蛇は2人もいらない
────ボスは2人もいらない
「……
***
1975/3/15 カリブ海海上
「10日前、パスの生存が確認された」
先ほどから室内に鳴り響いている、カチッカチッ、というライターの点火音。少々耳障りな、しかし既に日常となってしまっている音――――どうやら点火を諦めたらしい。音が止み、若干のイラつきを含んだため息が聞こえてくる。
「……生きていたのか」
音の震源には、葉巻に火をつけることも忘れ、ライターを知らず知らずの内に握り締めている男がいる。
これまでに3度、世界を全面核戦争の危機から救った英雄──"彼女"への執着を捨て去り、違う未来を生きることを選択した男だ。
元コードネーム:
そんな彼は、驚きも、安堵も、そして戸惑いも入り雑じった声を上げた。
「彼女はキューバ南端の収容キャンプで尋問を受けている」
そして彼の相棒、MSF副司令カズヒラ・ミラー──カズが説明を始める。
ふむ、と頭の中でカズの言葉を吟味、反芻していく。“彼女”、か。……懐かしい。
パス──パス・オルテガ・アンドラーデ。かつて、我々の
そう、記憶している。
本名パシフィカ・オーシャン。
そして敗北した彼女はカリブ海に消えていった────はずだった。
「……おい。
日に日に強大になっていくMSF。世界の目が向けられるのは当然のことと言える。
────が。おかしな点がある。
今回の査察はそうとは言いきれない、別のナニカがやって来る。
なのだが。奴らの公式書簡、要約すれば「貴私設団体がウズベク当局から核燃料を購入した、との情報が入ったので、内部調査をさせやがれ」と言ったものに対し、先程述べた理由から1度“丁重”にお断りさせていただいた査察を、研究開発班所属のヒューイの意見、というより独断で了承してしまっているMSFは、その対応に追われていた。
「ああ……恐らく、パスのリークを裏付けるためのものだろうな。だが、この“軍事力”が明るみに出れば、俺達は世界中を敵に回すことになる」
彼女からソレの存在がCIPHERに漏洩し、わざわざIAEAを動かしてその確証を得ようとしてきた、と言ったところか。やはり今回の査察、CIPHERが絡んでいると見て間違いない。
だが気になるのはCIPHERの影響力だ。……まだ誕生して日は浅いと言っていたはずだが、既にここまで成長した、ということか。
「世界、ね……時代に比べちゃかわいいもんだ」
「……違いない」
ようやくライターの点火に成功したのか、葉巻に火をつけ、紫煙を吹かしながらスネークも笑う。
“時代”という怪物と戦うことが宿命となった俺達。──俺達が、
「……そうだな────とでも言うと思ったか、馬鹿!」
「茶化すな!」とカズの叫びに苦笑しながら、俺は椅子に深く座り直した。
「────で、どうする? 介入するか?」
「あぁ……先ほど言ったように、その基地には単身パスの救出に向かい、捕らえられてしまったチコもいるはずだ。あいつは
「……パスもろとも始末しろ、と?」
立ち込める紫煙に若干咽せ返りそうになりながら、カズに問う。
チコ――サンディニスタの若き兵士。お前も面倒なことを引き起こしてくれたものだ。まあ、パスに並々ならぬ感情を抱いていた、アイツのことだ。しょうがない、か。
「違う。そこまで俺は非情じゃない。そもそもそんなことしたらアマンダが
「はあ……」と1つ、溜め息を溢したカズは、俺達2人の顔を交互に見やりながら言った。
「パスはCIPHERの正体を知る唯一無二の手がかりだ。できるなら彼女には協力してもらいたい。……生きていれば、の話だがな」
毎度宜しく
IAEAの査察受け入れ準備に追われる
「
最悪の場合は“死亡確認”が取れれば良い、か。なんとも嫌な結果だ。彼女には裏切られた俺達だが、つい最近、彼女自身が揺れ動いていた事も判明している。……許すかどうかは別にして、同情の余地があるのも、また事実。
ブリーフィングを終え、俺達は立ち上がった。
「頼むぞ。
カズと目が合う。
また、笑う。
「──
俺は、この
軍人になりきれない────戦いに理由を、意義を求める変人が集う、このマザーベースが。