怪奇ばかりな日常とゲェム記録   作:何処にでもある

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 三者三葉に進みます。




ゲェム-15分00秒00で

 

 

[マスター、お疲れ様です]

「ああ…もう少し上手くやれたか?」

[充分かと]

 

 あの幽霊の都市に転移してから数日、私達はメモを頼りに研究と収容を行なっていた。価値観の違う相手というのはやはりと言うか、最初こそ会話することに苦戦こそしたが、今では適度な距離感を保ちつつ私達を社会の一つとして受け入れてくれた。

 

[今回の相手は『病蜘蛛』という生身のマスターには天敵となる相手でした。それを罹患せずに収容させる事が出来た以上、マスターの業務効率は素晴らしい物と言えます]

「なら良いんだけど…最近思うんだ。このまま幽霊共の真っ青な顔色を窺いながら生きるのはバカらしくないかって」

[…それは危険な考えかと]

「そうだな。でも仕事もせずに生きてる人を食い物にしてばかりの幽霊を見てると、幽霊なら今の仕事のやり方よりもっと上手く手早くやれるんじゃないかって感じるんだよ」

 

 ふむ…。そう考えるに至った思考パターンを理解した。マスターが言いたいのは、生身より幽霊に成るか雇うかすればもっと効率的に、今の自分がやるよりも良い結果になるのではないかということだろう。

 この気持ちはわからないでも無い。この世界の幽霊は私達が知っているものと違って、腐りも歪みもしない完璧な不老不死として完成されていたからだ。

 その法則に根付いて積み上げた歴史は社会を、死を歓迎し肯定的に受け入れる価値観に染め上げた。それに今の現状を照らし合わせて考えると、必死に生きるのがバカみたいに感じてしまうのだろう。

 

[今を変える手っ取り早い方法が死ぬ事というのは、些か早とちりな考えかと]

「だが、この仕事をどれだけの間やるのか考えるとな。何年もやるとなると死んで幽霊になって、そしたら疲れもしないし、立場もよくなるんじゃ無いかと思えてくるんだ」

[…マスターの考えは理解しました。ですが死ねば良いだけならば、この世界の生きている人達が死なないのは何故でしょう。その点を考えてみましょうか]

「…死ぬ事を禁じられているからじゃ無いのか?」

 

 ずっとこの世界にいるわけでは無いのは、声の言い方から想定していた。だからまた変わる事を前提に立ち回っているのだが、マスターはどうやらそう簡単に今回の様な事は起きないと考えているらしい。この考えの違いは今後の関係にヒビを入れかねないが、そう簡単に変えられる部分でも無い。

 怪奇に対する理解と実感から来る違いは、案外実体験しないとわからない物だからね。だから説得するのはそこでは無く、この世界の社会や事情から切り込む事にした。

 

[いえ、マスター。その解答は不十分ですね。法律にその様な禁止事項はありません。勿論幽霊としての姿は死ぬ時の物ですから若い内に死ぬのはこの世界でも眉を顰める物です]

[じゃあなんだ?直ぐに幽霊になろうとしない理由は?子供を作る義務か?]

[単純に、死んでも変わらないんですよ]

「…えぇ」

[当然では無いですか。貧困に陥った者が死んでも貧乏のまま。そもそも順序が違います。確かに私達が見た幽霊は皆富裕層のモノばかりですが、これは幽霊だから金持ちなのでは無く、金持ちの幽霊以外は淘汰されただけなのです]

「不老不死が淘汰?そんな事出来るのか」

[マスターは毎日お仕事で忙しくこの世界の事は詳しくは知りませんよね。折角ですので簡単講座としましょうか]

 

 マスターの着ているスーツの電動駆動を動かして、捕獲した怪奇を車にのせる。私による自動運転の間に授業をする事にした。ネオンに光る高層ビルの街は、死に満ちていながらも活気に満ちた矛盾を体現していた。

 

[この世界は幽霊に関係する未知の法則が土台に組み込まれているのはご存知でしょう。その世界に人類が不時着した事も]

