魔族の玉座は空いている~魔王(予定)のわたしは、最強の勇者を倒すために彼女と同盟を結びます~   作:ふく神漬

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第32話 空の玉座

「はぁ……」

 

 セインは隠すこともなくため息を吐くと、肩をすくめて言う。

 

「無意味だよね」

 

 わたしの行為を、彼女はそう吐き捨てる。

 

「君が予想外なのは今に始まったことじゃないし、その点は私からしても好意的に見ている側面だよ? でも今回は悪い意味で空回りしているだけ。なんの価値もない」

「……」

 

 気の抜けた声で、彼女は論外だと一蹴する。

 

「わかった上で、私に挑むと? この場で私に挑むことに、一体何の意味があるの」

 

 ああ、そうだね。

 あんたは、セインは正しい。

 この場でやり合う意味なんてないし、わたしたちは霊体《アバター》じゃない。

 肉体の傷は、都合よくなくなったりはしない。

 

 ただと、セインは一つ訂正する。

 

「私の考えは先鋭化しすぎていた。そこは謝罪しよう、ごめん」

 

 セインが言及していたのは、マナのことだ。

 わたしたちを騙し、真っ黒で不可解な野望を胸に抱いていた――わたしと同じ血が……同じ……同じ……。

 認めるよ、同じ血が流れてしまっている女だ。

 

「あの"魔に取り憑かれた者"――――魔族に関しては私がいっときの感情で断じていい問題じゃなかった」

「……殺さないってこと?」

「うん。何かを企てない限りは、殺さない。それでいいじゃないか」

 

 セインは両手を叩いて、この場を終わらせようとする。

 

「はい、これで解決。終わりでいいよね。くだらないことに君の負担がこれ以上かかるのをもう見たくないよ」

 

 わたしの想いを、くだらないと。

 ああ別に怒ってないよ? 

 今からが楽しみだと思ってるくらい。

 

「くだらない?」

「ああ、くだらないね。君が無理してまで執着するのは、無意味で無価値な行動だ」

 

 どうしても、セインはわたしを無下にしたいらしい。

 

 わたしのことを脅威なんて微塵も思ってないのが根底にあるのはもちろん、わたしの身体のことを慈しんでくれるとか。

 やさしいなあ、ほんと。

 

「あははっ!」

「なにかな」

「いや、なんでも?」

 

 フランの言葉が思い出される。

 

 ――けれど貴方ならその絶対という土台を覆せる、粉砕できるとも、そう感じてる。

 ――ただの邪念よ。

 ――邪な道でもいいじゃない。貴方は貴方のやり方があるのだから。

 

 セイン・ヴィグリッドの予想の内を破るには、ただの予想外では足りない。

 

 王道では勝負しない。

 邪な道を、わたしは進むと決めたから。

 

「さっきから必死だなあって。心配しなくても、わたしは辞めることなんてないよ」

「……そう。残念だよ。けれど付き合ってあげないと君は満足しないだろうしね」

 

 なんの意思も介在しない――淡々と慣れた手つきで構えを取る。

 そして、形だけの敬意を添えて最強の『勇者』は答える。

 

「受けて立とう」

 

 一つ、セインはミスを犯した。

 重大なミスだ。

 

「違う違う」

「……なにが」

「受けて立つのはわたしの方だ。あんたはわたしに、挑む権利があるだけ」

「……はいはい。ならさっさと児戯を終わらせようか」

 

 少し怒気を含む声を滲ませながら、瞬間――動く。

 

 大気が音を立てて靡き、その者に道を譲るように風の流れが分断されていく。

 

 横にセインが迫っていたのをわたしが視覚した時点ではもう。

 流れるように彼女はわたしのパーソナルスペースへと手を伸ばしていて。

 

「――――え?」

 

 ガッ。

 伸ばした手が掴まれたことを、彼女自身が認識するのが本来より遅れた。

 

 わたしは彼女の耳元で囁く。

 

「やる気出さないと、死んじゃう(負けちゃう)よ?」

「――っ!!」

 

 咄嗟に、彼女は後方へ跳躍。

 その光に連れ去られる前、わたしはあえてその手を放す。

 

「驚いたね」

 

 安全地帯へと後退したセインは、自身の手を見つめて少し感心しているようだった。

 それは賞賛とか評価を含んだ、やはりどこか他人事のような口調だ。

 いや、彼女がやっているのは上から見下ろしているだけ。

 下にいる者は彼女の賞賛に鼓舞されるだろう。

 

 けれど、正面に立とうとする者にとっては不快でしかない。

 まだ彼女にとって、わたしは微塵も脅威とは思われてなどいない。

 

 セインに意識させるにはただの予想外じゃ足りない。

 

 ……集中しろ。

 

 今回、わたしはリソースを等分に分配しているのもあって各々の力を完全に引き出すことはできていない。

 その点、前回みたいに思考が呑み込まれるようなことはないが。

 

