魔族の玉座は空いている~魔王(予定)のわたしは、最強の勇者を倒すために彼女と同盟を結びます~   作:ふく神漬

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第14話 臨間学校⑥(終)

 

「貴方は一体……」

「確かめてみなよ、"獄炎"の『勇者』」

「ひっ」

 

 近づくと、フランさんが小さな悲鳴を上げる。

 

「その反応は少し、傷つくな」

 

 完全に怖がられてると思うと、途端に冷静になってきた。

 〈猛化《テトラ》〉も解けてきた。

 わたしの意思も大いに介在する状態となっている。

 

 わたしの目的は……そう。

 フランさんを攻略する、フランさんと仲良くなることだ。

 

 だからって下手に出ていてはダメだと思うし、今ほど恐怖を感じてもらっても困る。

 友達ってやつは、対等じゃなきゃダメだと思う。

 そうでしょ? セイン。

 

「フランさん、わたしが怖い?」

「……」

「分かるよ。わたしだってずっと、フランさんが怖かったもん。こうやって自分をさらけ出すのも怖かった」

 

 言い寄られて、フランさんの声が転調する。

 混濁、恐怖、怒り。

 色んな感情が織り混じったであろう、世界への声明だった。

 

「……分かるわけ無い! 分かってたまるか! 私は『勇者』で、他の連中とは違う! 他の奴らとも違う!」

「じゃあなんで、そんな強さを求めたの?」

「幸せに、なりたかったから」

 

 瞬間、フランさんがハッとした表情をする。

 それが着飾らない本音なんだと、理解できた。

 

「幸せって、他の人を下に見ることなの?」

「ち、ちがっ……」

「でも、フランさんはいつも自分一人で全部やろうとする。他の人なんてまるで頼りにならないって顔してる。それって自分が、特別だと思ってるからじゃないの?」

 

 無関心こそが、彼女が周囲に振りまく感情。

 下に見てるのではないとは知っていていても、あえて尋ねる。

 

「そんなことないってほんとに言える?」

「御託はもういい!! うんざりよ! もう、消えて……」

 

 フランさんの手の内に火種が見えたのと同時、わたしは動き出していた。

 

 虚しい炎だ。

 勢いもなく、弱々しい炎幕。

 

 フランさんの姿が眼前に迫る。

 

「ああ……」

 

 その瞬間彼女は、思わず後ろへと半身を揺らした。

 抵抗を諦め、敗北に身を任せる。

 

 なんてあっけない終幕。

 そんなの、わたしが許さない……!!

 

 わたしはフランさんの腕を無理に引き上げる。

 その行動に、彼女は目いっぱいの困惑を浮かべる。

 

「こんなので、終わらせないっ!!」

「どうして……」

「自分ばっかり特別なんだって、不幸なんだって、そんな面してるからだよ!!」

 

 悲劇のヒロインぶりやがって。

 そういうところに共感してしまって、ますます腹が立った。

 

 だからわたしは彼女を自分の舞台へ、引っ張り上げる。

 嫌だと言っても、無理にでも引きずり出す。

 

「あのね! 自分だけが特別なんて、思い上がるな!! みんな違ってみんな不幸! それでも、その不幸を抱えて生きてんだよ!」

 

 わたしだって、いちゃもん付けたくなるような無慈悲な人生を歩まされてきた。

 でも、誰と比べて不幸だなんて、そんなことを思ったりなんかしてやるもんか。

 

 彼女は敗北を認めたからか、はたまた聞いて欲しかったのか。

 分からないが、ポツリとこぼす。

 

「そう、ね……。特別に優劣なんて付けるものじゃない。それは、確かだわ」

 

 だからこそ、と彼女は付け加える。

 

「貴方に私の気持ちは分からないし、私にだって貴方の気持ちは分からない! 自分しか、この穴は埋められない!」

 

 故に、他者に縋ることは敗北だと彼女は言う。

 

 わたしだってそう思っていた時期はあるし、今だってそう思わないことはない。

 魔族の中ですら上手くやっていけないわたしが、人間と上手くやっていけるのか。

 いまだって必死に、フランさんに思いを投げかけているだけ。

 

 けど、最強の『勇者』は、セイン・ヴィグリッドは――わたしを意識している。

 わたしに付いていきたいと、そう言ってくれた竜人の女の子がいる。

 

 期待していると、背中を押してくれた。

 癪だけど、そんな思いがわたしを無理にでも進ませる。

 

 だからフランさんに、こんな形で勝利なんかしたくない。

 

 それに、ただ単純に。

 救ってあげたいなんて高尚な思いじゃなく、そう――

 ……友達になりたいと、思ったから。

 

「わたしは、フランさんの境遇も、置かれている立場も分からない」

「だったら――」

「でも、話は聞いてあげられる」

「……!!」

 

