────どこからともなく、
相も変わらず、俺は未だに夢の中。
辺りは先程までの、蛇達の抗争が嘘のように静かである。────いや。先程まで、というのはよくよく考えてみればおかしい。最後に遺された蛇が終わるまで、決して長くはないがそれ相応の“時”が流れていたはず。なのに俺の中の人間的
ふと、先程まで聞こえていた、あの美しい声の主たる白い蛇が見当たらないことに気づく。無い目を動かし、無い首を捻って全周囲を見渡すが、やはり結果は同じ──どこにもいない。何故だろう……無性に寂しい思いに駆られる。もっと、話がしてみたかった。
かさり、と眼下から音がしたので意識を戻す。見ると、先程の蛇が動き出していた。ズリズリとその身体をうねらせ、終わりを迎えた蛇達の元へと這っていく。
興味が沸いた。このあとあの蛇がどうするのか、見てみたくなった。
即断即決、移動を開始。身体は無いのでまさに“視点”のみでの移動となる。と言っても、空間そのものに等しい俺は、一瞬の内に地面──と呼べるのかは判らないが、まあ、蛇達が存在している空間の“端”らしきところへ到達。その蛇の視点から、物事を眺めることにする。
“彼”が真っ先に向かったのは、最後に遺された2匹の内の、1匹。その身体はまさにボロボロで、至る所を喰い破られ、血塗れだった。唯一原型を止めている頭も、右目を失っている。
彼は、その様を呆然と眺めていた。いや、彼は蛇だ。何故、“呆然と眺めていた”という人間的行動として捉えたのだろう。……まあ、いいか。
彼は、迷っていた。自分の命以上に大事なナニカを失い、自分自身に迷い始めていた。
────どこからともなく、金属が擦れ合う小さくも質量を持った、カチッという音が聞こえてくる。まるで
不審に思い、辺りを見回すがガバは見当たらない。それどころか銃の姿形さえ確認できない。
ん? と思った刹那、蛇の背後に“白い蛇”が現れた。……よく見ると、先程の美しい蛇ではない。別の蛇だ。けれど、白い。
先程の白い蛇を表現するならば、全てを包み込む“母性”に満ち溢れた美しさだ。なら、この白い蛇は……そうだな。妖しげな“愛”に満ち溢れた、とでも言おうか。また一味変わった魅力がある。
────突如、“世界”が動き出した。
抗争により荒れ果てた空間には“大地”が生まれ、海、川、山が形成されていく。そこに植物、動物……ありとあらゆる生命が誕生していく。……何かが足りない。────そう、太陽だ。そう思った途端、“太陽”が3つ、出現した。
蒼い
蛇達はその移り行く様を眺めていた。どこからともなく生命が溢れ出し────はしない。この抗争を生き残った生命達が、
だが蛇達は────それが赦されない。いくら交わり、お互いを貪り合おうとも、
蛇はもう……この“世界”には要らないようだ。
────まただ。どこからともなく金属が擦れ合う、少々耳にツくガチッ、という音が聞こえてくる。まるで
やたらと具体的にわかってくるのがなんとも不気味だ。けれどそれ自体から“悪意”は感じられない。まあ、大丈夫か。
────と、まあ、何やら得体の知れない“音”に意識を持っていかれてしまっていた。と言うか今さらだが、このような“夢”は初めてだ。夢とはこんなものだっただろうか。そもそも夢なのだろうか。少し不安になる。
“世界”へ、意識を戻す。そこには、生命の営みが行われている様が────あるのかと思っていたら、違った。
あるのは“女”の顔だった。女を、見下ろしていた。
先程までの感覚と違う。身体がある。俺は今、“世界”じゃない。“空間”じゃない。人間として、ここに存在している。今、かなり壮大な発言をした気がするぞ。
……ここはどこだ? 見たことも無い場所だ。先程までの生命溢れる世界ではなく、ごく普通の家屋。……どこかの一室のようだ。
────俺はそこで、一糸纏わぬ“女”を抱いていた。小柄な彼女の、細くしなやかな裸体と汗ばむ肌を交えていた。部屋中にねっとりとした、絡み付くような熱い空気が立ち込め、結合部は汗と愛液で蕩けきっていた。──ただ純粋に、さながら絡み合う蛇のように、お互いの身体を
────……ん? ……んん?
張り詰めた糸のようにピンッと彼女の背筋が戦慄く。
ふるふる、と震える睫毛。汗に濡れ薄紅をさしたかのような頬。熱い吐息と共に甘い嬌声を溢し続ける、妖しく艶やかな唇。
────……なんちゅー夢を見ているのだ、俺は。
“彼女”を抱いている“俺”が、じっ、と顔を見つめているのに気付いたのか、伏目がちに顔を背ける。……こいつ…………可愛いぞ。その仕草すら気に入っているのか、“俺”は延々と彼女の横顔を見続けていた。
しばらく続く、根比べの時間。未だに“熱”は冷めない。“俺”の身体を走り廻っている。────彼女も然り、笑える。
“お互い”が熱を持ち、熱く脈打っている。まだ足りない、もっと欲しいとでも言うかのように。
────熱い。熔けそうだ。
根比べはやがて終わった。顔を逸らしていた彼女が、うっすらと開けた瞼から覗く、生理的な涙に濡れた双眼がチラリ、とこちらを見たのを確認。それを待っていた“俺”なわけで、バッチリ目が合ってしまう。見る見る彼女の頬が朱に染まっていき、文字通りりんごのようになってしまった。
────……まあ、悪くはないか、な……?
