「そう言えばメディック、ウチに標準配備されてるこのFALだが、その生い立ちは知っているか?」
「いえ、そもそも西側の武器に関してはそこまで詳しくないですな」
「ほう、ならばここらで1つ、その特性、沿革について知っておくのも重要だと思わないか?」
「いえ別に。そもそも今ミッション中ですし」
「そうか。本銃はベルギーが産んだ傑作アサルトライフルだ」
「!?」
FAL。
Fusil Automatique Légerの略称であり、正式名FN FAL。フランス語で軽量自動小銃を意味する。
西側諸国でM16シリーズと双璧を成す、ベルギーのFNハースタル社製高性能アサルトライフルだ。かなり財布に厳しい御値段の銃だが珍しくカズが注目しているモノで、MSFではガス圧作動ティルトボルト方式機構、FAL
実はこのアサルトライフル、なかなか面白い経歴をたどっている。
西側諸国、特にNATO構成国で独自にアサルトライフルの開発が進められる中、ベルギーの銃器メーカーFNハースタル社も1947年、設計、開発を開始。7.92×33mm弾等の弱装弾を用いたフルオートマチックの新型自動小銃として、プロトタイプ──後のFAL──が完成する。
が、ここで1つ問題が起きる。
当時、NATO構成国では作戦行動を円滑に行うために、NATO弾なるものを定め銃器弾薬の統一化が進められていた。当然FALもこの対象に入るのだが、ここでアメリカ合衆国がその発言力にモノを言わせ7.62×51mm弾をNATO軍標準弾薬にするよう要求、採用されてしまう。
要するにFNハースタル社からしてみればやってくれやがったわけである。
前述したように、元々7.92×33mm弾等の弱装弾を用いることを前提に設計、開発されたFALだったのだが、7.62×51mm弾がNATO弾となってしまったため、これに対応するよう再設計がなされた。
しかし、威力、射程距離は上昇した代わりに反動がこれでもかと言うほど跳ね上がってしまう。よって、開発当初のフルオートマチックと言う持ち味が消え去ってしまったのである。
7.62×51mm弾をフルオートで撃とうものなら文字通りFALは暴れ馬と化す。その反動の強さは、
──と、まあ半分ほど
ドイツのH&K G3、ソ連のAK-47、アメリカのM16と列び、“4大アサルトライフル”と呼ばしめる優れた傑作アサルトライフルなのだ。AK-47とまったく逆の発想による、機構構成部品のクリアランスが0.1mmと言う精密にして堅牢な設計。不本意ながら7.62×51mmNATO弾により実現した高攻撃力、長射程距離。フルオートはアレだがセミオートならば照準能力は申し分なく、先ほどのぶっちゃけを逆にぶっちゃければ3、4発ずつ“指切り”すればフルオート感覚で射つこともできる。住めば都、ではないが、要は慣れだ。
「――と、言うわけだ。聞いていたか、メディック?」
「ええ、もちろん。頼んでもいないのによーくわかりました」
と、何やら思考に耽る内に基地の南、スタートポイントへ到着。
《────……コンタクトオオォォ!!》
暇潰しのFALの点検を終え、右手でグリップを握り締める。装弾数20発マガジンを装填、セーフティーを解除。これでFALは物言わぬ鉄塊から“死”を吐き出す悪魔と化した。
金属製の折り畳み式軽量ストックを肩に当て、片膝を立てて座る。MSF仕様カービンタイプとあってか、取り回しは良好。俺がいる左側面を基地へ向けながら、モルフォ01がぐるりと上空を旋回する。
