ばした。そこから更にカラミティとレイダーが襲ってくる。
グリードが対艦刀で斬りかかり、ブレイブがシールドでそれを受け止める。押し切ろうとしたところでブレイブは急速後退して体勢を崩したところで蹴り上げた。プランダーが後ろから撃ってきたところにトゥルースがミサイルで体勢を崩し、アフェクションがビームサーベルでディザスターを食い止める。
だが、その間にも双方のパイロット達はザフトの動きに注目していた。
〈目標はあくまでエターナルだ!〉
「…イザーク・ジュール、デュエル出るぞ。」
「ニコル・アマルフィ、ブリッツ出ます。」
〈ラウが出たらポッドを射出してね。〉
「MS来ます、熱門照合!ジン12、デュエル、ブリッツ、シグー、ハイマニューバ!ブルー22、マーク18デルタ!」
ミリアリアの報告を聞いてバルトフェルドが歯ぎしりする。
〈ち、クルーゼめ!嫌なときに嫌な位置に!〉
エターナルとクサナギがザフトの迎撃に回り、M1とデュエルペイル、イージスが迎撃に回った。
〈いいか、相手はお前よりずっと経験が上だ!連合の連中とは訳が違うぞ!〉
「分かってる!」
リュウは震えた。アレには自分や家族と同じコーディネイターが乗っている。…キラやユリはずっと同じ想いをしていた。
私も…
いや、迷ったら殺される!相手はそんなの気にしないんだ!!
フレイは射出されたポッドのモニターで映った光に震えた。
アレが、戦争の光。アレで、パパが……キラも、トールもあんな風に?
あの光一つ一つの中で誰かが、父やキラのように死んでいく。
アークエンジェルにいた頃、居住区で見もしなかったものが今、フレイの眼前に広がっていた。
「ナスカ級よりポッドが射出されました。シグナルを確認。」
「なんで、戦闘を始めるなら捕虜を帰してからで良いはずなのに。」
レベッカは首をかしげた…いくら何でもおかしい。ジンに抱えさせて連れてくるでもなく…あのままでは漂流してしまう。
「どういうことですかね?撃ち落とさせたい、回収させたい?罠にしても、妙ですし…どうします、艦長さん?」
アズラエルも流石に意図を掴みかねているが、こちらはそれどころではない。アークエンジェルもこちらも構っている余裕がない。
「本当に乗ってんの、捕虜なんですかね?」
そう、アレに本当に捕虜に乗っているのかさえ分からない。実際は無人で、中に爆弾が仕掛けられている等という可能性もあるのだ。
〈けっ、ごちゃごちゃだぜ。〉
〈構ってられるかっての。〉
クロトとリョウもぼやいていた。
ディアッカはエターナルに向かうデュエルを見つけ、超高インパルスライフルを撃つ。
イザーク…やはり俺はお前と戦いたくないんだ!
最初の一射を躱したデュエルは攻撃をしてくる気配はない。二機は互いに睨み合った後、逃げるように進路を変える。
ニコルはミラージュコロイドを解除してエターナルのブリッジに肉薄した。今なら確実にエターナルを沈めることができる。だが、ブリッジの窓越しにラクスやバルトフェルド、メイの姿が見えた。今エターナルを沈めるのはメイを殺すという事だ。
できない…そんなこと、したくない……
ニコルは対空砲火を避けるようにエターナルから距離を置くが、そこにウインドがビームライフルを撃ってきた。
「イリア…!」
ウインドはエターナルから引き離してから撃ってくる気配はない。ニコルはそれを避けるようにM1の方へ向かった。
ミサキはエターナルに接近していながらも撃たなかったブリッツを見つけた。
「ニコル…」
やはり、彼はメイを撃ちたくないのだ。そして、撃たせてはならない。だが、それはニコルの命を奪うことに繋がりかねない。
イリアは進路を変えたブリッツを見て血が出る程に唇をかみしめる。
「くっ…判ってたことなのに!」
改めて自分の立場を思い知らされる。レナに着いていくという事はイザークとニコルを敵にするという事に。
キラはバイザーを開いて、首を振って汗を飛び散らせた。直後、カラミティが目の前に現れてすぐさまバルカンを撃ちながら後退して、フォビドゥンのフレスベルグを躱した。
〈まずいぞ、キラ!M1だけじゃジンに対抗しきれない!〉
〈このままだと、挟まれるわ!〉
レナの言うとおり、このままでは挟まれる。だが、キラは二人の声さえ聞こえていない。
〈キラ!ユリもどうしたんだ!?〉
シオンがプランダーの機動力に食らいつきながら呼びかけるが、ユリも反応がない。
キラの心にはまだラウの憎悪が染みついていた。
『ならば、存分に殺し合うがいい!それが望みなら!』
カラミティの砲撃を躱し、バズーカをビームサーベルで切り裂いたその瞬間でもあの呪詛が離れなかった。
ユリはアフェクションの機動力を活かして肉薄し、取り回しの良いビームサーベルでグリードの対艦刀を二本とも両断した。反撃にとビームサーベルを振るわれるが、機体を反転させてそれを躱す。
『殺されるために生まれた心境はどう?ねえ、教えてくれない?』
失敗作のコーディネイター……キラを作る過程で生まれた欠陥品のコーディネイター。なんで、私だけ生きている?沢山の子供達が生まれる前に死んだのに。なんで、無事に生まれたのに失敗作だから殺されなきゃいけないの?
