魔族の玉座は空いている~魔王(予定)のわたしは、最強の勇者を倒すために彼女と同盟を結びます~   作:ふく神漬

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第37話 連盟ダンジョン攻略(後)

 

 

 リワールと、そう名乗った女性は淑女らしく一礼すると、妖艶な喜色を浮かべる。

 黒く長い髪は流麗に流されており、堂々たる余裕はその経験故にこそだろう。

 

 でも、この人が……この人たちがフランを。

 そう思ってしまう自分を抑えつけて、画面に向き合う。

 

「今はただ、見据えるんだ」

 

 この壇上にて堂々たる様を見せる、彼女の"強さ"の源泉を。

 

『一定の功績を積み上げ続けつい先日、熱戦を繰り広げて第四位――ぶっちゃけ言っちゃいますがこれから相見えますかの『大翼』にも打ち勝った実績!! あのごった煮パーティーは論外として! 現在ある名ばかりのS級パーティーとは一線を画す、最前線を進んでいるとも言えるパーティーですねえ!!』

 

 囃し立てられるも、彼女は困ったように眉をひそめる。

 

「いえ、私一人の力ではありません。私が……私達が着実に進むことができているのは、切っても切れない縁のおかげですよ」

 

 背後の二人も、それに同調する。

 

「はい、もちろんですわお姉様」

「……そうだな」

「ちょっとアルフレッド。こんな時くらいしゃんとしてよね」

「あーはいはい。わーったよ。このパーティーは三人揃ってベストだ。それ以外の不純物はいらねえ」

 

 切っても切れない家族の縁で結ばれたパーティーだと、彼らは主張する。

 ただその縁は歪で、何かが欠けている。

 

 孤独になったフランをセインが助けて、わたしたちは支え合っている。

 あんなパーティーになんか、負けるもんか。

 

 フランは路に迷っているわたしを助けてくれた。

 だからあのとき、わたしもフランを助けると決めた。

 だけど、どうしても――

 

「くっだらなあああい」

 

 けだるそうに、彼女たちに刃を向けたのは水色の少女。

 彼女はそのまま、黒髪の少女の方へ向き直る。

 

「なにが家族の絆だよ。フラン先輩を追放したくせに」

「初めましてよね。その割には、礼儀が随分と欠落してるみたいだけど」

 

 キャハっと、白い八重歯を見せて笑いイリスさんの方へ近づいていく。

 

「それさっ! ネロにとっては最高のほめ言葉なんだけどっ!!」

「貴方は品性を売りに出すと。それこそ笑い草ね」

 

 もうめちゃくちゃだよ。

 ただその様子を一通り楽しむと、道化師は抑圧するような低い声で告げる。

 

『あまり調子に乗るもんじゃない。貴方たちは挑戦者だ。そして、挑戦者を座して待つ『魔王』がいるのだから』

 

 いつの間にか、対面式に同様のステージが創造され、形成されていた。

 違うのは、四つの玉座がそれぞれの『魔王』の特色を表すように創造されていること。

 

『お待たせしたな、『魔王』』

 

 不均衡な静謐を、ゆったりと背もたれから半身を起こす女傑が破る。

 

「んんっ……? ふわあ、中々いい寝心地だったぞ」

『貴方今まで寝てたの!?』

「ん、ああ。寝てない……ぞ?」

『いや寝てますよねえ!? まあこちらも少しお転婆が過ぎましたから、しばしお待ちいただくとしましょう』

 

 そうして一旦立て直し。

 

 そんな横暴がまかり通るのも、その声の主がこの場において絶対的強者であることに起因する。

 諍いあっていた者も、ちゃっかりと自席について黙ってみている。

 

 

 その余波は、画面を越えてわたしにも。

 なんで、なんでいるんだよ。

 わたしを、捨て置いたくせに……。

 

 そんなわたしの悶々とした気持ちはよそに、式は進んでいく。

 

『ではまずはこのお方でしょう! 新進気鋭! 破竹の勢いでこの『魔王』としての頂点の一角、Sランクの末席――八席の座を飾るは錆色の竜人!!! イフリート・ドラグニールぅうううううううううう!!!!』

 

 おおおおお……。

 

 えと、知りません。

 コメントなんかを見ると知っていて当然の事実らしいが、きらびやかなSNSなんかには縁が無いおばあちゃんですみません……。

 

 

 :イフリートさまああああああ!!!!!

