怪奇を知るほど芸が増えてびっくり人間になれます。
「…私の家に遊びに行きたい?」
「うん」
「ふふふ…ようやく言ってきたわね。ええ!いいわよ!」
「やったぁ」
「…そこはもっと嬉しそうにしなさいよ」
「わぁい」
「…てい」
「わぁ…」
おでこを突かれて仰け反る。眼鏡がズレたので掛け直しておいた。
最後辺りちいかわみたいになってるが、コレでも本気で喜んでるから其処は見逃して欲しい。最近テンション下がる事ばかりなんだ。ゲェムで背筋が凍る出来事を体験した日の翌日である。メンタルヤバイなって感じた俺は気分転換に真倉の家に遊びに行く事にした。
…それが気分転換になるのかって疑問に思う人も居るだろう。気持ちは分かる。何せ入学式早々に昼ドラみたいな絵面を見せた子の家だからな。
しかしね…過去が変わる事による影響とか色々考慮してやるゲェムよりはマシなのだよ。最近橘の方ばかりだし、そろそろ落ち着いた頃合いだという考えもあり、それに母さんに見てやれと言われてもいる。
こうなったらもう転生した精神大人だろとかそういう意見は気にせず遊びたいんだ。勉強も問題無いし、趣味の新聞も特に目立った記事もないし、テレビは嫌な事思い出すから見たくないし、新刊出るのまだだし、兎に角今は癒しが欲しいんだよ俺は。
そんな訳で、雨が降る中真倉の家に遊びに来た訳だ。正直雨だし断られると思ってたよ俺。
「で…かいなぁ前よりも」
「何?別に災害後についでの増築とかしてないわよ?新築になった所もあるけど」
「いやこっちの話。見慣れないからさ、こんな立派なの」
なんか日本屋敷が前見た時より豪華になってたが、前に怪奇の事業をしてると言ってたしテレビ関係だろうな。チャンスをモノにする金持ちの姿には好感が持てるが俺の心臓の脈も考えて欲しい。
「じゃーん。ここが今の私の部屋」
「わー生活感無し」
広い敷地をついて行き数分。正直この時点で日本のお城とかの観光地に来たみたいな気分になってたのだが、案内された部屋を見てその気持ちがより強くなった。畳と座布団、古き良きな日本じゃん!でも見本とか再現物とかみたいで人の匂いはしない。ここ最近、一月もしない間しか使われた痕跡が無いな。
「そりゃあ、前まで離れだったし」
「…あー」
「良いのよ気にしなくて。霧晴は私を助けた。それ以外は気にしないでいいのよ」
「…大人だぁ」
地雷を踏むの上手いなぁ俺は。相手にフォローさせちゃったよ。だがコレで引き摺るのも違うしな。何でもいいから遊んでいこう!
「それで、何して遊ぶ?」
「…逆に聞くけど、こういう時の遊びって何があるの?」
「おー軟禁生活という奴は悲しいね」
「学校だと周り見てルールとか察せられるけど、無いとわからないじゃ無い?みんなそんなもんでしょ」
座布団の上で姿勢良くしてこちらを見続ける真倉に問いかけての返答がコレである。お前…ぱっと見問題無いようで根本的にそういう経験ないのか…。この喋りになる前の引っ込み思案っぷりも納得というか…まぁ俺も家に送るまでの短い時間しか知らないけどさ…本当に表面上は整えたって感じだ。
「うーんこれは私が教えなきゃだ」
「ま、そうなるわね」
「それなら外は…雨だし、部屋の中で出来る事をしようか」
そんな訳で室内遊び。手持ちにあるのは無し、部屋に道具無し、しかし相手は箸が転がっても笑いそうな笑いの沸点の低い相手。なら俺でもやれる事はいっぱいある。
「よぉしそれなら手遊びだ」
「てあそび」
初めは簡単に。リズムに乗って手の形を変える遊び。右手と左手組み合わせて蝸牛とかやるあれだ。ただこの世界で一人で特定の手印をやると『蟹さし指』という指を切る怪奇を引き寄せるからそこは注意する様に伝えておく。
「ちょうちょ!ちょうちょだわ!」
「な?影見ると似てるだろう?…よぉし調子出てきたし大技も見せよう…ここら辺か?…鳥蟹蝸牛花狐兎、『十七指の顔』」
「…きゃーー!!!」
「はっははは成功!…ちょっと早かったか。ほらもう無いよ?解けば消える奴だから、ね?」
「指が…指が…関節ふえてたぁ…」
「私も初め親にやられてビビってたの忘れてたよごめん。私その時笑われたけど。でも覚えたらネタになる程度には使えるからさ。簡単な芸みたいなモノだよ」
