関わりある人達とのあれこれ。
「ねえ霧っち!こんな噂って知ってる?」
「知ってるから言わなくていいかな」
「…霧っちがこの反応なら怪奇かー。みんなー!これ話しちゃダメな奴ー!」
「…え、今私を安全基準にした?」
教室で俺の反応で判断された時の話だ。橘が早速噂にしてたので知ってると言ったらそのまま広めちゃダメという情報がばら撒かれた。それはそれでコレは危険だってイメージが固定化されるからダメなんだよな。
「そもそもこんな噂って言い方で伝わると思うわけ?」
「…確かに!でも知ってる人はみんなコレで通じる…怪奇だー!」
「と言うか、誰から広まったのよその噂って奴。怪異って奴の仕組みからして罠でしょそれ?」
「それは分かんないけどさー…みんな新しい事には興味津々なんだよ。パパとママも職場で噂を聞いてるし」
「…まあ、新しい怪奇の情報は早めに知りたいものね」
「…一先ず見解言っていい?」
「「どうぞ」」
怪奇に関しての二人の信用がすごいな。何かこんなに信用される事したっけ。怪奇に遭ったら正確に対処してゲェム実況で解説した程度何だけどな。別に退治とかやれないからそっちは無理だぞ。
「知ったら幸せになるのはね、知らないと不幸になるか知ってると不幸になるって内容に裏返り易い。でもそう噂されなきゃ安全。持ってると幸せになる手紙とか言って広めて」
「え、広めるの?」
「どうせ夢で見た内容って感じで話したのが広まるし、それなら形ある物として広めた方が対処楽かなって」
「今後の事も考えないといけないのね…」
「そうなのぉ。広めるだけだと大惨事なんだよぉ?」
じとーっとした眼を真倉に向ける。幽霊になった後と生きてる頃を繋げるつもりは無いが、それはそれとして思う所はあった。
「…なんで私の方を見て言うのよ?」
「コレ広めた幽霊が真倉そっくりだったから」
「……わ、私のお母さんは死んで…無い…筈…よ?」
「うゆー?霧っち…もしかして原因知ってるー?」
「見たぁ」
だらだらと組んだ腕に頭を乗せながら言う。座りながら寝る姿勢だ。直ぐにどうこう出来ない以上、焦るのは禁物となる。だから意識して緩くやる事にした。コレはその一環だ。
「ゲェムの中から死んだ後の真倉が出て来たんだよ」
「…ウッソでしょ?別の星に行くなんて何百年先の話よ。其処に私が居る意味が分からないわ」
「かなたらの願いは未来から過去を変える為のゲェムだから簡単にこっちに来てねぇ…そのまま怪異の卵を解き放ったの」
「…倉っち?そういえば会社の仕事って」
「私がそんな事やる訳無いでしょ!!怪奇が増えれば我が社の需要は増えるのはそうだけどそんな事しなくても毎日大賑わいよ!!何もしなくても目の前の仕事は勝手に増えるの!!寧ろ減らしたいくらいよ!!?」
身を乗り出して真倉が息を荒げて弁解する。知らない所で死んだ自分がやらかせばそうもなるだろう。
「だよねー」
「まぁ、あのゲェムの繋がる先って真倉の予想と合わせて数百年後らしいし…そんな長時間宇宙船に憑いた霊なんて、中身がボロボロになって当然だからね」
「ボロボロってどのくらいなの?」
「んー?そうだなぁ…正義の味方が極悪人になるくらいかな。同じ事を言っててもその内容が全然違うから聞き流しても問題無い感じ」
数百年なら大体…スー◯ーマンやス◯イダーマンがハイルな美大落ちになる程度には変わる。どんな善人も虐殺に躊躇のない独裁者メンタルになる程度の変化だろうな。悲しい事だが、そうじゃなきゃ『性善説』に支配されている世代から『悪霊』が出てくる訳無いんだよ。
…いや、うん。寧ろ『悪霊』に成れた奴らは幸せなくらいだな。ぱっと見で手遅れなのが分かるんだから。分かりやすく堕ちるならまだマシ。悪人になるだけならまだいい。一番悲惨なのは、自分がまだ正気だと思い込んでる連中か、それすら判断つかなくなった連中か。
