怪奇ばかりな日常とゲェム記録   作:何処にでもある

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 夏休み突入‭─‬‭─‬‭─‬何が始まる?




日常-キリのいい

 

 

「…この人だかりは?」

「リリカルガールを一目見たい人達ですね」

「…なんで?こんな人気になる要素あった?」

「さあ…前回も問題解いたら後は自分が走っただけですし」

「だよねぇ」

 

 やぁ、今度は異界に行く前に鏡で呼び出された俺だ。事前に観光して尺を稼ぐ事にしたぞ。

 世の中は…授業より気にしないといけない事が…ある!

 

「で、ここどこ?」

「岐阜ですね。今回は簡単な物で調べました」

「小学1年にも分かりやすく」

「山ばかりの田舎です」

「大体理解したね」

「では放送テストしますね」

 

 車から出て、人だかりの横を通る。もう聖女の奴無いからな、俺だって分からないんだろう。

 離れた後は伊東もキュルキュルとカメラの電源を付けて、準備は完了した。

 

「…あ、はい、はい?えー分かりました」

「どうしたの?」

「スタジオの方から6歳を異界に行かせるなって連絡です。前回の子を出せとも」

「同一人物だし今更過ぎる話だねぇ」

「そうですね。今回はカメラに正常に映ってますし、そのせいでしょう」

「はろーみなさん。今までみんなが見ていた偶像はここにはいましぇーん。私越しにどんな幻覚が見えてたか知りませんけど、これを機に怪奇はこういう事も起きると覚えてくださいねぇ」

 

 折角なのであっかんべーとしながら煽ってやった。今日で最後だし、やれるだけやろう。

 いつも通りの化粧とか色々やった服装なんだし、本物を見てからチャンネルを変えろよな。

 

「まだスタジオの人達しか見てないとは言え、飛ばしますね」

「コレ以降ワイプか電話だけになるだろうしね」

「ここしばらく不相応な視聴率でしたし、特別編の終わりとしてはいい感じになりそうです」

「最後は平和に締めくくって終わり。いいじゃんね」

「はい、視聴者を落胆させるには十分かと」

「…もしかして、映るのがわたし一人だったの腹立ってた?」

「普通の大人なら、さっきの連絡みたいになるでしょう?」

「怪奇で正しく見えてなかったのは仕方ないよ」

 

 そうやって雑談しつつ、岐阜は空気がいいなぁと背伸びをして、近くの店で山の幸を堪能してから異界に行った。

 

「はいでは放送開始まで.3、2、…、 」

「おー、山って事でこんにちは。異界探検隊第2部隊「魔法部隊」の副隊長リリカルガール、特別編最終回だよ。きっと前と違うと思うだろうけど、今まで魔法でそう見せていただけだからコレが素の私だよ」

 

 最近は『魔法』があるんだし、この言い訳もまかり通るだろ。

 

「なに?怪奇は有っても魔法は無いだろ?それなら前回と今の私を見比べてよ。違うでしょ?そう言うわけでやってきたのは『山奥の骸』って異界です。山を跨ってある獣の骨が特徴の異界ですね」

 

 上を見れば、頭上を悠々と越える助骨があった。どんだけでかい生き物だったんだか。

 普通に山複数個並べられる異界とかヤバいんだけど、コレもまぁ出るのは簡単だ。『転移』は『霊脈』がある場所なら何処でもいつでも飛べる関係上、ここは『霊脈』が繋がってるからいつでも伊東さんと一緒に逃げれるし、そうじゃなくても手を合わせて山奥さまとやらに祈ればいい。異界に祈れば出れるとか、優しい場所だなぁ。

 

「いやー、なんかおっきな鷹がいるねぇ。それ以外にもピョーとかキケーとか聞こえるし、まるで恐竜がいるみたいだ」

 

 山の麓辺りとか霧が濃くて怪奇が彷徨ってるけど、行かなければ害はないしね。山中なら景色が変わっても違和感無いし、『転移』の試運転も兼ねてちょくちょく飛びながら行こうか。

 

「昔は危険な異界だったみたいで、怪物の楽園とまで言われてたらしいんですけどね。なんか『霊脈』や『妖怪』やらが出てきたり変わったりして怪物達が子供作れなくなって、それでここまで平和になったみたいですね」

 

 とんとん、とつま先で地面を叩いて『転移』しつつ進んでいると、20m程の猪の骨が有った。怪奇としての部分が消えて、この世界のものとして認められたのが骨と肉だけだったのだろう。こういうの、解説しながらやった方がいいよな?

