魔族の玉座は空いている~魔王(予定)のわたしは、最強の勇者を倒すために彼女と同盟を結びます~   作:ふく神漬

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第30話 迷宮視察④

 

「ってことで、あんたも手を貸しなよ。生きたいなら」

「……(わたくし)が言うのもなんですが、本気ですか?」

 

 背後にいる――わたしと同じ呪われし血が流れる少女、マナは目を見開く。

 

 確かに彼女の行いは、許されるものではない。

 けれどわたしは、マナを死なせない。

 セインに、殺させない。

 

「わたしを、殺したいんでしょ?」

「はい?」

 

 質問の意図を測りかねているのか、マナは問いただす。

 簡単だ。

 

「――こんなところで終わっていいの?」

「……ふふっ、そうきましたか! やはり、お姉様を選んでよかった!」

 

 良くなんてない。

 彼女には、きっちりと罰を受けてもらう。

 だがこれでも、こいつはわたしと同じ血が流れている。

 

 大枠で見れば、身内が引き起こした問題だ。

 責任の一端は……全く持ってないが。

 殺して終わりってのはバツが悪い。

 

「……話は終わったかな」

 

 対して、セインは冷たく言い放ち立ち上がる。

 

「「…………!!!」」

 

 その圧倒的な存在感が、肌をピリリと刺す。

 

 セインの、拘束が解ける。

 最強の『勇者』が、動き出す――

 

 血晶(アスタリズム)――

 

「え……?」

 

 パリン。

 赤い塊が、砕ける。

 

「これで力は使えないみたいだね? 生身なんだ、あまり君に無理をさせたくない」

 

 …………え。あ、そうか。

 

 自身の過失に気付いたのは、その瞬間。

 

 わかっていたつもりだったが、速すぎる。

 映像で観たのと、実際に経験するのではやはり断然違う。

 

 ただ、もうそんなもんで諦めるわたしじゃないんだよ。

 

 セインがマナに詰めるのを見越して、わたしはその間に入る。

 セインは咄嗟に、既のところだった矛を収める。

 

「それは卑怯じゃないかなっ!」

「いいの! どんな手段を使っても、あんたを止める!」

 

 

 セインはその輝きに、突発的に退く。

 血晶――〈猛化《テトラ》〉。

 

 全身が紅く染まり、紅の瞳を灯す目尻が上がる。

 

「お姉様……?」

 

 背後で狼狽える、この裏切り者に命令する。

 

「おい、お前も速く動けよ。自衛くらいできるだろ」

「……言われなくてもっ!」

 

 セインの足元を、糸が絡め取る。

 

「私は絶滅種といわれるアラクネの力を引き出すことができます。ただこの力は瞬時の攻防には向いてません。時間を掛けて策を弄する、それが私の戦い方です」

「そ、まあ言い訳はいい。とにかく、セインの動きを邪魔し続けて」

「……っ! あーもう、わかりましたよっ!!」

 

 セインは絡みつく糸を足で振り払い前に進む。

 しかし――

 

手繰り糸(マリオネット)――三式」

 

 振り払った糸が、意思を持ったように再度セインの足元に複雑に絡みつく。

 

「はあ……もういい。いちいち相手にするのも面倒なだけだ」

「いえ、よくありません」

「……これは」

 

 セインの足元に、魔法陣が現れる。

 わたしの時と同じ、転移の魔法陣。

 

「だから?」

「いま、意味を見せますよ」

 

 セインが魔法陣を回避しようとした時、その動きが不自然にカチリと一瞬止まる。

 

「……やられたか」

「四年分の貯蓄です。お裾分けしておきます」

 

 魔眼によって、セインを転移させる。

 わたしは息をついて、〈猛化〉を解除する。

 

「こんなの用意してたの」

「お姉様が万が一逃げたときの、予防策ですよっ」

「ほんといい性格してるな」

 

 次善策まで周到に用意する。

 ほんと、悪い意味でいい性格している。

 

 やはり、こいつのことは好きになれそうにない。

 ただ、あの父親の血はついでいると言われて納得できる。

 

 わたしはこんなに普通なのになあ。

 

「じゃなくてだよっ!!」

 

 そんなことよりだ。

 わたしたちの勝利条件について。

 

「あの霊体になる装置、あれは?」

 

 もう一度、霊体になることができれば。

 そう思ったが、マナははっきりと述べる。

 

「無理です!」

「なんで!?」

「区画が滅茶苦茶で、迷宮として設定することができません」

「もうっ! このポンコツゥ!」

「私に言われましても。あの『勇者』様がおかしすぎるんです」

「それはそうだけどっ!!」

 

 ならわたしたちは、どうすればいいのか。

 

「とりあえず地上にさえでれば、あの『勇者』様も好き勝手できないと思います。ここは王国の管轄内ですから」

「あの魔法陣みたいなので上に出れないの? ほら、スタートマスみたいな」

「あるにはあるんですけど、場所がそれなりに難しいところで」

「やっぱりポンコツじゃん!!」

「ボスを突破したあとのクリア部屋ですよ? しょうがないじゃないですかあ」

 

