怪奇ばかりな日常とゲェム記録   作:何処にでもある

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 自己評価を間違えるとどうなるか。




ゲェム-オーケストラ

 

 

「…ウチと霧っちがゲームをした時?」

「うん。覚えてるかなぁって思ってさ」

「ちゃんと覚えてるよ!AI動かしてた!任せて安心な人!…人?…人!」

「そっかぁ。今結構進んで『幽霊都市』に居るよ。…またやりたい?」

「…うーん。どうしてあんなに気にしてたのか分かんないんだよねー。怪奇なのは覚えてるしその先が現実なのも知ってるし…ウチなんであんなにやりたがってたんだろ」

「厄介だからね。関わりたく無いのは分かるよ」

「霧っちもそろそろ怪対員に電話したら?そーいうの任せた方がいいよ?」

「まだ頑張りたいかなぁ。ありがとね、答えてくれて」

「うん!あ、お姉ちゃんも一緒にやってたし、折角だから聞いてみたら?」

「…やってたねぇ間違いなくね」

 

 以上がトイレでの立ち話で多々良に聞いた証言である。夏奈?聞くのが怖いからちょっとだけ後回しにしていい?

 

「ああ。あのゲームね。勿論覚えてるわ。何?ゲームプレイ後にも記憶が残ってるかの確認?それにしては随分時間が経ってるじゃない」

「プレイ前は記憶に残らなかったけど、ずっとやってなかったらどうなるかなってさ。忙しくて出来てなくても問題ないかなって」

「そうね…霧晴が森の対処したり、怪異の解説をしてたわね。そして出てくるのと同時に捕まえてたわ。有ってるでしょ?」

「操作対象のAIについては?」

「……まあ、有能じゃない?そっち方面の産業の発展性が垣間見えたわ。子会社としての買収とか、有望な投資先としてお父さんに言っても良いくらいね」

「ん、経営者目線だね」

「これでも正統後継者の一人っ子よ?誤解とすれ違いが有っても、それが間違いだと判れば権利はある。そういう思考、育ててる最中なのよ」

「勤勉だなぁ」

「怪奇を解き明かし、世界を推し進める。社訓にもなってる真倉家の方針よ。これだけはどれだけ変わり果てた幽霊になっても譲らない思考の根本と自負してるわ。覚えておきなさい!」

「さては幽霊の真倉を見たって言ったの引き摺ってるね?そんなに嫌だったの?」

「死んだ自分が迷惑かけてるって聞いて気にしない人じゃないわよ私は!」

 

 以上、体育で校庭に行く最中に真倉に聞いた話である。こっちは変化は無さそうだな。

 

「かなたらの願い?確かにやってるけど…ここ最近はいつも2人でやってたじゃないか?今更聞く必要はあるかい?」

「2人でやってたけどぉ…」

「まぁ、気持ちは分かるよ、怪奇が未来から今に干渉して、未来を変えるんだ。齟齬が有ったらと不安になったんだろ?」

「そうだね。私の記憶だと夏奈が未来のAIになってたけどそれはどう?」

()()()()()?」

「あ、マジ?」

 

 あ、覚えててその冷静さなんだ。出来れば出会って直ぐに言ってくれないかな?てっきり初めから死んでないから記憶にないタイプだと思ってたんだけど。

 

「うん。先週の日曜、5月10日の一番最近のやった日に…覚えてる事になったというのが正しいか。私としてはあの得体の知れない声がこんなに世知辛そうな存在だったのは驚いたけどね」

「それどういう気分なの?」

「知識に比べて身体能力が小動物以下だったのは神秘さの欠片も無くて拍子抜けだったよ」

「…そっちじゃ無くて、思い出した日の方」

 

 夏奈はくつくつと笑ってから、続きを言う。からかうんじゃあ無いよ。

 

「くく…冗談だよ。状況把握に3分もかけたのは高性能なAIだった身としては不本意だったね。自室で思い出したからボロは出してないし、文明の機器もその物になってたから直ぐにマスターしたとも」

「時間の矛盾とかある?そこら辺把握できてるの?」

「無い。私は確かにここでも今年3月に『鎌蛇様』を鎮める為に死んだし、それでAIになったし、霧っちに手伝って貰った。そして、死んだ後の10日前の私に戻ったんだ」

「10日前かぁ…」

 

 教えてくれ。『昨夜様』は木香の捧げるという発言をどこまで広い範囲として捉えたのかを。確かにかなたらの願いに一回通したけど…それで対象に含めるのか。…うん?つまり木香と同じ状況だと?

