怪奇ばかりな日常とゲェム記録   作:何処にでもある

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 夏休みは日常祭りです。怪奇を置いといて楽しむ事だって出来ますよ。




日常-自慢の

 

 

「へぇい、遊ぼうよ」

「や、夏休みなのは理解してるとも。だからってねぇ、電話も無しに家に来るかい?」

「へぇい、橘姉妹は私と遊ぼうよ」

「何言ってるのお姉ちゃん!霧っちから誘って来たんだよ!?これはもう何を置いても行かないとじゃん!」

「あー…まぁ小学生ならそりゃそうか…うん、最近忙しかったしいい機会かな」

「犬を連れてさっさと行こうよ」

「…ペットは飼ってないよ?」

「そういえばクラスのみんな誰もペット飼ってる人居ないの珍しい気がするよね」

「…確かに。倉っちとか居そうなのにね!」

「だろー?」

 

 やぁ、今回は橘姉妹を誘った俺だ。夏休みの宿題は真倉の会社に行った後に全て片付けたぞ。ただ、日記だけは書いてない。朝顔を育てるのも本格的にサボる予定だ。適当に毎日朝に水をあげれば十分だろ。

 

「で、今日の用事はなんだい?遊ぶにしても、やりたい事はあるだろう?」

「いい質問だねぇ夏奈ちゃんや。今日は8月3日…夏休み本格始動の時期…だったら分かるだろう!そう、お祭りだよ!」

「ウチの神社主催の奴?霧っちも見るの?」

「や、そうは言ってないじゃん。今日開催でしょ?だから参加しに来た」

「…まさか、踊るのか?当日参加で!?」

「や、そうは言ってないじゃん」

 

「だったら何しに来たんだい!?」

 

「父さんが参加するからそのお手伝いです何かやる事ありますか!」

 

「成程ねぇ歓迎しよう!!特に無いから帰っていいとも!!!」

 

「お姉ちゃん全部やったもんねー」

 

 玄関前での雑な会話である。こういうの夏奈って乗ってくれるタイプなんだな。初めて知ったぜ。

 

「まぁそう言うだろうと思って、今日は多々良と『人形』で遊べないかなって思って来たんだ」

「あー、手伝いに来たけど、私が全部やってるのも知ってるから遊びに来たと言った訳だ」

 

 まぁ、父さんに頼まれた訳じゃないけどな。参加するから手伝い出来たらなぁって思ってるのは本当だ。

 

「まぁねぇ?夏奈の事だし、どうせ親にも手出しさせて無いでしょ?」

「そりゃ、不確定要素はね。やっぱり好ましくは思えないかな」

「なぁのぉでぇ…今日は夏奈と多々良と一緒に、夏奈でも楽しく遊べたらと。そんな訳で…多々良」

「………!分かったー!みんなー!」

「…待て、多々良。一体何をぉぉおっ!?」

「それじゃあ本殿の中に連れてって貰おうかぁ…お邪魔しまーす」

 

 そんな感じに夏奈が『人形』に連行されるのを見届けつつ、俺は『鎌蛇様』の神社に上がり込んだ訳だ。夏奈を降ろした『人形』達はそそくさと退出し、俺達三人が本殿に残った。

 謎に夏奈が死んでるの聞いたからな。一旦ガサ入れでもすれば何か分かるかなっていう考えだ。なにより、今日なら許されるだろうし。

 

「…多々良、聞いていたのかい?」

「全然?でもお姉ちゃんが何をしてるのかはウチも気になってたから!」

「身内で済ませる年一の奉納…ついでに屋台とか出して祭りとかやれないの?」

「無理だ。祭りを考える余裕なんてない。一年に一度の鎮めの儀式、被害が出たら事だろう?」

 

 さて、初めて入った『鎌蛇様』の神社の中は、外から見た時より明らかに広々とした空間だった。

 規則正しく並んだ柱に、その下にある人の骨。上は暗くて見えず、道標にしているのだろう怪具の行灯の行列だけが頼りになる空間だった。

 異界では無い。ただ、『鎌蛇様』が持っている無の世界の一部を広げているだけだ。そのせいで見たり聞いたりするには近づく必要があるだろうな。失礼な無いようにしなければ。

