星雲からの使者   作:完全にわかのバカ野郎

33 / 64
 ナザリックにおいて最大の慈悲とは苦痛なく死ぬ事である。


三十三話

「ッ! 流水加速! 超回避!!」

 

 本来は攻撃に使う武技『流水加速』を使い、神経を一時的に加速させた状態から『超回避』で、あり得ない体勢からブリュンスタッドの手振るいをギリギリで避ける事に成功した。

 この行動は本能、或いは直感からくる行動だった。

 ━

「……これまた面白い動きをするね、それも武技かい? 武技とは何とも不思議なモノだ」

「(コイツ……コイツはただ手を振っただけで地面を抉り(・・・・・)やがった!! 武技ですらない、それどころか攻撃ですらない手を振るだけで。避けて無かったら今頃………どうするこっちの攻撃は届かない、逃げるか)」

「んー……このままだとワンサイドゲームだね。君の攻撃は()には届かない、それは当然だ、何せそういったスキルを使っているからね。

 だから……そのスキルをオフにしよう、そうすれば君の攻撃が()に届く様になる。()としてもこのままでは愉しくないからね。

 後は……そうだね。君に魔法をかけてあげよう、そうすれば少しの間は愉しめるだろうからね。

 魔法四重化(クアトロマジック)惜別の涙(ラクリマエ・ヴァレ)上位・(グレーター・)封印(マジック)魔法(シール)魔法四重化(クアトロマジック)中回復(メディウム・レクペラティオ)対象指定(ターゲティング)『クレマンティーヌ』。

 これで、心置きなく君を4回殺せるよ」

 

 ブリュンスタッドは敵であるクレマンティーヌに2つの魔法をかける。楽に殺さないために(・・・・・・・・・)

 ━

「(………マジで魔法かけやがった。でも今の魔法は聞いたことがねぇ、弱体化(デバフ)か?)」

 

 クレマンティーヌは自身の体を軽く動かし掛けられた魔法がどの様なモノか確認する。

 ━

「(どこもおかしくない、なら何の魔法をかけた?)」

「あぁ、弱体化(デバフ)だと思ったのかい。安心するといい、君にマイナスな事はしていない。

 それどころかその逆だ、君にかけた魔法は回復魔法の類いだ」

「……何でンなもんかけた」

「理由? そんな事決まっているだろう。君を、楽に殺さないためだよ。

 言ったろう、楽には殺さない、と」

「てめえ……マジで巫山戯ンじゃねぇよ! カスが!! 能力向上! 能力超向上!! 死ねよてめえ!! 流水加速!」

 

 先程同様、瞬く間に接近しスティレットをブリュンスタッドの首めがけ突き刺す。

 すると……今度は止まる事なく突き刺さる。

 ━

「! (刺さった!!)死ねよてめぇ!」

 

 スティレットに籠められていた魔法、(ファイヤー)(ボール)を発動させる。

 ━

「アハハハハハ!! イキがってっからこうなるンだよバカが!」

 

 首元で炸裂する火球(ファイヤーボール)が起こした煙が収まると目を疑う光景がソコにはあった。

 ━

「成る程、中々に面白い武器だね、ソレ」

 

 スティレットは首を貫通し中から火球が炸裂したにも関わらず、首は繋がっており燃えた痕跡すら無かった。

 ━

「それで? その次は?」

「はぁ!? (何だよコイツ……刺さって……イヤ、確かに刺した。

 肉を貫く感触もあった、だから火球を使っ(リリースし)た。なのにコイツ……何で無傷なんだよ!!)」

「無いのかい? となると……今のが君の奥の手、と思っていいのかな?」

「ッ!」

 

 背筋を走る怖気を感じ、すぐさま後方へ大きく飛び退く。するとーー

 

空間が膨張し破裂した

 

「ーー!」

 