分からない…何のために生まれたのか。生きているのか……疑いもしなかった、今の両親。
何もかもがユリの中で覆された。
〈アークエンジェル!私、フレイです!フレイ・アルスターです!!〉
突然、少女の泣き叫ぶ声が聞こえた。アークエンジェルのクルーは誰もが知っている声だ。
「フレイ?」
「ど、どうして?」
ミリアリアとサイは呆然とした。いや、アークエンジェルのクルーの誰もが同じ気持ちだった。
「な、なんであの女がザフトの捕虜に!?」
フブキも唖然とした。彼女はナタルと一緒に転属になったと聞いた。なのに、何故?
〈誰なの、この声!?〉
「説明は後だ!」
「…フレイ?」
キラは操縦を忘れてしまった。
フレイ?何故、彼女がここに?アラスカで転属になって、地球にいるはずなのに。
『ごめん、帰ってから…』
あの戦闘の直前、最後に彼女と交わした言葉が思い出された。
その隙を逃さず、レイダーの口のビーム砲ツォーンがフリーダムの翼を破壊した。
「捕虜って、この子がですか?子供ですよね…アルスター?」
「なんで…あの子が?」
アラスカでほんの僅かな時間だけ出会ったレベッカも呆然としていた。ナタルも同じ気持ちだ。転属先に現れなかったことは聞いていた。ならば、アークエンジェルにいると思っていたのに…ザフトの捕虜で。しかも今、国際救難チャンネルでアークエンジェルに助けを求めている。
「カラミティ、サブナック少尉!ポッドを回収しろ!」
〈あん?〉
上官に対するものとは思えない態度で答えるのと前後し、カラミティがフリーダムを砲撃した。
「ナタル……彼女は亡くなったジョージ・アルスター外務次官の娘です。保護する意味はあります。」
「急げ、サブナック少尉!」
レベッカが事情を説明し、その間にナタルはオルガを急かした。
「いや、しかし!だからといって罠だという訳じゃあない。」
「ですが!」
〈か、鍵を…!鍵を持っているわ、私!〉
鍵?鍵とは何だ?
〈戦争を終わらせるための鍵!だから、だからお願い!〉
戦争を終わらせる鍵?何のことだ?
シオンは声の主の叫びが分からなかった。だが、フリーダムは突然動きを止めたかと思えば、今度はポッドの方へ向かっている。
「どういうことだ!一体この声は!?」
〈説明は後でするわ!キラを止めないと!〉
フリーダムは損傷した状態でカラミティを追い越そうとしている。後ろから残りの五機が追ってきていることにさえ気づいている様子はない。
〈キラ、避けて!〉
レナが叫ぶが、遅かった。フォビドゥンのフレスベルグが頭部の半分を吹き飛ばし、レイダーのミョルニルが頭を完全に破壊した。
〈キラ!〉
ユリが真っ先にキラを守ろうとして割って入り、グリードのビームライフルがアフェクションの左腕を破壊し、プランダーが追撃のビームサーベルでライフルを両断した。
〈ユリ!〉
ブレイブがビームライフルで援護し、トゥルースも背中のビーム砲で敵を牽制する。
「へえ、面白いこと言うじゃないですか……彼女。何なんでしょうね、戦争を終わらせる鍵って。」
「……そっちは信用するんですか?捕虜は信じなかったくせに。」
レベッカは内心、アズラエルに呆れてしまった。だが、レベッカも気になった。戦争を終わらせる鍵とは、一体何だ?
