魔族の玉座は空いている~魔王(予定)のわたしは、最強の勇者を倒すために彼女と同盟を結びます~   作:ふく神漬

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43 百花散乱①

 

 

 それぞれのパーティーは、ランダムな地点に転送される。

 

「……っていっても、定石通りならそこらで魔王さんのいずれかと出くわすんだが」

 

 現在、"育て屋"ことソリッド・ヴァイパーのパーティーは特殊な形を取っている。

 彼のパーティーは常に即席で構成されており、ソリッドが一人前と判断した者は問答無用で追い出され、独り立ちしていく。

 

 そして現在、ソリッドは三人の弟子を擁している。

 

「どういうことッスか、師匠?」

「完全にランダムってわけじゃないのさ。各パーティーの転送地点、その付近にいずれかの魔王さんが座して待ってんのよ」

 

 その内の一人、茶色の巻き髪が特徴的な少年、ヘッジ・イーヴィスが尋ねる。

 

 三人の中では一番歴が長いが、それでも一年弱という短期間しか所属していない。

 付け加えるとヘッジはソリッドの一番弟子を譲るつもりなどなく、断固として彼の下から離れようとしない姿勢を取っている。

 更に付け加えると、押しに弱いソリッドはそれを拒否できず困っていたりする。

 

「さすが師匠! こんな舞台に場慣れしてるとか、マジ尊敬ッス!」

「いやまあ、都合よく使われてるだけなんだけどね」

 

 熱い眼差しを向けるヘッジと対照的に、一人の少女が欠伸をしながら答える。

 

「ふわあ……。そうなんだあ、ためになります~~」

「シトリーさん、緊張感なさすぎじゃない?」

「朝は弱いの~~」

「ええ……」

 

 ゆるふわに巻いたクリーム色の髪が特徴的な少女、シトリー・ラウンのうつろな表情にアンナ・リリエットは危機感を覚える。

 

「まあ、シトリーはともかくとしてだ。結局のところ俺達は魔王さんに挑戦する立場だ。今はほどほどに肩の力を抜いていい」

「はあ……」

「アンナくんは少し感情的すぎる。もっとほどほどを維持することを覚えるように」

「ほどほど……ですか」

 

 ソリッドの言葉は、アンナにとってはあまり響かない。

 アンナはこの大舞台で、とても緊張を解すことなどできなかった。

 しかし、その緊張感こそが原動力という自負もある。

 

(それって、ホントに悪いことなんかな)

 

 彼女は眉をひそめる。

 彼女にとっては、一分一秒がかけがえのない時間で、成長の機だった。

 

アンナは思う。

 

 ――勝ちたい相手に、並び立ちたい相手に追いつくために全力を尽くすのが正しいんじゃないの?

 

 

「別に力を抑えろと言ってる訳じゃないさ」

 

 その考えを、ソリッドは否定しない。

 むしろ尊重した上で、“育て屋”は幾戦もの経験から培った自説を述べる。

 

「理性で本能を抑えろってことよ。こりゃあね、簡単なようで難しい」

「それは……」

 

 否定できない言葉だった。

 本能のまま戦うことで、アンナはここまで駆け上がることができた。

 ただ、これより先はそうはいかないことは自身でも自覚があった。

 

「なら、どうしたら?」

「感情に任せるんじゃない、感情を支配しろ」

 

 ソリッドさんの言葉の意味は、実感を持って理解できたわけではない。

 

「ケドなんとなく……わかった気がする」

「今はそれでいい。飲み込めなくても、その葛藤こそが後に――――」

「ソリさん」

 

 ソリッドの高説を、シトリーが遮る。

 

「気持ちよく語ってるところ悪いですが、来ますよ」

「…………ああ、そうみたいだね。相変わらず速い」

「これだけは負けないと自負してますから」

 

 シトリーは風詠みの魔術を司る、【兆しの魔術師】と呼ばれる冒険者。

 その察知能力は、冒険者の中でもトップクラスに位置する。

 

 ソリッドは一瞬で鞘に手をかざし、声高に叫ぶ。

 

「ボサッとするな!」

「ウイッス!」

「は、はい……!」

 

 遅れて態勢を整えた、その瞬間――

 

 未知の脅威は、白い雲を突き抜け青空にくっきりとその姿を現す。

 それは朱が滲む、巨大な塊だった。

 

「な、に……?」

「うろたえるな……っつっても、無理な話か。正直俺も驚いてるよ」

「『魔王』は待ってるんじゃないんスか!!?」

「ああ。まさか向こうさんから来るとはね」

 

 しかも、とソリッドは続ける。

 

「うちが一番の当たりくじを引いちまったみたいだ」

 

 断言されて、三者は息を呑む。

 その相手は、最前線のパーティーしか相見えることすら不可能な存在。

 本来、挑戦することすらできない相手。

 

 ソリッドは言葉を失う三人を背後に、彼なりの活を入れる。

 

「ここでビビってちゃあ上にはいけないぜ? 俺に期待()()()()()()、お前ら!?」

 