 

「それで…ここに来て何をどう遊ぶんだい?本殿には神様と、仕事の為のあれこれしかないよ?」

「そりゃあ奉納の手伝いの名目で来たんだから、ここを巡らなきゃ。挨拶するのは礼儀だし、それなら自分で出向かなきゃ話にならない」

「…まぁ、奉納前の拝見はするべきだけど、私はもうやったよ?」

「遊びがないなぁ。私が挨拶するんだよ」

「…今日は一段と積極的だね、霧晴」

 

 自然と俺が先頭になって進み始めた。ちょっと本殿に入るだけでこんな空間に辿り着くんだから、神格とは無法だよな。指輪は無いが、有ってもしょうがない。今回の目的は橘姉妹を深く知って仲良くなって、問題があれば指摘する事だからな。

 

「うん、広いし暗いし、関係者立ち入り禁止なのも納得だねぇ」

「神様のお家だから、全部神様に合わせてるの!ウチも何度か入ったけど、広くていっつも歩き疲れちゃうんだー」

「そもそも、神様は自我のある自然現象だ。生き物では無いし、必然と生活感は少なくなる。そこに屋台や祭りやをやっても、余計な反感を買いかねないからね」

「だからってなんで夏奈が踊り?地味に分からないんだよね。ここの神様、確か気にされるの嫌がる筈なのに」

 

 折角だし、振り返ろうか。

 『神格』は考える自然現象で、魂を食べることができる。

 『鎌蛇様』は名前を呼んだり、話題にされるのすら嫌がる神様だ。自分の近くで名指しで言及されると許さない判定を与える。許す許さないで一年無の世界に過ごさせたり、普段なら関わらないのが安牌になる相手だな。

 所が、そんな厳しい判定も今日は違う。奉納する祭りの日に指定されるだけ有って、弱まってるのか何なのか、こうやって橘家じゃない俺が本殿に入っても気にされない。

 橘達に関わるのを今日にしたのは、そんな訳なんだよな。

 

「…さあね。私の経験上、怪奇でそんな事を気にしてもしょうがないと思うけど?」

「まぁ、怪奇を利用したり、怪具を使うだけならそれでいいよねぇ」

「お姉ちゃん、ゲェムで沢山関わったもんね。よく難しい事も言うし、すごいんだ!」

「ふふん、そうだろ?多々良」

 

「でも、神様が相手に今の夏奈はダメだよ」

「……何だと?」

 

 並ぶ行灯が三又に別れたので、右に行く。出口からある程度離れた此処は細かく行灯が別れていて、正しい手順でどこかに辿り着ける仕組みが構築されているようだった。

 「怪具/道行探し/乙」…一つ置けば分裂して先を調べ、行き止まりや部屋まで転移出来る様にする怪具。昔に作られた怪具で、分裂するから簡単に量産出来る。

 まぁ、駅の路線図みたいな物だ。広くて何処までも続く空間を、行灯の近くを通る事で、実際にそこを通ったのと同じ結果を手に入れられる。便利だけど、道中を省略するのはちょっと寂しいよな。

 

「未来だと神様いなかったでしょ?なら、怪奇とは関わってても神様とは関わってない。それで、本当に正しいって断言するのは早計だよねぇ?」

「…なるほど、事前に完璧に仕上げた手順を一新して対応しろと?」

「そうじゃ無いねぇ。お母さんやお父さんに聞きなさいって事だよ。両親共に神様に関してはプロなんだから、頼らなきゃ」

「おお、なんだか霧っちが良い事言った!」

 

「私の方が正しい。長い間正しく進めたんだ。今更、間違える訳ないじゃないか」

 

 別れ道を左に曲がっていると、夏奈から怒りを含んだ言葉が出てきた。

 なんで雑談してるだけなのにそんなに怒るの?もしかして沢山経験を得た分思考が固まってる感じ?神格相手には感情も大事だと聞いたんだけどなぁ?

