死んだ人の成仏に再挑戦してみます。
『だれかー、俺を知ってないか?』
放課後みんなで帰宅する事になり、みんなの足音が全然しない事にびびりつつ帰った日の事だ。音楽関係の怪奇が増えたせいで、足音を消す歩き方を覚えなきゃいけなくなってたのは試練だったよ。
そんな感じに苦労しつつ皆と別れて団地に向かう途中、前に少し会話した昭和系イケメンなテレビ屋さんの幽霊が通行人に呼びかけていた。しっかり死んでる…。
「うぅん…でも特典使う前の時だと死んでそうだしな…」
でも生きてるこの人とあった時は、コレまでの流れ的に『赤テレビ』と世間の成長具合で、唯一生き残れたパターンだと思うから元に戻った感覚の方が大きいんだよな。
だけど結局死んだままになったのは俺のせいだし…ちょっと話すくらいなら手伝ってもいいかもしれない。
「もしそこのお方。闇雲に聞き回っても意味はないよ」
『あ!お前俺が見えるのか?教えてくれ、俺は誰なんだ?』
助かったといった顔で近寄って来た。過去が変わってから2日は近くで見てない以上、此処を根城にした地縛霊では無く浮遊霊なのだろう。普通の幽霊なら自分を覚えているものなんだが…記憶喪失の幽霊なんて初めて見たな。
「みんな見えてないんじゃ無くて無視してただけだね。2年前の死人なんて貴方の関係者じゃ無いと手がかりも掴めないよ」
『…そうなのか?お前は俺の死んだ時期を知ってるが…』
「それは私が葬儀屋さんの娘だから。幽霊の死んだ時期の見方が分かるんだよ」
『はー…あ、でもそうか。葬儀屋なら俺が誰か知ってるかもか!なあ、俺が誰か教えてくれ!』
「ん、私が知ってるのは2年前に金が無くて死ぬとか落ち込んでた事だけだね。すごいしょげてたからそれで覚えてたの」
見てもその手の情報は分からないから、できるだけこの世界での行末と違って無さそうな分だけピックアップして教えておく。情報源が別の歴史の生き残ったパターンの結果だけだからな。あんまり役には立たないだろうが、少しは手助けになってると嬉しいな。
『そうか…いや!俺が彷徨ってて初めて手に入った情報、まだ引き出せる筈だ!まだ何か俺に対して覚えてる事は何かないか?』
「んー…逆に何を覚えてるの?」
『なーんにも。気づいたら道端で倒れててな、起き上がって見渡しても死体も無いし記憶も無い。だから片っ端から聞いて回って、3日目の今日お前に会ったんだよ』
「目覚めたの最近なんだね」
3日前って俺がゲェム同時プレイしてた日じゃん。あの日色々な場所に影響ありすぎだろ。文明の発展をどデカく変えてる時点でそりゃそうだわ。
『その通り!死んだのが2年前なのも今知ったしな。このまま成仏にしても自分が誰かは知っときたいだろ?だからこうして聞き回ってたんだ』
「それなら…証くん…友達が持ってる怪具が役に立つかも」
『怪具!滅多に見れないあれか!』
こういう時こそ過去を見る時計の出番だな。問題は向こうが手伝う理由が全く無い事ない事か。
「うん。過去を見れる時計だよ。一番いいのは母さんに頼む事だけど…お金払えないだろうし、私の良心の範囲内で手伝ってあげる」
『助かる!』
「ただその前に…ランドセル、家に置いてからね」
そんな訳でゲェムのカセットだけ持ち、俺と幽霊は木香の家に向かう事になった。場所?アイツの持ってる怪具の内、俺の手袋のペアが有っただろ?
