怪奇ばかりな日常とゲェム記録   作:何処にでもある

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 仕事あるので。基本土日に1〜2話投稿します。忙しかったらしない日もあるかもです。


ゲェム-これが毎日続くのか

 

 肉と血の焼ける臭い。換気扇は回してるが、人の焼ける臭いなんて外に出していいものか。まあこの臭いの中で過ごすよりはマシだろう。

 

「…不便になるな。これだから目の前で死にそうな人が居ても無視する人ばっかになるんだ」

 

 眼鏡を掛け直そうとして、手がない方でやろうとした。人が死ぬよりはマシだが…今後の人生どうしようか。

 心は落ち着いている。冷静なのは痛みが全く無かったからで、躊躇が無いのは死ぬよりはマシだからだ。

 

「…あー…意識薄いな…血がコレだけ出れば当然か?」

 

 玄関から台所まで、血の跡がエグい事になっていた。現在掃除中だが終わるのは遅くなるだろう。病院?十円玉探したけど通帳しか無い。その公衆電話に行くのも夜に外出るのは危険だから出来れば避けたい。詰んでいた。

 

「しかも母さん帰って来ないし…」

 

 20時。本来帰ってくる筈の時間は既に過ぎていた。大方仕事が長引いてるんだろうけど…電話は真倉助けるのに消えたから事情も分からないし、伝えられもしない。懸念としては『影取り』が俺を騙って母さんを夜に外に出そうとしないかだけだが…コレは大丈夫だろう。この世界の大人は転生者の俺よりずっとすごい人達ばかりだ。

 

「ふぅ…掃除終わり。となるとやれるのは特典チート調べるか風呂入って寝るか…特典だな。片手無くしたから少しでも有利な力なりは欲しい」

 

 昔聞いた神様の声で因果律がどうの聞こえたが、心当たりは今日真倉を助けた位だ。転生者は本来なら死んでいる奴に転生させてるらしいから、それで将来的に大きく未来が変わったかなんかだろう。アイツ金持ちだし。親の動きを変えたら未来も大きく変わりそうだ。

 早速特典…その前に風呂には入るか。血の臭いがする。焼いた方はお湯を避けた方がいいだろう。となるとシャワーのみか。二度焼きはゴメンだ。

 

 

 

「さっぱりしたぁ〜。…なんか手首から半透明なのが生えて驚いたけど」

 

 さて、『影取り』に左手を取られた風呂に思った以上に不便を感じつつ、背中を洗えないストレスでなんか半透明な手が生えてきた。見た感じ物体じゃなくて魂とかが直で出てる感じだ。

 読書家の妄想としては、肉は取られても魂の手は取られずに済んだからこうなってるという説があるが定かでは無い。それだと真倉とか幽霊になっちゃうからな。

 

「ともあれ、とても握力の弱い手として扱えるし、手袋すれば誤魔化せるのは好都合。でもこういうのホラー作品の主人公とかでありがちだよな。ダクギャザとか。…続き読みたかったなぁ」

 

 封印された手とか使い古された話だ。猿の手とか神の手とか、この世界でも似た様な話は聞いている。だが、手袋を外したら手首が焼けててその先が無いのはちょっとは珍しいだろう。俺としちゃ不便なだけだけど。

 

 一度死んで神様と沢山の転生者達がガチャガチャを回してる間にうろちょろしてた経験が生きた。お陰で一番最後に回して今までうんともすんとも言わない特典チートをもらう事になったが、こうして魂の動かし方なら一丁前にできる。6年前の事だからちょっと思い出すのに時間かかったけど。

 お陰で現在21時だ。1時間風呂に苦戦してたってマジ?