 ただ、この血晶という力は扱いが繊細で複雑。

 この併用状態は、あまり長く維持するのがきつい。

 

 それを隠すために、セインとここまでの問答を交わした。

 余裕を演じるために。

 

「……ある程度は慣れてきた。まだまだいけるな」

 

 不快感はいまだについて回る。

 ただ、それだけだ。

 それ以外は、我慢できる範疇にすぎない。

 

「行くよ」

 

 大気が再び振動する。

 

「来いよ」

 

 血晶《アスタリズム》――〈共感《レゾナンス》〉。

 

 魔力を司る感覚を含めた六感全てが、同様の景色に統一される。

 言葉にできない感覚だが、そういうものなのだ。

 

 一閃。

 セインは剣を鞘に収めたまま、彼女は淀みない所作で鞘を振るう。

 

 うんうん。

 

 魔力の動き出し。

 空気の流動。

 ついでにカナビラのような彼女の香りが場を舞う。

 

 これでもかとその存在感を訴えてくる彼女の一挙手一投足なんて、わたしは容易に対処できる。

 

 だから――

 

「何回やっても同じだって」

 

 横薙ぎの一閃を避け、そのままセインに蹴撃をお見舞いしようとしたのだがまたも後退。

 セインはその現実に、顔をしかめる。

 

「チッ」

 

 彼女が思わずこぼした行動に、彼女自身が固まる。

 

「……???」

 

 最強の人間様は、自身の感情が何なのかわかっていないようだった。

 もちろん、その感情は彼女の中にあったはずなのに。

 いつの間にか、忘れてしまっただけ。

 

 わたしはそれを、掘り起こしてやる。

 

「セイン・ヴィグリッド。お前は今、わたしに苛ついたんだよ」

「私が?」

 

 セインは怪訝そうに眉をひそめる。

 

 ああ、いいね。

 その表情が見たかった。

 

 この状況が欲しかった……!!

 

 これはもっとも、わたしを傷つけたくないという彼女の恋心を逆手に取った――いや、悪意をもって利用したことによって作り上げたもの。

 

 大切だから傷つけたくない、傷ついてほしくない。

 だからこそ、この勝負にはなんの意味もないと思う彼女にとってはいってしまえばわたし自身が人質でもあるといってもいい。

 

 そこまでしてようやく、彼女にとっての敵としての意識を芽生えさせた。

 救いようのないクズだなと、改めて思う。

 

 だけどわたしも、セインにいってやりたいことがある。

 

 大切っていっても、わたしはお姫様なんかじゃない。

 

 守ってあげるだなんて、調子に乗るなよ。

 それが善意からだとしても、いらない善意だと突き返す。

 

 もしセインが「一生守ってあげる」と付け加えて告白すれば、女子も男子も関係なくあっさりと首を縦にふるだろう。

 

 けどわたしは違う。

 

「勘違いするなよ、セイン・ヴィグリッド?」

 

 まっすぐ最強の『勇者』を見据えて、わたしは彼女の立場を訂正する。

 

 ――ここにあるのは、空の玉座だ

 偽物の、なんの価値もない玉座。

 けれど確かに、実在する玉座、本物になる玉座。

 

 前提として間違ってんだよ。

 

 

「わたしはあんたにとっての魔王だ。そしてあんたは、わたしという巨悪を打倒すべき『勇者』でもある。勘違いするな、お前は挑戦者なんだよ」

「くだらないな、そんな妄想」

「いいや? 今は形もない、中身もない虚構の存在だけど、確かにここに存在する。もう一回言ってあげようか? 受けて立つのは、わたしの方だ」

「…………」

 

 返事はない。

 代わりに、彼女は視線を下に落とす。

 

 正論をぶつけるのは無駄だと諦めたのか、深く息を吐く。

 そして観念したように、セインは視線を上げわたしの目線に合わせる。

 

「これが怒りってやつなのかな」

「きっとそうだよ。で、その久々の感情はどう?」

「うん。素晴らしく不愉快だとも」

 

 セインはわたしの瞳を、しっかりと射抜く。

 

「見誤っていたことは認めよう。ここからは持ち得る限りの全力で、君を相手しよう」

「やっとその気になった?」

「まあね。重い腰を上げるとするよ」

 

 セインはわざとわたしを煽り、こうも付け加える。

 

「私は、全力で君を否定しよう。君という存在を、その玉座から引きずり下ろしてやるよ」

「それわたしのセリフなのにさあ……」

 

 まあいいや。

 ならアドリブでここに、最大限の火蓋を切ってやるよ!!

 

「わたしはあんたから「最強」の肩書なんて小さいもんじゃない。完璧とかいう、本当はうっすいだけの自意識を引っ剥がしてやる。そんなもん程遠いって教えてやる」

 

 だってさ。

 

「あんたの完璧になるための道には、わたしという障害が立ち塞がっているんだから!!」

 

 

 

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