転生したらとしてどんな世界に行きたいか考えたことはあるだろうか。
剣と魔法の世界?SF科学と宇宙の世界?それとも…下世話だがエロい同人誌な世界か。
色々とあるだろう。だけど、逆に行きたくない世界となると必ず挙がる世界がある。
『宅配で〜す』
「今日さ、4月はじめなんだよ。今日から小学なんだよ。始業式行くからどっか行ってくれよ」
その言葉を合図に扉から急速に暗がりが広がり、扉を何度も何度も叩き始める。
『開けて開けて開けて開けて開けて開けて開けて』
「後3分以内に退いてくれないと遅刻だな…」
ホラー。怪異、幽霊、妖怪、都市伝説、悪魔。錚々たる奴らに溢れた世界。その世界に俺は転生した。
それも一般的に周知され、道を歩けば簡単に出逢っちまう様な世界に。
「特典、こういう時に役に立つ物だったら良かったのになぁ」
がっくしと肩を下ろし、メガネがズレたので掛け直した。折角母さんが編んでくれた三つ編みも心做しかばさっとなった気がする。
転生者、今世の名前は
『開けないと呪う』
「嘘乙。お前にそんな力ないだろ」
『階段踏み外して死ぬ呪いかける』
「ちょっとありそうな線突いてくるじゃん」
ここ団地3階だから毎日階段登り降りするのに。
それから暫く。
「はっ…はっ…アイツ40分粘りやがった…!」
後半黙って霊障抑えて居ないフリしてくるのズルなんだよな。1ヶ月に一回がよりによって今日なのは全く運が悪い。
ひび割れたアスファルトの上を、人目も気にせず全力疾走して登校中の俺だ。
信号は偶に砂時計頭の怪異か何かが出てくるので回避しての登校だ。
さて、走ってる間暇だろうし、今俺が全力で走っているこの町について軽く言ってしまおう。
前世よりも訳あって文明の発展が遅れている2020年の日本、戦後の被害が大きかった東京に近くも、田舎だったが故に被害も少なく済んだからある程度発展した町がここ、「鎌ヶ原町」だ。
転生前にもありそうな名前だと思う。忌憚のない意見だ。実際は知らない。
山がある以外は大して特徴も無く、道を歩けば怪奇に出会えるのだって全国共通だから特別でもない。鎌ヶ原含む市単位だと怪奇による年間死者数が全国30位を下回った事がないのが特徴の平凡な町だ。
嘘、やっぱ死者多すぎるわ。毎日何かしらに出会えるのやっぱバカだろ。
ともあれ、俺が産まれたのはそんな世界だった。
「入学式終わってるし…」
到着時、其処には体育館から出て来る親子の姿が。流石に早過ぎると思うだろうが、長くなると変なのが途中で入り込むからこの世界だと短いんだよな。こういうの。噂だと先生や校長にとっても名前を呼んじゃうと寿命が減る幽霊がいるらしいからだとか…。なんで生きてるんだろうなこの世界の人類。
「はぁ…こっそり混ざっておくか」
事前に各ご家庭に予め渡されてある案内用紙に従い、俺も最後尾に着いて教室に入って行く。
途端、なんか教室の空気が重くなった気がした。…まずい、遅刻バレたか?ま、しれっと居ればバレないバレない。
そして自己紹介を済ませ、各自下校だ。…何とか乗り切れたな!