 

「早速…ご飯食べながらにしようか」

 

 くぅ

 

 お腹のなる音が聞こえたのでご飯にする。

 冷蔵庫から卵、台所の植物油、塩少し、それから保温切った炊飯器の米。

 簡単男飯の目玉焼き〜俺の血を添えて〜が完成した。…今のは面白く無い冗談だったな…実に猟奇的だ。しかし食べないと血は作られない。生き物として当然の話だ。

 

「もぅ…ぐ…卵って偉大だな。焼けば美味いもん」

 

 シャワーを浴びて湿った、癖のついてワカメみたいくねくねした髪をどかしつつ食べる。髪って解くと食べづらいんだよ。前世じゃ知らなかったけど、女ってのはストレートが一番不便なんだと知った。食べ物に髪が入るんだよな、退かさないと。

 噛んでる間にコインを弄りながら食べる。行儀が悪いがこれからが掛かってるから仕方ない。

 

 適当にガチャに入れる動作をしてみた。流石にこれで何か起こるとは

 

ガチャン

 

「え待って一発で使い方当てるのは想定してない」

 

 取り敢えず特典チートを貰った時と同じ感じに空中にコインを入れる動作をすると、普通になにかに入り、何かが回る音がした。思わず目を凝らして見渡すが、別に何か見えるわけでも無い。

 

ガシャン ガシャン ガシャ

 

「…モグ…オートで回るのかよ。そしてこの目で見れないのもこの世にはあるっての今知ったわ」

 

 ころころ転がってくるガチャポンを開き、中身を確認する。真四角のカセットがあり、指で伸ばしたり縮ませたりできた。どのハードでもいけそうだな…。

 

「んでタイトルは…ゴクン…【裏世界探索ゲェム】」

 

 なんだろう。呪われそうなタイトルやめてもらっていいすか?ゲェムとか前世のナナシの奴想起させられて嫌なんだけど。というかゲェム…ゲェム?

 

「そういや俺の特典の名前、【ゲェムガチャ】だったな…モグ…この世界が濃すぎてすっかり忘れてた」

 

 今思えばその時点でこの世界がホラーだと思い至るべきだったな。当時あまりにも浮かれてて全く気にして無かった。その結果がこれなんだから、世の中無情だ。

 

「俺がゲームキャラでデスゲ始まる可能性…特典を使うと死ぬタイプは無いって神様言ってたな…なら触りだけやってみるか」

 

 当時浮かれてた俺は転生させてくれる神様に質問とか全くして無かったが、その場にいた全員がそうだったわけでは無い。慎重な人が聞いたものにそういう事に関するものがあったのを覚えていた。記憶力は前世から自信あるぜ俺は。

 

「…ごちそうさまでした。皿片して……と、あったあった」

 

 食事を終えて、母さんにせがんで買ってもらったゲームボーイを引っ張り出して、俺はそう言った。任◯堂は偉大だよな。この世界でも人気だし、ウチの家庭でも買えるの販売してるんだからさ。

 

 開いた画面を見て驚く。カラーなドットだった。結構細かい繊細なドットだ。勇なまのエンディングくらい綺麗な奴。どうやら本体性能は関係ないらしい。特典チートすげぇや。

 

「…よし!」

 

 初めて自分のチートって奴を使える。今日は散々だったが、コレだけでなんか報われた気分になった。ワクワクで、転生前の浮かれた気分を思い出させてくれた。

 

「それじゃあせっかくだし…はい、よーいスタート」

 

 デッデッデデデデ(カーン)デデデデ

 

 


 

 

 死にたいと思った。

 

 真っ暗な部屋。積まれたゴミ。布団に篭って震え続ける。そんな惨めな今を見ると、いつだってそう思う。死ぬ勇気もねぇ癖して、一丁前に今からすら逃げようとしていた。

 

 俺みたいな奴は引きこもりって世間では言うんだろうが、アイツらはわかっちゃいない。この世界は狂ってる。

 

『ねぇ健太(けんた)、今日も…外には出ないのかい?』

「……うっせぇバケモンがよ」

『開けて開けて開けて開けて開けて開けて開けて』

 

 より深く、息苦しくなる程に自分を布団で包まった。それだけが俺に安心を与えてくれた。

 その理由は言わなくても分かるだろう。毎日が命懸けで、生きるだけで死ぬよりも酷い目に遭う可能性があるってのに、前世と変わらない社会を築き上げている。

 