 

「見てください。『山火』の亡骸です。千年以上前の怪奇ですね。普通の豚や猪が『呪縛炎』って怪奇に適合して生まれたんだそうです。当時は消えず燃えずの炎を纏いつつ山で暮らしてて、夜になると青い光が里からでも分かったんだとか」

 

 骨を触ってみるが、特に何か感じる訳もない。デカいけど普通の骨だからな。俺から見ても普通の死体なだけだ。その死を放送した事を祈って謝罪しつつ、より先に進む事にした。

 

「この異界はこんな感じにもう終わった物が大半です。まだまだ動くのも有りますけど、そういうのは麓の霧や雰囲気でわかる範囲。近づかずに異界にここから出たいと祈れば出れますから問題ありません」

 

 因みに、異界は探索して踏破した人のものになるのだが、この番組ではそういうのは一度もやってない。基本、間違えて入っちゃった人用の出方や紹介だからな。

 まぁ踏破した異界は局の物ではなく、国の物になる契約で異界の放送や簡単に入れるようにしたんだから当然ではあるが。上手い事良い契約を取った物だ。

 

 とんとん、と『転移』で飛ばしつつ、そんな感じに異界の奥に進む。途中怪奇の亡骸が有れば紹介とお祈りをして、まだ生きてる生き物が居れば近づかずに遠巻きに撮影した。

 元々が山脈な異界なのもあり、『転移』で見所を集められたのは良かったなって思う。そうじゃなきゃただの山登り映像になってただろうしな。

 

「…っと。なにやら真っ黒な林になりましたね」

 

 そんなわけであっという間に最深部に来てしまった。調子に乗って飛びすぎたな。

 引き返すか?…最後の放送だし、すぐに出れるから良いだろ。

 

「進みましょうか…樹木も草花も真っ黒、地面にも所々タールがあって、ぽこぽこ泡を出してますね」

 

 見た感じ何も無いか。普通に植物も全部タールで出来てるだけだ。この異界の特性としての現象なんだろうけど、どんな法則なんだろうな。

 進むと真っ黒な森なのもあって、あっという間に日差しが届かなくなってしまった。段々森も深くなってるし、霧も出てきた。だけどどれも襲ってきそうな怪奇ではない。視界が悪くなるだけだな。

 

「伊東さん、コレどう思います?まだまだ全然奥じゃ無いとは思うんですけど」

「帰りたいですね。前一回ここ来たんですけど、こんなに死体も怪奇も見つけてないですし、こんな森来た事ないです」

「だよね。正直私も近道使いすぎたかなって思ってる」

「自分ら何処通ったんですか」

「異界の奥に行けそうな道」

「なんで通っちゃったんですか」

「なんか有ったから」

 

 実際は転移しただけだけどな。だけどそういう道が無いとは言ってないぞ?霧の深い山の麓にはそういう道があるからな。霧の中から襲ってくる怪奇を潜り抜ければ似たような結果になる。

 

「まぁ進みましょうか。ただの霧とタールの植物ですし。なんか遠巻きに見つめてくる怪奇も出てきましたけど、襲ってきてないんですし放置で良いでしょう」

「本当に大丈夫ですか?」

「だってコレくらいしないと前回の子と同じって信じてくれなさそうだしねぇ?信じられた上で番組から立ち去らないとだし」

 

