魔族の玉座は空いている~魔王(予定)のわたしは、最強の勇者を倒すために彼女と同盟を結びます~   作:ふく神漬

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新章開始です!日常編です!


第15話 着地した日常

 拝啓 残春の候。

 貴方様におかれましては、ますますご健勝のこととお慶び申し上げます。

 対して貴方様の娘である私は、貴方様の不手際により非常に難儀な対応を常に迫られる日々。私はとても憤慨している所存をお伝えしておきます。

 

 よって、次に私からの連絡に応じない場合、貴方を訴えます。

 

 なんて、もちろん冗談だよ(笑)!!

 こんなトークアプリでの文面、まさか本気にしてないよね!

 でも……

 本当に次、私からの連絡に応じない場合覚悟はしといてね、笑。

 

 という軽い冗談を挟みつつ、近況をお伝えしておきます。

 あの後わたしが、どうなったのか。

 精算の果てに何を得たのか。

 それを記しておきます。

 

 

「ミラ・フィーベル。安心しろ。私がついてる」

「……」

 

 なんて頼りない背中だろうと、失礼にもそう思ってしまう。

 アステラ先生に連れられたのは、学園長が君臨する場所。

 大仰に言うが、わたしにとってはそれくらい高い壁に見えるのだ。

 

「君は私の大切なモルモ――生徒だ。しっかり守ってみせるさ」

「今モルモットって……」

「そうだな。私も反省したのさ。生徒を守りたいとね」

「このうっすい時間で!?」

 

 

 まあアステラ先生の態度はおいといて。

 正直わたしは、もう嘘はつかないことに決めた。

 霊体《アバター》での迷宮攻略は、肉体的な疲労は無い。

 が、心労はとてつもなくフィードバックされている。

 頭がうまく回らない。

 それに、セインが言ってくれたから。

 臆さずに、そのままの自分で向き合うと決意を固める。

 

「じゃあ、行くぞ」

「はい!」

 

 どんな審判でも受けてやる。

 かかってこいよ。

 

 そう、息巻いていたのだが。

 

「問題ありませんよ」

「え?」

 

 ブカブカのローブを身に纏う、小柄な体躯。

 一見すると子供にも見えるが、振る舞う所作は丁寧で様になる。

 その御方は、いとも容易くそう告げた。

 

 え、なんで?

 

「なぜかと思いますか? それは至って簡単なこと。以前から、貴方の素性は割れていたからですよ」

「え、いつから……ですか?」

「入学直後ですね。「連邦議会」から伝達が入っていたんです」

 

 ミラ・フィーベルの素性については詮索しないこと。

 加えて、その意思を尊重すること。

 

「これが、議会からの命です。私のようなしがない身分では、その決定に疑念を突きつける事もできないのですよ」

「こ、怖い。議会怖い……」

 

 「連邦議会」とは、この学園を擁するアドリア王国も含めてほぼ全てを統括する最高決定機関。

 創作なんかではよく悪役として描かれている場合が多いが、実際は問題が人間と魔族の間で問題が起きないように仲裁を行う、秩序を維持するための機関だ。

 

 その機関が、一個人の為に動くなど権力の横暴だ。

 

「ほんとにすみません。わたしの父親のせいで……」

「いえ、構いませんよ。私としても、魔族であるからと排斥する考えはありません。それに、貴方が何をもたらすのか、とても興味深いですから」

 

 わたしなんてそう期待される存在じゃありませんよ。

 ……なんて、そういうのはもうやめだ。

 セインがあの時――

 フランさんに詰め寄られた時、わたしに困惑していた理由。

 戸惑っていた理由が、なんとなく分かった気がする。

 

 わたしは深く腰を折る。

 

「寛大な応対、感謝いたします。わたしなりに精一杯、頑張らせて頂きます」

「ええ。いい心がけです。楽しみにさせてもらいますね」

 

 嫣然とほほえむ姿は、見てるだけで心が癒やされる気がした。

 学園長、優しい。好き……。

 

「ちっ。私のビックリドッキリメカはお役御免か。しょうもない」

「…………」

 

 ――――あんたはもう引っ込んでろ!!