 ほんと、詰み状況すぎてどうにかなりそう。

 ただ、とマナは地図を広げる。

 

(わたくし)たちがいるのがここで、大広間――ボス部屋の奥に、地上へと続く大魔法陣を設置してあります」

「じゃあそこが、わたしたちの目的地だ」

 

 そして――

 目下、わたしたちの最大の障害。

 

「セインはどこ?」

「この部屋ですね」

 

 指したのは、わたしたちがいる場所より更に先の地下。

 ポツンとしたその部屋だけが、隔離されている。

 

 いや、本来わたしたちの居る部屋も同様に隔離されているのだが。

 

「よかったですね! 『勇者』様が道を造ってくれて!」

「お前ほんと……」

 

 言いたいことは絶えないが、これ以上は野暮だ。

 とりあえず、わたしたちはここからセインが切り開いた道をたどり大広間へ。

 そして、その先にある攻略者の部屋に向かう。

 

「わたしから離れないでよ?」

「はいっ! もちろんですお姉様!」

 

 あざとくハートを作る眼の前の相手に、わたしは心の底から思う。

 いっぺん死んだほうがいいんじゃないか……。

 

 わたしの呆れたような視線に、マナは額の雫を拭う。

 

「いやあ、本当に余裕なんて無いんですよ? 余裕がなさすぎて、逆に冷静になってしまうてきなやつといいますか」

「分からなくはないけれどさあ」

 

 まあ、どんなやつだとしても。

 簡単に殺させたりしない

 特に、セインには。

 

 ◇

 

 次の異変は、広間へと続く道で起こった。

 

「マナ!」

「はい!」

 

 すると、直前まで彼女がいた場所が割れ。

 

 光が溢れ出る。

 それを引き起こしたのはもちろん――

 

「遅かったじゃん、セイン」

「……」

 

 マナは開き直って、わたしの背を堂々と盾にするように回り込む。

 

「どう? もう辞める気になった?」

「いや君こそ、その行為に何の意味があるのか考えてみなよ」

「意味なんてないよ。ただ、あんたに殺させたくないだけ」

「だから――――ッ!!」

 

 怒気を含んだ声で、セインは叫ぶ。

 

「絶対に後悔する。直感で分かるんだ、断罪すべき悪が。その邪悪は、御しきれない」

「しらないよそんなの! いっつもそうじゃん! なんでもかんでも分かった気になってさ! もう少しかわいげってもんみせてみなよ!」

「そうだね。それで君を傷つけた。でも、私だって成りたくてこう生まれた訳じゃない。望んだわけじゃない……」

「……」

 

 セインの闇。

 否、光の影が少しだけ垣間見えた気がした。

 

「もういい。嫌いになってもらっても、納得してもらわなくても。ただわたしは、やるべきことをやるだけだ」

「まっ」

 

 言い掛けた瞬間、既に彼女は迫っていて。

 

「マナ!」

「分かっております!」

 

 マナを背面に、セインを正面に。

 これだけを今は、意識して――

 

「失礼するよ」

 

 ガッと、手首を掴まれる。

 そして、そのまま瞬きするまもなく引っ張られる。

 

「「あ」」

 

 マナとの連結が、途切れる。 

 わたしの目論見は、読まれていた。

 

 終わり、なの?

 終わらせない。

 

 本能で、抗ってみせる。

 クールタイムはもう終わり。

 血晶――!!

 

「終わりだ」

 

 丁寧な所作で、剣を振り上げる。

 それが、あんたの欠点だ。

 礼式を重んじて、明確に対処しようとする。

 

 対してこちらは、雑然な選択を突き通す。

 これしか、思いつかなかっただけだけど。

 

 思惑通り。

 わたしの蹴撃を、セインは避けてみせる。

 軽々と避けてくれてありがとう。

 

「え?」

 

 だって。

 狙うのはセインではなく、一族の恥(マナ)の方……!

 

「ええ!?」

 

 わたしを恨むなよ? 

 マナに向かって言い捨てる。

 

「せいぜい生きろよ……!」

 

 ドッ――

 

「ぐ……ああ……ッ!!」

 

 衝撃が、マナを大広間へと誘い出す。

 

「命綱《オーバーロア》……ッ!!」

 

 彼女は壁に当たる前――衝撃を分散させるべく咄嗟に黒い糸を張り巡らせる。

 衝撃を分散させ、壁に背をつけ無事に息を吐く。

 

「やるじゃん」

「人使いが……荒いです……ねえ。お姉様……ったら」

 

 そしてそのまま、余った拳の矛先を……セインに向ける。

 ためらいは、あった。

 けれどここで一線を超えなければ、彼女には触れられない。

 

「……くぅ!!」

 

 セインはわたしの拳を、剣の腹で受ける。

 ――が、衝撃は完全には受け流せず背後へ後退。

 

 それでも、彼女が膝をつくことはなかった。

 

「『レイ』じゃないと仕方ないか」

 