「まぁ、生前と一緒にするつもりなんてこれっぽっちも無いよ。死者は全て等しく、新しい生がより良い物となる様に祈るからね」
「…葬儀屋ねぇ。普段の様子だと想像付かないけど、其処の感性は送り出す人なのね」
「ウチらからするとやっぱり幽霊の生きてた頃と同じに見ちゃうなー」
「…コレでも休日は母さんの仕事手伝ったりしてるんだよ?父さんはコレからの予定だけどさ」
「あ、ウチ霧っちのパパに会った事あるよ!めっちゃ美人さん!」
「…お父さんなのよね?」
「うん。でも女の人にしか見えなかった!」
「…えー?」
懐疑的な眼を橘に向ける真倉を他所に、うとうととし始める。このまま寝るのは不味いのだが、頭を上げるのも怠くなって来た。昼休みがこのまま終わるのは本意では無いし、まだ噂の怪異達の話も終わってないんだが…仕方ない。誰だって眠気には勝てないんだから。俺はいつだって眠気に負ける用意は出来てるぞー?ジョジ◯ー…。
「…あれ?霧っちー?」
「……寝ちゃってるわね」
そういえばゲームコインはどうしようかな。夏までに使うべきか、取っておくべきか。ぜんぜん決まらない。いや本当にどうする…べきか…。
【縺阪∩縺溘■縺ォ縺ッ縺帙°縺?r縺?¥繧上○縺セ縺ャ】
「あびゃあ?コレもうワカンねぇな?はーっ!チンチンチンチンジャワジャワジャワ!!」
コレは…懐かしい。俺が転生した時の記憶だ。あの時はみんな黙って動いてない中只管駆けずり回ってっけ。なんかめっちゃ怖いのに追いかけられてた感覚があるんだが、何だったっけな。転生させる神様がヤバいって考えてたのは覚えてる。良い神様だ…でもこの世界に転生させたのは許せないよな。
【縺イ縺ィ縺ゅ£縺セ縺夲シ溘∴縺阪∪縺吶?ゅ◎縺薙↓縺吶o繧翫∪縺】
「チート!ゴリラ!ウッホウッホウホホラッホラ!」
奇行なんだけど…みんながガチャガチャで特典決めてる間にこんな事して、正直醜態ではあるんだけど、じゃあやらない方が良かったとは不思議と思えないんだよなぁ。こう言う時何か脳に植え込まれたとか物語であるけど、じゃあお前はってそうだったかと言われると…微妙?否定も断定も自信ないんだよ。
【縺?∪繧後∪繧九※繧ゅ°繧上j縺セ縺帙s縲ゅ◆縺吶¢縺ヲ縺上□縺輔>縲ゅ∴縺阪∪縺励◆】
「ぽぴでばびでぶーw鑑定解析強奪回復模倣反射反響宣託執行憑依殲滅鬼龍王冠幻想……兄貴!」
あ、捕まった。そうそうココだよ。この時の捕まった瞬間だけ何に捕まったのか辿り着けなくてな。だから脳をチクチクされたのを否定できない。死んでて脳無いけどさ。…もしかして俺の死因が二つあるのこの時のせいじゃ無いか?ほら、災害の時本気でやってる時だけ脳の眼とかあったしさ。
【諤悶¥縺ェ縺上↑繧翫∪縺吶?よュ」豌励?縺セ縺セ縺ァ縺吶?ゅ@縺、縺帙▽縺ェ縺輔★縺代b縺ョ縺ァ縺九s縺代▽縺】
「はーっ!げんま!げーま!ぶへへへ!!」
いやぁ酷いもんだよな?幻覚なんて何処にも無いのに。怪奇も何もかも、眼で見えてるのは全部実際にある事なんだからさ。
【で?大丈夫になった?】
「オマエだれてわす?此処に来てませんか?終わりましか?見てます」
【よし、ちょっと死にやすくなるけどいいだろ。そこのガチャ引いて特典貰ってこい。コレから役にたつだろうから】
「やぬはくなく。変えたいです。
【ほら、背中を押してやる。がちゃんとすれば良いから。そしたらまた生きて、死ねるだろうよ】
「ついてくる人ですね。言葉が連なってます。可能性です。あり得なかった事です。みんなを連れていくのですね。先頭です。見えてます。回しますと歪みます」
がちゃん
【ゲームガチャ…お前、運ないな。コレからの人生苦労するよ。御柱と同じくらいさ】
「いっぱいですね。みんなです。最後でした。手遅れです?手伝ってください。伝って進みましょう?終わりを変えたいですか?何でもしましょう。それがだきしでしょつ。きざみまさ」
【それじゃあ、良い人生を】
「──宣誓」
