怪奇ばかりな日常とゲェム記録   作:何処にでもある

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 友達の家に遊びに行きます。小鳥遊だった頃の口調にも戻ります。




日常-変わっちゃった

 

 

「千歌、今の体重は?」

「最近14kgに落ちたかな。アイドル頑張ったもんねぇ」

「千歌、身長は?」

「最近だと99㎝だねぇ。5センチ縮んだよ」

「って事はアンタはまだまだ子供って事だ。今後一生私と一緒にいな」

「母さん、感情が重いよ」

「…いや千歌、母さんの言ってる事は正しいと思うぞ」

「遂に父さんに裏切られたか…」

「正直父さんもそろそろ千歌から目を離すのが怖くなってきた」

「アンタ…ようやく気付いてくれたかい!」

「母さんはそんな同胞を見つけたみたいに見てないでよ…」

 

 やぁ、最近母さんと父さんとの距離感が近い気がする俺だ。

 俺ってそんなに目を離しちゃダメなのかな。コレでも中身は普通の大人だぜ?

 

「いいか千歌、父さんも今調べたけど、その身長と体重は3歳児と同じくらいなんだよ」

「わぁ、通りで何だか目線が低い訳だねぇ」

「人によっては赤ん坊扱いしても不思議じゃ無いし、一人で出歩いたらみんな親はどうしたって聞きに来るぞ」

「でも普通に歩けてるし、何なら靴が無くても歩けるよ?なんなら靴あった方が歩きづらいし」

「本当な、どうしてそんなギリギリ健康と言い張れる線を突いたみたいな生え方するんだろうな」

「見てよこの幽霊歩き。めっちゃ疲れるけどやれる様になったよ。何も悪いだけじゃ無いよ」

「出来ても意味無いだろ…そんなの」

「でもほら、すーっ…あ…わぁ…いたた…疲れたら歩けなくなるのは欠点だね」

 

 バタバタとしながらうつ伏せから座る姿勢にする。前世の経験もあって慣れたもんだな。

 今後は足元見えないスカートとか必要になるだろうな。靴が無いとか、不自然の極みだし。

 

「……千歌、悪い事言わないからもう自由に生きるのは諦めて父さんと母さんと一緒に居なさい」

「やだ!世界で最も自由な人になる!」

「千歌、正直母さんも周りの目線がキツくなって来たんだよ。アンタが身体を無くす度に、お前の娘は俺私が育てた方が良いって言われるんだ」

「あー、なんか父さんの職場でも似た様な事言われたなぁ、橘のお父さんに」

「アイツにはこっぴどく叱ったけど…効いた感じが無いっていうか、寧ろ俺が怒られたわ。悪い事言わないから娘さんが生きてる間に寄越せって」

 

「どっちの人達も酷い事言うなぁ、こんなに愛されてるのに」

 

「「………………」」

 

 おっと、そこで沈黙するのは自分達の非を認める事になるぞ。堂々と間違ってないって言ってやれ。掲示板を使う時みたいにさ。

 そうじゃなきゃ俺が他所からみたら親からネグレクト受けてる子供みたいになるだろ。どうせ自分達も似た様な物なのに人を非難する時は棚に上げてる連中なんだ。ヘイピッチャー気張っていこーぜ?

 

「というか、もう母さんのお腹にはもう一人子供がいるじゃんね。ならわた……じゃんね」

「千歌、今めっちゃ自分をおざなりにする言葉を飲み込まなかったか?」

「父さん今日はいい線突くよね。でも気のせいだよ」

「千歌、もしかして結構不満があったりするか?」

「自由にさせてくれないのは不満だねぇ」

「それだけじゃ無いだろその反応は……」

 

 いやぁ、朝食の時にこんなに責められるとはな。お陰で喋ってばっかりで全然食べ終わらない。

 何なら今正に母さんにあーんとさせられて手を使わせてくれないし、過保護過ぎると思うんだよね。

 

「まぁ、それでも私は今日外出する気分だし全力で遊びたいんだよね。と言う訳で私は行くよ」

「逃すと思うかい?指輪はもうこっちで保管してるんだよ」

「ヘイかもん」

[よ、タクシー指輪だ。どこ行きたい?]