 カハッと、肺から空気が漏れだしながら転がる。

 ━

「(はぁはぁはぁ……今、何……何が起きた? 何かが破裂した。魔法?)」

「……この程度なのかい? 君は人外なんだろう? もっと魅せてよ、この程度だと面白くない。

 もっと()を愉しませてくれないか。じゃないと……殺すよ」

「ッ! ……ザッッけんなよクソがぁ!! はぁはぁ、私は、私は人外!! 英雄の領域に足を踏み込んだクレマンティーヌ様なんだよ!! この私が負けるはずがねぇんだよ!」

「そうか、なら先ず1度……死ぬといい」

空想具現化・劣(インフェリオール・マーブル・ファンタズム)

 

 ━━━━━━━━━━━━

 職業(クラス)月の元型(アーキタイプ:ムーン)のスキルはアクティブ・パッシブ含め5つしか無く、その内の1つが『空想具現化・劣』。

 ユグドラシル時代のフレーバーテキストでは『空想を『限定的』に具現化・指定範囲内を『限定的』な確率変動による世界の再構築』。

 このブリュンスタッドは弱体化している(元型な)ため本来のスキルとは違い『限定的』が追加されて書かれている。

 そして、実際のスキル効果は『物理・魔法耐性貫通攻撃と防御力無視攻撃、そして無敵状態貫通攻撃』と言うスキルだった。

 ユグドラシル時代でも反則スキルだったが、この世界に来てフレーバーテキストが意味を持つようになった事で、フレーバーテキスト通りの攻撃となった。

 ━━━━━━━━━━━━

 

「あ?」

 

 その結果が一瞬でクレマンティーヌは次々と切り刻まれる感覚と共に微塵切りになり死んだ……筈が、体に異常は無く生きていた。

 ━

「あ……カハッ

分割解放(ディヴィジョン・リリース)

 

 その言葉と共にクレマンティーヌの体力(HP)は回復する。

 ━

「はぁ……はぁはぁ。ぁ……あぁ、今、今体。体が……ぁ?」

「これで1回、君は死んだ」

「あ、ぁぁ……。アァアアァア!! し、死ねぇぇえ」

 

 乱暴に突き刺す、何も考えずただただ突き刺す。そして刺す度に血が吹き出すが、ソコには傷が無い

 ━

「何で、何でだよぉ。死ねよてめえ!」

「それだけかい? はぁ、煩わしい」

 

 羽虫を払う様にまた、手を振るう。たが、ブリュンスタッドにすれば、ソレだけで充分。その行為だけで世界(・・)を抉る一振となる。

 であれば人間ならどうなるか……世界が抉れればソコにいる人間も抉られる。

 ━

「ぁーー」

 

 だが、やはりクレマンティーヌは無傷で佇んでいた。

 ━

「から……だ。……は? ……うぐぁ」

 

 2度の死の記憶力と経験に胃から酸っぱい液体が込み上げ、吐き出される。

 ━

「は、は、は、は……」

 

 これ程の蹂躙をしていても今の彼は弱い。今の彼は本来の彼から何段階もスケールダウンした種族と職業(クラス)

 それでも世界(WE)に匹敵する存在で、今は使っていないが彼には世界の守りに匹敵(・・・・・・・・)する防御障壁も有している。それがブリュンスタッドと言うプレイヤー。

 その絶対的な強さから、国を傾けそうな程の美しさから、ユグドラシル時代の彼にはファンクラブが出来る程のプレイヤーでもあった。

 最も、もう1つの方は嫌われていたが。

 ━

分割解放(ディヴィジョン・リリース)

 これで、2回目。クレマンティーヌ。

 次はどう戦う英雄。後2回、どうやって()に立ち向かうか……魅せてくれるかい」

 

 クレマンティーヌが取った行動はーーー『逃げる』だった。

 いくら彼女でも理解出来ていた。1回だけなら勘違いと誤魔化せる、しかし2回目ともなれば違う。『今、確かに自分は死んだ』そう魂に刻み込まれる。故の逃走、なりふり構わない逃走。

 今すぐ此処から立ち去らねばまた死ぬと言う現実、だから彼女は逃げようとした。

 しかし、気がつけば足は無くなっていた(・・・・・・・)

 ━

「あぁあぁあぁあ!!!」

「逃げるなよ英雄、みっともない。強大な敵に立ち向かってこその英雄だろう? 