 視線の中のヘッジとシトリーはもう既に、真剣な表情に切り替わっていた。

 アンナは焦燥を隠せなかったが、それでも唇をギリリと噛みながら、注視することをやめない。

 

 その三人の様子を横目に映して、ソリッドは思わず口角を上げる。

 

(やはり俺の目に狂いはなかった。きっと、お前たちは強くなるよ)

 

 朱の塊は落下に連れ、その速度を落としていき――。

 中空で、ピタリと静止した。

 

「止まった?」

「みたいスけど……」

「ああ。何を考えているのね。どちらにせよ、こっちからじゃ手出しできない距離で止めんのは性格が悪い」

 

 そして、唐突に変化は訪れる。

 

 ギギギギギ――

 轟音が鳴り響き、塊はギリリと湾曲していく。

 その光景を、地上にいる冒険者はただ眺めることしかできない。

 

 そうして、成り代わったそれを見てアンナはこぼす。

 

「薔薇みたい……」

 

 赤い薔薇が、四人の上空に顕現する。

 

 刹那、シトリーは感じ取る。

 死の予感が、彼女の瞼を限界まで引き上げる。

 

「みなさん! えと、たくさん! きます!」

「たくさんね、了解」

 

 その抽象的な言葉の意味は、次に明らかとなる。

 

「来るぞ、迎撃用意……ッ!!」

 

 花が――散る。

 無数の赤き花弁が、四人の元へ舞い落ちる。

 

 瞬間、ソリッドは振り返ることなく叫ぶ。

 

「こんなところで終わるなよ!? 気張れや、金の卵どもッ!」

「は、はい……っ!」

 

 ソリッドは剣で迎え撃つも、その裁く数には限度がある。

 無数の花弁は、無作為に、無慈悲に三人の命を散らさんと、その場を悠に覆い尽くした。

 

 砂煙が舞い、ソリッドの視界が曇る。

 

「あー、くそったれ! なんでそんなやる気だしてんのよ!」

 

 砂煙が舞い、周囲がまっさらな大地となる。

 

「お前たち、大丈夫か!」

 

 その声に、各々の答えが木霊する。

 三人の冒険者は、息を荒げながらもその一撃をかいくぐっていた。

 

「――中々、やるじゃないか」

 

 それを評するのは、空から現れた魔王。

 

 砕けた赤柱から姿を現すのは、真紅の長い髪を垂らす女傑。

 現在の『魔王』、その次席の座に君臨する吸血種。

 『吸血公』レイン・アルフォードが、四人の中央に降り立つ。

 

 敵地の中央においても、一切の余裕を崩さない。

 その絶対的強者を前に、ソリッドは脂汗を滲ませる。

 

「まさかアンタさんがこんな積極的に来るとはね。らしくないじゃないの」

「うるさいな。言ったろう? 今回はいいとこを見せたい相手がいるのさ」

 

 そう言うと、アルフォードはその口角を上げて告げる。 

 

 

「三分だったか?」

「……ッ!」

 

 最強の勇者に対抗するかのように、『魔王』は眼の前の相手の余命を定める。

 

「私が、お前たちに掛ける時間だ。せいぜい足掻けよ、人間?」

 

 荒れ地が、戦場へと変貌する。

 戦いの火蓋が、切って落とされた瞬間だった。

 

 ◇

 

「チッ、オレはハズレのようだな」

 

 顔を合わせた瞬間、『臥竜』――イフリート・ドラグニールは舌打ちをする。

 しかし、相対するたった一人の少女はその形相などまるで気にもとめていなかった。

 

 むしろ、彼女にとっては――

 

「ちょーどいい相手でよかったぁ」

「なんだと?」

「なんでもないでーす♡」

 

 その態度に、イフリートはピクリと眉を吊り上げる。

 

「貴様は、いつまでそれを続ける気だ」

「なんのことかなあ?」

 

 舞台の上の演技を、未だに続ける少女。

 それを前に、錆色の竜人は一転して怒りを顕にする。

 

「いいだろう小娘。貴様のその舐めた態度がいつまで続けられるか、見物だな」

「きゃあっ! こわいこわい~~」

 

 新たにS級の座を飾る竜人が、その牙を少女に向ける。

 その黒き眼光を前に、水色の少女――ネロ・マリン・アーキリアナは笑って内心をぶちまける。

 

「なーんて、ね。ま、せいぜいネロの良い餌になってね。こわいこわい竜人さんっ?」

 

 こうして、第二の火種が投下され。

 歪な戦場は、ここに誕生したのだった。

 

 ◇

 

 最も下の線上に位置する『魔王』――リュミエル・ピーターは遠目にやってくる冒険者を捉える。

 

 そして、黒い翼を携えるハーピーはゆっくりと、深く息を吐く。

 

「やれ、やるんだ。覚悟を決めろ――リュミエル・ピーター」

 

 幕が上がるのを前に、堕天使はそうこぼしたのだった。

 

 

 

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