怪奇ばかりな日常とゲェム記録   作:何処にでもある

24 / 72


 想定外はどれか当ててみよう。




ゲェム-タイマーストップ

 

 

【三つの問題を全て解決していきたいと思います。異界なんですけどもね、沢山の怪奇の影響が絡み合って成されるタイプはちょっと解説が面倒なので飛ばさせて貰いますが…取り敢えず『原風景』を扱うのは確定しております。海だと深度1500辺りにあるあれですね。黒海だと北東側にあるって聞いた事ありますねぇ】

 

『えっと、海が無くなったのは色んな怪奇の影響が絡まって分かんないですけど…『原風景』って怪奇ならここから出られると思います。深度1500辺り…に有って、ここからだと北東辺りになると思います!』

 

「…結構具体的な活路が出て来たな」

「汽笛の聞こえる草原の噂でちょっと小耳に挟んだ事はあるが…」

「なんだ嬢ちゃんやるじゃねーか!お前ら、俺たちじゃ何処に行くかも定まらねぇし、ここは女神様に賭けてみようぜ!」

「…そうだな。考えれば筋肉男三人囲まれて意見言えてるし、そう頭が飛んでなさそうだし…よし、どうせ祖国には死ぬと見られたこの命、賭けてみようか」

「マイクにケリーも賛成か」

 

 ばん!…と、ジョンが強く机を叩き、注目させた。二人とも黙って見つめ、僕も動けなくなる。

 

「なら………俺たちは女神様の先導の元、一マイルも進めるか定かじゃ無いこの暗闇の中を潜み進む事になる。さっき会った奴に命を預けるんだ」

 

「軍人失格の罵りを受けるだろう。だが、俺たちは軍の訓練でこんな事は学ばなかった。なら、罵る奴らは俺たちと同じこの極限下に対し無知無学だ。この判断は誰も肯定出来ない……否定もだ」

 

「だからこそ、今こそ自分達が下した判断を信じろ。疑い、臆すれば待っているのは冷たくて暗い死だ。命令だ‭─‬‭─‬‭─‬信じて、前進せよ」

 

「「『Да-с‼︎』」」

(イエッサー!!)

 

 気が付けば僕は二人に揃えて姿勢を正し敬礼をしていた。僕の敬礼は二人よりも不出来だったが、思わずそうさせる力がその言葉にはあった。上官、という存在はこれほど付いていきたいと思わせてくれるのかと、僕は心から熱と表現するしか無い感情が込み上がったのだ。

 

「では其々位置に付け。我々はこの揺籠から飛び出し、混沌と悪意渦巻く暗黒を進む。女神のお嬢様は俺の隣に立ち、なにか有れば教えてくれ」

『はい!』

「ここから北東、途中までなら前回の進路が使えるか」

「なら左旋回だな!嬢ちゃん合わせてくれ!」

 

【では早速やっていきましょう。幽霊は長く存在できても所詮人なので自我の破綻は逃れられません。それが異界にいればどうなるのか。その異界に対応した存在に変貌するんですよ。そして『原風景』は特性上見た者に望郷の念を持たせる影響で幽霊が住み着きやすく、離しにくい。なのでこの怪奇同士のコンボが発生し易いんです】

 

 僕の中にいる三人が動かして、潜水艦が進む。僕の折れた片足が進むのを妨害しない為に大股で進み、息を潜めて泳ぐのだ。船と僕が一つになるのは奇妙な感覚ではあったが、少し進めばそれも無くなって、この雄大な暗闇を切り拓くのを楽しむ余裕すら生まれた。

 

【道中怪奇とは遭遇しない様にしましょう。『赤テレビ』があれば取り憑いた機器の機能を強化するので瞬きや回数に注意しつつ、幽霊にでも見させて頼りになったのですが…そうでないなら視覚聴覚は出来るだけ遮断して機械に任せて進みましょう。こっちじゃ〜!】

 

『その赤い画面の現象は取り憑いた物の機能を強化するので、注意深く見れば接敵を回避出来ると思います。ただ、瞬き厳禁です。10も直視すれば別の場所に連れてかれますよ』

