裸の毒蛇   作:eohane

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チコ パス救出

 岩。

 岩石の大きな塊。

 大地に深く根を張り、巨大で、容易には動かしえないものをいう。雨に晒され、ヌラヌラと光るその様は何か、得体の知れない生き物の皮膚を連想させる。

 今現在、俺はそれに張り付いている。立っても座ってもいない。張り付いている。

 今の俺は“岩”だ。

 

《――サーペント、目標を指示(マーキング)する。端末機(iDROID)に情報を送るが……頼めるか?》

 

 見えるのは暗い闇の中に浮かび上がる円状の景色、それもT字の線(レティクル)入りだ。そのT字の線と線の結合部、途切れて隙間が空いている。人間の(レンズ)が光を捉え視神経より伝達された視覚情報が脳で映像化(イメージ)された、一般的な倍率から見ると1cmにも満たないわずかな隙間だが、光学機器(スコープ)として機能させれば人間の頭がすっぽりと入る隙間である。

 ────まあ、やたらと回りくどい、判りづらい言い方をしたが、要するに俺は岩に張り付き(プローン)ながら、メインウェポン“モシンナガン”の遠距離狙撃用スコープを覗いているわけである。

 因みに潜入任務とあってサプレッサー装備だ。

 

「……こちらサーペント。指示敵確認。鼻ほじってるぞ、こいつ……」

 

 iDROIDの情報を確認。赤く点滅するポイントの方角を、指向性マイク付き新型双眼鏡で索敵、同じく赤いマーキングを確認する。

 距離およそ270、湿度70、気温11、風速1、風向きは南東。これらの立地、自然条件及び重力の影響による弾道落下、それらを考慮し後は勘を頼りにだいたいの狙いを定める。スコープの倍率を2段階目に上げる。息を吐き、呼吸を止める。同時に手ぶれが消えた。

 体の延長と化したモシンナガンが────という感覚にはならない、というよりならないようにしている。意図的に。

 俺は基本的にそこまで銃に愛着があるわけでもない。1つの(武器)を使い込み、体に馴染ませるという手法を非難している訳ではないが、そうしようとも思わない。

 

 所詮、銃は銃。ただの道具でしかない。

 

 まあ、人を殺すための武器(凶器)が体の延長と化す、となると、どれだけ効率よく戦闘が行えるだろうと思うことはある。そのような感覚になれる人間を羨ましいと思ったことも無いことは無い。

 ただ、なんと言えば言いのか。……そう、ある種の誓約だ。

 “罪悪感”を感じることを恐怖し、自分を武器と同一化させることで責任転嫁する――――違うはずだ。殺したのは俺だ。

 数多の戦場を駆け抜けてきた兵士でも、人を殺す(撃つ)瞬間に罪悪感を感じない人間など1人もいない。気付いていないだけで、心のどこかで感じているはずなのだ。

 人を殺し過ぎて感覚が麻痺した、なんてよく聞くが、これが俺なりの答えだった。この感覚は、感じ続けるべきだ。

 

「…………」

 

 雨に濡れて光るトリガーに指をかけ、引く。

 うちの研究開発班が開発、さらに改良を重ねたサプレッサーにより、限界まで減音化された射撃音が響く。ギリギリまで絞り込まれた閃光(マズルフラッシュ)が目を灼く。

 得物(モシンナガン)から吐き出された7.62×54mmR弾は、吸い込まれるように(狙撃点)を直撃。サプレッサーによる弾丸の減速効果がほとんど無いのはMSF研究開発班の驚異的な技術力の賜物である。

 獲物は気付く間も、叫ぶ間もなくその命を散らした。

 じわり、と()()が身体中を蛇のように這い回る。

 俺は1度たりとも、人を撃った瞬間に感じるある種の“恐怖”を忘れたことはない。

 

「……敵兵排除、狙撃成功。基地の様子に変化無し……バレてない。死体を隠してさっさと進め。血は雨が洗い流してくれるさ」

《了解だ。パスの救出に向かう》

「スネーク、いいな? その先は施設内部だ。俺からじゃ援射はできん。カズも言ってたが絶対に捕まるな。……もう2度と“面倒事”は御免だ」

《はっはっは、了解だ。にしても相変わらずの腕だな。まさか当たるとは思ってなかったぞ》

 

 ────いいセンスだ

 

