それはかつて、わたしが放った言葉。
仲良くなりたいと、彼女のことが知りたいと。
咄嗟に出た、優しさの欠片もない言葉。
「大方予想はついてるけど、なにがあったか教えて頂戴」
「でも……」
これは二人にあった問題。
というより、わたしの問題だ。
フランには、迷惑ばかり掛けているのに。
どうしようもないわたしに、付き合わせるなんて。
「それくらい聞かせないよ。友達でしょ?」
「フラン~~!」
目頭が熱くなる。
甘えてもいいんだって、思わせてくれる。
ゲーム内だけじゃなく、現実でもキャリーされるとか情けないけど。
それでも、わたしはフランの好意に甘えることにした。
代わりに、フランが困ったときは必ず力になろうと。
そうわたしは心の中で、決めたのだった。
◇
「ここは……」
「いいでしょ。私のお気に入りのスイーツがおいしい隠れた名店なの」
「いや……ほんとにあったんかい」
脇道――あの時、セインにふっかけたのは適当だったんだけど。
喫茶店が、そこにはあった。
「ほら、行くわよ」
フランに連れられ店に入る。
甘い香りが、フランの表情を和らげる
まさかわたし、スイーツのおまけじゃないよね?
わたしはレモンティーのアイスに。
フランは季節のフラペチーノと、ついでに「いつもの」で通していた。
常連なんだろう。
わたしはホットのレモンティーにアイスのグラスが。
フランは桜色のフラペチーノが運ばれてきた。
「これにスイーツは胃もたれしない?」
「しないわよ? だって飲み物だもの」
「いや、それは……どうなんだ」
フランは不思議そうな顔でわたしを見る。
聞いてはいたが、フランって本当に甘い物が好きなんだろうな。
そんな彼女の、まだかまだかと楽しみにする姿は微笑ましい。
思わず、頬が緩んで――
「って、多すぎない!?」
提供されたのは、ホールケーキ丸々一つだった。
いや、それ喫茶店で食べるようなものじゃないよね……。
しかもフラペチーノも正直スイーツだよね。
「スイーツは別腹だから」
「IQ下がってない?」
それはともかく、甘味を交えながら和気あいあいと会話をした。
ゲームの話や雑談を交えながら、楽しく話した。
ちなみにフランは、少しちょうだいと言っても一口もくれなかった。
そんだけあるんだからいいじゃん!
「――それで、何があったの?」
食後の甘いエスプレッソを含みながら、フランは問う。
真剣な眼差しで、わたしを見つめる。
フランは勇気をだして、わたしに正面から向き合うと決めた。
ならわたしも、それに応えなければならない。
◇
「なるほどね」
フランは、わたしの話をちゃんと傾聴してくれた。
セインの伝説の記録を観て、わたしが感じたこと。
セインとのすれ違いのこと。
これからどうすればいいか、わからないこと。
そんなどうしようもないわたしという生き物の話を、フランは最後まで静かに聞いてくれた。
「どうしたら、セインに勝てるのかな」
「勝てないわよ、セイン様には」
「え」
フランはきっぱりとぶった切る。
それじゃあ話終わりじゃん……。
「話は聞いてあげるとは言ったわ。けど、貴方に都合の良い返答を献上するとはいってない」
「そんなあ……」
「それはそうよ。セイン様は絶対で、弱点なんて無い。策なんて意味をなさない。もっといえば、人間と魔族との均衡を崩す存在。セイン様は、魔族に対し人間側が優位な立場にあるのにも関与するほどの立場なのよ」
確かに、様々な組織で人間が優位に立っているのは確かだ。
治安を維持する"退魔隊"や、
元より魔導具を開発したのが人間側だったのもあって、立場が上だという土壌はあったが。
人を背負うというのは、大仰な言い方にみえるが実際その通りなのだろう。
わたしみたいな半端者とは、背負うものも立場も全く違う。
改めて、理解した。
わたしなんかが、相手にしてはいけない存在だったんだ。
何がライバルだ。
やっぱりあの時、あんなことを言わなきゃ――
「けど」
フランが、わたしの心の隙間に入り込むように答える。
「貴方は、ミラは――――絶対なんていう土台そのものを、覆せるかもしれないって。そう思ってしまう自分がいる」
「……無理だよ、わたし程度じゃ」
自身が弱者だと考えているわけではない。
いくら高く見積もっても、届く気なんてしないという、それだけの話。
ただ、フランはそんなわたしの内面を否定する。
「貴方は私の常識を、絶対を覆した。強引に、私の心に入り込んできた」
「そんなの、都合よくいっただけだよ」
偶然というピースが、うまくパズルにハマっただけ。
「それでも、その偶然は貴方が何かを起こさなければ生まれなかった」
「……」
そんなの、詭弁だ。
セインの言葉があったおかげ。
学園長が、魔族であるわたしを受け入れてくれたおかげ。
次々とでてくるのは、彼女に対しての反論。
自分を追い込むだけの、言い訳。
そうだ、もし――
「わたしは上手くやろうと慕って失敗する。しょせん、邪な道でしか生きられないんだよ」
「いいじゃない、それで」
「え?」
歪で、不安定で、たどり着くかわからない道。
それでもいいと、フランは肯定する。
王道こそが正しいと、わたしをはねのけていた彼女が。
「何よその目」
「いや、意外で。フランってもっと、堅苦しい考え方だと思ってたから」
「私だって考え方は変わる。どこかの魔族さんに、感化されることもあるのよ」
「ああ、はい……」
「自覚を持ちなさい? 貴方のせいよ? 貴方のせいで、邪なことが頭の隅に思い描くようになっちゃったじゃない」
要するに、わたしのせいでフランが道を逸らしてしまったと。
まさか、このままフランが不良になってしまう?
