機動戦士ガンダムSEED REVERSE 作:meitoken
アークエンジェル、クサナギ、エターナルの三隻からMSが発進した。それから間もなく、あの巨大な光が見えた。
ジェネシスの二発目が発射されたのだ。
「あれは……!どこが目標!?」
ナタルより先にレベッカが問いかけ、CICのクルー達が答える。
「照準は…月、プトレマイオスクレーターと思われます!」
レベッカはやはり、と思うと同時に安堵した。少なくとも、相手にもそこまで自制する余裕はあったようだ。
だが、それでも地球軍にとっては最悪の目標であることに変わりはない。
月基地を発進した増援部隊はジェネシスの攻撃に気づいた。だが、艦隊司令が指示を出すよりも早くレーザーが到達し、艦内にいた人間達は身体の水分が沸騰し、破裂した。人間の身体の7割は水で出来ている。サイクロプスと同じ原理で体中の水が沸騰し、艦隊の人間達は何が起こったかも分からずに死んだ。そして、艦隊を焼き払ったガンマ線はそのまま月基地にも到達。
前線の様子を見守っていた高官も、都市部にいた民間人も一人残らず破裂して、最後にはガンマ線によって基地の施設と残っていた核兵器が爆発し、巨大なキノコ雲が上がった。
辛うじて攻撃から免れていた残存艦隊はもはや、前線への増援どころではなくなってしまった。艦隊の半数を今の攻撃でやられて指揮系統は完全に破壊された上に基地まで失ってしまった。損傷した艦艇の乗員達の救助及び、基地周辺施設の被害確認及び生存者の捜索が先になってしまった。
「支援隊より入電!『先の攻撃により、我艦隊の半数を喪失』!」
オペレーターの報告を聞き、ナタルは戦慄する。
「それをも狙っての照準か!」
これでもう、地球軍は撤退する月基地を失ってしまった。しかも、基地に残っていた艦隊も核ミサイルも破壊された。
完全に孤立に追い込まれてしまった。
「月基地を失っては地球軍はもう退くしかないわ!ナタル!」
〈これ以上アレを撃たせてはなりません!〉
〈矛先が地球に向いたら終わりだぞ!〉
ラクスとバルトフェルドが言うまでもなく、三隻のクルー達は同じ気持ちだ。既にジェネシスは三発目の準備を始めている。
本当に地球を撃たれるかもしれない焦燥と恐怖が彼らの胸中にあった。
フリーダムとジャスティスが再び装備したミーティアで先陣を切る。フリーダムはフルバーストでザフトのMS隊を戦闘不能にし、その砲撃から外れていたMS隊はアフェクションとブレイブがビームサーベルですれ違いざまに武器を破壊して離脱に追いやる。
ジャスティスがビームソードでネルソン級のブリッジを切り裂き、トゥルースは火力を最大限に活かして地球軍のMS隊の戦闘力を奪う。
ストライクルージュは初陣であったが、迎撃に現れたシグーをビームライフルで損傷させ、追撃を仕掛けたゲイツをペイルがレールガンで撃ち落とし、イージスがスキュラで更にジンを二機撃墜した。
ウインドはザフトのMS隊に攻撃され、ゲイツがアンカーを撃ってきた。イリアは対艦刀でそれを打ち払い、そのままバルカンでライフルを破壊し、離脱させる。シューターは一機ずつ、確実にジンを戦闘不能にしていく。
〈待てよ!こっちだって今はジェネシスを!〉
バスターはストライクダガー二機に追撃されていた。相手は聞く耳を持たず、ディアッカはやむなくガンランチャーで二機とも撃墜した。
だが、地球軍より出遅れていた彼らは未だにジェネシスは遙か彼方であった。その間に、M1隊の内マユラがゲイツと相討ちになった。
ドミニオンではアズラエルが核攻撃隊を搭載したドゥーリットルのサザーランドに繋ぐ。
「核攻撃隊を出せ!目標はプラント群だ!」
フレイがビクリと震え、ナタルは立ち上がる。
「アズラエル理事!」
「あの忌々しい砂時計、一基残らずたたき落とすんだ!奴らを呼び戻して、道を開かせろ!」
〈了解しました。〉
サザーランドが何の疑いもなく、答える。だが、ナタルはそれに異議を唱える。
「しかし、それでは地球に対する脅威の排除にはなりません!我々はあの兵器を!」
核攻撃隊を出すならば、目標はジェネシスかヤキン・ドゥーエのどちらかだ。少なくとも、ジェネシスを破壊すれば地球への攻撃手段は失われる。それが最良のはずだ。
「ああ、もう!どうしてそういちいちうるさいんだ、あんたは!?」
アズラエルが銃をナタルに向け、ブリッジの空気が凍り付いた。
「…そんなものを持ち出して、どうされるおつもりです?艦を乗っ取ろうとでも言うんですか!?」
「乗っ取るも何も、命令しているのは最初から僕だ!君達はそれに従うのが仕事だろう!なのに、何でいちいちあんたは逆らうんだよ!」
「ドゥーリットルより入電、ピースメーカー隊発進準備完了とのことですが…」
「発進させろ!フォビドゥン、レイダー、カラミティ!グリード、ディザスター、プランダーは!?」
無茶苦茶だ……この男は既にまともな判断が出来ていない。何故、こんな男が実権を握っている?