 セインが用いているのは、あくまでただの模擬戦用の真剣。

 輝きを失った、幾度も使い捨てられた一振り。

 むしろまだ、その刃が折れていないのが異常だ。

 

 静かな静寂の中、セインは下を向いてこぼす。

 

「悲しいな。君がわたしに拳を向けるなんて」

「そうだね。さっきまでは迷ってた。けどあんたなら、そうしなきゃ届かないってもうわかったから」

 

 セインは下を向きながら、淡々と述べる。

 

「でも無理だったよね。君の攻撃は、私には届かない。次は無い。君はもう、ただみてればいいよ」

 

 嘲笑を、わたしに浴びせる。

 わたしに嫌われるために、作り出したものだ。

 

「はっ! そんなんバレバレだわバーカ!」

「……」

 

 嫌われるのなんて、悪意を向けられるなんて慣れたもんだ。

 そんな取り繕った紛い物で、わたしを欺けると思うな。

 

「一つ話を聞いてもらうよ、セイン」

「……もう問答は散々なんだ」

「いや、聞いてもらう。臨間学校での礼がまだでしょ?」

「それは……」

 

 あのときの礼は、中途半端に終わってしまった。

 きちんと、わたしの願いを聞いてもらう。

 

「一つだけ。条件を付け加えさせて」

「…………なに」

「あんたにわたしが、一撃でも決めたらここは諦めて」

 

 くだらない、とそう一蹴するように彼女は深く息を吐く。

 

「……その判断は誰が下すの?」

「あんたに任せるよ」

「は?」

 

 セインは初めて、わたしの方へ向き直る。

 その裏で、マナはボス部屋へ向けて動き出すのタイミングを窺っているようだった。

 

「任せるって、そんなの私が圧倒的に優位な立場だけど」

 

 ガッツリ食らってても、本人がNoといえばいいだけの規則。

 それでもいいんだ。

 

「あんたの判断で、決めてほしい」

「…………わかった」

 

 これで、勝利条件は二つ。

 マナが地上に逃げ出す。

 

 または、わたしがセインに一発お見舞いする。

 その際、判定は相手に任せる。

 

 もちろん、これはセインが正念場で嘘を吐けないという性根が前提の条件。

 

 現実的なのは、マナを地上へと送り出すこと。

 セインにただ一発お見舞いするなど、できる景色《ビジョン》が浮かばない。

 

「あはっ」

「……何を、笑っているのかな」

「いや、べつに?」

 

 自分でもおかしいとは思うよ。

 それでもわたしが望むのは、セインに正面から一発ぶちかます方だから。

 

 わたしとセインは、まだ分かり会えてない。

 分かり合おうとすらしていない。

 

 まずは、喧嘩の土俵に立ってもらう。

 話はそれからだ。

 

 セインは深く深く、ゆっくりと呼吸を整えてわたしへと向き直る。

 

「"最強の『勇者』"なんて肩書だ。私は、完璧になるために育てられてきた」

 

 挑戦者であるわたしに対して、審判を下す。

 

「いくよ」

 

 ガリウスさんとは違う。

 初手から、様子見なんてとらない。

 覚命《オーバーロア》で、移動の範囲を制限する。

 

 これで、ルートを作った。

 攻めてくる地点なら、あらかじめわかる。

 わたしはただ、そこに見えた獲物を、獣人を屠った紅き凶撃をお見舞いするだけ。

 

 準備は万端、で――

 

「あ……れ……?」

 

 瞬間、視界がぐらついて。

 ――ドッ、と胸ぐらを掴まれて、勢いのまま地面に固定された。

 

「ごめんね」

 

 何が足りなかった。

 油断も隙も、全く無かった。

 他の血晶を使わないのは、同時に使うと効力が下がるし時の間の戦闘では使わないのが打倒だと考えたから。

 

 いや、全部無駄だ、無駄でしか無い。

 全てが、負けていくための工程でしかないのだから。

 

 

「じゃあ、私はいくよ」

「ま……て……」

 

 マナの方をみると、彼女はこの大広間の中心地点から動けないでいた。

 

「……お、お姉様……っ」

 

 本当に、終わりだった……。

 わたしにできることは、ただ祈るだけ。

 

 彼女に向けて、ただ小さく祈る。

 わたしの祈りが、セインの行動を止めることはない。

 

 

 ――けれどそれは、たった一人の少女には届いた。

 

 

 次の瞬間、迷宮全体に響き渡る衝撃が襲った。

 足場は揺れ、迷宮は崩壊していく。

 

 そして――

 

 崩壊した一部の隙間から、当人である少女は状況を確認する。

 

「だれ? おねえさんに、ひどいことする人……」

 

 尋ねるのは紅の髪を流した、竜人――リリー・ドラグーン。

 彼女は状況をひと目見て、縦に長い瞳孔を開く。

 そして、目一杯叫んだ。

 

「おねえさんを、いじめるああああッ!!!」

 

 竜の咆哮が、その場を覆い尽くしたのだ。

 

 

 

 

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