魔族の玉座は空いている~魔王(予定)のわたしは、最強の勇者を倒すために彼女と同盟を結びます~   作:ふく神漬

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第36話 連盟ダンジョン攻略(前)

 バッタバッタと息のつかぬままいろいろなことがあった最近。

 

 わたしはベッドインしたい欲望を振り切って、椅子に腰掛けモニターの電源をつける。

 

 今日はとある迷宮攻略の配信があるのだ。

 

 わたしは迷宮攻略についてもっと知らなければならない。

 そのためにはうってつけな、大舞台、大規模なイベントの顔見せが行われる。

 あとその、わたしにとってトクベツな人の晴れ舞台らしいから……。

 まあ、そんなのおまけ程度の理由であって!

 

「わたしはわたしのために、だ」

 

 ギリギリ、わたしが配信をつけたところで画面には数字が表示されていた。

 大々的に数字が表示され、一刻と始まりまでの合図を告げんとする。

 要するにカウントダウンだ。

 

「やってやる。研究してやる、迷宮攻略ってやつを!」

 

 ドクドクと、数字とともにわたしの心臓も動きを早める。

 

 迷宮を攻略するのは冒険者の方だ。

 だが、『魔王』となるものがこそ迷宮について知り尽くしていなければいけない。

 

「うおっ」

 

 そんな中、数字が三になった瞬間。

 画面が切り替わり奇妙な仮面がドアップで映り込む。

 

『みなさまおはようこんばんは!! お待たせしすぎましたから、少しおまけしときましたよ!!』

 

 仮面をつけた道化師が、画面の中央で声を張り上げる。

 

「ははは…………」

 

 うざっ

 盛り上げてくるじゃないか。

 そんな見えない視線を受けながら、スポットライトを独占する道化師は腕を大手を振って中央へと歩を進めると、声を上げて

 

 

『ではでは始めましょうか!! 一年に一度の大喝祭!!』

 

 わたしが向き合わなければならない一大イベントの、幕が上がる。

 

『――――連盟ダンジョン攻略の、開幕だあああああ!!』

 

 道化師がスティックを振ると、背後の幕が一瞬で消え、豪華なステージが現れる。

 思わず目を引かれる装飾が施されたベールの奥に、人影が多く見える。

 

 連盟ダンジョン攻略。

 一年に一度の、最高峰の戦いであり、イベント。

 四つのパーティーと、四人の『魔王』のぶつかり合い。

 わたしが向き合わなければならないとすれば、おあつらえむきってわけだ。

 今回はその式典(セレモニー)

 本番に向けて、人間と魔族。

 冒険者と魔王の陣営が登壇するイベントだ。

 

 わたしは真剣に、モニターとにらめっこする。

 それ程に、覚悟を決めて向き合うと決めたのだ。

 

 ただ、そのさあ……

 

 :キタ━━━━(゚∀゚)━━━━!!

 :ワクワク

 :"コバンザメ"あつまれ!!

 :ネロちゃん……ハァハァ

 :天界から観てます

 :撲殺姫がんばれえええ!!!

 

 コメントはすでに、混沌な状態だ。

 専門用語が多すぎて何がなんだかわからいが、盛り上がりが伝播していく。

 これが、今のダンジョン配信なのだ。

 

 

『みなさんの声援、届きましたよ!? いやあ、これもう私だけでいいのではないですかね?』

 

 :はよ進めろ

 :仮面の意味の無さよ

 :昔の配信でとっくにバレてるんだよなあ

 :いらない(確信)

 :半分いる

 

 ボコボコに殴られるも、道化師は笑う。

 そういうプロレスも含めて盛り上げる手腕が、場慣れしていることの証左だろう。

 

 うん、場慣れしているのだ。

 この人は、あの場に挑戦したこともあるのだから。

 

 五人の『勇者』がうちの一人―――属性魔法の一角、土魔法の到達点。

 "創造"の『勇者』、エヴァン・オーケスト。

 かつての配信はまだ観れていないが、熱心な研究の上で成り立つ狡猾な策が厄介な相手。

 道化を演じているが、中身は誠実かつ超がつくほどの努力家。

 

 いつか相見える可能性があることを考えると、笑えないのが面倒なところだ。

 

『はいはいさてさて。では端役の方に移りましょう!! 『連盟ダンジョン攻略』――複数のパーティーが徒党を組んで、同じく君臨する複数の魔王へと立ち向かう?昨今では"コラボ"などと呼ばれていますが、私としてはそんな生ぬるいものではないと思いますがねえ?」

 

 その理由を、大々的に告げる。

 

「だってほら、冒険者の中でも見せ場なく散った敗北者と、活躍を残した勝者ッ! これがはっきりと分かれるのですよ!? さぞパーティーの間ではバチバチと……おっと失礼ッ!! ストップが入りましたので、サクサクっと進めていきまSHOW!!』

 

 おそらく今のは真意であり、事実に他ならない。

 これは単なる人間と、魔族の対立なんてもんじゃない。

 