ほら、「怪具/騎手型/乙」っていう両手で白黒になってる手袋だ。潜水艦を動かす為に渡してそのままだし、その情報見ながら歩いていけば辿り着けるって寸法よ。
「じゃあ、呼んでくるから外で待っててね。幽霊は家の中に入らないから」
『おう!待ってるぜ!』
ピンポン
「証くん!あーそーぼ!」
そんな訳で歩く事暫く、俺は一軒家に辿り着いた。中々裕福そうであり、恋愛系の主人公とか住んでる一軒家達を思い出す間取りの広い家だった。扉が開くと、若い女性が出て来る。木香の家族構成からしてお母さんだろうな。
「あら?あらあら?可愛い女の子ね」
「こんにちは。証くん居ますか?」
「お友達?今呼んでくるわね」
「千歌が来たって言えば伝わります」
ちょっと経って、木香が階段を降ってこっちを確認してきた。訪問成功である。アポ無しに来たのは申し訳ないが、ちょっと手伝って頂きたい。
「やっほ。来ちゃった」
「千歌…僕、いつ住所教えたっけ」
「幽霊だった時にかな」
「…言ってたかな。言って無いと来ないか」
教わって無いが、手袋の方を言及して連鎖的に声が俺なのがバレるよりはマシな嘘だった。こういうのは徹底するのが大事なんだよな。
「それよりも!…ちょっと手伝って欲しい事が有るんだけど…どうかな?」
近くの公園に二人と幽霊一人。俺と木香と待ってた幽霊だ。説明をして怪具も持って来て貰い、準備は万端である。
『頼む!俺の過去を見てくれないか?』
「と、本人も言ってるし…手伝ってくれる?」
「うーん…いい思い出は無いんだけど…その変わったお節介で生きてる事になった身としては拒否出来ないか。うん。いいよ」
「やったぁ」
「気が抜ける返事だなー」
『いつでもこい!』
「幽霊の方が気合い入ってるや」
俺の気の抜けた返事を聞きながら、木香は早速腕時計を付けた方の手を幽霊にかざし、握りしめる。時計が逆回転して幽霊の過去を木香に見せ始め、俺もそれに便乗して見た。
『明日や。明日までに耳揃えてなきゃ全身売っちゃるからなぁ?』
『え"ほ…ごほ…それでアイツは…アイツは生かしてくれますか』
土砂降りの雨の夜。推定2年前の路地裏の映像。タトゥーをいれた屈強な男が生きてる頃の幽霊を放り捨てた。周囲を確認し、結構広い範囲を映してる事に感動する。ゲェムだと深海だから分からなかったけど、こうして見ると結構デカい範囲で見れるんだなぁ。母さんが近づいてるなぁ?なんでぇ?
『そりゃお前の誠意次第じゃ』
『うぐ…』
男は生前の幽霊の髪を掴み、持ち上げる。目立った傷は無いが、それは売る時にケチがつかない為だろうな。そうじゃなきゃ、今すぐに殺してやりたいと思ってそうだ。
『…良いか?商売敵の娘っ子…象徴としてまたゴミどもが集まっても困る奴、生かしたいんなら覚悟みせろや?裏切りモンが。仮にも同じ組…親分の情けは恋しいやろ?これ以上欲しがりの犬真似したら許さんからな?』
『分かってる…』
『ああ、分かってくれたか?そうかそうか…じゃあ』
怪具の拳銃が屈強な男の頭部に向けられる。男が気づいた時には『魂蝶』が周囲を舞っていた。蝶の出す魂の鱗粉が雨の降る夜を幻想的にする。
『そんじゃあな。明日に成仏出来るといいな?』
銃声無く、白く光る蝶の弾丸が放たれた。パシャリと水溜まりを鳴らして、傷ひとつ無い死体が二つ出来上がる。
この凶行をした人物の顔と魂、黒い手袋と服を知らないと言うのは、俺には無理な話だな。
『…死亡確認。22:12、ご臨終です…コレで依頼完了か。そんじゃ、待ってるから記憶吸って繁殖しな。弾丸共』
蝶が死体に、死体から記憶を集めてる最中の魂に集り始めた。
『はぁ…この手の仕事…私が退職する迄に消えてねぇかなぁ』
だってこれ、俺の母さんだもの。今目の前に俺の知らない母さんの仕事風景があるぞ。
おっかしいな。俺が知ってる母さんの仕事って幽霊の対応だけで人殺しとか母さんの仕事仲間だって誰もしてなかったんだけどな。えぇぇ?葬儀屋だよね母さんの仕事?