「ああ、俺らのコロニーの元の宇宙船で不慮の事故があったのがこの時間軸とか言ってたな」

[はい。そして不時着した宇宙船は、当初こそ私達と同様の歴史を辿っていましたが、ある時を転換点にその歴史を変えていきます]

 

 仮に、私がAIになった時間軸を「コロニー軸」と呼称するなら、今の私達が居る歴史は「幽霊軸」と呼ぶべき道を歩んだ物だった。

 

「死んだ奴が完全な者として産まれ直したって奴か」

[正確には死者の遺産の所有権を死んだ者のままでいいと制定された時。その瞬間に死ぬとは終わりでは無く、新たな人生の始まりという意味へと変わりました]

「あそこの悪霊同然の奴ら見てるとそのまま消えれば良かったのにって思うけどな」

 

 マスターが目配る先には、真っ黒な霧を纏って彷徨く幽霊が居た。その側には御付きの者も居るものの、とても正気とは思えない様子だった。しかし時折り正気を取り戻した様に身を震わすと、念力の様な力で周囲を震わせて殺気立ち、何処かへと行ってしまった。

 

[死者の遺産が死者の物なら、上手く立ち回った者とそうで無い者の差が埋まる事は無い。それが資産格差を生みました。そして、長く生きて正気を保てる人も少ない。次第に痴に呆いた者が出てきます。それが貧困に陥った幽霊が居ない理由です]

「成程、さては都市から廃棄されてるとか、そんな感じなんだな?」

[いえ、もっと酷いです。同族の幽霊同士で共食いをすると魂が肥大化して覚えていられる容量も増えるんですよ]

「……え?」

[最初は偶然、目の前の幽霊を食事だと錯覚した幽霊が捕食したのが原因です。それで魂の質量が増えた者は、それから65年物事を正常に判断できた。…お金が無くて死んだ者は、死んでも食い物にされるだけです]

「…そりゃ居ないわけだ。金持ち喧嘩せず。生きてれば食べられる事も無し、か。そりゃどっちみち、()()()()()()()!」

[今のマスターに取って、死はしっかり終わりです。今までと変わりませんよ]

 

【しかしねぇ…1000人も食べれば『千人贄』になって終わりを迎えるのだから…な実況はっじめるよー】

 

 身も蓋もない、結局終わりからは逃げられないという事を告げながら声に制御が一部奪われる。

 ここ暫くは順調に経営も出来ているし、メモの怪奇も大半収容した。お陰で事務所が上下に伸びていっているが、研究も安全な隔離も出来ている。収容維持費は結構かかるものの、空間に関わる怪奇を利用して場所の確保なら問題はなかった。

 果樹園の一部で畜産業も始めたし、これから環境の厳しい場所に送られても問題無い様に物理的な保護能力は勿論簡単な部屋の安全を確保できる怪具も作製には成功している。ここまでの成果を挙げられる自分の才覚にちょっと驚いてる程度には上手くいってる中、声が何するのかだけは予想が付かなかった。

 

[マスター、今から私が何をしても決して驚く事なく冷静に従ってください]

「突然どうしたんだ?」

[緊急案件です]

 

 マスターと作業機に連絡する。何をするのか予想つかない以上、何が起きても良い様にしなければならなかった。どうか穏便なものであって欲しいな…!

 

【はいでは今回は】

 

 


 

 

「ちょっと待ってくれ!帰還できないとはどう言う事だ!」

[どれだけ泣き喚こうが、物理的に無理なんだ。現在そちらの居る黒海があった場所は、此方では一切の確認ができていない。何処までも深く底が確認出来ていない奈落だけが残っている]

「…だが通信は出来ている。と言う事は電波は届いている筈なんだ。そこからどうにか脱出出来ないのか?」

[それに対する祖国の命令は「敵軍の情報を集め、随時報告をせよ」だ。命を全て使い、現状把握に努めろ]

「………はい、ご命令のままに」

[一つ理解して欲しいのは、今の状況は誰も把握していないと言う事だ。皆が突然戦場であり祖国の渇望する海が消えた事に戸惑っている。故に今こちらから言える事は、現状を知る事、それだけだ……今最も全てを把握しているのは、唯一連絡のついたお前達だと言う事を理解しろ…それと、この画面が赤くなる怪奇は一体なんだ?]

