怪奇ばかりな日常とゲェム記録   作:何処にでもある

22 / 72


 どうやって本と新聞代を稼いでいるか




日常-お小遣い

 

 

 休日になったので早速ゲェムを立ち上げ、始めたい所だが…その前に一つやらなきゃいけない事があった。幾つかの作戦を考えてからカセットやディスクを持って電車に揺れて1時間、東京の丸の内に降りて、鏡で見たことある人とすれ違いつつもちょっと歩いた先、職人芸が光る豪華な神社が俺を出迎えていた。

 

「千歌、此処が俺の職場だ」

「わぁ一番偉い人の場所」

 

 自分の命を使った脅迫という搦手によって俺は、『昨夜様』の神器を得る為に父さんの職場に来ていた。ゲェムで見た様なオフィスとかを想像していたんだが、時間が経ってるからか別物だった。ノウハウも貯まって神様を相手するにはそれ相応の格や雰囲気が求められるのが分かってきているのだろう。

 

「昔は各地のオフィスを借りて寝泊まりして、それから現地に行ってたんだけどな。鎮めた神様の方が多くなると各地一柱ずつ相性の良い一族を宛てがう様になってな」

「うちの近くの『鎌蛇様』の神社とか?」

「なんだ知ってるのか?あれ驚いたなぁ…俺の上司と部下が恋愛結婚して、それで相性の良い神様を占ったら母さんの住んでる土地の神様だったんだからな!」

「宛てがうの父さんの仕事なんだね」

「まぁな。あちこちの神様と縁を結んだ分顔が広いんだよ。力を借りるのは『家守り様』が基本だけど、時間掛かれば大体の神様の力を借りれる。父さん、結構凄いんだぞー?」

 

 俺が来るのに反対だった父さんだったが、いざ来てみると結構色々と教えてくれていた。一緒の家に住んでるのにいつも帰りが遅くて時間を取れなかった分、この機に仲良くなろうとしているのだろう。

 そんな事しなくても俺は父さんの子供なんだし、もっと距離縮めても…ここでやるのはマズいな。見られてる…いや、それ以前に俺が攫われそうだな。取り敢えず父さんには後ろにいる俺を小まめに確認して欲しいな。

 

『美しき(まなこ)の姫よ。我が最も素晴らしき衣を渡すが故に、我が生涯の妻となっておくれ』

 

「へー。じゃあこの十二(ひとえ)の贈り物は?重くて動けないよ」

「待った。何が…え、俺の知らない神器が目の前にある」

 

 重さの無い布、水の輝きや火の穏やかな光などの、十二種の光を生地にしたものを重ねた服の重さで俺は動けないでいた。光なのに重いな。素晴らしいけどこれ裸の王様みたいに見る人によって変わるから服の機能としては不全だよ。それに足元に何かあったしさ。

 それに、光を操れる力は凄いけどそれで生涯瞬きせず太陽を直視しないといけない生活は嫌だな。光を織るのに俺の眼を機織りに取り込みたいって意図は理解しても拒否一択だよ。

 

「それで、『福衣番の明経様』ってどんな神様か知ってる?私を生涯の番にしたいって聞こえるんだけど」

「ちょっと待ってね今返上と交信するから」

 

 父さんがばしばしと大幣(おおぬさ)、先に紙があるお祓い棒を俺に向けて振って、幾らかごにょごにょと呟いた後、柏手をして俺を包んでいた十二単と共に『福衣番の明経様』を元の土地にお帰り頂いた。

 

「よし、此処はあちこちの神様が気軽に来れる場所だから気に入られ過ぎない様にするんだよ。…普段だと俺ばっかりなんだけどなあ?」

「父さんいつもこんなナンパに合ってるんだね」

「こら、そんな事言わない!…ほら、父さんの身体凄いからさ」

 

 普段は父さんの方にこの手の話を持ち掛けられるらしい。無理も無いと思う。裏世界から帰還して全能力2倍だし。

 アレから数字の基準を考えたんだけど、多分あれ1が普通で突出して凄いのが2〜って感じっぽいんだよな。木香証くんの奴から考えるとさ。そう考えると2と4が多い父さんは超人に値するのだが、餓死耐性持ってる両性含有は超人で良いと思う。神様もメロメロだな?