「それなら…俺は既に2回見ているな。ケリー!マイク!適時呼ぶから確認しろ!お嬢様も協力をお願いします」

『はい!幽霊は意識しないと瞬きしないので、常に見れますよ!…見方は分からないんですが』

「俺らの仕事はお嬢さんにはまだ早かったか」

「後で教える事が出来たな!ハハハ!」

 

 砂の足場をすれすれに泳ぎ、やがて岩礁が連なる場所に出た。真っ赤なレーダーを見ると、上には船を落とす為の悪霊らしき反応があり、底には巨大な反応が見えていた。それを伝えると、僕達は間を通り、少しずつ下に向けてこの身を沈めていった。

 

「マイク、どうだ?」

「ソナーだな…問題なし。上に行かなきゃな!」

「ならいいんだ」

 

『この船、何処まで潜れるんですか?』

 

 ふと、気になって質問してみた。声の言ったことを繰り返したとは言え、1500という数値は横にしても結構な物。それが高さとなると、しっかり行けるのか不安になったのだ。

 

「理論上、何処までも。今の深度は750、全体を見れば浅瀬だが、技術的には本来の深度は400が限界だ。つまり、俺たちはかなり深い場所に居る。元から怪奇を組み込んだ潜水艦だからな。『反差鉄鉱脈』産で換装された高級品、ドイツの連中は量産しているが、祖国の寒い海を潜るのは至難の業だからな。俺たちの船、深き海の足跡(глубоководный путь)号は一点物の芸術品に近い」

「代わりに足はべらぼうに遅いがな!しかも海上から300までは勝手に浮き始めていい的にしかならねぇ!錨を結んで、やっと沈めるんだ」

「代わりに、一度沈めば一カ月は浮上要らずだ。圧縮された空気の入れ物と、ありったけの食料、それから普通の倍は搭載したディーゼルエンジン。血迷った祖国が産み出した娘、大喰らいのじゃじゃ馬が嬢ちゃんだ」

「性能差を埋める為に大型化し、その分深く潜って見つからない様にする。小型化と複数使った情報網と圧殺が主流の現代に逆らった機体。だが、その分頑丈だ。魚雷の三発や四発は耐えられる」

「外装はな?内部は違う。精密工作が必要な場所は、怪奇産の鉄を使ってない。加工が困難だからだ。…今回のは、それが原因の可能性が高い」

『ロマン機だ…』

「おいおい、ローマに潜水艦はねーよ!ははは!…だがいい表現だ。男の夢みたいな機体ってんなら、結構的を射るジョークだな!」

「「ハハハハハ!!」」

『…アハハハ!』

 

 少しずつ進み、沈む船に笑い声が響く。基本、潜水艦の中は狭く、極限下の環境だ。そんな場所で一緒に暮らすには、仲の良さは最も重要な項目と言える。そんな中に新しく加わった僕という存在は、少なく無い刺激…ストレスになるのだろう。少しでも仲を深めておく事は、僕が見るレーダーと同じ位大事な事だった。

 

「1000…ケリー、そろそろ確認を頼む」

「ああ…ちょっと手を離すぞ。嬢ちゃん、横から失礼する」

 

 ケリーがこちらに近づき、レーダーを覗き込む。其処には、進路の先に複数の巨大な生き物の反応が示されていた。

 

「…『海の怪物』だ。ここは奴らの巣窟だ!」

 

【…えーと…よし。危険地帯なので言う通りに進めてください】

 

『通り方なら知ってます!…言う通りに進めてくれると』

「撤退すべきだ!この船に奴らの索敵を抜ける方法は無い!」

 

 意見の相違、僕とケリーの主張が食い違う。正しい事を言ってるのは向こうで、僕はただ声の示す方向を伝えるだけの中間地点だ。その差は、声の大きさと自信として現れた。

 

「各員お嬢様の指示に従え!」

 

 一瞬の淀みも無く、ジョンの指示が下される。優秀な指揮官は、最初に示した方針を違える事はしなかった。船員も、恐怖を振り切って指示に従う。それは、三人が優秀な人員である事の証左だった。

 

【右】

 