 

「正確には死亡10日前の自分の身体と同じ身体を持って、死亡10日前に戻ったと言った方が良く無い?」

「どの怪奇の影響か知ってるね?別に教えて欲しいとかじゃ無いけど、それに関しては余り気にして欲しくはないな」

「…いや…うぅん?二つあるんだよな…」

 

 思えば、1000年前からの変化と『昨夜様』による10日前送りの変化の二つ、これは別けて考えるべきだろう。

 

「あぁ、私が知ってる範囲より今回のはとても複雑なんだね?なら尚更考えないのが得策だよ。怪奇なんて、神格の考えなんて考えるだけ無駄さ」

 

 腕を組んで悩む俺の顎を指であげ、クイッと目線を合わせに来た。放課後の教室な上に、地味に身長が高いから俺から見るとサマになるな。所詮1年同士の差とはいえさ。

 

「神格が関わる怪奇を考える時はこの言葉を思い出すと良い‭─‬‭─‬思考を空にし、相手の敵意を祓うべし。それこそが鎮めるという事の真髄である‭─‬‭─‬これまでに2回神格という存在を相手にしてきた人々が遺した教訓だ」

「思考を…あれ、尊敬で埋めるんじゃ」

「それは思考を空にする1歩目のやり方だね。初めから奥義は難しいし、それなら最低限不敬にならない様にすべきって感じだよ。…これは私の両親が教えてくれてね?どれだけ頑張っても相手は強大で想定外は絶対に起きる。なら、相手が良きにはからってくれる様にするべし。そうすれば悪い様にはならないだろうからね」

「なるほど…」

 

 そういえば俺、父さんに神格に対する心構えとか聞いてなかったな。ゲェムだといつも神格を相手する場面は飛ばされてたし、精々が魂を見て『家守り様』に対して思考を尊敬的な感情で埋めてるのを見たくらいだ。……確かに思考が空だな?俺はもしかしたら対応の仕方を間違えて覚えていたのかも知れない。

 

「まぁこれは基本さ。孤独感を感じてる神様相手だと、場合によっては相手が思考を読めるようにする工夫をする時もある。でも、そっちの方だと気に入られ過ぎる危険があるからね。神格には気に入られすぎないのも大事だよ」

「下手したら道具として連れ去られるしね」

「うーん実際にやられかけたね?でも、そういうのはまだマシだ。もっと酷いと自分の存在全てを使って貢ぎ始める。そうなったら怖いぞ?天皇様なんて愛され過ぎて未だに穏やかな地獄みたいな状況だからね」

「あー……うん。それはそう」

 

 この世界にも居る天皇の一族、遠目に見ても眩しいくらいだからな。幸福や不幸がどんな物か分からなくなる程の幸福な出来事しかないなんて、最早あれは呪いまである。天道っていう地獄はああいうのなんだろうな。

 

 さて、ここまでの話をまとめると、今回の過去改変に関してだけはあんまり調べようとしない方がいいだろう。単純に、『昨夜様』に対して不敬と取られかねないとなると更にややこしい事になりかねない。それは勘弁だった。

 

「…ところで、いつまで私は顎を持ち上げ続けられるの」

「そうだなぁ…思考を空に出来るまで」

「考え過ぎだと。まぁ…父さんの仕事上コレから神格には関わるだろうし、思考の練習するのはやぶさかではないんだけどさ…今?」

「うん。霧晴は少しでも放っておくと、自分でも出来ることを少しでもやろうとするだろ?なら、手法を学ぶのは早い方が良いからね」

「余計な事をする人材を少しでもマシにするアレだぁ」

 

 ふぅん。新人教育と言う訳か。…それにしても顔近い気がするけどな。お互いの鼻息当たってるし。

 

「…近くない?」

「どうやら君はちょっと見え過ぎるからね。眼を閉じると逆に()()()んだろう?そんなに情報が有ったら思考を空にするやり方は身に付かない。なら、視界を閉じずに人で埋めれば良い訳だ」

「…まぁ、魂で塞げば他は見えないけど…これ、五感全部で情報受け取るからなぁ」

「なるほど、そうだったのか」

 

 …うん。手を絡めてきたのは触覚で、身体を寄せて来たのは心音による聴覚封じか。

 でもさぁ、髪を耳の上にあげる動作で夏奈の匂いを嗅がせにくるのはダメだって。小学生でもインモラルだよ。思わず眼を閉じちゃったね。

 

「怖がらなくていいよ…眼を開けて?」

「……んぅ」

「うん、それでいい……後は、味覚だ」

「…キャンディとかあります?」

「無いから指で代用しようか」

「うぇぇ…」

 

「ほら、いい子だから咥えてごらん?」

 

 

 

 

 

 

 そこからの光景?