「座式先生の家までお願いね」

 

 舌を2回鳴らして、俺は家から脱出した。

 

「…はぁ、私に似たね」

 

 

 

 そんな訳で指輪の転移を使って転校生もとい、座式先生の屋敷に来た訳だ。予め知ってて良かったな、お陰でこうして抜け出せるんだし。

 しかし玄関前で座ると暑いな。クーラー効いた部屋から出ると本当に暑い。早く中に入るか。

 

「んー…んー!」

 

 ……チャイムまで背が足りないな…今疲れて立てないから本当に足りないぞ?…ヘイ指輪。

[よし、俺が押すわ]

 指から転移を上手く使い、指輪がチャイムに衝突して押して戻ってくる。サンキューな。

 いやー、懐かしいなぁこの普通の事も出来なくなる感覚。前世は一気だったけど、じわじわ出来なくなるのもキツいよな。

 馬の足みたいになった、手術された足を畳み、地面に体育座りして待つ。くう、とお腹が鳴った。話の流れですぐに来ちゃったけど、食べてから来れば良かったな。

 

「はぁ、結局そんなに食べられなかった…」

[それだけは悲しい事だよな。俺も食べたかった]

「だよねぇ……座式先生来ないね」

[約束してたんだけどなぁ?]

 

 仕方ないのではいはいで庭の方に移動しつつ比良を探す。事前に来る事は言っていたが、玄関で待っても来ないなら仕方ない。膝と手が痛いが…犬になったみたいで複雑な気分だが…歩くのが時間制限ある以上仕方ない。無駄に幽霊歩きなんてする物じゃないね。

 転移?面倒だからって断られた。薄情なやつだよ指輪の俺は。

 

「えっほ…えっほ…よし、縁側に来た…ふぅ、疲れた」

[服は後で洗わないとな]

「そうだねぇ…家事出来なくなったの面倒だなぁ…」

 

 見渡しつつ、部屋を探索する。何だか最近人や怪奇を見かけない事が増えた気がするが、コレって単にそういう巡り合わせなだけだよな?

 そんな訳でペンの走る音の聞こえる部屋の前に来た。早速、座式先生が居るだろう部屋を開けてみても、誰も居ない。ペンは浮いてるし、誰か持ってるんだけど…見えないな。

 

「…変だなぁ、生活の痕跡は有るのに居ないよ」

[聞いた感じ確かに座式先生が居るし、比良も寄りかかってるんだけど…]

「あー…アレじゃない?怪奇と出会わない様にしてる怪具。国が敷いてる、見えない限り触れ合わないって奴。今の私ら怪奇視点なんじゃ?」

[それだわ。確か「不視の境目」って怪具だったっけ…俺らなんかこうなる事したか?]

「さぁ…怪異の企み阻止したり、『蟲小屋』に行ったり、足を無くしたり…そう言えば今の私の匂いは?」

 

 そう言えば、『鬼火』は匂いの怪奇だ。そして、それに触れて俺は足を無くした訳で…匂いを持ってかれたから、こうなってるのは有りえる話だな。

 

[ちょっと待て…甘い線香の匂いが無いな。代わりに、焚き火みたいな匂いがする]

「あー…副作用だと思おうかね」

[取り敢えず比良の肩に乗っておけ。移動する時について行きやすいだろ?]

 

 どうやら、俺は線香みたいな匂いがないと人から見られなくなるようだ。「不視の境目」判定だと俺って怪奇側なんだな。そう言われても仕方ないけど、地味にショックだ。

 と言う訳で渋々俺は比良の居そうな場所を手探りで見つけ、その肩らしき場所に跨った。肩車してるんだろうけど、見えないから浮いてるみたいだ。

 「不視の境目」は本来触れる事も出来ないみたいだし、俺の体臭の効果が完全に無くなった訳では無さそうだな。その内戻るんだろう。

 

「…うわ、立ち上がった!」

[そりゃ夏休みの宿題をする準備するみたいだし、立つだろうな]

「すごーい、座った姿勢でスライドしてるー!」

[今の俺らは軽いからな。気づかれもしないか]

 

 そんな訳で比良の部屋に浮きながら入り、座式先生の居る部屋の前で転移で降りた。先にディスクを何とかする算段である。時期的にまだ誘われる感じでは無いと思うしな。

 箪笥、ベッドの下、机、インテリアの裏は指輪が入ったけど無かった。

 

「ええと…探したけど特に無いね」

[もしかして真倉が回収したとか?]

「聞いてみるね」

 

[霧晴?何の用?]