 

 空気をぶち壊す発言を投下するアステラ先生に、わたしの心が叫びたがっていた。

 

 

 翌日、わたしは自身の身体を引き摺りながら学園への道を歩む。

 途中まではセバスに送ってもらうので、わたしが歩く距離なんてたかがしれてる。

 

 けれど今日だけは、学園に続く道がとても長く感じた。

 

 どんよりとした雲が漂う、そんな気分。

 ほら、天気さんもわたしと同じ気持ちでしょ?

 

「おはよう。良い天気だね」

「これが本当に、良い天気に見える?」

「雲一つない空に、太陽が堂々とわたしたちを照りつけている。これは快晴と言ってもいいんじゃないかな」

 

 正論はときに人を傷つける。

 いや、いつも正論はわたしを追い詰めてくる。

 

 今日だって、休みたくて仕方なかった。

 ただ布団でバタバタともがいて、電子端末もゲーム機も触る気にならないほど気分は最悪だった。

 にも関わらず、わたしは頑張ってここまで来たのだ。

 

「ということで、今日はもう帰宅していいよね」

「いや、サボるというなら良くないんじゃないかな」

「いや、良くなくないよ。わたしは帰る!!」

 

 そうして踵を返すわたしの首元を、軽々と持ち上げる。

 猫じゃないんだぞわたしは。

 

「フランのことでしょ? そんな心配しなくても大丈夫だよ。私も間に入るし、どうせ対峙しなければいけない課題なんだから」

「いやだ! わたしは魔族だ! 屈しない! 屈しないからな!!」

「ああ、そう言えば君の素性に関しても認可されたみたいだね。良かったよ」

「あんたは本当に、(気持ち悪いくらい)わたしのことがよく分かってるね」

「それほどでも」

 

 褒めてないよ……と思いながら昇降口にたどり着く。

 そこで、出会ってしまった。

 

「「あ」」

 

 金色の陰りのない髪は高い位置に結ばれておりに、澄んだ青い瞳がこちらを見つめる。

 フランさんが、そこにはいたのだ。

 

「「…………」」

 

 お互いに固まる状況に耐えられなかったのか、セインが間に入る。

 

「ここじゃ目立つし、とりあえず場所を変えようか。始業まではまだ時間はあるからね」

 

 そうして移動したのは、前にフランさんと対面した踊り場だった。

 

 前回の出来事が脳裏に映る。

 わたしの存在を認めないと、はっきり言われた。

 

 今は、どうなんだろうか。

 怖い……けど。

 わたしは決めたじゃないか。

 "獄炎"の『勇者』を攻略する、対等になると。

 

 だからわたしは、想いを吐き出す。

 

「昨日は本当に、ごめん――」

「ごめんなさい!!」

「え?」

「なっ……」

 

 思わず顔を上げると、そこには顔を紅に染めたフランさんの姿があった。

 多分わたしも、同じ様に映っていると思う。

 

 ……そっか。

 フランさんも、わたしと同じだったんだ。

 勇気を出して、わたしに語りかけてくれたのだ。

 

 その事実が、わたしの心に絡まっていた糸をほぐす。

 

「悪いのはわたしよ。貴方を否定して、排除しようとした」

「いや、わたしが素性をかくしてたのがそもそもの原因だよ。フランさんは悪くない」

 

 けれど彼女は、首を横に振る。

 

「素性が分からない相手ならなおさら、否定してはいけなかった。一人にしたのは、わたしの責任よ!」

「そんなことない! わたしが迷宮をめちゃくちゃにしちゃって、フランさんに分かった風に好き勝手言って! わたしが、悪いの!」

「違う! 私が――」

 

 気づけば、どちらが悪いかの口論が繰り広げられていて。

 意味がないと分かっていても、わたしも口が止まらない。

 