 狙撃(スナイピング)。というよりは精密射撃。俺はどうやら、スネークいわくいいセンスらしい。

 俺はこれといった得意な武器があるわけではない。別に今使っているからといってモシン ナガンが得意というわけでもなく、使う銃は状況により様々。

 ハンドガン、ショットガン、サブマシンガン、アサルトライフル、マシンガン、ロケットランチャー、そしてバナナ。

 バナナを馬鹿にしてはいけない。ハンドガンサイズ故にCQC(近接戦闘)に移行しやすく後ろから近づくことができれば無力化(ホールドアップ)も可能だ。さらに味は最高、栄養価も高くヘルシー。サバイバル任務において、ある意味必須の装備かもしれない。……が、1部のMSF隊員からは食べ物を粗末にするな、と批判の声もあるらしい。解せぬ。

 そうつまり俺は、あらゆる武器を使いこなす戦闘のスペシャリストなのだ────と思ったのなら大間違い。前述した通り、ただ単に状況に合わせて銃を変えているのみ。要は器用貧乏と言うやつだ。

 

「……その言葉、そっくりそのままお前に返すぞ、スネーク。お前、確か今年40だったろう?」

 

 iDROIDに新たな情報が送られてくる。どうやらマーキングの追加のようだ。

 すでに俺の位置からマーキングできる敵は確認できないので、スネークが基地内部からマーキングしたものだろう。見たところ、スネークの進路を妨害するような位置にいる敵兵はいない。難なく施設内部に潜入できるはずだ。

 

《まだまだ若い奴には負けんさ。……サーペント、合流地点(ランディングゾーン)に向かってくれ。すぐパスを連れて戻る》

「了解。少しチコと話してみよう……それと、確か岩場があったな。そこからできうる範囲で援射する」

《頼む》

 

 通信が切れた。

 同時にプローン状態を解き、モシン ナガンを仕舞う。腰のホルスターからマカロフP(ピストレット)B(ベッシュニィ)/6P9セミオートマチック拳銃を抜き放つ。

 ソ連軍及び東ヨーロッパ諸国の軍で使用された、信頼できる実績を誇る代物だ。さらには特殊任務遂行の為にマカロフPMを改造、設計された拳銃であるため、装備した状態でカムフラ率の低下がほぼないという特徴がある。

 そしてどういうわけか、サプレッサーを内蔵型にしたことで消音効果が無限になった────というわけのわからないおまけ付き。すでにMSFは世界に誇るべき、いや世界を揺るがす技術力を有している気がする。

 

「……まあ、兵士(ゲーマー)としては願ったり叶ったりだがな」

《何か言ったか、サーペント?》

「一人言だ。気にしないでくれ……ところでカズ、そっちの準備はどうだ?」

 

 増援(バックアップ)には期待するな、と言っておきながらしっかりと無線でアドバイスをしてくれるカズ。他にすることがあるだろう、と思う反面、正直カズ(こいつ)のこういった増援(心遣い)は非常にありがたい。こうして仲間の声が聞けるだけでも、精神(メンタル)的に大いに助けられる。

 

《順調だ。いかにも普通の会社(組織)に見えるよう人員削減、実戦兵器の隠蔽、放射能除去も実施済み……そしてZEKEは海の底だ。抜かりはない》

「ヒューイの奴、面倒なこと引き受けてくれたもんだ」

《……そう言うな。それにあいつの言う通り、遅かれ早かれこんな事態にはなっていたさ。上手く行けば宣伝になるかもしれんしな》

「……カズ、ビジネスはほどほどにな。あと女も」

《んな!? 女は関係ないだろう!?》

「黙れ。また俺のとこに相談(愚痴をこぼし)に来た奴がいたぞ。その前はスネークの所にもだ。……そろそろ、な?」

《……善処する。そもそもお前に言われたくねぇな》

「おい、善処ってなんだ。それに後半よく聞きと──」

《さあサーペント! スネークの指示通り合流地点(ランディングゾーン)に向かってくれっ! そこにはチコがいるはずだ!!》

「よぉしわかった」

《あの……サーペント……?》

「カズ、待機中のモルフォ01に伝えてくれ。ある程度の治療器具を積んでこいとな」

《……了解だ、サーペント。ところで──》

「チコがあれだけ衰弱していたんだ。ここの尋問、いや拷問は普通じゃないことぐらいわかる。連れ帰る途中で死なれても困るからな」

《サーペントオオオォ! 頼む、お前の“わかった”は別の意味に聞こえてしょうがないんだ! すまん、謝る! 謝るからあぁ──》

「さてと」

 

 早々に無線を切る。近接戦闘用ナイフを抜き取り、マカロフPB/6P9と同時に構え、姿勢を低く保ちながら俺は移動を開始した。

 

 

 

 ***

 

 

 

《────CP、CP! こちらズールー2……女の姿が見えない、脱走した模様。以上(オーバー)!》

 