「へぇい真倉、座式先生のゲェム回収した?」

[……霧晴?…きーりーはーれー?…間違い電話ね…ブッ]

 

「…今は電話も無理かぁ」

[父さんと母さんはどっちも見えてたけど、怪奇関係との関わりが深いからな…普通はこうなるんだろう]

「何だか悲しいね、世界に自分の居場所が無いみたいだ」

 

 普段の怪奇達ってこんな気分なのか…そりゃあしつこいくらい関わりもするよ。

 

[どうする?遊ぶには問題が多いぞ]

「でもここで諦めるのもねぇ…折角苦労して来たんだから…」

[…なら、考えるか?それとも念話してみるか?]

「あ、そうじゃん。先ずはそれを試してみよっか」

 

 そんな訳で転移&念話。場所は見えてるから一発で飛んで触れた。

 

[へぇい比良、遊びに来たよ]

 

「うわ! ……びっくりした!どこから来たの?」

 

「おー!見える様になった!玄関からお邪魔しに来てたよ」

 

 語りかけてみると、急に比良の姿と声が聞こえる様になった。なるほど、認識されなくて触れ合えないなら、気付かせれば良いんだな。一つ学びを得たよ。

 

「いやぁ、最近怪奇のせいで気付かれにくくなっちゃっててね?話しかけてやっと気づいてくれたって感じなの」

「あ、そうだったんだ……パパどうしたの?…え、ほら居るよ?千歌はそこに居るってば」

「あ、今話しかけて見える様にするね…[お邪魔してまーす] 」

 

「うお…本当に居た」

 

 座式先生にも触れて声をかけて、お互いに見える様にする。コレなら匂いが無くても問題なく進められそうだ。

 

「今日お邪魔する予定の霧晴、気付かれるまで待ってたよ」

「あー…そういやば比良が言ってたな…ようこそ霧晴。広いだけの家だが、ゆっくりしてってくれ」

「はい、お邪魔します」

「よし、お茶菓子を持ってくるから、比良も自分の部屋に案内しなさい」

「はーい!…千歌、何だかちっちゃくなった?持ち運んであげる!」

「おぉ、普通に有り難い」

 

 話が進むのがコレほど嬉しいとは、なんか感動しちゃった。

 そんな感じに感動している俺を抱えながら、比良は不思議そうな顔をする。

 

「…千歌、足が無いよ?」

「最近燃えて消えちゃってね…でも今日は歩き疲れて無理だけど、普段なら歩けるよ?」

「軽いね」

「コレでも大きめなお米の袋くらいはあるよ?足首から下が無いだけだからね」

「どんな事があったの?」

「それはライブの事?それとも異界探検隊の事?」

「足は聞いたから異界の方。私も見たよ、すごい頑張ってたよね」

「異界は大変だったねぇ…アレって認識関係の生まれ損ないだから、下手すると記憶とか無くなっちゃうし」

 

 部屋に着いて、畳の上じゃなくて、比良の布団の上に座らされた。そんな丁寧な扱いをしなくたって良いと思うんだけどな…別に、足が全部無くなった訳でも無いんだし。胡座は出来るんだよ?

 

「ねぇ、千歌は昔の事を覚えてる?」

「急にどうしたの?…大体は覚えてるけど、忘れた事もあるよ」

「異界に行って、忘れたって自覚の有る事は?」

「そうだなぁ…」

 

 記憶と認識に関係するなら、『宇宙の無意識領域』に出会うまでの一連だろう。

 比良の経緯を考えても、求められてるのはそれだろうし。

 

「赤い稲穂、青く燃える鳥、宇宙の卵、認識の鳥、腐り落ちる殼、異界の成り立ち……」

 

「正直、大体知ってるから記憶じゃないとは思うけど…認識なら、弄られたって推察はしてるかな」

 

 何処がどう変わったのか、俺はもう把握してないからな。

 あの異界と出会い以来この眼の情報もより理解出来るようになったし、極端に何かを好きにも嫌いにもなれなくなった。何だか上限と下限が出来たみたいな感じだな。

 後は…自分がどうでも良くなった気がする?…感じかなぁ。昔はもう少しハーレムとか、男としての執着が有った気がするし、この前の蟲へ尻を許すなんて絶対死んでも嫌だって言うと思う。

 子宮を許さなかったのも、証に悪いからで有って、俺としてはそんなに執着してないしな。

 前世の俺だったら?今の現状にキレてるんじゃない?泣き叫びながらやだやだ言ってたと思う。

 

 推察することしか出来ないけどさ。きっと弄られてると思うよ?確信できないのがその証拠だし。

 

「そうだなぁ…自分の自我や在り方をあまり気にしなくなったり、凄く好きとか、凄く嫌いとかは減った気がするし…コレに関しては確信出来なくなってる気がするし…少なくとも、忘れた、は無いかなぁ?」

