霧晴の推測は当たったり間違ったり。所詮探偵でもない奴の考えなので。
霧晴は己の運の無さを恨め。
「ふぅー…」
息を吐いて手油と冷や汗を拭う。月曜の夜、俺はゲェムを起動した。
「夏奈ちゃんの件を考えれば…まあ、やらない方がいいだろうな」
真っ黒な背景に裏世界探索ゲェムというタイトルと、はじめるとやめるの二列。ツクールとかで作れそうなタイトル画面。これで3度目のプレイだが、そこに載った物と影響を考えればとんでも無く重たい品物だ。
「だが…やらなきゃならん。
眼鏡を…怪具「晴眼」を取る。真っ暗になる。当たり前にあるものが消える事に不安を覚えるが、そうも言ってられなかった。…そろそろ、コレに関しても言った方がいいか。
晴眼…目が見える人の事を指す言葉。コレを聞けば、怪奇の事も相まって
実際は違う。
これは、物理的に眼のない人物に向けた、メガネを掛けている間は眼を創り出す怪具。謂わば、怪奇を利用した義眼だ。生々しい本物の眼だけどな。
俺がこの世界に産まれた身体が眼の欠けた赤子だったが故に母さんがそれまでの財産を使い切ってまで買い付けた、母さんの愛の結晶だ。今貧乏な理由でもある。
…神様に死ぬ筈だった赤子の身体に入れる事を聞いたのは教えたな?転生者の転生する身体によって理由は様々だが、俺の場合はこの眼の欠落による羊水の中での出血死だった。健太さんなら…餓死ってあるし栄養不足か?まあ、そんなのだ。
血涙が流れる。これは眼との接続が切れた神経からの物だから痛いだけで大した事はない。真っ暗な視界がよく見えるようになってきた。暗闇に慣れるのと同じ様に、元から
今頃、手袋をした手と同じく半透明な眼でも浮かんでるんじゃないか?手の時は鏡に映らなかったから眼も同じだと思うけど、多分そうだろう。…もしかしてこれ嵐を呼ぶ幼稚園児の眼みたいに真っ暗の中に光二つ浮かんでるんじゃないか?自分で見れないのが惜しいな。
『開けて』
扉が叩かれる。『開けて』とは別の怪奇もいるんだよな…外には。
「いやー…赤いな、全部。血と関係なく、霊障が酷いでやんの」
さて、これが俺の全力形態な訳だが…突然こうしたのにも理由はある。ここは一つ一つその理由を数えてみようか。
「一つ、真っ赤な部屋と買った覚えの無いテレビ、アナログの画面には見覚えしかない沙五間村の景色。一応「九十九守式」はまだ持ってると」
恐らく、テレビを見る回数で部屋を侵食し、一定以上でテレビに映る異界に連れ攫われる怪奇だ。物陰に黒い人影が映ってるが、あれは偶に実体化して攫おうとするだけのこけ脅しだな。つまり体力の無い俺には十分脅威だ。
「一つ、母さんが死んだ。死体は俺を守る形で置かれてる。後30分は大丈夫だな」
おかしいなぁ、葬儀屋ってこの世界だと悪霊を祓ったりもする死人相手のスペシャリストなんだけど。普段は悪霊になりかけの人の話を聞いて送ったり希望を聞いて浮遊霊か地縛霊か守護霊かのコース選ばせたりだけど…流石に5体同時は1人だと無理だよな。
それでも俺を守る為の儀式に自分を使うのはすごい覚悟だけど。お陰でまだ生きてます。
『からん からん から からん』
『開けて開けて開けて』
「一つ、呪いスポットの話題を見たらしき連中による呪いの氾濫、及びこの地に封じてた何かが外で暴れてると。判断速いなお陰で鎌ヶ原全域でここと同じ事起きてるわ」
あんな見出しだけでこうなる事を予想出来る訳ないだろふざけんな。新聞を買ってる中で人には絶対見せたくない内容だから呪いが掛けられてたって予測できるかよ。
悲しい事に悲鳴と人の声は3分で亡くなった。閉じたカーテンを、『手』の怪奇が外から開けたから見えていた。窓側には、お空が真っ赤になって赤黒い『手』が無数に地上から伸びている。学校に封じてた奴だわアレ。へー、地獄にも煉獄にも行けそうに無い奴だ。
『屋根ダルマ』や『鎌蛇様』とか、一応安全地帯を作ってる怪奇と生きてる人はいるっぽいけど…今から行くのは無理だろう。扉開けば怪奇が3体入ってくる。
「まー笑うか泣くか、どっちか選べば制限時間過ぎて死ぬと。悲しいもんだ、まさか何もしなければ死に直行するタイプの転生だったとか」
そしてこの状況で出来る俺の最善手はゲェムをやる事による過去改変でのワンチャンだけだったと。おちゃらけないと心が折れるわこんなの。
「だからまぁ…母さん、繋いだ時間は無駄にしないから…この悪夢は終わらせてみせるからさ」
肩に乗った母さんの頭を、頬を見えないから当て感で撫でる。俺に覆い被さる様にして死んでいた。その足と背中から、段々と真っ黒なものになっていて…怪奇に取り込まれ始めていた。
一瞬思考が巡回する。昨日聞いた事が思い返された。
新しい友人が出来た土曜日を過ぎ、母の仕事の準備の手伝いをした日曜日。
日曜の夜の話だ。
「母さん」
「んー?」
「母さんってさ…父さんについて教えてくれたりする?」
「なんだい藪から棒に」
