魔族の玉座は空いている~魔王(予定)のわたしは、最強の勇者を倒すために彼女と同盟を結びます~   作:ふく神漬

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第25話 迷い路

 

 わたしは重い足取りで、学園に向かう。

 

 行きたくないと駄々をこねる――なんてことはしなかった。

 こんな状態でも学園にはいかないとと思うのは、成長といっていいのだろうか。

 

 まあ、成長なんてしても意味なんてないのかもしれないけど。

 

「どうしようかなあ」

 

 セインに、最強の『勇者』にどう向き合えばいいのか。

 

 まずは謝ろう。

 表面上でも、わたしにとってセインは……なんだろう。

 宿敵(ライバル)だっけ?

 ライバルで、いいの?

 その病床は、今もわたしを蝕んでいる。

 

 ただ、今は表面上でもそう振る舞わなければならない。

 セインを、悲しませたくない。

 

 でも、そんなのでいいのか。

 わたしは敗北を……認めないといけないのか。

 

「どうすれば……」

 

 迷路に閉じ込められたような、閉塞感を覚える。

 

 その点で言えば、マナさんの依頼は助かったともいえる。

 やることがある、という口実で眼の前に直面している問題から目を逸らすことができるから。

 なにかしてあげた、という達成感を得られるから。

 

「だっさいなあ……わたし」

 

 覚悟を決めたつもりだった。

 セインはわたしに、期待している。

 これはきっと、自意識過剰なんかじゃない。

 

 というのに、結局この有様。

 最近、少しずつだけど充実してきたからこそ忘れていた。

 わたしという生き物ってやつは、口ばっかりのどうしようもない魔族だってこと。

 

 

 そんな時。

 

「おはよ、いい天気だね」

「……あ、えと」

 

 凛とした、透き通るような声。

 反射的に、いつもなら返しているはずなのに。

 

「…………あ、えと」

 

 わたしは、振り向いて固まってしまう。

 ただ挨拶を交わすだけ……なのに。

 

 あの配信の映像の少女の姿がフラッシュバックしてしまって――

 ふと、恐怖を覚えてしまった。

 怖いと思ってしまった。

 

「……いや、間違えたね。この前はごめん。君の境遇を顧みれば、反感を買って当然だった。本当に、ごめん」

「……べつに、いいよ」

 

 違う、間違えているのはわたしの方だ。

 マナさんを利用して、セインを攻め立てただけなのに。

 冷淡に、自然とそう返す自分が嫌いだ。

 

 そして――

 特に会話をすることなく、一日は経過していった。

 

 わたしはセインを避け、彼女もわたしに絡んでくることはなかった。

 いつもなら強引にくるのに、こういう時は空気を読んでくる。

 

 ほんと、できた人間だよ。

 わたしとは違って。

 

 こういうのは一度こじれたら尾を引く。

 

 わたしがいつも通り接すればいい。

 そうすれば、解決する問題なのに。

 頭でわかっていても、それができずにいた。

 セインに向き合うことが、たまらなく恐ろしく感じる。

 対等だなんて思うと、身震いする。

 

「ぷはっ!」

 

 講義が終わると同時――化粧室に駆け込んで、顔に水をぶっかける。

 目を覚ませよ、ただいつも通りやるだけでしょ?

 

「はぁ……はぁ……」

 

 病は気からというが、逆に気が動転すると病んでいく気がする。

 こんな感情なんてクソ喰らえってやつだ。

 いっそこんな思いをするくらいなら、あの時――

 

「考えるな」

 

 わたしは無理やりに口角を持ち上げ、化粧室を出る。

 そうして出口に差し掛かった時、一人の人物とぶつかってしまう。

 

「あ、ごめんなさい!」

「……だめ、許さない」

「え」

「冗談だし」

 

 目を上げれば、そこにいたのは見知った人物。

 アンナさんが、眼前にはいた。

 

「あ、アンナさんか」

「気づかなかったの?」

「う、うん。ちょっと考えことしてて」

「……」

 

 アンナさんはこちらの様子を伺うように、じっくりと見やる。

 え、なに? マジこわいんだけど……。

 

 まさか、カツアゲでもされる?