 えーと…誰に聞いたっけな。祈る時は畏怖と尊敬を、最終的には空にするのが最適解。やっべ思い出せないや。『神格』関係だし父さんか橘達かなんだけど…どっちだっけ。

 

「…お姉ちゃん?」

 

「霧晴、私はこれでも100を超える怪具に、200を超える怪奇と関わった。高性能な人工知能や、肉体から解放された電脳体にだってなったし、その平和を150年は守ったとも。確かに霧晴は多少他よりも見える物が多いが、今になっては私の方が経験も、知識も多い」

 

「だから、自分でやるの?親にも大丈夫だと自信満々に言ったから後には引けない?」

 

「事前に情報は集めてある。礼儀作用が重要なのは学んである。踊りは完璧にした。これ以上何が足りないんだ?」

 

「思考」

 

「…思考が影響するのは怪異や認識関係だろう?」

 

「神格は思考読める…て言うより、感情が見える。鎮まってる…眼を白帯で覆ってるなら細かくは無理だろうけど、今日は緩む日なんだし、機械的にやるなんて不敬なんだよね。生き物じゃなくても自我はある。そんな感じでやってたら失敗すると思うよぉ?」

 

「………困ったな…そうだった…そうだったな」

「お姉ちゃん…もしかして、忘れてた?」

「…どうやら、そうらしいな?」

 

 何を唖然としているんだろうな。今の夏奈は機械でも電脳体でも無い生身の身体。忘れる、間違える、体調を崩すなんて普通なのに。

 長く人じゃなくなっててそういうの忘れてたのかな。まぁ電脳化技術なんて物を真倉に協力仰いでまで作ろうとしていたし、未練か何かがあるんだろうな。

 …えーと、あとは真っ直ぐ行けば到着だな。振り返って最後の確認でもするか……なんで夏奈は顔を手で覆ってるんだろうな。そんな間違えないのが当然だったのに、みたいな反応して。

 

「それでさ、もう一度聞くけど」

 

「どうする?神様に踊る人変わる事、私の挨拶のついでに伝えておく?」

 

「あー…」

「お姉ちゃん、それならウチがやるよ!」

「え、多々良出来るのかい?」

「うん!いつか一緒にやりたいなって練習してたから!『人形』のみんなにも見てもらってるから、いい感じだと思う!」

 

「………なら、お願いするよ」

 

 夏奈は悩む様に目線を彷徨かせて、眼を瞑って唾を飲み込み、そうして決心がついたのか、絞る様にして了承した。そんなに嫌なの?他の人に任せるの。

 

「やったー!共同作業だね!」

「うん……うん、そうだね」

「じゃあ行こうか。一人だけなら煩わしいだけでも、三人揃って用事のあるなら向こうも耳を傾けるから、聞いてないは起きないね」

「だね!じゃあ行こっか!」

「…自分への評価を修正しないと」

 

 そんな訳で対面だが、喋る訳じゃ無い。何かが居る気配のする空間に向けてお祈りするだけだ。

 俺でも近づかないと見えないからな。普通なら全く見えないし感じない。

 喋れば不敬と取られかねないしな。装いや振る舞い、儀式じみた動きだけで知らせるのだ。勿論ここら辺は神様次第だが、ここの神様にはコレで通る。

 

 そして最後に一礼すれば…

 

『今年から踊りに加えて人を集め祭りもせよ』

 

「ん」

「…!?」

「おっけー!」

 

 なんか要望が増えたが、まぁ対応するのは橘達だけだから気にしないで良いだろう。

 そんな訳で本殿から出て、いの一番に夏奈が喋った。

 

「多々良は『人形』に指示して屋台と祭り会場、踊り場を!霧晴は真倉に連絡して資材と参加誘致のお願いを!私は親に報告と…色々だ!理解したら各自行動せよ!」

 

「はーい!」

「あ、私もやるんだ…いいよぉ」

 

 そんな訳で、午後の2時に俺達は鶴の一声で決まった祭りの準備をすることになった。

 日差しのキツい中、16時からやる踊りに合わせて2時間で全て用意しろと言うのはだいぶ辛い。だが、今の俺には真倉に指輪を貸している状況だ。社員を連れてくれたら今年はそれで良いだろう。

 

「へぇい、真倉。頼まれてくれる?」

[あー霧晴ね…すみませんちょっと失礼します…こっちは今忙しいけどなに?]