 俯いていた彼女は顔を上げる。

 その少し潤んだ青い大きな瞳は、はっきりとわたしを見つめていた。

 

 

 私は、弱くなることを望まれた。 

 力をすり減らして、周囲に合わせることを望まれた。

 幼少から、出来の良い兄と姉に比べられて生きてきた。

 

 けれどそれが出来なかった私は、出来損ないの烙印を押された。

 当たり前が出来ない私は、至上を目指さなければいけない、特別にならなければいけない。

 そうならないと、認めてもらえないのだと。

 

 そう思って生きてきたのに、無理に手を取って、対等に目線を合わせて言ってくれたこの魔族のせいで――

 

 ようやく、分かった。分かってしまった。

 ――私は、特別になりたかったわけじゃない。

 

 ありのままでいいと、認めて欲しかったのだ。

 

 何も無い、空っぽな自分が認めてもらうには、秀でた孤高の存在になるしか無いと思った。

 頼られない私には、頼ることの出来る人間が眩しくて、それを敗北だと捻じ曲げた。

 

 そんな私なんかの為に、この魔族はズカズカと心に踏み込んで、言ったのだ。

 言ってくれたのだ。

 

「不器用だけど。上手く話せる自信なんてないけど……わたしはフランさんと仲良くなりたい。お話がしたい。人間を学ぶために、わたしはこの学園に来たんだから」

「私なんてモデルケースにしても、参考にならないわよ?」

「なら単純に、仲良くなりたいから。……それじゃ、ダメかな?」

 

 段々と声が萎れていくのを聞いて、彼女も頑張って胸の内を明かしてくれているのだと感じ取れた。

 他人に興味なんかない、持つ必要が無いと思っていた。

 それがいとも簡単に、破られてしまったのだ。

 私だって歩み寄ってあげたいって、思ってしまったのだ。

 

「……貴方はその先に、何を目指すの?」

 

 その問いに対してだけは、自然と彼女の口から漏れる。

 

「セインを、最強の『勇者』を、倒すこと」

 

 口に出すだけでも、軽々としていいことじゃない。

 けれど彼女の芯にあるそれが、セイン様の琴線に触れたのだろう。

 セイン様が執着する理由は、悔しいが理解できる。

 あの人は、なりたくもない孤高になってしまった人だから。

 

「それが貴方がこの学園に来た理由? 貴方の果たすべき責務?」

「違うよ。……いや、最初はそうだった。けど今ははっきり言える。わたしがあいつを倒したいから。あの完璧にならなきゃいけないなんて気取った奴に、そんな思い上がるなって突きつけてやりたいから」

「なにそれっ」

 

 くすりと、笑みがこぼれる。

 嘲笑したつもりじゃない。

 

 大真面目にそんなことを現実にしようとする気概が伝わってきて、そんなセイン様の姿を想像してしまって。

 不覚にも、笑みがこぼれた。

 

「……フランさんが、笑ってくれてる」

「そりゃあ私だって笑うわよ。一体何だと思ってたわけ?」

「え? いいの?」

「いいわよ。私のイメージってどんなの?」

「誰にでも平等に火を吹きかける……火炎放射器みたいな」

「正直ねっ!?」

 

 まあ、仕方ないか。

 特にその例でいくと彼女には火力強めで接していた部分はあるから、言われても受け流すしか無い。

 

 私は一つ、咳払いを挟む。

 

「――セイン様は、私なんかよりよっぽどすごいわよ?」

「でおフランさんのいいとこ、あんまり見せてもらってない」

「言うじゃないの」

 

 ありのままを認めて欲しい。

 その気持ちは変わらない。

 けどいまは、それだけじゃ無くなった。

 

 ――この魔族に勝ちたい。

 そのままの自分で、もっと高みへと上り詰めて、誇れる人間になりたい。

 

「なら、やりましょう」

 

 どうやら迷宮攻略はまだ続いているらしい。

 本当に乗っ取られたという認識なのか。

 ただ見世物にしているのかは分からない。

 けど、そんなことはどうでもいい。

 

 炎を私達の周囲に伝わせ、取り囲む。

 私の土俵の上で、彼女はその勝負を受けて立つらしい。

 

「いいの?」

「うん。完璧に勝ってみせるから」

 

 そうして再び、彼女は赤い結晶体を生み出す。

 

「血晶《アスタリズム》」

 

 もう一度、赤い結晶を砕く。

 

 失われていた赤みが、その色を取り戻していく。

 赤と緋色の瞳も合わさって、萎縮する程の威圧感を醸し出している。

 

 それを受けて、燻っている芯にある火種に火が付いた。

 心地いいと思ってしまう自分に、口元が綻ぶ。

 

「ねえ。貴方の名前を、教えてくれる?」

「……」

 

 本当の意味で、私はこの魔族を意識する。

 故に、それを問いておきたかった。

 