 今のわたしはどん底にいる気分なので、抵抗する気もなくペコペコと渡してしまいそう。

 

「アンタ、なんか失礼なこと考えてない?」

「イエ、ソンナコトハ」

「なんでカタコトだし」

 

 アンナさんは出口に立ち塞がっていて、どいてくれる気はないみたいだ。

 正直、この前のわたしへの宣戦布告を聞く限り意地の悪いことではないとは……思うけど。

 

「アンタ、今日なんかずっと顔色悪い。四割増しでブサイク、可愛くない」

「すごい悪口じゃん……」

 

 ブレないなあ、ほんと。

 わたしが嫌いで嫌いで仕方ない。

 ぶっ倒してやりたいと言うだけはある。

 

 ……あ。

 アンナさんに、聞きたいことができた。

 聞いちゃいけない、ことだけど……

 

「あのさ、ダイジョブ? あれだったらあーしが――」

「アンナさんさ、ちょっと聞いていいかな」

「え?」

 

 アンナさんは少し狼狽えるが、わたしの真剣な眼差しを見て

 

「内容による」

「少し、いや、とても侮辱するような質問になっちゃうと思う」

 

 慇懃ではないが、無礼なのは確かだ。

 

 それでも、アンナさんは答える。

 

「いいよ、いってみ」

「ほ、ほんとに?」

「ま、アンタなんていつも腹立たしいし、今更っしょ」

 

 小言を挟みつつも、了承してくれる。

 器がでかい。

 やさしい、すき……。

 なんてふざけたことを考えてるほどの余裕は今のわたしにはない。

 

 真面目に、問う。

 

「アンナさんって、わたしを目標にしてるんだよね」

「…………まあ、そうね」

 

 少し顔を赤らめて、サイドテールをくるくると指で巻きながらそう答える。

 確かに、それを本人に言うのはやはり恥ずかしいよね。

 そう、共感できる。

 だからこそ聞きたいのだ。

 

「自分よりずっと上の存在に、絶対の強者に挑もうとするのって、どんな気持ちなのかなって」

「は?」

「い、いやごめん。ただわたしは、そんなの辞めたほうがいいって、無理だって。そう……自分で思ったりしないのかなって」

「……へえ」

 

 うざ、と付け加えてからアンナさんは逡巡する。

 こんなわたしの傲慢な質問に対して、真剣に考えてくれていることがわたしは嬉しかった。

 

 ……とおもいきや、アンナさんは。

 

「あのさあ」

 

 怒気を含んだ、力強い声が返ってくる。

 やっぱり、怒るに決まってるよね。

 けれどアンナさんは、怒りを冷静に言葉にする。

 

「これはあーしが決めて、あーしが歩む道。今のあーしは、本気で冒険者として取り組んでる。少しずつでも、アンタに近づいてる」

「もしそうやって近づいても、届かないかもしれないとしても?」

「届くかなんてわかんない。てか、そんなのわかったらつまんないっしょ」

「つまんない……の?」

「そりゃあそうっしょ。仮に目標が達成できるなら、勉強だって冒険者業だって、自分がやってることに不安なんて抱かずにできるじゃん。そんなのやってて楽しいの?」

 

 そう、かもしれない。

 ゲームだってそうだ。

 ラスボスに負けることだってある。

 こうすれば勝てますよ、なんて情報を見て挑むのに、なんの楽しさがあるのか。

 

「いやでも、失敗した時は、ものすごい絶望を味わうことになるかもしれないよ?」

「んなの、気にしてやるもんか。今のあーしは、自分が本気で成し遂げたい夢ができて、嫌な思いをすることも、厳しい研鑽をしてクタクタになることも、まるっと含めて楽しいの。それを人に、否定なんてさせてやらない」

「すごいね、アンナさんは」

「アンタに言われるのは……なんか、こう……腹が立つっての!」

「ははっ」

 

 自然と、笑みがこぼれた。

 なんだか少し、救われた気がする。

 わたしには真似をする度量なんてないけれど、それでも――

 

「ありがとね、アンナさん」

 

 アンナさんはふんと鼻を鳴らす。

 

「いいってことよ、アンタはせいぜい高みから見物してろっての」

「うん。しっかり、アンナさんのことをみるから」

「……っ! そういうとこだっての……!!」

 

 今度はちゃんと怒られ、わたしは逃げ去るように昇降口に向かう。

 セインは……もう帰ってるか。

 実際、助かったともいえる。

 

 アンナさんと話してみて、少しだけ気持ちが救われた気かする。

 けれども、いまだわたしの中にある靄は晴れない。

 そう簡単に、この絶望は氷解なんてしない。

 

 

「あ、いたいた」

 

 帰路につこうとしたわたしを、一人の人物が引き止める。

 

「……フラン」

「ええ、正解」

 

 セインとわたしが距離を取っているのを見て、フランは今日なにも関わってくることはなかった。

 空気を察して、無理に間に入ることを避けたのだろう。

 迷惑をかけたなと、わたしは後ろめたさを感じる。

 

 今になって、どうして。

 

「言ったでしょ」

「え?」

 

 いつもより少し柔らかな声音で、フランはわたしに諭すように言った。

 

「話なら、聞いてあげられるって」

 

 

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