裸の毒蛇   作:eohane

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【序章】蛇は1人 毒蛇も1人
蛇は2人もいらない


 ────ボスは2人もいらない

 

「……(スネーク)は1人でいい、ね」

 

 

 

 ***

 

 

 

 1975/3/15 カリブ海海上 MSF(国境なき軍隊)司令室

 

「10日前、パスの生存が確認された」

 

 先ほどから室内に鳴り響いている、カチッカチッ、というライターの点火音。少々耳障りな、しかし既に日常となってしまっている音――――どうやら点火を諦めたらしい。音が止み、若干のイラつきを含んだため息が聞こえてくる。

 

「……生きていたのか」

 

 音の震源には、葉巻に火をつけることも忘れ、ライターを知らず知らずの内に握り締めている男がいる。

 これまでに3度、世界を全面核戦争の危機から救った英雄──"彼女"への執着を捨て去り、違う未来を生きることを選択した男だ。

 元コードネーム:裸の蛇(ネイキッド・スネーク)。MSF司令官、俺達のボス。世界一眼帯がよく映える、と勝手に俺が称賛しているのは秘密だ。

 そんな彼は、驚きも、安堵も、そして戸惑いも入り雑じった声を上げた。

 

「彼女はキューバ南端の収容キャンプで尋問を受けている」

 

 そして彼の相棒、MSF副司令カズヒラ・ミラー──カズが説明を始める。

 共産国(キューバ)の中のアメリカ。法を逃れた無法地帯(ブラックサイト)……うむ。これまた面倒な所へ捕らえられたようだ。彼の地はいろいろと()()な状況にある。アメリカでありながらアメリカの“法”さえ適用されない、まさに文字通りの無法地帯(ブラックサイト)

 ふむ、と頭の中でカズの言葉を吟味、反芻していく。“彼女”、か。……懐かしい。

 パス──パス・オルテガ・アンドラーデ。かつて、我々の依頼人(クライアント)だった人物だ。「ピースウォーカー計画」における様々な事件に巻き込まれ、結果的に共に行動することになってしまった16歳のいたいけな少女で、むさ苦しい雄共の中で数少ない(女性)、しかも料理上手な学生ということもあってか部下達の間で絶大な人気を誇っていたのを“記憶している”。

 そう、記憶している。

 本名パシフィカ・オーシャン。CIPHER(サイファー)という組織から送り込まれた、KGBともCIAとも繋がっている3重スパイ──それが、彼女の正体だった。CIPHERという謎の組織が確立するまでMSFに抑止力となるようスネークに要求し、交渉決裂となるや否やMSFという危険分子(テロリスト)が存在することを世界に知らしめるため、アレに搭載された核の発射を宣言。世にこのような輩を2度と誕生させてはならないという共通認識を生み、核に変わる新たな“抑止力”を誕生させる、と宣い我々と戦闘を開始。

 そして敗北した彼女はカリブ海に消えていった────はずだった。

 

「……おい。IAEA(国際原子力機関)の査察があるだろう? ……“タイミング”が良すぎないか?」

 

 日に日に強大になっていくMSF。世界の目が向けられるのは当然のことと言える。

 ────が。おかしな点がある。IAEA(国際原子力機関)の権限はNPT加盟国に対してのみその効力を発揮する。そもそも俺達のようなただの一組織に、査察がどうのこうのとなっている時点でおかしな話なのだ。さらに、問い合せて確認してみると、奴らの定例理事会で俺達のことは議題にすら登ったことが無いらしい。

 今回の査察はそうとは言いきれない、別のナニカがやって来る。

 なのだが。奴らの公式書簡、要約すれば「貴私設団体がウズベク当局から核燃料を購入した、との情報が入ったので、内部調査をさせやがれ」と言ったものに対し、先程述べた理由から1度“丁重”にお断りさせていただいた査察を、研究開発班所属のヒューイの意見、というより独断で了承してしまっているMSFは、その対応に追われていた。汎用2足歩行戦機(メタルギアZEEK)、登載されている例のブツ、小国のそれをはるかに越える軍事力。ただの民生軍事組織だとをアピールするため、様々な隠蔽工作を施しているのだ。