「過去を見つめ、滅びを断ち切り、可能性を信じ、世界の存続を」
「それこそが我々である──いにょ」
「おーきーろ」
「むぎゃ」
デコピンの衝撃で目が覚めた。どうやら午後の授業が始まっていたらしい。転生した大人として、実に情けない話だ。
「…ごめんなさい。寝てましち」
「俺に謝る必要は無いし…しちってまだ寝ぼけてるな」
「あ…桐根くんか。先生だと思った。ありがとう」
「別に。ほら、そんな事より教科書だせよ」
急いで教科書を出し、授業に耳を傾ける。国語の授業だったから問題なかったが、コレが生活とかだったら大変な事になってたな。
そうして漢字をノートに並べていると、前の席から先生にバレない様にコッソリと何かが渡された。何かと思いながら見ると、ピンク色の手紙。広げると「恋の秘訣」と言うタイトルと共に此処で告白するとOKを貰える樹の噂が書かれていた。
『恋の秘訣
仲を深めてから言うべし。
同性なら誘導してから。
朝にしか現れない樹の下で告白すると必ず成功する。』
「…小学一年に広まっていい話題じゃ無いよなコレ。怪異ってすごいな…」
持ち続けてもその内勝手に消えるから先生に見せる事は出来ないし、何かやれる事は…手紙に書かれてる内容を付け足すくらいか。文字の癖を真似て…
『恋の秘訣
私は恋を知らないけどこう聞いた。合ってる?
仲を深めてから言うべし。
同性なら誘導してから。
朝にしか現れない樹の下で告白すると必ず成功する。』
よし、明後日の方向に向かっちまえ。俺は手紙を紙飛行機にして、窓から外に投げた。一階だから他の人には当たらない。が、地面についた時には既に手紙は無く、何処かへと消え去った。
その内高学年の間で恋を知らない女子の正体探しがその内始まるだろうが…コレで形を持ってくれるなら万々歳だろう。噂なんて、初動をコケさせれば簡単にしょうもなくなる。
「そして授業も終わって放課後になったんだけど…」
「委員長!校舎横の畑に集合する様にと先生が!」
「いやぁ、急だな…待ってね今行くから」
校舎横、校門の方とは真逆の場所にある百葉箱と畑、それから侵入者対策の樹木に囲まれた場所に着く。既に皆んなは各自作業を進めていて、監督している座式先生の雑さが垣間見得た。
「…粉埋める奴、私の筋力じゃ出来ないんだよね」
俺は用意されたスコップを持ち上げようとして、ズルズルと引き摺りながら佐々木が高学年の子達と一緒に耕す畑の端っこまで進んだ。重たすぎるので一旦手を離し、休憩する。
「委員長!流石にスコップは持たなきゃ不味いです!」
「でもさー見て?この手と足のプルプルを。良い天気でも厳しい物がある」
「…信じられないです。確かに体育もいつも休んでましたが…何でそんなに非力なのですか?」
「分かんない…」
お陰で体育はいつも最後には見学になるからな。準備運動で滝の様な汗が出るし、校庭一周するのに結構時間かかるし、運動との相性がとことんダメなんだよな。
「でも頑張るよ…おっっも…い」
どうしてシャベルの先は鉄で出来ているのだろう。てこの原理で土を持ち上げる事は出来ても退かすのが出来なかった。
「…ああもう、では霧晴ちゃんはシャベルでこう…今日は一先ず何かやるんです!」
「おお委員長呼びじゃ無くなった…でもその指示はふんわりしてないかな」
威厳を一瞬で暴落させる代わりに、俺は作業を除名された。帰れるかなと思ったが、コレから教える側になるかもだからとそのまま見学する流れとなり、みんなが灰を埋めるのを眺める側となった。
「先生、見学に回されましたぁ」
「…こうなるかなーと思ってたが、本当に見学か」
「座式先生、分かってて呼んだんですか」
「まー、言うよか見せた方が皆んな納得するし…それに一回は立ち会う決まりだったしな」
暇なので作業を見守っていた先生に話しかけた。月末の時は先生も一同揃っていたが、この場に居る先生は座式先生だけだ。埋めるだけなら高学年も居るし、初回だけ見て後は学生に任せる事も出来るんじゃ無いかと思うが…それで雑な仕事をさせない為に此処に居るのだろう。
