魔族の玉座は空いている~魔王(予定)のわたしは、最強の勇者を倒すために彼女と同盟を結びます~   作:ふく神漬

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44 百花散乱②

 

 

 身長を悠に超える白い翼は、まさに『大翼』と呼ばれるに値する。

 ハーピーの女王は、天空からその冒険者を見下ろす。

 

 そして、対峙するのは紺碧のなだらかな髪を持つ人間。

 彼女は妖艶に笑いながら、その偶然に祝福を送る。

 

「また、お会いしましたね」

 

 直近にぶつかった人間と『魔王』――イリス・リワール率いるパーティー『常磐の空』と『大翼』ラフタルが、再びその舞台で巡り合う。

 

「落としてやるよ、前みたいになあ!」

 

 イリスの背後にいる男――次子であるアレフレッド・リワールは上空へと唾を吐く。

 

「…………」

 

 結果は、『大翼』の大敗。

 一人を除いて、ほぼ無傷での勝利となった。

 

 その功績を以て得意げに叫ぶアレフレッドに、並び立つ金色の髪をなびかせる人間が釘を刺す。

 

「調子に乗らないの、アレフレッド。すべては姉さまのおかげなんだから」

 

 間に入るのは、“獄炎”の『勇者』の片割れにしてリワール家の末子――ルピア・リワール。

 そんな妹に、アレフレッドは侮蔑の眼差しを向ける。

 

「うるせえよ、負け犬が」

「……なんですって」

 

 二人の不和に、長女であるイリスは貼り付けた笑みを崩すと向き直る。

 

「黙りなさい」

 

 

 眉一つ動かさずに放たれた冷え切った声は、二人の反論を許さない。

 イリスが前方へと視線を移すとそこには既に、冷ややかな笑みが貼り付いていた。

 

「非礼な言動は、リワール家を代表してお詫びしますわ」

「礼儀正しいのね。少しくらいかわいげがあってもいいんじゃない?」

「そういうわけにはいきません。一人の不足は三人で補う。そして一人の非礼は、私たち全員の責任ですから」

 

 歪な縁の形を目にして、ラフタルは言いしれぬ不快感を覚える。

 だが、ハーピーの女王はそれを意に介さない。

 人間の事情など、彼女の強さを揺るがす要素にはなり得ないのだから。

 

「ふうん。まあどうでもいいわ。それに今から、私も非礼を働くことになるだろうから」

「それはいったい?」

「すぐにわかることよ」

 

 ラフタルはアレフレッドに焦点を当て、その瞳孔を開く。

 

「危ないわよ?」

「何を――」

 

 直後、光の柱が地上に立つ。

 それは――上ではなく下からの刺客。

 白い羽の瞬光が、三人の足元から立ち上がる。

 

「さあ――」

 

 『大翼』の白い羽は、主である彼女の元へと舞い戻る。

 

「……は?」

 

 アレフレッドが意識を取り戻すのと同時、彼は気づく。

 自身の腕が、青い粒子となって消えていくことに。

 

「あ……ああ!? 俺の、俺の腕……っ!」

 

 くすりと、『魔王』としての喜びで身を震わせながら、ラフタルは宣告する。

 

「始めましょう。今回は私も、思い切り羽目を外させてもらうから」

 

 

 ◆◆◆

 

 

「よしっ」

 

 男は、自分たちの相手を見てガッツポーズをする。

 

 

 式典(セレモニー)で言葉を発することができなかったパーティー。

 そのリーダーであるダルタスは、焦っていた。

 

 彼らはS級の迷宮を踏破して、S級のパーティーとして認められている。

 それは揺るぎない事実であり、 正真正銘の最前線の一端に位置していた。

 

 しかし、その輝かしき日々は長くは続かない。

 S級として挑戦する迷宮は、彼らの足跡を阻んだ。

 一度崩れ始めた流れは、止まらなかった。

 

 いつの間にか、彼らは崖っぷちに追い込まれていた。

 S級のパーティーは、その実力を証明できなければ資格を剥奪される。

 

 滅多なことではない。

 人間にとって有利に作られたルールの中で、そこまで落ちてしまったのだ。

 四人いたパーティーは、いつの間にか三人に減っていた。

 もう、手段を選んでいられなかった。

 

 故に、この大舞台に挑戦することを選択した。

 だが、その場にいる冒険者たちは彼らとは違った。

 絶対的な自信、前を向いたその姿にダルタスは呑まれてしまった。

 

 ・なんでこの舞台にいるの?