 

………………ええと…………ちょっと……けっこう…恥ずかしい…ので…話すのは無しの方向で。

 

 …一つ言えることがあるとするなら、終わった後は蛇口で口を濯ぎ、その隣の橘の指を目で追ってしまった事に大人として大変羞恥心に襲われて叫んだ事だけだろうな。

 

「…あーーーー!!!!」

「くくくっ…散々私を悩ませた分まで苦しむといい…!」

 

 以上、夏奈の証言と色々と助けてくれたお礼の、思考の手法の教導である。前世を覚えてる身として小学生に負けるのは悔しい…いや勝ち負けじゃないし。

 

 負けたんすか?

 

「負けてないが?」

「うお、突然どうしたんだい?」

「いや、自分に煽られて…」

 

 こう言う時頭を猿に汚染されてると難儀だな。猿渡先生ェ、鉄拳伝待ってるよ…。

 

 そんな放課後を過ごし、家に帰った俺はガチャコインとゲームコインを取り出していた。なんでこんな危険物を持ってるのかって?コインだけ有っても父さんに見つかりかねないんだよ。最近そこら辺を探し始めてるし。この前呪いのゲームとしてディスクを見せた影響だな。

 

 カセットやディスクなら大きさをとても小さくしてポケットや筆箱に仕舞えるが、コインだとな…母さんなら兎も角、同じ転生者なら見つかりかねないのだ。…決して羞恥心を忘れる為の逃避では無いぞ?流石にそこまで配慮の心を無くしてない。

 

「という訳で…どうか放置して良い穏便な奴であれ!」

 

 ガシャン ガシャン

 

「あっだ…!!!ぃ…つぅ…」

 

 全力回避は虚しくも失敗した。横たわった俺の額に二つの品がぶつかり、転がる。俺はズレた眼鏡を直しつつ、額を摩りながら出て来た物を見た。片方はUSBの保管する奴で、もう一つは大きな切符みたいのだった。

 

「…どっちだ?どっちがゲェムだ?…USBか」

 

 一先ずUSBを弄り、大きさが変わったのでこっちがゲームだった。大きくして何か側面とかに書かれてないか確認すると、【DDRPG】と書かれていた。冒険か…DigitalかDevilかDieなのか、取り敢えず嫌な名前だった。

 我が家にパソコンは無いので小さくして保管しておく。確かめるなら真倉の家に行くか、いつぞやのテレビ屋さんでも探すついでに頼んでもいいだろう。あの人生きてるかな…テレビとか売る余地消えたけど。スマホあるしさ。

 

「切符なぁ…ゲェムじゃ無さそうだけど…いや遊園地とか体験系とかあるな。ゲームの中にリアル系が含まれている可能性あるわ」

 

 箸を取り出し、予めカセットとディスクとUSBを持ってから摘む事にした。万が一の時の自衛手段コレしか無いし、切符とか直で触るのは危険な品物だからな。物語で落ちている切符や割り符に触れて何処かに連れてかれる話はちょくちょく見るんだよ…!

 

「…そうっと」

 

 カチ

 

「………無駄な足掻きだったか」

 

 切符に穴が空き、使われた事が示される。突然虚空から細かく区切られたルーレットが現れた。そこには「アリス・ハーロット【曖昧な主人】」とか「暮星茜【スカイスカイ】」とか「ジョン・タイマー【時報】」とか「岩崎花子【銃死刑法案】」とか、人の名前とよく分からないのが大量に書かれていた。100人は超えてるな。

 

「………龍金【千年荒野】…ダンテ・ブール【途絶した建築物】…欠伸する長足【霊道回廊】?…名前かこれ?」

 

 勝手には回らない様なので回す前に出来るだけ確認すると、何十人も確認した後半に「霧晴千歌【ゲームガチャ】」と「相戸健太【除夜の鐘】」の名前もあった。途端、鳥肌が立つ。

