IPS細胞と怪具や魔法、組み合わせたら欠損も治せそうですよね。
「千歌、正直に、逃げずに答えな」
「はい」
「一応聞くぞ?手紙と服と財布は何だったんだ?」
「子供を祝う為に…」
「そいつの名前は?」
「霧晴
「やっぱり産んだんだな」
「でもぉ…他の人も沢山居てぇ…自分だけじゃ無かったし…」
「母さん事情を国から知らされてる側だから知ってるけどね、言ってくれたら他の奴に移す怪具くらいは貰って来てたよ」
「…そうだったの?…なら言えば良かったかなぁ…」
「結局産まれることのなかった人達なんだ。そんなの、腹を貸してやる義理もないだろう」
「なぁ百葉、俺からすると別に違和感無かったんだけど…」
「そういう怪奇さ。適当な奴から産まれて、生きる限り欠けた歴史を推し進める為に人生を縛られる…生きた歴史の奴隷さね」
「へー…それ、血の繋がりとかどうなるんだ?」
「そうだね…最も性行をする可能性のある奴と千歌の子供になるだろうね」
「……なんか嫌だなーそれ。父さんぶちのめしたくなって来たよ」
「歴史の反動のせい…そのせいだから…誰も悪くないから…」
やぁ、用意してたのがアレだったから詰められてる俺だ。やけに大人しいのも含めて怪しまれて、無事こうなってるぞ。最初は魔導書で誤魔化せたのになぁ…お前は学習しないのか?向こうだって警戒心上がってるんだよ。
「まぁ終わったことは仕方ない。あの夜に出ていった中年が一応千歌の子供だってんなら、精々見逃してやるさ」
「母さん物騒だよ」
「千歌、お前の為だと理解しな。もうなんか最近のアンタは運がなさ過ぎなんだよ」
「はい…」
「これに懲りたら、勝手に脱走なんてするんじゃないぞ?父さんも離さないからな?」
「…でもどっちの職場も今の私には過酷じゃない?」
「「…………………」」
「家に留守番でも…食事を作るのは私になるよねぇ?」
「「…………………」」
仕方ない話だが、もう俺は夏休みは自由に出かけられそうになさそうだけど…でも今目を逸らしてる二人を見ると何だか言いくるめられそうなのは不思議だよな。説得できる余地があるように見える。
「…困ったな、どうやっても角が立つぞ」
「私と一緒にいた時からそうだったが…問題の方から来るんじゃ誰が近くに居ても、だね」
「百葉と一緒の時からそうだったのか?」
「今よりは少なかったさ。起きたのは3つ、荒木の怪具屋での騒動、夜に月見して自我が歪む、そんで怪奇災害の…ここ最近のゲェムか。偶然にしては、最近巻き込まれてる物の数が多いね」
「俺が知ってるのだと…ゲェム、『昨夜様』来訪、『メリー』のお泊まり、テレビの偶像化、『影取り』に左手取られて、両足と言語脳の損傷……全部見えてて怪奇と遭いやすいにしても、人の縁がよろしく無い方向に行ってるよな」
「真倉の嬢さんと関わって左手、笠木の組で両足…千歌が止めてと言ってなけりゃ、賠償も慰謝料も貰ってたんだが…」
「友達を悪く言うのはダメだよ。お互いに支え合ってこそでしょ?こういうのは」
流石に友人達の悪口を許容したくは無いな。俺の方だって結構迷惑かけてるんだし、そこはとんとんの筈だ。
何よりそれを言ったら母さんと父さんには両方アレなことされてるからな。銃弾とか、三尸の産卵とか、『裏世界』三連打とか。まぁ父さんの方はまだマシなんだけどさ。
「…話が逸れたね。千歌、今日は父さんと一緒に行きな。私は魔導書のあれこれを調べなきゃいけないんだ」