 ・なんかいたなー

 ・パンチが弱すぎる

 ・もっといいパーティーいただろ

 ・S級の恥

 

 今の彼らに押されたのは、そんな烙印の数々。

 だからこそ、目の前の相手を見て口角を上げる。

 

 メンバーの一人であるリゲルが、ダルタスの背中を叩く。

 

「いくぞダルタス」

「ああ、リゲル。式典での汚名は、ここでしっかり返上させてもらう」

 

 もう一人のメンバー、ブレンダは訝しむような視線を向ける。

 

「わかってるのダルタス? 私たちには後がない、ここで負けたら終わりよ?」

「だから! わかってるに決まってるだろッ!!!」

 

 声を荒げるダルタスに、ブレンダは縮こまる。

「……そう、よね。ごめんなさい」

「チッ。お前がそんな弱気だから、勝てる戦いを逃すんだよ!」

「おいダルタス。言い過ぎだ」

 

 仲が良かった四人は三人となり、負けが続くに連れ、彼らの距離は離れていった。

 ダルタスは気を取り直して、パーティーを取りまとめる。

 

「すまん、言い過ぎた。ただ今回は順当にやれば勝てる戦いだ。あの気取ったハーピーを、しっかり落としてやろう」

 

 

 ◇

 

 

 数合わせ。

 人気取りしか考えてない。

 口だけの道化。

 

 どれも正解で、リュミエルはそんな自分のあり方を自覚していた。

 

 パフォーマンスをメインにした昨今の流行――言い換えれば、実力で勝負することではなく、人気を得ることに舵を切った。

 自分のやり方に、疑問を抱かなかった日は少なくない。

 いや、いつも考えていた。

 

(僕のやり方は……卑怯だよな)

 

 本当の自分は、虚ろで空っぽな存在だとわかっていた。

 

 それでも、このやり方は最強の勇者を擁する人間に対し、窮地に立たされた魔族の状況を打破するために捻り出したもの、そうだったはずだ。

 

 だから、エンタメ性に富んだ造りにした。

 劇的《ドラマチック》な演出と、それに合わせた"堕天使"という役を演じきる。

 

 そうすることで、迷宮の幅を広げる間口は広がった。

 魔族と人間の融和に、一役買ったはずだった。

 

(そんなの全て、言い訳だ)

 

 不甲斐ない自分の実力を隠すために、楽な道を選んだだけ。

 

 ――くだらんな、お前のやり方は。

 そう言い放った、腐れ縁の竜人は新たなS級の座を勝ち取った。

 正当な道を進み、その座を勝ち取ったのだ。

 

 冒険者が、リュミエルを捉える。

 戦いが、すぐそこまで迫っていた。

 

 

「――それでも、無駄じゃなかった」

 

 それが、実を結んだのだから。

 機会を、与えてもらったのだから。

 

 

(僕のことを、当たりだと思えばいい。舐め腐ればいい)

 

 人気取りだけの『魔王』。

 この場に相応しくない、かませだと思えばいい。

 

 何一つ、間違ってない。

 それでも、積み上げてきたものはある。

 

 応援してくれる魔族も、人間も。

 糧にして、目の前の敵に臨むと決めた。

 

「だから、勝ってみせるさ」

 

 命運をかける冒険者。

 全てを背負って、迎え撃つ黒き翼を持つ『魔王』。

 

 対極にいる両者が、今ここに激突する。

 

 

 

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