満月の夜に彷徨う1つの影。ゆらゆらと揺れるそれはまるで亡霊の様で暗い夜道を不気味に彷徨っていた。
「………あっ……」ドサッ
亡霊はまともに見えなかった足元の木の枝に躓き受け身も取れず地面に倒れ伏してしまう。。再び立ちあがろうと腕に力を入れるが、疲労困憊している
「だれ……か………、た……………………い」
途切れ途切れの言葉を発する亡霊だったが、次第にぴくりとも動かなくなった。タイミングを伺った様に雲に隠れていた月光が辺りを照らす。月光が丁度亡霊に照らしたその時、亡霊の全身を水色の輝きが埋め尽くした。水色の輝きは10秒もすれば止んだが、そこには既に亡霊は跡形もなく消え去っていた。
海鳴第一高等学校。ここにある不良生徒が通っていた。不良生徒は今日も元気に河原で他校の生徒と運動に励んでいる。
「死ねぇ黒崎ィ!!」
「今日こそてめぇの命日だぁ!!」
複数人の相手に囲まれる派手なオレンジ髪をした青年、黒崎一護。産まれながらに派手な地毛のせいで目に付けられる彼は今日もこうして他校の生徒と交流に励んでいるというわけだ。
「ハッハッハッ!!後ろがガラ空きなんじゃボケェッ!!」
「ギャーギャーうるせェ!!なんで自分の居場所バラすんだ馬鹿かお前はっ!!」
「へぶらっ⁉︎」バキッ
後方にバットを振り上げていた唇ピアスの男を後ろ蹴りで顎に一撃喰らわせた一護。ものの見事に入った蹴りに一撃でノックアウトしたソレを見た仲間達は怯み攻撃の手が止まる。一護はノックアウトさせた男のポケットを探り、目当てのものを見つけ出す。
「お、あった」ヒョイ
一護が男から奪い取ったはスマホだった。一護は男のスマホを操作し、緊急SOSへ連絡、求むは救急車
「すいません、救急車お願いします。場所は海鳴市藤見町3丁目、海鳴大橋の下の河原です。台数は──」
一護は確認の為、元気なお友達の方を指差し始めた。
「1、2、3、4、5…5台」
「ッ⁉︎てめぇ!!」
そう言ってスマホをポイ投げした一護はお開きにしようと5人への挨拶(物理)を済ませその場を後にした。
「毎度毎度よく懲りないなぁアイツら」
1人文句を垂れながら家路を歩いていた一護。中学生の頃から不良に目をつけられその度に律儀に返り討ちにして来た結果、『馬芝中の黒崎』と不良の間では有名人となってしまい、実力試しや仇討ちと事あるごとに喧嘩を売られる様になってしまった。
「あっ!一護さーんっ!」
そんな不良の畏怖の対象である一護に声を掛ける可愛らしい少女が1人。
「お、なのはじゃねーか」
高町なのはである。現在小学3年生である彼女とは7歳差なのだが、出会いは偶然だった。
数年前に彼女の父親が大怪我を負った際、父親が町医者を営んでいる一護の家『黒崎医院』に運ばれた事があるのだ。と言っても怪我の状態は酷く、応急処置だけを済ませて直ぐに大きな病院に移転させたのだが、その数日後に公園のブランコに1人座る彼女を見つけたのだ。自身も母を亡くした過去を持ち、彼女と歳の近い妹を持つ身として放っておけず声を掛けた一護。初めは警戒された一護だったが、自分の境遇を話したり、寂しそうにする彼女と遊んであげていたら、彼女の父親が退院する頃にはすっかり懐かれていた。
だがそれも『なのは』単体の話である。彼女の友達からしたら、歳の離れた男の人、それも髪を染めた怖い人にしか見えないだろう。
「なのは、何よあの人!完全にヤンキーじゃない!なんでそんな人となのはが知り合いなのよ!」
「えー、一護さんは確かに見た目は怖いけど、とっても優しい人だよ」
「そうだよアリサちゃん、人を見かけで判断しちゃ駄目だよ」
「すずかだってあの人見て怖がってたじゃない」
「た、確かにそうだけど……」
まぁ一護に聞こえない様小声で話す彼女達だが、目の前にいてはそれは意味がないわけで全て丸聞こえである。だが同級生からですら怖がられるのだから彼女達に怖がられるのはしょうがない事である。それよりも一護はある事が気になって2人の少女に声をかける。