歩くだけで危険なのでみんな家族と一緒だが、俺の家族は仕事で居ない。母一人で俺も養うとなるとどうしても余裕がないからだ。ま、俺も転生者で精神年齢は高い方だし、あんまり迷惑をかけるのも申し訳ないから妥当な所だろう。一人娘が俺なのが個人的に気まずいしな。
「ひっく…ぇぐ…ここ何処〜?」
そうして一人のんびりと歩いていたら、何やら同じ学校の子供と思わしき迷子がいる。
どうやら親御さんと離れてしまった様で……それだけでもなさそうだった。
泣いていた女の子は、その眼を真っ黒にして、足元が影みたいに黒くなっている。どうやら質の悪い幽霊に取り憑かれてるようだ。
周りを見ても、誰も気にした様子がない。信号を超えた先でこの子の親御さんが探してるくらいだ。結構近くにいるなぁ、取り憑かれたばっかか。
「周囲の人から認識されず、影に身体が変わっていく…夜になったら消え去りそうだ」
読書家な俺には分かる。影に変わった奴は夜に死ぬか朝日に死ぬかするって事だ。今は真っ昼間なので前者にだろう。ともあれ、手を出すなら早い方がいいだろうな。幸い前に似た様な事件を解決している専門家を見たので解決策は知っている。ただアレ、俺がやると片手が使い物にならなくなるんだわ。
「えぐ…あああぁぁぁ…パパぁ…ママぁ…」
「スルー安定、周りに倣えってね。ま、親御さんにここにいるのは伝えておくさ。すぐ其処だし」
泣いている女の子を無視して通り過ぎる。人生始まったばかりで片腕が壊れるのは避けたかった。きっと痛いし、損をしたくは無い。専門家だって、呼ぶだけで金がかかる。母一人で育てられる貧乏な俺にはとても無理だ。あちらで探している親御に伝えて終わり、それでいいだろう。
怪奇に毎日会うなら、こういうのも良くあるからな。いつも通りでいい。
「あのー…」
「アイツは死んだな?」
信号を渡り、女の子の親御に声をかけようとして、聞こえた言葉に息が詰まった。…物陰に隠れておく。
「ええ、居なくなった辺りを念入りに探したけど、影も形もない。噂の怪奇は本当だったわ」
「そうか…なら、
「ええ、帰りましょうか。二人で本当の愛を、今度こそ」
それだけを言って、手を組んで帰って行く。
「……『妖精の悪戯』…か?それとも『呪われた赤子』か…どっちにしろ、向こうに非の無い事例があり得るのがクソッタレだな」
さて、一見自分の子供を証拠の残らない殺しで消し去って二人の幸せを求めて帰った二人といった様子だが、生憎この世界、こうなって仕方の無い事例がある。
それが、妖精の托卵…またの名もチェンジリング…だったり、とっくに死んだ赤子が生きてる赤子の身体を奪う『呪われた赤子』だったりだ。
托卵された方は将来的に親を食う虫みたく食われて死ぬし、呪われた方は例外なく人を殺すのに執着して無差別に殺し回るし、真っ先にその対象になるのは親だ。その場合は正当防衛として国にも認められている。どっちも過去の戦争で外国から輸入された奴らだからな。
「だが…あの子にそんな邪悪な気配は感じないんだよな」
子供に成り代わる奴、入れた系、そういうのは
ある意味俺もそうかも知れないが、俺は神様が転生させてくれたからな。転生の時に死ぬはずだった魂のない身体に転生させると事前に聞いているからちょっと違う。それでも母さんの負担になるのは申し訳ないが。
神様転生。現代に転生しておいて何だが、俺はガチャガチャを回して出た特典のチートを持って転生した。とは言ってもこれまでの人生でチート使えた事ないけど。条件を達成しないと使えないらしいからな。条件知らないけど。
ま、それはそれとしてこの身体が魂とか見れるから不満はないけど。
話が逸れた。
さて、どうしようかな…。あの子さっき言った奴らじゃ無さそうなんだよな。魂の色が普通だし。
しかしそれだとなんであの二人が殺そうとしてるのか分からない。あの二人に金払わせて専門家呼ぶのも無理になったし、手を出すなら俺がやるしか無いだろう。
学校?多分無理だと思う。足元の影が膝辺りまで進行してるし、今行っても間に合わないだろう。ここから学校は遠いんだ。専門家なら一瞬で来てくれるんだけどな…金を払う必要のある警察みたいなもんだし高いんだよな…。
「ひっ……ひっ…」
泣きすぎてしゃっくりし始めた女の子を見る。魂を見ても悪い子でも無さそうだった。口が悪そうな色はしているが、ここまでされる程じゃない。そもそも6歳、まだまだ未来のある歳だからな。
………あー…こういう時、見え過ぎるのは損をする。
「……仕方ねぇ。ここで帰ったら母さんに顔向け出来ないしな。」
人生2回目、見捨てるには自分の人生の方が軽そうだ。
そして信号を渡ろうとした時だ。
「……おいおい、今日は厄日か」
砂時計の頭。手が四つ地面に、花弁の様な何かを15枚垂れ下げた蜘蛛に似た奴。
向こう側に真っ赤な花粉か砂か…が落ち切った幽霊が居た。…今日だけで『開けて』と『影取り』と『赤砂』…一日でこんなに会う事って人生初だぞ…!