「うん、国への報告とかだよね。預けるから、そのまま渡してもいいよぉ」
「あぁ、しっかり持って帰って来るよ」
そんな訳で今日は父さんの職場である。夏休みなのに学校に行ってるみたいな気分だが、職場見学とはそんなもんだよな。
だが、この3日間は母さんに着いてたし、気分転換には丁度良い。いい加減心配されるのは飽き飽きしてたんだ。何せ母さんと一緒に居ても我が家に来いラッシュが止まらなかったし、その度に母さんにその子を渡せって要望をしてたからな。子供+赤子の力って怖いよなって実感したわ。
「こんにちは霧晴今出勤しました!報告ある人は来て下さい!」
「こんにちはぁ。今日は隅の方で大人しくしてるねぇ?」
そして仕事を捌く父さんの後ろで座って待ち、ついでに片付けられそうな書類仕事を済ませてる時の事だ。
「……不思議っスネ。千歌ちゃんが美味しそうに見えるっス」
「橘、お前何言ってるんだ?」
「自分でも不思議なんスケド、なんてーか…食べたい、自分の子にしたい、犯したい、殺したい、自分のにしたい…所有欲って感じっスネ。好き勝手にしたい感覚が湧いて来るっス」
「お前変な薬でも……怪奇か?神様か?」
「さぁ?前はこんな事なかったですし、怪奇でしょう。この前のテレビに映ってた時の奴が変な方向に…とか、あり得そうっス」
「…今日は小まめに千歌を見守る必要有りか」
「そうなるっスネ。もしくは…人にも神には触られない様にするんス」
「…なら、今日は最奥の部屋で待ってて貰うか」
突然ヒョイと持ち上げられたので、困惑しつつもされるがままにする。お姫様だっこじゃ無くて肩車が良いなぁ。
「…んぅ?何処に行くの?」
「一番奥の、今日は使われる予定の無い部屋だ。好きなもの食べていいぞ」
「人用の部屋なんてあったんだねぇ」
2階に上がり、個室の並ぶ廊下を超えて、大きくて真っ暗な部屋に到着した。
「…暗いねぇ」
「今灯す。食べ物は全部時間を止める皿の上にあるから、食べたいならその指輪で皿から出してから食べるんだぞ。皿の中に入ったら出来るだけ早く出るんだ」
「分かった!」
父さんが行灯を一つ灯すと、それに反応して次々と灯っていき、光に照らされた壁に豪華にも絵が書かれていたり、巨人用みたいな机の上にこれまた俺くらいなら簡単に乗る皿があったり、どうやって作ったのか、俺が3人並んでも背丈の足りない様な果物で作られた山と、豪華な料理が並んでいた。
「…わーお」
「はは、すごいだろ。大きな神様用の部屋だ。空間自体広くしててな、俺でも端から端まで行こうとすると3日はかかる大きさだ」
「外から見た旅館より広〜い!」
気分はジャックと豆の木の巨人の家に入った気分だな。コレを人の手で作る事が出来るんだから、この世界は凄い。普段は前世と変わらない癖して、凄い場所だと異界なしでこんな広い場所作って、大きな食べ物用意して、道具や何やら用意するんだもの。
「それじゃあ、時間になったら消灯するから、まだ光の残ってる方へ進むんだ。そしたらこの扉に自然と辿り着けるから」
「はーい!指輪、指輪!あっち行こあっち!」
[よし来た!俺も楽しみだぜ!]
最後辺りもうふんわりとしか聞いてなかったが、そんなのは果物の山に比べたら些細な事だよな。
ととんと飛んで、机の上に行く。小人になった気分だな、全てが大きくてとても凄い。子供なら誰でも夢に見るお菓子の家も皿の上にあるし、最高級の部屋って凄いなぁ!