 だって、思い出してみるとなんて厚かましいやつだって思う。

 わたしは全員を傷つけた。

 思うがままに、他人の尊厳を踏みにじった。

 

 悪いのは、わたし――

 

「二人とも、そこまで」

 

 凛とした声音は、わたしとフランさんを冷静にさせる。

 心に響くような、そんな泊がある声音だ。

 

「お願いがあるの」

「え?」

 

 唐突にフランさんが、そう切り出した。

 

「貴方が悪いなら、一つくらいお願いを聞いてくれたって良いでしょ?」

「まあ……わたしに、出来ることなら……」

 

 淡々と言っているように見えて、フランさんは手を絡めながら下を向いている。

 なんか告白みたいだな……なんて思ってしまう自分が恥ずかしい。

 

 フランさんのお願いはきっと、セインと離れてとか。

 そこに落ち着くのだろうと、思っていたのに。

 

「友達に、なって欲しい……」

「は、はい……え?」

「私は貴方のことを、もっとしりたいの。だから……!!」

「わたしを……?」

「そうよ! 何度も言わせないで! 友達に、友達になってっ!!」

「……うん」

 

 ずっと、待ち望んだ言葉だ。

 わたしが言えなかった言葉を、フランさんは言ってくれた。

 

 視界がぐらつく。

 目尻から、ぽたぽたと雫が落ちる。

 それが止まらなくて、わたしは膝をつく。

 

「ちょっと、どうしたの……!?」

「うれしくて……すごく、うれしくて」

「こんな私で、いいの?」

「……フランさんが、いいんだよ。そのために、頑張ったんだよ!」

 

 フランさんはその青い瞳を大きく開く。

 そして、ぎゅっと――

 泣きじゃくるわたしを、優しく抱擁してくれた。

 

「本当に、今までごめんね」

「うん……」

「でも、ありがとう……ほんとに、ありがとう……」

 

 フランさんはわたしが泣き止むまで、優しく包みこんでくれた。

 やっとわたしは、彼女と友人になれたんだ。

 対等に、なれたんだ。

 

 

 こうして、わたしたちは晴れて友人になれたわけだけど。

 わたしはふと思う。

 

 友達って、何をすればいいの?

 ずっとぼっち生活だったわたしには、友達になったら何をするのかが分からない。

 

「ねえ」

「は、はい。なんでしょうか」

「そんな固くなくていいわよ。そうね。……貴方、趣味は何なの?」

「あ、えと……ゲームとか。最近は「DOF」ってゲームをやっててね。これが奥深くて……いやごめん、わかんないよね」

「え……貴方も、やってるの?」

「…………まさか、フランさんも!?」

 

 DOF――「Dungeons of Fire」の略称。

 キャラの育成がかなり細分化されていて、アクション要素もかなり凝っている硬派なゲーム。

 難易度は高いがやりがい要素が多く、コアなゲーマーがたどり着くゲームなはずだ。

 

 フランさんが、そんなゲーマーだったなんて。

 そうなると、話したいことがたくさん浮かぶ。

 

「盛り上がってるとこ悪いけど、そろそろホームルームの時間だよ」

「あ、うん」

「そうですよね、セイン様」

 

 でもせっかくきっかけが出来たのに、話したいことが出来たのに。

 このチャンスを逃すのは、絶対ダメだ!

 

「フランさん。今日の夜、空いてる?」

「へ? なんで?」

「そんなの、決まってるじゃん」

 

 わたしの提案に、フランさんの顔が赤くなる。

 

「「DOF」、一緒にやろうよ」

「ああ、そういう意味ね……」

「? とにかく、あのゲームやってる同士なんて絶対逃さないよ! それにわたしたち、友達になったんだから!」

「そうね。私も……一緒にやってみたかたから」

「あの、二人とも?」

 

 ミラとフランが盛り上がる中――

 

「あれ?」

 

 一人、疎外感を感じるセインであった。

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