 まだまだ『転移』できるからな。暗くなったのもあって今までより早く進められる。タイム短縮出来そうならするべきだし、どんどん行こう。

 

「えー、遂に真っ暗になりました。ライトを付けても一寸先も見えません。霧と暗闇でここまで見えないんですねぇ。今反応どんな感じですか?」

「ネットの方は悲鳴と炎上中です。スタジオも凄いですよ。誰がこんな事をって争いになってます」

「わーお。決めたのはそっちなのにねぇ?間違えたのを取り返せないのは分かりきった話だろうに」

「ここまで来たらカメラを持つのも適当で良いですね。ライトがあって尚人の顔も映せない暗さですから」

「ん、手は離さないでね。それしたらもう何処にいるか分かんないから」

 

 とんとん、と一歩ずつ足場のある場所に飛んでるけど、そうしないと何処に飛ぶかも分からない程暗い。『霊脈』の上なら飛べるからそうじゃ無い場所は『霊脈』じゃ無い。つまりタールかも分からない何かが何処までも下方向に続いているからな。

 全く、気分は蓮の葉の上を歩きながら進む幽霊だな。三途の川の上を歩いてるみたいだ。

 

「っと、行き止まりだ。鹿なのか山羊なのか分からない頭蓋骨だけしか無いね」

「えーと…カメラ圏外ですね。自分異界で初めて圏外になりました。放送は既に録画録音に変えてます」

「あー、もう放送も何も無い感じか。ちょっと進みすぎた感じあるわ」

「やっぱり途中で帰った方が良かったんですよ」

 

 しっかり踏み込める普通の土と草を歩き、地面に転がっている頭蓋骨の近くに座る。

 ここだけ光があって、なんとも言えない中心って感じの空間だった。

 見ようとしても『山奥の骸』の情報で視界全部覆われてるし、【プリズンワールド】とは逆の方法で視界を塞がれた気分だな。異界の最深部でも俺は役立たずになる。今知れて良かったよ。

 

「何というか、本来なら襲ってくる敵の手を潜り抜けながら進むゲームを、違法な手段で襲われないまま進んだみたいだね」

「というより、そのままなんじゃないですか?何かそうなる覚えありますか?」

「特には…?」

 

 頭蓋骨近くで、持参したコンビニおにぎりを二人で一緒に食べて休憩し、思い当たる節を考える。

 この眼はそういうの無いし、裏異界探索ゲェムにそういう機能無いし、自己育成も同じく。

 『魔法』だって転移したくらいで、魂の物質化も念話もそういうのじゃ無い…転移したからか?

 

「本来通るべきって言うか、踏み込んだら襲われる土地を通らないで進んだ…とか?」

 

 例えばこの異界に住む生き物達の聖域みたいな場所が有って、そこを通らなかったからこんなに簡単に辿り着けた…有り得そうだな?

 

「昔の文献に有ります?そういうの」

「そうですね…前の放送で地域のみなさんに取材した時には、『山奥の骸』に住む奴らの主は、その大きさにも関わらず、目を離した隙に何処かへと消えてしまう…とは言ってましたね」

「道を通ったのがそれに似てたのかなぁ…?」

 

 あのでっかい肋骨の死体、霊魂に関係した怪奇だったんだろうか?転移はそれと似たような動きだったから、主の再来かと思って見守ってた…コレも有り得そうな話だ。

 

「ともあれ、どうします?この頭蓋骨持って行ったら踏破扱いになりそうですけど」

「そうだなぁ…別に貰っても、私や番組の物にはならないし…この頭蓋骨、どう考えても山の主って感じだし」

 

 頭蓋骨を撫でつつ考える。帰ろうと思えば似たような事すれば帰れるしなぁ、転移は十分試したし、この頭蓋骨にでも念話を試してみるか?

 

[へぇい。意識ありそう?]