 

『綺麗な眼、寄越せ』

 

「ねぇ眼が欲しいって『荒蒔の渦潮様』が言ってるけどどうしよう。代わりに今後千年の開拓の成功を約束するって考えてるっぽいんだけどさ」

「どうして父さんでも片言しか聞こえない言葉を言葉の裏まで読み取れるんだ。待ってなさい。名前と考えさえ解るなら幾らでも言い包められるから」

 

 こうして、それから何柱かに眼を渡す様に交渉されつつも俺は神社の中に辿りつけた。コレ俺じゃなくて眼が魅力的なんだろうな。この脳にある眼、見た物を理解するのは自力でやる必要があるからそう便利でも無いんだけどな。神様から見るとまた違う様だった。

 

「俺分かった。千歌、お前の見るはただ霊感があるだけじゃ無い。何か特別な物の視覚なんだ」

「聞こえもするし触り心地もあるから正確には五感全部だよ。左手の事もあるし、多分眼って単語を使ってるだけで脳全体の問題なんじゃ無い?父さんの娘は凄いのでしたって奴だよ」

「俺お前にはただ幸せになってくれれば他は何も要らなかったな…」

「まぁ不便の方が多いのはそうだけどさ、私は今でも十分すぎるかなって」

 

 本殿の中を誰かとすれ違いつつ進み、父さんの服の内側に隠れつつあちこちでゆったりしてる神様に見つからないように進む。神様を鎮めるって言うとバトルとか想像しちゃうけど、どっちかと言うと千と◯尋の湯婆◯の風呂屋みたいな癒し空間だな。

 実際に見て分かったけど、普段から大人しくして貰うにはこうして神様を満足させるおもてなしが必要な様だった。

 てことはあちこちの神社を家とすれば、ここ東京の豪華な神社は観光地やスーパー銭湯に近い役割か。そりゃあ神様が来やすいし、送り返しも簡単だ。迷惑客は暫く出禁という感じなんだろう。

 こっそり顔を出して見ると、入り口の明るさが落ち着いて薄暗い場所に出る。人が使うには不自然なほど大きく作られた個室には神様の異形の影が漏れていて、そこからぼんやりと光る蟲が出入りしていた。さっき通り過ぎた人の影は無視した方がいいな。

 

「それにしても湯気…というより…蟲が多いね。魂の蟲ばっかり漂ってる」

「ここは食事の間だよ。食べ放題って奴。母さんの仕事で魂が元々虫にしか無かったのは知ってるだろ?だから魂を食べる神様には人のより蟲の方が美味しく感じるんだよ」

「生贄かぁ…でもそうだよね。400年より1400年妖怪や悪魔に品種改良された歴史の方が良いに決まってるか」

「神様が出てきたの、10年ちょっとだからね。最初から魂がある世界なら流石に人の魂なんだろうけど…この世界、蟲の方が魂の歴史も美味しさも上らしいから」

「この世界って…まるで別の世界があるみたいな言い方だね」

「…それはーぁ」

「父さん鋭いね!別世界あるからねぇ…父さんに話した呪いのゲェムだと未来の人類、別の世界行ってるし。知ってる?怪奇現象の法則って別世界から流れた物なんだよ!」

「え、え?あ、うんそうなんだ?……え、マジ?」

 

 父さんが呪いのゲームの影響範囲やっばいだろコレと眉間に皺を寄せて困りつつも、食事の場所を抜けて人が忙しなく働いてる場所に出た。コレまでと違い現代的なデザインで機械も置かれていて、どうやら此処がバックヤード的な場所だというのが察せられた。

 

「おはようございます!異常等の報告有りますか!」

 