スネークは――いた。
「ギリギリまで近付け。ここから援護する」
《了解》
出口がもう目と鼻の先にある建物の側で、スネークを発見。恐らく彼を発見したのであろう兵士がすぐ近くで倒れているのも確認できる。
が、一足遅かったようで、増援がぞくぞくと出口付近に集まりつつあった。咄嗟に無線を繋ぐ。
「スネーク、俺だ。敵はなんとかする。お前はパスをしっかり連れてこい」
《頼む》
それどころではないのか、スネークは早々に無線を切ってしまった。刹那、射撃音が鼓膜を殴りつけてくる。基地の敵兵士が銃撃を開始したらしい。
やはり、情け容赦は無いようだ。
《こちらモルフォ。支援攻撃を開始する》
雨音でプロペラの駆動音が聞こえないのか、モルフォ01が基地へ接近しても敵兵士が気付く様子は未だない。ならばとモルフォ01は機首を彼らへと向ける。
《──セーフティー解除。目標補足……射撃開始》
機首に取り付けられたNUB-1可動式銃塔────12.7mm機銃が文字通り火を吹く。
微弱ながら感じる振動と共に響き渡る独特な射撃音。射たれて初めて敵兵士が俺達の存在に気付いたようで、何人かがこちらに向かって撃ち返してきていた。
──が、今さら遅い。
12.7mm弾の雨が降り注ぐなか、無防備に背中をこちらへ向けていた敵兵士に生き延びる術など皆無に等しく、次々に銃弾に倒れていく。FALを構えたはいいものの、この様子だと出番は無いようだ。
「よし……」
しかし、これで基地は完全に戦闘体制へ移行したようだ。先ほどから異常を知らせる警報が基地のあちこちから鳴り響いている。さらにはスネーク達の後方から増援の接近が確認された。
こうなれば、リスクはあるが取るべき行動は2つに1つ。────スネーク達を見捨てて安全を取るか、危険を犯してでも彼らを救いだすか。
《────キャプテン、強制着陸します!》
……まあ、当然ながら前者は100%有り得ない。その思いは他の奴らも同じだったようで。
「頼む。メディック! ここは任せるぞ!」
「了解!」
《こちらモルフォ。これより強制着陸を実施する》
基地内部へ乗り込むモルフォ01。
フェンスを越え、コンクリートで舗装された道路上にホバリングを開始。ハッチから下を覗き込み十分に地面へ近付いたのを確認すると、俺は床を蹴り、飛び降りた。
なんだかんだとFALの出番はあったようだ。
***
「────雲泥の差と言うべきだな。芳醇な香りに豊かな風味。立ち昇る濃厚な煙はもはや官能的とすら……ん? これ前にも言ったな……」
「だーかーら! やめろっ押し付けるな! 俺はタバコは吸わんと言ってるだろう!?」
「タバコじゃなく葉巻──」
「やかましい! 屁理屈こねるな! 確かに良い香りだとは思うがどっちも同じだっ!」
「はぁ……葉巻の
知らなくていい。あいつ、とやらは絶対に正しい。
スネークがタバコ……じゃなく葉巻の
葉巻談義に花を咲かせながら、俺達はモルフォ01でマザーベースに帰投中である。強制着陸後、なんとか敵兵士を撃退しつつ無事スネークとパスを回収。離脱を開始した途端、敵装甲車と対空ガトリング砲に狙われると言う危機に陥ったがそれもなんとか切り抜けた。
パスはと言うと、メディックによれば他の捕虜達よりも一層体が衰弱しきっており危険な状態だが、命に別状はないとのこと。やはり、ウチの医療スタッフは優秀である。