 

「……転生者だ。これ、全転生者の転生直後の名前と特典だ……え?これ回るとどうなるの?嫌なんだけど回すの」

 

 書かれたのが人物名と特典なのを理解すると、途端これが◯ANTZの死亡者リストのそれに見えてくる。何より俺の名前と父さんの名前もあるのが嫌だった。当たったらどうなるんだこれ。

 

 カタン  カラカラカラカラ

 

「…【裏世界探索記録帳】」

 

 左手にカセットを挿し、判定がどの様な物となるのか、確認できるのかの用意をする。回さない時間が長過ぎたのだろう。ルーレットが自然と回り始めた。

 

 特典行使→難度1

 1D168(75)75=75/1

 マイケル【オーケストラ】

 

「…合計168人なんだね転生者の数…いや、なにかの条件を満たした数と捉ておこうか」

 

 ルーレットが止まり、1人の転生者を指し示す。それがどういう意味を持つのか、想像つかなかった。思い立ち、今の内にゲェム記録ノートとコラムノートに手を添えておく。何処かに転移とかあるなら出来れば持っておきたいが、俺だけが消えるなら見つかりたく無い塩梅の物なのでしっかり持つのはやめておいた。

 

「ふぅ…5月12日の17時28分の夕方。天気は晴れで母さんの帰宅予測は18時頃。…可能なら2時間で終わりますように」

 

 ルーレットが消える。針の音だけが3回響き、視界は暗転した。

 

 


 

 

「あ"ー…酒は"…」

 

 目覚めて最初に酒の入った瓶を逆さまにして、振る。一滴が唇を潤し、終わりである事を俺に通達した。

 

「ね"ーの"がい"!」

 

 投げ捨てると、ビンはガシャンと割れる音を演奏した。お?今のはいい音出たな?

 

「はー"ー"……あー…金…稼がねぇと…」

 

 ゴミに座り込んだ身体をぐったりと起こし、裏路地からのそのそと顔を出した。

 

 1843年、前世なら余裕があって妄想癖を持った奴らが世界に革命だ啓蒙だと言って、民衆に面倒臭い思想の種まきをしていたくらいの時代。いや、こりゃもっと後だったか?…どーでもいいが。

 

「あれ…あれが邪魔なんだよな…怪奇って奴」

 

 この世界じゃ違げぇ。世界がずーーーっと暗ーい時期をうだうだ過ごして、ようやく太陽が顔を見せ始めた頃だ。

 220年だか前の人類に魂が宿った悪夢の日。悪魔どもが湧いて来た1600くらい前。変な道具が出来た430くらい前。世の中ずーーーーっと死にかけてた。それはもう酷いもんさ。

 

「はぁ…【即興曲:ロバートの囀り】…数の悪魔が狂わせる」

 

 楽器が現れて、見えない演者が音を響かせる。数字に頼って造られた全てを狂わせた。建物は陽射しに当てられた油彩画みたいに寸法を変えるし、河原はその流れを変速させる。人々は老人にも赤子にも変わるし、服は誰も着れない布に変わる。

 

 全部、ピンクの象の同類だが。

 

「あーー…【ピリオド】…俺にだけは現実となる…」

 

 指を振って終局とする。…つまりは、幻覚だ。俺以外にはな。

 

 前世なら音楽の都とでも呼ばれた時代の都市。ウィーン生まれの俺に相応しい音楽の特典。その効果は多彩な演奏と楽器の召喚、その曲による無限大の効能だ。1人でオーケストラを開ける特典は、聞いた者に温泉に浸かった奴ら同様素晴らしい効能を齎す。いいもんだろ?

 

「この世界のウィーンが川の海運頼りの交易都市じゃなけりゃな!」

 

「邪魔だ!馬車の前に立つんじゃねぇ!」

 

 避けはしない。勝手に道の寸法が狂って俺を脇に寄せるからな。側から見たら転移してる様に見えるだろう。どうだ?素晴らしいだろ?音楽を憎んでなきゃ誰だって同じ恩恵を与えられるんだぜ?

 

 『狂わしの音色』がいなけりゃな!コイツが!コイツがいるせいでみんなが音楽を憎む!お陰で俺は狂った家無し野郎で!誰一人だって俺の奏でる音色の力を拒絶する!