 復唱し、船が進む。照明を消し、エンジン音を少なくする為に出力を抑え、ソナーを止める。ぷかぷかと浮かぶ水泡だけが僕達を見つけるヒントだった。

 

【ちょい待機…】

 

 少しずつ、少しずつ進むのを止める。稼働を止めてるにも関わらず、被せた布越しに光っている僅かな真っ赤な光が、僕達を照らしていた。

 真横を、大きな生き物が通った気がした。真っ暗な先、眼には見えなくても、船が僅かに傾けば誰だってそう判断するだろう。

 

【進む】

 

 進みを再開する。地面ギリギリに、緩やかに流れる海流に沿いながら進む。既に腕時計は短針を3つ動かしていた。

 

【物陰、待機】

 

 自然と、潜水艦が窪みに漂流する。僕が船の身体である事を生かして感じる海流に沿った進みは、暫くの休息を得る事ができた。のそのそとおっとり足で船員が動き、簡単な食事と排出を行う。

 ここが安全なわけでは無いが、見つかりにくい場所に居るという安心感を最大限活かさなければ精神が疲弊する。人は、丸一日警戒できるわけじゃ無い。脅威となる怪物が見えない暗闇を進むのは、それだけ疲れる事だった。

 

【…よし。左寄って進めばフリーランタイム。暫く目的地一直線に進めてよし】

 

『…山場は超えました。左に寄って、暫く一直線に進んで大丈夫です』

「はぁーーー……巣窟を抜けて無いが、暫くは安全か」

「まだ息が詰まる時間は続くが、一先ず安心していいのか」

「各員エンジンの出力を上げろ、一気に進める内に進めてしまいたい」

 

 運航を再開し、窪みに沈んだ潜水艦を浮かべて進める。深度は1250を計測していた。

 

『僕もずっとソナーを見てて疲れました…』

「俺もだ…こんな危険な場所を進むなんて思ってもいなかった」

「人の作った兵器や怪奇は知ってるからいざ来ても怖かないが…自然に住む怪物はな」

「この道以外は一旦浮上しなきゃ北東には行けなかったからな。鈍足行軍だとまず捕まるか殺されてる」

「この船より遅いのは『海沈め』くらいだからな。そう考えると、俺たちは運がいいな」

 

【あ……まぁええやろ】

 

 声に反応してピクリと動く。大した事ないという反応にも、それを無視する考えにはならなかった。

 

『…!?皆さん警戒を!』

「なんだなんだ!」

「警戒了解!ソナーを起動するぞ!」

 

 ソナーの音が一周する。周囲一帯に、巨大な影の反応が返されていた。

 

 ーーーーーーーーーーー・・・・・・・

 

 何か、静かな振動を肌に感じた。

 

 見つかったと、誰の口から溢れたか分からない言葉が聞こえた。僕は、伝達ミスをした事を悟った。

 

【…うわ、攻撃手段があれば近くの音が出る物に。この際重要なのは振動です。照明弾でもいいので使ってください】

 

『爆弾でも何でも良いので発射して!照明弾でも良いです!エンジンを最大に!』

「戦闘能力なんて無いぞ!」

「照明弾は浮上してから使う物だ!今使っても水圧で近距離で破裂して突破出来るとは」

「指示に従え!!エンジンを全力に!照明弾発射!」

 

 挙句の混乱、声が言ってない事も言う。この時の僕にできる事は、声が僕の判断すらも計算に入れて助言を言ってくれている事を祈る事だけだった。

 船の外装にくっついていたパーツが外れて、即座に光る。この船は海面に近づくと浮上し、見つかり易い潜水艦だ。沈めるのにも工夫が必要な以上、極限まで浮上しなくてもいい様に、位置や情報を知らせる方法は深海下でも扱える設計をされている。

 だから、現状でも扱える手段があり、しかしそれはここまで深く潜った状態で扱うのを想定しておらず、即座に破裂した。それだけでも、幸運と言えた。

 

「進め!進め!進め!」

 

 巨大な生き物の姿が露わになる。それは、透明な泡にタコの様な足を持っていた。玉虫色に反射する岩みたいな珊瑚が泡の中にあり、その隙間に魚の眼球が敷き詰められている。そんな表現に困る生き物が、全長100mもの大きさで、複数体居るのが突然の光に混乱して暴れればどうなるか。