 入ると同時に父さんがそう言って一番目立つ席に座ると、何人か集まって父さんに報告し、それに対して父さんが次々に指示や対応を決めていく。緊急手術をする主治医みたいだなぁと思いながら近くの椅子に座り、その書類を覗いてみた。

 どうやら各地の民間からの神格が居るという報告書類の束らしく、本当にそれが神格かも未調査の重要度の低いものらしい。幽霊や妖怪や怪異と違って、神格は直ぐにどうこうする相手じゃ無い。動きが鈍くなりがちなのがこうして形に現れていた。

 

「三重県のある市の神格がいるかもしれないという通報…『玉蟲様』、キャンディ持って鎮めればいい。北海道…『雪町落丁』は妖怪の住処、良い服用意しておけば攫われないっと。東京『鯨蟲』は…見ちゃったかぁあの飛んでる大群を。幽霊だから一課だね。同じく東京『地中の誘い』は3日前もう人生諦めろ。嫌なら今すぐ忘れる手段を用意して記憶飛ばしておく様に…」

 

 知らない奴はそっち側の方角見て直で確認すればいいからな。どれだけ視界に入るのが小さくても脳に入ってくる怪奇の特徴や仕組みの情報量は変わらない。

 普段は晴眼での生の眼に意識を寄せてしっかり見ない様にしているが、やろうと思えば怪具売りの店に行った時と同じくらいの負担でやれなくは無かった。

 

「パソコンのパスワード…『赤テレビ』対策に怪奇使ってるから丸わかりだよっと…後は報告各所連絡してぇ…はい終わりぃ」

 

 いやぁ、我ながら怪奇が絡んでたら大体分かるのがどれだけヤバいのかこういう時実感する。知らないパスワード分かっちゃうんだよな。普段から見えてるから感覚麻痺してるんだけど、前世の感覚で測れる場面になると反則っぷりがよく分かる。

 何で【ゲームガチャ】よりチートやってんだろ。特典でも無いお前がどうして?

 

「…千歌、放ってたのは悪かったが…血涙出してるのは何だ?今何をしてた?」

「廃棄予定だった依頼の代理処分。血涙はちょっと遠くを見て眼が痛くなっただけ」

「…わあ全部一から十まで対処法書き込んだ上で送り返してる。どうやって知る事が出来たか後で問い詰められるぞこれ…」

「…ダメだった?」

「いや、ダメじゃ無い。ただ後で父さんをご贔屓にしたい人達の連絡先が増えるのが確定した」

 

 …ダメな奴だなコレは。今の俺父さんが連れてきた子供で責任は父さんにあるし、母さんの時と同じ要領でやってみたんだが…いや母さんの時はパソコンや書類じゃ無くて直接見て教えてたからちょっと違うか。見て伝えるのは変わらないから俺の感覚だと違いが分からなくてダメだな…。

 

「…ごめんなさい」

「いや、千歌が謝る事じゃ無い。元は何もする予定のなかった物だ。コレを正しい管轄に渡しただけでも十分なのに、それ以上の仕事をした。大丈夫、千歌はちゃんと役に立ってるよ」

「ん…なら『昨夜様』の神器欲しい」

「おっととんでもない物要求するねー!」

「元からその為に来てた…さっきの一二単みたいな神様の作った作品、頂戴」

 

「お、さっきから身を屈めて何をしてるかと思えば…神主の娘ちゃんじゃないっスカ!」

「わぁ」

 

 神器、それは神格が創り出した物理法則もあった物じゃ無い神様独自の法則の下動く道具だ。どれも神格側から渡さない限り手に入れる事は出来ず、手に入れた者は例外なく破滅している人の手に負えない物である。それを求めた所、後ろから急に抱き抱えられてくるくる回された。

 

「んー!お日様の匂いっスネー!さっきまで光の神様にでも会ってました?ダメじゃないスカそんな危険な場所に連れてくなんて!ウチの子になるっスカー?」

「まぁー!まぁわぁるー!」

「…橘、回すのはやめてやれ。千歌はそれで吐くタイプだ」

「え、じゃあやめます…あれ、この子眼から血が」

「あう…」

「うわグッタリ!救急車ー!」

「いいから」

 