が、同時に気になることもあった。
上手く行きすぎなのだ。特に基地の敵兵士の動向。あれだけ基地に打撃を与え、暴れまわった俺達“敵”に対して追撃機の一機も出さないとはいかがなものか。迎撃においても空を飛ぶヘリに対して地を走る装甲車、対空ガトリング砲のみ、と中途半端感が拭えない。ブラックサイトの限界なのだろうか。
いや、まあ運が良かった、と言ってしまえばそれまでなのではある。だがどうしても、一度気にしてしまったらしばらくは胸騒ぎが続いてしまう。特に実戦の直後なんていう、神経がささくれてる時なら尚更。
「……今はパスもいるんだ。葉巻は我慢してくれ。ほら、メディック、お前からも言ってく──」
「サーペント……スネーク!」
突然チコが声を上げる。
見ると彼が、横たわるパスの服を捲し上げ、腹部を露にしていた。
「……っ!?」
彼女の腹には、目を背けたくなるほど乱雑に施された縫合の痕が。やたらと彼女の服、それも腹部が血に染まっていたのはこのせいだったのか。
途端、全身を悪寒が突き抜ける。
人間の最も本能的な部分――いや、というより勘が、寒気と言う表層的な症状をもって俺に危険を警告する。
俗に言う、“虫の知らせ”と言うヤツだ。
「────おいおい……」
「……メディック!」
縫合、つまりは腹を開いた後、その口を閉じるために施される施術。もちろんパスが病に犯されていた、とかそんな生易しいモノではなく。親切に
「罠だ……人間爆弾か」
スネークが言う通り、恐らくと言うか間違いなく人間爆弾だ。俺たちを誘き出し、救出させた人質に仕込んだ爆弾で、
流石は法を逃れた
「────すぐに取り出します! ……麻酔、間に合いません、無しで開腹します!」
「……押さえるんだ。早く押さえろ!」
可及的速やかに開腹の後、爆弾を摘出する。
メディックの言葉に思わず顔を上げる。麻酔無しでの開腹。――想像したのを後悔した。そもそも当事者でなければ形容し難い痛みが襲うはずだ。
「……メディック、パスの体はもつのか?」
「人間の体を甘く見ちゃいけません。……無責任かもしれませんが、この娘に賭けるしか……」
そう言いながら、メディックは縫合糸を切り取っていく。パスの体は、スネークが肩を押さえ、俺とチコが彼女の左右に待機している状態だ。
「……ダメもとで聞くが、麻酔銃は使えないのか?」
「無理です。あれは医療用麻酔薬とはまったく別系統のモノで……すぐに覚醒してしまう」
恐らく「……すぐに」の前には「激痛を抑えられず」が入るのだろう。ならばスタンロッドを、と言いかけたが、生憎今回のミッションでそれを装備してきていない。そもそも、衰弱している彼女の体にこれ以上の負担をかけるわけにはいかない。
「くそ……」
思わず毒づきながら、パスの両腕を押さえる。なんとか苦痛を和らげる方法は無いか――あれこれ考えるが、だめだ。直接いくしかない。
縫合糸をある程度取り除き、メディックが傷口に器具を入れ込み軽く開腹する。薄い皮下脂肪の層、赤い内臓組織が目に写った。
「…………」
チコにそれを預け、最後の縫合糸を切り取る。
糸が体から抜ける度に腹部がピクピク、と動くのを見て、麻酔が
1拍おいて、パスの悲鳴──いや、絶叫が機内に木霊する。
「……っ!」
「うっ……ぅぁああ!? ……ぁあああ!? あ、あがっ……ァ"ア"ア"!!」
「……っ!