 前世、そう、前世だ。あの時は自分だけが不幸だと思ってるガキだったが、今に思えば天国だったな。20年生きたこの世界に比べれば、とてもいい16年だった。

 

『開けて開けて開けて開けて開けて開けて開けて開けて』

「……【除夜の鐘】」

 

 ごぉーん…

 

 毎日毎日俺を訪ねるバケモノに今日も堪忍袋が千切れ、チートを使った。

 いつだって最後はコレだ。2ヶ月くらい前から、ずっとこのバケモノは俺を殺そうと訪ねて、俺はそれを追い返す。

 

「……はは、それでいいんだよ」

 

 扉を叩く音は消えた。俺のチートの力だ。敵意を持つあらゆる存在を退ける力。それでも完全では無い。敵意がないバケモノもこの世界にはいる。そういう奴はいつだって無差別に恐怖を振り撒く。今世の親もそういうのに殺された。肉と布のバケモノに殺された。

 それ以来、俺はずっとこうしている。

 

『開いた』

 

 だが、

 

「…は?」

 

『開いた?開けた?』

 

 今日は違った。

 

『開いた。開いた開いた開いた開いた開いた開いた開いた開いた開いた開いた開いた開いた開いた開いた開いた開いた開いた開いた開いた開いた開いた開いた開いた開いた開いた開いた開いた開いた開いた開いた開いた開いた開いた開いた開いた開いた開いた開いた開いた開いた開いた開いた開いた開いた』

 

「…なんでだよ。このチートは敵意が有れば無敵じゃねぇのかよ…!」

 

 扉は開かれていた。ガムテープも、押さえていた棚も、全部壊れていた。

 

 壊れた扉と、誰もいない中に蛍光灯だけが光っている。

 

 違う

 

 黒い人影が見える。

 

 違う

 

 眼だ。沢山の眼がある。

 

 ()()

 

 俺だ。頭も臓腑も骨も血も肉も皮も何もかも、俺だ。それに沢山の眼がついていた。

 

「貰った」

 

 俺が指を指す。違う、アレはバケモノだ。俺じゃない。だってほら、俺は何一つ奪われていない。皮も肉も全部ある。真似ただけだ、だからアレは俺じゃ

 

「ばいばい。【百八迄の除夜の鐘】」

 

 

 

 

 気づけば、俺は真っ暗な夜の、大雨が降っているバス停に居て

 

【…あ、もう操作出来るのな…プロローグが明らかに転生者の経歴な裏世界探索実況プレイ。はっじまっるよー】

 

 小さい、子供の左手に肩を掴まれながら座っていた。

 

 ……あ、R…T…A…?……何が…なんだ?…これは。

 

 …この世界ってゲームだったのか?実況?…は?

 

 困惑する俺の意識を他所にして、俺の身体は勝手に動き始めた。

 

 


 

 

 人の命を懸けたゲームをした事はあるか〜い?俺は今やる事になったよ〜。怖いねぇ〜。

 ゲェムってそういう事かよ。死ぬ寸前の人を使って裏世界ってとこを探索するゲェム、死んでも俺には影響無いけど、健太さんは死ぬと。マジざけんなよ。

 でもプロローグ見る限りじゃ俺がチート使わなきゃそのまま死んでそうでもあったな。…どっちだ?俺のチートの影響で扉が開かれたのか、それとも健太さんのチートにデメリットでも合ったのか?