「『鎌蛇様』が祭りをしたいと言ったから社員なりなんなり参加者募集してくれない?16時の踊りが目玉だからさ、それまでに人が居ないと奉納が失敗する。後資材お願い。見積もりは後日相談」

[………千歌じゃ無かったら断ってたとだけ言わせてちょうだい?]

「ありがとう、本当にありがとう」

[それだけ?なら切るわよ]

「出来れば一緒に回ろうねぇ、じゃ」

 

 はい、俺の仕事終わり。後はのんびり遊ぶのは諦めて見守るだけ…

 

「あ、霧っちー!資材が突然現れたんだけどこれ大丈夫?」

「真倉が送ってくれたから大丈夫だよぉ」

「霧晴!お父さんに電話して仕事変われるか掛け合ってくれないか?」

「へぇい、父さん今大丈夫?実は祭りをすることに……」

[……成程分かった。それなら千歌、橘の奴に奉納補助の怪具を持ってかせるから使える様に……]

「霧っちー!設計出来るー!?ウチ組み立て方知らない!」

「はいおすすめのネットサイト。あとは走り書きだけどマニュアルと、踊り場の組み立ては父さんに言われてさ……」

「霧晴!多々良には事前に踊りが出来てるかチェックする時間を作るから、その間の指示は頼む!」

「いいけど真倉に手伝って貰うのは先に言っておくよぉ」

[霧晴、社員と広報、町内会には連絡したわ。怪奇関係だから動きは早いはずよ。スタッフも用意したから、迷子センター等々を…]

「設計には組み込んでるねぇ。後そこまで大きな規模にしない予定だよ?それからコレって夏奈と連絡し合った方が…」

[煩い、イベントは広げるものよ。で、千歌の声を聞けないなら私は投げ出すわ]

「うえぇ…」

「霧っちー!なんか『人形』から畦道に道案内の看板立てた方がいいって提案が……」

 

 死ぬほど忙しかった。俺は調整役じゃないんだぞ?何故か規模がどんどん膨れるし、多々良は俺にばっかり聞いてくるし、真倉は夏奈と話そうとしないし…予算は夏奈の電脳化技術の研究室から出ることになってたけど、それにしたって研究員から電脳化の知名度を上げるための提案とかされたし。

 可笑しいな、今日は挨拶したら虫取りして遊んで、踊り見て終わりのはず…どうしてこうなったんだ?

 

「…疲れた」

「お疲れ様、霧っち。はいこれスポドリ」

「ありあとぉ…多々良もお疲れ様ぁ…」

「うん、がんばった!」

 

 そんな感じに開催された祭りと踊りは、無事に終わったらしい。らしい、と言った時点で察してるだろう。俺は全力で連絡と相談の対処に追われてて何も楽しめなかった。

 一応この祭りは今日やる奉納メインの「本夜祭」と人々が楽しむ「後夜祭」で分けてやる事になったみたいで、明日まで祭りは続くみたいだが…肝心の多々良の踊りを見るのは出来なかったな。

 

「霧っちはまだ祭りのお仕事?」

「んーん、後は真倉の社員…大人が引き継ぎする。大体教えたから、後片付けも任せられるよぉ」

「さっすがー」

 

 引き継ぎは済んでるから、明日からは祭りを楽しめる。

 最初は神への奉納=祭りの前世イメージは無いと気付かされたのになぁ…まさか俺が再現する事になるとは。

 多々良を見ると、巫女服に頭に色々載せた豪華な服をしていた。鈴やら簪やら、俺なら全部装着したら重さで転ぶだろうな。化粧も大人っぽくしてるし、今なら背の低い成人と言われたらちょっとだけ信じられるだろう。

 