 座って眼鏡をかけ直し、それから眼から出てた血を取り、その間に橘のパパさんへの説明が終わった。視界が気持ち悪い…。なんか神様と会話してる俺が見えるし…。

 

「はは…ごめんねー?俺の名前は橘上己(じょうこ)!お父さんの部下やってるっス!君が霧晴さんの言ってた可愛い娘さんっスヨネ?わー小さい!」

「どうも、霧晴千歌です。この度は『昨夜様』の神器が欲しくてお仕事手伝いに来ました」

「強欲の化身ー!」

 

 そのまま中年チャラ男もとい上己さんもとい橘パパは父さんの肩を組んで連れて行き、ボソボソと相談事をし始めた。

 

「霧晴さん神器は秘匿事項っスヨ?何教えてんスカ?」

「教えてない教えてない。千歌は眼がいいから全部見て聞いたんだよ」

「眼がいいってなんスカ?なんか憑かれてる系?」

「何と驚き原因不明。俺も百葉に聞いてたけど、今日そのヤバさを実感してる所だよ…」

「え、こわ…そんな事有ります?怪奇かも分からない?」

「うん。色々見せても眼の方は分からなかったんだと。左手を調べてやっとそれっぽいの分かったくらいだって」

「手?そういや千歌ちゃん片手だけ手袋してるっスネ…まるで甲の人達みたいな厄ネタ宝物庫っスネ?」

「…今日此処に連れてきたの呪いのゲームで五年後に死ぬの確定したからだったりする」

「うっわ。じゃあ神器求めてるの対抗策っスカ…神器が必要な呪い!?」

 

「…神器の封印室見っけ…『昨夜様』の奴無し…じゃあ…あ、居場所バレた。…どうも」

 

 さっきから暇なので目的の物を探してたんだけど、普通に『昨夜様』に見つけられた。目線が合ったので会釈しつつ、コチラに向かって来てるので正座して待つ事にする。時間関係の相手に逃げられるとは思わない方がいい。

 

「わぁこっち来る…ならプランAだな」

 

 それに、こっちに来たのならプランの一つ、交渉案は成功するって事だからな。

 

 轟音、人の叫び声と神を宥める声、それら全てが逆再生されていた。

 

「!ヨスッるげ逃!んゃち晴霧」

「!歌千」

 

 『昨夜様』は名前の通り時間の神様だ。姿は無くてもそこに居るだけで全てが巻き戻り、周りから12時間ずらしてしまう。まぁ、上限のある逆行である。

 

「畏れ多くも小さき者が問いかけます。600年巻き戻す力か70年前から存在していた事実のどちらかを渡せるので代わりに神器ください」

 

『‭─‬‭─‬‭─‬‭─‬‭─‬』

 

 耳鳴り、怒り、自分の姿を最初に見て聞いたのが自分では無く俺なのが腹立たしいらしい。狂ったラジオみたいな聞こえ方を自分の物と思えるのは謙虚だな?

 問いかけを信じられるかは問う必要は無い。相手にとって時間は並び立った物。ちょっと横を見れば出来るかどうかは見れるんだからな。

 だからこうして望外の機会を逃したく無くてこっちに来たんだ。会釈した時に無視されなかった時点でこの話は成立する。

 

「それはそれは、ですが私の眼に映る姿を見れば、それが最初でしょう。私の耳に響く音を聞けば、それが最初でしょう。私はそれ読み解く時間がありますから、その怒りは勘違いでしょうね」

 

『……‭─‬‭─‬‭─‬‭─‬‭─‬』

 

「その意に反してません。時間は貴方の物なのですからどうして私が動けましょうか。きっと浮かされたのでしょう。新しき自分への期待、そういう熱にです」

 