 

「そうなんだ…何だか、私よりも酷いね」

 

「もしかして怪奇災害の時に今までの記憶失った?なら、運が良かったね。奥にある宇宙までは辿り着いて無いんだからさ」

 

「うん…ごめんなさい。私、千歌みたいにならなくて良かったって今思っちゃった」

 

「まぁ、それが普通だよね。気をつけても変わるのが止まらないし、それを辛いって思えないからさ…でも」

「見た感じ弄られたのは記憶と、血の繋がりと、何者だったか、それだけなのは本当に運が良い」

 

「……え?」

 

 いやぁ、あの性格悪い鳥と異界の事だ。3つだけと言いつつ、その人の一番大事なのを弄っているからな。

 見た感じまだありきたりな部類だし、比良自身の未来に影響はない。過去と今が分からなくなるだけなのはマジで運が良いと思うよ。

 見た感じの不確かなのだし、あの鳥関係だからあんまり信用しちゃダメだけどさ。

 

「それが私の無くした物なの?」

 

 おっと、質問されたぞ?うーん…此処は一つ本気で調べないとだ。運んでくれた礼もして無いし、検診させて貰おう。ちょっと首元を失礼して…カプリ。

 まっず!粘土版!虫の卵で偽装して作った米!怪奇の味だわ!でも検診だしよく見なきゃ……ん、マジで?そんな事あるんだ。巧妙な隠し方だなぁ。めでたい話だ…めでたい話か?悲惨な話かも知れない。

 うーん…しかし…【プリズンワールド】ってこんな所に居たんだな。

 

「ん、辿り着いたのは赤い稲穂畑まで何だよね?」

「うん、そうだと思うけど…」

「ならさ、なんで身体の中に██があるの?」

 

「…え?」

 

「見た感じだと分からなかったけどさ、コレって██だよね?普通なら無い筈なんだけど、何処で見つけたの?」

 

「…分からない」

 

「なら仕方ない…でもコレだと二つある事になるしねぇ…だから認識関係の怪奇があそこに居たんだね」

 

「言ってる事がわからない…聞き取れない! 何があるの!? 私に何が起きてるの!!?」

 

 なんか情緒が不安定だな。そんなに鵜呑みにしなくても良いのに…どうしてそこまで信じられるんだろうな。

 何でか特典の【プリズンワールド】と同じものが中にあるってだけなのに…こんな話、まず信じられないと思うんだけど。何でだ?こんな子供の言葉の何処にそんな説得力が有った?

 

「…うん、死ぬまで問題は無いからコレからは気にしなくても良いよ」

「それって何か問題にならない事が起きてるってこと!?教えてよ!知りたいの!私は知らなければならないの!?」

「座式先生が居れば良いって話じゃなかったっけ?」

「そうよ!私は知らなくても今がいいならそれでいい!でも、知って行かなければならないのよ!」

 

 どうしよう、何かの仕込みを踏んだ臭い。何とか出来るか?コレ。

 赤い眼を輝かせる比良に押し倒され、首を絞められる。息は出来るけど、苦しいな。

 

「…今来たけど、お前ら何してるんだ?」

「あ……せんせ……」

「教えろ!教えて!言って!知らせて!思い出させて!」

「おー、比良。ジュースとお菓子食おうか。…霧晴から手を離してな?」

 

「うん、分かった。お菓子楽しみだね、千歌」

「…けほけほ…そうだね」

 

「…霧晴、何が起きたか説明してくれ」

 

 首から手が離される。どうやら混乱は収まってくれたみたいだった。本当、変な地雷だなぁ。

 そして先生に事情を話しつつ、俺たちはお菓子を楽しんだ。ポテチはおいしかったよ。

 昔を覚えてるかの話題になって、異界の話になって、検診して、正直に特典が中にあるって言ったら聞こえないと言われたって感じにだ。

 まぁ特典の所は言ったらまた混乱しそうだからぼかしたけど。

 

「なるほどな…霧晴、言わなくて問題ないなら、それは今後言わない方がいい」

「はい」

「比良、お前も今後、昔を振り返るのは控えておけよ。聞いた感じ、時間の経過で思い出せる物でも無さそうだからな」

「はーい」

 

 そんな感じに話が纏まり、後は先生に俺の足の事を言ったりとか、二人に魔法を使わせてみたりとか、ゲームで遊んだりした。

 あ、そうだ。かなたらの願いは聞いた所、やっぱり真倉が持って行ったらしい。危険物の回収だって言ってな。ゲェムは求めない限りは飛んでくる事もないし、良い塩梅だ。俺が心配しなくても何か起こる事は無かったか…。

