魔族の玉座は空いている~魔王(予定)のわたしは、最強の勇者を倒すために彼女と同盟を結びます~   作:ふく神漬

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第29話 迷宮視察③

 

 わたしも、何が起こったかはわからなかった。

 だが、その真犯人は察しがついている。

 

 

「――先代の"聖光"の『勇者』、人間と魔族との和平を成し遂げた彼女はこう言ったのだという」

 

 わたしたちの後方に、銀色の少女が立っていた。

 

「『いつの時代も、世界を悪へと導くのは"魔に取り憑かれた者"』だと。私も思うよ。人間も魔族も関係なく、取り除くのは"魔に取り憑かれた者"だってね」

 

 空気が、一変する。

 

 マナは、切断された腕を糸で縫合していた。

 それが彼女に発現した魔族の特性なのか。

 

 しかしそれでも、その表情からは既に余裕は失われてしまっている。

 

「ふぅ……ふぅ……」

「ふうん。そういう種族ね」

 

 セインは冷たい目で、彼女を睥睨する。

 

「な……んで。この部屋は、マップにはなかったはず……。それに……魔力探知に引っかからないように防魔壁も張り巡らせた……なのに」

「君の様な、"魔に取り憑かれた者"に説明する義理はない。それこそ些細な問題だ」

「…………」

 

 彼女は絶句する。

 わたしも、同じ気持ちだ。

 マナが凝らした、わたしを貶める為の様々な工夫。

 それをセインは、些細な問題と一蹴したのだから。

 

「セイ――」

 

 セインの表情を見て、呼びかけていたわたしは止まる。

 それは怒りなんてものではない。

 ただの無が、そこにはあった。

 

 眉一つ動かさず、セインは標的の下へ迫る。

 

「ああ、失敗してしまいましたね。あと一歩でしたのに」

 

 彼女は観念したと、両手を上げる。

 

「セイン。どうするつもり?」

「勿論、殺すよ」

「え?」

 

 今、なんて言った?

 殺すって、そういったの?

 

「……ま、まってよ! さすがにそれはやりすぎじゃない? 一応彼女は、わたしたちより三歳も下なんだよ?」

「そうだね。彼女はまだ十三で、今回は未遂に終わった。故に捕縛してもいずれまた、地上に放たれる。そして同じ様に、また罪を企てる」

「そ、そんなのわかんないじゃん! 改心するかもしれないじゃんか!」

 

 セインは首を横に振る。

 

「全体を否定してるわけじゃないんだ。ただ彼女は、根本的に歪んだ、"魔に取り憑かれた者"だよ」

「さっきからなんなのそれ。……知らないよ、そんな言葉……」

 

 セインはらしくないというか、今回に関しては絶対的に揺るがないという意思を感じた。

 けれど……。

 

「殺すのは……駄目だよ」

「君を殺そうとした相手なのに?」

「うん。それでも、セインが誰かを殺めるのが嫌なんだ」

「……そっか、君の心慮は伝わった」

 

 そんな中、渦中の人物が声を上げる。

 

「あの、どうするかお決まりになられましたか? (わたくし)としては生きてはいたいんですが」

「無理だよ、殺すから」

「そうですか~~」

 

 自身の生死に関する情報を、能天気に話す歪な少女。

 

 ……その姿が、わたしには酷く矮小で可哀想な存在に思えた。

 ただ純粋だっただけなんて、綺麗に脚色することはできないが。

 

 好奇心が向く方向が、間違ってしまっていた。

 無垢に、黒に染まってしまっていった。

 

「いや……いやだ」

 

 そんなことが言いたいんじゃない。

 マナのことなんて、正直どうでもいい。

 

 わたしはただただ、セインに誰かを殺させるなんてしたくない。

 それだけなんだ。

 

「やめてよ! やめてよセイン!!」

「無理だよ、これは絶対」

「おかしいよなんか! なんでそこまで頑ななのさ!」

「君が好きだから」

 

 

 ――え?

 わたしの中の時間が、止まった気がした。

 

「それ……は」

「"恋"って意味でね」

「え……あ……」

 

 今までだって、そうやってからかわれることはあった。

 ただこうして、直球の好意をぶつけられたのは初めてだ。

 顔が熱い。

 頭が混乱する。

 

「返事なんて後でいいから。今はただ、私に譲ってほしい」

 

 セインはそうして、マナ・フィーラの前へ立ち塞がる。

 

「あ~あ、これで終わりですか」

「そう。君の様な巨悪の芽は、ここで摘み取らないといけない」

「方便はいいですから、速くしてくださいな」

 

 無言で、セインが剣を振り上げる。

 たった一振り――高速の一撃が振り下ろされる。

 それだけだった、筈なのに。

 

「なんで邪魔をするのかな…………ミラ!!」

 

 その剣が振るわれることはない。

 わたしの左目――琥珀の瞳が光る。

 

 動きを止めたのは、わたし。

 なんでだって?

 そんなの、さっきから言ってんでしょうが……!!

 

「だから、あんたに殺させない為だよ…………セイン!!!」

 

 

 ――好きだからと。

 彼女が伝えた好意は、わたしの中で漂う。

 

 思えば、セインはわたしにとってどういう存在だっけ。

 思い返してみれば、いい思い出ばかりではない。

 むしろろくでもない出来事ばかりが思い返される。

 

 けど――いえるのは、彼女は「特別」だってこと。

 良い意味でも悪い意味でも、彼女はわたしにとって特別に相違ない。

 

 この好意に対し、すぐに答えを出すことなんてできない。

 唯一、セイン・ヴィグリッドがわたしにとって「特別」なのは間違いない。

 

 だからわたしは、セインを――最強の『勇者』を止める。

 彼女の手を汚させたりなんか、しない……!!

 

 

 

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