「は…は…は…びっくりした…」
「どうどう落ち着けぇ?」
過呼吸になった真倉の背中を摩る。今やったのは高速で指で役を6つ作ると指が合計17本になり全ての指の関節が増えて見える怪奇なのだが、解けば消えるし無害なので親が子供に怪奇という物を教えるのに使われる奴なのだ。晴れた昼限定の光の錯覚関係の怪奇だからな。
晴れた日は外で遊んでて知らなかったのだろう。教室で教科書読めた日とか横で女子とか男子がお遊びでやってたからそのノリでやってしまった。
晴れた日限定なら雨が降ってる今出来るのは可笑しいって?私の眼には照明の強さと位置関係次第で夜でも雨でも出来るって見える…。
まぁ知らないと出来ないレベルの厳密さだし、出来ても酒の肴にしかならないしな。広まってないんだろ。
「それならほら、真倉ちゃんの身長なら照明からいい感じの距離に立てばいいだけだし、やってみよ?怖い奴じゃ無いから」
「え、ヤ…うぅ鳥鳥鳥鳥鳥鳥!えい!…きゃーーー!!」
「ははは、引っかかったね!間で指を解いてれば同じ役でも成立するんだよコレ」
真倉は自分の指が増えて見えるという怪奇現象にビビりつつ、その後も怪奇を交えた部屋での遊びを楽しんでいった。前世よりその手の遊びのネタが多いのはいい事だ。その分ダメな事は本当に駄目だけどさ。
「変顔…女子のやる事?それ」
「へぇ、それは…コレを見てもかい?」
「…キァーー!!」
「はは!怪奇を知ってればこういう手品はいっぱいあるってね。やる?」
「やんない!」
一発芸に眼の動きと思い出す記憶の時間の合わせで顔の部分を一瞬別の次元と重ねる怪奇の『のっぺら』で顔を『のっぺら坊』みたいにしたり
「驚かすとかは無しよ!いい!?」
「分かったよ。それなら一つ小噺を…題して死神」
ツン…
「まってまってまってまって題目だけで停電するって何!?怖いのも駄目!」
「では…アンバラヒッポリバンプで『パァ』!」
パァ
「手拍子と言葉で電気戻った…?なによもぅ…」
終わりから逆算して数秒だけ停電させる怪奇、その終わりを示す音の『パァ』で雰囲気だけ作るだけ作ってみたり
「…ふー…ふー…今遊び道具は無いか家政婦に聞いて、あやとりというのを持ってきたわ!これでもう悪戯は無しよ!」
「…注意事項は聞いてきた?」
「…?特にそういうのは無いって」
「あぁじゃあ知らない人多いのかな…そりゃそうだよね普通にやれば問題無いよねうん」
「…ちょっと、一人で納得してないで教えなさいよ」
「大丈夫!あやとりしてれば問題ないしね!」
「…おしえろー!」
まぁ、そんな滅多に起きる物でも無いから教えなくていいかとスルーしたのを教えたり…因みに、『あやぬき』という怪奇で、「あ」と「や」をあやとりで模したらその発音が出来なくなる呪いである。古さ的に65年前の戦争より前からあるっぽいんだけど、条件が狭すぎて痕跡から見て数人しか引っかかって無い怪奇だ。変な事考えるバカって何処にでも居るんだなぁっと思ったものだ。
「あー、楽しかった」
「…私は疲れたわ」
そんなこんなで楽しい時間はすぐ過ぎる物で、そろそろ帰る時間になった。名残惜しいが、街灯が出来ても夜は怖いのは変わらない。そこはブレないでいるべき事だ。
傘を開き、入り口に立つ。ざーざーとは行かなくても、それなりに強い雨だった。それでも真倉は最後まで見送ってくれるみたいで…こういう事されると嬉しくなっちゃう俺はちょろいのだろうか。
「…でも、一人で勉強したりずっと座ってるよりはマシね。うん、その分も考慮して楽しかったとは認めてあげる」
「一人…そう言えば習い事とか家庭教師とか居ないの?」
「そういうのは来月から、それまでは準備や人を呼ぶのに時間を使うんだって」
「ほぇー。仕事しながらだとそんなもんか…ならさ、何があるの?そういうのってさ」
気になったので聞いてみた。…最後の遊びに立ち話なんて、女子の遊びの王道でいいだろ?会話してれば人間なんて幾らでも時間潰せるからな。
「護身とか、銃の扱い方とか…後は怪奇対応の資格講座とか…経済もあるかしら?習い事は…運動ね。ゴルフとかそういう大人のスポーツ。勿論バスケもサッカーもやるわ。まあ女子だしそつなくやれればって感じ」