「ねぇ見てみて!ホールケーキの山がある!コレ食べる神様とか何者だろうね!」
[すげぇ…50mは高さ有るだろ…苺も大きいし…皿の中には入れないのが惜しいな]
「あ、鍋だ!もう池だよコレ!…豚肉も大きい…何か大きくする怪具を使ったのかな」
[なんじゃない?…おい、あっち見ろ!盆栽が世界樹みたいな大きさになってるぞ!]
「すげぇ…大きいし…果てが無いし…あ、お寿司も大きい…あんな大きな大トロ食べられないよ!」
なんかもう観てるだけでテンション上がるなぁ、スゴいぞもう!皿の上にある魂蟲も大きいし…あれ『蟲小屋』の最下層で見た大きな蚕じゃん!うっわ何匹も重なってる…コレどうやって用意したんだろ。
「いやぁ…観てるだけでお腹いっぱいだね!」
[はしゃぎ過ぎて歩けなくなる程はしゃいだもんな]
「だって仕方ないじゃん…どれも凄いんだもん!」
[食べる道具も色々だったよな。手掴みし易くする奴とか、口だけの奴用とか、多彩だったわ]
「コレを私一人の為とか言われたら…もう虜になりそうって感じ!神様が大人しい訳だね!」
[だなぁ、時間を止める皿だって寿命を0にして熟成させてからって感じだし、取り出すのはいつだって食べ頃にしてるのは凄いよなぁ]
畳まれた布団の上に寝っ転がり、ゴロゴロする。繊維は人サイズなのに生地は神様用だから、もう凄い広いのに落ちる心配が無くて楽しい。この上でジャンプするだけでもずっと遊べるわ。
そんな感じにごろごろしていた時である。
『匂い…人の…もっと良いもの?』
神様用の大きな襖が横に動き、凄まじい冷気が入って来た。
真っ白で大きな影が、ぼんやりと光る光が頭らしき場所から幾つか点滅している怪奇だった。
「ひゃっ…寒い」
[相手は…差し詰め『大雪様』かな。何かに釣られて此処に来たっぽいぞ]
「こういうのは父さんに見つかったら一発退場だよね…あ、まずは隠れなきゃ」
[俺らは小さいからな。どっかの影に入れば大丈夫だろ]
「部屋の外に出るのは?」
[追ってきたらお前の足で逃げ切れるか?]
「だよね、隠れるよ…」
『…囁きだ。そこか?』
手を2回叩き、布団から世界樹レベルの盆栽に行く。木の根に居れば早々バレる事はないだろう。
白い影が布団の前に行く。大きさの比率から普通の人サイズに見えるけど、大きな布団に比べて普通なのは巨人なんだよ。
夏なのに冷気のせいで寒いし、身体がプルプル震えてきた。冷凍庫に入ったみたいだ。
「…くしゅ」
[くしゃみ我慢しとけよ…]
『…聞こえた…距離…瞬身か…ばらけろ』
[目を分散してきたな…転移も把握されたぞ]
賢いなぁ…星空みたいな目もこっち来たし、次は…果物の山の隙間かな。
手を2回、皿の中に入ったけど、直ぐに寿命が0減り始める訳じゃ無い。人が扱う以上、多少猶予がある様に作られてる。
『…其処だな』
「皿から皿は?」
[カウント継続。一回外に出なきゃまずい]
「外!」
[…よし、転移の連続使用で疲れる覚悟はしたぞ]
「お願い!」
『…美しい』
果物が退かされた瞬間転移して、そのまま階段の手前まで転移、廊下から雪が迫って来たので、下に逃げる。
『…綺麗な者を見たり。そなた、我が下へ…』
『邪魔だ』
『おお…雪の者よ、あれは我のだ!』
『退け』
しかし、距離を離してもダメだ。派手に動くから他の神様に見つかるし、大雪に守って貰わないとそのまま連れ去られる。塩梅が大事だな。まぁ、そもそも向こうの速度が早過ぎて転移が追いついて無いけどさ。