 

 今は置いておこう。取り敢えず健太さんを助ける為にこの裏世界から脱出しなければならない。ステータスは確認できた。【除夜の鐘】がある筈のチートの欄空白だし能力値1か2だけだしスキルとやらも「餓死耐性」と「怪奇対応/神格/丙」の二つだけだけど。前者は飢えても死にづらくなる感じっぽくて、後者のスキルは…これなら助けられそうだ。

 

 ドットの健太さんの眼の動きからどうやら声は聞こえてそうなので安心させる為に某青いホモーラを纏う奴の真似をしておく。知らない奴より前世の知ってる可能性の高い奴の方が身体を動かしてると思ってくれた方がまだマシだろうからな。実況とかこの世界じゃまだ無い概念だしな。

 

 因みに今、俺の左手は雨に濡れる感触がある。ステータスの立ち絵の肩にある手俺のかよ。お陰で現在進行形の出来事だと知れたからいいけどさ。これチートのせいだったのかよ紛らわしいわ。

 

「さて、

 

 


 

 

【さて、今作は裏世界というめちゃクソやばたにえんな奴らが蔓延る世界を探索し、怪奇の習性や能力を観察して学びながら深く潜るローグライクな作品ですが】

 

 嘘だろここそんなにヤバいのか?

 

 俺は雨に濡れながらコンクリートの道を走っていた…と言うより走らされていた。

 現状を理解しきれてる自信はないが、取り敢えずこれはチャンスだ。訳の分からないとこに飛ばされたが、この異界を知ってそうな奴が代わりに俺を生き残らせてくれるなら願ったりだ。

 

【死ぬ事前提の難易度なので初見だと100は死ねると有名な作品でもあります】

 

 終わった…!

 

【ですが今回はまだ買ってない方に向けての実況、ローグなだけありランダムキャラなのでステータス厳選とか?ありますが…それはせず、誰にでも出来る立ち回り方でやっていきたいと思います】

 

 勝った…!

 

【今回の初期ステージは…あれは…「沙五間村」?…いや…ゲーム風には「暗い森の異界」…かな。…えー見た感じ…わーお、そんな感じね地獄じゃん…バスに乗ってあちこちに行けて怪奇との遭遇率の高いステージです。今は怪奇の一つ、『地獄行き』に乗ることを避けて徒歩で移動中です。雨だからとバス停で待ってたら初期ステは即死の連戦になりますので避けましょう】

 

 こっわ。どんな怪物なんだよ…。『地獄行き』って…。

 

【ここら辺の敵は…見つかったら強制乗車の『地獄行き』…走行音が聞こえたら草陰に隠れましょう。『一声蛙』と『蛭沼』の罠…『軍旗の葬列』ですね。…後は…なんだコレ…無視していいです】

 

 …大丈夫か?生声実況をボイチャで変換でもしてるのか若い女の声だが、途中途中変な間がある。どうにも頼りなかった。

 

 そう考えていても身体は走り続け、何か廃家にたどり着いた。助かった!俺の身体が限界を超えて走ってたからそろそろ雨宿りしたかったんだ。

 

【着きましたね。ではそこらへんの草陰で待機しましょう】

 

 その意思に反して俺の身体は廃墟に入らずに道路を外れて横道の草木に身を沈めた。…なんでだよ。

 

 そこそこある風、それが大雨と重なり、目も開けられない。夜なのもあって先が見えない事に不安を覚える。身体の自由が効かないとは言え、心は違う。信じて待つしか無かった。

 

 それから5分くらいだろうか。雨に濡れ続けて手先が凍えた頃に、声はまた喋り出した。

 

【………はい、もう大丈夫です。今通り過ぎたのが『地獄行き』ですね霊視とかのスキルを持ってたら視認できて楽に対処できますが、凡夫ならこうして何も見えません。皆さんもプレイするならこのタイミングで隠れましょう】

 

 …何も通ってないだろ?車の走る音もして無かったし…あれ、コレ俺が悪いのか?霊視?助かったらしいのに釈然としなかった。

 

 草を掻き分け、廃家の周りを俺の身体は回り始める。入れよ。雨で寒いんだよ俺は。

 

【さてこのステージ、安全地帯っぽい場所は多々あります。廃家だったりバス停だったりですね。ですが全部罠です。霊視持ちのキャラでプレイすると解りますが、悪霊が大量にいます。入ったら最後、強力な道具を手に入れられますがキャラは死ぬしか無いでしょう。ランダムエンカウントのある森や周囲がまだマシってネタじゃ無かったんですか?】

 

 なんだこのプレイヤー神か?もしかして俺の判断だとこれまで何回死ぬ場面あったのか数えきれないんじゃ無いか?

