6月になりました。
朝日が眩しく森や道を照らし澄んだ空気の中に、白衣を来た先生と荷物を持った子供が向き合っていた。
「霧晴ちゃん、お大事に。食事は柔らかいものから慣らしてね」
「はい!」
「良い返事だね。気を付けて帰るんだよ」
「あいがとうございました!」
元気ながらも、ちょっと拙い返事をしてる俺だ。ら行がまだ言えてないぞ。
5月月末の佐々木との学校周り以外は怪奇療院で過ごしてたぞ。喋れない以外は特に問題ないからな、病院から登校しなきゃ行けなかったよ。
いつ栄養失調で倒れるか分からなかったから入院していたのも、6日目に遂に食べられる様になったし、経過観察という事で一旦は問題無しとなった。
久々の卵粥は美味しかったです。世界一美味しい卵粥だったよあれは。
この結果は療院の先生も感心しちゃう物みたいで、コレが二度目だったりするのかとよく分からない質問されたりもしたが…普通に頑張っただけだと言っておいた。
まぁ、それでも先生首を捻ってたけどな。「でもなぁ…ん〜?声質変わってる気がなぁ…」とか「情報を入れられてるみたいな…本当に心当たりの怪奇は無いんだね?」とか変な事言ってたし。
「ん、身に覚えねぇ?」
怪具の黒手袋を着けた左手を見る。すっかり慣れてしまったが、手袋を外せば其処には半透明な手があった。…あるとするなら特典の補完能力かな。でもなぁ?口周りが吹っ飛んで補完なら兎も角、今回の場合だと…あるなら脳かな。
無意識の動きが無いって事は脳の異常だ。蝶の産卵は魂でも、その魂が取り込んでいた記憶は脳の方。物理的に見えない異常は作用していても、どうやってるのかはちょっと見え難い。
と言うか、正直戻ったんだからそれでいいと俺は思うんだ。自分のことは見にくい聞きにくい触っても何も感じないたんぽぽコーヒーなんだから。
「ただいまー…あうねぇダンボール」
そんな訳で電車に揺られて7時頃、俺は団地に帰ることが出来た訳だが…扉の前にあるダンボールに入った『メリー』…仲良くなるんだし強調するのは辞めるか…メリーが見えた。此処から放置して夜になったらあの虐殺になるってマジ?
「…でもすぐ行っていいのかな。人形との付き合い方を橘達に聞いてかあでも良い気がすう」
あそこ『人形』屋敷だし、聞けば良い感じに教えてくれそうなんだよな。でも初めて感を求めてた場合は悪手になり得るし…学校行かなきゃだし…子供1人で退院できるだけあって裁量権結構あるんだよなぁこの世界の子供は。その分学業は頑張らないといけないけど。
「うぅん…一回メリーの相手をしてから学校…かな」
俺初めてなんだよ。家に帰るのがこんなにしんどいの。目の前のダンボールを開ける手が重いのも初めてなんだよね。怖く無い?
『………』
「久しぶい…だね?」
開けると、メリーは笑顔でじっと此方を見ていた。よし、黙ってるなら不満は無いな。後は扉を開けて…俺に120cmの人形という俺以上に大きいものを持たせるっていうのか?
「…ふぅ…はーっ!」
これは言いたくなかったが…本当に言いたくなかったんだが…今世の俺の身長104の19キロだぞ?
俺は自分より重たい物を持てる訳無いんだ筋肉無しの雑魚なんだ。
言っちゃったからには不満も折角だから全部言っちゃうぞ。クラス身長不動の最低辺、体育の身長順の最前列、ロリというよりペド、なんで大人達がこんなチビの言うこと信じるんだよ本当、5月の席替えも一番後ろの同じ席引いちゃったし…黒板見えないし…見えてもぼやけてるし…座ったら見えないから椅子の上に立って見て!先生が苦笑いでお目溢しした時の苦渋の心は分かるまい?