車が通る。通り過ぎた時には、砂時計はひっくり返っていた。
信号が赤になる。車が走り、信号が変わり、
車が走り、信号が変わり、
車が走る間は砂時計も普通に落ちる。
信号が変わる時だけ、場面が飛んだみたいに砂時計が目減りした。
「普通なら15分赤信号に捕まり続けるだけだが…今は最悪だ!」
赤信号の時に渡れば良いと思うだろうが、この赤信号の間に走る車もコイツが造った物だ。隙間なく高速で行き来するなんて、さっきまでの閑散とした道にはあり得ない事だ。
コレでは向こう側にはいけないだろう。目測で測った所女の子はコレが終わっても首までだ。焦る事は無いが、それはそれとして助ける難易度は上がる。腕だけで済んだらマシだろうさ。
「一先ず時間飛んでる間は固まって道の邪魔なるから脇に行って…母さん、ごめん。誕生日に買ってもらった携帯ダメにするわ」
15分。最近じゃ一番長く感じた15分が終わった。赤信号の間に使う携帯はもう手に持っておいた。スマホじゃ無く折り畳みの奴だが、それでも最近発売されてる奴だから高級品だ。
始業式だけだからランドセルも無く身軽ではあったが、携帯くらいは持っていた。
砂時計の幽霊が消え、青になると同時に駆け出した。
「…………」
喉も影になったからかダンマリだ。だが、手遅れでは無い。
前に見た時は公園で遊んでいる子供に取り憑いてて、その親が公衆電話で専門家を呼んで解決する様子を遠巻きに見てただけだったが、その時は人の形も無くしてスライムみたいになってる状態から救出されていた。頭が無事な分俺でもやれる余地はある。
「さぁてっと!お互い苦しもうぜ」
真っ黒女の子の影のある位置を探す。真っ昼間で影が濃くなってる筈なのに、ある筈の影が無い。この怪異は初見殺しなんだよな本当。
ガラケーの音量を上げて、番号を適当に入力して、自分の影から相手の影がある筈の地面に携帯を持った手で触れると、
寒い。沈んだ手が氷で固められたみたいに痛かった。
「いだいいだいいだいキッツイ!!!」
我慢して携帯のアラームを鳴らした。
「……聞こえる…誰?…誰?其処に誰かいるの?」
「そうだ居るからさっさと来いこっちも痛いしキ……!」
首を絞められた。さっきまで女の子のフリをしていた奴が目の色を真っ青に変えて俺の首を絞める。分かってたさ、俺は魂が見えてたし、声は下から聞こえてもいたからな。
『影取り』。怪異の一つで、県単位で発生する
やる事は3つ。子供を影に攫う、子供に似た何かを出す、夜になったら子供を取り込む。
普通は見えなくなれば探す所から始めて手遅れに、見える奴にはデコイで時間を稼ぎ、いざ『影取り』の中に入って助けようとすればデコイは妨害に、進んでも出口から離れるだけで子供の所には辿り着けないよう空間を歪ませる。らしい。ここら辺はゴミ捨て場の新聞を読んで知った事だ。
殺意高すぎんだろ。その分専門家を呼ばれやすいしこうして自力でやれる事もあるからキル数は高く無いらしいけどさ。
さて、意識が薄くなって来た。人に見えなくした分力が弱いから押されて沈んだり退かされはしないが間接技を極められると流石にキツい。其処は手で締めろや何技極めてんだ人殺すのに全力過ぎだろ。ふざけんなよ。
「カハッ…」
ふざけて痛みを誤魔化しても限界は来る。もうダメかと思った時。
手が何かに握られた感触があった。携帯を手放して掴み、引き上げる。
「…どっせい!」
「うわぁ!」
「ぐぇ」
勢いで倒れ、上に乗られた重さで変な声が出る。技を極めていた偽物も俺が見ると嗤って、瞬きすると消えていた。出てくる時も消える時も一瞬だ。
「えっあ、ごめんなさい!」
そうして危機が去った事を確認している間に女の子も現状を把握し始めたらしい。俺の上から退くと、謝罪しながら頭を下げた。
「あー…大丈夫?…って同級生か」
「はい!大丈夫…あえ……『幽霊さん』!」
おっと誤解があるな。頭を挙げた女の子の顔を見て、自己紹介の時間で横の席の子だと気づいた。こんな偶然あるんだな。
「…それって私の事か?」
「えっと…知らない内に最後尾に居て一緒に授業を受ける、声を聞けば呪われて顔を見たら病に罹って…あれ、顔見ても平気だ…」