謎の達成感に包まれる“俺”。口元がゆるゆると弧を描くのを止められない。いざ、尋常に……と、さらに奥深く、覆い被さろうとした瞬間、彼女がぎこちない身のこなしで、さながら蛇の如く“俺”の首に両腕を絡み付ける。ん? と“俺”が呆気に取られているのをよそに、彼女は動いた。
────……なんだ、この女……。
響くリップ音。唇と唇が軽く触れ合っただけの、甘い接吻。顔が僅かに離れ、彼女のしてやったりザマァミロ的な笑みを間近に見て、やられた、と思わずにはいられなかった。
──それも束の間。彼女は、その美しい髪を掻き上げた。実に煽情的で、雄の“欲”を的確に刺激してくれる。口から溢れる甘く、熱い吐息が鼻腔を擽り、まるで媚薬を吸ってしまったのかと錯覚するほど“俺”の熱を燻ぶらせる。必死に冷静を装いながら彼女を見つめていると、その艶やかな、未だに甘い吐息を溢し続ける唇がゆるゆると弧を描き始めた。ちらり、と視線を上げる。そのとろんとした魔性のナニカを秘めた目と視線が交錯し、“俺”は文字通り目を奪われた。──ははっ。こいつには敵わない。
“俺”も笑った。にやり、と口角を釣り上げる。ほぼ無意識に、右手を彼女の頬に添えていた。そのきめ細かい肌がなんとも心地好い。────彼女も同じように手を添えてきた。やがてそれが後頭部へと伸びる。
────愛おしくて堪らない。どうしようもないほどの“感情”が“俺”の心を満たす。もっと近くにいたい。──そんな思いからか、“俺”は彼女の額に己のを接触させる。目を瞑りその感触を楽しんだ後ゆっくりと目を開ければ、そこには美しい彼女の笑み。その双眼が“俺”だけを映してくれているのが、なんとも言えないほどに嬉しかった。
彼女が目を瞑る。今度はゆっくりと唇を重ね合わせ、さらに奥へと進む。
────……本当に、敵わない、な。
────どこからともなく、金属が擦れ合う、ジャキンッ、とかなり耳障りな音が聞こえてくる。そう……まるで遊底を引き、同時にエキストラクターがリムに引っ掛けられ、引っ張られた薬莢がエジェクターと衝突し排莢孔から弾き出されるという、要するに“排莢”の動作状態にあるガバ独特の“音”…………。
***
「────……っッ!!?」
あの甘い夢は何処へやら、俺の意識は一瞬にして“
「……ふむ。やっと起きたか」
未だにボヤける視界の端に映り込む人影。徐々に、徐々にはっきりとしていく。
「おい。寝ぼけるのも大概にしろ。いつまで“ソレ”を私に向けるつもりだ」
「……ん?」
変だ。右腕の感覚が無い。だが視界には朧気に映り込んでいる。──彼女に向けて伸びているのが気になるが。
やっと視界がクリアになる。同時に戻る、右腕の感覚。……うむ。マカロフ──
「まったく……今日は
「…………」
「おい、聞いていたのか。いい加減ソレを下ろせ」
そう言って足を組み直すのは、MSF研究開発班
グレーのベリィショートが清潔感を漂わせ、ぴったりとしたスーツにネクタイと相まって
基本的にこいつは愛想がない。それに無口だ。けれど口元にあるほくろは何故かチャーミングに見えるのが悔しい。解せぬ。
そして真意の程は定かではないが、彼女を注視しているとだんだん“百合”の花が見えてくるそうだ。まれに耳に入る、女性隊員の「視線を感じる」という苦情と何か関係しているのだろうか。
彼女は手に持った弾丸──45ACP弾──を弄りながら、優雅にコーヒーを嗜んでいた。その傍らにはM1911A1
……弾丸を弄りながらコーヒー、というのもなかなか異常な光景だが、まあそれは置いておこう。俺が今言いたいことはただ1つ。
「……さて博士。1つ、問題を出そう」
「構わないが」
「ん。じゃあ遠慮なく。……ここは何処でしょう?」
「お前の部屋だろう? 何を馬鹿なことを」
「判ってるなら今すぐ出ていけ。さも当然のように俺の個室でコーヒーを飲むな」
ふざけるんじゃない。いつから俺の部屋は出入り自由になったのだ。そんなことを許可した覚えは無いぞ。
「スネークの許可受諾済みだ。何の問題も無い。因みに、鍵は自分で開けた」
「スネーク! 誰かスネークを呼べっ! MSFの管理体制に異議を申し立てるぞっ!」
おいストレンジラブ、何だその顔は。何故お前が悲しいものでも見るかのように顔を歪ませている。お前、目がサングラスで隠れているからってお前の感情が完全に判らない訳じゃ無いのだからな。
「いいから落ち着け。いい大人がみっともないぞ。発情期か?」
「お前俺の夢見たのか? なんちゅードンピシャな質問を……」
「…………」
「おい。無言で距離をとるな。胸を腕で覆い隠すな。お前そんなキャラじゃないだろう」
まったく、心外極まりないぞ。猿じゃあるまいに。
「とにかく、早く準備しろ。私はこれから医療班にピルを処方してもらいに行く」
「俺を孕ませの悪魔かなんかと勘違いしているようだな」
「はっはっは。冗談だ」
コーヒーを飲み終えた彼女は、側のデスクにカップを置き去りに立ち上がった。ヒラヒラと手を振りながら、俺の部屋を出ていく。