 :まあ妥当か

 :炎上してなかった?

 :一位に喧嘩売ったやつね

 :というかいつも全方位に喧嘩売ってるだろ

 :まあ大口叩きすぎなところもあるけど、ただダサいってだけで反応しすぎ

 :そうそう。魔族も人間も仲良くいきたいよね←わたし

 :はい魔族バレ

 :もうそういうのいいって

 :いちいち区別する必要ないわ

 

 え、あ、すごい!!

 こんな一般無名魔族にもやさしくしてくれるだなんて。

 今まで少し忌避していたけど、コメントっていいじゃん!

 本当に、魔族と人間の融和が始まってきているんだなと感じる。

 

 それはともかく。

 

 ガリウスさんが身を投じていた世界。

 竜人の内部闘争は熾烈を極める、まさに修羅の道。

 その闘争の末、正当な後継者と認められたのがこの竜人……ってことなのかな。

 

 じゃあ、『竜王』はもうガリウスさんのものじゃなくなってしまうのか。

 イフリートさんの苦労は計り知れなかっただろう。

 それはわかってるんだけど、なんだか『竜王』が変わるというのは嫌だな。

 

『大々的な場でトップの座の末席を賜ったイフリートさんですが、ずばり今回の目標はいらっしゃるのでしょうか』

「ない。オレの眼に映る有象無象は等しく、オレにとっては価値のない愚図だ」

『へ?』

「オレが見据えるのは唯一人、頂上にいる人間という種の代表――セイン・ヴィグリッドただ一人。それ以外の相手はオレにとっては愚図でしかない。この場にいる連中も、これを観ている連中もオレにとっては愚図だ。馴れ馴れしく接するな」

『…………』

 

 あ、終わった。

 なんかこう、人間と魔族とでほっこりとした雰囲気になれたと思ったのに。

 少し積極的に、人の輪に入ってみようと思ったのに。

 コメントはもう怖くて見てない

 

 目頭が熱くなる。

 せっかく、いい空気だったのに。

 少しでも、わかりあえたと思ったのに。

 

 ――そんな時だった。

 黒い両翼を携えた長身の何者かが画面外から、その翼で竜の動きを封じる。

 

「ぐ……っ」

「はいみなさん! 誤解しないようにっ! 彼はいつもこんなんですからね! 魔族に対しても平等にツンツンしてるので、そういうキャラだと流していただけると!」

「黙れ、放せ愚図。これ以上はオレも――」

「ほら! ほらきた!」

 

 翼を広げ距離を取る。

 

 雰囲気は以前とは異なっていたが、頭の隅にあったふんわりとした像に一致する魔族が浮かび上がる。

 その名は確か――

 

「リュミエルさんじゃん!」

 

 いつかの配信で観た、自分を堕天使と称するハーピー。

 彼は前回とは全く異なる、フランクな態度で配信に写っていた。

 

 

 :リュミエル様~~!!

 :天使も観てます!!

 :堕天使さん(笑)じゃん

 :今回は素なんだな

 :さすがにこのメンツじゃね……

 :相変わらずの苦労人だな

 :イケメンの癖に嫌いになれない

 

 

 案外、リュミエルさんのフランクな態度はリスナーからも受け入れられていた。

 もっとも、彼は迷宮攻略の配信以外でも有名なようで。

 調べると、雑談などのソロ配信や迷宮攻略の解説役なんかの仕事にも引っ張りだこな、魔族にとっては大変貢献してくれている方だった。

 ただのイタイ方だと思ってました、すみません……。

 

 そしてイフリートさんは、その翼に雁字搦めにされながらも吠える。

 

「オレにとっては、あの『勇者』すら過程。あの女を倒して、オレは――」

「あの女とか言わないの。『竜王』を倒した、あの伝説の『勇者』にリベンジしてようやく『竜王』を継ぐ。そのために今は『臥竜《ガリョウ》』、と名乗るらしいです。ね、そういうことでしょ?」

「ダメだ違う。オレの思いはそんな簡単に割り切れるものでは――」

 

 そんな抱負を語る『臥竜』さんを受け流して、リュミエルさんは簡潔に話をまとめる。

 

「ずっと同じクラスだった身からしたらもう慣れたもんです。クセは強いけど、根はいいヤツだから、応援してあげてくれると嬉しいな」

 

 フォローの限りを尽くすと、改めてリュミエルさんは身の丈を明かす。

 