「朝『開けて』に捕まって遅刻したんだよ。だから私入った時やたら緊張が走ってたのか…」
「雰囲気が幽霊みたいだったから…」
「そこ?判断するとこそこ?」
一回死んでる転生者だから誤解されましたってか?あり得そうだな責めれねぇ。
「じゃあ…私の自己紹介聞こえない様にしてただろうし改めて自己紹介。私は霧晴。
ズレた眼鏡を掛け直しながら俺はそう言った。一人称が違う?見た目相応じゃ無いと悪霊に憑かれてるの疑われるんだよ。相応過ぎるとそれはそれで疑われるけど。其処らへん敏感なんだよこの世界の人達。
「あ…はい!なら私も…
改めて見る。親御とは似つかない金色の髪、外国人みたいな顔立ち、ツンデレとかしそうな印象を受ける顔。しかし母親の遺伝か所々に日本を感じる。…なるほど、親が妖精の托卵を疑うのは無理もない。特徴が一致し過ぎだ。…ちょい探るか。
「はいよろしく。ところでさ、ちょいといーってしてみてくれない?」
「…?えっと、助けてくれたし良いけど…」
あ、違うわコレ。托卵じゃ無い。
最大の特徴らしい牙がないわ。つまり…
「ありがとう、もう良いよ。…家まで分かる?」
「覚えてるから大丈夫…だけど…一緒に来てくれると嬉しい」
「だよね。いいよ、一緒に行こう」
そんなこんなで雑談しつつ送迎。道中は適当に雑談して平和に過ごした。
話してれば直ぐに到着する物で…
「でっか」
日本屋敷な家にたどり着いた。金持ちかよ羨ましい。
「ありがとう!一人だと帰れる気がしないから…ホント、ホントに助かった!」
「そ…じゃあ私は帰るから。…真倉ちゃん」
「…なに?」
「お父さんにこう言って、助けたお礼としてね。────」
「……?よく分かんないけど分かった、言っとく」
「ああ…もし辛い事があったら言って。家に泊めるくらいまでは出来るから」
木造の屋敷に入る姿を見届けて、私も帰る事にした。家から正反対に進んだから、帰る頃には夕方になるだろう。
「真倉ちゃん、どうなるかねぇ…ただの女の子が背負うにゃキツい物になるだろうし。だけど…一人暗い中で死ぬよりはマシだからな。ま、生きてりゃ良いことあるってね。出来る限りはやったさ」
誰に言い訳をするわけでも無く、そう独り語る。
部外者としてはまぁ…花丸とは行かなくてもいい線いったさ。
具体的には言わない。詳しくは実際知らないし、責任を持てる立場でもない。だが、俺の眼では普通の人間だったんだから怪異とかホラーな案件では無いのは確かだ。
「さて、今日は3回も出会ったんだ。これ以上はねぇだろうし、気楽に帰るか〜」
「どうして俺はフラグを立てたんだ?」
【因果律の変動を確認。ゲームコインを1枚進呈します】
家に帰ると同時に俺を出迎えたのは、人生で初めて特典のチートの発動条件が揃った合図と、額に落ちたコイン。コインというかメダルと言うべき大きさのそれが、少なくとも直ぐに解決できない案件の物であることを感じ取り、
「俺の左手…なんか消えたんだが…」
日が暮れると同時に左手首…携帯を持って入れた方…から先が痛みなく消えて、『影取り』にしてやられた事を察したのだった。
「とりま…包帯無いし病院呼ぶ携帯も無いし…自力で出血止めなきゃ…先触っても感覚ねぇからフライパンで焼くか」
てか、エグいくらいドバドバ出てるし救急車待ってる間に出血性ショックで死ぬな…全く。
「……今日は厄日だ」
霧晴千歌
団地住まいの貧乏人。見えたら聞こえたりする転生者。最近小学生になりました。
真倉朝凪
言われた通りに伝言し、怪奇とか関係ない修羅場になるまで後──
『開けて』
アライさんマンションリスペクト。開けたら終わりです。
『影取り』
かしこい。夜に見つかると即死ぬ。
『赤砂』
何もしなければ時間取られるだけ。下手に動くと…
『妖精の悪戯』
戦争時、米国から持ち込まれた妖精が起こす現象。赤子の時に殺すとすごく被害がでる。過去にそれをやって1086名死ぬ事件があった。
『呪われた赤子』
戦争時以下同文。プギーマン。こっちはいい感じに殺さないと自分の思想を伝播させる快楽殺人鬼が出来る。失敗すると最低でも800名は死ぬ案件になる。