随分と表情筋の使い方をマスターしたようだな、と失礼をことを考えつつ、モソモソとベッドから抜け出す。名残惜しさを感じつつもそれを振り切り、手早く身支度を整える。むっ。あんな夢を見たのだというのに我が息子は元気が無いな。彼女が起こしに来た(来た、という時点でおかしいのだが、まあそれは追々問い詰めておこう)訳なのだから、時間帯は恐らく朝方。男特有の生理現象、アサダチなるものがあってもおかしくない気がするが──などとは思わん。そもそもアサダチとは性的な夢となんら関係性は無いのだ────メディック曰く。まあ、さっき言った通り彼女が起こしに来たのだから時間帯は朝方というのはあながち間違ってはいないだろう。
しかし眠い。眠すぎるぞ。昨日は実戦部隊の兵器損傷率、隊員の死傷者数等の被害報告書、その始末書を作成する事後処理が予想以上に長引いてしまい、床に着いたのは確か2時半頃。果てさて、現時刻はいかほどに…………。
「3時13……分、だと……?」
うむ。1時間も寝ていなかった。
「博士っ! 何故起こした!?」
惜しい……実に惜しいぞ。
***
「────……よし。音声認識能力を用いた
《
「これでよし」
ZEKE格納庫の片隅、AI調整室にて、ストレンジラブ博士に入れてもらったコーヒーをぐいっ、と飲み干す。もう何杯目か忘れてしまったが、かなりの量を飲んだと自負しよう。果たしてカフェインは俺の眠気覚ましに役立ってくれるのだろうか。
「……博士。いい加減話してくれ。何故こんな時間にZEKEの調整を?」
「簡単なことだ。面倒だからさ」
「……ヒューイか」
はぁ……、と思わず溜め息が出る。
「昼間に行うと必ず私の後を付いて回ってくるからな。はっきり言うと邪魔でしょうがない」
えらく酷い言われようだ。彼女に並々ならぬ好意を寄せているヒューイが聞いたら舌を噛み千切って自殺を図るかもしれんな。
「それはあれか。好きな子にほど辛く当たってしまう小学生的な──ってちょっと待て。さり気無くガバにサプレッサーを着けるな」
「ん? ああ、すまん。手が勝手に、お前に銃を向けて引き金を引こうとしていた」
「ある意味病気だろ、お前」
「盛大なブーメラン発言だな。お前に言われる筋合いはない」
というか何処からガバを取り出した。
「知りたいか?」
「……やめておこう」
「賢明だ──しかし、彼らの言っていたことは本当だったな」
「何がだ?」
「一科学者として、このような矛盾した発言をしたくはないのだが……1度眠ると自分が決めた時間までは何をしようとも“絶対”に起きないお前を、“絶対”に起こせる方法、と言ったところだ」
……なるほど。スネークやカズ辺り、付き合いが長い連中の入れ知恵か。
「……やっぱり、ガバを“弄っていた”のはお前だったか」
「見事な反射神経だ、サーペント」
わざとらしくヒュウッ、と口笛を吹いてくる。お褒めに預かり光栄ではあるが、できれば起こしてほしくなかったものだ。……2つの意味で。
「はぁ……」
「どうした。辛気臭い顔をしているな」
そりゃあこんな夜中に叩き起こされれば溜め息の1つや2つつきたくなるものだ。今回は別の意味で、だが。
「ん。まあ、何が言いたいのかと言うとだな。いい歳した女が1人で男の部屋に上がり込むもんじゃないってことだ」
まったく。俺のような紳士じゃなく性欲をもて余した雄だったらどうなることやら。
「安心しろ。暴漢対策用にスタンロッドを常備している。私
「マジかよ」
「なんだ? 誘っているのか?」
「このアマ……しまいにゃ襲うぞ」
「まあ、お前なら悪い気もしないが」
「おっとすまん。ちょっと耳鳴りが……」
「まあ、お前なら悪い気も──」
「せっかく誤魔化したのにリピートするな。お前レズっぽく見えてそういうところはちゃっかりしてんのな」
ま、まさか……バイなのか? 両方イける口なのか? ここここういう時こそ動揺を悟られてはならない。俺は必死に無表情をつつつ造り出す。
「どちらも同じようなものだろう。お互いありのままの姿でくんずほぐれつニャンニャンするだけ──」
「判った。もういい。もう勘弁してくれ。俺の中のお前という像が音を立てて崩壊している」
呆気なく我が無表情は崩壊。無理矢理会話(と呼べるのかは置いておく)を遮り、はぁ……、と溜め息をまた1つ。椅子の背もたれに身体を預けんん、と背中を伸ばす。書類の散らばったデスクを挟み斜め前に腰掛けたストレンジラブ博士が、ズズ……、とコーヒーを啜る音が聞こえた。
目を開ければ、そこにはメタルギアZEKEの全容がある。稼働していない今の静かな状態であってもその驚異的な威圧感は健在で、実際、紛争地帯で俺達とアイツに出会ってしまった敵はどんな気持ちになるのだろうか。──まあ、想像に難くない。始めは驚愕だろう。このサイズの兵器が恐るべき速度で変態機動を行うのだから。やがてそれは絶望に変わり、戦意を削ぎ落とし、終いには生への執着をも放棄させてしまう。