「…は」
『お、気づいたか。それで、どうだった?』
「…銃殺されてた」
『なんで!?』
戸惑ってる間に映像は終わり、見終わった木香が見たままの物を報告してるのを見て放心していた調子を取り戻す。少なくとも殺害者が母さんなのはバレる訳にはいかなかった。
「ええっとねぇ!?複雑な事情で揉み合ってた貴方と裏社会の住民を纏めてねぇ!?ねぇなにあれぇ!」
どうしようバレるかも知れない。思ったより動揺してるわ俺。
「あれ、千歌は見れたの?」
「そ、そうだよぉ!?ほら私見えやすいから!あ、私ちょっと用事あるからもう帰っていいかな!いいよねまた明日!」
「ストーップ」
「あぁぁぁぁ…逃れられない…!」
身体能力無いのが恨めしいな。この時ばかりは早い足を持つ人が羨ましい。
「あの蝶の怪奇、じいちゃんのお葬式で見た事がある。記憶を吸ってたんだし知れれば何かヒントになる筈だ。確か親が葬儀屋なんだろ?何か知ってるんじゃ無いか?」
「『魂蝶』魂のみで繁殖し生きる蝶の仲間で一瞬で芋虫蛹蝶の形態を自在に変化可能!魂が記憶を取る過程を乗っ取って脳を食べて増える!ある怪具を利用すれば蛹の形態を弾丸として利用可能!魂のみを撃ち抜く対幽霊の武器として怪対免許一種の中でも乙以上の一部が所持可能!詳しい所持許可条件は私も知らない!それじゃ!」
「あ…また明日!転ぶなよ!」
『ここまでありがとなー!お陰で手がかりが掴めた!』
「へぶ…!」
途中途中転びつつ、俺はその場から逃げ仰せた。何か怪しさメーターなんて物があれば直ぐにでもマックスになってそうな無様な立ち回りだが、それだけ動揺する出来事だったと理解して欲しい。
本当にもうどうしよう…。今まで尊敬していた人が公務員の立場で合法的に殺し屋みたいな事してたとか本当にどうしよう。
「ただいま…はぁ…はぁ…誰も居ないよね?」
手を洗って、メガネを付けながらだからやり辛い顔洗いもして心を落ち着かせようとする。
「……純粋で綺麗だと思ってた物が、傷だらけだと気づいた子供だな」
鏡を見ると、酷い顔をしていた。正直、今すぐ眠って今見た物が全部嘘で夢だったと思い込みたかった。キュッと蛇口を締めて、布を顔に当てる。
「…ぐす…うぅ…」
そうすれば、涙を誤魔化せた。分かってる。前世は男で大人だ。こんな事で泣いて良い前提じゃない。だけど、最近の事だけでも過去改変に音楽の悪魔になったマイケル、怪奇に殺されそうになる日々に変わった環境。
今回の事だけじゃ無い。溜まったストレスに今回の事が刺さって、心のダムが壊れたみたいだった。
「うぇぇぇぇ……ぶぇ…っ…っ…」
上手く行かない訳では無い。だけど不幸中の幸いってのは慰めにはならないんだ。うだうだしてないで成長しなければ死んでしまう世界なのは理解してる。でも俺、自分が物語の人々みたいにスッて成長出来るタイプじゃ無いのは自覚してるんだ。それを自覚してるだけ許して欲しかった。
「……ああぁぁぁ…ひっく…うぇ…っ…」
「千歌、なんでこんなトコで寝てるんだい」
「ふぇ…母さん」
身体を揺すられて起きる。
泣いた時間は短いだろう。だが、走ってたのもあってか、俺は洗面台の前で寝てしまっていたみたいだった。
「…なんでも無い」
「そんな訳ない。目をそんなに赤くして、何でもない訳あるかい」
「大丈夫だよ。疲れて寝ちゃっただけだから」
「…はーぁ。千歌、ご飯にするよ。今日は父さん夜勤もやるから二人だけね」
「…うん」
程なくして母さんが作ったご飯を食べる。鶏肉と野菜の炒めだった。
お互いに黙って食べていた。
「…聞かないの?」
「聞いて欲しいのかい?」
「ん…」
「だろうね。なら私からは聞かないさ。千歌が話すまで待つ」
「…いいの?」
「いいんだよ。嫌がる事をしてどーするんだい」
「そっか」
塩っぽさとあっさりとした鳥から染み出た油の味が舌の上で転がった。外食に比べたら薄味の、我が家の味だった。何を知ったとしても、過去が変わっても、変わらない味だった。
「だけど、助けて欲しかったら直ぐに言うんだよ。母さんでも父さんでもいい。お前の親は結構、強いからね。何が相手でも護りきってみせる」
「うん。それは信じてる」
怪奇災害の時、母さんは命を使い切って俺を護ってくれた。父さんは無自覚でも、俺と母さんを助けてみせた。今はもう無くなった出来事だけど、確かに俺は覚えている。
「なら、言うことはないよ。アンタが頑張って頑張って、それでも無理だって頼りたくなる前には言うんだ。それを忘れるんじゃ無いよ」
「…うん」
それでこの話はおしまいになった。俺も、変わらない物を見つめるきっかけが出来て安心感が湧いて来た。少しだけ、背負った物が軽くなった気がするな。
俺より先に母さんが食べ終わると、近くに置いてあった仕事道具を入れのアタッシュケースから『魂蝶』の卵の塊を取り出した。…拳銃今見たく無いし眼を逸そ。
「…よし!暗い話はおしまいだ!母さん今からはっちゃけるからね!」
「うぇ?」
「ここに銃があります」
「ぶっ…!」
思わず水を吹き出した。クルクルと回されても今それを直に見たらキツイんだよ。
カチャリと銃口が俺の頭に当たった。普段は気だるい目の母さんの目が仕事してる時の怖い感じになってた。
「え」
「その反応、教えてない私の仕事を知ったろ」
「えっえ」
「いけないねぇ?そんな事。アンタの眼が良いのは知ってたが、その欠点も母さん良く知ってるんだよ。見えない様にやってたんだけどなー?」
「ふぇぇ…」
手を上げた。俺良い子にするから見逃してくれない?ダメ?母さんの手を俺の手で汚したく無いよ?もう涙はだくだくでポロポロだった。今の俺は簡単に泣くぜ?