 

 心の掌をクルクルと回していると、廃家から離れた場所に小さな祠が、壊れた石の瓦礫があった。鳥居らしき木組が無ければわからないだろう。

 大雨に晒されているそれは、なんの力も持ってないように思えた。

 

【…さて、予想と左手の感触が正しければ…】

 

 声がボソボソと言う。どうやらこの声は独り言が多いらしい。

 俺の身体は肩を掴む手を取り、その手を使って壊れた石を組み直し、祠を直そうとする。すると、壊れた筈の石同士がくっついた。…いや、それでも無駄だろ。

 

【はい、ありましたね。八百万の神様の住まう家、名の無い祠です。実はここはかつてあった村が題材になったステージでして、この祠はこの村の各ご家庭に一つはあると伝えられた物です。】

 

 昔、怖いもの知らずの時に齧った、神格に対応するための力があるかの試験を受けたからこの世界の神については知っている。チートとも相性が良さそうだったから、挑戦したんだ。…一番下の物しか取れなかったが。

 そして、限界と、自分にはどうしようもない事を知って、引きこもった。

 

【かつての戦争によって消えたものの一つですね。やもりさま…『家守り様』、聞いた事あるんじゃ無いでしょうか。怪奇が何故家には入らないか。それはこの神格が守ってくれたからだと。今では国が支給してくれている怪具の「九十九守式」によって安全が約束されてますが、昔はこの神格と契約を結んで安全を確保したと言われています】

 

 知っている。そして、このプレイヤーがどれだけ無駄なことをしているかも分かってしまった。

 

【ですが戦争の時、塹壕に、戦車に、戦艦に、戦闘機に、対怪奇の安全を手に入れる為に全国から集められた影響で殆どが鉛玉と共に消えて、残った僅かなものも怪具として作る為の実験体として利用されて消えました】

 

 そうだ、かつて居た人類の隣人を、俺たちは戦争に消費した。この世界じゃありふれた話だ。

 だから、この祠を直そうとしたって上手く行くわけが無い。そもそも居ないのだ。彼らは俺たちの手で殺したんだから。

 

【ですがここは裏世界。…ほんとなんなんだ裏世界って……その消えた神格を取り戻せるのです。そう、裏世界ならね】

 

 ことん

 

 最後の石を置く。ヒビが目立つが、祠は元の有り様を取り戻していた。そして、その中に納められたヤモリに似た死体も。

 

【準備完了ふぁー眠い。待ちくたびれちゃったよ。では契約の時間だオラァ!苗字捧げて二礼二拍一礼すんだよオラァ!】

 

「…(かしこみ)申し上げ祀る」

 

 指示には逆らえない。無駄と考えても身体が動く。それをスイッチに、神への畏敬を抱いた。かつての訓練はまだ生きていたらしい。

 こうなりゃヤケでも全力だ。コレが無理なら死ぬしか無いなら、今までで一番の祈りを捧げてやろう。

 

「我が名は健太。血脈を相戸(あいと)。我が一族総出にて祀り立てたきと。この名を証に渡さんと。かつての事をどうか再び、互いに信じ合えたいと畏れ多くも祈り祀らん」

 

 細かい言い方は関係ない。要は一度裏切られた相手にもう一度の機会と、仲直りしたいと伝えるのがこの場合は肝心だ。

 神を相手に不純さは要らない。ただただ深く祈り、言葉を交わしていく。

 

 深く深く。この身を捧げても構わないほど真摯に向き合う。

 

『相分かった』

 

 どれだけ時間が過ぎたのか。目を開ければ死んでる筈のやもりが動いていた。

 目を白帯で覆い、身体に赤い線を入れたそれは、確かにかつての科目で学んだ姿と一致していた。

 そしてその言葉を理解して涙が出てくる。祈りが届き、奇跡が起きたのだ。

 

『瞑り。三度数えよ』

 

 言われた通りにする。

 

 一

 