「あー…ね。そうなるんだ」
どうやら、この世界の習い事はスポーツばかりの様だ。そりゃそうか。絵や音楽が怪奇の巣窟なら、そっちにいくよな。この世界の金持ち運動不足と無縁そうだな?その分怪我が多そうだけど。
「だから、今日は新鮮だった。驚きっぱなしだったから楽しかったかは分かんないけど、退屈はしなかったわ」
「そっか、ならよかった。私も頑張った甲斐があったという物」
「うん、そうね。だから…また来ても…良いのよ?」
真倉なりの最大限の好意なんだろうか。日が出てても雨で暗いからその表情が赤らんでるかは分からない。だが、友達としてそれに答える返事は一つしか無いだろう。
「う「ただいま、朝凪」…ん?」
振り返ると、男性が一人。雨の音で足音に気付かなかったから不意打ちを喰らったが、その顔には見覚えがあった。
「…お父さん、お帰り」
「うん。今日は予報で雨だったからね。早めに仕事を上がったんだ。…寂しくしてたか」
「ううん。別に」
「……ああ、ごめんね。話してる最中に割り込んじゃって…君が、霧晴千歌ちゃんだね」
「こんにちは、朝凪のお父さん。友達の霧晴です」
目線を俺に合わせて、ニッコリと微笑む。俺も合わせて礼をして笑っておいた。別に俺が嫌う必要は無いからな。それは真倉…朝凪の物だ。なので俺は友達として、その父親に挨拶した。
「うん、うちの子がお世話になってます。…朝凪、僕の至らなさで色々と教えられて無いんだけどね、友達の君に迷惑かけてないかな」
「いえ、そんな事ないですよ。普段から仲良くやってますし、寧ろ助けて貰ってもいます」
普段から遊んでる程度には仲良いし、生活のテストとかテストとか宿題とか宿題とかいつもお世話になりっぱなしよ俺は。
「ああ、それは良かった…うん。帰ろうとしていただろう?これ以上話すと遅くなる。何ならうちのに送らせようか?」
「いえ、大丈夫です。そんなに距離も無いですし、話し込んでる余裕がある程度には時間も余裕を持たせてます。そこまで迷惑はかけられませんよ」
「…ここまで言われたならこれ以上の気遣いは余計かな。気をつけてね。暗いから転ばない様に」
「はい。心遣いありがとうございます…朝凪ちゃん!またねぇ!」
それを最後に、そこから立ち去る。
「…またね!」
後ろから掛けられた言葉に手を振りかえしながら。
「…はぁ!」
そしてある程度歩き、向こうが見えなくなった段階で、俺は一息ついた。
「あー…嘘を見破る怪具なんて付けながら会話するな仕事道具外しとけホント」
本当にああいう怪具を付けた相手との会話は疲れる。雨なのも相まって不気味なんだよ。
「…おっと『転ばし泣く』が…注意ってこれかぁ。見かけたんだなきっと」
水溜りを避けていく。擬態して…というか、雨の日は見つけづらいだけで普段から水溜りみたいなんだが…一度踏むと転ばして追跡し、ずっと転ばしに来て酷い怪我をする羽目になるからな。
「安いよー!安いよー!」
「今日はいいお肉があるよー!」
[来週からは以下の様な天気となりそうです]
「…テレビ屋さん、前まで存在しなかったってのに…ホント、より昔に手を出すなんて碌なことじゃ…いや、コレは良いこと…起きてない事は考えないっと」
帰る途中雨が強くなって来たので、ちょっと遠回りになるが屋根のある商店街の方の道を通ると、見覚えの無いテレビ屋さんがあった。やっぱり変わってるんだよなこういうの。此処、前はシャッターで閉じてたのに。
「お、嬢ちゃんか。久々だな?」
「あ、すみません冷やかしです」
見てたら奥から昭和のカッコいい男と言ったらって感じの人が出て来た。この顔なら奥さんが入れ食いになりそうな物だが…まぁテレビが既に広まってたら暇な時間もあるか。
「クク、なに、俺も買ってもらおうなんて思っちゃねーよ!ただ最近見て欲しい商品を入荷してね?ほら、カメラ!」
「ほえー」
「あ、今普通のカメラって思ったろ?確かに怪奇にならねぇってだけじゃ最近じゃ当然で広告にものらねぇが、コイツな…怪具なんだよ」
「免許」
「置いてたのが勝手になったんだから責任にはならん」
「怪奇にならない とは」