 裕福な家に産まれたさ!素晴らしい音が俺を祝福した!だが!そこにいるだけで音楽を奏でる赤子なんて!前世だって不気味に思う!この世界なら尚更だ!

 

「…ち、怪奇に浸かった奴かよ」

「死ね!前方不注意が!」

「いつ爆発するか分からない奴はどっか行け!」

 

 死にはしなかった。家無しマイケル、ただのマイケルは音を食べて生きたのさ。だからと言って幸福な訳が無い。

 どんなに素晴らしくても、それを理解しない奴らしかいないなら、決してそれは宝にならない。パンを作って差し出しても、相手が音楽を憎むなら音となって虚空に消える。そんなの怪奇と言われるに決まってる。

 

 船に貨物を乗せて、馬車に貨物を乗せて、顔も背丈も数を狂わし生きるんだ。鼻の高さを、目の位置を変えれば赤の他人だ。音の酒は酔えないから、金を稼いで酒を買う。音の酒は夢の中に誘うだけ。幻覚なんて見れやしない。

 

【だったら1日貸してくれ。お前に音楽をあげるからさ】

 

「…!?」

 

 身体の自由が効かなくなった。口が開かない。全ての音色が止む。

 

 この世界で産まれて初めての静寂だった。

 

 視界が狂い始める。奇怪な情報が脳を染め上げ始めた。

 

「…はぁ…そういう感じね?ジャンルは職業のシミュゲェムだ。選ばれた奴の人生1日体験。対価は選ばれた人の望むもの。渡す物の豪華さはこっちが決めていい。王族相手にしてもそこら辺の人でもいいと。そうする為の道筋さえ教えれば良く、これ自体はただの夢か」

 

 音色が見えた。全てを狂わせる古い音だった。

 影が見えた。夜に全てを飲み込もうとする影の悪魔だった。

 空が見えた。醜悪な青色と蜘蛛の糸が広がっていた。

 人々の足音が見えた。その全てが儀式に成りかねなかった。

 川の怪物が見えた。底に隠れ、見つめ合う人を殺そうと潜んでいた。

 背丈の高い顔なしが見えた。人々に紛れ、親しくする相手を殺そうとしていた。

 飛び交う蟲が見えた。魂をその身に宿し、無限の命を得た自然だった。

 地獄が見えた。冥界が見えた。天国が見えた。辺獄が見えた。死の世界が全て映っていた。

怪奇が見えた。怪奇が見えた。怪奇が見えた。怪奇が見えた。怪奇が見えた。怪奇が見えた。怪奇が見えた。怪奇が見えた。怪奇が見えた。怪奇が見えた。怪奇が見えた。怪奇が見えた。怪奇が見えた。怪奇が見えた。怪奇が見えた。怪奇が見えた。怪奇が見えた。怪奇が見えた。怪奇が見えた。怪奇が見えた。怪奇が見えた。怪奇が見えた。怪奇が見えた。怪奇が見えた。怪奇が見えた。怪奇が見えた。怪奇が見えた。怪奇が見えた。怪奇が見えた。怪奇が見えた。怪奇が見えた。怪奇が見えた。

 

「じゃあ…はいよーいスタート。【序奏:『狂わしの音色』】、対象を席に着かせる能力。勝手に動かない様にする想定外への対処」

 

 世界は、何処までも脆かった。

 

 見え続ける情報が完結しない。全ての感覚が伸びている。神経が世界中に張り巡らされた。自我が世界に溶けている。

 

 今までで一番素晴らしい音色が世界に響く。その音色が俺を情報の渦から救い出した。

 狂った音色が俺のオーケストラで調律されて、世界に産声を鳴らす。その力は人々の嫌悪を取り払った。

 

「…あれ、音色席に着かせて無いな…まぁいいか。【四重奏:『遊宴歌謡』】、召集する歌。指定先はこの時代にこの手の幽霊が居るイギリス、イタリア、ギリシャ、ドイツ。【追走曲:『遊宴歌謡』】、行動固定化。対象は転送された幽霊達」

 

 近隣の国の、音に魅入られた物好きな幽霊がこの場に転送される。誰もが何が起きたか理解してなくて、しかしその手の奏でる音に魅入られて演奏に加わった。明るく、世界を照らす曲だった。

 

「【嬉遊曲:オーケストラ】、ランダム性の排除。効能の指定。しかし体験先の特典の使い方開示は無法だよな。コレで俺の方の特典マイケルに開示されてたら教えて欲しいもんだ」