 

 こつ、こつ、こつ、

 

 夕焼けと、耳に残る虫の声を聞きながら、指輪が持って来た杖を突いて、ちょっと歩いて足の調子を確かめる。折角だし、帰りは歩いて帰りたかった。良い感じだし家までは持つだろうな。

 

「今日は楽しかったよ。また今度ね」

「うん。千歌も気をつけて帰ってね」

「本当に送らなくて良いのか?危ないだろ」

「大丈夫だと思うよ先生。人には見つけられないだろうから」

「そうじゃなくて、怪奇にだ。今はそっちに寄ってるってんなら、危ないのはそこだろ?」

 

「大丈夫です。いつもと変わらないので。…じゃあそろそろ、またねぇ」

 

 手を振って、帰路に着く。やっぱり俺はこうして歩いて、景色を楽しむのが好みだわ。

 

「大した事は起きなくて良かったねぇ」

[…どうだろうな]

「おっと、そこで疑問が出たら、今日来た目的が達成出来てない事になるよ」

[実際そうじゃないか?比良がアレなのが分かって、足や身体の調子を確かめただけだし]

 

 こつ、こつ、こつ、

 

 あんまり否定出来ないな。比良の身体に【プリズンワールド】と同じ空間が有ったのがわかっただけだし、元々転生者なのかも、もう確かめる術は無い。この件に対しては手詰まりだろうな。

 

[なぁ、特典って元々この世界に有った物を収めた物だろ?なら、アレが原典って事はないか?]

「えぇ?あり得るかなぁ。人が一人も居なくて、認識の怪奇がたくさん居た事以外は個体差無いよ?」

[あるじゃん。あの鳥の子供の巣窟になった、元々人が居た空間。仮に特典を持った最初の関心と視線の数が元々だとしたら、アレはその結末だろうな]

「だったら、もう一つ付け加えよう。アレは入り口に過ぎないと思う。何故なら、この視線は空から来るから」

 

 一度整理しようか。

 比良は異界からの帰還者である。

 そんな比良は【プリズンワールド】と同じ空間を持っていた。

 俺の【プリズンワールド】は64億くらいの人口を始めに持っていた。

 比良の物は人が居なくて、認識の怪奇だけが収容されたみたいにたくさん居た。

 俺の感覚の話になるけど、この特典から注がれる視線や関心はくるくる回る。惑星みたいに何処かに有るってのは分かっていた。

 

「…アレじゃ無い?異界探検隊であった行きたいと思えば行けてしまう異界の入り口。それが中にあるとか」

[有りそうだな。だが…本当にそうか?今知れてる情報だけでも結構ややこしい事になってるのは想像つくぞ]

「少なくとも二つ有るのは確定かなぁ?私のワールドと比良のワールドがある。私のはまだ人がいる。比良のはもう怪奇しか居ない」

[そんで…なんだ?この話の問題って、()()()()()()()()()()()()()()()()()が見えて来ない事だよな]

「ねぇ…一旦私のは置いておこうか。持てたのは偶然だしね。区別として千歌ワールドと比良ワールドと呼ぶとして…初めから考えようね」

 

 全部同時に考えるのが悪い気がする。いつもは怪奇を見て答えを見てる分考えるのを怠ってたツケが来たな。初歩的なことからやってみようか。

 

「誰がやったか。比良を弄ったのは『宇宙の無意識領域』がやった。比良ワールドは誰がやったのか不明瞭」

[何の為には不明瞭。どうやっても不明瞭。本来自分の領域から出れない奴が、どうやって赤い稲穂の異界に行けたんだ?]

「いつやったのか。4月の怪奇災害の時。比良ワールドはそれより昔の可能性有り」

[何処で…赤い稲穂の異界?]

 

 こつ、こつ、こつ、

 

[…考えてみれば、知らない事の方が多いな]

「だねぇ…怪奇を知ってても、今何をしてるか、何がしたいのかは知らないからねぇ」

[考えても仕方ないな。知る方法も少ない…今は8月10日の月曜…まだ時間はある筈だ]

「何だか、今週の頑張り次第で今後の難易度が変わりそうだねぇ」

[ゲェム的に見れば、そうだろうな]

 

 自分同士でも、話し合ってれば案外話が纏まる物だな。

 どうやら今は情報を集めたり、色んな人と夏休みを楽しむ時間の様だ。

 ゲェムをやっていた時の感覚的に、裏で色々と動いてそうな気配はあるが…もう俺出来る事は少ない様に思える。

 

「…つまり、楽しもうねってこと?」

[だな。宿題終わって直ぐに真倉に橘姉妹に実家にライブ…そして今日だ。海でも何でも、行っても良いんじゃ無いか?]