「ひぃ…こういう逃げるの苦手なんだよぉ」
[こう、こう、こう…次はここで…]
「頑張ってぇ!」
[分かってるって]
この旅館、『魂蟲』を集め易くする為か転移するのに必要な『霊脈』が滅茶苦茶で目視した先しか転移出来ないし、割とギリギリになりそうなんだよね。何度か雪に触れそうになったし、離れ過ぎを心配する必要なかったな。
なんせ今捕まったし。
『と、ら、え、た』
「さっむ…痛い…カチカチカチカチ」
[視界塞がれて…クレバスの中に来たみたいだなぁ]
「……………」
体温は直ぐに下がった。なんせ小さいし、夏服だし、左手も足先も無い。顎も直ぐに動かなくなって、思考も鈍くなるが、痛みで眠る事が出来ない。寒くなったら眠る様に死ぬってのは違ったみたいだ。
右手の、全部合わせて5本しか無い本物の指も、直ぐに動かなくなった。黒ずんで壊死しているのが見て分かる。異様なほど進行が早いのは、怪奇としての特性だろうな。
春の香りが漂った。
「──捧げ祀るは雪の大神」
暖かい風の掌に持ち上げられたみたいに、身体が浮いた。
「祝い祀るは春の風 呪いの行く先は冬の向こう」
雪が溶けて、身体が運ばれ、父さんの冷たい、でも今は暖かく感じる腕の中に落ちる。
視界が霞む中、父さんが涙を流してるのは見れた。
「その腑より訣別せよ その好奇より退けよ その罪に清算を その業に救済を」
『在るべきに戻り 次に進め』
そろそろキツイ…寝ることに……うにゅ…。
「…最近気絶する事多いなぁ」
「千歌、目覚めたんだな!」
「父さん顔近いよ」
「ごめん、ごめんなぁ…父さんがずっと居れば…」
身体の確認をする。うん、左手首から左肘まで消えて、両足首から膝まで消えて、右手首から先が消えてるわ。
全体的に消えてるなぁ…【ゲームガチャ】が用意してくれてる謎の手足無かったら即死だったな。まだ舞える。馬鹿野郎死ぬまで俺は足掻くぞ!
1日の動ける時間は少なくなったけど、まだ何とかなる範囲だ。胴体と頭だけなんて、創作じゃよく在るんだ、気にしないで生活するぞ。
「今何日?」
「アレからまだ1日だ…俺、育児向いてないな」
「まぁ、あんなの来るのはねぇ…来るの知らなかったの?」
「…あんなの、今日の来客には居なかった」
「別に気にしないで良いよ。勝手に入った神様がダメなんだし」
「……怒ったり泣いたりしないのか?」
なんか父さんが困惑し始めたな。でも喋れるだけまだマシだからなぁ…まだ見えるし聞こえる。それなら何とかなるって知ってるからな。
まぁ、『宇宙の無意識領域』に弄られたのも在るんだけどさ。一回雪町になって確信したからもう確定で話せる、コレほど嬉しい事は滅多にない。
「そうだなぁ…異界や認識の怪奇を産み出す怪奇に一回会った事があるのは聞いてる?」
「…母さんからは聞いてる」
「その時にさ、すっごく嫌だなとか、すっごく好きだなって思えなくなっちゃったからだよ。だからコレも、絶望も悲しむのも出来ないし、怒れない。だから、しないじゃなくて出来ないんだねぇ」
「……なんだ、それ」
「だからまぁ、悲しむのは要らないよ、父さんの為に頑張って根に持つから、それで許して欲しいねぇ。そうしないと、父さん辛いことになりそうだし」
「……………」
コレは母さんの蝶もそうだな。母さんと父さんがそう望んでるから引っ張ってるけど、正直どうでも良いから忘れたいし。俺なんて大した事ないんだから死んだらそれでいいじゃんね?