暴れるパスの四肢を無理矢理押さえ付けながら、メディックの動きを見守る。
グチュ、グチョ、と形容し難い、と言うかしたくもない音が耳に纏わりつく。腹部に捩じ込まれたメディックの手を見るに、どうやら今は胃の方向、上腹部を探っているようだ。
パスからしてみればただの激痛でしか無いのだろう。何せ本来体内にあるべきではない
「────ぁああグッ……ゥウアアァァ!! ……アガッ……ぃいアアァァ!?」
1度手を抜き取り、再び腹に捩じ込む。
今まで以上にパスが暴れ始める。メディックの手の動きから見て、今度は下腹部を探っているようだ。俺達は、暴れるパスの体を押さえ付け、ただただ眺めていることしかできない。
……と言うか、さっきから血が噴き出してきているのだが、大丈夫なn────いや、大丈夫ではないな。見るからに。
そもそも、爆弾を体内に埋め込むとなればそれ相応の“スペース”なるものを作らなければならないはず。下腹部を探るということは、先程の上腹部に爆弾はなかったことになる。
下腹部に位置する臓器、さらには失っても人間の生命活動に支障を及ぼす可能性が低いもの……────。
「……くっ……っ! ……ボス、キャプテン…………」
「あ、ア"ァ"……────」
────。
やっと終わった。
スペースの代わりについては、今は考えないことにした。それにしても、パスに比べれば屁でもないのだろうが、いろいろとこちらも精神的にかなりダメージを負った気がする。
メディックがパスの体内から取り出した爆弾──恐らくC4──をスネークに手渡す。縦横に10cm以上、厚みが4cm以上はある代物だ。
このサイズのモノが腹部に収まるモノなのか、と一瞬疑問に思ったが、今はそれどころではない。御丁寧に時限式のようで、パスの血で赤く染まった表面が止まらずに明滅している。
「くっ……」
「呼吸は大丈夫……アクティブな出血無し、洗浄はいらない……閉腹します。しっかり押さえろ……連続縫合でいく」
すぐさまスネークがハッチを開き、爆弾を外へ放り投げる。パスは気絶したのか、静かに横たわっていた。
突然の
「……寒い」
悪寒が止まらない。明確な命の危機が未だ近くにあることを、俺の勘が雄弁に物語っている。
残念なことに、俺の勘は悪い予感の時のみ恐ろしいほどに当たる。いや、もう悲しいほどに、と言うべきか。
案の定運も悪い。特別に悪い。ただし悪運は強い。解せぬ。
《────管制、こちらモルフォ01。ハチドリを全て確保。これより……──》
落ち着いて考えろ。
何かを見落としている──気がする。
無事パスとチコを救出し、
────やはり変だ。
落ち着いて考えろ。
何かを見落としている────確信に変わる。
────この悪寒をどう説明する。
何か1本の線が、頭の中で繋がったような感覚になる。
まるで逃げてください、とでも言っているかのような基地の迎撃、追撃システム。見るからに“何か”ありますよ、とでも言っているかのようなパスの腹部の縫合痕。
────あからさま過ぎる。
まるでこうなることを予測していたかのような中途半端っぷりだ。迎撃、追撃は運が良かったで済ますこともできないわけではないが、パスはどうだ。爆弾は気付かれ、取り除かれても良いという前提だったのか。
だが、それだと何のために……────。
俺は、ある1つの“推測”のもと、1つの“結論”を出した。
「……
「……? どうしたんです、キャプテン?」
メディックを無視し、立ち上がる。そのまま、何かに取り付かれたかのようにフラフラと、横たわるパスの足下へ移動する。
ヒューイと通信中のスネークは気づいていない。残りの2人、メディックとチコが訝しげな視線を向けてくるが、気にしない。────何故だろうな。沸々と怒りが沸いてくる。滅多なことで激昂するような性分ではないと自負するが、これは無理だ。
そのままパスの囚人服のズボンを、力任せに引き裂いた。
