機動戦士ガンダムSEED REVERSE 作:meitoken
少女はプラント現最高評議会議長シーゲル・クラインの令嬢ラクス・クラインであった。彼女はユニウスセブンの追悼慰霊団代表として視察に赴いていたところで地球軍に襲われ、周りの者によりあの救命ポッドに乗せられていたそうだ。
彼女も月本部まで連れて行く場合、どうなるかは分かっていたが……最高評議会議長の娘である以上は外交の道具にされるのは目に見えている。
流石に殺すなどということはしないだろうし……ぞんざいに扱われることはないと思いたい。だが、今こうして操艦に協力してMSに乗っているキラ達も彼女と同年代の子供だ。大人の始めた戦争に年端のいかない子供達を次々と巻き込んでいる。ヘリオポリスでああは言ったものの、どんどん子供を巻き込んでいる事実がマリューの心を締め付けていた。
プラント本国では追悼慰霊団のシャトルが行方をくらました報を受け、ザラ委員長から捜索命令を受けたクルーゼ隊の出撃は予定より早まり、ローラシア級が一隻同行することになっている。シオンも叔父と叔母の墓参りを済ませて、そのままヴェサリウスに乗り込むつもりで来たが、ちょうどザラ国防委員長もいた。
「ラクス嬢とお前が定められた者同士なのは誰もが知っている。なのに、そのお前がいるクルーゼ隊がここでのんびりしているわけには行くまい。」
「追悼慰霊団の件は聞いていますが、何か進展が?」
シオンの問いにザラが答える。
「捜索に向かったユンロー隊の偵察型ジンも戻らないのだ。」
つまり、地球軍に遭遇して撃墜されたかもしれないということになるのか?
「彼女はアイドルなのだ、頼むぞクルーゼ、アスラン。」
三者は敬礼で答えるが、シオンはそのまま質問する。
「国防委員長、我々が護送したヘリオポリスの避難民の処遇は?」
「…クライン議長のご采配により、正式にオーブ本国へ帰国させる事が決定した。お前達の出撃に合わせてな。ただし、メイ・ハーベストは別だ。」
メイ・ハーベスト……オーブに国籍があるが父親は大西洋連邦のグラン・ハーベスト少将で地球軍きってのタカ派。ブルーコスモスとのつながりも深い大物の娘ともなれば当然か。
「手荒な、事は…」
「民間人だ……クライン議長もそこは心を砕かれた。そのようなことより、ラクス嬢の捜索を考えろ。」
くだらない話に付き合わされた、といわんばかりにザラは立ち去ってアスランが問う。
「彼女を助けてヒーローのように戻れということですか?」
「もしくはその亡骸を号泣しながら抱いて戻れ、かな?」
ラウの発言にシオンもアスランも一瞬、凍り付いた。パイロットと指揮官のどちらでも一流の子の男だが、時折相手の背筋を凍らせるようなことをいう。
「どのみち、アスランが行くことに意義があるのだよ。」
「議長選のカード、ですか。」
「嫌よ!嫌ったら嫌!」
「フレイ!」
食堂でフレイとミリアリアの声が聞こえてきており、キラはカズイに「どうしたの?」と聞いた。
「あの女の子の部屋に食事を運ぶの、フレイが嫌だって。」
「私は嫌よ!コーディネイターのところに行くなんて!!」
キラ達がいるのに気付いていたシュウが「おい!」と咎めた。
「あ、もちろんキラ達は別よ。でも、コーディネイターって頭が良いだけじゃなくて運動神経も凄くいいんでしょ!いきなり飛びかかって来たりしたらどうするのよ。」
「あの子はそんな子じゃないと思うが。」
キラが思っていた事をシュウが口にするが、フレイには何の意味もなかった。
「そんなの分からないじゃない!凄く強かったらどうするの!?」
「まあ、誰が凄く強いんですの?」
後ろから聞こえた声に振り返ると、そこには噂の人物ラクス・クラインが立っていた。
「な、何でここに?」
「はい、喉が渇きましたのでお水をいただこうと…」
「はあ…じゃなくて鍵は?」
いち早く我に返ったユリがもっともな疑問を挙げた。
「あら、特にかかっていませんでしたが?」
「そんなバカな…」
レナの言葉に全員が心の中で頷いていたが、フレイは違う反応をしていた。
「ちょ、ちょっと。何でザフトの子がうろついてるのよ!」
「私はザフトではありませんわ。それにザフトというのは名称で正式には…」
「何だって同じよ!コーディネイターなんだから!」
「一緒ではないだろう。その子は民間人だ。」
「そうですわね。私も貴方も民間人ですもの。」
ラクスはそう言うと手を差し出すが、フレイはまるで化け物でも見るかのような目で退いた。