 

 …特に返事は無いが、そういやコレ向こうも魂と技術を持ってないと意味ないな。そして魂があるのは蟲と人だけだし、無駄な事したかな。

 

 カタカタ。

 

「…頭蓋骨、動きましたね」

「そうだねぇ…ちょっと触ってみようか」

 

 反応有ったわ。こんな死体になっても魂ある時はあるんだな…コイツ蟲か?骨あるし哺乳類の筈だろ?蟲が寄生してたり蛆虫の魂がまだあるタイプ?ちょっと離れるか…試しに魂の物質化を…自分自身や触ってる相手になら使える筈…だよな?

 其々の魔法、儀式要素はだいぶ適当に決めてたからな。

 転移は何でも良いからとんとんするだけだし、念話なら触れること、物質化はこう言うだけでいい。

 

「その『魂は現実の物になる』…うわ、逃げるよ」

 

 変化は一目瞭然だった。始めに頭蓋骨の眼の窪みから、小さな眼球があぶくの様に溢れ出て、次に普通の草木だと思っていた、タールと思っていた物全てが虹色に反射する石油?に変わり果てた。変わってないように見えるけど、光が入ってくるようになったから大いに違う。

 それ全部蟲の魂かよ。どれだけ澱んでたんだか。こうなったら転移をしないのはダメだろう。動かないと石油に溺れちまう。

 

「山奥さま山奥さま…ダメですね。外に出れません」

「出してくれてただろう蟲、コレに変わり果てたんだろうね。…よし、こっちの方だ」

 

 伊東を引っ張って、それっぽい感じに転移する。先に道がどうの言っといて良かったな。この異界のせいに出来るんだから。

 そうしてあっという間に入り口まで逃げ帰った俺達は、電波も繋がったこともあって最後に後ろを見た。

 

「…うわぁ」

 

 崩れていく巨大な肋骨と、山を作っていた木々が次々と真っ赤な肉に変容し、それは感染していくように山を紅葉豊かにしていく。

 あちこちで地滑りや山崩れがおき、数少ない怪奇で進化した動物達が逃げ惑うが、それも人の歯みたいな物に変化した足場に躓いて飲み込まれる。

 麓にある霧からは枯れ葉が不自然なほど舞い上がり、霧が晴れた場所には夥しい人の死骸が積み重なっていた。

 

「この異界全てが…蟲の巣窟だったんだ」

 

 上から光を注いでいた太陽と思っていた物は、光をそのままに地上に墜落した。よく見れば、その光から飛び出している蟲もいる。光って燃える蛾が、その巣が落ち、空は真っ暗になっていた。後から雨のように真っ赤な液体が落ちる。異界の天井に、蟲の死体で作った糸で吊り下げていたみたいだった。

 

 そして、石油になった蟲の魂に燃える蛾が飛び込こんだ。

 

 一瞬で、全ては火の海に変わり果てた。

 

 火山のように燃える石油と地滑りが流れ、麓の燃える川に集まり、生き物の悲鳴と蟲の羽音が辺り一帯に鳴り響いていた。

 

「…えー、灼熱地獄とはこの事でしょう。アレから異界の最深部に着いたんですけど、そこに有った頭蓋骨を触ったらこうなりました。魂に適応した蟲、現状それが全て燃えてます」

「帰り道って分かりますかね。祈る以外の帰り方知らないんですが」

「それならあっちに行けば良いよ」

 

 その地獄を見送りつつ、無事に転移で異界から戻ってきた。

 いやぁ、不自然なくらい『霊脈』あるなぁって思ってたけど、蟲の霊脈使って転移してたんだな。

 蟲の道を通ったから同じ蟲だと思われて襲われなかった。コレが真相だろうな。向こうとしては外から新しい蟲が移住希望してきた程度の感覚だったんだ。

 それで、引っ越してきたお隣さんを見る感覚で見守ってたら魂全部物質化されてたと。

 

「んー…申し訳ない事した気分」

「そうでも無いでしょう。あんなの、死体に湧いた蟲も纏めて火葬したような物です」

「なのかなー…平和だったし余計な事しただけに感じるし…まだ生きてた生き物も居たから…祈ろうか」

 