「キャプテン!?」
「ちょ……サーペント!?」
当然ながら下着なんてものは着用させられていない。────彼女の女性器、膣口が露になる。
「…………」
いけない、と思いつつも、しかし目を逸らしてしまう。膣口周辺は赤黒く変色し、至るところに痣、鬱血が見られた。
もう、言うまでも無いだろう。遠回しに言う必要も無いだろう。……あの基地で強姦されていたのだ。尋問と言う皮を被った拷問の、“一環”として。
そして、できればハズレであって欲しいと願っていた俺の推測が、見事に的中してしまったことを悟る。
「……はぁ」
膣口と肛門の間──確か
これが、何よりの証拠。思わず顔を手で覆う。
「
いつの間にか真横に来ていたメディックが呟く。
会陰切開────出産を経験した女性ならば聞いたことがあるだろう。胎児が産まれ落ちる時、膣口が無理に裂けるのを防ぐために前述した会陰という部位を予め切る施術を言う。
まあ、パスの場合は“逆”だろうが。
「……頼めるか?」
「頼まれなくてもやります。これは……あんまりだ……」
心底辛そうな表情を浮かべながら、メディックが取りかかる。
わかると思うが、恐らくパスの膣内にナニカ──まあ爆弾だろうな──が埋め込まれている。まさかこんな場所に、命を産み出す場所に命を奪うモノが仕込まれているなど、
これを思い付いたヤツ、──あの基地の誰か──相当な変人と見た。……と同時に、相当な切れ者だとも。
「────
パスの
悪寒は、消えることは無かった。
***
《────管制塔。こちらモルフォ01、応答求む……通じません! 回線異常無し……》
スネークが立ち上がりハッチを開く。
間もなくマザーベースへ到着というところで、謎の回線不通。気にならない訳がなく、パスを2人に任せてスネークの方へ振り返る。
と同時に、“FAL”が投げて寄越された。
「……おい、何すんだスネー……ク…………」
文句の1つ言ってやろうと彼を見やった瞬間、ハッチの向こうの景色が目に飛び込んでくる。
時刻は真夜中だと言うのにオレンジ色に海面が光り、すぐさま俺に“異常”を知らせてくれた。ハッチで四角く区切られたその光景は、まるで映画のワンシーンかのような、明々と燃える海上プラントの崩れ行く様を俺に見せ付けてくれる。
スネークの隣に立ち、俺は思わず呟いた。「何だこれは」と。
「くっ……」
何だこれは。
スネークの苦虫を噛み潰したような呻き声を聞きながら、頭の中でもう一度、自身が呟いた言葉を反芻する。
マザーベースが爆煙を上げ、次々に崩壊していき、我らが仲間のカズ、そして隊員達が、武装した謎の部隊に資材搬入用甲板上で追い詰められている。それが目の前の“現実”だ。
──襲撃か。考えられるとすればIAEAの核査察。ヒューイの独断で受け入れてしまった国際原子力機関のガサ入れ。
────ああ……恐らく、パスのリークを裏付けるためのものだろうな
偽り。裏切り。見事にノセられた訳だ、俺達は。
──根源から違っていたのだ。核査察自体がまず嘘。やって来たのは査察団体ではなく武装団体。俺達の核以前に、俺達を真っ向から潰しに来たと見える。
それに対し俺達は偽装するために兵力を縮小させ、核査察とあって完全に警戒を解いている状況。
さらには
まさに“最悪”の状態でマザーベースは襲撃を受けたのだ。
────だが、なぜだ。
何故CIPHER
よくよく考えてみればパスに対する“仕打ち”も変だ。爆弾を2個も埋め込んでいらっしゃるあたり間違いなく殺す気満々だが、まず爆弾2個という時点でおかしい。俺達に敗北し任務が失敗に終わった“罰”として消されるにしても、このような“方法”は無いだろう。明らかにCIPHERに対し不利になるような行動ばかりだ。────どうせ何らかの形で揉み消されるのだろうが。
────奴ら本来の目的に反った、何者かが動き出しているのか?
