ゲェムのしらせ
スキル名「怪奇感知」→「怪奇探査」に。中身により近づけた名称に変更。
コレからもゲェムをお楽しみいただけるように調整します。お楽しみください。
「千歌、携帯の言い分を聞こうか」
朝、朝食の匂いと共に目覚めて聞いた言葉である。是非も無いよね。
「人を助けるのに使っちゃいました。後悔はしてません」
「潔いね。母さんが帰ってきた時の心配の分だけで済ませてやる」
「ん゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛!゛!゛」
アイアンクローが容赦無かったよ。たんこぶは頭の上に置いてある。俺 is アーメン。
「それで、その子は無事で、アンタはまんまと携帯と、その片手も取られたと」
「はい…モグ…その通りです」
母さんの仕事道具の黒手袋を着けた左手を見る。昨日の内になんか半透明な手が生えたから手袋をしてる間は外からだとそこに無いと分からないだろう。本当なんだろうなこれ。
茶碗を持つ程の力は無いから食べてる最中は若干手持ち無沙汰だ。お陰で少し品のない食べ方になってしまっている。
「お馬鹿が。人の影見て自分の影の状態を確認してないからそうなるんだ。アンタは昔から自分をおざなりにするのが治らないね!」
「無事なのを見たら安心しちゃって…モグ」
「名前の由来を忘れるんじゃ無いよ!影を取った所の実物が夜になったら取られる。真っ暗なとこに攫われるのは別。複数特徴ある奴をごっちゃにすると痛い目に合う!」
「ふぁってぇ…」
「食べながら喋るな!…その見えない手…まあ魂かなんかだろうけど、私から見て焼いて塞いだ後も生きる上で支障は出てない。後から壊死するなんてのは起きないだろうさ。暫く放ってても問題は無い。今度知り合いの怪具売りに見せるから、その時を覚悟して待ってな」
「あの人か…やだなぁ…」
箸を動かしてご飯を食べる合間に説明した。感情に任せて怒るのはさっきので終わったのでここからは理屈責めもとい、詳しいお話の時間である。
状況を説明した所、左手は『影取り』に取られたので間違いなかったらしい。能力バトルじゃ無いんだぞ?ホラーでも似たようなのはあるけど…いやでも日常がそうなのはやっぱ辛いわ!
なので母さんには見えて無い半透明な手の方は別件だ。多分俺の特典関係なんじゃ無いか?そっちは仕事道具で知っている人に今度見てもらう事になり、俺のやる気はがくっと下がった。眼もそうだけど、いっぱい食わされてばかりで会うのが嫌なんだよ。やな感じって奴だ。
「…いいかい、千歌。アンタは昔から食べるのも走るのも遅いし其処らの芋虫に負ける弱っちぃ奴なんだから自分を助ける事に意識を向けてればいい。言っちゃ悪いがよそ様の事情なんて、アンタに比べたら」
「母さん、それ以上は母さんでもダメだよ。気持ちは分かるけどさ」
流石にそこを比べるのはいけないから止めた。一度大人になったことがある身だ。子供を心配する親の気持ちは何となく分かる。でも…だからこそそれ以上言うのはやめて欲しかった。
自分だけを優先する人はいつか自分の危機の時に誰も助けてくれないだろうから。少なくとも、俺の前世はそんな終わりだった。
沈黙。その後、溜息を一つ。
「………まあ、立派にやり遂げたのは認めてやる。頑張ったな。娘が真倉家のご令嬢を助けたなんて美談は私の自慢にもなるだろうさ。……言いたい事は…まだあるけど…最後にコレだけは言っとく」
「手を出したのなら最後まで。仕事もペットも夫も人の命もそこは変わらない。相手がどうなろうと、最後まで…そうだな…少なくとも小学生の間は見ておく事。分かったか?」
「はい!母さん!…モグ」
「アンタ今日は一段と食べるの遅いねぇ。味噌汁とご飯かき混ぜて流しなさいもう」
霧晴家、心温まる朝の会話である。
「面倒見る事になっちゃったな…」