お香を焚いて怒られた後、寝る前の母さんに父の事を尋ねる事にした。ゲェムでこまめに過去改変が起きている事実から、さっさと自分の血筋の流れは知りたかった。
一応、次のゲェムの開始年代はコラムにした新聞記事から4年前辺り。産まれることすらでき無いなんてのは起き無いけど、俺が2歳の頃の時代に繋がる。
なら、親の事は少しでも知った方がいいだろう。転生者なんだし当時の記憶は無いのか疑問に思うだろうが、当時の俺は見え過ぎる眼でそれどころじゃなかったからよく知らないのだ。
「そーだねぇ…折角だ、久々の寝る前の寝物語といこうか」
「お、昔はよくせがんでたね。懐かしい」
「半年前をよく昔扱いできたねお前」
「えへへ」
突然な質問も、この世界に子供が触れる本が無さすぎて代用に聞きたがっていたのが不自然さを消していた。子供の好奇心というのは幾らでも言い訳を作れる便利な言葉だよな。俺の場合創作物欠乏症になってただけだけど。前世の娯楽飽和世代の中毒患者をあまり舐めない方がいい。
母さんは少し思い返して、それから話すことを決めた。
「あれは私が高校生だった時の事さ。当時は大学なんて上の人の子供だけが行ける時代、私は親と同じ職につく事に不満でね、葬儀屋なんて陰気臭い仕事に就きたくないってグレててそりゃあ荒れてたのさ」
「今その仕事に就いてるじゃん」
「茶々入れるのが早い。…だけど昔は何処行っても怪奇ばかり。今よりずっと酷くてね。私は親に無理やり教えられた仕事もあって一人歩き出来たけど、それについて行く仲間なんて出来やしなかった。グレても荒れても不良なんてのになればすぐに死ぬ。今よりずっと命を取る奴が多かったから、一人ぼっちで得体の知れない奴ってのが私の評判だったもんさ」
「ま、出会いはなんて事ない話だよ。委員長やってたお前の父ちゃんが生真面目に私に注意しに来て…心配だからって構ってね。私は鬱陶しがってたけど、お構いなしでねぇ…なんだったら私が学校抜け出した時に付き合ったりして、将来就きたい仕事に大事な自分の評価点落としてまで私と一緒に居たんだ」
十分なんて事ある話じゃん。不良女と委員長男子の話って。マジ?俺そんな恋愛漫画みたいな経緯で産まれたの?今まで人間関係の地雷警戒して聴いてこなかったのがちょっと悔しいくらい面白そうじゃん。
「で、なんやかんやあって一緒に寝る事になってその時に襲っておめでたした結果がアンタだよ千歌」
「いや過程!そこは省かないでよ一番面白そうな所じゃん!」
「うるさいね。私も恥じる感覚は残ってるんだこれ以上話すつもりはないよ」
思わず起き上がった。そして布団の上に立った。こんなの納得出来ない…!
「じゃあ一問一答!私は6歳だから母さんは当時19歳!恐らく卒業する時になんかあっての逆レ!相手はヘタレだからそれまで手を出して無くて、そして相手の就きたい職業が結婚禁止な奴!合ってる!?」
「アンタその無駄に働く脳みそを他人の配慮に使ったらどうだい!?全部正解だよ暴きたがりが!」
っしゃあ!予想・的中!
「じゃあ次!結婚禁止なら相手の就きたい職業は怪対員で死亡率の高い物!つまり新規精鋭な場所!つまり当時出来立ての神格課!どう!?」
「正・解!」
「しゃあっ!なら、なら!国が決めた結婚禁止は死亡率の高い6年間だけ、それならさ…母さん、襲った時に相手に6年後に生きてたらで結婚する約束してたんじゃ無いの!?つまり…この話はここまでにしようか!」
やっべ地雷あったわこの話。
「千ィ歌ァ…!今やめたら明日気まずくなるに決まってんじゃねーかアァ!?教えてやるってんだよ…!最後まで聞きな!約束は予想通りで今居ないのもアイツが死んだからさ、4年前にな!」
「ぐぁぁぁ!!待って4年前?いや最近点と点が繋がる事がよく有ってさ。念の為、念の為ね?父さんの名前教えてくれない?」
「テンション急ブレーキかけんな驚くだろ。
ま?
は?
はぁ?
「はい!!そんなの予想出来る訳ねェだろって裏世界探索ゲェムRTA実況プレイパート1はっじめっるよォォォォオオオ!!!本日特別スペシャルで怪奇の皆さんもご一緒ですので本気でやっていきますよぉ!」
命の保証、無し
本来想定された攻略、無し
制限時間による最速攻略……有り
「はい、よーいスタート」(デッデッデデデデッカーン)
霧晴千歌
ゲェムを続けるかどうかの問答以前に取り敢えず現状を打破する事になった。
霧晴百葉
怪奇災害で死んだ。
相戸健太
なんかさくさくプレイからRTAに方針転換してた。…何故?
『からころ』
物理で捕まえに来る複数の真っ黒な影の怪異。夜にしか現れなかったが今は違う。
『赤テレビ』
テレビが広まらない原因。突然部屋に現れて裏世界送りにする。テレビがあれば毎晩出てくる。
『手』
封じてた奴の手。やばい。母さんの死因。
『とりこガス』
触れると悪霊に変化する見えないガス。空気より重い。動く。
『居ない』
幽霊が悪霊になった奴の初期段階。見え辛くなり物をあちこち動かしたり壊したりする。