――「はやく買ってこいっって言ってんでしょうが! 聞けないのか、ああ!?」
なんて、なってしまうかもしれない。
「また失礼なこと考えてるわね」
「なんでわかるの? そんなわたしって分かりやすい?」
「とても」
ならポーカーフェイスの練習でもしとこうかな、ポーカーは知らないけど。
なんて、そんな話じゃない。
フランはわたしに、はっきりと告げる。
「邪な道でもいいじゃない。貴方は貴方のやり方があるのだから」
「それでも結局、届かないかもって嘆いて、絶望するかもしれないよ?」
「いいじゃない。絶望なんて炎にくべて、狼煙を高くまっすぐに上げてやりなさい」
"獄炎"の『勇者』らしい物言いで、わたしを鼓舞する。
「じゃあフランは、わたしがセインに勝てるかもって、そう思ってるってこと?」
「思ってない。セイン様は絶対。けれど、貴方ならその絶対という土台を覆せる……かもしれないとも思っちゃうのよ」
「……それは、
「いいえ」
フランは、明確に否定する。
わたしに向けるのは、期待じゃなく――
「ただの邪念よ。もしかしたらなんて、以前だったら考えられない戯言が、頭に浮かんでくることがちょくちょくあるっていう、それだけの話よ」
「そっか……………………うん、そっか!!」
その言葉が、わたしの起爆剤となり突き動かす。
たくさんの期待を背負わされて。
セインを、倒さなきゃって思っていた。
いや、あいつを否定してやりたいってのは間違ってない。
ただ、仮に敗北してもまた挑めばいいじゃないか。
アンナさんはわたしに負けた上で、いつかわたしを打ち倒すと宣言した。
わたしだってそうだ。
セインに挑むことを怖がっていたら、近づくことすらできない。
絶対とか、完璧とかを否定してやりたい――そんなわたしの意地悪な邪念こそが、わたしの源泉だったじゃないか。
「ふふっ。そうだね、ありがとうフラン」
「どういたしまして」
期待なんてしてない。
それだけで、わたしは救われた。
期待されることは嫌ではない。
仲間の期待に、応えたいとも思う。
けど、ごめん。
わたしはその期待を、背負ったりなんかしない。
我が身そのままで、最強の『魔王』になってやる。
「少しは気分が晴れた?」
「うん、ありがとフラン。大好き」
「……っ! ほんと貴方ってやつは……!」
「え? な、なにが?」
「……貴方、いつか誰かに刺されそうね」
意味がわからないが、わかりたくない言葉だ。
まあ、とにかくだ。
「……すごく助かったよ」
「そ。なら良かった。貴方に負けたままじゃ、私もいられないからね」
「うん、わたしもあんな中途半端じゃいられないからね」
ほんと、わたしって単純なやつだな。
どん底に落下して、自分の存在すら懐疑的だったはずなのに。
簡単な言葉に、惑わされるんだから。
「ありがとうフラン。わたし、少しだけ前に進める気がする」
◇
明日は、マナさんに頼まれた迷宮を視察する日だ。
確認はとった。
あとは、わたしが覚悟を決めるだけだ。
一通のメッセージを、セインに送る。
――明日さ、デートしない?