「今回唯一のA級の、リュミエル・ピーターです。まあ今回呼ばれたのも数合わせみたいなもんだけど、よろしくね~~!」

 

 そう締めくくるリュミエルさん。

 今回のイフリートさんとの登壇に合わせて、その絡みは中々にウケが良かったようだ。

 なんなら一部アレな方たちが盛り上がっていたし……。

 

「っじゃない!! あの二人学生なの!?」

 

 所属は帝魔学院。

 リラが目指している、魔族側にとってのエリートが集まる難関校。

 

 わたしはまだ『魔王』志望の、ただの一学生。

 この年でそのトップに成り上がった二人は、まさしく大先輩ってわけだ。

 ごくりと、わたしは生唾を呑む。

 

 自分は本当に、この世界を甘く見ていたのかもしれない。

 劣勢に陥っている魔族側も、負けずと苛烈な競争が水面下で行われている。

 その世界に、わたしは身を投じなければならない。

 

 その名乗りに対し奇面の魔術師は拍手を送る。

 そして――

 

「…………ッ」

 

 奇面の奥の瞳が、リュミエルさんを射抜く。

 

「な、んでしょうか」

『いやね。私はリュミエルさんにも期待しているのですよ?』

「僕に?」

『ええ、そうですとも! 貴方は孤独だ!! 周りは全て、頂点の一角を担う魔族の中でただ一人のA級――その御心はいかに!?』

 

 会場が静まり返る。

 

 なんて、質問をするんだ……。

 そんなの本人が一番気にしてるだろうに。

 それでも、魔族の為にかのハーピーは登壇することを選んだ。

 

 ――しかし。

 リュミエルさんは、自身の野心を交えてこう答えたのだ。

 

「そう。僕はこの場で、ただ唯一の低級。目もくれない端役。――故にこそ、それが一矢報いた時。()()()()()になり得る。そう思わないか?」

 

 黒い瞳に、奇術師は一瞬だけその身体を震わせる。

 

『ふふっ! いい! 実にいいですねえ!!』

 

 天高く嗤いながら、奇術師はリュミエルさんから照明を移す。

 

『では紳士な新星《ルーキー》――リュミエル・ピーターの心遣いにあやかりまして、彼が介添人にしてハーピーオブクイーン!! その名をッ!!』

 

 ――――――待て。

 最奥の魔族の一声に、会場の空気が一変する。

 

 わたしに至っては画面越しにもかかわらず唇が真っ青になっていることだろう。

 

「なんで……」

 

 

『戦う意志がないものに、私は教えを遣ることはせん。今日で終わりだ』

 そう言って、わたしから去っていった。

 わたしを、捨て置いた……はずなのに!!

 

「なんで、なんでいるんだよ――――師匠《せんせい》!!」

 

 Sランクの次席を飾る真紅の女傑の名は、『吸血公』アルフォード。

 彼女は長い真紅の髪を翻しながら、ゆっくりと腰を上げる。

 

「こいつは先日敗北したのだろう? ならわざわざいらんだろ。スキップしろ」

『は、はあ……。そう言われましても』

「ラフタル。問題あるか」

「ないです~~! 勝手な心遣いありがとうっ!」

 

 『吸血公』とハーピーの女王、四席を飾る『大翼』。

 昔からの知己は、互いに語らう。

 

 実際、わたしは師匠だけじゃなくラフタルさんにも何度か面識がある。

 

 だって二人は共に……。

 お父さんの魔王城に、席を置いていたのだから。

 

 同じ場所で、切磋琢磨し合っていた魔族たちだ。

 ラフタルさんの前に出たのも、先日の敗北に触れられることを避けるためだろう。

 優しいじゃん、かっこいいじゃん。

 そんな優しさ、わたしに向けられたことないけど……。

 

 

 :強者の風格

 :仲良くていいね

 :年増ガールズ

 :それが良いんだるぉおお!!

 :言っていいことと悪いことがあるぞ

 

「は、はあ……!!? 吸血種は人間と違って長寿だし年増じゃねえし! てか師匠に色目使ってんじゃねえ!!」

 

 しんみりと考え込んでいたのが腹立たしさに変わる。

 いくら世代を経るにつれて種族の特性が弱まっているとはいえ、師匠はまだまだ適齢期……だよね?

 いやそんなことはどうでもよくて!