「はい、危険は無いかと。…それでは」

 

 通信が切れると、ジョンは溜息を一つ付いて此方に振り向いた。僕は軍というのに詳しくは無いが、それが喜べない類のもので有るのは理解できた。

 

「ダメだ。この真っ赤に光る怪奇のお陰か通信は繋がるが、向こうも何も理解出来てないそうだ」

「そんな…食料も底を尽きそうだってのに」

「その前にドイツの連中に殺されるのが先だな。この深海の揺籠を抜け出せば、奴らは俺達を殺そうと襲いかかるだろう」

「折角『付喪霊』が取り憑いてくれたってのに…コレじゃあ祝いの席も用意出来やしねぇ」

「俺たちが撤退した方角にいる『海沈め』は魂と肉を食べる悪霊だ。近づけば俺達三人…四人はお陀仏だな」

 

 三人が集まって話し合うが、未来を明るく話し合える様な意見は無いみたいだ。どの情報も先が無く、普段明るいマイクでも落ち込んだ声で話すのだから、相当堪えているらしい。

 

『あの…僕については流す感じでしょうか』

「あー…失礼、別に無視してる訳じゃ無いんだ。ただ、この深海の中俺達は幽霊に気に入られる事をした覚えは無くてな…それに、状況が状況で余裕が無かったんだ」

「…マイク、子供の相手得意とか言ってたよな。出番だぞ」

「すまんな嬢ちゃん!こんな海の底に居るなんてよっぽどの事があったんだろ?俺達はそこに来た来訪者なんだと思う。けどな、今はちょーっと大事なお話中なんだ。ほら、玩具あるから遊んだらどうだ?」

 

 三人其々が僕を会話から追い出そうとしていた。無理もない。漸く見つけた海の安全地帯もそこから動けないんじゃ牢獄と一緒だ。僕のお陰で悪霊から逃げられたとしても、このまま死ぬんじゃ何も変わらない。そこから脱するのに、海の底で漂っていた子供の霊が役に立つとは思えないんだろう。

 だが、それで意見も出さずに引っ込める役立たずにはなりたく無い。情報の抱え落ちなんて、一番ダメな事なのは僕にもわかる事だった。

 

『えっと、僕、ここら辺の行っちゃダメな場所や怪奇知ってます!だから話を聞いてくれませんか?』

「…ケリー、お前ならどうする」

「嬢ちゃん。知ってるならそうだな…『海沈め』について何か知ってるか?」

『えっと、それは…』

 

 少し困る。どうやら軍人さん達は僕に現地民の案内役の役割なら、期待してもいい感じみたいだけど、思えば僕が知ってるのは『赤テレビ』の繋がる先や異界に引き込む条件や過去を見れる怪具の使い方程度だ。この海については全く無知と言っても良かった。

 

【しかしねぇ…1000人も食べれば『千人贄』になって終わりを迎えるのだから…な実況はっじめるよー】

 

『千人食べると『千人贄』になって終わるのは…知ってます!』

 

 声が聞こえ、挙句にそれを答える。そうだ、僕にはいざという時には手伝ってくれる物知りの声が居るじゃ無いか。声の協力次第になるが、これなら軍人さん達の手助けをやれると確信した。

 

「…よし、合格。上官、ある程度聞き入れても良いかもしれません。ちゃんとここ最近の海に住み始めた怪奇を知っている。信用しても良いかと」

「よし、ならこの異界の入り口や原因…何か心当たりが無いか?」

 

【はいでは今回は】

 

 


 

 

「三つの問題を全て解決していきたいと思います。異界なんですけどもね、沢山の怪奇の影響が絡み合って成されるタイプはちょっと解説が面倒なので飛ばさせて貰いますが…取り敢えず『原風景』を扱うのは確定しております。海だと深度1500辺りにあるあれですね。黒海だと北東側にあるって聞いた事ありますねぇ」

 