AI搭載汎用換装2足歩行戦機メタルギアZEKE。
「……すまんな。お前の技術を殺戮兵器の強化のためなんかに利用してしまって……」
「気にしてなどいない。科学者は昔から利用されるのが常だ。いや、利用されるからこそ科学者は存在できる。その“利用”の意味が、科学者にとって善か悪かは関係無い」
「割りきってるなぁ……」
「そうでもしないとやっていけないさ。所詮、科学が生み出すものは
「ならいい」
いつの間にか注ぎ足されていたコーヒーに感謝しつつ、先程からずっと気になっていたことを尋ねた。
「博士。お前何日寝てない?」
声に張りが無い。心なしか肌も荒れているように見える。
「……はぁ。お前には隠しても無駄か」
「何でもお見通しだ」
「3日は寝てないな。後は覚えていない」
「華麗にスルーしたな」
3日、か。流石は科学者と言ったところか。どうせ理由を問い正せば、研究に没頭すると時が経つのを忘れていた的な、ありきたりな理由を臆することなく宣って来るのだろう。やはり、彼女は科学者だ。
しかし、矢鱈と口数が多いところ、彼女らしかぬ発言の数々……やはり少なからず疲れているのだろう。疲れているから、という理由にしてくれ。
「少しは休め。寝不足は美容の大敵だ」
「寝不足イコール美容の大敵となる根拠を示してくれ」
「知らん。適当だ。そもそも興味がない」
「……はは。お前らしいな」
そう言うと彼女は立ち上がった。サングラスを取り外しスーツの襟元に引っ掛け、俺の部屋を出た時と同じように手をヒラヒラと振りながら去っていく。
やはり、サングラスを外すと彼女は綺麗だ。文句なしに。特に目が。……サングラス、外せばいいのにと思ってしまうのは俺だけではないだろう。何となく、ヒューイが惚れるのもわかった気がした。
「お言葉に甘えて少し休むことにするよ。……お休み、
「ああ」
なかなか珍しい物が見れた。夢から叩き起こされたのは残念で仕方が無いが、今さらどうこう言って変わるものでもない。
……ん? どんな、夢だったか……? ……ああ、これはもう思い出せないパターンだ。あともう少しで記憶の扉が開きそう……っ! とか思いながらも絶対に思い出せない、質の悪い奴。思い出せないもどかしさのみ、募っていく。
「……寝るか」
はぁ……、と溜め息を溢しながら立ち上がり、最後のコーヒーを飲み干した。カップを適当に水洗いし、いざ、俺の部屋へ。格納庫を出る時、ZEKEにお休みと声をかける。何やってるんだ、俺。
「……百合が見えてきたことは黙っておこう」
後日彼女が、風邪を引いた16歳のいたいけな少女を襲っているという場面に直面し、ある種の恐怖を感じてしまうのはまた、別のお話────で済まないのがここMSFクオリティなのである。解せぬ。
***
その日から、ストレンジラブ博士とのAI調整作業は滞りなく進んでいった。AIは学習を繰り返し、時にスネーク、カズ、実戦部隊の面々とシミュレーションを交えながらその熟練度を上げていき、現地運用可能状態まであと一歩といったところだ。それこそ、ZEKEに搭載予定の核と双璧を成す、第2の抑止力と呼称しても遜色ないほどに。
と言っても、もともとZEKEを頻繁に現地へ派遣するつもりは無い。こんな
そこそこ名の売れ始めた俺達MSF故に、様々な諜報機関が“動き始めている”ことは我が諜報班の報告より主要メンバーは勿論、MSF周知の事実だ。現時点ではそこまで重要視されているわけでは無いらしいが、目を光らせていることに変わりはない。俺達が“奴ら”の目に「海上に居を構えた、通常戦力を保持する
一気に俺達を危険視した奴らは、あの手この手を使って“全て”を手に入れようとしてくるだろう。急速に──それこそ異常な速度で──ここまで発展した俺達とはいえ、誕生から二桁の年数も経っていない赤ん坊のような組織だ。奴らを相手取るには少々厳しいものがある。
とまあ、その旨はスネーク達には伝えてある。あいつらもその事は危惧していたらしく、MSF上層部の間ではZEKEの取り扱いについて取り決めが行われた。まあ、結果は言わずもがな、“慎重”だったわけで、こいつが陽の目を浴びるのはいつになることやら。
《────管制。こちらホーネット04、応答求む》
《──こちら管制。感度良好、西側からヘリポートに向かってくれ》
とまあ、そんなやり取りがあったのが今から約1週間程前だ。ヒューイが「お願いだ、サーペント……僕から彼女を奪わないでくれぇ!」と今にも立ち上がるのではないかと思わせる程の剣幕で、隣に“彼女”がいるにも関わらず詰め寄ってきたのはいつだったか。そもそもいつお前のモノになったんだ、とか、そもそも何故俺とストレンジラブ博士が既にデキている前提で話を進めているのか、とか、そもそも……と突っ込みたいところは山ほどあったのだが、涙混じりに訴える彼の形相にただただ「何もないナニもしてない」と答えるしかなかったのは記憶に新しい。「何を言っている、サーペント。お互いくんずほぐれつニャンニャンした仲だr──」と口元だけ笑いながら宣いかけた彼女の口を、一拍遅れて我に帰った俺が塞いだのは忘れたい。……だめだった、あのストレンジラブ博士の心底楽しんでいるのが丸わかりな笑みと、ヒューイの絶望を具現化したかのような表情を忘れるのは恐らく無理だ。
