魔族の玉座は空いている~魔王(予定)のわたしは、最強の勇者を倒すために彼女と同盟を結びます~   作:ふく神漬

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第41話 水色の少女

 

 熱狂が轟くその孤島――セレス島。

 連盟ダンジョンの舞台として用意されたその島にいるのは、現在関係者を置いて他にない。

 そして、顔合わせから三日後。

 

 やってきた当日。

 セイン・ヴィグリッドは人間側の控室に放り込まれる。

 

 そして、彼女は――

 腕を組み、黙りこくっていた。

 

(これ、私が悪いのかな)

 

 最強の『勇者』は少し、罪悪感に苛まれるがそんなことは全く以てない。

 四つのパーティーは元々、この空間内で馴れ合うことはなかった。

 

 奇術師エヴァン・オーケストが指摘していた通り、彼ら彼女らは協力して乗り越える気など無い。

 パーティーという括りでみれば、それぞれは画策し名を上げんとしている。

 ただ、それを共有する気もなければ、協力して最後の一撃(ラストアタック)を譲る気も更々ないのだった。

 

 その静寂を、一人の水色の少女が打ち破る。

 

「セインせんぱ~い♡」

 

 あざとく上体を傾けて、上目遣いでそう甘い声を出すのは――ネロ・マリン・アーキリアナ。

 世界を席巻するほどの人気を持つインフルエンサーであり、単独でのパーティー攻略を成し遂げる天才。

 

「マリン。久しぶり、会えて嬉しいよ」

「キャー♡ 嬉しいこといってくれるじゃないですかあ。でも、ネロでいいですってば~~!」

「響きがいいからそう呼んでるだけなんだけどな。そっちのほうがいいならそうするよ?」

「それならいいですっ♡」

 

 彼女はアドリア王国とガイナ帝国という大国に挟まれた小国である――アーキリアナ共和国。

 その有力な三大貴族の一人でもあり、背負う看板は計り知れない。

 

 ともいうのに、彼女は着丈に沿ったように気楽に。

 最強の『勇者』へ、とある賞賛を送る。

 

「あのリップサービス、世界中でバズってますね~~! 盛り上げ方までわかってるなんて、さすがですよセインせんぱいっ!」

 

 何を言っているのか分からず、セインは問いを返す。

 

「えと、なんのこと?」

「またまた~~。あれですよ、ほら。自分を倒し得る魔族が現れるとかなんとか、そんなのあり得ないってわかってるくせに~」

 

(ああ、あれってそう映ってるんだ)

 

 セインはそれを、きっちりと訂正する。

 

「あの発言は眉唾なんかじゃないよ」

「へ?」

「あれは全部、本音で話したこと。伝わりづらかったのならごめん」

「いや、ほんと?」

「うん」

 

 ……。

 その言葉には、少女をまたいで耳をそばたてていた場にいる者のほぼ全員が瞠目する。

 

 そして、懐疑的な視線がセインに集中する。

 

(……君の気持ち、というか気苦労が少しだけわかった気がするよ)

 

 少しずつ変わっていった結果、今はそうではないが。

 周囲からこの様な邪な意識を向けられるのは、中々に息苦しい。

 

 しかし、そんな愛しき魔族を懸想し口元が綻ぶ。

 

(元気にしてるかな。やっぱり、私がいないと寂しいかな、寂しいよね)

 

 当の本人は、三日の間で目まぐるしい体験をしているおかげでそれどころじゃないというのが皮肉だが。

 セインは自身がいないミラの心境を予想し、それで頭が埋め尽くされる。

 

(でもフランが危ないか。あの子はわたしへの依存から抜け出して、更に強くなった)

 

 それに、とセインにとって危惧すべき大きな点について思う。

 

(フランが自分の想いを自覚したら、とうとう危ない。いや、もしこの間にそんなことがあったら……!)

 

 そこまでいって、正気を取り戻したネロに遮られる。

 

「じゃあ! もし、もしですよ? セインせんぱいと十回やったら、どれくらい……いや、一回でも勝てますか!?」

 

 甘ったるい声ではなく、必死に尋ねるのでセインは真面目に答える。

 決まっていることだ。

 

「いや、一回も勝てないよ」

 

 そう断言されて、ネロはホッと息を吐く。

 

「な~んだあ、良かった。やっぱりそんなもんかあ」

「そんなもん?」

「ああ、気を悪くしないでくださいねえ。いやね、今でもいるじゃないですか、そこそこ強い魔族さんって」

「そこそこ、ね。君は……やめておこう。それも君の強さだからね」

 

 礼儀がなってない。

 それは散々ネロが言われた言葉だが、彼女はそれでも、否――そうしてここまで登りつめたのだから。

 わかっていて、逆境の上に立っているのだ。

 

「話の腰を折らないでくれるの、ほんとたすかりますよ~~」

「それで、そこそこっていうのは?」

「先に言っておきますが、そこそこっていうのはネロじゃまだ届かない相手も含めて、ですよ? それでも、いつか越える予定ですが」

「確かに、君はまだまだ発展途上だからね。まあ絶対なんてことはないけど、そう意識するのは悪いことじゃない」

 

(絶対の化身のくせしてさ)

 

 ネロは内心で思いながらも、その絶対という壁があることに感謝していた。

 魔族には絶対という象徴がないから。

 そびえ立つ、絶壁がないから。

 