《あれは……ミラー副司令!》
が、現実は状況を整理する時間さえくれないらしい。はっ。意味が判らん。
「……クソッ!!」
毒づきながら、スネークと同時にFALで射撃を開始。強烈な震動に腕の筋肉が震え、FALが悪魔と化した証たる
「サーペント、前だ!」
モルフォ01が旋回、ガクンと揺れた機体。思わずハッチを掴み体を支える。カズ達の退路へ回ろうとした時、目の前にヘリが現れた。──もちろん味方ではない。
UH-1N イコロイ────通称ツインヒューイだ。
まずい。
「……っ! スネーク、下がれ!!」
体全体を露出しているスネークにサインをだし、後ろへ退かせる。同時に、モルフォ01の装甲が弾着を知らせる跳弾音を響かせる。
「────」
ふざけるな。──そんな“感情”が俺の中を侵し始める。未だにこちらへ射撃を続ける敵。──ふざけるな。そんなんじゃぁ当たるモノも当たらない。
いただきだ。
「──ふぅ……」
お返し、とばかりに発射。今回は
弾道は狙った
が、太股に着弾したことに間違いはなく、高威力の衝撃波を纏った弾丸が筋肉組織をメチャメチャにしながら貫通したんだろうな、とかかなりグロテスクなことを考えながらもザマアミロと言う気持ちになってしまった自分を嗤う。
────駄目だ。かなり怒りに呑み込まれかけている。
「……代われ、サーペント」
それを知ってか知らずかスネークが俺を引き下がらせる。ポン、と肩に手を置かれ、ふと必要以上にFALを握り締めていたことに気付く。
同時に、モルフォ01が甲板上に着陸した。
「……メディック、彼女を頼む。チコッ!」
ハッチからスネークが飛び降りるのを横目で確認し、機内の2人へ振り返る。彼らへ新しくFALを手渡すと、チコの表情が驚愕────いや、絶望に埋め尽くされているのに気が付いた。……何となく、察してしまった。
だが、今は“そんなこと”を兎や角言っている暇はない。状況はいろんな意味で差し迫っている。とりあえず“活”を入れるため、思いっきり頭突きをカマしてやるとしよう。
「……っ!?」
「チコ……今度こそ、彼女を護ってやれ。いいな?」
頼むぞ、小さな戦士。
突如、外から爆音が轟く。──いや。爆発によって生じた衝撃波により一瞬にして鼓膜が麻痺し、轟く、と感じる前に何も聞こえない。
RPGの弾頭の爆発――厄介な敵だ。現状我が方の総合火力を遥かに上回っている。
とまあ、そんなことを考えつつ深く頷いた彼に笑って返し、俺もモルフォ01の外へ。
────ッ!
途端、俺を熱気が包み込む。立ち昇る爆煙と充満する硝煙、僅かな“血”の香りが肺を満たす。
間違いない。今、
俺達の家が、戦場と化している。あちこちを
────ああ、やはり……ここは戦場と化してしまった。
「……っ……!」
ゴチャゴチャと頭の中を埋め尽くす雑念を振り払う。まずは牽制――敵正面へ弾幕を展開。フルオートで7.62×51mmNATO弾をばらまく。残念ながら照準がどうのこうのと言ってる場合じゃない。なんとか左手で暴れるフォアグリップを押さえ込みながら撃ち続ける。
先ほどのツインヒューイが目の前で爆炎を上げている。その向こうには多数の敵兵士────RPGを携帯した敵兵士か、射撃姿勢を取っているのが見えた。
「来るぞぉ!」
うつ伏せ状態のスネークも同時に撃ち始めているのを視界の端に捉えながら、俺もFALの
あのRPGを撃たせる訳にはいかない。確実に2、3人の命と共に他の奴らの行動まで阻害されてしまう。
「────っ!」
途端、視界がクリアになる。全てがスローモーションになったかのような、全てを把握しているかのような感覚。
極限までの緊張感、仲間の命の危機に対する焦燥感。それらが絶妙な割合でマッチし、異常なまでの
一気に3発発射。弾道が目に可視化される。
一発が左肩、一発が喉を捉えるのが“わかった”。
「────ハァッ……」
スネークが左へ、カズの援護に回ったのを見て、俺は右で抵抗を続ける隊員達の援護へ回った。
「──……ぐぁっ!」
「……っ!? ……