どうしよう、今後ふんわりクラス替えとかまで曖昧に誤魔化して会話せずに済ませようとしていたのがご破産になってしまった。精神のケアなんて前世で見た本と母さんの仕事姿でしか知らないんだけど。ドラマみたいな修羅場に巻き込まれた子供の扱いなんて時間が解決するのが安牌じゃん…。
「おはよう」
登校中は特に何もなく学校に来れた。やっぱ昨日あれだった分今日は平和だな。気楽に過ごせる日がなんと素晴らしいことか。これで気の重い事が無ければ本当に気楽だったんだけどなぁ。
「あれ…今日も」「なら…違う?」「誰いく?」
「どうする?」「でもやった事ない…」「ママがやってくれてたし…」
「おっとそういえば誤解があった」
教室入った途端のこれだ。一瞬で静寂が訪れて、それからちょっとざわざわする。どうすりゃ解けるかなこの誤解。…いや聞こえた感じ解けてるのか?確証が欲しそうではある。
誰か弁明してくれたらいいが…真倉は真倉で昨日は修羅場ったのか元気無い……無い?…一旦クラスは脇に置いておく。
なんか金色一色から前髪の一房が黒くなっていた。髪染め?イメチェンかな。…怪奇でこういうのは知らないから分からないな。所詮捨てられた新聞と母の忠告と聞き耳立てた話程度では限界と偏りがあると実感するよねこう言う時。
「まーくらちゃん」
「うひゃあ!?」
「うおいビックリした」
驚いた拍子にビクリと跳ねてメガネがズレたので掛け直しつつ、疑問に思う。てっきり昨日のあれでそれはもう落ち込んでいると思っていたのだが…実際顔を下に向けてたし。
それにしては何だか心臓の動悸が速いのだ。興奮していると言い換えてもいい。なにかいい事でもあったのだろう。これは想定より真倉には負担無く事が進んだと見て良さそうだ。
ランドセルを脇に掛けて席に着き、雑談に興じる事にした。席が隣なのは仲良くなるきっかけには充分だ。
「髪の毛どうしたのそれ」
「え、えあ…コレ、はー…べっつに?大した事無いんですけど?」
「多分あるでしょそれ。昨日伝言言わせたの私だし。軽い顛末くらいは知りたいんだわ」
「な、なんでアンタなんかに教えないといけないのよ」
「息が荒いけど大丈夫?……ん〜〜?」
「は…はぁー?だ、大丈夫だけどー、へっちゃらなななな!!!何してんの!?」
真倉の頬を手で挟んで拘束してよく見る。怪奇か憑依か、怪しいので見ればなんか変だった。
何と言うか、魂が新しく増築されていた。…変な表現だが、そんな感じなのだ。二階建ての家に新しく部屋や地下や車庫を増やしたみたいな。魂が一回り大きくなって豪華になってるのだ。
生々しく言い換えると、親が3人居ればこういう感じになりそうって見た目だ。何コレ。それがどうして見た目通りのツンデレになるのに繋がるのか分からん。一先ず悪い物ではないのは確かだ。
「昨日の霧晴呼びがアンタ呼びになって、挙動不審になってたらね。この黒髪も地毛だし、説明を求むって奴だよ真倉ちゃん?」
「わ分かった分かったから!先ずは離れて落ち着く時間を」
「おっとチャイムだ。後で説明よろしく」
キーンコーンカーンコーン
チャイムが鳴ったので離れておく。向こうの要望でもあったしな。なんか釈然として無いが、言質は取れたので問題ない。
騒いでる教室に大人が入ってくる。草臥れた無精髭のおっさんで、煙草の臭いが染み付いていた。
「ちゃくせーき。初めての親のいない場所に同い年との初遭遇。興奮するのは分かるけど、先生の話を聞きましょー」
名前と立場は昨日聞いている。おっさんの名前は
そんなおっさんの声がけで席に着くのは少数だ。無理もない。小学校入るまでこの世界だと親元で過ごすからな。幼稚園とか保育園とかないんだよ。
子供は幽霊に乗っ取られやすいから違いに気づける親のそばで過ごすんだとか。だから普通の子供は今が大冒険状態なのだ。興奮、止まないぜ!