「いくらあんな物を振りかざそうが、プラントを落とせば戦いは終わる!大体コーディネイター全てが地球に対する脅威なんだぞ!僕らはそれを撃ちに来ているんだ!」
すぐ隣で聞いていたフレイは疑念を抱いた。
本当にそうなのだろうか?昔の自分なら、何の迷いもなく全てのコーディネイターは地球の敵と頷いた。だが、少なくともアークエンジェルにいたキラ達三人とヴェサリウスのイザークやニコルはそうは思えない。大体、核を撃てるようにNジャマーキャンセラーのデータをくれたのは、ラウだ。
フレイでさえ、目の前の男のいっていることの支離滅裂ぶりが目に余った。
「しかし!」
「自軍の損失は最小限に、そして敵には最大の損害!戦争ってのはそうやるもんだろう?」
ナタルの脳裏にメンデルでマリューから聞いた地球軍そのものへの疑念が蘇る。彼女は、こうなることをアラスカで既に気づいていたというのか?だが、自分は軍人だ。
『軍には厳しく統制され、上官の命令を速やかに実行できる兵と…それに、広い視野で情勢を見据え、的確な判断を下すことの出来る指揮官が必要です。出なければ、隊や艦は勝つことも生き残ることも出来ません。』
『分かってはいても、出来なきゃ一緒よね。」
マリューの分かっていても、出来なきゃ一緒……正にこれはそれだ。
『貴女なら、きっと良い艦長になるわね。』
良い艦長とは何だ?部外者に過ぎないこの男の命令に諾々と従って民間人への核攻撃を容認し、実行することか?この男やサザーランド、ハーベストが本当にあの時自分が言っていた指揮官か?
ドミニオンと何隻かが転進し、その方角がプラントであると知ったアークエンジェルは追撃、エターナルとクサナギはジェネシスに向かった。更にフリーダムとジャスティスを初めとした主力級のMS隊は全て核攻撃に回した。
あれだけの数の核攻撃隊ならばこちらは最大の戦力で対抗するしかないのだ。
後方に回されたジュール隊はプラントを直接攻撃する核攻撃隊を確認し、迎撃に出ていた。
「来るぞ、散開!」
〈例の新型部隊もいます!〉
イザークとニコルの指示に従い、MS隊は散開する。
「プラントへ放たれる砲火、一つたりとも通すんじゃない!」
「ブルー117、マーク52アルファにアークエンジェル、接近してきます!」
アークエンジェルはアンチビーム爆雷を発射し、攻撃態勢に入る。
「アークエンジェル接近中、距離9000。」
「さあ、分かったらあんたもちゃんと自分の仕事しろよ!あの裏切り者の艦を今度こそ沈めるんだ!」
聞いていて、レベッカは身勝手にしか聞こえなかった。アラスカごと吹き飛ばそうとしておいて、生き残ったら裏切り。そういう状況に追い込んだのは自分達ではないか。
一体、どこで地球軍はここまでおかしくなったんだ?
「ドゥーリットルを撃たせるな、前へ出ろ!」
アークエンジェルの目標がドゥーリットルを初めとした核を搭載した艦なのは明白、ここで前に出なければならないのは普通だ。だが、レベッカは本心ではこう思った。
プラントへ核攻撃をするなどと考えなければ、彼らも邪魔しなかったのでは?むしろ、ジェネシスに核攻撃隊を向かわせればまだ違ったのでは?
「撃て!撃たなければ、撃たれるぞ!」
「…推力最大、回頭20。アンチビーム爆雷発射、ゴットフリート照準!」
ナタルが迎撃命令を出し、鏡に映されたように二隻のアークエンジェルがゴットフリートを撃った。
ドミニオンの攻撃はアークエンジェルのゴットフリートを撃ち抜き、アークエンジェルの攻撃はブリッジのアンテナと艦後方に攻撃を当てた。
「ナタル!」
マリューはここまで来て、まだ諾々と命令に従う彼女に憤りさえ抱いた。いくら規律や命令に忠実とは言え、民間のプラントに核を撃つなんて命令に何故、従えるのだ?
地球を攻撃させるわけにはいかない…!
それは変わらない。地球はかけがえのない大地だ。命と同じく、取り返しのつかない物だ。
だが、それがプラントに核を撃つことと結びつくのか?
終わる?確かにそれで全て……プラントを撃てば!
しかし、ナタルには正しいとは思えなかった。ここでプラントを撃ったところでヤキン・ドゥーエとジェネシスは残る。それがナタルに迷いを抱かせていた。
ジェネシスを目指している本隊のMS隊の内、三機のストライクダガーがジェネシスを目前にしたところでどこからか撃ち落とされた。
そこには、暗灰色のMSがいた。
ラウはドミニオンがプラントへ向かっているのを察知し、高笑いした。
最高だ。Nジャマーキャンセラーをこちらの期待通りの用途で使ってくれて、パトリック・ザラも今頃はジェネシスを地球へ向ける準備を整えている。
なんと美しいフィナーレだ。
ジェネシスを目指していた三隻の艦艇、ドレイク級二隻とネルソン級が一隻…随行のMS隊もいたが全てが撃ち落とされた。
黒いMSがそれを射程外から見下ろす。
「邪魔しちゃダメよ……せっかくここまで来たんだから。」
ムルタ・アズラエルとパトリック・ザラ…二人共、愚か者だ。自分達だけは大丈夫だ等と高をくくって、核とジェネシスで互いを滅ぼそうとしている。
愚かな父と同じだ…人間とはこういう生き物だ。ようやく、この忌まわしい人間の身体から解放される。全て滅びたら、自分も死ぬのだから。
「さあ、最後まで踊ってね。」
最後の戦いで、ラウとレイスにとっては正に最高のフィナーレが目前です。