 

「ああ……恐らく、パスのリークを裏付けるためのものだろうな。だが、この“軍事力”が明るみに出れば、俺達は世界中を敵に回すことになる」

 

 情報(リーク)。諜報員パスが入手したMSFの軍事力────核だ。俺達の最後の抑止力。危機限界点に達した際にのみ所有を世界に宣言し、その抑止力を現実のものとするもの。

 彼女からソレの存在がCIPHERに漏洩し、わざわざIAEAを動かしてその確証を得ようとしてきた、と言ったところか。やはり今回の査察、CIPHERが絡んでいると見て間違いない。

 だが気になるのはCIPHERの影響力だ。……まだ誕生して日は浅いと言っていたはずだが、既にここまで成長した、ということか。

 

「世界、ね……時代に比べちゃかわいいもんだ」

「……違いない」

 

 ようやくライターの点火に成功したのか、葉巻に火をつけ、紫煙を吹かしながらスネークも笑う。

 “時代”という怪物と戦うことが宿命となった俺達。──俺達が、21世紀(新時代)まで生き残れるか、否か。そんな思いが、その笑みの裏側で駆け巡っているのだろう。

 

「……そうだな────とでも言うと思ったか、馬鹿!」

 

 「茶化すな!」とカズの叫びに苦笑しながら、俺は椅子に深く座り直した。

 

「────で、どうする? 介入するか?」

「あぁ……先ほど言ったように、その基地には単身パスの救出に向かい、捕らえられてしまったチコもいるはずだ。あいつはMSF(ここ)のことを知りすぎている。査察に差し支えることを洩らすかもしれん」

「……パスもろとも始末しろ、と?」

 

 立ち込める紫煙に若干咽せ返りそうになりながら、カズに問う。

 チコ――サンディニスタの若き兵士。お前も面倒なことを引き起こしてくれたものだ。まあ、パスに並々ならぬ感情を抱いていた、アイツのことだ。しょうがない、か。

 

「違う。そこまで俺は非情じゃない。そもそもそんなことしたらアマンダがFSLN(サンディニスタ)を率いて襲ってくるぞ。……見るからに“罠”だが、試す価値はある」

 

 「はあ……」と1つ、溜め息を溢したカズは、俺達2人の顔を交互に見やりながら言った。

 

「パスはCIPHERの正体を知る唯一無二の手がかりだ。できるなら彼女には協力してもらいたい。……生きていれば、の話だがな」

 

 毎度宜しく潜入任務(スニーキングミッション)だ。

 IAEAの査察受け入れ準備に追われる海上プラント(マザーベース)からの応援はほぼ“ゼロ”。わずかながらに応援はキューバ本国の境界線から寄越すヘリのみ。装備は必要最小限、残りは現地調達である。

 

目標(ターゲット)は2人、チコとパスだ。チコからの最後の無線連絡は40時間前。南岸から基地内に潜入、2人を救出し合流地点(ランディングゾーン)で指示を出してくれ」

 

 最悪の場合は“死亡確認”が取れれば良い、か。なんとも嫌な結果だ。彼女には裏切られた俺達だが、つい最近、彼女自身が揺れ動いていた事も判明している。……許すかどうかは別にして、同情の余地があるのも、また事実。

 ブリーフィングを終え、俺達は立ち上がった。

 

「頼むぞ。(スネーク)

 

 カズと目が合う。

 また、笑う。

 

「──毒蛇(サーペント)

 

 俺は、この()が好きだ。

 

 軍人になりきれない────戦いに理由を、意義を求める変人が集う、このマザーベースが。

 

 

 

 

 

 

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