 こうして、特別編最後の放送は燃える異界と、それに向けて手を合わせて祈る子供で締めくくられる結果となった。

 異界を後から確認した地元の人達によると、異界の入り口には蛹みたいな拳ほどの謎の塊があったらしい。異界には入ろうとしても入れないし、もう壊れた物として、怪対員に連絡して謎の塊含めて処理したそうだ。

 

「私が忙しくしている間にそんな事が…で、それからどうなったの?」

「色々と塩漬けされた感じだねぇ。テレビも所属も全部」

 

 テレビの方は一応テレフォン枠として最終手段にされたけど、多分されないだろう。最後は炎上と認識を歪める怪奇の恐ろしさを伝える結果になったし。

 なんでもテレビ局では3つの放送を確認したみたいで、1、2回目は単独だと大人で神々しくても、3と並べると3回目基準の映像に見えるんだとか。コレはコレで貴重な資料なので、認識の怪奇の分かりやすい例として保管されることになった。

 雪町の事務所は…ユニットなのは知られてないから問題なし。所属はそのまま名前だけの幽霊社員として、席だけは置かれる事になった。知名度なら抜群だし、俺単体の評価は「怪奇のせいで期待され過ぎて異界を冒険した子供」扱いだからな。まぁ何かには使えるだろうと、連絡はいつでも繋がる状態だ。

 そして「周波鏡」は返却した。

 

「まぁ、ちょっとした宴に使う話の一発ネタとしては長くなったけど、楽しくは有ったよ。色々学びも得られたしね」

「ふーん?…で、それがどうしてお父さんの居る本社にくる事になるのかしら?」

「私に関わらせずに何かしてるじゃん。だから見学してみようかなって」

 

 そんな訳で無事…に?異界探検隊の放送も終わった夏休み。

 カンカンに照らす日差しにも負けず、途中降ってきた通り雨にも負けずに最近の真倉がよくいる開発地区の本社に来た訳だ。移動はどうしたって?テレビで稼いだお金と知名度を使ってタクシーを利用したよ。

 突然の訪問だったが、真倉朝凪の友達で見学の約束に来たと言えば通れた。チョロいもんだな。受付まで走ってくる真倉とか焦っててめっちゃ面白かった。

 今いるのは真倉が試しに任されてるらしい怪奇研究施設の一室である。

 怪奇研究施設は本社の脇の、上に10階と地下3階ある割とデカい施設だ。

 ここを通るまで白衣の研究者達も沢山見たし、外ではムキムキな人達の集団が走ったり訓練してたりもしてた。本社から離れた倉庫にもフォークリフトが沢山走ってたし、人も機械も沢山居る場所だ。なんだかワクワクするぞ。

 

「あのねぇ…確かに霧晴には黙ってたけど、それは危険な事に関わらせない為であって、なにも仲間外れにした訳じゃ無いのよ?」

「有難いけど、ゲェムの奴とか出禁になった私には情報一切入らないし、発端みたいな物なんだから関わらせても良いと思うけどねぇ」

「発端というより、始めの被害者でしょ?今では研究する設備があるこっちの方が、知ってるまであるわよ」

「それゲェムで私の出した結果以上出してから言ってよ」

「…仕方ないじゃ無い。『家守り様』に頼むルートなんて神格の取扱いが出来なきゃ無理なのよ?普通は『米軍』に殺されて終わりよ…やり直せるからある程度は進んで居るけど」

 

 地下1階の端の方にある一室、年を取った老人と複数人の研究員、ガラスケースに収められたゲェムが有る一室に着いた。パソコンで解析されてたり、複数の資料を並べて討論していたりしている。

 

「沙五間村跡地の現地調査結果を見るに、やはりあの村は妖怪の巣だったのは間違いないのだろう?村を破壊し、怪奇が全て居なくなり、土地は戻った。これ以上の結果はないのでは?」