その時……
〈フレイ…フレイ!!〉
別の声が聞こえた。誰だ?声からして、十代の少年のようだが。
「この声…キラ・ヤマト、生きていたのか!」
ナタルが唖然としていた。そちらは知らないが、どうやらこの声の主もアークエンジェルのクルーのようだ。しかも、この声はあのフリーダムから聞こえる。
フレイは先ほどからこちらを追ってくる白いMSから送られる通信の声に聞き入った。
「…キラ?」
聞き間違い?怖い余り、幻聴でもしたの?
〈フレイ!〉
違う…間違いない。
「キラ…!うそ…!」
キラだ。間違いない。生きていたんだ……死んだと思っていた。もう会えないと思っていたのに。
アスランはフリーダムを追い続けた。キラはフォビドゥンとレイダーの攻撃を受けても尚、あのポッドを追いかけていた。
「下がれ、キラ!」
肩のビームブーメランを抜いて、レイダーに投げつけた。レイダーは交わして右腕の速射砲を撃とうとするが、戻ってきたブーメランで右足を斬られた。
グリードがビームライフルで攻撃をしてきたが、トゥルースがミサイルで攻撃して体勢を崩した。
〈その状態で行けば、やられるぞ!〉
シオンが叱責する間にフォビドゥンが鎌を振り下ろした。アスランはフリーダムの腕を掴んで無理矢理後退させ、アフェクションも片腕を失った状態でフリーダムを背中で押す。
その三機を追いついたバスターとシューターがトゥルースと共に実弾武器でフォビドゥンとグリードを攻撃し、ウインドがプランダーを対艦刀で接近戦を仕掛けて引き離す。更に、修理をしている暇がなかったようで片腕を失ったフレイムもバルカンで援護する。
〈僕が傷つけた!僕が守ってあげなくちゃいけない人なんだ!〉
〈キラ……〉
〈キラ、ドミニオンにはナタルさんがいるから。大丈夫よ、ね?〉
ユリがあやすように諭した。レナも事情を知っているような様子だ。
あのポッドの人は、それほどキラにとって大事なのか?
一方、エターナルとクサナギの砲撃でヴェサリウスが致命傷を負い、エンジンや各部から火を噴いていた。アークエンジェルもフリーダムを回収して突破する中…シオンは沈みゆくヴェサリウスのブリッジに人を見つけた。艦長のアデスだ。地球出身のシオンをまともに扱ってくれた数少ないザフト軍人………他のクルーは見えない。脱出亭も何隻か見えるから、退艦したようだ。
「アデス艦長…!」
シオンは袂を分かった上官に敬礼した。
〈お世話になりました…〉
〈向こうでも、よろしくお願いします……!〉
ミサキとイリアも敬礼し、アスランやディアッカも同じだ。
〈あ、ヴェサリウス…〉
ニコルが呆然とつぶやいた。イザークの遠くでヴェサリウスが沈んだ。アデスも一緒に……アスランとディアッカが…イリアとミサキが、シオンがやったのだ。
〈ヴェサリウスが落ちたわね…ラウ。〉
〈こちらも撤退する。残存部隊は座標デルタゼロへ集結せよ…ここで地球軍とやり合っても何もならんよ。〉
〈隊長…副長…!?〉
ニコルが怒りを感じさせる口調だ。イザークも同じだ。
アデスとの付き合いは彼がヴェサリウスを受領してからのはずだから、相当長いはず。なのに、ラウもレイスもあっさりとしすぎている。
なんとも思っていないのか?