 

 師匠は自分のことは、どう思ってるんだろうか。

 もう、捨ててしまったのだろうか。

 

 そんな想いがぐるぐると回る中、『吸血公』は壇上の中心で悠然とその名を明かす。

 

「レイン・アルフォードだ。久々に『魔王』としての責務を果たそうと思う。よろしく頼む」

『ここ二年ほど俗世には顔を出さなかったあの『吸血公』ですがッ! 一体なぜ、こうした舞台を選ばれたので?』

「そうだな。芽が出ないと切り捨ててしまった蕾が、今再び結実しんと芽吹いたと、そう聞いたものでな」

 

 ……?

 あ、ああ。

 これわたしだ、よね?

 

 芽吹いた……のかなあ?

 正直、師匠がわたしを見捨てたのを攻める権利なんてない。

 

 あのとき、師匠にもう無意味だと捨てられたとき。

 わたしにあったのは、開放感だった。

 

 鍛えるだけ無駄な、何も見据えていなかったわたしに失望するのは当たり前で。

 強くなろうとしないわたしがそれを嬉しく思ってしまった愚昧だったのだから。

 

「師匠《せんせい》…………」

 

 

 けれど再び、わたしのために師匠は登壇した。

 怖いけど、腰が引けるけど……。

 それでもほんの少しだけ、胸がときめく。

 

『……ええと。これは恋バナで?』

「ははっ。まあ、そのようなものだ。故に言っておく。観ているだろう愚昧? 私がここまでしてやるんだ! しっかりと目に焼き付けておけよ!?」

 

 わたしに向けて、大々的に宣言する師匠。

 辞めてよ、そんな優しさを、わたしなんかに向けないでよ。

 

『不器用なラブレターは、きちんと届けられましたかな?』

「ふん、いっちょまえに仕切りやがって。お前、生意気なほどそのコスプレが似合うようになったじゃないか」

『ちょっ! そういう弄り方は反応に困るのでやめてッ!!』

 

 コメントも乗じて、またもや仮面の奥で皺が増えてそうなエヴァンさん。

 いや、うん。

 がんばってください……。

 

『もういいです! 両陣営の顔合わせは整いました!! それではシークレットゲストにもご登板いただきましょう! 本番までなんて出し惜しみはしません!! それほど、事前情報で戦局がひっくり返る要因になるからです!! さあさあ『魔王』様が好き勝手やってくれたおかげで時間も押しております!!』

 

 エヴァンさんは息を荒くしながら、最後の役者へと視線を移す。

 

『行くぞ、観衆の諸君!! シークレットゲストの、登壇だああああああああ!!!』

 

 長い長い前フリは、わたしにとってどれも意味のあるものだった。

 けれどわたしがこの大舞台に目を向けた本懐は、ここからだ。

 師匠がこの舞台に立ったのも、きっとこの為だ。

 

 

 ステージが暗転する。

 合わせて、カツン、カツンと。

 ヒールの音が、一定の間隔で鳴り響く。

 

 スポットライトなんてものはいらない。

 そんなものなくても、彼女の存在証明には事足りる。

 

『迷宮攻略から離れてもう何年ぶりになるでしょうか。伝説、奇跡――そんな言葉が陳腐に思えてくるほどの、絶対的な人類の象徴が、今ここに顕現いたします!!』

 

 その存在を、道化師は会場全体へと向かって叫ぶ。

 

『シークレットゲストこと最強の『勇者』――――セイン・ヴィグリッドだああああああ!!!!』

 

 会場にて毅然とした姿を魅せる彼女に、わたしはなんというか……ムカムカする。

 

「あいつ、ほんとかわいげないよね! 一応あのときは命をすり減らすような攻防だったわけで、傷一つないとか!」

 

 

 わたしはその反動を大いに受けている最中だ。

 血晶の多重使用の副作用で、頭は痛いし疲れやすい体質がしばらく続くそうだ。

 霊体も現在の体調の煽りを受けるため使えない、というか使ってもクソ雑魚になるだけだ。

 

 それに比べ……あいつはあれだけの激闘(なはず!)があったというのに、ピンピンしてやがる。

 

 でも――

 

「これが、あんたの『勇者』としての姿なんだね」

 

 わたしにとってのトクベツで、倒すべきライバルで。

 配信越しで観ても、胸を打つ何かがある。

 ただ一つ、明確に言えるのは。

 

 ――わたしは彼女を、セイン・ヴィグリッドを。

 誇らしいと、そう思えることだ。

 

 

 

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