 何故か、いつ聞いてもザマァミロって気分になれる焦燥感溢れる声。敵兵士の無線連絡を、こちらの無線機が傍受してくれた。

 女────捕虜(パス)の救出、スネークも上手くやったようだ。あとはスネーク、パスの2人と合流し、合流地点(ランディングゾーン)にてモルフォ01に回収してもらうのみ。

 ────とまあ、口で言ってみれば超簡単。残念ながら、現実(リアル)だとそう上手くはいかない。

 パスが捕らえられていると推測される――スネークが今現在いる収容所からここまで、人間の足で来るには相当な距離がある。スネーク1人ならまだしも、今彼はパスを引き連れているわけで……いや、引き連れる、と言うのは楽観視し過ぎた。最悪彼女が自力で立ち上がれない状態の可能性も有り得る。そう仮定した場合、必然的にスネークは彼女を抱えて基地内から脱出しなければならないというわけだが、

 

「……厳しいな」

 

 人間の視力()というのは、とりわけ“異質”なものには驚異的な索敵能力を発揮する。

 朝起き顔を洗い、ふと見上げた鏡に写る己の顔にそこまで目立ちもしないニキビを発見した、とか。

 数m先に落ちている硬貨を何故か発見できた、とか。

 装備一覧の中に、何故か「バナナ」という項目がある、とか(特に異質とは思わないが)。

 月1で開かれるMSFの誕生パーティーで、何故か全裸になろうとし始める金髪の男がいる、とか。

 

 基地内を徘徊する侵入者(怪しい人影)、とか。

 

 後半、かなりどうでもいいことばかり羅列してしまったが、まあ要するにそう言うことだ。故に、俺達侵入者(怪しい人影)はそれなりに異質でなくなろうと努力する。体にスニーキングスーツを纏い、カムフラ率の低下を招く角張った物体、つまり装備を必要最小限に抑え、敵の死角に常に在り続ける。

 

 それが潜入任務(スニーキングミッション)の鉄則。

 

 それでも異質なモノを可能な限り異質でなくしただけなのであって、結局周囲から見れば異質であることに変わりはない。透明人間にでもなれない限り異質なモノは異質なのだ。故に、科学技術では補えない極限までの空白を、潜入技術(センス)で賄う必要が出てくる。

 スネークはソレに恐ろしいくらいに長けている。いやもう、なんだこいつ、と言ってしまいたくなるくらいに。

 ────なのだが。

 2度目だが今彼はパスと共にいる。まさか捕虜にスニーキングスーツを着せているほどこの基地の人間も気前がいいわけないだろう。今、俺の隣でブツブツと何やら呟いているチコのように、恐らく捕虜脱走の際に迅速に対応するためであろう、黄色の(目立つ)服、またはそれに近い物を着用されられているはずだ。つまり、これでもかと言うほど彼らのカムフラ率は落ちているはず。そんな“異質”を、奴らが見逃すとは思えず、しかしスネークならやってのけてしまいそうな気も捨てきれず。

 しかし、いくらBIGBOSS(スネーク)と言えども、かなり厳しい状況となっているわけで。

 

「……チコ。また後で、マザーベースに帰ったら話そう。アマンダも待ってる」

 

 チコからの返事は、無い。

 岩壁に立て掛けてあったモシンナガンを掴み、来るであろうスネークの無線(援護要請)に備えるべく、俺は移動を開始。

 チコ、そして彼と共に捕らえられていた捕虜達を救出し、集めていた岩の窪み。そこから出た途端、冷たい雨が俺の顔を濡らす。頬を流れ落ちる雨粒を感じながら、雨に濡れてヌラヌラと光る岩壁をよじ登っていく。

 やがて、基地内部を一望────はできないが、まあ申し分無い岩場(スナイピングポイント)に到達。雨に濡れ垂れ下がってきた前髪をかき揚げ、iDROIDを起動する。スネークがあの後もマーキングを続けてくれていたようで、マップにはかなりの赤いポイントが点滅していた。スネークはどうやら、施設内部から出た後、南へ向かっているようだ。

 とすると、どうやら合流地点(ランディングゾーン)を変更するつもりらしい。

 

「……ん?」

 

 基地の敵兵士に、気になる動きがある。

 マーキングでわかる限りは、基地の東側のルートを通ってチコが捕らえられていた収容所に向かっている兵士が2人。すかさず、俺は双眼鏡を手に取りマーキングも兼ねて覗き込んだ。

 

「……警戒が強化……当たり前か」

 