 ゲームボーイから伸ばしたカセットを左手に触れさせて本にする。裏世界の方が『原風景』にたどり着いたら神様を解き放つ為だった。

 目の前の給食時の放送用のテレビにかなたらの願い、手元には裏世界探索ゲェム、右には『昨夜様』から貰った神器の砂時計、左には7つの儀式を終わらせた痕跡、時計の針は9:40を指していて、今から15分後には幽霊真倉がばら撒いた怪異がこの教室に辿り着く予定だった。

 

 察しがいい人は気づいているだろう。今、俺は週一にやるかなたらの願いと、神様を送り出す為に起動した裏世界探索ゲェムと、今回の本命である7つの怪異の対処を行おうとしていた。

 一つずつやれよと思うだろうが、今回やろうとしている事は前に話した気がする、ゲェム同士の連携機能を活用する必要があったからこうするしか無かった。

 本当はもっとのんびりやりたかったのだが、それもこれも5年後に死ぬとか悠長に出来る事を言って置きながら本命は成長し切っての能力範囲内に収めての殺しを狙う『ちかくし』が悪いんだ。

 だからこうして、日曜なのに存在しない忘れ物を取りに来たと言ってまで、学校に来てゲェムをしている。本当怪奇の行動ってのは早いよな。学校のある俺よりもずっと時間があって、それを有効活用してくるんだから。

 

「では早速やっていきましょう。幽霊は長く存在できても所詮人なので自我の破綻は逃れられません。それが異界にいればどうなるのか。その異界に対応した存在に変貌するんですよ。そして『原風景』は特性上見た者に望郷の念を持たせる影響で幽霊が住み着きやすく、離しにくい。なのでこの怪奇同士のコンボが発生し易いんです」

 

 二つのゲェムが動き始める。

 出来れば起動したく無かったけど、怪奇側の行動が早すぎて利用せざるを得なかった探索の方は、軍人達が行く当てのない中の唯一の活路に向けて破れかぶれに航路を進み、願いの方は収容室の『原風景』が今まさに暴走してその影響を広めようとしている情報が作業機から届いていた。

 

 砂時計が落ち、時間が進む。この神器…「神器/二度目の昨日/乙」は1回目に砂時計が落ち切ってからまたひっくり返すと、1回目の砂時計が落ち始めた時間をリトライできる物だ。それも1回目とは別々に。

 例えるなら…月曜に1回目カップ麺食べて家でだらだらして、火曜に2回目に学校で授業を受ければ、月曜に家でだらつく俺と学校を受ける俺がいた事になり、代わりに火曜には世界のどこにも居ないという状況になる感じだ。分かりにくい?時間関係なんてそんなもんだ。要は予め時間指定する必要のあるドラ◯もんのタイムマシンである。砂時計に登録できる時間が15分だけだから使いにくいぞ。

 それが普通に使った場合の性能で、今回使い捨てる予定の物だ。どうだ?どう考えても時間の狭間か何かに幽霊真倉産の怪異を放棄する気満々だろ?その通りだよ。

 結局裏世界探索ゲェムで過去を変えるなら、そもそも幽霊真倉産の怪異も消えるんじゃって意見には、先んじて俺がかなたらの願いをやった時点で多分あれは確定してたと返しておこうか。これ俺も同じ事考えたんだけど、多分幽霊真倉の執着からして一度やったら遅かれ早かれだと思うんだよね。

 だからまぁ、どういう経路を辿って放たれたとしても問題ない様に時間を利用して閉じ込めようって訳。

 

 つまり、結構危険な事をする訳だ。なら、万が一の失敗に備えてゲェムとかいう厄介な物も一緒に持っていこうとなり、なら折角裏世界探索ゲェムやる事だし同時プレイやってみるかと挑戦中な訳だ。同時にやればゲェム同士の連携機能でちょっと楽出来るしな。やれる事は全部やるべきだって誰か偉い人の名言に有りそうだしな。

 

 以上、今回の前提条件である。状況確認終わり…あ、コレ言い忘れてたな。

 

 はい、よーいスタート。デッデッデデデデ(カーン)デデデデ

 

 


 

 

【道中怪奇とは遭遇しない様にしましょう。『赤テレビ』があれば取り憑いた機器の機能を強化するので瞬きや回数に注意しつつ、幽霊にでも見させて頼りになったのですが…そうでないなら視覚聴覚は出来るだけ遮断して機械に任せて進みましょう。こっちじゃ〜!】