 ()は知っている、その様な男を。彼はまさしく英雄だ、君より弱くとも紛れもない英雄だ。

 そんな彼を差し置いて人外を、英雄を名乗るなど……度し難い、許し難い。

 何が英雄か何が人外か、貴様はただ癇癪を起こした子供だ。

 ()は君達人類(生命体)を愛している、だからその癇癪を直そうか。次は腕だ」

 

 その言葉と共に片腕が潰れた。

 ━

「いっ……あぁあぁあぁあ!! 腕、腕が……ひっ、ひは、ああ、イヤ、ぁ」

 

 残った腕で体を引き摺り少しでもブリュンスタッドから離れようとする。

 ━

「では、3回目だ」

 

 クレマンティーヌを囲む空間が圧縮し骨が軋む音をだしながら圧し潰れる。

 しかし、また五体満足な体で復活する。

 ━

分割解放(ディヴィジョン・リリース)

 さあクレマンティーヌ、これで治った。次で最後だ。()に何を魅せてくれる。

 あぁそうだ。()をこの円の外に出したら君の勝ちだ、褒美をあげよう。

 君では手が届かない程の褒美をだ」

 

 そう言いながら自身を囲むように2・3歩程で出てしまう小さな円を描いた。

 ━

「はぁはぁはぁ……。(褒美? そんな物なんかいらない。

 此処から逃げられるなら、褒美なんかいらない……でも、もし出せたらアイツを……)マジでくれんだな」

「ああ、勿論だとも。()は嘘を言わない。やる気が出たかな?」

「…………やってやんよ、ふぅふぅ……。私を舐めんじゃねぇよ。

 私は、私はな! ……私は人外!! 英雄の領域に足を踏み込んでんだよ!! この私が負けるはずがねぇんだよ! ぁあああアアア!!」

 

 左手にスティレット、右手にモーニングスターを持ち、武技『能力向上』『能力超向上』、そして『疾風走破』を使い一矢報いんとブリュンスタッドに襲いかかる。

 ━

「そう、そうだ。それでいい、()人類(生命体)の、君の輝きを魅せてくれ」

 

 左手のスティレットを右目に突き刺し、籠められていた雷撃(ライトニング)を解放し、すぐさま武技『流水加速』を使い神経を一時的に加速させ、ブリュンスタッドの一挙手一投足を見逃さんと意識を集中させた。

 その時、彼女に神が微笑んだ。3度の死を経験した事で彼女の脳は限界を超えた。

 新たな武技『脳力解放』をこの土壇場で習得そして使用。

 更にもう1つ、武技を習得した。それは殴打系武技の『剛撃強殴(ごうげきごうおう)』。

 モーニングスターは普段は使わない為、殴打系武技を習得した事に驚きつつも、即座に武技を使いモーニングスターを叩き込む。

 そして……その一撃はブリュンスタッドを満足させるのに充分なモノだった。

 ━

「ああーー素晴らしい。君は今、輝きを魅せてくれた」

 

 だがそれでも、ブリュンスタッドを円の外に押し出す事は出来なかった。

 ━

「故にこれは慈悲だ」

 

 最後の死は苦痛の無い死を与えた。

 ━

「……あれ……今、私は……」

分割解放(ディヴィジョン・リリース)

 ……我々ナザリックにおいて最大の慈悲とは苦痛なく死ぬ事だ。

 だから最後の1回は慈悲を以て君を殺した。やはり君達人類(生命体)の可能性は素晴らしい」

 

 都合3度、最初の死を含めれば4度。この短時間でクレマンティーヌは4度死んだ。

 否、死ぬ前に惜別の涙(ラクリマエ・ヴァレ)が発動・復活し、(ター)象指定(ゲティング)した上位(グレーター)封印魔法(マジックシール)中回復(メディウム・レクペラティオ)分割解放(ディヴィジョン・リリース)して回復させ、また死ぬ(殺す)。それを4度繰り返した。

 だが、最後の死は慈悲ある死だった。

 ━

 

 ━━

 

 ━━━━

 