この辺にしようか。文句を言う奴は一生お豆チビになるらしいからな。母さんに撃ち殺された時の妖怪の身体は140有ったからまだ希望はあるんだ諦めきれないんだ。
「ん!…んー!…退かせないから入えないね」
そう言う訳なんだメリー、俺とお前の2人だけのアレそれはお前の体重のせいで不可能だ。悔しかろうが仕方ないんだ。
『…はい、コレでどう?』
「出来う」
最終的にメリーが扉を開けて入る事になった。
俺が背負って動かそうとしても動かなかったのに…何が不満だったのやら。青いロリータ服は不思議の国って感じでメルヘンな可愛さがあるけど、不満からそれが真っ赤にならない事を祈るしか無いな。眼鏡を掛け直しつつ、そう思った。
『これが主人のお部屋ね!』
「家族全員の家かな」
『…だとするならとっても狭いわね。可笑しいわ、主人の御両親程なら豪邸くらいに住める筈よ?』
「葬祭ディエクターと国営神格専用旅館責任者だしねぇ…でもこの眼鏡、結構なお値段みたいだから仕方ないよ」
あ、なんかダメな事をした音がする。なにがダメだったんだ。
『…あら主人。嘘は良くないわ。その身体は相当な血の洗練がされてないと出来ない領域よ?庶民の偶然産まれた上等品では辿り着けないわ』
…眼の事を言ってる奴だなコレは。でもね、コレ俺も知らないんだ。
「えぇ?でも貴族じゃ無いし…眼の事を言ってるの?」
『眼?…それ以上でしょ?主人、もしかして自覚が無いの?本当に?』
「親が華族だったとか、聞いたこともないし…ちょっと人よい見えやすいだけでしょ?」
なんで其処でメリーが絶句するの?本当に何故…?
『……ごめんなさい、頭が痛くなって来たわ…お姫様をこんな扱いにするなんて…いえ、なんでも無いわ』
「よく分かあないけど…例えるとどんな気分なの?」
『…一国のお姫様が貧民の生活をしているのを見た気分』
「お姫様なんて器では無いよ私は」
中身男がそんな女の子の憧れを一手に引き受ける存在になれるかよ。成れてお姫様のメイドの娘の玩具にされる伐採予定の木だろう。俺には不釣り合いも良いところだ。
『…ちょっとお部屋で寝させて貰うわね』
「うん、お休み。私は学校に行ってくるね」
『…ええ、学びは大事よね。行ってらっしゃい』
こうして俺は学校に向かった。朝早く起きたせいで少し眠たくはあったが…それはそれ。月末に会った佐々木は別として、真倉達に会うのは久々だなぁと思いつつ教室に入ると、既にみんな来ていて、変わりなく会話していた。
「おはよぉ」
「あ、霧晴!良かった、退院したのね」
「大体喋える様になったかあねぇ」
「霧っち久しぶり!ご飯食べれる様になった?」
「なったぁよ。暫くは粥やパンになりそうだけどね」
「…霧晴、なんだか声変わったね?」
夏奈がそう言うと、他の2人もこっちを見て考え込み始めた。えぇ?そんなに変わった?
「そうかなぁ、病院の先生も同じこと言ってたけどそんなに変わった?」
「そうだね…どこか人工的と言うか…ちょっと出来るだけ高い音を出してみてくれないかい?」
「良いよぉ…────────…どう?」
「霧晴っちそれ出してるの?」
「モスキートなら聞こえたわね」
「次は低音」
「あーーーーー」
「…うん、やっぱりそうだ」
夏奈が納得した顔で説明し出す。
「機械にはサンプリングしてその人の声を再現する機械が有るんだけど、それと同じなんだよ。霧晴の声なんだけど、それにしては自由に調整出来すぎてるんだ」
音声ソフト…てコトッ!?
もしかしなくても特典がやってくれたタイプ?