「ミラ・フィーベル。いずれ最強の『魔王』になる存在」

「そう、ありがとう」

 

 不敵に名乗りを上げる彼女は、先程までとはやはり違う。

 なればこそ、私も負けてられない。

 

「フラン・リワール。貴方の前に立ち塞がる、"獄炎"の『勇者』。覚えておいてよね」

「今度こそわたしを、楽しませてよね」

「ええ、今度こそ裏切らない」

 

 呆れるほど私に付き合ってもらったんだ。

 だから彼女の期待を、もう裏切ったりしない。

 

「さあ始めましょうか。――――ミラ・フィーベル」

 

 そうして、最後の幕が開ける。

 

 

 臨間学校での迷宮攻略は配信されるわけではない。

 ただ、脱落したクラスの一同に限って鑑賞することが許可されている。

 

 …………。

 

 しかし各々がその映像を前に、困惑、混乱、不安を抱え。

 無言で立ち尽くしていた。

 

 その映像を特等席から眺める白衣の人物に、銀の髪の少女が声を掛ける。

 

「先生」

「なんだヴィグリッド」

「いえ、このまま続けてもいいものかと。代弁を頼まれたので」

「こんな面白いもの、打ち切る方がどうかしてる。私の努力の果実が実ったというものだ」

 

 アステラはあらかじめ、各々の班に相性の悪い迷宮を充てがっていた。

 愉快にその醜態劇を見たいというのが一点。

 そしてもう一点は、逆境の中で発生する予想外の出来事を見てみたいという好奇心が一点。

 現在「狩猟域」を除く全ての迷宮攻略は終っており、制限時間が迫るほど接戦を繰り広げているのはここだけであった。

 もっとも、攻略と呼べる要素を排除してだが。

 

「知っていたんですか?」

「なんだ、主語を付け加えろ」

「……彼女が、ミラが魔族だということ」

 

 その問いに、アステラはためらいなく頷く。

 

「当たり前だろう。魔力の特色が人間とは別物だ」

「でしたらもう少し配慮があってもよかったのでは?」

「うるさい。私が基準だ。というか貴様が言うな」

「なかなか横暴な方だ」

 

 しかし自身もその境遇の一端となっている自覚があるため、セインは追求を辞める。

 

「だがまあ知っていただけだ。貴様にとっては、やつの面が好みだった。そういう認識だった」

「……私にどんなイメージを抱いてるんですか」

「変態」

「私でも傷つくことはありますよ」

 

 そんなことより――と、アステラは勝手に話を進める。

 

「これもヴィグリッド。お前の思い描いた通りか?」

「手引に関しては協力しましたが、まさかこんな状況になるとは思わなかったですよ、さすがに予想外ですね」

「お前にとってもか。なら、それを踏まえて問う。この状況を、止めたいか?」

 

 自分の予想を尽く超えていく。

 その姿に、セイン・ヴィグリッドの心は躍ってしまっていた。

 

 したがって、彼女も正直に心情を吐露する。

 

「いえ、私は観たい、この顛末を」

「やはりお前も大概だな」

 

 その共犯関係に、口を出せる者は誰もいない。

 残る時間は、着々と迫っていた。

 

 

 

 時間という制限が、勝負の終わりを告げる。

 フランさんは、身体の一部が青い粒子となり消えかかっていた。

 

 ……完全に勝ち切ることは、出来なかった。

 立ち直った彼女は、本当に強かった。

 

 攻撃の範囲や威力だけではなく、防御に関しても隙がなかった。

 

 瞬間的な火力から来る一撃をくぐれど、炎が周囲を至る所から囲っており、死角から攻め立てようにも攻めきれず、致命傷には至らない。

 

 その間にも、フランさんは次の一手を緩めない。

 攻勢から刹那にして防戦に切り替わるのだから、わたしも迂闊に踏み込めない。

 

 結果、殴り合いの膠着状態という歪な戦闘が繰り広げられたのだ。

 

 これがフランさんの本気の実力なのか。

 セインってこれより強いの? ちょっと自信無くすわ……。

 

「終わり……か」

「そうだね。完璧に倒せなくてごめん」

「煽ってんの? でもま、こんな状態だし、私に有利な条件だった訳だし。私の負けってことでいいわよ」

「いらないよ、そんな中途半端な勝利」

「そ、じゃああげない」

 

 あれ……。

 でもよく考えてみれば、『勇者』を倒したという実績はわたしという無名の雑魚魔族にとって大変有意義なのではないか?

 仲間も集めないといけないし……。

 だとしたら、貰っといたほうがよかった?

 

「ま、いっか……」

「ん~?」

「いーや、なんでもない!」

 

 フランさんの本音が聞けて、全力でぶつかってきてくれた事実が嬉しかったこと。

 それに。

 こんなにも晴れ晴れとした気分を不意にするのはもったいないと。

 そう、思ったから。

 

 

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