あ、そのせいで母さんと父さんに関してもすっごく好きには成れてないけど、立場上大事にすべきだからちゃんと優先してるし尊敬してる。それだけは分かってくれよな。
前世から好きなのは対象外みたいだけど、この世界のものはこの判定に引っかかるんだからさ。コレでも前世を参考にそっちに合わせてる。それが俺です。
「…この世界って、残酷だな」
「それって今更だね?だから楽しまないとじゃん?」
「……何だか、百葉が千歌の前だとあんなに淡々としてた理由が分かるわ。頑張って千歌に合わせてたんだな」
「うん、そうだよ?頑張ってカッコつけてて、だから尊敬してるの。話し易いしねぇ」
「…どんな目に遭っても変わらないって…酷いもんだ」
「次は普通の眼の子が産まれてくれるといいねぇ」
「…そうだな」
まぁ、そんな感じに雑談しつつ、俺は父さんに持たれながら退院した。義肢とか重くて動かせないからな。2時間は普通に動けるし、転移もある。体重は10キロまで減ったし、身長も89まで縮んだが…まぁまだまだ行けるだろ。
「夏休みって怖いねぇ…こんなに身体が減るなんてさ」
「千歌、普通はこんな事起きない」
「まぁそれは良いや。『大雪様』はどうなったの?」
「もう様つけしなくて良いぞ…死んだよ。普通の自然現象になった」
「私の手足は?纏めて誰に捧げられたの?神を捧げるとか言ってたけど」
「大した事ない。今の神格の怪奇が消えるまで冬が短くなって春が長くなるだけだ。千歌の無くなった手足は『大雪』だと判定されて、春の風…『春風様』に捧げられた」
「どうなるのかなぁ、春が良くなってると良いけど」
「さてな…この儀式自体俺も初めてなんだ。どうなるかなんて、分かりやしない」
「神格依存の儀式だからねぇ…文献残ってないかぁ…」
捧げたと言えば、俺の両足首も燃えてたけど…あれ、灰に触れたら異常が出たとかないよな?脳の眼のせいでだいぶ変な身体だからその点は不安だぞ?迷惑だけはかけてくれるなよ。
「…そう言えば千歌、魔法で手足戻らないのか?回復魔法くらい一つはあるだろ」
「誰かの身体を完璧に移植するのはあるよ。一から作るのは無い。クローンか何か欲しいねぇ」
「そんな感じか…今は2020年でIPS細胞はもう見つかってるから、それと魔法を…生物研究については前より発展してるから…行けるか?」
「クローン作るの?お金大丈夫?」
「千歌、伝わるか分からないが、俺はコレでも年収1億2千万の男だ」
「おく…?」
「ちなみに母さんは年収7千万だ」
「怪対員って儲かるんだねぇ?…晴眼の借金は?」
「聞いて驚け、荒木の奴の友達価格の月0.001%の利子だけで7千万だ。母さん一人の時は給料の殆ど飛ばしてたな」
「わぁ、全然わかんない」
「貸し付けじゃ無くて、千歌の今後の為の買取だからな。値段も高くなるさ」
へぇ、700億円が晴眼の値段だったんだなぁ…高過ぎて実感出来ないなぁ…怪奇関係って凄いや。
「なら貸し付けにしておいてよ。手足が無い人の寿命って5年くらいらしいし、80年も100年も使わないよ?」
「ダメだ。千歌は絶対健康にする」
「なんでそんなに私に執着するの?お金の事で少しは躊躇してもいいじゃん」
「千歌は!俺がこうなる前の子だからだ!」
じーんと、急に叫んだ物だから驚いた。
まぁ、言いたい事は分かる。白い髪と青い目と、女性みたいな身体…というより両性含有の肉体。