「いい感じにキメたねぇ」

「うん、みんなで作った物だもん!カッコいいでしょ!」

「だねぇ…今日だけの多々良で、明日までの祭り。ちょっぴり長くて、泡沫に消える景色にかんぱーい」

「おー、キマってる言葉!かんぱー!」

 

 お互い、スポドリを飲んで疲れを癒した。疲れた時に飲むと本当に美味しいなぁ、汗の滴る夕暮れの祭りも相まって、いつもとは違う味がするわ。

 

「「…ぷはぁーー!!」」

 

「…どうする?みんなで見て回る?」

「それなんだけど、お姉ちゃんはパパとママと一緒に反省会で、倉っちは仕事があるからって帰っちゃったんだー」

「なら、二人で回ろうか。服も簡易更衣室あるから、そっちの方でね」

「いぇーい!」

 

 そうして多々良が着替えてから、二人で屋台を回った。

 即席に用意したにしては射的やヨーヨーすくい、わたあめとかも買えて祭り気分になれていい感じだった。

 

「たーのしーね!」

「だねぇ…おっと」

「わっ…セーフ、大丈夫?」

「うん、大丈…あー…」

「……あ!」

 

 よろけて転ぶ所を多々良に支えられる。疲れてたかな、やっぱり夏に無茶はするもんじゃ無いな。

 服にわたあめがべったりくっ付いたし、汗で濡れてたのもあってわたあめが溶けてとてもベタベタになった。

 

「ん、大丈夫。このくらいなら全然平気」

「なら霧っち、ウチに来てよ!新しい服あげるから!」

「え、別にだぁぁぁ……」

 

 久々に引きずられつつ、多々良がまだ着てなかった服を貰った。返さなくて良いのか聞いたけど、沢山あるから良いらしい。太っ腹なやり方だよな。夏らしい真っ白なワンピースだし、良い感じである。

 

「ぶーかぶーか」

「ウチの服、霧っちにはおっきいかー」

「おー、ズボン履かなくても下が見えてない」

「!? 霧っち、それは流石にはしたないよ!肩のも片方ズレてるから!」

「こういう服着てるといつにもまして子供っぽくなるねぇ」

 

 折角なので三つ編みもほどき、服に合わせてみる。なんかもっと年齢下がった感じの見た目になった。

 

「霧っちお似合いだね!似合ってる!」

「そうだねぇ多々良お姉ちゃん」

「!? え、霧っち?」

「お、反応があった。どう?見た目に合わせた呼び方にしてみた「もっかい」…うん?」

「もっかい言って!」

「…なんか怖いよ?多々良お姉ちゃん」

「〜〜〜〜!!」

 

 お、跪いた。なんか知らないけど効果ありだ。ヒャハハハ!コイツめっちゃおもろいでぇ!

 あ、良い事思いついた。耳元で囁いたれ!なんだか分からないけど人を追い込むチャンスなんだ、ここで突っ込まなきゃ損だろ。

 喉の調子を調整して…こんな感じか?前世で聞いた媚びた感じの声だから…。

 

「お姉ちゃん、どうしたの?どこかぐあいわるいの?」

 

「〜〜〜ッ!?」

 

「だいじょーぶ?おなかぽん、ぽん、する?ちかにできることなら…なんでも、するよ?」

 

「‭─‬‭─‬‭─‬‭─‬なんでも?」

 

 

 

 

 

「な〜んて冗談だよぉ!ざこざこお姉ちゃんは私の膝に頭乗せてぐっすり寝てなよぉ? あはは!」

 

 

 

 

 

「うわあぁぁ!!」

 

「あ、ははは!ウケるぅへへへ!」

 

 指差して笑ってやった。まんまと引っかかってやんの。多々良って耳元に囁かれるの苦手なんだな。面白いくらいビクビクしてて笑いが止まらないぜ。

 

「はははへへ!…ぶへへへ、ダメだ笑い止まらない!」

「霧っち!反則!アレはなんかとっても反則!ズルズル!ズールー!」

「ひー、ひーっ…へへへへ…」

「霧っちー!」

「ごめッ…クヘ…ごめんって!悪かった!悪かった!じゃあ何かさせたい事あったらするから!それで良い?」

「もー、そんなんじゃ……いいよ?許したげる!」

「お、何させたいの?」

「…今の、もう一回。じっくりで」

「…多々良、それは…まぁ良いけどさぁ」

 