「…かなぁ?…なら読書と…証の所にでも行こっかな」

 

 こつ、こつ、こつ、くしゃ、

 

「おっと…手紙?」

 

 思えば、疲れる事ばかりだったんだ。少しくらいなら羽目を外してもバチは当たらないだろう。何もなければ証と海なり図書館なり、遊びに行く場所はたくさんあるもんな!

 

「…宛先が笠木雪町だね。送り主は…「魔女のお茶会」…知ってる怪奇にはいないねぇ」

 

 だからさ、どうかこの怪奇では無い普通の手紙、その中身がイタズラの類いであって欲しいなって。見えない誰かがファンの人で、うっかり落とした物で有って欲しいなって。

 

「…『この手紙を見たと言う事は、貴女は笠木雪町です。3日後にお迎えに上がります』……あれ?私ってこんなに視点高く無いです?」

[側からみたらメガネかけた服がピチピチの笠木雪町になってるぞ]

「効果の反映が早いですね!」

 

 コツン!

 

 …うん。つまりはそういう事なんです。

 思わず杖で地面を叩く程度には、チカはキレてます。

 …あれ?怒ることが出来てますね?

 思考も、認識も、靄かかってたのが全て消えてる?

 

 漸く、普通に喋れてる感じがします!

 

「コレが普通の感覚になりますか!」

 

 住宅街の歩道、聞こえるだけだった誰も居ない道に人が溢れかえって、この身は怪奇側になって居ない。

 見渡して、夕焼けが見えて、楽しげに歩く人が見えて、車が走ってるのが見えて、怪奇が一向に見えないです。

 聞いて回っても、歩く音、喋る音、店の宣伝ばかり!人の心は聞こえない!

 腕を噛んでみても、本の味は感じません!

 

 メガネを外します。遠くまで見える眼です!

 手袋を外します。左手が有りました!

 歩いてみても、今までよりずっと身体が軽くて、ずっと早いです!

 喋っても、思考を巡らせる必要もなく、普通に喋ることが出来ました!

 

「『泡芽吹く』といいです!」

 

 人差し指から血の泡を出せば、自由に動かせて、中を真空にする事も可能です。

 

「来るのです!ゲェム達よ!」

 

 しかし、カセットは、何一つ来なかった!

 ゲェムの束縛から解放されています!

 

「ぱんぱかぱーん!チカはレベルアップ…あっぷ…ステータスが変わりました!」

 

 確かに、チカは笠木雪町になっていました。

 財布もお金いっぱいですしね!

 

「……泊まりますか。帰れませんし」

[だな、見るのは俺がやるから、そんな感じで]

「チカは変わりました。何だか軽快です。それでも、お願いますね、指輪さん!」

[めっちゃ懐かしい喋りだなぁ…青い記録なアリスの真似して、戻れなくなったやつ…何もかも懐かしい]

「ンアーッヘェイ!!盛りがっていきましょう!」

[せめてぱんぱか言うのはやめてくれよ?]

「大丈夫です!この喋り方、実にチカに馴染んでますが、チカはテンションがアップしなければ、そこまでは行きません!」

 

 楽しいけど、それ以上に厄介な事になったのは、しっかり受け止めなければなりません…テンションはダウンさせて、クールな性格で進めましょう!

 

 






小鳥遊薬
 前世での一人称はクスリでくすくす、ぶへへと笑い、一回のモノマネが馴染み過ぎて同化してしまった。頑張って寄せない努力はしている。
霧晴千歌
 生身は懐かしい事になったなって思ってる。
笠木雪町
 嬉しいけど、戻る事は決めてる。
座式比良
 今に満足してるけど、歪んでる。
座式先生
 霧晴と比良の対応で頭を悩ませてる。
笠木雪町(偽)
 なんか偽物扱いされ始めた。
霧晴百葉
 コレを知ってた分、まともな口調の千歌を見て複雑になってる。

『泡にする』
 魔法の一つ。水や血を泡に出来る。
『本物にする』
 魔法の一つ。ステータスの参照先を変える。道具は維持される。
『魔女化』
 魔法の一つ。不老不死と魔法の発動条件の変更権を得る。

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