《──あぁ、ホーネット04、ちょっと待った。現在離陸を開始しているヘリがある。待機してくれ》
《了解だ》
はぁ……、と思わず溜め息が出る。せっかく任務が終わり、マザーベースに帰ってきたのだと言うのに気分はあまり晴れない。
「
気遣いの言葉を発しながらも、その手に持つ書類から目を離していないこの男は、今回の任務に同行することになった人物、コードネーム:タイガーだ。
様々な“能力”を持つ隊員達で構成されるMSF。その中で戦闘に於ける特性が高い者、とスネークが振り分けた、いわゆるMSF実戦部隊をさらに振り分けた内の1つ、
「……せめて心配してるんだったらもう少し態度で示して欲しいもんだ」
「申し訳ない。報告書の作成に手間取っているんだ」
「マジメだねぇ……」
「言っとくが、実戦部隊の報告書だ。勿論あんた宛てだからな」
「よし、タイガー。今すぐその書類を寄越せ。海に投げ捨ててやる」
曲がりなりにも実戦部隊隊長なんてやってる俺だ。デスクワークもそれなりにあるわけで、いつまでもトリガーハッピーやってる訳にはいかないのだ。あぁ、面倒くさい。だがサボるとカズがうるさい。ので、さらに面倒くさい。
《──こちら管制。ホーネット04、着陸を許可する。ヘリポート上へ進行せよ》
今回の任務──と言うか、新たな“顧客”との契約締結のための出張だったわけだが、結果はなかなかのデキだ。これに免じていろいろと多目に見て貰えないだろうか。
…………無いな。マジメにやるしかないか。
***
予想外のダブルパンチに打ちのめされ、俺は暗いオーラを纏いながらヘリポート上に着陸したホーネット04を降りた。律儀にも敬礼付きの出迎えをしてくれた隊員達に休むよう合図し、手渡された書類に目を通していく。
……ふむ。特に目立って変わったことは無いようだな。新たな入隊希望者が3名、兵器戦力増減率が、ヘリはパーセンテージ5%上昇、陸上兵器7%上昇、海上兵器4%上昇、か。いい傾向だ。逆に延びすぎとも言える。
「
「現金な奴だ……」
γチームか。実戦部隊全チームの中で、敵“戦力”の確保数が頭1つ飛び抜けているチームだ。何でも、俺達が海上プラントに住み込み始めて間もない頃、スネークが1度カズを実戦部隊に配置したとき特に“可愛がられた”チームの1つらしい。……奴に、徹底的にビジネスを叩き込まれたと見える。
まあ、タダで戦力が増強されるわけだ。万々歳である。
「……ん?」
気になる項目があった。医療班からの報告だ。
「おい、医療班に世話になってる奴がいるな。怪我人でも出たのか?」
「あぁ、それはそういう類いのものでは無くてですね。風邪を引いちゃったんですよ、パスが」
……パスが風邪を、か。珍し──くもないか。人間なのだ。誰だって風邪を引くことくらいある。
気になったのはその被害だ。ただの風邪ではなく感染力の強い病気などであれば、現在人員が増加傾向にある狭いマザーベースだと瞬く間に拡がってしまうだろう。パスには申し訳ないが、それ相応の処置なるものはしたのであろうか。
「──あ、今のところ伝染った、という報告は聞いてないです。本当にただの風邪だと思われます」
苦笑しながら隊員──コードネーム:エレファントが俺の心中を察してくれたようで、まさにドンピシャな返答をしてくれた。
エレファントなどと物々しいコードネームではあるが、こいつは女だ。カズ曰く「ここにいるには勿体ないほどの美人」である。実際のところかなり美人だ。顔立ちも綺麗に整っているし、胸もそれなりにある。日々の訓練のおかげで筋肉はついているが、それでも女性特有の柔らかい、色気を備えた肉体を持つ。一時期カズと関係があったらしいが、本人は遊びのつもりだったようだ。エレファントもそれを了承しており、特に深入りはしない、いわゆる“大人の関係”だったと、彼女から話を聞かされたことがある。────他人の色恋沙汰を聞かされるこっちの身にもなってほしいものだ。と言うかカズ、少しは慎みを覚えろ。あいつ他の連中にも手を出していただろ。
「ならいい。いつからだ?」
「一昨日からですね。
「メディックの診断は?」
「そのメディック、私です。本当にただの風邪だったので、熱冷ましと一緒に、3日も寝てれば治ると診断しました」
「わかった」
こんなことを言ってはいるが、彼女はタイガー率いる実戦部隊αチーム所属の隊員だ。どんな兵器も使いこなすオールラウンダーな兵士であり、俺も一目おいている優秀な人材である。さらには医学を少しかじっていたそうで、その気になれば医療班をもこなせるという、まさに“何でもできる”美人だ。……ずるくないか?