手隙に最近多い雨で湿った土を踏み、濡らさない様にする条件に引っ掛かるか検討する。
「土の湿度なら心配すんな。新しい土敷いて、その上にも土被せるからな」
「そしたらあのビニールシートで畑を覆うんですね」
「そう。10日もすれば問題ないのは分かってるからな。そうすりゃ授業にも使える土になる」
「灰の量は大した事無いですしね」
畑の横で巻かれたビニールシートを見て言う。複数のスコップに新しい土に手順。積み重なった経験則による最適化だった。
「全く…先生忙しいのにこんな事までさせられるなんて酷いよなー本当」
「あはは…でもみんないい子ですよ。授業の準備が大変なのは…否定できないですけど」
「霧晴、お前もその一人だろ?授業で寝落ちしてる委員長がどこ目線だー?」
「あっはっは…」
痛い所を突かれたので眼鏡の位置を直しつつ笑って誤魔化す。今日の5時間目の最初に寝ていたが、初犯じゃ無いのが傷口を広げてて痛かった。知ってるとねぇ、平和なのもあって眠くなるんだよ。これ転生者なら全員抱えてる悩みだと思うんだけどどうだろうか。
「あ!先生、そう言えば何で私委員長にしたんですか?私以外の方がこういう時良かったんじゃ?」
「誤魔化し下手だなー?」
話題を変える為、強引に質問した。でも実際、こんな運動出来ない族より普通に元気に走り回れる子の方が良かったんじゃ無いかって思うんだよな。
「確かにな?霧晴は走り遅いし体硬いし体力無いし筋肉ゼロ系女子だ」
「ストレート豪速球だ。泣きますか?」
「だが、ダルマの時に胆力が有った。冷静さもだ。災害の避難時だって周りの泣いた赤子の世話をする気配りもあった。怪奇に対して大事なのは武力じゃ無い。付き合い方だ。お前はその手の良さがあった。だから選んだ。それだけだ…よし!お前らそろそろ土敷いて灰撒けー!いいかー!土の後に灰だぞー!」
頃合いになったからか、先生は掘っている子供達に声をかけて次の工程に進めていく。そこからは先生も作業に入り、あっという間に全てが終わった。やっぱり大人が入ると速さが違うな。
…にしても先生、思ったよりちゃんと性格とかで判断してたんだな。怪奇災害での数日の避難生活なんて先生とても忙しそうにしてたっていうのに…葬儀屋として赤ちゃんに憑こうとする奴らを寄せ付けない儀式してただけなんだけど気にかけてくれてたのか。
「…ぶへへ」
「ふー!いやはや、疲れましたね!霧晴、先生と何を話してたんですか?」
「んー、雑談」
「いいご身分ですねー」
「それはそう。佐々木ちゃんもお疲れ様」
「…もっと褒めるべきではー?」
「よっ!素晴らしい働き者!すごーい穴掘り職人!助かったよー!ありがとう!労働者栄誉賞受賞もの!」
「えへへ!悪い気しませんね!」
俺の分まで働いてくれた佐々木を労りつつ、一緒に帰宅する。途中、雑木林から聞こえる猫の鳴き声に佐々木が誘われるが、捨て猫では無く『猫あやめ』という怪奇だったので足を引っ張ってでも止める。
『にゃー』
ずるずる
「離すんですよ霧晴!猫が私に助けを求めてるんです!」
「ダメぇ!それ猫を主に食べる肉食系植物の怪奇ぃ!落とし穴に落として食べるから私らも死ねるタイプぅ!」
「霧晴ぇ!だったらその胃袋から猫が助けを求めてるとなぜ分からないんですか!」
「鳴き声の偽装だよぉ!私眼以外に耳でもそういうの判別できるんだよぉ!」
『にゃぁ…』
「でも…猫が!」
「私には空腹時のぐぅって音と同じに聞こえるよ」
幸い雑木林には入ってないが、アスファルトは服のほつれを作るのに充分だった。俺の服に大ダメージを作りつつ、異常猫愛者の佐々木を引き留める。コレばっかりは命に関わるから俺も必死だった。