「どこの馬の骨が成仏し損なった。言いな」
「………や」
「千歌、幽霊は庇うな。敬いと罪悪感、手向けの心は持っても生きてる側に立ちな。幽霊達に手札を知られる訳にはいかないんだよ。秘密、大事だろ?」
「や!」
「千歌」
マズいなぁ木香も知っちゃってるよ。教えたら巻き込まれかねないなぁ。母さんお仕事に関係したら娘相手にも銃口向けれるタイプなんだね。今知ったよ。
「…ああ、生きた奴もいるな?そうだな?千歌が立ち位置間違えるなんて、そんな訳ないしな?ごめんよ、母さん勘違いしちゃったよ。で、誰だ?」
どうしよう察しの良さでどんどん情報抜かれる。
「…男か」
「んー!」
「……過去を見る怪具か」
「んー!」
「ソイツ一回死んだな?」
「んー!」
「よし時間関係か。数回。それも生きてるパターンも有り。面倒だなぁ…国の依頼が完遂されてなかったってのはさ」
「ふぇぇ!」
どうしようなんかもう全部の情報抜かれる。首をブンブン横に振ってるにしたって質問が鋭過ぎる。そして、銃口が俺の頭から外れた。テレビ屋さんの幽霊と木香…終わっちゃった。
「舞いな『魂蝶』」
母さんが両親腕を振ってカチャリと銃を二丁鳴らすと、『魂蝶』が周囲に現れて飛び始める。普段は拳銃の中に卵にとして留めてるから、コレでいつでも弾丸を撃てる様になった。
蝶が舞っていない時は弾丸は撃てないからな。さっきまでの俺への対応は脅かしでしか無かった訳だ。それでも怖かったけど。
「千歌、家にいなさい。将来怪対員の葬儀屋志望なら口封じは無い。させない。母さん今から食い残しを片してくるから待ってなさい。男子の友達の方は…ちょっと忘れて貰うだけさ」
「ま、待ってよ母さん…!」
「大丈夫。幽霊なら普段通りの仕事をしてくるだけさ。会話して、無理なら飽和攻撃で行動不能にするだけ。死にゃしないよ」
「えっと…私を連れて行くとか」
「千歌、今日は泣き疲れただろ?ゆっくり休みなよ。…運びな『魂蛾』」
窓を開けた先に居た、羽の肥大化した魂のみの蛾が母さんを運んで飛んで行く。怪対員の人に頼ると言う事はこう言う事だと理解していたが、本当に俺の出る幕が一つも無かった。
「…無力だなぁ」
窓を閉じ、皿と箸を片付ける。線香とお香を焚き、コレから亡くなる相手を祈った。コレしか出来ない事が悔しかった。心を落ち着かせ、その終わりを祈る。
「どうか穏やかに終わりますように…どうか来世が良い物で有りますように」
見えるだけでは意味が無い。日々それを痛感するばかりだった。
霧晴千歌
選択肢はかなりの確率で間違えてるタイプ。
霧晴百葉
穏便な方法が基本だが、悪霊対策で戦闘も出来る。
木香証
翌日になり、昨日の放課後からの記憶が無いのに頭を捻ってる。
テレビ屋の幽霊
成仏した。
『魂蝶』
脳を吸い取って卵を植え付ける。
『魂蛾』
羽を広げるとクラゲに似た見た目になる。落として食べる。