 それから、多々良の要望通り耳元でお祭りお疲れ様的な事を1時間程囁き続けた。ついでに耳かきもした。

 

 その様子?…言わないであげる優しさも世の中にはある。

 大雑把に言うなら、夏奈が攻め攻めなのに対して、多々良は受けが好みっぽい事だな。ざこざこ煽りがなんか有効的だった。

 俺気持ちよくさせる煽りとか苦手なんだけどなぁ…罵倒なら猿渡先生ェのお陰で言えるんだけど。

 終わった頃にはぐっすりだったし、踊りとか頑張ってくれてたんだから、良い癒しになってくれてた…と思う。実際は知らない。俺呟きは特にぞくって来ないタイプだし。

 

「ふぅー…喋り疲れたね」

「ん?誰だ……霧晴じゃないか。我が家で休憩してたのかい?」

「そうだよ夏奈。お邪魔してまーす」

「うん、ゆっくりしてってくれ。今日は遊ぶつもりが、大変な事になったからね」

「だねぇ。それで、私来て良かった?」

「あぁ、勿論。来てくれなかったら私は死んでいただろうね。人の身体は、不便なのを理解できなくなっていたから」

「随分長い間ゲェムに閉じ込められてたからね」

「未来に行ったと言ってくれ」

「閉じ込められてた、だよ。アレは未来じゃなくて、よく再現された物でしか無いから」

「それは…霧晴がいうなら、そうなんだろう」

 

 帰る途中の縁側で夏奈に会った。まだ家から出れてないが、捕まったからには答えなければならないな。

 別に急ぐ必要もないし、隣に座ろうか。

 

「で、どうだった?御両親との反省会は」

「…何とも、自分の口で言うのは戸惑われるね」

「自分の失敗なんてそんな物だからねぇ」

「ゲェムの事も言って、心は既に老人だと伝えた……泣かれたよ」

「それで、どう思った?」

「遠慮が無いなぁ…怒られるよりも辛かったな。抱きつかれて、謝られた時は気まずかったさ」

「良かったね、それだけで済んで」

「うん、もっと取り返しのつかない所で言ってたらと…そもそも言えなかったらと思うと…本当に」

 

 夏奈は手を組んで、身体を震わせていた。自分でも気づけない程人の在り方を忘れていたんだ。しょうがない事だろう。黙って座る距離を近づけて、そばいることは主張しておいた。

 幾許かの時間が過ぎて、やがてぽつりぽつりと言葉をこぼし始める。

 

「…人の身体は不便だ。思考だけの身体も、機械の身体も慣れれば素晴らしかった」

 

「しかし、それは自身の欠落が見えてないだけに過ぎない」

 

「何が欠けたかも知れないんだ。鏡が無い中、もし顔がなくなっても、支障がなければ気付かない」

 

「そして、何かが継ぎ足されるのも同様だ。新しい腕が生えたとして、それに慣れて仕舞えば知る前の自分には戻れない。それに気づけない」

 

「…辿り着く最果ては飽和だ。変わり果てた代償は、膨れ上がって自分諸共消してしまう」

 

 それは、夏奈が自分へ向けたものだった。

 そして、俺にも身に覚えがある話だった。

 

「…変質は、その存在に対する負債と歪みだねぇ」

 

「自分が1でも、2や3に変質すると段々1から離れていく」

 

「一桁までなら、大丈夫だろうね。10も行けば、変わり果てる。桁違い、1は本来有るべき場所からズレてしまった」

 

 まぁ、スキルの話だ。【ゲームガチャ】が見せるそれに対する、今の俺なりの見解だな。

 

「そのズレきった時点で、破綻する。本来の自分から100%離れてしまった」

 

「この変質に固有名詞を与えても良いだろうねぇ。スキルでも、変化でも、アビリティでもね?」

 