そうなる前の、普通の男だった時の血と面影を持ってるのが俺だからな。次の子供はきっと、『雪女』と母さんの子供みたいな姿になる。間違いなく父さんの子供だけど、本当に自分の子供だって実感出来るのは俺だけ何だろうな。
「良いか千歌…お前に、腕の中で冷たくなった子供を持った親の気持ちが分かるか?」
「あれはな…絶望なんだ。朦朧と挙句に助けた子供を、死んでも尚抱いていた子供が波にさらわれて、失意の中海の底に死ぬ気持ちが…重なるんだよ。冷たいお前を抱いた時、重なったんだ」
「そうだ…どれだけ力が有っても、出来ない事がある。守ろうと手元に置いても、判断一つの間違いで失うんだ。するとな、自分の後ろが安全だなんて思えなくなる」
「あぁ…少しずつ、だが確かに世界はお前を殺そうとしているのに、自分で守る事が出来ないんだ。仕事があって、家庭を守れても、お前だけは護れないんだよ」
「…何もしてやれてないんだ。お前が6歳になる迄の全てに、会えてからの全てに報いる事が出来てない」
何だか悩んでるなぁ…何に報いたいんだろね。俺は父さんに何もしてやってないのに。
「裏世界に落ちて、6歳の千歌に3回助けられた。諦めかけたときに百葉から送られた千歌の写真で立ち上がれた。初めて会って受け入れてくれた時、俺はどれだけ幸福だったのか、分からないだろうな」
分からないな。そんな事、俺じゃ無い普通の子供でも出来る。
この世界の賢い子供なら、誰だって出来るだろうな。
だから、そんなに顔をぐしゃぐしゃにして泣く事無いと思うよ。其処までされる人じゃ無いしな、俺は。
「なぁ、どうすればいい?俺はこんなにも千歌に支えられているのに、千歌の身体も、心も、何も守ってやれてない。普通の千歌に、一度だって会えて居ない!!」
心が決壊したんだろうなぁ…頭を撫でるにしてももう両手無いし…半透明な手だし…ぎゅってしてやる事しか出来な……あ、なんか怪奇が来てる。『春風様』こっち来てどうしたの?俺の口を開かなくしてるし、何かするつもりだよね。
「………なら、全てを暴き立てれば良いんじゃ無いか。千歌の過去も、隠し事も、全部暴いて、そうすれば普通の千歌に出会えるんじゃ無いか?」
へぇ、神様って人の心にも干渉出来るんだなぁ…なんか履き違えさせて来たよ。
普通の俺を守れなくて会えなかった事が悲しいって言ってるのに、なら俺を全て暴いて無理矢理見れば良いじゃんって囁いてるわ。『春風様』、捧げ物がいい感じで親切にしてるつもりなんだろうけど、多分ダメな事だよそれは。
『…纏えば良きもの…悪きは隠して…暴き立て…神はこの身に宿り現る』
成る程なぁ、父さんが心を空にするべきってこういう事かぁ…動揺すると唆されるんだな。
そして身体に入り込まれて、暴走する心のままに神の力を奮うんだ。
『宿願は叶わない…悲願は叶わない…溢れる力に…その身は荒ぶる神と己の体現となる』
巫女服が春をイメージして彩った女性らしい物になる。
羽衣を纏い、白い帯を目に巻き付け、目元に朱を入れて、髪が結ばれて桜の枝で止められ、御幣は真っ赤に、頭上に浮かぶ輪っかには、捧げられた俺の身体が吊り下げられて居た。
『今だけは…己の為に…』
「…お、口が開ける様になってる」
[どうする?母さん呼ぶか?]
「幸い人は居ないし、なるとか出来るなら何とかしようよ」
父さんのキャリアを傷つけない為には、此処で元に戻す必要があるだろう。
でも戦闘で勝てる気は一切しないんだよな。口論しようにも言葉は届かないだろうし…抱き抱えられてるしなぁ…取り敢えず帰るよう言うか?