 

 何か言っていたが、最早どうでも良かった。今はこの素晴らしい音に身を委ねていたかった。

 

「【終楽章:音に魅了されたもの】、最終指定。効能の効果範囲の限定化と長期化。タイトルは能力の方向性であり、対象の指定となる。曲名として入れてもいいが、基本の使い方は範囲設定がいいと。先に怪奇を動けなくしてからやれば音楽は楽しめる。今回はそれを学んで欲しい」

 

 最後、万雷の拍手が俺の身体を使った奴を包んだ。今までに無かった光が世界を包む。俺の音を聴いた効能が広まっていた。皆が喜び、音楽の素晴らしさを理解していた。

 

「以上、1時間の演奏、ありがとうございました。…マイケル、いつでもいいんだけど、君のオーケストラの可能性を信じてあげて。この音色、すっごく良かったからさ……でもあんまり派手にやらずに慎まし」

 

 がくりと、身体が倒れ込んだ。

 

「…はぁっ!待ってくれ!もう一度!もう一度この演奏を!」

 

 身体が動く。俺を魅了した音色が消える。世界が遠くなる。全てが夢として消えていった。

………

……

「あ"ー…あ"ぁ"…んにゃ…あぁ…いい夢を見た」

 

 ゴミに座りこんだ身体をぐったりと起こし、歩き出す。

 鮮明な夢を見た。俺の身体に音楽の悪魔が取り憑いて、世界に素晴らしい音色を響かせた夢を。

 

「…綺麗だ」

 

 路地裏から出て見えた世界は素晴らしいものだった。悪魔の視界を垣間見て、今までの俺が目を塞いでいたのを理解した。今までの、こんなにも素晴らしい世界を見ていなかった俺が馬鹿らしかった。

 

「…はは!今なら、できる気がする…【序奏:『狂わしの音色』】!共に奏でようか!」

 

 分かるんだよ。夢でお前が無理してまで席を立ったのは、この音色を先入観無く聴かせたかったからだろ?音に宿る、一つ一つの感情に心を震わせたんだろ?恐怖!達観!喜び!後悔!尊敬!期待!心配!善意!安堵!

 俺が忘れていた、この時代に生きる全員が忘れていた普通の心!悩み後悔しながらも他者を思い遣り恐怖を切り拓いて進める心!人が持つべき心を持った悪魔!そんな題材、見逃す訳がない!

 

「世界に響かせよう!あの夢の音色を!」

 

 


 

 

ゲェム記録

 

2020年5月12日

 マイケルやりやがったアイツ。音楽の歴史変えやがった。

 音楽が死んだ。理由は音楽関係の怪奇が増加したせいだ。アイツ歴史に音楽の悪魔と呼ばれてる。どうしてはっちゃけちゃったんだお前。

 鼻歌も禁止される世界とか地獄だろ。何があれって足音のリズムに反応する怪奇が新規参入してるし。テンポよく歩くとか御法度だよ。お陰で歩きづ…元からリズム良く歩けてなかったからあんまり変わらなかった。この時だけは体幹0の身体能力で良かったと思う。

 

 あの切符はもう消えてしまったが、その特性から【転生者シミュ】と呼ぶ事にする。相手の特典の使い方が大体分かるからそれ使えば基本抜け出せないとかはおきづらいだろう。

 ドイツ製のシミュゲーとかの系譜が、こんな感じで来ると分かったのはいい事だろう。帰るのはわりと簡単そうだし。

 

 でも音楽の授業が無くなったのはちょっと悲しいな。米津も世間から消えたし。音楽という文明が消えるってのは酷いもんだ。

 

 






霧晴千歌
 USBの方の確認したく無いなと思ってる。
マイケル
 脳の眼を垣間見て発狂した状態で脳が戻らなくなった。音楽の怪奇を増やした悪魔。

『音楽の悪魔』
 マイケルの魂が悪魔になった。あの日見た夢に繰り返し揺蕩っている。特典使える。
『感情の線』
 見た者の感情を狂わせる書き方。五線譜を完成させるだけで怪具になる。
『10心拍』
 自力での心拍が10を下回ったら死ぬ。心拍蘇生や電動蘇生を無力化させる怪奇。
『とびとび』
 特定のテンポで歩くと後転する呪い。
『歌攫い』
 歌うと音楽の悪魔に攫われ魂が擦り切れるまで歌わされる。

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