 

[マスター、視聴情報を遮断しますが、ARで代用情報を表示しますので、それに従ってください]

「…おお、アニメのトゥーン調になったな」

 

 声の解説を聞きつつ、より動き易い様に情報のフィルター処理を起動させる。前から五感を封じてくる相手用に構築したシステムだ。事前に通用するかは調査済みなので、コレでより生存率が上がるだろうね。

 行動に関しては声が上手い事操作してくれるからその点は心配していない。霧っちはその手に関しては信じてもいい相手だからね。

 

「それにしても…まさか34の管理下で収容違反が起きるなんてな」

[申し訳ありません。耐火シャッターを起動したので一部分のみの被害となりましたが、『原風景』に始まり5体の怪奇が隔離エリアを徘徊しています。『原風景』は救出した幽霊を返す為に外部にも接する為、作業機を向かわせる事が出来ずマスターが対処する運びとなりました。お疲れの所申し訳有りませんが、どうか共に収容作業を手伝って下さい]

「勿論構わない。一緒に終わらせようか」

[はい、マスター。言って置きますが、『原風景』さえ収容すれば隔離範囲も狭くなり、後は作業機で終えられます。なので無理に他の怪奇を収容しなくても構いませんので、その点はご理解下さい]

 

 帰還したマスターと私を待っていたのは、収容した『原風景』の脱走報告だった。何故こうなったのか、それは想定以上に異界内に幽霊が滞在しており、研究や解析が遅々として進まなかった為だ。

 元から視認不可の怪奇な上、この世界の住民と相性が()()()()となれば、こうなる事は声の残したメモにも、注意事項として他の怪奇とはかなり離して置いておく様にも書いてあった。

 そうしてある程度離し、しかし私の想定よりメモの「かなり」は広く5体巻き込む結果となった訳だ。これはAIになった私が社会に出て初めての失敗であり、それがマスターを巻き込む形になったのは不本意であった。

 

【…えーと…よし。危険地帯なので言う通りに進めてください。右、ちょい待機…進む、物陰、待機…よし。左寄って進めばフリーランタイム。暫く目的地一直線に進めてよし】

 

 声が指示を出し、それに応じてマスターにも進行ルートを表示する。その間、声の操作で作業機が幽霊に隠れながら収容作業を2つ終わらせていた。この鮮やかな手腕は、どれだけ経験を積んでも私には出来ないと思わせるスピード感だった。

 

 ヒュン

 

「うわ!」

[マスター、『狙う弾痕』です。『原風景』に誘われた幽霊の一部位が変質した物かと]

 

 弾丸がマスターの腕を掠り、僅かに映った痕跡から危険な場所を表示する。食べて肥えた幽霊は、生きた人の抜け毛や垢の様に魂の破片を落とす。どうやら救出した幽霊の痕跡が『狙う弾痕』へ変化している様だった。

 

【あ……まぁええやろ…うわ、攻撃手段があれば近くの音が出る物に。この際重要なのは振動です。照明弾でもいいので使ってください】

 

[マスター、火災報知器へ銃弾を!]

「よし来た!」

 

 声が更に1体収容している間に出された指示に従い、爆音を響かせる。

 

 高熱と寒波がドア前に居る私達を通り過ぎ、何かが爆音が響く部屋の中に向かう。何かが通り過ぎた後にはコンクリートの床にヒビが入り、隙間から蔓と草花が生い茂った。それは、全く覚えのない怪奇現象であり、私の記録した怪奇には存在しない特徴だった。

 天井から光が漏れて、ひび割れて崩れた瓦礫、草花があるのも相まって晴れた日の廃墟を探索している気分になる。

 

 今は夜なのにも関わらず、そこだけが別世界の様に晴れた廃墟だった。

 

【では振り返らずに進みましょう。光を見ない様に、当たらない様に隠れてください。衝撃に襲われますので】

 

[…マスター、振り返らず、光には当たらない様に注意してください。恐らく、広がった『原風景』です]

「懐かしいな…」

[マスター!くっ…なら情報フィルターも切って完全に遮断すれば…!]