「例えば現一位のスライムさん。一昔前は『竜王』ガリウス。んで何より、『戯王』ブラスと、その配下さんたち。ま、今はそれが脅威になっている状況ですけど~~」

 

 ネロは空目して、魔族が待機しているであろう上階をそれとなく見る。

 

「わかるでしょ? セインせんぱいなら。そこそこ強い、セインせんぱいに一矢報いることができる魔族はいるでしょう。でも、セインせんぱいを倒すことができる魔族はいない。それが今の状況なんですよ、そして、それが後世の歴史にならなきゃダメなんです。時代を象徴するであろう最強の『勇者』は揺るいじゃメッ! ですよ~~?」

「そんな掟なんて無いし。そもそもセインさんを勝手に歴史にすんなし」

 

 その言葉を否定したのは、背後にいる明るく染めた髪をサイドテールに結ぶ少女だった。

 

「信じられないなら、あーしが証人として立ってやるよ。セインさんが言ってるやつは、この世界をひっくり返してくれるやつは現れる。ほんとにね」

「あんたに至ってはだれだよ」

「アンナ・リリエット。聞いてなかった?」

 

 宣誓の場を共に過ごした身として、アンナ・リリエットはため息をつく。

 

「聞いてたけどさ。所詮その歳でA級にもなれなかった分際でルーキーとか、何舞い上がってんの?」

「舞い上がってないし、それにルーキーとも思ってない」

「だとしたら、ただのザコしか残らないじゃん。やーい、ざーこざーこ♡」

 

 その煽りにアンナは眉一つ動かさず、冷静に告げる。

 

「ふーん。それがアンタの本性ってワケ?」

「ちぇっ。つまんないの」

 

 相手が反応しないので、つまらなそうに舌打ちをする。

 それこそが最も子供らしい行動とは自覚もなしに。

 

「どっちもだよ。あんたに対するのは、メリットがないからしてる態度。だけどセインせんぱいは尊敬してるし、うちの大事な栄養(リスナー)には相応の感謝がある。だから相応の態度、求められている態度を取ってるつもり。これが気に食わないやつは、気に食わないまま生きればいい。所詮ネロの人生には何もできやしないんだから」

「へえ。開き直るんだ」

「そうだよ。それが悪いの?」

「むしろ気に入った。結構気合あんじゃん、アンタ」

「はあ?」

 

 その魔の抜けた返事に、セインが笑みをこぼす。

 

「ふふっ。ああ、ごめんねアンナ。面白くてつい見入ってしまった」

「別にいいですけど、趣味悪くない?」

「まあまあ」

 

 代わりに、セインは本音でのフォローをする

 

「ネロ、言っとくけど彼女の成長は異常だ。これほど爆発的に伸びるのは中々見ないよ。君も安易に見ないほうがいい」

「…………言い方的にその魔族ってのも、二人の知り合いですか」

「そうだね。お互い、人生を奪われた同士かな」

「ちょっ! セインさん!!」

 

 その光景を俯瞰して、冷めた目で見ながら水色の少女は言い放つ。

 

「どっちでもいい。どっちでもいいよ。この人がいくら強くても、ネロよりは弱い。んでもって、その魔族が無名じゃなくなったとき、速攻で叩き潰してあげる。このネロ・マリン・アーキリアナにとっては敵じゃないってこと、思い知らせてあげるから♡」

 

 

 ◇

 

 

 同刻――アドリア学園。

 

 わたしは、本格的な投射機を構えたシャレイナに迫られていた。

 

「さあさあさあ! 最強の『勇者』から脅威と言われた、次の世代の『覇王』さん!! その意気込みはいかがでしょう!!」

 

 もう、そういうのはやめてって言ったのに。

 ただ、そこまで……!

 そこまでいうなら、今回だけは特別ってことにしてあげようかな。

 もう、今回だけだぞ?

 

 仕方なく、わたしはライバルへ向けてそれっぽい口上を述べる。

 否、述べようとしたときだった。

 

 カメラの前を、一つの巨大な影が遮り、そのまま倒れる。

 

「うおおおおお!! 何故だ! 何故、我に理もなしに強敵との戦いに赴いたのだ! くそう、彼奴め! 少なくとも同じ頂きを目指す者同士、我に一言通すべきであろう!!」

 

 這いずり回りながら、地べたで泣き叫ぶやばいやつ。

 その……なんというか横にデカい巨大を持つ男が立つ、その瞬間。

 わたしはサッと目線を外す。

 

 ――しかし、遅かった。

 

 男はわたしをしっかりとロックオンして、何故か片目を隠しながら名乗り始める。

 

「そうであったな。久方ぶりに来たが、その理由の一つを忘れるところであった」

「…………(必死に首を背けている)」

「オイ貴様だ! ミラ・フィーベル! 貴様を我の――エージェント・エグゼイルの宿命の相手(ライバル)として、任命する!!」

 

 は?

 今なんていった?

 

 それを聞くべきか考えながら、わたしは理性に従ってそっぽを向く。

 

「おい貴様だッ! 聞こえておらぬのか!?」

「…………」

 

 セイン!! そうだセイン!! 

 わたしを助けてよ、この状況をどうにかしてよ!!

 

 そう叫びたくなる、絶体絶命において。

 

 ――ジー、と。

 必死にその様子を収めるシャレイナには、頭が上がらない。

 

 ……訳ないよ!!

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