イザークの中に二人の上官への不信感が芽生えた。
「久しぶりだな、フレイ・アルスター。大丈夫か?」
ナタルはアズラエルにディスクを手渡したフレイを労ると、フレイは飛びついて泣きじゃくった。何かされた様子はないようだが、ザフトの捕虜…彼女にとっては父の仇の艦にいたのだ。それだけで充分怖かっただろう。
ナタルは何も言わず、肩を叩いた。マリューかムウならきっと、うまくやるのだろうが………が、ナタルにはこれが精一杯のいたわりだった。
フレイから受け取ったディスクを端末に通したアズラエルはデータを確認した。そこには先ほど取り逃がした五機のデータがあり、一つの単語が浮かんだ。
それを見たアズラエルは喜びを隠せなかった。
「く、くくく…くはははははっはははははは!!!いやぁったぁぁぁ!!!」
Nジャマーキャンセラー……それはアズラエルを喜ばせる最高の単語だった。
「キラ君、倒れたそうよ。」
アークエンジェルの医務室でマリューから聞いた話にムウは無理ないと思った。
あのメンデルで聞いた出生……両親が本当の親ではなかったという今まで疑いもしなかったことが根底から覆された。そして、本当の親が既にこの世になく、父親は何百、何千もの赤ん坊を殺してその果てにキラを最高のコーディネイターとして造り上げたという悍ましい出生……
マリューがメンデルの研究所で回収したファイルを開くのを見ながら、ムウもあのコロニーで知った自身を取り巻く悍ましい業を明かす。
「俺の親父ってさ…傲慢で、横暴で、疑り深くてさ。俺がガキの頃死んだけど、そんな印象しかなくて。」
写真ではムウを肩車して笑っているが、当のムウ自身はあの頃には既にこんな顔をする人とは思わなかった。
「なのに、信じられるか。なんで…こんな……!」
持って帰ったファイルは研究記録であると同時にキラとカガリ、ユリの父ユーレン・ヒビキ博士の手記だった。そこには最高のコーディネイター……通称スーパーコーディネイター製造のために多くの赤ん坊を殺した。だが、途中で行き詰まった。そこへ、父が彼の遺伝子研究者としての手腕に目をつけ、ある依頼をした。
それは自身のクローンの製造。あの頃、妻と不仲だった父は自然とムウにも風当たりが強くなった。だから、自分の思い通りに動く後継者を求め……その後継者に自分のクローンを当てようと考えたのだ。
しかし、『出来損ないのクローン』だった。
「オマケに失敗作?テロメアが短くて、老化が早いって…!なんだよ、そりゃ!」
テロメア……細胞分裂を繰り返す上で消費される染色体の構造。成長、ひいては老化に伴ってそれは短くなっていく。父の遺伝子から生み出されたラウはそのテロメアが父の残りの寿命と同じ分しか生きられない身体で生まれてしまった。
だから『出来損ないのクローン』………思い出せば、確かに一度だけ自分とよく似た少年と出会ったことがあった。それが、奴なのか。
だが、ラウは捨てられた。当然だ……自分のクローンを後継者にしようとしたら寿命が短いとわかり捨てたのだ。全く、笑ってしまうような馬鹿馬鹿しい理由だ。しかし、ムウは驚かなかった。何せ、意にそぐわない息子を後継者にしたくないから、自分のクローンを作らせて後継者にするような男だ。それが失敗作だから捨てるくらい、平気でやるだろう。正に『己の死すら金で買えると思い上がった愚か者』だ。
ファイルから目を背けたムウの頭をマリューが優しくなでた。
「貴方のせいではないのよ、ムウ。」
そんな労りを愛おしく思いながら、マリューに奴の根源を明かす。
「奴には過去も未来も…もしかしたら、自分すらないんだ。」
後継者という名の道具として生み出され、寿命が短いから捨てられた。人ではなくモノだ。モノとしての機能さえ持ち合わせていないから捨てられた。そんな愚にもつかない理由で生み出され、捨てられた……そんな安直な発想でクローンを作って、捨てるということが出来る世界。考える人間という生き物全てへの憎悪だけが、奴の感情なのだ。
リュウはクサナギの食堂で自分の手を見つめた。
今日、初めてMSに乗った。地球軍のダガー、ザフトのジンを何機か撃ち落とした。その数だけ人を殺した。キラも、みんな同じだ……
「今からでも降りて良いんだぞ?」
水を持ってきたフブキが淡泊ながら、案じてくれている。
「大丈夫……だけど…」
「だけど?」
「…やっぱり……怖かったから……少しだけ、甘えさせて?」
フブキの手を握り、肩にもたれかかった。フブキは何も言わずにそれを受け入れた。
「キラは?」
「アスランとラクスがついてる。カガリもそっちに行ったみたい。」
シオンはやはり表情が暗い。無理もない……あの沈んだナスカ級、ヴェサリウスはクルーゼ隊の旗艦つまりは同僚達の艦だ。レナにとっては元々敵でもシオンは違う。