 魔族側だってあっさりやられれば白い目で観られるだろうし、かといって逃げ回るようなこともできない。

 望まれれば、受けて立たなければいけない。

 

「ん?」

 

 バチンと。

 道化師が指を鳴らしたと思えば、暗闇の中にベールを纏った土台が高く形成されていく。

 これが”創造”の『勇者』の、その力なのか。

 そしてベールの奥に、幾人もの人影が見える。

 

 

『さて、「どれもが特別で唯一の連盟ダンジョン」だ、なんて言いません!! ただ今回の連盟ダンジョンは本当に私の心も踊っております! 期待の超ルーキーの参戦に、新たなSランクの『魔王』のお披露目、更にシークレットゲストの乱入も組み込んだ波乱の一大イベント!! 今日は決戦に臨む両陣営のメンバーのお披露目です! ではでは皆様、一呼吸おいたあとその人選を発表いたしますよ!」

 

 

 動機が止まらない。

 けれど、不安を煽るような演出が逆にわたしの気を引いて離さない。

 中々に、盛り上げてくるじゃないか。

 

 :マジ今回のメンバーすごすぎるわ

 :ハァハァ……ハヤク!!

 :このための残業120時間

 :『魔王』側も四分の三がSランクでしょ?

 :魔族の関係者にも感謝しかない

 :どういたしましてなのだ

 

 盛り上がりも維持するどころか、更に勢いを増していく。

 

 わたしのイメージが古い、というかそんな教育下で育ったためか。

 意外にも魔族が忌憚なしに褒められているというのは、なんかこう……ぐっとくるものがある。

 ちょろくね、わたし?

 

『いざッ!! 壇上に立つ資格を手に入れた冒険者、その四パーティーを紹介いたしましょうッ!!』

 

 へ?

 またも気づけばふっと道化師へのスポットライトが消え去っており、光はベールとともに幕開けを告げる一端となる。

 なんかわたしも、変なノリに乗せられてるような気が……。

 

 まあそんなことはどうでもよくて……。

 壇上をみてまず思うのが、たった一人の少女。

 

 そう、たった一人なのだ。

 一人と複数からなる三パーティーと言った景色にしか、わたしの画面では見えなかった。

 

『さあみなさん!! やはり気になるのはこの、 弱冠をかぶるは十二歳の少女ォ!! この超新星でしょう!?』

 

 :ネロちゃん!!

 :(;´Д`)ハァハァ

 :かわいいいいいいいいいい!!

 :コバンザメだらけで草

 :いやキモいよ

 

 カオスなコメントだが、脳内での疑問の解答にはなった。

 単独パーティーというやつだ。

 セインやフランがそれのいい例だ。

 ということは、後々『勇者』になる可能性を秘めているということ。

 

 わたしは息を呑む。

 油断ならない、それはそう……なんだけど。

 ただその、なんか。

 

 全体的に、派手? 

 肩まで見せるような崩した、わたしが一生かかっても着こなせいだろう着こなし。明るい水色の髪はツーサイドアップにまとめられており、前髪にはトーンを落とした深い蒼の色のメッシュが差し込まれている。

 

 総じて布面積はかなり少ない。

 

 なに?

 今の子ってこんな感じなの? 

 おばさんわかんないや。

 

 

『隣国からやって来た刺客は、今回の舞台にどこまで魅せるのか!! その意気込みを聞いてみましょう――――ネロ・マリン・アーキリアナさん!!』

 

 これでもかとお膳立てをされてスポットライトを浴びる少女の表情は、まるで緊張など感じられない、白い歯を見せた笑みだった。

 

「こんばんは"コバンザメ"とその他の視聴者さ~ん!! ネロ、のあとは長いのでただのネロと呼んでいただければって感じです~~! よろしくおねがいしま~す♡」

 

 語尾にハートマークがみえるような、甘ったるい猫なで声で自己紹介する少女。

 そして、上半身を傾けパチっとウインクをする。

 コメント……は無視するとしてどんなメンタルしてんだこの子!?

 

「こんかい〜〜ネロなんかがこんな大舞台に立っていいのかなって思ったんだけど~~――当然、いいに決まってるよねっ! だってネロはあ、『勇者』になるんだから♡」

 

 会場が静まり返る。

 全員の視線が、彼女に突き刺さる。

 それを受けなお、少女は眉根を吊り上げ笑う。

 

「それじゃあネロとゆかいな仲間たちの活躍を、よろしくね~~♡」

 

 少女はこれでもかと全方位に喧嘩を売ると、自己紹介を締める。

 これが詭弁かどうかは、本番でわかることだ。

 いや、確かめなければいけない。

 いずれ受けて立つ相手かもしれないから。

 

 一人目のインパクトと会場の緊張に呑まれ、二組目のパーティーはほとんど何も言えずに終わった。

 

 同情します、はい……。

 わたしだってその場にいたら逃げ出すレベルだし。

 

 続き、三組目……といっても、いままで配信なんて観てなかったわたしにとっては全員知らないしあまり心が踊ることなんてないだろう。

 ほら、スポットライトが当たった四人組もわたしに関わりなんて微塵もない…………んん!?