「事実、その見解は正しいよ。存在は9回しか変われない。猫の魂は9つとか何とか、そんな感じに」

 

「この世界では、そうなる。私ならこの眼と、葬儀屋としての在り方、ゲェムの影響、持っている怪具…ざっと、後2回か1回か。そこが限界で、それ以上が終わりだろうね」

 

「そう考えてみれば夏奈は…まだまだ大丈夫かな。4回か5回は踏みとどまれるだろうから」

 

 それ以上は言わない。慰めにしても大分変な感じになってしまった。

 全く、だから人と深く関わるのは苦手なんだ。上手い言葉も、気の利いた言い回しも出来てるのかわからない。今やってるのが正しいのか、溺れながら進んでいる感覚だ。

 

「…これはこれは、随分とこの世界の真理を突き詰めた慰めだね」

「うっさい。私にはコレが限界だよ」

「…クックク…あー、何だか馬鹿らしくなってきたな!何ともゲーム的で、システマチックな限界だ!」

 

 喉を鳴らして、夏奈が笑う。しかししょうがないだろう。もう無い聖女の眼で見た時、確かに確証は得られてたんだから。

 

「ククッ…はー、うん、まだまだ大丈夫なら、心配するのは早いな!目の前にもっとマズい状態の人がいて、いじけてたら多々良にも笑われる!」

「そんな人を病人みたいに…」

「というか、実際そうだろう?今のままじゃ無いと死ぬなんて、あんまりにも余裕がない」

「…まだ国も見つけてない情報だから、あんまり言い回っても意味ないよ」

「だろうな!だが…この情報は私に一つの決心を抱かせた!」

 

 縁側から庭に行き、夜空を背中に乗せて手を広げて、

 世界全てを支えてるみたいに、重々しく立ってみせた。

 

「千歌!私は君に無条件で協力しよう!」

 

「何か困ったことがあって、苦しい事があって、諦めたい時には私を頼るといい!」

 

「何度も助けられた身だ。慰め、手を取り、また歩く力になると約束しよう!」

 

「家族と、主人と、管理人の、3つの大切なものに賭けて誓おうじゃないか!」

 

 自信満々に、彼女はそう言い切って、

 

「…ダメかい?」

 

 最後に少しだけ、弱ったようにはにかんでそう言った。

 

「だぁめ」

「…そっか」

「誓うなら、最初にするべき相手がいるでしょ?」

「…誰だ?」

「私に」

「‭─‬‭─‬ああ、一本取られたな」

 

 まぁ、そう言われる程の事をしたのかは実感出来てないけど、なんかいい事でもあったんだろう。

 貰えるものはいい感じに貰っておく。ただし、儀式や魔法にならない範囲に収める。

 難しい塩梅だよな。どうせ俺は小学校までなんだから。

 

「私に誓ってね、私よりも君の命を優先する。友人であり続ける。気が向いたら花を贈る事」

「そんなので良いのかい?」

「そんなのが良いんだよ。夏奈が私に仲良くしてくれるなら、それだけで十分な贈り物だし」

「…照れくさいね」

「いいでしょ?自慢の友人だよ」

 

 夏奈は手の甲に口付けをした後、俺を家まで送ってくれた。

 いやぁ、頑張った後は1週間くらい休みたいなぁ…でも、明後日に母さんと一緒に実家に行く用事あるんだよな。

 兎に角、今日も疲れた。絵日記はあし…た……に…むにゃ。

 

 






霧晴千歌
 地味にお花は好き。たんぽぽとか親近感を覚えるし栞にもしてる。
橘夏奈
 疲れた結果、妹と一緒に朝風呂になった。
橘多々良
 姉の呟きを試したけど全然だった。
真倉朝凪
 最近指輪無しで『魔法』が使えるようになって来た。

『鎌蛇』
 そろそろ神器を与えても良いかなって作り始めた。
『のっぺら坊』
 顔のない妖怪。異界探索してる人とか顔がなかったりするので、歩いてても普通の人扱いされる。
『てけてけ』
 手だけの妖怪。増えてくっ付く。

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