「俺は仕入れただけだ!…で、どんなだい?コイツは」
最後辺りは息を潜めて言っていた。まぁ、見れば分かる。元が直ぐに現像されるタイプの、目の前だけじゃ無く自分の今まで見た景色を撮るカメラだろ?そこにイメージも付け加えたり出来るって感じ。
「怪具/思念撮/丙」って感じだな。…それで、彼の言い方的にこれまで何回か見てやってる感じかコレ。…人間関係が変わるのも困るなホント。
「…「怪具/思念撮/丙」、割と使い道限られる奴で、取り敢えず怪具に変化しやすい怪奇、壁に埋まってるからそれ取り除いてから改めて店構えてね。白蟻みたいなのだって言えば安く済む…どころか褒賞金貰えると思うから」
「…あらら、なら呼ばねぇとか…よし!教えてくれた礼にこれをあげようじゃないか!嬢ちゃんにはいつも、世話になってるからな!」
「…言っとくけど、私の事は」
「他言無用、だろ!わかってるって!俺が借金で嘆いてた時からそうだったしな!」
…見覚え無い事に感謝されても…その、困るな…感謝の品だと断りにくいし、話は合わせるけどさ。過去を変えたのは俺自身だし。でも何があったのテレビが問題なく広まった時の俺。俺コレまでそんな人見かけて無いんだけど。押し付けられたカメラを右側に持ち、背中を向けた。
「それじゃ、私はもう帰るから。またね」
「ところで嬢ちゃん、一つ聞いていいか?」
「なぁに?」
「嬢ちゃんは普段、俺が嬢ちゃんと呼んだら霧晴と呼んでよって返してくるんだが…霧晴、どうした?」
…ほらー、こういうのあるから嫌なんだよ過去が変わっての人間関係の追加や変化って。
「ん、偶にはいいでしょ?さっきまで友達の家でお嬢様扱いだった物で」
「あぁなんだ、そういうことか!いいとこの友達作ったなぁ!」
「じゃ、またね。そろそろ帰らなきゃ」
そうして漸く家に帰る事ができた。
「ただいまぁ…はぁ。タダでさえ雨の日は眼鏡が水垢で汚れて大変な日ってのに…」
今日だけで随分と色々あったと思う。それも午後の短期間で。一つ一つは大した事がなくても、こうも重なると疲れてしまう。
「…コレどうしよ…取り敢えず本に入れとくか」
怪具を机の上に置いて悩む。許可の無い怪具を持つのは違法ではあるものの、使った痕跡が無ければ罪には問われないし、気づいてなければ同様。それに俺にはリザルトの怪具や怪奇を仕舞える本があるし、別にゲェム内の物に限定しないのは手袋の時に実証済みだ。
カセットを左手に差し込んで本にし、その表紙にカメラを押し付けると、本の中に沈んで消えていく。全て飲み込むと、表に「怪具/思念撮/丙」が追加されていた。
「本当に犯罪に向いてるよな、こういう特典とかチートって」
左手からカセットを排出しつつ、そう独り呟く。兎に角今日は雨なのもあってもう本当に疲れた。元々の目的の癒しとかは成功した気はするが、それよりは少なくてもまぁまぁ大きめな精神負担があった気がする。
「はぁ…もういいや。料理作って風呂入って母さん父さんの帰りを待つ!今日の終わりはそれでいいだろもう」
後、ゲェムが最近メインになってたけどゲームの方だってやれるからなボーイって。暫くやってなかったゲームやって、今日は終わり!
霧晴千歌
結局家族と食べるご飯が一番だなってなった。
真倉朝凪
友達と遊ぶのが一番だなって思った。
真倉お父さん
仕事してる時が一番生き生きしてる。
テレビ屋の人
今が一番全力で生きてる感じがする。2年前に霧晴にアドバイスされてテレビ屋で成功した。
『十七指の顔』
光の錯覚にしては具体的だが、人の脳の錯覚。蜃気楼の仲間として物理法則の一部になった。
『のっぺら』
同位相の仲間として物理法則の一部になった。戻らなくなるやり方も利点もある。
『パァ』
電子の動きを無作為にする周波数として物理法則の一部になった説が有力。時間を遡って影響してる件についてはこの世界の科学力ではまだ解き明かされていない。
『あやぬき』
あとやが喋れなくなる。名前を独占したい霊の呪い。
『転ばし泣く』
踏んだら全身浸水する程の深い水溜りに誘導しようする。主に引っ掛かるのは猫や犬や鼠やホームレス。
『怪具に箔あり』
捕食する過程で周囲の道具と怪奇を引き寄せて怪具にする白蟻。