「じゃあこうしよう!私が先導するから佐々木ちゃんはその後ろを進んで決して前に出ない!コレ以上此処で一悶着して時間が過ぎるのも不本意でしょ?だからここを妥協点に納得して!」
「むむむ……致し方無しか…了解です」
「よし…」
こうして雑木林を進んで暫く、『猫あやめ』の側に来たので佐々木にいい感じの石を投げる様に指示する。すると、石が投げられた獣道だった場所に牙が突き立てられ、一瞬で飲み込まれてしまった。
「うわー!本当でした!」
『にゃあ』
「よし退却めっちゃ怒ってるからさっさと離れる!」
「うわー!…霧晴ぇ遅いですよ!」
「この獣道を私が走れるとでも?」
『にゃあ』
「…えーい私が言い出して始まった事!手を引きますので怪我するのは我慢ですよ!」
「うわわぁぁぁ…」
引き摺られながら雑木林を抜け出し、安置のアスファルトの上に辿り着く。後は牙の範囲内に近づかず、枯れるまで待てばいい。枯れるまで50年掛かるけど。忘れた頃に来るから注意しないといけなかった。
「はぁ…はぁ…ごめんなさい、霧晴。あなたの言う事が正しかった…です」
「…………うん」
「…ああ!霧晴の服がボロボロに…前は私が守ります。…お家まで送らせて頂きたく」
「大丈夫。靴に土がすごい入って虫の蠢きを感じてるだけだから…それ以外気にして無い」
「靴を脱がさせて頂く所存…!」
「くるしゅうない…」
アスファルトの上をうつ伏せになってこの世を黄昏つつ、今後50年は『猫あやめ』は生きてる事を伝えてその日は帰る事ができた。
服?いい奴だったよ。白と灰の二色で、破けて胸元がゆったりになり胸と臍が露出するコーデになってた。今は俺の裁縫手腕で雑巾に加工した。コレからよろしくな、雑巾。
「ただいまー…千歌、その雑巾はどうした?」
「父さん今日は早かったね。今日着てた服の前が真っ二つになったから雑巾にしたんだ。コレから洗面台に置いとく感じ」
「そっか。…千歌、聞きたい事があるんだけど」
「んー?なにぃ?」
雑巾を洗面台の予備置き場に置いておく。不本意にも荒目になったから吸水性も汚れ取りにも有効な生地だった。父さんは巫女服のまま椅子に座り、腕を組んで真面目な空気を出し始めた。
「今度俺の仕事手伝いに行きたいって言ってたろ?…あれ、本気か?」
「うん。私のよく見える眼って珍しいでしょ?母さんの仕事の手伝いは上手くやれてるし、なら父さんのもいけそうだなって」
「危険な仕事だ。昔の人が積み重ねたノウハウも無い。確かにそのよく見える目はすごいが…千歌はまだ幼いんだ。其処まで頑張らなくて良いんだぞ?」
「父さんは私が長生き出来るって思ってるの?」
洗面台から顔を出して父さんに近づく。笑顔は絶やさない事を意識する。本音は心の棚に幾つもあるが、今回はその中の一つを取り出す事にした。自分の意見を押し通すなら、何でそんな事を言い出したのか答えないといけないからな。
「私はね?どうやっても無理かなって思う。だから今出来る事を全力でやりたいなって。手伝える事は全力で手伝って、自分の為にも誰かの為にも頑張りたいんだ」
「…だから父さんの仕事も手伝いたいと?」
「うん。父さんの仕事は危険でしょ?ならさ、母さんの仕事より情報がとても大事になる。だったら私の眼がとても役に立つんじゃないかなって思ってさ」
「千歌、それで危険な場所に連れてく親は居ないんだ」
「じゃあ父さんはいいの?そんなに危険な仕事なんでしょ?だったらさ、母さんも不安なんじゃない?いつ父さんが死んじゃわないかって。死んだ父さんを成仏させる人、母さんなんだよ?ならさ、私も連れて行って二人一緒に帰った方が良いんじゃない?」
「千歌お前口上手いな…だけど、千歌。その理屈だとお前を連れて行く事を視野に入れる神格相手、それって普段俺が相手する神様より危険な相手って事になるよな。二人仲良く死んだら母さんヤバいだろ。やっぱりダメだな」
「父さん、ダメという結論を先に置いてるね?だったら私にも考えがあるよ」