「…あれ、真っ暗だ。34、何があった?」

[精神汚染を受けて居たんですよマスター。…今から私が運動補助を動かして動きを誘導しますので、マスターはそれに従ってください]

「二人三脚って訳か。やってみよう」

 

 マスターの発言から、襲ってきたのは『原風景』から出てきた幽霊の可能性が高かった。全く、無駄に強力な力を持ってどうするんだか。幽霊の考えは理解し難いな。

 各種装置を動かし、その動きを阻害しない様にマスターが私に合わせる。普段とは逆の役割分担は、普段から息を合わせてたのもあって上手い事進む事が出来た。

 

【到着しましたね。では手順通りにお願いします…よっと…間に合った】

 

[ではマスター、収容室近くに置いてある「繋ぐ糸/甲」による囲い込みを。周囲の通路を歩いてください。それで周囲の影響も内側に向かいます]

「よし…これでおしまいだ!」

 

 声が『原風景』を除いて最後の一体の収容を完了させつつ、私もマスターと共に最後の仕事に取り掛かった。

 マスターがたこ糸に似ている道具を棚から取り出して、目を閉じながら収容室の壁を糸で囲んでいく。作業自体はフックを予め設計に組み込んでる為素早く終わった。

 監視カメラに処理能力を使って確認すれば、周囲の謎の日差しも消え、草花も枯れ果てていた。火災報知器が鳴り響く一室からは2体の幽霊が困惑しながら出てきてもいた。

 

【『原風景』は結構あちこちにありまして、そのせいもあり近くには幽霊が近づかない様にされています。仮に中に入ってしまった幽霊が出てくる事があれば、それは新しい『原風景』が増える合図だからです。幽霊使って増えるんですねぇ。なので深海の底にも有りかねない訳で…】

 

 声が解説しながら作業機を使って怪奇のメモを書いていく。書く速度がいつもより遅いが、偶にはゆったりしたいのだろうね。

 

【何が厄介かってこういう異界は同じ異界同士で繋がってるんですよ。だから上手くやれば距離とか大幅にショートカット出来るんですけど、今度は電車が厄介になります。線路の上を歩けば確実に別の入り口に行ける代わりに、いつ襲うのか分からないんですね】

 

[マスター、今回はありがとうございました。普段から仕事を共にさせるのに悪く思っておりますが、今回は完全に私の落ち度でした。それなのに協力くださり、本当に感謝しかありません]

 

【まぁ、そこにいる時間の神様に協力を仰げれば違いますけど。もしうっかり入ってしまったなら、寿命を差し出せば手助けしてくれるので声をかけてみましょう。一人10日もあれば十分なので賽銭くらいの気持ちでOKです】

 

「34、それは違う。寧ろ、普段から助けられてるのは俺の方だ。今日のことは、俺にとっては普段のお礼の様なものだった。だからそんなに自分を責めなくていい。評価スコアをマイナスにする必要は無いんだよ」

[…マスター、過分なお言葉、恐れ入ります。それでは今回の件は評価-0と処理させて頂きますね。今後もマスターの為、努力していきます]

「ああ、それでいい。お前はこれまでより人間らしいシステムだからな。気に悩むことは随時報告してくれ」

[はい、マスター]

 

【…タイマーストップ。今回の記録は15分00秒00でした。それではみなさんさようなら】

 

【キーンコーンカーンコーン】

 

[これは…学校のチャイム?]

 

 






霧晴千歌
 裏世界に落ちたばかりなら帰り道結構あるのになと思ってる。
ケミー・アラキ
 人間らしいAIとの接し方がこれで合ってるか不安。
橘夏奈
 社会人として成長中。

『病蜘蛛』
 土蜘蛛とも。牛の角と人の顔を持った蜘蛛。
『千人贄』
 千人食べた幽霊が地中の沈んで消える現象。苦しむ。
『夏の騎兵』
 夏の到来を知らせる浮遊霊。近づかれると暑い。冬と合わせて米の世話に利用する。
『冬の騎兵』
 冬の到来を知らせる浮遊霊。近づかれると寒い。夏と合わせて葉っぱの対処が必要な怪奇の樹の対策に利用する。

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