 。なにのい良ばれすに様るきで御制りかっしかとし回逆の間時いなれ取き聞も分自。なよだんるれ疲ものるえ考ものす話に逆。なかいならわ終話ろそろそ

 おっと、失礼しました。目の前にいるのは逆回しのブリキでは無く、ただの人ですよ。

 

『‭─‬‭─‬‭─‬‭─‬‭─‬』

 

「はい、ではその様に。70年の過去へ貴方を送りますね。それではこちらの本の入り口にお入り下さいませ」

 

 手にカセットを挿す。食事の間を通る。本に変わる。神社の入り口を通る。そこに神様が入り込む。神様達にナンパされる。十二単に隠されて置かれた神器を拾い、同じく本に入れる。駅を出る。カセットを抜き取り、時間は正常に稼働する。

 

 がたんごとん

 

[次はー、丸の内ー。丸の内ー。お出口は左側です]

 

 カセットをポケットに入れて、誰かにバレる証拠は全て消えた。目標達成だ。

 

「よし、それじゃあ千歌。そろそろ降りるぞ」

「うん。そうだねぇ」

 

 2度目ともなれば慣れたもの。父さんの足の速さには敵わないが、前よりは人混みを簡単に抜けられた。

 

 ぷるるるる

 

「…ん?千歌、ちょっと待ってくれないか?」

「うん。それお礼の電話だろうから良い感じにどうもどうも言うと良いと思う」

「…変なアドバイスだなー。あ!もしもし怪対員神格対応甲級霧晴健太と申しますー!」

 

 まぁ、時間が戻るのはここら一帯だし、俺がやったメールや情報は各地で残ったままだからそりゃこうなるか。人が出せる物じゃない時間の対価なんだし、対価を払うその影響を考えると頭が痛くなるが…こんなすごい神様の神器を使い捨てにしなきゃいけない事態の方が問題だった。

 

「…はい!はい!いえいえそれでは!…何だったんだ…あれ?15時?」

「さっき時間の神様が通ってたからね」

「…今の状況から…『昨夜様』が来訪したのか!て事はさっきの電話やった仕事の分…!ああ、ちょっと待ってくれ仕事のスケジュールが…!」

「今日はのんびりしてるねぇ」

「よし俺の背中に乗れ!手伝いはまた今度だ!…はい!こちら神格対応課の霧晴と…」

 

 父さんの背中に乗り、風を切る父さんと視界を共有する。取れそうになる眼鏡を押さえ付け、走ってる車より速く電話をしながら走る父さんの身体能力に身を預けた。

 

「終わってない仕事は!」

「書類ダメです!ですがパソコンを扱う業務は送られてきたメールに添付されており大体終えています!恐らく『昨夜様』が来訪するのを我々の誰かが把握し、別の課に時間差でメールを送る様に依頼した物かと!」

「誰だかもう分からんがナイスだ!」

「霧晴さん!覚えの無い感謝状があちこちの部署から!それとどこでこれを知ったのかという質問も多数!」

「それはもう自覚無いしコレからよろしくな感じに繋がり作っておけ!」

「すみません神様へのお食事のお供えが!」

「複数人でローテで踊って慰めて時間を稼ぐ!その間に『霊蟲』の活性化を!」

 

「お茶美味いなぁ」

 

 裏世界帰還者、その身体能力の全力は、俺を神様の目を止まらせる暇も与えずに職場まで到着し、前よりも多い報告する人に囲まれながらも父さんは指示を終わらせた。流石だよな。

 

「はぁ…やっと一息着いた」

「はい父さん。お茶を飲むと一息つけるよ」

「ああ、ありがとうな百…千歌」

「今名前間違えた?」

「ごめんって」

「ぶぅ」

 

 父さんを労りつつ、母さんと名前を間違えられた事実に脇腹を叩きまくった。少しも効いてないな…。そんな感じに想定外はあった物の仕事が終わり、神様が少しずつ帰っていく、この神社は24時間稼働らしいので神様が居なくなることは無いが、それでも夜は少なくなる様だった。

 