「何だ?母さんに泣きついてみるか?俺は反対だぞ」
「ここにゲームディスクがあります」
「…なんだその悍ましい気配の奴は」
「母さんと同じ事言うね。簡単に言うと未来の怪奇が襲来するタイプの怪具です」
「……父さんもう頭痛くなってきたぞ…呪いのゲームか?」
「つい先日、私は5年後に死ぬ事が確定しましたぁ」
「ばっっか!!」
父さんが机を叩き、その動作に反応させて『家守り様』の祝福でかなたらの願いを包んで浄化を狙うが、机に円を描いた燃え跡が出来るだけで終わった。家は火事に弱い。『火卵』の収容効果による反撃だった。
「…なんで相談しなかった」
「うーん母さんと同じ反応。いやー不意打ちでね…言ったでしょ?どうやっても無理かなって。なので出来るだけ頑張ろうねって感じで手伝わせてください。ワンチャン助かる可能性がそこら辺にあるんだよね」
「…お前、未来見える?」
「少なくともこのゲームでどうやって死んだかは見えた。そしてそのどんでん返しに必要な怪奇も見つけた。でも説得無理っぽいなら諦める。出来たら良いなって感じで今父さんを説得してた。で、父さん」
「おお…もう」
なんか父さん頭抱えてるな。別に俺は無理に生きたい訳では無いし父さんが嫌なら普通に諦めるよ。俺は2度目の人生はあんまり執着してないタイプの転生者だからな。でも普通に生きていたいのは本当だから通して欲しい。
「私はその危険な場所に行かないと死ぬ訳だけど…それでも行かせない?」
「この…それを先に言え!」
「私は案外その手の説明は下手くそなんだよ!」
「呪われたから助けての一言をこんな回りくどく言うな!」
「はっはっは!娘が死ぬのが口惜しかったら仕事場に連れて行くんだな!私は結構呆気なく死ぬぞぉ!実際見たからね!」
あの幽霊真倉の放った噂、碌な結末にはならないけどそれでも俺がどうやって死ぬかはしっかり伝えてきたんだよ。
『ちかくし』っていう千歌苦死と知覚死のもじりみたいな名前のやつなんだけどさ。あれ、自分の死に方を教える怪異。世界の真実はお前の死に様でしたって感じの。
通常ならその死を逃れられない訳なんだけど、ゲェム越しだからか例外的に逃れられた。代わりに怪異が成長し切る5年後が終わりになったけど。でも5年なら怪奇災害の時より余裕ありすぎだから余裕に見えるんだ。これは差別では無い差異なんだ。
そんな事を考えていたら父さんが急にぎゅっと抱きしめてきた。冷たいが、あったかいとも感じるから不思議なものだ。
「…千歌、死ぬな」
…不器用な人だな?色々言いたいだろうに、出てくる言葉がそれだけなんだから。転生して2度目の人生なのに、それしか言えないのは娘として文句を言ってやりたいな。
「…できるだけやるよ」
…吐けた言葉がコレなのは娘失格だな。言う程俺もダメな方だった。文句とか全然言える感じじゃなかった。でもしょうがないだろ?親より先に死にかねないと親に言う経験なんて、初めてなんだから。
霧晴千歌
いつ死んでも良いように準備は終えてるタイプ。
霧晴健太
いつ死んでも良いように遺書は書いてあるタイプ。
佐々木三千代
猫を三匹飼っている。今後飼い猫を雑木林に近寄らせない方法を思案中。
座式先生
生徒の性格の把握は意識してやってる。自作生徒名簿の書き込み量がエグい。
『都市の噂』
最近広まってる都市の噂は7つ。修正はまだ効く。
『都市の病』
怪異の段階、噂の一つ上に4つ。変なのが形になり始める段階。この段階まで世間で広まると国も認知して揉み消そうとする。
『都市伝説』
世間に認知され、大枠の能力が確定してる怪異が79つ。連絡があった場合や国の指示で怪対員が動く。
『消えた夢』
怪異であると忘れ去られ、その影響が無くなる事による怪奇現象が3つ。全てに日常として受け入れられるという怪異の望む夢。『黒谷』『夜空』『火山』
『猫あやめ』
別に猫じゃなくてもいい。空腹時に猫みたいな音を出す筍の仲間の妖怪。