 

【では振り返らずに進みましょう。光を見ない様に、当たらない様に隠れてください。衝撃に襲われますので】

 

『前へ!光を見ない様に!下へ隠れて!離れて!』

 

 姿勢が崩れない様に、精一杯バランスを取る。光から離れる様に、その周囲で海をかき乱す巨体から離れる為に。

 

 ギ ギ ギ ギィ

 

「近くの物に掴まれ!」

 

 船が軋む。混乱してても海底にぶつからない様にする理性はあるのだろう。スレスレに進む僕達を襲ったのは、水圧の凄まじい深海で起きた水流の壁。理論上何処までも潜れる船が軋む程の衝撃が船を襲い、僕達を藻屑にしようとしていた。

 

「総員点呼。1」

「2」

「3!」

『四番無事です…』

 

 どれだけの時間が経ったのだろう。僕達は荒れ狂う波に押されて、いつの間にか深度1500まで押し流されていた。生き物の気配も感じない深い深い海の底。塩みたいに白い砂のみが広がる谷底に僕達は居た。

 

 不思議と、懐かしい気持ちに包まれた。

 

「道なりに進もう。この感情…怪奇からして、もう直ぐ近くだ」

「装備の調子は確かめておこうか。ヘルメット…精神平衡調律機は特に」

「視覚補正もな。ゴーグルも探しておく」

「なら、俺が操縦をしよう。少しずつなら1人でも出来る」

 

 後は、誰かに教えられるまでも無い。皆が自然と準備を整えて進む。次第に明るくなり、ライトをつけなくても周囲が見える様になった。光に当てられる程に親や家族を思い出し、懐かしさに喉を掻き毟りたくなる。

 

「疲れただろ。眼を閉じておけ。少しはマシになる」

『そうします…』

 

 ゴーグルやヘルメットを付けた三人は、僕をベッドに誘導して横にさせた。この空間は、僕と相性が悪い。

 

【到着しましたね。では手順通りにお願いします…よっと…間に合った】

 

「これは…」

「別の海に出たんだ。それで突然海面と近くなって、浮上している」

「あの閉じた海からは出られたって事か」

「後はここから祖国に帰れば…!」

 

 浮遊感が僕の身体を包み、上へ上へと昇っていく。

 

 上半身が出ると、そこは何処までも続く草原と、佇む幽霊達。

 遠くには線路が有って、風が頬を優しく撫でる。

 空は何処までも澄み渡っていた。

 帰ってきたと、知らない筈の大地に親愛を覚える。この地で一生を過ごせたらどれだけ素晴らしいか、そう思わずにはいられなかった。暖かな日差しも、青い海も、どれもが理想的だった。

 

 カシャン カシャン カシャン

 

[案内 します 帰り道 教えます]

 

『‭─‬‭─‬‭─‬‭─‬』

 

 ただ二つ、不出来な人型の機械と、全てを逆回しにする耳鳴り以外は。

 

 突然現れたそれは胸元のラジオから人工的に加工された音声を繰り返し、幾つもの壊れた部品を組み合わせて造られたのだろう機械の足で僕達に近づく。その頭部は砂を入れた容器で構築されていて、耳鳴りは砂が震える音から出ているようだった。

 

「はれこ?だんな」

「!だんなまさ逆が間時!だ間時!…」

 

【『原風景』は結構あちこちにありまして、そのせいもあり近くには幽霊が近づかない様にされています。仮に中に入ってしまった幽霊が出てくる事があれば、それは新しい『原風景』が増える合図だからです。幽霊使って増えるんですねぇ。なので深海の底にも有りかねない訳で…】

 

 ちゃかちゃかと、三人が剽軽な踊りを踊る。観察すれば、どうやら逆回しになった映像のそれと同じだった。遠くを見れば幽霊達も不自然に揺れている。

 

【何が厄介かってこういう異界は同じ異界同士で繋がってるんですよ。だから上手くやれば距離とか大幅にショートカット出来るんですけど、今度は電車が厄介になります。線路の上を歩けば確実に別の入り口に行ける代わりに、いつ襲うのか分からないんですね】