「そう思った根拠は何かしら?」
「前の霧晴より生身の女の子らしい発音だったからだよ。前は墓から出て来た老人の喋りで今は5歳の女の子って感じ」
「あー、かも知れない。霧っちいつもは疲れてる感じなのに、今日は元気って感じがする!」
「…そう?変わらないと思うけど」
「もしかして倉っち聞き分けとか出来ない?」
「…ノーコメントするわ」
「多々良、今度2人同時に喋ってどっちでしょうをしてみようか」
「イイね!」
「流石にそえは分かうと思うけど…」
うーん…一回出来た発音を完璧に再現するみたいな?思えば一度出来たらずっと出来たままだったし、学習関係での補完か?…なんか違う気がするなぁ。でも大枠は合ってる気がしなくも無い。
「で、それのなにが問題に成りそう?」
「特には。精々、今までの霧晴の喋り方は聞けないだろうって事くらいだね」
「…ああ、自分の思い通りに発音出来るなら、意図してない今までの喋り方をする訳無いわね」
「でもそれなら…歌とか上手に出来るってこと?」
「一回出来れば…かな。ら行が出来てないのにそれはまだ早いさ」
「ん、せめて前まで出来てた事は出来う様にないたいねぇ」
『パァ』は前よりもやり易くなったまで有るけど、嗄れ声は前よりもやり辛くなってるからな。其処はのんびりやっていこう。
「あ、そう言えば霧晴、最近話題のゲームは知ってるかしら?」
「入院してて知あないねぇ、なにそえ」
「スマホの育成ゲームよ。女の子のアバターを作って、オシャレしたり牧場や農園をやったりも出来るって感じの」
ほーん、スローライフ系と女の子のオシャレコーデの育成を合わせたゲームか。
この世界、マイケルのせいで音楽は消えつつも、ゲームに関しては元から映像と環境音で前世と似た様なのは作られてるんだよな。俺ゲームボーイ持ってるし。
…どれだけ過去改変してもゲームボーイ世代から進んで無いのはなに?スマホ出来ちゃったのに変わらないって今思うと可笑しいな。それ以上に気にする事あって今までスルーしてたけど、DSは出てないと可笑しい筈なんだが…。
「スマホで脳トレ以外のゲームって斬新だよね!しっかり作り込まれてるし、怪奇関係のテストも合格してるって今話題なんだよ!」
「ええ、我が社も今慎重に検証してる動画サイトもそうだけど…下手にマップや映像を作ると異界になったりして大変なのよね。ゲームって」
「だから今までは技術の発展をゲームに活かせなかったんだが…アプリゲームでその点を克服した仕組み、是非とも知りたいものだよ」
オススメされたのでスマホで確認してみると、「花一匁でスローライフ!」というタイトルのアプリがあった。どうやらコレみたいだけど…Youtubeを思い出して嫌だなぁ。
「へぇ…花神楽ゲーム株式会社…ゲーム会社になったんだね」
「まぁ試しにやってみなよ。釣りや恋愛要素もあるから結構面白いからさ」
「オススメ!」
「うぅん…じゃあ放課後に」
「ええ、霧晴ならきっと気にいるわ。最初は1人でやってみなさい。ネタバレは厳禁だものね?」
そんな訳で、放課後にインストールしてみたが…気が進まない。悪魔みたいに未知の怪奇が来るかもだし、Youtubeの件が無くなったのにゲームコインが貰えなかった事実も気にかかる。
なんかさぁ、誰かが地雷を踏むのを避けられないみたいな感覚があるんだよ。一つの地雷を避けても、進む先に新しい地雷があるから無駄みたいな。…コレが既視感って奴?
「…2枚のガチャコイン、用意した方が良いのかな」
迷いどころだが…用意して損は無い。何よりメリーには特典を感知できるって聞いたし、バレる前に使っておいて損は無い…どうなんだろうなぁこの場合。
…本を買って帰ろう。こう言う時は本を読めば気分が晴れる。過去改変で新しく新刊や開花した作者とかもいるかもだし、本屋に行って損は無い。
そう考えながら靴と踵を合わせ、学校を出る時だ。
「霧晴委員長、ちょっと良いか?」
「あ、はい。なんでしょう?」
「花一匁というゲームはやっているか?」
「やってないです」
「そうか…!なら、相談したい事があってな…良いか?」
「いいよぉ。相談なあ…ここでは何ですし、場所移しましょう」
呼び止められたので振り向くと、高学年の女子が居た。こけしみたいな姫カットの黒髪ロングだった。和って感じだな。
下駄箱から離れ、良い感じに人気の無い場所に着いた。
「…すまないな。私は
その話広まってるの?初めて会う人に知られてるって初体験だよ。
「やいましたけど…過去に戻ったい、悪魔かあ自分の力を渡さえたいで…結構お膳立てした中の奴だかあ実力と言わえたあ…違いますね」
「その年でそれだけ出来るなら過剰な実績じゃ無いか?妖魔の取扱免許取れる…いや、そうじゃ無くて…その経験に見込んで聞かせてくれ───悪魔により有意な条件で契約する方法を」
「…ええ?」