「……はぁ」
……む。なんだエレファント。今、露骨に溜め息をついたな。
「そこで『よし、見舞いに行ってやるか』の1つや2つ言えないからキャプテンはダメなんですよ……。ボスやミラー副司令とは大違い」
「……む」
いや、それくらいわかってはいるんだ。ただ、今俺には山積みになっているであろう自室のデスクワークのことしか考えられないだけで、決して心配じゃない訳ではないんだ。
……いや、ここで言い返しても、「それくらい放っておいてもしてやるのが云々」彼女に言い返されるのは目に見えている。ここは素直に、彼女の遠回しなパスへの心遣いを汲み取ってやるとしよう。
「……はぁ。わかった、パスの見舞いに行こう」
「そうこなくっちゃ! 私もついて行ってあげますから、勇気出してください」
「あのな……」
なるほど。彼女を見舞いに行く大義名分を手に入れたかった訳か。意外なところでシャイなんだな、こいつ。
利用されている感が否めないが──事実利用されているが──まあ、彼女の仲間を思いやる気持ちに嘘偽りが無いことも了承しているので、特に怒ることもない。
「じゃ、キャプテン。俺はこれで。パスにはよろしく伝えといてくれ」
「タイガーてめぇ」
「だって面倒くs──俺も報告書の作成に忙しいんだ。まあ、あんた宛てだけどな」
「今再確認した。俺はお前が嫌いだ」
「安心しな。俺もあんたは嫌いだ」
バイビー、と手を振り振り、タイガーは去っていった。
「いつも仲良いですねぇ、2人とも」
「……はぁ。あれで付き合いは長いからな」
さて、パスの見舞いに行くとしようか。
***
所変わってパスの自室前。俺達2人はその目の前で立ち往生を余儀なくされた。
「──さて。エレファント、1つ問題だ。……真っ昼間から男の俺が女の個室に上がり込むのは、モラル的に不味いんじゃないか?」
「デリカシーの欠片もないキャプテンが今さら何を言い出すんですか」
「あのな、だったらお前が先に行けばいいだろう。俺の背中にピタッとくっつくな」
まったく。妙なところで
「いや、何と言うか、私が診断した手前、妙に顔を合わせ辛いと言うか……」
「ガキかお前」
「う、うるさいですよっ!」
おい、動くなエレファント。背中で感じる柔らかい感触が物凄いことになっているんだぞ。……あ、これはこれで役得か。いいぞもっとやれ。
「──や、ちょっと……」
「……ん?」
今、室内から何か聞こえたな。背中でムキー! 状態のエレファントのせいではっきり聞こえなかったが、恐らくパスの声だ。室内に誰かいるのだろうか。
「……ちょっと離れろ、エレファント。どうやら先客だ。また出直そ──」
「やってやりますよ。私が開けてやりますよ。キャプテンのバーカ!」
「いや、ちょ、まっ──」
ガチャリ。備え付けのインターフォンがあるにも関わらずドアノブへ真っ先に手を伸ばしたエレファント。虚を突かれたせいか、俺の反応が1歩遅れてしまい、パスの個室のドアが開け放たれるのを許してしまう。──何故、鍵がかかっていなかったのだろう。
────同時に、物凄いモノを見てしまった。
「いや、だからその……ぅ、っ……」
「大丈夫、力を抜いて……」
「あっ……」
見えたのは女2人の姿だった。1人は見慣れたスーツ姿、もう1人は白のジャージ姿。──何故だろう。目に見える光景と共に矢鱈と思考がゆっくりになった。
言うまでもなく、前者はストレンジラブ博士、後者はパスだ。……2人はベッドの上。パスが仰向けに、その上からストレンジラブ博士が覆い被さるように体を密着させてている。博士がパスのジャージの胸元をはだけ、何かを押し付けているように見える。パスはと言うと、風邪による熱のせいか、はたまた別のナニカのせいか、その頬は程好く上気しておりほんのりと赤い。……うむ。正しく現状を認識できたようでなによりだ。
これはあれだ。博士が言っていた「くんずほぐれつニャンニャンする」と言う奴ではないか。普通は異性同士でするものと思っていたが、どうやら俺の常識が非常識だったようだ。これからは認識を改める必要があるな。
────と、俺の脳がここまで思考した瞬間、身体がとった反射的行動は3つ。
「」
「」
思考を放棄。
そしてエレファントとお互いの目を器用に手で覆い、パスの部屋から退散することだった。
***
ズズッ……、と紅茶を啜る。普段はコーヒーを飲んではいるが、今日はわざわざエレファントが紅茶をいれてくれた。ティーカップから口を離し、立ち昇る湯気と共に香りを楽しむ。……ん。いいな。コーヒーとは違った、上品な──決してコーヒーが上品ではないという意味ではない──香りだ。確かリラックス効果があるとか無いとか、そんなことを聞いたことがある。今の俺の……いや、俺達の精神状態には丁度いい。これからは紅茶もまたよし、か。
「……紅茶、美味しいですか……?」
「……あぁ」