 

 声の言葉を聞きながら、横たわった身体を起こす。幽霊の僕はまだ潜水艦の中に居るにも関わらず、その外へ向かった三人とロボの動きが見えていた。どうやら『付喪霊』として、潜水艦として一連の動向を見守っていたらしい。

 腕時計の針を見ればくるくると逆回転しているかと思えば、突然普通に動いたりして安定していない。僕と変な機械だけが、この中で正常に動いていた。

 懐かしさは消えていた。どうやら全てが逆回しに動いている間はこの異界の誘いは無くなるらしい。こういう怪奇現象同士の食い違いは同じ怪奇には起こらない。と言う事は、あのロボと耳鳴りは『原風景』とは別の怪奇という事だ。

 

『…教えてくれ、あれはいったい何なんだ?』

 

 何でこの異界に向かっていたのかは理解した。この異界にある線路を辿っていけば三人は帰れるからだ。しかし、あのロボは違う。これまで声が一言も示唆しなかった怪奇だ。それに3人が囚われてしまった以上、それを解決する手立てが欲しかった。

 

【まぁ、そこにいる時間の神様に協力を仰げれば違いますけど。もしうっかり入ってしまったなら、寿命を差し出せば手助けしてくれるので声をかけてみましょう。一人10日もあれば十分なので賽銭くらいの気持ちでOKです】

 

『…もっと早く言ってくれれば…いや、どの道入らないといけないなら避けられなかったな』

 

 ハッチを開けて、幽霊の身体を外に出す。外の影響を開けている幽霊と僕の違いは、腕時計だけ。過去を見れる腕時計が今の僕達の生命線だった。

 

[案内 します 帰り道 教えます]

 

『…神様、どうか僕達を祖国に帰してください。時間を1人10日捧げます。だから、どうか帰してください。お願いします』

 

『‭─‬‭─‬‭─‬‭─‬』

 

[受理 あっち]

 

 耳鳴りが強くなる。不出来なロボの神様が僕らの後ろを指し示すと、明るくなるのと暗くなるのが10回繰り返されると、僕の視界はこれまでの全てを逆再生で映した。

 

 懐かしさを感じる海底1500。

 

 怪物に気づかれない様に進んだ1250。

 

 三人に潜水艦の事を聞いた750。

 

 行き先について相談し合う700。

 

 潜水艦に取り憑いた680。

 

 ()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

 まて、これは何処まで遡るんだ?確かこの洞窟は力を無くしたとは言え過去と未来を物理的に表した物だ。それに時間の神様の影響が合わさったらどうなる?残された力でさえ過去を見て、逆回しの時間の中を正常に動けた時計を残した怪奇に、時間の神様の影響があるとどうなる?

 

[君は あっち]

 

 壊れた潜水艦に僕は居た。時間を遅くする石でゆっくり動く見た事のない3体の怪奇達の側に、ロボも居た。ゆっくりにする石の近くに居るからだろう。巻き戻りも遅くなって、考える時間ができた。

 

[私()は あっち]

 

 ロボの頭部、砂から7体の怪奇が現れる。

 赤い文章が書かれた紙の束、青い温度計、緑色のインク、白い水瓶、黒い布、不自然に断ち切られた霧、千歌ちゃんの大量の盗撮写真集…ん?なんで?

 

『…最後だけ恐怖の方向性違くない?』

 

 超常的な物品や現象が現れる中、最後に出てきたのが最後に見た人物の盗撮写真は…なんか、急に俗物的じゃないか?ラインナップおかしくない?…あれこれよく見たら赤い文章の中身霧晴千歌を如何に愛しているかを歌ったポエ

 時間が巻き戻る。ツッコミをする暇も無く、何か変な品物達を引き連れて潜水艦は深く沈み込んだ。

 

 幽霊の身体は潜水艦をすり抜け、更に巻き戻る。何かに引き寄せられて、海の底を抜けて、空を舞い、千歌ちゃんの儀式や雑談も巻き戻り、巻き戻り、巻き戻り、赤い手が伸びる空を抜け、災害のあったあの日から更に巻き戻り…