また1人、やられた。盛大に血飛沫が飛び散る。仰向けに倒れた隊員の目は見開かれ、もはや命の輝きはない。着弾点────血が滲み出てきている喉元、出血量から見るに即死だ。コンテナを盾にしてはるいるが、次々に凶弾に倒れていく。
まさに“戦場”。
“死”は唐突に訪れる。自身を殺した相手の顔を拝むこともできず、仲間と今生の別れを悲しむことも叶わない。死が、常となる場所────それが戦場。
俺は、どこか諦めにも似た思いを抱きながら、その光景を眺めていた。
「──……っ!? ……キャプテン!」
「馬鹿、集中しろ! 死にたいのか!」
見たところ生き残りは4人。……いや、3人。
俺は
「……撤退だ、急げ!」
「しかしマザーベースが……」
「そんなこと言ってる場合か! 早くっ!!」
「
ザマアミロ。
「……道連れ?」
「────ぐぁっ!?」
俺の左側で、共に囮役を買ってでてくれた隊員の叫び声。
「ん"っ!? ……ぐ……いてーよ、クソッ!」
右足を撃たれたようだ。他の隊員達も負傷者を庇う、若しくは自分自身の安全のために精一杯のようで、とても助けられる状況ではない。正直、俺も余裕は無いが、カバーに入る。
面倒なことになった。敵は目前に迫ってきている。最後方の俺たちが、最も敵の火線に晒されている。被弾は時間の問題だ。
「っ!? ちょ、キャプテン! 自分に構わず──いでっ!」
「ベタなセリフを吐くな。だいたいそう言う奴は生き残ると相場は決まっている」
だが諦めるわけにはいかない。如何なる状況であっても、生存の可能性を手放すことはない。
肩を貸しながらなんとかモルフォ01へ近付く。
右手でFALを撃ち続けてはいるが、さすがに片手でこの暴れん坊をあやつるのはちと無理がある。面白いほどにぶれまくりだ。
「踏ん張れ……あともう少しだ…………っ!?」
突如、足場が傾いた。破損したクレーンが倒れ、甲板をぶち抜いたらしい。──クレーンが倒れてきているのにも気付けないほど、今の俺には余裕が無い。
ブンブン、と首を振り、余計な雑念を振り払う──余裕さえない。
「────っ!」
突如感じる悪寒。
刹那、全身を駆け巡る激痛。
ああ────ついに、来たようだ。
「がっ!?」
やられた。
右脹ら脛と右胸だ。思わず倒れ込んでしまった。どうも肺に掠ったようで、口から血が溢れ返ってくる。────気持ち悪い。
「キャプテン!? ────うおっ!?」
隊員を、モルフォ01へ向けて思いっきり投げ飛ばす。人間の火事場力、とやらは本当に存在するらしい。ぐえっ、と潰れたカエルのような声を出しながら、隊員はヘリの手前に着地した。今にも死ぬかも知れない状況だと言うのに、思わず笑ってしまう。いや────流石にこれは死ぬ。
「────っ! サーペントオオォォ!!」
「おい待てっ! まだあいつが────」
そんな顔をするな、スネーク、カズ。
もうお前達の声もよく聞き取れなくなってしまった。思ったより傷の“位置”が悪かったようだ。意識が朦朧としだす。もはや痛みさえ感じることができない。只の痙攣なのか、死の恐怖から来るものなのか、手がブルブルと震えている。
戦場で生きる者としてそれなりに“死”は覚悟していたが、いざそうとなるとやはり名残惜しいものだ。せめてもうちょっとはお前達と過ごしたかったが、どうやらそうもいかないらしい。
ならば────。
窮鼠猫を噛む、とばかりにFALを撃ちまくる。4発撃つと残弾数がゼロへ。FALが無様に息を吐く。もっと根性見せろこの野郎、と八つ当たり。
咄嗟に甲板上へうつ伏せ、プローン状態へ。手早く最後のマガジンをリロード────と同時に横ロール。血反吐を吐きつつヘリから遠ざかる。
左腕の力が抜ける。どうも肩を撃たれたようだ。もうほとんど痛みを感じない。アドレナリンの成せる技か、ただ単に神経が麻痺しただけか……だが、問題ない。右手があれば銃の引き金は引ける。少しでも、俺に奴らの狙いが向けられれば上出来。時間稼ぎとしては十分だろう。
せめて死に行く俺が、生きるお前達の盾になってやる。
「────じゃあな」
生きてくれ。
誰に向けて言ったのかは、つい一瞬前のことだというのにもう忘れてしまった。
ずり落ちてくるコンテナに吹き飛ばされ、海へ投げ出されたのと同時に俺の意識は闇に埋め尽くされた。