「(今、確かに死んだ。それは分かった。でも今までのモノより痛くも苦しくも無かった。

 それどころか、気持ち良くすらあった、何かに包み込まれる様な感じがした)」

「安心するといい、これ以上は殺さない。君は()に魅せてくれた、故に殺さない。

 これは提案だが、クレマンティーヌ。()について来なさい」

「何でだよ」

「褒美さ」

「アンタは円から出ていない」

 

 そう彼は円から出す事は出来ていない。だから条件を達していない。しかし、ブリュンスタッドは褒美を与えると言った。

 ━

「ああ、そうだとも。だが、それはなし得ない事だ。

 君と()とでは立つ領域が違う、君が何をしても出す事は初めから不可能だ」

 

 事実、どれ程弱体化していても現地人ではブリュンスタッド(オルト)を倒す事はおろか、一歩でも動かす事は不可能だ。

 だがクレマンティーヌはーー

 ━

「(悔しいがその通りだ、コイツは私より強い。それこそ番外席次以上だ)」

「だが、君はその不可能を少しだが成して魅せた。この()半歩(・・)とはいえど動かした。

 その褒美だよ。それは君に可能性が有るからだ。今より更に強くなる可能性が」

 

 クレマンティーヌは半歩(・・)動かして魅せた。不可能を僅かに成して魅せた。故にブリュンスタッドは彼女に人類(生命体)の輝きを見た。

 ━

「は? 何言ってんのお前」

「純然たる事実だよ。君は強くなれる、なりたくないのかい? 今より更に強く」

 ああ、人類(生命体)とは何とも素晴らしいのか。あの輝きこそ人類(生命体)の可能性。やはり人類(生命体)は進化し続ける。

 

「(強……く? 今より更に? コイツは何言ってんだ)」

 それに、もう1人程サンプルが欲しいところだったからね、丁度いい。

 

「マジで言ってんのかよ」

「大マジだとも、君は強くなれる。この()が保証しよう。

 その為には()の元にくる必要が有る。だからクレマンティーヌ、()の元に来なさい。

 今より強く、誰よりも強くなる為に」

「誰よりも……強く…………アンタん所行けば強くなれんだな」

「ああ」

「ハッ、なら行ってやろうじゃない。(コイツに付いていってあの男より)」

 

 逡巡すらなくブリュンスタッドの提案(褒美)に答える。

 ━

「話しは決まったね。

 転移門(ゲート)、これを通りなさい()エリア(小世界)に行ける。その後は……そうだな、伝言(メッセージ)

 

 自身か造ったNPC・レオナルド・ダ・ヴィンチに伝言(メッセージ)を送る。

 ━

「〖レオナルド〗」

「〖おや、私に伝言(メッセージ)を寄越すとは、また珍しい事もあるものだな〗」

「〖今は君しかマトモな子が居ないからね〗」

「〖何だ、またぞろ人間を拾ったか。人間は犬猫では無いというに〗」

「〖これも大事な活動さレオナルド〗」

「〖それで? 私に面倒を見ろと言うのかね〗」

「〖暫くの間ね、頼むよレオナルド〗」

「〖はぁ、仕方ないの、頼まれよう〗」

「〖助かるよレオナルド。それじゃあ今から行かせるから〗」

「〖あい分かった、ではの〗」

「〖あぁ、また近い内にね〗」

「クレマンティーヌ、門を通った先に老人がいる。その老人に従いなさい」

「はいはい」

 

 そう言い残すと転移門(ゲート)を通りオルト(ブリュンスタッド)エリ(小世)()へと行く。

 ━

「彼女はどこまで強くなれるのか、愉しみだ。

 …………問題は誰を宛がうのかだ、コキュートスが良いか? 考えておこうか。

 さて、と。モモンガくんの所に行くとするか、彼も終わっているだろうしね」




 こんな蹂躙劇をしてますが月の元型(アーキタイプ:ムーン)なので大幅に弱体化されています。それでも強いブリュンスタッドさん。
 朱い月なんだからこれくらい強くても良いでしょ。

 分割解放(ディヴィジョン・リリース)は捏造です。
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。