 

「……嘘だろ?」

 

 頬を抓る。気づけば、僕は3月27日20時14分の自室に立っていた。

 忘れもしない一軒家、早めに寝ている2人の妹、両親と僕ら兄妹3人の二つのベッドに別れてて、そろそろ僕が入学することにワイワイと騒いだあの日。

 

 丁度、災害のある日の10日前だった。

 

【…タイマーストップ。今回の記録は15分00秒00でした。それではみなさんさようなら】

 

「待て!これは…なんだよ!なんで、なんで…」

 

【キーンコーンカーンコーン】

 

 チャイムの音を最後にして、声はもう教えてくれなかった。

 …確かに、僕は10日を神様に明け渡した。だからって、死ぬ10日前まで巻き戻るなんて思っても居なかったんだ。

 夢じゃないのは分かっていた。ジョンの腕時計、それに宿った過去を見る力、それが今正に僕の腕に有って、カチコチと正確に時間を刻んでいる。白い手袋、力が増す右手袋だって有った。

 

「…条件がわからない。死ぬのは変えられないのか、4月6日を死なずに超えたらどうなる?何処まで許される。分からない。分からないけど…」

 

 眠った家族達を見る。安らかな寝顔で、後10日で僕がここから居なくなるなんて思いもしないだろう。

 

 ガチャリ

 

 その時、扉が開く音がして、挙句に隠れた。家族はここに居る。僕も、ここに居る。しかし僕は未来を知っている僕だ。…なら。

 

「ふぁ…みんな寝ちゃったのか」

 

 ()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

 …大体の状況は把握できた。なら、やる事は一つだ。過去を変えずに、未来を変える。

 それが一番望ましい。

 

 


 

 

「種明かしをしようか」

 

 席につき、バタンと本を閉じて言う。こう言うのは雰囲気が大事だとよく言われる物だし、折角なのでいい感じの事を言ってみた。これは今自分がやった事の整理も兼ねていた。

 

「先ず、私はかなたらの願いで収容を行っている最中、作業機の一体を使い、ジャンク工房で案内ロボを作った。事前に吹き込んだ言葉を逆再生するラジオ付きでね」

 

 教室のゴミ箱に儀式で使った道具と壊れた砂時計のガラスや土台を捨てる。もう役に立たないからな。短い間だったが大変頑張ってくれたよ。

 

「そして、私は『昨夜様』をかなたらの願いに放り込んだ。案内ロボと座標がかぶる様にしてね」

 

 方法は単純。裏世界探索記録帳の本をテレビに押し付けただけである。元から怪奇の収容と放出は出来てたからな。幽霊真倉の件からかなたらの願いは怪奇に関しては行き来し易いらしいし、普通に出来た。

 そしたら『昨夜様』に案内ロボを連れてこっちに戻ってきて貰って、それを『原風景』に辿り着いたゲェム内に落としたと。これも手袋や『のろいし』でやったのと同じだな。

 何で案内ロボ連れて行ったのかって?『昨夜様』、動かせる身体有った方が便利かなって。アフターケアと言う奴だ。

 

「それが、私のゲェムプレイ。ここからがちょっと難しくなる」

 

 その後、やって来る予定だった怪奇7体と共に俺は飛ばされて、座らない私に反応して『屋根ダルマ』が襲来。砂時計が壊され、怪奇7体は『昨夜様』と共に黒海に沈みましたとさ。

 

「ま、矛盾だよね。何で私が生きているかって感じの」

 

 怪奇が裏世界に放り込まれて、俺が死んだ。

 

 ここから時間パズルが開始される。知らない新事実がいっぱいあると思うが、私は説明が苦手なので許して欲しい。

 

 一回目、砂時計を記録した俺は、チャイムが鳴ると同時に砂時計をひっくり返した。

 すると2人目になった私が、9:40に向かう、この俺はチャイムの3分後に『屋根ダルマ』がくる状態が付与された俺だ。分かりやすくする為過去に戻った俺は私と自分を呼ぶ事にした。

 

 『屋根ダルマ』はチャイムが鳴った3分後に学校の敷地内で座ってない子供がいるとやって来る。

 