「ちょっと、やめてよ!冗談じゃないわ。何で私があんたなんかと握手しなきゃいけないのよ。」
ミリアリアが何か言いかけたが、フレイの方が早かった。
「コーディネイターのくせに、馴れ馴れしくしないで!」
場の空気が凍った。これがナチュラルとコーディネイター。そしてフレイの態度はナチュラルのコーディネイターへの認識そのものだ。
レナが食堂から飛び出してしまい、ユリも「部屋にいる。」と言って出ていった。
その頃…ブリッジでは、デュエイン・ハルバートン提督率いる第八艦隊の先遣隊に合流できる望みがわいてきた。合流できれば人員や物資の補給も望める。その噂は瞬く間に避難民にも届き、フレイにとっても良い知らせがきた。先遣隊の艦に大西洋連邦外務次官にしてフレイの父、ジョージ・アルスターが乗艦していたのだ。
アークエンジェルが先遣隊との合流を心待ちにしている頃…ヴェサリウスでは小規模の地球軍艦隊を捉えていた。
「あれが足つきに補給を送る部隊だとしたら、放ってはおけないな。」
「仕掛けるんですか?我々には…」
「我々は軍人だ、アスラン。たった一人の少女のためにあれを見過ごすわけにも行くまい。私も後世、歴史家に笑われたくないしな。」
アスランの抗議を受け流し、ヴェサリウスは戦闘準備に入った。
合流を目前にしたアークエンジェルでは先遣隊が敵の攻撃を受けているのを察知した。
〈敵はナスカ級とローラシア級一隻ずつにジン六機、それにイージスとシューターがいるわ!〉
〈キラ、先遣隊にはフレイのお父さんがいるんだ!頼む!〉
サイとミリアリアの言葉を受け、アークエンジェルからフレイムが出撃し、ウインドとレイラのゼロが後に続き、ストライクとムウのゼロも発進した。
レナは先遣隊旗艦モントゴメリに迫ったジンをライフルで撃ち落としたところで今しがたメビウスを落としたシューターを見つけた。
「兄さん…」
何で私達が戦うの?兄妹なのに…
頭では悩みつつもレナは背中のウルカヌスで接近戦を挑んでいき、シューターも肩に内蔵されていたビームサーベルで応戦してきた。両者は互いに斬り合うが、傷を付けられない。間合いを取りライフルやリニアキャノンを撃つが、避けられてしまう。両者の頭からは既に先遣隊の援護と撃破という目的はなくなっていた。
ユリはエールを装備したフレイムでジン三機の相手をしていた。ムウとレイラはナスカ級とローラシア級を攻撃しようとしたが、ジン部隊の攻撃を受けて被弾。着艦せざるを得なくなった。しかも、レナが撃ち落としたジン以外の残り五機がフレイムに狙いを定めてきた。
こちらがPSで実弾が効かない、といっても喰らい続ければいずれエネルギーが切れる。その情報が既にあるようなので、相手はバズーカとライフルで攻撃をし続けており、何発かが直撃してコクピットが揺さぶられる。
「あぁぅ!!」
ジンが目の前に現れ、剣で斬りかかった。バルカンで腕を破壊して後退するが、別の機体が後ろからバズーカを撃ってストライカーパックが損傷する。
シールドを捨ててビームサーベルを抜き、装備をパージしてジンと戦う。一機のジンの射撃をくぐり抜け、ビームサーベルで一機を両断した。
キラ達が戦っている中、フレイがラクスを連れてブリッジに入ってきた。
「この子を殺すわ!パパの船を撃ったらこの子を殺すって…」
それはつまりラクスを人質に先遣隊の安全を保証させようということだ。しかし、遅かった。モントゴメリはヴェサリウスの主砲から放たれたビームに撃たれ、撃沈した。
「いやあああああ!!」
フレイの絶叫がブリッジに響き、フレイはそのまま意識を失ってしまった。そして、その直後にナタルがカズイのインカムを引ったくった。
先遣隊の全滅を果たしたクルーゼ隊はアークエンジェルに狙いを定めた。ジンが向かって来るかと思われた時、全周波回線で女性の声が響いた。
〈こちらは地球連合軍所属艦アークエンジェル。当艦では現在プラント最高評議会議長シーゲル・クラインの令嬢、ラクス・クラインを保護している。〉
「何!?」
アスランの当惑を無視し、警告は続く。
〈偶発的に救命ポッドを発見し、人道的立場から保護した物ではあるが、以降当艦に攻撃が加えられた場合、それは貴官らのラクス・クライン嬢への責任放棄と判断し、当方は自由意思でこの件を処理する事をお伝えする!〉
〈卑怯な!……救助した民間人を人質に取る。そんな卑怯者と共に戦うのがお前の正義か!?キラ!〉
キラは言葉を返せない。
何故こんな事を…こんな事をしてまで自分たちは生き延びなければならないのか?