「しかし、ゲェムの判定上それ以上がある。上限はA+で、理論上誰でもその結果には辿り着けるみたいだぞ?」

「持ち帰る怪具の増加、住民の利用は?一度脱出すれば隊員の戦力は倍増だ。なにより『飴坊様』が入れば歴史は大きく変わるはずだろう」

「それよりも、このまま定期的に怪具を回収し続けるのは?この本によって、ゲェムのシステム側で巻き戻しても中にある物を維持し続ける怪具。解析して、自分達で再現できれば…」

 

「はい、討論終了!各員データを纏めなさい!」

 

 なんだかんだでやり直せる分そっちの方がマシだと思うんだが、やっぱり最初の攻略が出来てないようだ。俺以上の成果が無ければ進めない以上、後続ほど難易度は上がる。

 幾ら怪具が無限に回収出来ても、俺も最大限頑張ったんだ。簡単には超えられても困る。

 

「おぉ、こんな感じなんだねぇ。…因みに夏奈の方は?」

「地下3階でやってる。全く、社外秘にしないといけないことばっかりよ」

「そっかぁ…みんな頑張ってるねぇ」

 

 というか、俺を超えられたら父さんどうなるんだ?

 こっちの方が昔だから父さんは黒海に3回落ちる事になって…流石にそれを成し遂げられる自信はないな。

 だから、父さんは死んだままになって、母さんとは再会しなくて、怪奇災害の対策をするキッカケも無いから母さんも死んで…あ、超えられると俺がとても困るじゃん。今気づいたわ。

 

「…因みに、声は向こうの方に聞こえてた?」

「それは釈然としないわ。テキストを見た感じ、操作されてる人物が自然とそう思った感じになってそうだから」

 

 んー…つまり怪奇災害対策出来なくて…そもそも父さんが伝えたのが4年だか5年だかの直近だからやれた可能性もあって…あ、あの状況で母さん死んだら俺も死ぬのか。

 そしたらかなたらの願いは引かれないから夏奈は死んだまま、それからのあれコレ全部消えるわ。

 

「…因みに私の記録を超えられるとさ、私が調整した過去改変が無くなって私が死ぬ事になるよ」

「え……もっと早く言いなさいよ…」

「今気付いたから言った。そしてねぇ…ゲェムって怪奇側も貰ってるんだよね。母さんが教えてくれたんだ」

「……すぅーーー…はぁーー……お母さんの連絡先、頂戴?」

「いいよぉ」

「取り敢えず霧晴、情報は小出しにしないでね?他にこのゲェムで調べてる人が居るなら教えて」

「父さんもだね。後、座式先生も箪笥の奥に突っ込んでるけど持ってる。あ、『鎌蛇様』も持ってたって父さん言ってたよ」

「後は?」

「んー…」

 

 面倒だな。もう初めから全部説明して任せれば………あー…成程、それで全部言うとあの聞いた結末に…納得した。もう真倉も面倒になっちゃったんだな。

 

「怪奇なら、『ウワサネット』を始めとした怪異達。怪異は知ってるでしょ?それが最近変質した事は知ってる?」

「…知らない」

「なら、風説を管理する国家組織…ネットポリスとかかな…まぁそこで管理されてると思うけど、怪異達も持ってると思うよ。今研究者達とやってるみたいに、みんなでやった方が早いから…今頃、怪異達は何処まで進んだんだろうね」

「……今私に起こってるのは、もっと聞いておけば良かったって後悔ね」

「まぁ怪異が持ってるのは私も最近偶然知ったから…まぁ、それくらい?」

 

 こんな事なら【I・H】の所有権選んでおけば…それだと実力足りないか。『霊脈』と「周波鏡」を利用した世界規模への膨れ上がりが出来なくなる。あっちを立てたらこっちが立たないな本当。

 

「…取り敢えず研究方針はクリアじゃなくて最大限利益を得る方向に行くわ。そして、ネットポリス…それ、「HIW」の事よね?」

「うん、それそれ」

「そろそろ発表する夏奈の電脳技術と商品の積極的な提携で向こうの協力を引き出す。お父さんにも相談する。怪奇のゲェムの本格利用は阻止する…ゲェムの配布から既に1ヶ月半は経ってるわ。出遅れたけど手札はある…やれなくはないわね」