 9:43 『屋根ダルマ』襲来。ゲェムをしてる俺の隣の教室で、私と向き合っていた。

 9:54 1回目との違いは『屋根ダルマ』と俺が2人居る違いだけ。俺も私も怪奇は壁を越えて視認出来る。ゲェムをしている方の俺は、迷宮の場面まで遡った所で砂時計を落として破壊した。

 

 さて、この時点でタイムパラドックスが発生した。俺が砂時計をひっくり返して過去に戻らず、私が居る過程が消滅してしまったのだ。この神器の弱点と強みはこういう時だろうな。

 

「タイムパラドックスが発生した時、何が起きるか。物語や仮説は大量に聞くけど、この世界の場合、破綻した瞬間に正当性のない方が、関わる怪奇の因果も含めて狭間に飛ばされる事になる」

 

 今回の場合は、9:54に破綻。その時点で私と矛盾した動きをした、砂時計を壊した俺が時間の狭間に消えて死亡。

 この時点で目標は達成。タイムパラドックスにより、俺の下にやって来る予定だった7体の怪異は時間の狭間に消えた俺の元に向かって出られなくなったと。

 

「こうして本来の目的は達成された」

 

 コレが私の考えた幽霊真倉の後始末。お手軽時間矛盾による自爆だ。ぎりぎりまで砂時計を壊さなかったのは…まぁ、死にたくなかったからだろうな。最後のタイマーストップは私が言ったが、死にたく無いのはどっちの私も同じなんだよ。お香やっとくから悔いなく死んでくれ。

 

「そして…ここから想定外」

 

「何か幽霊真倉の怪奇達が裏世界探索ゲェムの方に行った」

 

 何だろうなぁコレ。コレ私も知らないんだよな…木香証くんが死亡10日前に行くのは想定内なんだけど、コレは本当に知らない。

 

「結果…まぁ、何が起きたか」

 

 外を確認する。街の様子は様変わりしていた。

 もっと具体的に言うと、ビルが増えてて人口が多かった。改変前が平成初期なら、今は現代と言える景色だった。怪奇なんて知らないとばかりの景色は、私を困惑させるのに十分な物だな。

 

 それはまだいいんだ…いい事だから。その上で、一番困惑したものは何か。

 

「…スマホが手元にあるんだよなぁ。電話帳に証くんと夏奈ちゃん居るんだよ…コレもう本当にどうしよう」

 

 何だぁ?このスマホはぁ…時代進みすぎだろ…。俺ゲームコイン渡して来る相手の影響力舐めてたわ。ゲェム開くの怖いわ。操作対象がどっちも死んで無い事になったわ。もうどうしよう、

 

「…タイマーストップして一旦考える時間が欲しい…ダメ?」

 

 ググってみたけど一月前の怪奇災害は起きてても何か震度4の地震程度の扱いだし…何か娯楽爆増してるし…若い手塚と若い水木と若い米津が同時にいるぞ。それでも音楽は少ないのに怪奇の脅威を感じるねぇ。少なくてもあるのに発展を感じるねぇ。そんな感じに社会が変わりまくっていた。

 ……俺、スマホが出来る程発展した時代の怪奇知らないんだよなぁ。

 

 誰か俺に現状を説明して欲しい。切実に。

 

 






霧晴千歌
 技術が進み過ぎてて困惑中。やらかしの実感がじわじわ背筋を這ってる。
木香証
 過去というより別世界と疑い、何故か4月6日に過去の自分が消えて困惑中。
橘夏奈
 生きた。毎日が楽しい。
ジョン
 生きた。帰国したら祖国がソ連になってた。
ケリー
 生きた。ロシアがソビエトって言うのになってた。
マイク
 生きた。知り合い全員貧乏になってた。

『時間破綻』
 時間と物質の挙動がおかしくなる。他の時間関係の怪奇が関わると変な事が起きる。
『七人ミサキ』
 妖怪みたいな怪異みたいな幽霊。昔からロシアに居る。
『黒谷』
 黒海の底にある土地。底の無い穴。
『昨日』
 時間が巻き戻る。西暦1000年に現れた。

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。