〈レナ!こんな卑怯な事をしても友達を守りたいのか!?何故彼らと共に来ない!?友人の事なら及ばずながら俺が隊長に話を通すのに!〉
「兄さん、私は……」
一パイロットの出来ることなどたかが知れているかもしれないが、シオンの言葉は誠意から発せられた物だ。そうであるからこそ余計に行きたい。でも、そうすれば他の人達を見捨てる事になる。それはできない…
〈………意思が変わらないのなら、俺はお前もお前の友人も撃つ!いいな!〉
それは兄妹である事を忘れ、敵であり続けるという、事実上の決別宣言であった。
「……分かった、兄さん…」
レナはぼそりと呟き、帰投していくシューターを見続けていた。
そして、先ほどジンを撃ち落としたのを思い出した。人を…同じコーディネイターを…殺した。
あんなにあっさりと、人の命が…フレイのお父さんも……あの砲撃で。
アークエンジェルに戻ったキラ達を待っていたのは父を守れなかった事を攻めるフレイの言葉であった。
「あんた達、自分もコーディネイターだから、本気で戦ってないんでしょう!」
その言葉に銃で撃たれたようなショックを受け、レナが真っ先に走り去り、ユリはふらついた足取りで部屋から出て行き、キラも逃げるように部屋から出て行った。
レナは走っている中、数人の避難民に遭遇した。
「おい!貴様のせいで俺達はまた危険に晒される事になったんだぞ!」
「アンタ達がもっと真剣に戦ってくれれば私たちはここで降りられたのよ!」
「てめえコーディネイターなんだってなあ!大方ヘリオポリスが襲われたのも今日の艦隊戦もお前らが情報を流したからなんだろ!?」
レナは訳が分からなかった。この人達は何を言っているのだ?私たちが情報を漏らした?まるで自分たちがスパイであるかのような言い分だ。
「はけよ!お前らザフトのスパイなんだろう!?」
愕然とした。彼らは自分やキラを敵だと言っている。レナは動揺を抑えながら弁解する。
「ち、違います!私たちはただの学生です!!」
彼らは聞く耳を持たず、更になじる。
「そんな出任せがとおるかよ!!」
「アンタ達コーディネイターが悪いのよ!アンタ達がいるから戦争が起こるのよ!」
「この化け物が!」
レナはもう聞きたくなく、走り出した。コーディネイターだからMSに乗せて戦わせる。地球軍のコーディネイターは裏切り者。コーディネイターだからザフト。今ほど自分がコーディネイターである事を呪った事はない。
この艦に居場所なんて無いんだ!もう嫌、穴があったら入りたい!
絶望から逃げるように艦内をでたらめに走り続けていたら、通りかかったレイラにぶつかった。
「気をつけなさい。それにどうしたの、その顔?泣いていたような顔だけど…」
レイラの気遣うような声を聞いた途端、レナは彼女に飛びつき、泣きじゃくった。
「私…もう嫌…!コーディネイターだから、MSに乗せられて…コーディネイターだからスパイだって…!!」
泣きながら話すレナの言葉から、レイラはおおよその事情を察した。おそらく、避難民の誰か…それこそフレイあたりから言われたのだろう。
レイラはレナの頭を優しく撫でていると、次に出たレナの言葉に耳を疑った。
「さっきの人質の時…兄さんが、サイ達と一緒に来いって……言った時、私…本当に行きたいって思ったの…」
兄さん!?さっきの戦闘でレナはシューターと戦っていた。ということは、シューターには彼女の兄が?
「貴女…ずっとお兄さんと?」
レナは涙を流しながら「うん…」とだけ頷いた。
艦内をふらふらと歩いている内にユリは格納庫に来ていた。
何も考えずにぼーっとしていると、シュウがこちらに上がってきた。
「さっきの人質の事か?」
ユリはふるふると首を横に振った。
「フレイに…本気で戦ってないって……」
「そんな事を……気にするな、って言うのが無理か…」
「それ、だけじゃない……さっき、初めて…ジンを撃墜して……!」
ユニウスセブンでキラから向けられた非難……考えてみれば、ヘリオポリス以来キラばかりだ。敵を、撃ったのは。
「あの子、こんな、事を……」
人の命を奪うという事の意味をユリは思い知らされた。こんなに、怖いものだった。
なのに、本気で戦っていない。自分もキラもレナもいつも必死だった。撃たれたら死ぬ。それでこんな仕打ち……
ユリは逃げるように格納庫から飛び出し、気がついたら今度は展望デッキに続く通路に出ていた。何やら話し声が聞こえ、顔を覗かせてみると、展望デッキで人影を見た。キラとラクスだ。
「アスランは、イージスのパイロットは…昔からの友達だったんです…」
ユリは耳を疑った。アスランがイージスのパイロット?それじゃあ、さっきの戦闘でもアスランは出撃していた?しかも話を聞くあたりではキラは前から知っていたようだ。まさか………ヘリオポリスの時から?