ちなみにまたもや俺の自室だ。今さらだが、みんなガードが緩くないか? ホイホイ他人の部屋に上がり込むものではないだろう。……だが決して、甘い空気が部屋に漂っているとかそういう訳ではない。むしろ真逆。真逆と言ったら真逆なのだ。
ふぅ、とティーカップを机に置く。若干伏目がちなエレファントと視線が交錯。……ふむ。いいか、エレファント。せーのっ、
「「マジかよ」」
完璧。アイコンタクトのみの完全なる連繋。
「いや、え、ちょ……え?」
「安心しろ、エレファント。俺もかなり動揺している」
「博士が“そっち”の人かもって噂は聞いてましたけど……いや、ちょ、え?」
「落ち着け。無理だろうが落ち着け。……砂糖、どのくらいだ?」
「あ、もうドバァーでよろしくお願いします。激甘いきます」
彼女の要求通り、砂糖をドバァーと入れてやる。最初の内は紅茶に溶けていくが、やがて許容範囲を超えた砂糖がティーカップの底に溜まっていった。
ありがとうございます、と彼女は言うなりそれを口に運ぶ。……案の定咽せた。
「ケホッ、ゲホッ、ウエェェ……甘過ぎぃ……」
「だろうな。見ろ、砂糖の層ができてるぞ」
だが、そのおかげで現実逃避から我に帰ったらしい。バンッ、と両手で机を叩くと立ち上がる。
「いや、あれはダメでしょ!? 思いっきり襲ってましたよね? パス襲われてましたよね!?」
「あぁ。博士が纏う雰囲気は紛うことなきガチレズだった」
「いや冷静に分析してる場合じゃないですよね!? ボスとキャプテンがホモォしてる並みに衝撃的でしたよ!?」
「あのな、ホモは正確には同性愛という意味であって、決して男と男のアレをアレすることを限定的に指している訳じゃ──」
「だから冷静に分析すな! 遠い目をしないで下さい帰ってきてキャプテン!」
何を言うのだエレファント。俺はいつも通り正常だ。
「ダメだ……私だけでも何とかしないと……っ!」
さあ、書類整理が山積みになっている。今日も張り切るぞっ。
***
とまあ、そんなことがあったわけで、現実逃避を名目に書類整理に没頭すること数時間。気付けばあれほど嫌だったこの仕事は完璧に片付いており、時刻は既に22時を過ぎた頃。冷めた紅茶をぐいっと飲み干し、俺は席を立った。
「……パス、無事だろうか」
色々な意味で無事だろうか。救出に向かったエレファントもあの時から報告はないし、手持ち無沙汰になった俺は何故か、無性に気になった。
「はぁ……」
ま、まあ、他人の色恋沙汰など人それぞれだ。異性を恋愛対象と見れず、同性にそれを求める人々も存在することは前々から知っていたことだ。……見るのは初めてだが。それに俺のような部外者が口を挟む権利は無い。そう、俺達は国境なき軍隊なのだ。まさに性別をも超越した軍隊に変わり──
「そんなことがあってたまるか」
いかんいかん。また現実逃避に走っていた。未だに動揺が残っている。
はぁ……、と溜め息をまた1つ。途中、何人か隊員とすれ違い敬礼を交わすというやり取りを経て、パスの部屋に到着した。
「……パス、いるか?」
コンコン、とドアをノック。一拍置いて「……サーペント?」と彼女のくぐもった声がドア越しに聞こえてきた。やはり、元気が無いようだ。……と言うか、よく声でわかったな。
「あぁ、俺だ。体は大丈夫か?」
「……近くに博士、いない?」
「…………」
周囲を見回す。露出している肌の神経を研ぎ澄ませ、探る。……呼吸音も、空気の震動も感じられない。生命独特の“匂い”すら感じられない。
文字通り、人っ子一人いない。
「あー……大丈夫か?」
「……鍵、開けた」
カチャ。小さな金属音が響く。ドア越しに感じるパスの気配が遠退き、部屋の奥へ行ったのだと理解した。
「……入るぞ」
一応、声はかけておく。ドアノブに手をかけ、ガチャリと回す。ドアが開き、俺は彼女の部屋へ1歩、足を踏み入れた。
「…………」
「…………」
沈黙。お互い何も口に出すことはない。彼女はベッドで毛布を頭から被ってしまっており、その表情は窺えず、俺も特に何かを話そうと考えていた訳でも無いので、それがよりいっそう沈黙を助長していた。
「……まあ、風邪はそこまで酷く無いようだから、ぐっすり眠るといい」
とりあえず何か声をかけなければ、という使命感に取り憑かれ、言葉を発したは良いものの俺の口を突いて出たのはそんなありきたりなものだけだった。……くそ、こういう時、スネークやカズ辺りは何て声をかけるのだろうか。……ダメだ、何も思い付かん。これはあれか? 今日はいい天気だなから入るべきか? ──いやいや、今何時だと思っている。天気云々の話をする時間帯はとっくの昔に過ぎているから却下だ。ならばあれか? 今日も博士と楽しんでいたなとかか? ──いやいや、馬鹿か俺は。俺が部屋を訪れた時、真っ先に彼女が博士の存在を聞いてきた辺り間違いなく地雷だ。……どうしろと?