「ちょっといいか?お前達なのはの友達か?」
「そうだよ!こっちの金髪の子がアリサちゃんで、紫髪の子がすずかちゃん」
「月村すずかです。初めまして」
「ちょっ、すずか!?……あぁもう!アリサ・バニングス!言っとくけど、私の友達を怖がらせたりしたらただじゃおかないんだから!」
「ちょっと!アリサちゃん!」
「失礼だよアリサちゃん」
自分の尊敬する人に失礼な態度を取るアリサに怒るなのはと、怖そうな人に啖呵を切るアリサに危なっかしくて狼狽えるすずか。だが一護はそんなアリサの存在を嬉しく思った。
「ははっ!そうか、なのは友達か!」
「なによ!おかしい?」
「いや、おかしくねーさ」
そういうと一護はしゃがみ込み彼女達と同じ目線になって話した。
「なのはの事よろしく頼むな。こいつ寂しがり屋だからいっぱい遊びに誘ってやってくれ」
「もうっ!一護さんっ!!」
「そんなの、言われるまでもないわよ」
「そっか、なら頼むな」
一護はそう言って3人に手を振り去っていく。一護に揶揄われ顔を赤くするなのはだったが、どこか嬉しそうな表情を浮かべていた。アリサもまだ一護の事を信用して訳じゃないが、なのはが言う様に悪いやつではないのかなと思う様になった。
なのはにあんな良い友達がいた事に嬉しくなっていた一護だが、そんな気持ちを吹っ飛ばす様にある事が聞こえて来た。
『…誰……か………』
「ッ⁉︎今の声は……」
突然の事に歩を止める。今のは普通の声ではなかった。よく分からないが、まるで脳内に直接語りかけてきた様に感じた。初めての経験に戸惑う一護に再び先程の声が聞こえてきた。
『…助けて!』
「ッ⁉︎くそっ!」
それは先程よりもハッキリした声だった。この声の主が何者かは分からないが、誰かが助けを求めている。それだけで身体が勝手に走り出した。
「ちくしょう!どこだっ⁉︎」
当てもなく走る回る一護。当然だ、普通なら声がする方に行けば済むのだが、そんな常識は通用しない。どこを探しても聞こえる声の大きさは変わらない。ここままでは一生見つけられそうにない状況に悪態をつく。
「助けてもらいたいなら場所ぐらい教えろよ」
そんな愚痴を聞き届けたかの様に一護の脳内にある風景か浮かび上がる。それは木々に囲まれた風景に一匹の汚れた子猫が力無く倒れている風景だった。
「これは………、驚いてても仕方ねぇ、この近くでこんなに木々に覆われてる場所といえばっ!」
自分の記憶が確かなら、あの風景は近くの藤見広場だ。ボートを漕ぐ事も出来るデートスポットとしても有名藤見広場は池の周りは沢山木々に覆われている。身近な所だとあそこしかない。そう思い広場まで走る。
「ここかっ!?いるなら返事しろっ!」
広場に着いた一護は叫び声の主を探す。
『ここですっ!』
「どこだ?どこにいやがる⁉︎」
声は聞こえるが、助けを所望している様な人は見当たらない。声は聞こえるのに姿が見えない現状に苛立ちを覚える。
「だからどこにいやがる!返事をしろ!」
一護の叫びに驚き周囲の鳩が飛び去っていく。そんな時、一護の足元に何者かが触った感触があった。
ニャー
「なんだ?……ただの猫か。悪いな、今人を探してるんだ。それにしてもずいぶん汚れた猫だな」
自身の足元に寄りかかる子猫を持ち上げた一護。そんな彼にまたあの声がした。
『やっと、見つけた……』
「はっ?」
やっと見つけたと意味不明な事を言い残し声は聞こえなくなった。まだこちらは誰も見つけていないというのにどういう事だろうか。だが、1つだけ気になる事がある。とても奇妙で絶対にあり得ない筈の事が。
「…この猫……まさかな…」
あの声が聞こえた直後に気を失った様に目を閉じた子猫に違和感を覚える。そんな筈はない、確かに既に意味不明な事態が起こっているが、猫に呼ばれたなんて……
この出会いが後に時空管理局のリーサル・ウェポンと呼ばれる黒崎一護の運命を変えた瞬間であった。