魔族の玉座は空いている~魔王(予定)のわたしは、最強の勇者を倒すために彼女と同盟を結びます~ 作:ふく神漬
身長を悠に超える白い翼は、まさに『大翼』と呼ばれるに値する。
ハーピーの女王は、天空からその冒険者を見下ろす。
そして、対峙するのは紺碧のなだらかな髪を持つ人間。
彼女は妖艶に笑いながら、その偶然に祝福を送る。
「また、お会いしましたね」
直近にぶつかった人間と『魔王』――イリス・リワール率いるパーティー『常磐の空』と『大翼』ラフタルが、再びその舞台で巡り合う。
「落としてやるよ、前みたいになあ!」
イリスの背後にいる男――次子であるアレフレッド・リワールは上空へと唾を吐く。
「…………」
結果は、『大翼』の大敗。
一人を除いて、ほぼ無傷での勝利となった。
その功績を以て得意げに叫ぶアレフレッドに、並び立つ金色の髪をなびかせる人間が釘を刺す。
「調子に乗らないの、アレフレッド。すべては姉さまのおかげなんだから」
間に入るのは、“獄炎”の『勇者』の片割れにしてリワール家の末子――ルピア・リワール。
そんな妹に、アレフレッドは侮蔑の眼差しを向ける。
「うるせえよ、負け犬が」
「……なんですって」
二人の不和に、長女であるイリスは貼り付けた笑みを崩すと向き直る。
「黙りなさい」
眉一つ動かさずに放たれた冷え切った声は、二人の反論を許さない。
イリスが前方へと視線を移すとそこには既に、冷ややかな笑みが貼り付いていた。
「非礼な言動は、リワール家を代表してお詫びしますわ」
「礼儀正しいのね。少しくらいかわいげがあってもいいんじゃない?」
「そういうわけにはいきません。一人の不足は三人で補う。そして一人の非礼は、私たち全員の責任ですから」
歪な縁の形を目にして、ラフタルは言いしれぬ不快感を覚える。
だが、ハーピーの女王はそれを意に介さない。
人間の事情など、彼女の強さを揺るがす要素にはなり得ないのだから。
「ふうん。まあどうでもいいわ。それに今から、私も非礼を働くことになるだろうから」
「それはいったい?」
「すぐにわかることよ」
ラフタルはアレフレッドに焦点を当て、その瞳孔を開く。
「危ないわよ?」
「何を――」
直後、光の柱が地上に立つ。
それは――上ではなく下からの刺客。
白い羽の瞬光が、三人の足元から立ち上がる。
「さあ――」
『大翼』の白い羽は、主である彼女の元へと舞い戻る。
「……は?」
アレフレッドが意識を取り戻すのと同時、彼は気づく。
自身の腕が、青い粒子となって消えていくことに。
「あ……ああ!? 俺の、俺の腕……っ!」
くすりと、『魔王』としての喜びで身を震わせながら、ラフタルは宣告する。
「始めましょう。今回は私も、思い切り羽目を外させてもらうから」
◆◆◆
「よしっ」
男は、自分たちの相手を見てガッツポーズをする。
そのリーダーであるダルタスは、焦っていた。
彼らはS級の迷宮を踏破して、S級のパーティーとして認められている。
それは揺るぎない事実であり、 正真正銘の最前線の一端に位置していた。
しかし、その輝かしき日々は長くは続かない。
S級として挑戦する迷宮は、彼らの足跡を阻んだ。
一度崩れ始めた流れは、止まらなかった。
いつの間にか、彼らは崖っぷちに追い込まれていた。
S級のパーティーは、その実力を証明できなければ資格を剥奪される。
滅多なことではない。
人間にとって有利に作られたルールの中で、そこまで落ちてしまったのだ。
四人いたパーティーは、いつの間にか三人に減っていた。
もう、手段を選んでいられなかった。
故に、この大舞台に挑戦することを選択した。
だが、その場にいる冒険者たちは彼らとは違った。
絶対的な自信、前を向いたその姿にダルタスは呑まれてしまった。
・なんでこの舞台にいるの?
・なんかいたなー
・パンチが弱すぎる
・もっといいパーティーいただろ
・S級の恥
今の彼らに押されたのは、そんな烙印の数々。
だからこそ、目の前の相手を見て口角を上げる。
メンバーの一人であるリゲルが、ダルタスの背中を叩く。
「いくぞダルタス」
「ああ、リゲル。式典での汚名は、ここでしっかり返上させてもらう」
もう一人のメンバー、ブレンダは訝しむような視線を向ける。
「わかってるのダルタス? 私たちには後がない、ここで負けたら終わりよ?」
「だから! わかってるに決まってるだろッ!!!」
声を荒げるダルタスに、ブレンダは縮こまる。
「……そう、よね。ごめんなさい」
「チッ。お前がそんな弱気だから、勝てる戦いを逃すんだよ!」
「おいダルタス。言い過ぎだ」
仲が良かった四人は三人となり、負けが続くに連れ、彼らの距離は離れていった。
ダルタスは気を取り直して、パーティーを取りまとめる。
「すまん、言い過ぎた。ただ今回は順当にやれば勝てる戦いだ。あの気取ったハーピーを、しっかり落としてやろう」
◇
数合わせ。
人気取りしか考えてない。
口だけの道化。
どれも正解で、リュミエルはそんな自分のあり方を自覚していた。
パフォーマンスをメインにした昨今の流行――言い換えれば、実力で勝負することではなく、人気を得ることに舵を切った。
自分のやり方に、疑問を抱かなかった日は少なくない。
いや、いつも考えていた。
(僕のやり方は……卑怯だよな)
本当の自分は、虚ろで空っぽな存在だとわかっていた。
それでも、このやり方は最強の勇者を擁する人間に対し、窮地に立たされた魔族の状況を打破するために捻り出したもの、そうだったはずだ。
だから、エンタメ性に富んだ造りにした。
劇的《ドラマチック》な演出と、それに合わせた"堕天使"という役を演じきる。
そうすることで、迷宮の幅を広げる間口は広がった。
魔族と人間の融和に、一役買ったはずだった。
(そんなの全て、言い訳だ)
不甲斐ない自分の実力を隠すために、楽な道を選んだだけ。
――くだらんな、お前のやり方は。
そう言い放った、腐れ縁の竜人は新たなS級の座を勝ち取った。
正当な道を進み、その座を勝ち取ったのだ。
冒険者が、リュミエルを捉える。
戦いが、すぐそこまで迫っていた。
「――それでも、無駄じゃなかった」
それが、実を結んだのだから。
機会を、与えてもらったのだから。
(僕のことを、当たりだと思えばいい。舐め腐ればいい)
人気取りだけの『魔王』。
この場に相応しくない、かませだと思えばいい。
何一つ、間違ってない。
それでも、積み上げてきたものはある。
応援してくれる魔族も、人間も。
糧にして、目の前の敵に臨むと決めた。
「だから、勝ってみせるさ」
命運をかける冒険者。
全てを背負って、迎え撃つ黒き翼を持つ『魔王』。
対極にいる両者が、今ここに激突する。