「父さん、遊んでないで帰ろうよ。母さん待ってるよ?」
『…春よ…広まれ』
あ、桜や梅の木が並び立つ空間に閉じ込められた。神様って自分だけの空間あるのずるいよな。『鎌蛇様』もそうだけど、固有の結界とか領域とか逃げられないじゃん。
「…まぁ、見たいなら付き合うよ。何処に行きたい?折角満開の桜道だし、4月は出来なかった花見でもする?」
『春の微睡み…胡蝶の夢…消えない傷跡を…此処に』
あ、父さんが一瞬でトラックに轢かれて死んだ。流石に前世の身体に大型トラックは無理だったか。
あ、父さん地中に埋まって死んだ。前世の俺が目も耳も聞け無い中で彷徨って入った工事現場じゃん。懐かしいし良く生きてたよな。代わりに片足無くしたけど。
あ、父さんが、全身から血を流して死んだ。前世でこけたら偶然通り魔から男性を守る形になったっけなぁ、懐かしい。この後合計で27箇所の刺し傷を刺されるから、上手く避けないと死ぬんだよな。俺は残ってたもう一本の足に集中させて生きながらえたけどさ。
あ、父さんが感電死した。雷に5回連続で撃たれたのが効いてるんや!…良く生きてたよなぁ俺。近くの避雷針壊れて町中に雷が降ってたらしいんだよなぁ…まぁ全部俺に当たってたけどさ。
あ、父さんが山津波に巻き込まれて死んだ。この時俺、家族に山に捨てられて足無しで彷徨っててさぁ…何とか奇跡的に生き残れはしたんだけど、3人しか助けられなくて凹んだんだよな。地元全部埋まったし。
あ、父さんが電車に巻き込まれて死んだ。車椅子のブレーキ壊れたのか家族が解除したのか、落ちたんだよね。まぁ運良く生きてたけどさ、両手クッションにしてダメにしてダルマになったんだよ。
あ、父さんが出血死した。コレは俺も普通に死んだ。ダルマの上で包丁で首を切られたら…ね。誰だか知らないけど、ひどいことをするよな?
あ、父さんが怪具の暴走に巻き込まれて死んだ。荒木の奴、記憶忘れるせいで放置してる怪具とか有ってさぁ…俺の情報に全てかかってて大変だったよ。
桜道が一瞬で真っ赤な稲穂畑に染まります?発狂した父さんの腕から落とされます。ですが大丈夫です!稲穂がクッションになります、2時間なら普通に動けてます?問題はな…あ、身体普通です!怪具の時から?戻りました。懐かしい喋りです?
父さんが稲穂と闘い始めたました。けど…まぁ、俺の体験した事が出る?感じですからこうなりますね?
『あ……あ…』
「結局居ても守れないじゃんね?母さんが待ってます。さっさと進みましょう?」
発狂させた上で敵意に反応して襲います?なのに敵意を持って入りました。死にます。当たり前ですね?
青い宇宙ですね?最近振りです。父さんすぐに破裂して死にました?
当たり前です。此処だと精神のスキルが簡単に手に入ります?すぐ貯まります。9を超えます。ぱんぱかぱーんです!脳の眼が無いと俺も死んでました?
「父さん、死んでも蘇るなんてお得な夢だよね」
『………次こそは』
あ、影取りの空間に囚われた。其処は一度入ったら音以外の誘導方法は難しいよ。
どんどん入り口との距離が離されるからな。音で入り口までの距離を固定しないと…ほら、助けが無ければ父さんも餓死して死ぬ。
「現実でも簡単に蘇ったら楽だよねぇ…」
あ、父さんが『手』に触れられて死んだ。母さん無理だったし当然だよなぁ。即死なんだし。
あ、父さんが『地獄』から帰れずに死んだ。もう消えたけど、赤丸とか色々のアレ、定員外は帰れる保証ないよねぇ?