「……ん」
「ぬ?」
毛布からニュッと手が伸びる。その指が指し示すのは、ベッドの隣に置かれた腰掛け椅子だ。その上には、体を丸めた猫──ニュークが佇んでいる。リズミカルに動く腹を見る限り、寝ているようだ。
「……座っていいか?」
「……ん」
小さくくぐもった声が聞こえ、伸びた手が毛布の中に引き戻される。
やはり、と言うべきか、彼女に元気が無い。昼間に見せる柔らかい仮面──いや、雰囲気は鳴りを潜め、何かドヨーンとした淀んだオーラが滲み出ている。どうも素で落ち込んでいるようだ。
「……よいしょ」
すやすやとお休みのところ悪いが、ニュークの小さな体をつまみ上げ、椅子に腰を下ろす。そのままニュークを膝の上へ。「ゥニャァ……」と一声、すぐにこいつは寝始めた。
「……で、聞いていいのかわからんが、まあ、
「……うん。枕で殴って追い返しちゃったけど……」
誰を、とは聞かない。やはりこの話題は地雷臭がぷんぷんする。さっさと変えた方がよさそうだ。
…………まずい。話題が無いぞ。何かないか……ないか……っ!
「……この花、綺麗じゃないか」
見つけたのは机の上に置かれた小さなコップ。その中には、名前もわからないような白い花が活けてある。まるで“彼女”の白い髪のようだ。
これはラッキー、とばかりにネタにする。我ながら情けない。
「チコが持ってきてくれたの。これやるよ、って……」
「ほう、チコが?」
やったなチコ。自身の好きな相手にアタックすることは並大抵のことではない。かなり勇気を必要としたはずだ。
……にしても、“白い”。スネークが見たらどう思うのだろう。
「うん。何かに付着した少ない土で、ひっそりと咲いてたんだ、って」
……む。少し声に張りが出たな。話すことで少し気が楽になったか?
「はっはっは、そうか……他にも誰か来たか?」
「うん。たくさん来てくれた。アマンダにセシール、ミラーさんにヒューイ、アルマジロにタイガー、ピューマに……あ、それについさっき、20時くらいだったかな? スネークも来てくれた」
……ほうほう、なかなか面白い情報が聞けたな。今度からかってやろう。ついでに、明らかに省かれた人間がいるが俺は無視しておいた。と言うか、さすがはスネークだ。しっかりと気遣ってやってる辺り、本当にさすがボスと言わざるを得ない。
「ミラーさんが歌を歌ってくれたの」
「……耳、大丈夫か? かなり音痴だったろう?」
「うん。日本語だったから意味はさっぱりわからなかったけど、歌が苦手なんだなぁ、って思った」
「優しいねぇ、お前は……」
思いっきり「うん」って言っちゃってるけどなっ。
「でも、『風邪には座薬が効く! 俺が見本を……』って、ズボンを脱ぎ始めて──」
「もっと怒っていいぞ」
何やらかしてんだ、あの野郎。
「はぁ……スネークは何か言ってたか?」
「ちょっと質問してみた。……あまり多くは答えてくれなかったけど……」
「……はっはっは。だろうな」
スネークは多くを語らない、それは確かだ。あいつは、絶対に他人に口にすることはないであろう“闇”を心の内に抱えている。それこそ俺や、カズにさえも話さないであろう闇を。
人は完全に他人を理解することなど、到底できはしない。今この瞬間に、パスが何を思い、何を成そうとしているのか、俺に完全に“把握”することなどできない。
それこそ全人類を、1つの“ナニカ”に統一でもしない限り。
「あいつはあれで口が堅いからなぁ。そうそう本心を語ることも無いだろう」
今この世界が在る英雄の“真実”を、彼は胸に秘めている。
それこそ、この世で
「……サーペントは、さ」
「ん?」
一拍。
「スネークやミラーさんと……どういう経緯で知り合ったの?」
「……はっはっは。どうした、お前らしくもないな。気になるのか?」
「ちょっと……でも、答えたくないなら、いい。サーペントに悪いし……」
ふーん、と椅子の背もたれに体を預ける。……懐かしいな。もう3年近く経つのか。
「──よし、子守唄代わりに昔話をしてやろう」
「……いいの?」
「なに、隠すような物でもないさ。戦場ではよくあることだ」
ニュークの背を撫で、その柔らかい毛並みを楽しむ。……あ、なかなか良いな、これ。
「1971年、コロンビアでのことだ。スネークと出会ったのはカズより俺の方が先だった」
目を瞑る。瞼に浮かび上がるのはあの日の光景。傭兵として政府側に雇われ、戦い続けていたときに、片目のHOUNDは現れた。
「あの日は確か、強い雨が降っていた────とかシャレたこと言おうと思ったが、よくよく考えてみればあの日は思いっきり晴れてたな」
あいつは自分の部隊を引き連れていた。政府当局と契約し正規軍側の位置付けだったが、装備は全て自前で揃えていた。ただの傭兵がどうやったらこれだけできるんだ、と思った。
「スネークのことは知っていた。有名だったからな。戦場で生きる者は、誰でも1度は聞く名前だった。……
あの人の言葉通り、“必然”だったのかもしれない。
俺は、