 

 あ、そうだ。『魔法』の事も言っとかないとか?…コレは母さんと実家の方々に任せるか。

 こんなに色々やってくれてるんだし、何かお礼は…指輪の俺、出番だ。

[おぉ、行きたく無い。最近誰かが魔法増やしたし]

 そうなの?気づく人は気づくんだな。まぁ俺は魔法が無くても困らないし、お前を1週間貸せばなんか良い感じに量産品作りそうだし行け。

 

「あ、それとねぇ」

 

「嘘でしょまだ何かあるの?」

 

「じゃーん。テレビ特別編最終回で使った『魔法』が使える指輪だよ。ゲェムクリアで貰ったような物だけど言う機会が全く無かった奴だよ」

 

「……そろそろ限界に近いから、話すなら一言ね」

 

「紹介しよう、私が知ってる限りだと魂を物質に変換出来て、念話出来て、『霊脈』さえあれば何処にだって転移出来る指輪だよ。使い込めば指輪無しでも『魔法』が使えるようになるよ」

 

「アンタばかぁ?」

 

「しかも使い切りで新しい『魔法』も作れる」

 

「チカのあほ」

 

「あ、でもこの指輪私の魂みたいなものだから、『魔法』作ったら私は死ぬよ」

 

「あーほ、ばーか、メルヘンか?メルヘンなの?なにお伽話の道具持ってんのよ」

 

 大した事ない性能なんだけどなぁ…?ばかあほと言われたよ。

 

「コレ1週間貸すからさ、良い感じに役立ててよ。忙しいみたいだし」

「ダイヤの指輪をそんな簡単に貸す?しかもそんなすごいの…あぁほら研究員が手を止めてこっちを凝視してるじゃない!あーもう声が聞こえるし…取り敢えず試しに…」

 

 真倉が中指と人差し指を連続で鳴らして部屋から消えて、また出現した。手にはインスタントコーヒーがある。

 

「千歌アンタこれマジもんじゃない!?嘘とは思ってなかったけど…使い勝手が無法よこれ!?」

「私の魂、無くさないでね」

「無くす訳無いでしょ当たり前じゃ無い!!」

「念話で伝えてみて」

[ちょっと私の手に負えないから1週間と言わずにキリのいい所で返すわ]

「分かったよ。キリのいいところね」

 

 そんな感じに、真倉の会社見学は幕を閉じた。帰り?真倉が転移で送ってくれたよ。

 すごいな、タクシーで来た俺よりも使いこなしてる。触れ合わないで念話して来たし、指鳴らして転移するし、魔法使いの才能あったんだろうか。

 取り敢えず、今日は疲れたから寝るとしよう。真倉の方針も修正出来た気がするしな。…研究員の前で渡したのは…まぁいいや。真倉なら統制取れるでしょ。

 

 






霧晴千歌
 『魔法』の無法な所はスキル枠を使わない事だと気付いてない。
真倉朝凪
 この後放送を確認し、指輪が想像以上にヤバいと気づいた。
伊東カメラマン
 怪対員への依頼金額の負担もした。
番組関係者
 もしかして異界と風説は関係あるんじゃ?と気付いた。
視聴者達
 同時視聴動画が出され、認識関係の怪奇への警戒度が高まった。
笠木雪町
 最近『泡にする』魔法を作るのに成功した。
霧晴百葉
 最近蟲が勝手に『実弾になる』魔法を作った。

『山奥の骸』
 死んだ。蟲の巣窟になってた異界。
『山火』
 もう居ない。燃える猪。最後は骨だけ残った。
『呪縛炎』
 感情を熱量にする怪奇。もう無い。
『霊道』
 蟲にとっての霊脈。世界中どころか空にも異界にもネットにも夢の中にも広がっている。

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