話を聞いている中、後ろに人の気配を感じて振り向くとシュウが立っていた。どうやら追ってきたようだ。彼に声をかけようとするとシュウが口元に指を当てて遮る。彼も二人の話が気になっているようだ。
「アスランも貴方もお優しいですから、悲しいですわ。」
「アスランを知ってるんですか?」
キラの質問にラクスは先程と同じ調子で答えた。
「アスラン・ザラは私がいずれ結婚する方ですわ。」
「婚約者?」
ユリを追ってきたシュウは驚きのあまり呟いた。確かプラントでは遺伝子の相性で相手を決める婚姻統制がしかれている。しかも、しかも先程の会話からイージスに乗っているのが彼女の婚約者で、それがキラは友達だとは。一体、どうやって知ったんだ?ふと、横を見やるとユリが震えていた。
そうだ……弟の友達ともなれば彼女にとっても友達だろう。だとすればこれ以上聞かせない方が良さそうだ。
「行くぞ…」
そのままユリを部屋に連れて行き、ベッドに横たわらせた。
「少し、寝ておいた方が良い。」
「うん…」
キラはラクスを返そうと決めた。部屋から連れ出そうとしたところでサイとミリアリアに出くわした。
「まあ、女の子を人質に取るなんて普通は悪役のすることだからな。」
ラクスがノーマルスーツを着て出てきた時、履いていたスカートを詰めていたために大きくおなかが膨らんでいたのを見てサイが呆然とつぶやいた。
「いや、いきなり何ヶ月って…」
発想の意図を理解してミリアリアがため息をついた。
そうして、サイとミリアリアと一緒に周りの目をかいくぐってラクスをストライクのコクピットに乗せ、機体のOSを立ち上げた。
「ハッチ開きます!下がってください!」
〈キラ!帰ってこいよ!俺は信じてるぞ!〉
サイの言葉を受け、ストライクは発進した。
「こちら地球連合軍、アークエンジェル所属MSストライク!ラクス・クラインを同行、引き渡す!」
キラは前もって考えたとおりに続けた。
「ただし、ナスカ級及びローラシア級は艦を停止。イージスのパイロットが単独で来る事が条件だ!」
キラは前もって考えたとおりに宣言した。
「この条件が破られた場合、彼女の命は保証しない!」
ユリは苛立っていた。先程シュウに休むように勧められ、休もうとした途端にキラがラクスを連れて飛び出したと聞いた。これでは気を遣ってくれたシュウに申し訳ないが、今はそんな場合ではない。そしてキラの真意も分かっていた。彼女をアスランの元へ返すつもりだ。そしてキラがラクスを殺す気など微塵もない事も確信していた。
「アスラン……キラ。」
アスランはストライクの目の前で機体を止めた。
〈アスラン・ザラか?〉
ストライクからキラの声が聞こえた。
「そうだ。」
〈コクピットを開け!〉
アスランがコクピットを開き、ストライクのハッチも開いた。機体の方から声が話しかけてきた。
〈こんにちは、アスラン。お久しぶりですわ。〉
確かにラクスだ。元々キラは何か策略を巡らせるような人間ではない。友の変わらない部分を見つけてアスランは少しホッとした。
「確認した。」
〈なら、連れて行け。〉
アスランはストライクから向かってきたラクスを受け止め、同時にある事実に気付いた。今なら邪魔も入らない。そう感じたアスランは衝動的に叫んだ。
「キラ!お前も一緒に来い!」
キラが一瞬反応するのが見えた。
「お前が地球軍にいる理由がどこにある!?来い!」
〈僕だって、君と戦いたくはない。でも…あの船には、友達が乗っているんだ!〉
アルテミスへ向かう時の戦闘でも同じ事を言っていた。キラの決意は変わらない。もう、無理だ。
「なら、仕方ない。」
アスランは泣きたい衝動をこらえ、叫んだ。
「次に戦う時は、俺がお前を撃つ!」
〈…僕もだ。〉
この時、二人は完全に敵味方に別れた。
大雑把ですが、レナの葛藤も重めに入れました。
残酷といえば残酷な描写でしょう。精神面で。
そして、遅ればせながらユリとレナも人を殺しました。キラと比べれば大雑把ですが……二人共同じようなショックを受けています。