あ、父さんが『鎌蛇様』に挑んで死んだ。パワーアップしても即死持ちには無理だよ父さん。
あ、父さんが『信仰の悪魔』に殺された。信者も居ない状態で向こうの領域に行ったらそらそうよ。
「父さん、力だけじゃ解決出来ないってば。ちゃんと対応しないと」
『次、次、次…!』
「先ずは正気に戻らないとねぇ」
いやぁ、どんどん死んでいくのぉ、ですねぇ。『裏世界』から出て来た連中に殺されまくって、『メリー』に殺されて、『鬼火』に燃やされて、お、『音楽の悪魔』に殺されてる。もう時系列通りに巡るのも出来なくなって来たな。『三尸』にも嬲り殺しにされてるし……そろそろ限界に来たか?
「それで、結局一回も助けられなかったね。分かったらさっさと帰ろうよ。私もう父さんが死ぬの飽きたよ」
『………何故だ?』
「正気じゃ無いからだね。普通の父さんならもうちょっと助けられてるよ」
『……結局守れないのか』
「ん、暴れて冷静になった?父さんは怪対員でしょ?怪対員は民衆を守れるけど、家族は守れないんだよ。だって近くに居ないもん。でも憧れの相手にはなれるからね、それで満足しよ?」
『…そうか』
「分かったら帰ろうよ。もう疲れたから、沢山食べて眠って、そしたらまた仕事に行こう?みんなのヒーロー、私は好きだよ」
なんせ俺の元々の目標はハーレムなろう英雄だからな。今の父さんみたいに成りたかったし、母さんも似た様な感じだし、それで満足してくれよ。俺が成りたかった仕事に就いてるんだから、満足の筈だろ?
『…俺は守れないんだな』
「守らなくていいんだよ。私はそれで良いし、次の子を大事にしてくれるならそれでいい。なんなら、今からでもロッカーに入れて腐らせても文句は無いよ。持てないからね」
『…そっか』
「まぁ普段は母さんみたいにしててよ。見守って、死んだら適当な花束でもご先祖の墓に置いてってね。私は大して気にしなくて良いからさ」
『…お前母さんにも同じ事したのか?』
「……あー、したかもね?覚えてないけど、してるんじゃ無い?」
お、『春風様』がドン引きしながら立ち去っていくけど…何か引く要素あったか?家族仲良く腹の中を晒しただけなのにな。
まぁ普段は仲良くしてくれたら嬉しいよ。俺も家族同士仲良くはしたいしさ。でも、其処まで気を負う必要は無いし、死んで悔やんで進めないとか嫌だからな。それならこのスタンスが一番後を引かないって思うんだ。
どうせ何されても自己肯定感は低いままになる様に『宇宙の無意識領域』に弄られてるんだ。それなら、今の肯定感に合わせた扱いの方が楽だ。
いくら褒められても肯定されても変わらないなら、逆に幾ら雑に扱われても気にしない。なら、雑な方が父さんも母さんも楽だろ。人に気を遣って疲れるって話は良く聞くしな。
「…そうか。じゃ、帰るか。母さんの手料理が待ってるしな」
「だねぇ、久々だし楽しもっか」
「そうだな」
まぁ、別に心が壊れた訳じゃ無いし良いだろ。疲れる事を考えなくて済むなら、それでいい。
基本上辺の関係なら俺の認識の歪みも出ないし、父さんもそういう感じに気楽にいこうよ。
歪められた部分に触れると、言葉は通じても会話出来なくなるんだからさ。
俺だって会話したいんだよ。
霧晴千歌
壊れては無い。身も蓋もない言い方をするなら神様と『宇宙の無意識領域』に催眠かけられてるだけ。
霧晴健太
何か大切なのを無くしてた。気づいた時には遅すぎた。
霧晴百葉
千歌に合わせた愛し方をするが、それはそれとして諦めてる訳じゃない。
『大雪』
雪と冬の神格。大体死んだ。
『春風』
風と春の神格。強くなったが、出来る事が増えた訳じゃないと思い知らされた。
『巨大な豆』
植え付けたものを大きくする。取り除くと成長が止まる。