「霧晴、交代だ」

「あ、お疲れ様です先輩!それじゃ夜の方はお願いします!」

「ああ、今日は大変だったらしいし、後は任せな」

 

 19時頃、ゲェムで見たより老けて茶色に白髪が混じった人が来て父さんと交代した。その側には3体の妖怪が纏わりついており、男の人は幾らかの対価を払って共に過ごしていた。

 

「隠れるのに片目と燃やすのに肺と速くなるのに睡眠欲…」

「…俺の手の内をフルオープンしたこの子はお前の娘か?」

「千歌、そういう契約とか見えても言っちゃダメだぞ」

「あう…」

「どうもすみません…先輩」

「あーいい、いい。別に戦う相手なんて滅多に居ないんだから」

「お詫びにお茶あげます…」

「お、どうも…うん、丁度いい…年取ると染みるなー」

 

 頭を撫でつつ、渡したお茶を啜った後、そのまま目を閉じて動かなくなった。睡眠欲がない分、普段から疲れない様にしているんだろうな。そうして動かない老人を心配していると、帰る支度の終わった父さんがら俺の肩に手を置いて言う。

 

「ほら、帰るぞ千歌。遅くなったら母さんが心配する」

「…うん」

 

 手を引かれ、老人に背を向けた。地味に名前を聞けてないが、コレからも薄い関係だろうし無理に聞く必要はないだろう。

 

『嬢ちゃん、契約はしっかり守れよー』

 

「…はい。気を付けます」

 

「うわどうした?」

 

 最後に言葉を隠して老人が呟き、俺が会釈しながら返事してその日の父さんの仕事見学は終わった。やっぱりあの年の人にはバレるもんなんかね、こういう若者の企みは。地味になりがちな俺の聞こえる方も見破ってたし、長く生きてるだけはあると思う。

 

 がたんごとん

 

 電車が揺れる。夜の東京は混む物の、それも数駅進めば座ることができた。電車が夜に走るのはここ最近なせいもあってか、人の生活リズムが変化し切ってないからか、東京を出ない内から人の気配は少なくなった。

 

「それで、どうだった?」

「良い感じに手伝えたかなって」

「そうか。ここ最近の俺の仕事はこんな感じだからな。普段から手伝うなら母さんの方にしなさい」

「うん、そうする」

「…それで、呪いのゲームの手がかりは掴めたか」

「うん。ちょっと考えなきゃいけない方になったけど、死にかねない場面の一つは終わったと思う」

「…今日の仕事で千歌が死にかねない場面?」

 

[次は鎌ヶ原ー鎌ヶ原ー。お出口は右側です]

 

 地元に着いたので話を終わらせて降りる。蛍光灯がぎらぎらと光る夜のホームは、幽霊の駅員が周囲を見張っていた。…そういや手伝いのお小遣い貰えてないな。

 

「うん。死にかねない場面は毎日あるから慣れてるけどね」

「……俺が背負って走った時か?」

「んーそれも!」

「…今度から気をつける」

「ん、ならお小遣い!頂戴!100円7枚!」

「…ま、良いだろう。ほら」

 

 手の中に100円玉が7枚置かれる。よっしゃぁあ!!

 

 神器より、今日一日の成果の中で一番嬉しい物だった。

 

 






霧晴千歌
 頑張れば思考の逆再生が出来る。怪奇の一発芸を覚える過程で習得してた。
霧晴健太
 昔は荒事もしてた神主という立場になった。準備時間がある程出来る事が増える。
橘上己
 神格に触れる仕事が上手い。
元妖魔課の先輩
 今年で50代後半。修羅場の経験豊富。

『昨夜』
 昨日が今日と繋がる。代わりに明日が消える。
『福衣番の明経』
 福が来る服を織る。光の糸を扱い、失明をさせない。
『荒蒔の渦潮』
 未整備の土地を畑にして未知の潮目の流れを知れる。知らない土地に馴染ませる。
『神器』
 神格が作った自然物。雨が岩を穿ち剣にするのと同じ自然とその形になった物。

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。