「……と、いうことがあったんだよ」
「ソリャ、イインダケドヨ。オマエ、ヤルキアンノカ?」
地下の一角に位置する部屋。
わたしはそこに幽閉されている『魔剣』――ベルウイングを前にしている。
もっとも、わたしは椅子に座ってぐだっているだけだが。
「無い!!」
「ジャア、デテケッテンダ」
「わたしだってそうしたいけどさあ」
こんな無生物?無機物?
よく分からない物体前に、こんな苦行の挑戦を強いられているのだ。
たまには愚痴ったっていいじゃないか。
「マアスコシハ、マシニナッタガナ」
「そう?」
「ココロガ、スコシダガマシニナッタ。ソレガチカラニモ、ワザニモツナガル」
「そろそろ折れてくれる気になった?」
「カカッ! ソリャア、ムリナソウダンダゼ!」
「だろうね」
押してダメなら引いてみる。
そんな魂胆だったが、そもそもベル相手に策を弄したところで通じるわけ無いか。
表も裏もないんだから。
「ならどうしたらいいの? いまのわたしに点数を付けるならどれくらい?」
「……ムズカシイ、コトイウナ」
ベルが押し黙る。
考えている? こいつが?
そう考えると、緊張が奔る。
そして、伝説の魔剣様の採点は――
「30テンッテトコロカ」
「もう一押し……! 身内贔屓でもいいから!」
「アマクミテ、30テンダ」
これでも緩いのかよ。
加点方式なのか、減点方式なのか。
いや、そんなのどうでもいい。
今のわたしに、一体何が足りないのか。
具体的に言ってほしいものだ
「アア? ソリャアサイキョウノ、ソバニイナガラ、ニゲテルコトダナ」
「っ……!」
「イズレコエルト、ソウイッタンダロ? ナノニ、ソノアイテヲシラナイ、シロウトシナイ。マズハ、ソレカラダロ」
「……はい、仰るとおりです」
ベルの癖に、言ってくれるじゃないか。
こいつはたまに、核心を突いたことを言う。
表裏がなくても、ベルは長く生きた経験と、それを踏まえた思考がある。
それに基づいて、わたしに楯突いてくるのだ。
「……ほんと、不燃ゴミのくせしてさ」
「カカッ! ダガ、スコシハオモシロクナッテキタ、タノシミニナッテキタゼ? ソノチョウシデ、セイゼイアガケヨ? ザコマゾクナリニナ!!」
こいつ、いつか絶対分からせてやるからな……!!
◇
「お嬢様、御客人がおいでです」
我が家はあまり落ち着かないという理由で、使用人があまり居ない。
というか、緊急時以外は執事のセバスが一人で屋敷を切り盛りしている。
セバスに関しては、わたしが自然に接することができる貴重な人材だ。
興味がないだけかもしれないが、期待を押し付けてくることもない。
だが、こちらの意思を汲んで行動してくれる。
そんなセバスが、わたしに直接コンタクトを取ってくる時はだいたい、危険信号の証だ。
「ええと、ルミナス……母様は?」
「今朝出張にお出でなさいました。それに、御客人はお嬢様を指名しております」
「ええ、嫌だあ……」
実際、今回も例にもれずそんな予感しかしない。
わたし個人への要件というと、前回の『竜王』といいろくなことが起きないのだ。
気分が乗らないわたしに、セバスが目を閉じて告げる。
「今日のお夕食ですが、お嬢様の好きなロールキャベツに致しましょう」
「……セバスはわたしのことがよく分かってるねえ」
餌があれば簡単に食いつくのがわたし。
渋々セバスのあとを追って、客間の扉を開く。
すると、そこには――
巨大な熊が、立っていた。
「う、わあああああああああああああああああ!!!」
な、なに!?
二足歩行で立っている熊はレプリカではなく(そういう問題ではないが)、わたしを凝視して、ちゃんと息を吸って吐いている。
……生きている、立ち尽くす熊は何も言葉を発しない。
「…………あ、ああ」
わたしは脳が追い付かず、フリーズする。
紛れ込んだわけじゃないよね?
誰かこの状況を説明してよお!!
「お戯れもそこまでに」
セバスはそんな状況を見かねて、助け舟を出してくれる。
「ハハハッ!! そうだなッ!」
その甲高い声、まさか――
「『獣王』……ウイガルさん!?」
「いかにもッ! 良いリアクションであったぞ、ミラ・フィーベル!!」
入口を塞いでいたウイガルさんが傍に引く。
するとそこには、二人の獣人が視界に映った。
確か、狼の獣人はウルウィアさんで。
あと、もう一人の獣人――猫耳が特徴的な褐色肌の獣人は、ジュリ、さんだっけ。
彼女は大人しく椅子に座って、足を組んでいた。
そしてわたしの方へ目線だけ向け、舌打ちをする。
「チッ」
こ、こわいよ……。
まさか、この間のお礼参り?
あれだけのことをしたんだ、その可能性は十分にある。
だったらわたしが、先手を取って動く……!!
「この間は、本当にすいませんでした!!!」
その場に土下座する。
能力の影響もあったとはいえ、失礼な態度をぶちかましてしまった。
どの口がって言えるほど、全方位に毒を撒き散らしてしまった。
けじめというなら、しっかりと受けるつもりだ。
が、ウイガルさんは否定する。
「頭を上げろ。別にキサマに何か罰を与えるつもりはない。むしろワレは、キサマのイカレ具合こそ『魔王』に相応しいと、そう思ったぞ?」
「それ、褒めてるんですか?」
「褒めているさ! キサマの理にかなわない性分は、『魔王』としてどこまでいけるのか、気になるところだ!!」
「はあ……」
イカれているとか言われるとショックだ。
あれは「血晶」の影響であって、わたし自身は普通の女子なのに……。
「それで、要件はなんでしょうか?」
「ああ、ワレらがここに足を運んだ理由! それはキサマにとって、利がある提案を持ってきたからだッ!」
「え?」
「ハハッ まあここからは、当人に任せるとしよう」
ウイガルさんが顎で指すのは、猫耳の獣人。
彼女は言われて、ばつが悪そうに視線を逸らす。
そんな彼女を、ウルウィアさんが優しく諭す。
「ジュリ。行って来い、お前が将来、『獣王』を継ぐために」
「わーったよ。ああ、アタシもやってやるさ」
二人のプレイベートの関係性は、父と娘のようだなと思う。
そうしてジュリさんは、わたしの前にやってきて姿勢を整える。
「アタシはテメエに負けた。テメエの言う通りだ。意思もあやふやなアタシが、強くなんかなれるわけねえ。弱えと思ってたやつに当たり散らして、ほんとダセえやつだった」
素直に謝られて、わたしは困惑してしまう。
「……いや、わたしだってジュリ、さんに偉そうに言える立場じゃないよ。肝心なことから逃げてるのは、わたしだって同じなのに、一方的に言える立場じゃないのに」
「それでも、アタシはテメエに負けた。それが事実だ」
「それは――」
不意を付いて……違う、もうやめよう。
「そうだね。わたしはあの時あの場で、貴方に勝った。もう一回やっても、わたしが勝つ」
「はっ。そうはっきり言われると、むしろ気分がいいくらいだ」
敗北という事実を、あっさりと笑い飛ばせるのはすごいと思う。
わたしにはできないことだ。
馬鹿にしているわけじゃなく、本当にそう思う。
「だからよ――」
彼女は、わたしに向かって叫ぶ。
「アタシを、テメエの部下にしてくれ!!」
「…………へ?」
わたしの間抜けな返事が、その場に響いた。
うちの物件は暖房がないので寒いです。カタカタしてます