先生は腕時計をチラリと見て、黙る。
「…5…4…3…」
「急にカウントダウン始めるじゃん」
席に着かないと何があるんだ?俺が知ってる怪奇はそんなに多くないから予想つかないぜ?怖いぜ?
「…1…12歳以下の子供が教室にいる上でチャイムが鳴り、その上で3分間皆さんが席に着かないので…」
全てが一時停止する。外で飛んでる鳥は動いてるからこの教室だけだが。
全員目だけが動く。子供は混乱して忙しなく、先生はじっと観察している。俺?止まってなかったから漏らすくらいビビってる。
天井から、見えない上側から、赤くて丸っこいのが落ちた。血濡れた足のない子供の死体。両腕がぐしゃぐしゃに捻じ曲がっていた。…足を切られた子供が高い所から落ちればああなるだろうな。
『だーるまさーんーがー』
ビクンとはねる身体。時間が止まる直前の驚く動きが再開された。…ギリギリ漏らすのは耐えた。
『やーねーまでとーんーで』
「…『屋根ダルマ』が出たぞ。席に着けばコイツは居なくなる。では、ちゃくせーき」
一斉に全員席に着く為に動く。
近くの席に。
「ここ僕の席!」「やーだー!!」「座らせて!」「怖い怖い怖い怖い!」
「どけよ!」「やめて!」「死にたくない!」「押し出されたよ。理不尽じゃない?」
『はーじーけーておーちーてー』
まあ、混乱したら席順とか関係なくそうなるよな。俺は押し出された。理不尽じゃない?取り敢えず押されて転ばないようにする。転んで踏まれたら嫌だからな。
『くーだーけーてーしーんーだ!』
顔を上げる『屋根ダルマ』の視界には、メチャクチャな順番に座った子供達の姿。
…と、普通に座れなくて立っている俺の姿があった。空いている席は一番後ろの窓側だった。反対側は間に合わないんだわ。
『………』
「………」
お互い、少しも動かずに睨み合う。ダルマさんとシャボン玉消えたが合体した歌、だるまさん要素あるなら動かなければ何も起きない可能性にワンチャン賭けた。ダメだったら目の前の幽霊と同じ結末になりそうだな。
さっき迄の騒々しさと反対の静寂が流れた。粘って3分。幽霊は笑顔になってから顔を伏せた。
『だーるまさーんーがー』
うーん。窓側一番後ろって主人公席じゃないか。平穏の反対だな…。
「ねぇそこの私を押し出した女子」
「な、なに?」
「あっちの席に行ってくれない?」
「やだ」
「だよねぇ」
『やーねーまでとーんーで』
仕方ないから行く事にした。普通に歩けば着けるくらいゆっくり言ってくれてるんだし、焦らずに座れば席順もメチャクチャにならなかったろうに。後で元の席に戻るか。
がらん ごごろご
席を引いて、座る。
幽霊は消えた。
一番後ろはメガネ的に黒板見づらいから嫌なんだよな。…あ、外にマットと泣いてる子供と近くに大人がいる。落ちても無事なようにって…いやでも肝が冷えるし当たり所悪ければ死ぬわ。
「はいじゃあ席替えも終わったので何の委員になるか決めましょーか」
「席替えにしては物騒だなぁ?」
先生の一言に思わず呟いた。…マジ?これから暫くこの席なの?…マジか。
「では委員長は霧晴さんに決定って事で先ずは飼育委員からー」
「委員決めにしては強制的だなぁ?」
そして今のあれこれで委員長にされた。
後で聞いたが、前世的に小学校低学年は係決めなのに比べて、この世界だと集団行動の大切さをより身につけさせる為に委員の仕事を1年からやらせるらしい。委員長はその中でも怪奇の対応を先生から任されるから強制任命なんだとか。
ふざけんなって思ったね。
頭を抱えている間も時間は進む。
委員を決めて、教科書を貰い、校内を案内され、授業割を渡され、もう放課後だ。ランドセルを元の席から回収し、さようなら。日暮れには時間があるので真倉と話す事にした。