 基地から収容所に繋がるルートは2つある。

 1つは、最初に俺とスネークがチコを救出する際、通ってきた基地の南側のルート。

 もう1つが先程言った東側のルートだ。

 そこへ、パスが居なくなったことで恐らく確認のためであろう兵士達が数名送り込まれてきている。つまり、俺達がルートを突破するため、排除してきた兵士達が見つかる可能性が出てきたわけだ。

 

「いや、収容所も捕虜が0になってるわけだから、バレるのも時間の問題か」

 

 いくら排除した兵士を見つかりにくい場所へ移動させたとしても、捕虜が居ないとあらば流石に気付かれる。

 とそこへ、お馴染みの呼び出し音(CALL)がスネークからの着信を知らせてくれた。

 

《────こちらスネーク。聞こえるか?》

「良好だ。ところでスネーク、わかってると思うが時間が無いぞ」

《ああ。だがお前達のポイントに通じるルートの警戒が強化された。パスと一緒だと突破は無理だ。予定通り合流するのは厳しい》

「どうするつもりだ?」

 

 だいたいのスネークの案はわかってきたが、確認も兼ねて聞いてみた。

 

《お前はそこでモルフォ01と合流しろ。俺は南のスタートポイントに向かう。そこで回収してくれ》

「了解だ、スネーク」

 

 俺の心配は杞憂に終わったようで、援護は必要無いらしい。

 じゃ遠慮なく、と無線を切り、モルフォ01へ回収要請を発信した。

 

 

 

 ***

 

 

 

《────こちらモルフォ。まもなく合流地点(ランディングゾーン)に到着する》

 

 雨雲のせいで、空と海の境界線が非常に見えにくい。そんな薄暗い上空を見上げていると、灰色の空と同化して本体を視認することは難しいが、青と赤に点滅するライトを確認できた。

 モルフォ01────鹵獲したMi-24A Customを、ウチの研究開発班が現地で運用する実戦部隊の隊員の要望を取り込み、従来の欠点であった旋回速度の遅さ、照準器のトラブル、視界の悪さ等に対して改修を加えたモノ────MSF仕様である。正直なところ、性能的にほぼ別物だ。簡単に言えば化け物(チート)ヘリである。

 

「……ん。いつ見ても良いデザインだ」

《こちらモルフォ。合流地点(ランディングゾーン)に到着……ってあれ? 隊長(キャプテン)、ボスはどうしたんです?》

 

 そうこうしているうちにモルフォ01がプロペラの駆動音を響かせながら目の前に降り立った。

 チコを担ぎ上げ、開かれるハッチへ向かう。ホバリング状態のモルフォ01から巻き起こる風が、降る雨を吹き飛ばし顔に打ち付ける。思わず手をかざしながら、機内へチコを運び込んだ。

 

《────……CP、CP! こちらズールー4……捕虜の姿が()()見えない。脱走した模様!》

「……予定変更だ。スタートポイントにてスネークを回収する。頼むぞ」

 

 待機しているメディックにチコを預け、一端モルフォ01から飛び降りた。

 

「……? キャプテン、何を……」

「すまんな、メディック。来て早々悪いがこいつら、診て貰えるか?」

 

 岩の窪みの奥にいる、収容所から救出した3人の捕虜を順番に担ぎ入れる。

 我らがMSFの優秀な医療スタッフ(メディック)ならば、オーダーが3人増えたところで問題は無いだろう。

 

「────とか勝手なこと考えてないでしょうね……」

「すまん。ずばり考えてた」

 

 頬をぽりぽりと掻きながら俺も機内へ乗り込む。「大丈夫ですよぉ……あなた達の自由(フリーダム)さには慣れてますからねぇ……」とメディックの呟きに苦笑しながら腰を下ろす。念のためにハッチは開いたまま、スネーク達の回収がスムーズにいくよう配慮しておこう。

 

「……足以外に目立った外傷無し。体力の衰えが認められる……──」

 

 両手で顔を拭う。スニーキングスーツから滴り落ちる水滴が、床に染みを広げていく。

 

《────収容(シート)確認。これよりスタートポイントへ、ボスの回収へ向かう》

 

 モルフォ01がホバリング状態を解き、ぐるりと旋回。基地の南へ機首を向ける。

 とそこへ、基地内部の無線連絡が傍受された。

 

《────CP、CP! こちらズールー3! 死亡している隊員を発見した。敵襲に遭った模様、以上(オーバー)!》

《了解。これより警戒体制へ移行。侵入者を発見し排除せよ。以上(アウト)

 

 無意識に、ヘリに標準装備されているアサルトライフル“FAL”を手に取っていた。

 

 

 

 




こんな感じですね。
恐らく、次回辺りでMGSGZ編は終わる予定です。

どうでも良いですがFALカッコいいよFAL。
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