 二

 

 三

 

 眼を開ければ、俺は布団の中に居た。

 

「…奇跡だ」

 

【ではリザルトと今回はここまで。ご視聴ありがとうございました】

 

 声もそれを最後に消えた。少しぼうっとして、はっと慌てて扉の方を見れば直っている。棚やその他は壊れたままだが、寧ろそれが夢ではないと俺に訴えていた。

 

「…分からない事ばかりだ。だけど…」

 

 晴れやかな気分だ。心の澱みがさっぱりと消えている。『家守り様』が返すと共に持っていったのだろうか。分からない。分からないが、今なら前に向かえそうな気分だった。

 

 これからの事を考える。『家守様』が住まう神棚を買って、休んでいた仕事も戻ろう。長い間休んでいたが、この仕事は人手が足りないから厳重注意で済む筈だ。そこは前よりも頑張ればいい。

 

「……よし、先ずは掃除からだ!」

 

 


 

 

ゲェム記録

 

2020年4月1日

 今日から特典の情報を整理するのも兼ねて記録をつけていこうと思う。

 ゲェムコインでガチャを回すとゲェムが出た。

 出たゲェムは裏世界探索ゲェム。PCは俺以外の転生者だった。

 裏世界とやらはゲェム越しでもヤバい気配を大量に感じた。

 考察:俺の左手はどうなっている?

 

 ゲェムの中で沙五間村の特徴と一致する土地があった。

 これは怪奇が多過ぎて全体の輪郭が分かったから判明した事だ。

 沙五間村、活字欠乏で昔、ゴミ出しされた新聞を読み漁ってた時に見た名前だ。

 かつての戦争、空襲で消えた村の一つだ。温泉が有名だったらしい。

 考察:裏世界は戦争で消えたものの集合体なのか?

 

 幸い死にかけの『家守り様』を遠目に見つけたから何とかなったが、「怪奇対応/神格/丙」のスキルがあったお陰なだけな気がする。

 考察:戦争が終わったのは65年前だ。

    何で生きている?何で戦争に連れてかれてるのに村に居る?

    位の低い神格なら死んでなきゃおかしい時間だ。

 

 健太さんはリザルトで「契約/『家守り様』」を手に入れて、ステータスが大体2倍になっていた。それでも2〜4しか無いけど。今日は眠いからステータスの項目は明日書く。

 考察:PCは1人だけで済むのか?

 

 上とは別に探索報酬に「怪奇探査」なるスキルを得た表示があった。対象の名前は霧晴千歌。俺だ。

 そういえば健太さんの【除夜の鐘】を『開けて』が奪ってたな。あれ大丈夫か?

 考察:このゲェムにデメリットはあるのか?調べよう。

 

 


 

 

「…こんなもんか。面倒だが、人の命がかかってるならやらなきゃな」

 

 時刻は午後23時。眠い。

 本当に、今日は大変な日だった。細かいことは後にして、今は明日に備えて眠ろう。

 

「あー、もしかしてこれ…」

 

 布団に入って思い至る。深く眠りに落ちる中、これからの事を考えて思わず呟いた。

 

「これが毎日続くのか…」

 

 呻くように俺は眠りについた。

 

 






霧晴千歌
 疲れて寝た。今までの人生で上位の修羅場だった。
相戸健太
 転生者。特典はどっか行った。心機一転頑張るらしい。

『地獄行き』
 バスに限らず地獄が終着点の乗り物全般の名前。乗ったら最後地獄行き。
『一声蛙』
 人の声を真似ていて、返事をしたら蛙になってしまう。
『蛭沼』
 蛭に限らず血を吸う蟲が大量に居る沼。蟲の魂が通る霊道の澱み。動く。
『軍旗の葬列』
 かつての戦争に駆り出された妖怪達の百鬼夜行。銃やらの武器に換装された化け物達。
『家守り』
 やもり。昔の日本はこの神様を末代まで祀る事を条件に家を守ってもらってた。戦争で全柱駆り出した。最近一柱蘇ったらしい。
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