穏やかじゃ無い話題過ぎるだろ。何をどうしたら小1に相談するまで追い詰められるんだ。
「しない方がいいんじゃ?」
「それは散々聞いた。だが、親の仕事が進退極まってな…このままだと大量の死者が出かねないから何とかしたいんだ」
高倉…高倉組…気のせい…まだよく有る名前のラインだからな…。
「そえはどうして?」
「ざっくり言うと…家族が別の大きな家族に連なる事になってな、それで相手の家族経営の仕事を任されたんだが…成果がな。出ないままだとちょっとマズい事になるから裏技を使って…成果が出た後に問題が見つかったんだ」
「へぇ、そえが死者が出うみたいな?」
「うん。それで困ってた所に悪魔が来て、契約すれば何とかすると…親は断ったんだが、だからと言って確実な手段を手放すのも惜しいだろうと言って来てな。強制的にもし手段が見つからなければ私が契約する運びになった」
「とばっちいだねぇ」
「そんな事ない。私はそれでも良いからな。私1人とお客様、比べる必要も無いだろう。兄や弟もいるからな」
解決方法は原因の…どうせ怪奇だろ…を何とかするか、悪魔を騙くらかすか。どっちにしても難易度高すぎだと思うよ。一旦聞けるだけ聞くか…。
「原因の怪奇と悪魔の詳細は?」
「協力感謝する。最近流行ってるゲームが有るだろう?異界化しそうなのが一つ、育てたアバターが乗っ取ってくるのが一つ、隷属化などという作った覚えの無いコマンドが一つだ。どれも場当たりな対応で遅延させてはいるが…時間の問題だな」
「悪魔の方」
「『数多の悪魔』と名乗った。幾つもの力を持っていて、デモンストレーションと言って見せてきていたな」
「死者が出るという確信の理由は?」
「乗っ取りと隷属化でこの怪奇の社会の乗っ取りと人の通貨化が起きる」
「やばば。怪対員には?」
「何とかなるだろうが、親の社会的立場が終わるから無しで行きたい」
そら悪魔の契約も視野に入るし、納得する気持ちも分かるわ。分かるけど力になれるかは別かな。
この相談の問題って、俺が異界関係や悪魔はあんまり詳しく無い事なんだよ。別に話術上手くも無いしさ。うーん、取り敢えずインストールして見るだけ見てみるか。
喋るとら行が言えなくて誤解が招かれかねないから、ノートに文面に書いていく。
「はい、書いたよ」
「…すごいな、思っていた以上だ」
『仮想にはならない』
電子上にある存在しない情報と其処から人々が連想した情報から構成された怪異。異界はその副産物であり、対策としてはそれらの情報を観る人に、予めフィクションであり、実体化は決してしない事を信じさせる。めちゃくちゃな◯◯説とかの風説を幾つも出す。手遅れなら?別の話題で人々の意識を逸らして忘れさせて、その後その情報を処分する。
『とりかわり』
コレもさっきと似た様な挙動の怪異だけど、これはYoutubeでも居たな。人々の偶像に本人が乗っ取られる奴。別にゲームの方には行ってないね。これ交換じゃ無くて上書きだから、プレイヤーもアバターも上書きされてるだけだ。対策?キャラ設定を考えない。自己投影しない。他の人に自キャラを広めない。人々のイメージをごちゃごちゃにする。手遅れなら?時間を巻き戻すか上書きし直すか怪対員に相談する。
『眷属化』
妖魔関係の怪奇。相手に絶対命令権を得る悪魔の契約で発生する怪奇現象。対策は相手の話に乗らない、契約条件を踏まない様に気をつける。今回ならプレイヤーネームを入れる時。手遅れなら対象の悪魔を殺すか手放す様に交渉する。今回なら契約条件と不親切な説明である点を突けば…多分イケる…誠実な悪魔ならね?正直怪対員に相談すれば良いかなって。
「以上、対策は私目線で思いついた事書いただけだかあそえ以外もあうと思うよ」
「いや、期待以上だ。相談して良かったよ──ありがとう」
「ふふん、コエだけで良いなあ幾あでも」
「…アイス奢ろうか?」
「食べう難易度が高いかあ良いかな」
「…そうか」
アイスは舌を繰り返し動かさなきゃだから食べるの大変なんだよ。
インストしたゲームはプレイヤーネームは入れてないので、そのままアンスコして終わらせつつその場は解散となった。案外簡単に終わったけど…コレ、ゲームやってるみんな眷属状態って事だから…無事に終わる事を願うしか無いなぁ…。
俺にみんなの分のお香と線香を焚かせないでくれよ?頼むからさ。
霧晴千歌
帰ったらメリーの着せ替えショーに参加する事になった。
高倉真弓
一晩の交渉の末に定期的な血液提供と目玉一つまで値切った。
真倉朝凪、橘夏奈、橘多々良、他女子生徒多数
起きたら身体の自由が効いていた。
『数多の悪魔』
その時次第で何かしらの力を扱える。パルプンテ。
『仮想にはならない』
創作物の中に閉じ込める怪異。ネットの中に閉じ込められている。
『とりかわり』
偶像で本物を上書きする怪異。宗教が流行らない原因。
『眷属化』
支配下に置く。最終的に泥になる。