「兄さん…」
「大丈夫だ……それはそうと、さっきの声の……誰なんだ?」
アレを問われ、レナは少し顔を背ける。
「…フレイ・アルスター。大西洋連邦の外務次官の娘……ううん、私やキラと同じヘリオポリスの学生。それで…キラが、好きだった子。」
いや、違う。多分今でもキラはフレイのことが好きだ。父親の一件で二人は急速に距離を縮めたが、思い起こせば確かにおかしい気がした。どことなく疑っていた……フレイはキラを使って父の復讐をしようとしていた。だが、いつの間にかそれが本物の愛に変わったのかもしれない。
レイラは屋敷にいた頃を思い出した。あの頃、施設で暮らしていた自分を父が引き取った。大きな屋敷に連れて帰られ、出迎えたのはいくつか年上の少女だ。最初の頃、確かに仲良くしていたがレイラが10歳になる前後には疎遠になって、敵意さえ向けられていた。
「馬鹿な奴…」
父はレイラばかりで娘を全く見なくなった。旅行さえ、娘をないがしろにしたほどだ。帰ってきた頃にはもういなかった……警察に捜索願を出すことさえしなかった。
私がいれば、娘はいらないってことか………
妻のクローン…『妻愛しさに造り上げた狂気の愛の形』とはよく言ったものだ。遺伝子上は同じでも、人格は別人そのもの。テロメア以外にもそういう理由でクローン技術は違法とされていた。
回収したヒビキ博士の記録に具体的な方法は記されていなかったが、レイラはテロメアが問題ない身体として生まれていた。つまり、ラウ・ル・クルーゼと違い数十年分早く老いることはないということだ。素人考えだが、ラウを生み出した過程で何か対策を見つけたのだろう。その見返りに、ムウの父に勝るとも劣らない資金援助を父はヒビキ博士に行った。
普通なら喜べるが、あんな話を聞かされた後では何の慰めにもならない。研究資金と妻のコピーが欲しいなどという自分の出自を聞いた後では……
本当に馬鹿な奴……別人であることさえ分からずに妻のクローンなんてものを造り上げるなんて。
レイラ自身も父にはもう何の情もない。15になって間もなく押し倒された。怖くなり、突き飛ばして逃げ出した。
それからレイラは大西洋連邦にいる親戚を頼って入隊した。そして、家出して間もなく父が自殺したことを知った。衝撃ではあったが、それ以上の感傷はわかなかった。今はこう思うのだ。いっそ、レイスが八つ裂きにした方が良かったのでは?
「殺したい奴がもういない……もう、私を殺しても収まらないのでしょうね。」
多分、レイスはヒビキ博士や父だけでなく母親…レイラのオリジナルさえ憎んでいるのだろう。無理もない、とさえ思う。そんな発想でクローンを作って実の子供を見なくなる親…そんな世界、普通滅ぼしたくなる。だが、それでも……
「止めるからね……貴女の妹として、遺伝子上の母親として。」
ユリはキラが倒れたことを知ったが、とても様子を見に行けなかった。新しくあてがわれたエターナルの士官室ですぐにユリは膝を抱えていた。
ユリとレイラが回収した資料はヒビキ博士と別の研究者が書いていた記録だった。手記にはユリが生まれた頃の様子も書かれていた。ラウやレイラを生み出したことで十分な資金を得た父、ヒビキ博士は研究を再開して遂に自分達の子供にまで手を出した。妻は自分の子を最後に、と約束する形で了承して……慎重に慎重を期して女の子が生まれた。
ユリ・ヒビキ……ヒビキ博士の実の娘だ。しかし、失敗作だった。遺伝子に組み込まれる才能が理想に僅かに届かなかった。それ故に失敗作の烙印を押され、廃棄処分される予定だった。
しかし、妻がそれに猛反発。銃までも取り出して娘を守ろうとしたのだ。父達が最終的に折れてユリは母の手で育てられた。その一年後、成功体のキラが生まれた。自分の子で最後という約束を破り、その後も多くの子供を犠牲にし続けた。そして、二度に渡り我が子を実験に使った。
無事にキラが生まれたが、ブルーコスモスの襲撃がささやかれていたために妻ヴィアの手によって妹夫婦…今のキラとユリの両親に託されたという。
「ユリ…」
アークエンジェルから来たシュウが声をかけてきた。
「……ねえ、泣いてもいい?」
「…………良いよ。」
何も言わないで抱き締めてくれたシュウの顔に胸を埋め、ユリは思い切り泣いた。
母もこんな風にあやしてくれたのだろうか?それは分からない……ただ、資料の中に紛れ込んでいた生まれて間もないユリを抱く母の写真だけはあり、それはキラとカガリの写真と同じで慈しむような顔だった。
フレイとキラの再会はかなわなかった。去年の劇場版によれば、生きていればキラはフレイと…となっていたそうです。
そして、ムウとラウ、レイラとレイスの関係は正に人類史上最悪の親子喧嘩ですね。