「はいはーい真倉ちゃん。お話しよ」
「…アンタ…いや、霧晴は大丈夫だったの?」
「何が?」
だる絡みすると、時間が経ったのもあって落ち着いた様子で俺を心配する。
「だって、『屋根ダルマ』と向き合ってたじゃない。身体には何もなかったの?」
「大丈夫大丈夫。あの子、悪霊じゃないからそこまで悪質じゃない」
「え?」
あの時じっと見つめてたのもあってそこはまあまあ詳しくなっていた。じゃなきゃ席を他の子に譲ってもらおうとはせずにさっさと座ってる。
「
触れたら役割を交代し触れた人物が『屋根ダルマ』に。動けば殺して封印の上に乗る『屋根ダルマ』をより強く。そんなカラクリが見えた。
憑依系や交代する怪奇はコレまでの6年で会ったことはあるから、そこは分かる。元は祀られてた何かなんだろう。なんで小学校にいるか知らないが、子供が居るのが封印の要になってそうだ。十分脅威だな?少なくとも一個人としては傍迷惑だわ。
「ま、ま、それはいいんだ。ちゃんと席に着けばいいしな。それより、後々になった説明」
真倉は手を組んでうーんと悩み始める。伝えるのにアレな要素でもあるのか?
「…『因継の儀』ってものらしいわ。いでん?っていうのを後から変える儀式。かつて存在した因習村の儀式が有用だからお国が残してたんだって。お父さんはそう言ってたわ。」
「性格変わるのもそれ?」
「多分?やるなら赤子の時が一番だけど、私はある程度育ってるから…なんか、本能が強くなるんだって。食べたいとか、生きたいとか、寝たいとか、そういうの」
食欲に睡眠欲。ツンデレっぽくなったのは闘争心とかそういう気が強くなる要素からだろう。そこに本人の気質と合わさって今に至るらしい。精神の連続性はありそうで安心した。文字通り自分の子供にする金持ちの所業に戦慄もしたけど。なんだぁこの気味の悪さと迅速な行動は。
…なら、朝の心臓が速くなってたのはなんだ?
「ならさ、朝興奮してたのは?」
「え?……うーん。今は大丈夫だけど、他の女子と話してたらなんだか心の奥から熱っぽいのが出てきて…会話とかどもっちゃって…よく見たらみんな可愛いなって考えたら心臓が速くなったのよ」
性欲かぁ…両刀かぁ…?やっぱ因習村の儀式なんて碌な物じゃ無いな!
「へー、所で私は?」
「昨日は怖かったし、朝はびっくりしたけど、今はお香と湿布の香りがお爺ちゃんを思い出して落ち着くわ」
「えっ」
俺そんな香りなんですか?…マジ?
ばたん
「はっ!」
意識を取り戻したのは、家に着いた時だった。記憶を辿ればあの後は明日何して遊ぶか話して校門前で別れ、そのままぼけっと帰ったらしい。途中出会った怪奇の『空傘』は回り道して普通に帰った。
「…ちょっと気にした方がいいか?シャンプーとかリンスとか…」
今度母さんと買い物の時に調べるか。匂いの奴…ジジ臭いとか言われたら男として…とても悲しいからな。
霧晴千歌
食べ方とか匂いとか前世から気にするタイプ。身綺麗じゃないと落ち着かない。
母さん。仕事がキャンセルになった時に『影取り』から電話がかかって気が気じゃ無かった。
真倉朝凪
小学生に性欲を目覚めさせられた。
座式先生
死なないならセーフはこの世界の先生なら標準。煙草がうまい。
『屋根ダルマ』
特定の時に動く、触る、喋るで落としたり交代したり取り込んだりする。
『因継の儀』
旅人を村に取り込むのは偲びないと近親相姦で血の濃さがやばい村が編み出した儀式。善意と努力で生まれ、後に生物兵器を作る技術に転用された。
『空傘』
空から落ちる脊髄の骨でできた傘の妖怪。近寄ると骨を抜かれる。