 

「え、あ、アンナさんじゃん!?」

 

 そこには見知ったサイドテールの女の子――アンナ・リリエットの姿があった。

 

 :あれ、新しいメンバー?

 :誰あれ?

 :いつの話だよ笑

 :情弱乙!!

 :『撲殺姫』をご存知でない!?

 

 どうやらS級パーティーに二週間ほど前から加わったらしい。

 あと撲殺姫とかいう二つ名を授けられたそうで……まあちょっと納得がいってしまうが。

 

『長年S級の座に居座り、かつ『勇者』にはなれないという中途半端な「ザ・普通のおじさん」なこの人――数多くの有望な新人を排出した"育て人(ブリーダー)"ことソリッド……えーと、なんとかさん!? 今回の意気込みはどうでしょう!?』

 

 そんな四人のリーダーは、不揃いな顎髭の生えたおじさんだ。

 ただ経験の差なのか、あるいはその実力なのか。まるで気圧されているようには見えない。

 

「そうだなあ、まあ程々に頑張るつもりとしか。……というかお前、あいかわらず配信ではテンション高いな。それこそ抱負とかないのか?」

『シーーッ!! おい、空気読めソリッド!!』

 

 ふふっ。

 道化師への思わぬ意趣返しに、わたしとコメントが沸き立つ。

 

 :いったれブリーダー!!

 :仮面はがれてますよ

 :相変わらず仲良いなこいつら

 :夫婦漫才

 :おっさんずラブ

 

 これはこれで、恒例のノリらしい。

 あの"創造"の『勇者』に自然体で接することができる、新人を育てながらもS級の座は譲らない実力者……か。

 

 笑っちゃいけない人でした。

 

 ま、まあね……!!

 迷宮攻略の研究っていっても、楽しく見れればそれにこしたことはないし。

 まだ顔見せだけだし。

 

 そんなソリッドさんは新メンバーでありわたしの親友……はおこがましいとして友人……って言ったら怒られるだろうし……。

 そこそこの知人である、アンナさんに言及を残す。

 これなら許してくれるよね、アンナさん!?

 

「新しく加わった――アンナ・リリエット君だ。俺なんかよりも、彼女の活躍を観てやってほしい」

 

 ソリッドさんは道を譲るように掃けると、アンナさんが一歩前に出る。

 

「アンナ・リリエットです。今回、こんな大舞台に立てたことはとても嬉しいです。でも、不相応じゃないかって思う自分がいます。それでも、アイツに勝つために、あーしは手段を問わずにぶっ潰しにいきます。だから、応援よろしくお願いします!」

 

 丁寧に抱負を述べると、アンナさんは頭を下げる。

 アイツと称されたのは、わたしはそれをみて、少し後ろめいたものを感じる。

 

 わたしはまだ、無名の『魔王』で。

 アンナさんは冒険者として、もうあの大舞台に立っている。

 

 内心、彼女を下にみていたかなんて。

 そんなことないと、ないと思うよ。

 けれど、無意識で下にみていたかもしれない。

 それは、否定できない。

 

 故に、悔しいなと。

 無名の魔王は、正直にそう感じた。

 

『うんうん! ()()()の方は応援したくなる、そんな期待の新人でしたねえ!! ぜひ、頑張っていただきたい!!』

 

 道化師は水色の髪の少女を嘲笑するように嗤い、当の本人は冷たい笑顔で返す。

 確かに、連盟ダンジョン攻略と銘打っておきながらもバッチバッチだな。

 

 そのまま、道化師を糾弾する声がコメントで飛び交うも、道化師はひょいひょいとそれを避けながらも四組目のパーティーへの紹介に移る。

 

『観衆も盛り上がってるところで、最後の一組に移りましょうか!! パーティーでいえばトップの実績を誇る――「常磐の空」。これを取りまとめるリーダーに、話を聞いてみましょう!!』

 

 紺青の長い髪の人間にスポットライトが当たる。

 まあ、知らないな。

 今度こそ、全員――

 

『意気込みとしてはどうでしょうか、イリス・リワールさん!!』

 

 リワール……その言葉が、不規則に耳朶を打った。

 されも彼女は淑女らしく丁寧にスカートの端をつまんで腰を折り、その場に黒いドレスで佇む。

 

「ご相伴に与りました、イリス・リワールと申します。今回も、いつも通りのパフォーマンスを発揮して、Sランクの座にふさわしい働きをご覧にいれましょう。私達"リワール"の名に、恥じぬように――」

 

 知らない。

 話したこともなければ、会ったこともない。

 ただ彼女の言動は、わたしの目に、わたしの心に。

 失礼にも――不気味な感触を、植え付けたのだった。

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